説明

樹脂部材のレーザー接合方法および樹脂部材のレーザー接合体

【課題】光吸収剤を介して樹脂部材のレーザー接合を行う際に、レーザー出力変動や集光密度変動といったプロセス変動が生じた際にも、樹脂部材の分解や炭化といった製品不良の発生を防止し、速やかにレーザー接合を実施しうる樹脂部材のレーザー接合方法、及び樹脂部材のレーザー接合体を提供する。
【解決手段】2以上の樹脂部材10a、10bを接触させ、その接触面の近傍に配置された光吸収剤20にレーザー光50を照射して樹脂部材10a、10bを溶着させて接合する樹脂部材10a、10bのレーザー接合方法であって、前記樹脂部材10a、10bの少なくとも何れか1つが、300℃未満のガラス転移点又は融点を有する熱可塑性樹脂であり、前記光吸収剤20が、示差熱天秤を用いて350℃まで加熱して測定された重量減少量が40%以上であることを特徴とする樹脂部材のレーザー接合方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂部材と樹脂部材とを接合させる樹脂部材の接合方法、及び2以上の樹脂部材が接合されてなる樹脂部材の接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂部材と樹脂部材とを接合する方法として、樹脂部材どうしをレーザー光で溶着させる方法が採用されている。この樹脂部材どうしをレーザー光で溶着させる場合には、通常、これら樹脂部材と樹脂部材との表面どうしを面接させた状態で重畳させて、この重ね合わせた部分にレーザー光を照射して樹脂部材の表面を構成する樹脂材料を溶融させて溶着部を形成させる方法や、樹脂部材の端部と端部とを突き合せ、両者に跨るようにして他の樹脂部材を重ね合わせ、その重ね合わせた部分にレーザー光を照射して樹脂部材の表面を構成する樹脂材料を溶融させて溶着部を形成させる方法などが採用されている。
【0003】
このような溶着による樹脂部材の接合では、溶着させる箇所に光吸収剤を配置しておき、該光吸収剤が配置された箇所に向けてレーザー光を照射し、該照射したレーザー光を樹脂部材の背面側から表面側へと透過させて光吸収剤まで到達させ、該光吸収剤によってレーザー光を吸収させることによりレーザー光の光エネルギーを熱エネルギーに変換させることで、前記樹脂部材の面接箇所を溶着させるという方法で行われる。照射されるレーザー光としては、例えば、赤外線レーザーや近赤外線レーザーが用いられ、樹脂部材の面接触箇所に配置される光吸収剤としては、カーボンブラックや、ポリフィリン系吸収剤など、赤外領域や近赤外領域に吸収ピークを有する物質が用いられている(下記特許文献1及び2参照)。
【0004】
このような光吸収剤を用いたレーザー溶着方法を用いることで、レーザー光に対して高い透明性を有する樹脂部材どうしの溶着においても、樹脂部材の界面のみを発熱させ、溶融させることによって溶着が可能となっている。
【0005】
しかしながら、上記のような光吸収剤を用いたレーザー溶着方法においては、レーザー光源であるレーザー発振器の出力変動や、被加工物の表面凹凸による集光密度変動といった、製造工程における想定外の変動が起きた場合、レーザー光から供給される熱エネルギーが過剰となることがあり、その結果、被加工物である樹脂部材が予定された加熱温度よりも高くなることで分解あるいは炭化反応を起こし、製品不良を発生させるといった問題があった。特に、ガラス転移温度Tgや融点がさほど高くない樹脂部材を接合対象とし、レーザー出力を高めて速やかにレーザー接合を行うような場合には、上記のような問題が顕著となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2002−526261号公報
【特許文献2】特許3682620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、光吸収剤を介して樹脂部材のレーザー接合を行う際に、レーザー出力変動や集光密度変動といったプロセス変動が生じた際にも、樹脂部材の分解や炭化といった製品不良の発生を防止し、速やかにレーザー接合を実施しうる樹脂部材のレーザー接合方法、及び樹脂部材のレーザー接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記のような従来技術の課題を解決すべく成されたものであり、本発明に係る樹脂部材のレーザー接合方法は、2以上の樹脂部材を接触させ、その接触面の近傍に配置された光吸収剤にレーザー光を照射して樹脂部材を溶着させて接合する樹脂部材のレーザー接合方法であって、前記樹脂部材の少なくとも何れか1つが、300℃未満のガラス転移点(以下、Tgと略記することもある)又は融点を有する熱可塑性樹脂であり、前記光吸収剤が、示差熱天秤を用いて350℃まで加熱して測定された重量減少量が40%以上であることを特徴としている。
【0009】
また、本発明に係る樹脂部材のレーザー接合体は、2以上の樹脂部材が接触され、その接触面の近傍に配置された光吸収剤にレーザー光が照射されることで樹脂部材どうしが溶着接合されてなる樹脂部材のレーザー接合体であって、前記樹脂部材の少なくとも何れか1つが、300℃未満のガラス転移点又は融点を有する熱可塑性樹脂であり、前記光吸収剤が、示差熱天秤を用いて350℃まで加熱して測定された重量減少量が40%以上であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る樹脂部材の接合方法および接合体によれば、接触面の近傍に配置された光吸収剤が、示差熱天秤を用いて350℃まで加熱して測定された重量減少量が40%以上であるため、レーザー照射によって部分的に過剰な熱エネルギーが供給された場合であっても、その過剰な熱エネルギーによって光吸収剤自体が分解されることとなる。したがって、レーザー接合される樹脂部材の何れか1つとして300℃未満のガラス転移点又は融点を有する熱可塑性樹脂を採用した際に、レーザー光源であるレーザー発振器の出力変動や、被加工物の表面凹凸による集光密度変動といった想定外の変動が起きた場合であっても、レーザー光から供給される熱エネルギーが過剰とならず、該樹脂部材の分解や炭化反応を抑制し、製品不良の発生を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第一実施形態に係る樹脂部材のレーザー接合方法を示す側面図。
【図2】第一実施形態のレーザー接合方法により接合された樹脂部材の接合体を示す側面図。
【図3】第二実施形態に係る樹脂部材のレーザー接合方法を示す側面図。
【図4】第二実施形態のレーザー接合方法により接合された樹脂部材の接合体を示す側面図。
【図5】第三実施形態に係る樹脂部材のレーザー接合方法を示す側面図。
【図6】第三実施形態のレーザー接合方法により接合された樹脂部材の接合体を示す側面図。
【図7】実施例及び比較例で使用した光吸収剤について、示差熱天秤を用いて測定した重量減少量の測定結果を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の第一実施形態に係る樹脂部材のレーザー接合方法を示す側面図であり、符号10a、10bがシート状の樹脂部材を表しており、符合50がレーザー光を表している。また、図2は、該第一実施形態のレーザー接合方法により接合された樹脂部材の接合体を示す側面図である。
【0013】
図1に示すように、第一実施形態に係るに樹脂部材のレーザー接合方法は、シート状の樹脂部材10a、10bの各々の端部を上下に重ね合わせた状態とし、該樹脂部材10a、10bの接触面を溶融させて接着を行うものである。具体的には、該樹脂部材10a、10bの接触面に光吸収剤20を塗布しておき、レーザー光50を照射することによって該光吸収剤20を発熱させ、その熱によって前記樹脂部材10a、10bの接触面を溶融させ、これら樹脂部材10a、10bの接合を実施するものである。
【0014】
接合対象となる樹脂部材10a、10bとしては、少なくとも何れか一方が、その接合面に、300℃未満のTg又は融点を有する熱可塑性樹脂を備えた樹脂部材であればよく、材質は特に限定されるものではない。
【0015】
300℃未満のTg又は融点を有する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、トリアセチルセルロール、ポリメチルメタクリレート樹脂、シクロオレフィンポリマー、ノルボルネン樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリミチルペンテン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、エチレンビニルアセテート樹脂などを挙げることができる。
【0016】
なお、Tgは、JIS K7121(1987)に準拠し、示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ株式会社製、DSC6220)を使用し、10℃/minで昇温することでDSC曲線を求め、そこから補外ガラス転移開始温度を求めることにより得ることができる。
【0017】
該樹脂部材の厚みとしては、1μm以上、10mm以下が好ましい。該樹脂部材の厚みが1μm未満であると、該樹脂部材のハンドリングが困難となり、10mm以上であると、該樹脂部材の光吸収によってレーザー光が減衰し、光吸収剤への到達効果が低下して、生産性が低くなることが懸念される。
【0018】
また、レーザー接合される層、すなわち、樹脂部材10a、10bのうち少なくとも何れか一方の接合面が前記熱可塑性樹脂であればよいので、該樹脂部材は単層であっても、あるいは積層構造であってもよく、積層される他の層に対する材質の制約は特にない。また、接合面の熱可塑性樹脂や、積層される他の層には、酸化防止剤、難燃剤、架橋剤、光安定剤、顔料、充填材などの任意の添加剤が含まれていてもよい。
ただし、レーザー光の照射側に配置される樹脂部材については、樹脂部材全体として30%以上の光透過率を有することが好ましく、50%以上の光透過率を有することが更に好ましい。
【0019】
前記光吸収剤20としては、示差熱天秤を用いて350℃まで加熱して測定された重量減少量が40%以上であるものを採用することができ、さらに、400℃まで加熱して測定された重量減少量が60%以上となるものを採用することが好ましい。
このような物性の光吸収剤を用いることにより、レーザー発振器の出力変動や、被加工物の表面凹凸による集光密度変動といった、製造工程における想定外の変動が起きた場合であっても、光吸収剤が400℃以上に加熱されることが防止され、樹脂部材の分解や炭化反応を防止することができる。
【0020】
該光吸収剤としては、顔料や染料などの中から、上記条件を満たすものを種々採用することができる。また、該光吸収剤の具体的な使用方法としては、前記樹脂部材の接合面上に該光吸収剤を含む層を形成する方法、または前記樹脂部材の接合面に、該光吸収剤を含有させる方法を挙げることが出来る。樹脂部材の接合面に層を形成する場合には、例えば、光吸収剤を有機溶媒などで希釈して、適した塗布手段によって塗布する方法を採用しうる。また、乾燥後の該層の厚みは1μm以下が好ましく、更には、0.5μm以下がより好ましい。光吸収剤を含む層の厚みが1μmを超えると、接合される2つの樹脂部材の相溶が阻害されることが懸念される。また、該光吸収剤を含む層による光吸収性としては、20%以上が好ましく、30%以上がより好ましい。光吸収剤を含む層の塗布巾はレーザー照射領域に合せて適宜最適化することができる。
【0021】
斯かる光吸収剤としては、例えば、カーボンブラック、ポリフィリン系吸収剤、フタロシアニン系吸収剤、ナフタロシアニン系吸収剤、ポリメチン系吸収剤、ジフェニルメタン系吸収剤、トリフェニルメタン系吸収剤、キノン系吸収剤、アゾ系吸収剤、ジインモニウム塩などを挙げることが出来る。これらの光吸収剤の具体例としては、米国ジェンテックス(Gentex)社から「Clearweld」の商品名で市販されている光吸収剤を好適に用いることが出来る。この米国ジェンテックス(Gentex)社製の「Clearweld」は、示差熱天秤を用いて350℃まで加熱して測定された重量減少量が60%となるものである。
【0022】
なお、本発明における示差熱天秤を用いた重量減少量は、より具体的には、下記実施例に記載された方法によって測定されるものである。
【0023】
また、吸収剤の塗布手段としては、例えばニードルチップディスペンサー、インクジェットプリンター、スクリーン印刷、2流体式、1流体式または超音波式スプレー、スタンパーなどの一般的な手法を用いることができる。
【0024】
樹脂部材どうしを重ね合わせる方法としては、例えば図1に示すように、ステージ30上において、接合対象となる少なくとも2枚の樹脂部材10a、10bを重ね合わせるように配置し、その上から加圧手段40を用いて押圧し、該樹脂部材を固定した状態でレーザー50を照射することが好ましい。
【0025】
前記加圧手段としては、用いるレーザー光に対して高い透明性を示すガラスを加圧部材として備えたものを好適に用いることができる。加圧強度としては、0.5〜100kgf/cm2が好ましく、1〜20kgf/cm2が更に好ましい。レーザー照射部に荷重を加えられるものであれば、該加圧部材の形状は特に限定されず、例えば、平板、円筒、球状のものを使用することができる。加圧部材の厚みは特に限定されないが、薄すぎると歪みによって良好な加圧ができず、厚すぎるとレーザー光の利用効率が下がるため、3mm以上30mm未満が好ましく、5mm以上20mm未満が更に好ましい。加圧部材の材質としては、例えば、溶融石英、無アルカリガラス、テンパックス、パイレックス、バイコール、D263、OA10、AF45などを用いることができる。レーザー光の利用効率を高めるために、ガラス部材は用いるレーザー光波長に対して高い透明性を有することが好ましく、具体的には、光透過率が50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。
【0026】
また、大面積を均一に加圧してその全域にわたって良好な接合を行いうるという観点から、加圧部材と樹脂部材との間には、光透過性が良好でクッション性のあるゴムや樹脂材料等(以下、相間材料という)を挿入することが好ましい。該相間材料としては、例えば、シリコンゴム、ウレタンゴムなどのゴム系材料や、ポリエチレンなどの樹脂材料を挙げることが出来る。相間材料の厚みは、50μm以上5mm未満が好ましく、1mm以上3mm未満がさらに好ましい。50μm未満であると、クッション性に乏しく、5mm以上の場合は、吸収や散乱によってレーザー光の利用効率が低下するおそれがある。相間材料は、用いるレーザー光波長に対して30%以上の光透過率を有することが好ましく、50%以上の光透過率を有することが更に好ましい。
【0027】
また、前記ステージ30の材質としては、金属、セラミックス、樹脂、ゴムなどを用いることができる。広い面積を均一に加圧して良好な接合状態を得る為には、ゴムを用いることが好ましい。さらに、接合後のシートとの剥離性を高める目的や、耐熱性を向上させる目的で、該ゴムの表面を表面処理してもよく、又は該ゴムの上に他の樹脂部材等を配置してもよい。
【0028】
また、照射するレーザー光50としては、特に限定されるものではなく、例えば、半導体レーザー、ファイバーレーザー、フェムト秒レーザー、YAGレーザーなどの固体レーザー、CO2レーザーなどのガスレーザーが挙げられる。
これらの内でも、安価で且つ面内均一な強度のレーザー光が得られ易い点においては、半導体レーザーやファイバーレーザーが好ましい。
【0029】
また、樹脂自身の分解を防止しつつ溶融を促すことが容易である点において、瞬間的に高いエネルギーを投入するパルスレーザーよりも連続波のCWレーザー(Continuous−Wave Laser)の方が好適である。
また、レーザーの出力、パワー密度、スポットサイズ、照射回数、走査速度などは、樹脂材料の種類、厚み、光吸収率などから適宜選択され得る。
【0030】
また、レーザー光50を照射する位置を、接触面の面方向において移動させることにより、大面積の接触面どうしを溶着させることができる。具体的には、例えば、集光レンズによって所望のビームサイズに集光されたスポットビームを、所望の溶接箇所に走査照射することで大面積の溶着が可能となる。また、ガルバノスキャナーによってレーザーヘッドを固定した状態でビームのみを走査させることも可能であり、更には回折光学素子といった光学素子の使用によって所望の形状にレーザービームを整形し、無走査によって一括して大面積の溶着を実施することも可能である。
【0031】
また、上記のような樹脂部材の接合方法においては、レーザー光50の照射条件や上記加圧条件を調整して、溶着箇所における樹脂材料どうしの界面が消失するような状態で溶着させることが好ましい。界面を消失させることで十分な相溶化がなされ、接着強度の向上を図ることができ、また、光の透過性などを良好なものとすることもできる。
【0032】
本第一実施形態に係る樹脂部材の接合方法によれば、樹脂部材10aおよび樹脂部材10bの接合面に、示差熱天秤を用いて350℃まで加熱して測定された重量減少量が40%以上である光吸収剤が配置されているため、レーザー発信器の出力が変動したり、あるいは、レーザー光の集光密度が変動し、過剰にレーザー光が照射されたような場合であっても、該光吸収剤の過剰な温度上昇が抑制されるため、樹脂部材の分解や炭化が防止されることとなる。
【0033】
なお、本発明の樹脂部材のレーザー接合方法およびレーザー接合体は、上記第一実施形態に限定されるものではなく、接合させる樹脂部材の位置関係や光吸収剤の配置場所等について種々の変形が可能である。以下、他の実施形態として、第二及び第三実施形態について説明する。
【0034】
図3は、本発明の第二実施形態に係る樹脂部材の接合方法を示す側面図であり、図4は、第二実施形態の接合方法により接合された樹脂部材の接合体を示す側面図である。
図3に示すように、本第二実施形態は、接合対象となるシート状の樹脂部材10a、10bの各々の端部を同一平面上で突き合わせるように配置し、これらの樹脂部材10aおよび10bの両方に重なるように別の樹脂部材(第三の樹脂部材)10cを重ね合わせ、この第三の樹脂部材10cと前記樹脂部材10a、10bの接触面をそれぞれ溶融させて接着を行うものである。具体的には、樹脂部材10aと第三の樹脂部材10cとの間、および樹脂部材10aと第三の樹脂部材10cとの間に介在するように光吸収剤20を配置し、それらの光吸収剤20にレーザー光50を照射することによってそれぞれの接合面における樹脂部材を溶着させ、樹脂部材10cを介して樹脂部材10aと樹脂部材10bを接合させるものである。
【0035】
したがって、本実施形態においては、同一平面上で突き合わせるように配置された樹脂部材10aおよび10b、あるいはそれらの上に配置される第三の樹脂部材10cのうち、少なくとも何れか一つが接合面に300℃未満のTg又は融点を有する熱可塑性樹脂を備えたものであればよい。
【0036】
なお、該第二実施形態においては、光吸収剤20、レーザー光50、ステージ30及び加圧手段40については、前記第一実施形態と同様のものを採用することができる。
【0037】
また、図5は、本発明の第三実施形態に係る樹脂部材のレーザー接合方法を示す側面図であり、図6は、該第三実施形態のレーザー接合方法により接合された樹脂部材の接合体を示す側面図である。
図5に示すように、本第三実施形態は、接合対象となるシート状の樹脂部材10a、10bの各々の端部を同一平面上で突き合わせるように配置し、これらの樹脂部材10aおよび10bの両方に重なるように発熱媒体11を重ね合わせ、この発熱媒体11から供給される熱によって前記樹脂部材10aと樹脂部材10bとの接触面を溶融させて接着を行い、その後、発熱媒体11を剥離するものである。樹脂部材10a、10bのうち、少なくとも何れか一方は300℃未満のTg又は融点を有する熱可塑性樹脂を備えたものである。
より具体的には、本第三実施形態のレーザー接合方法は、樹脂部材10aと発熱媒体11との間、および樹脂部材10aと発熱媒体11との間に介在するように光吸収剤20を配置し、その光吸収剤20にレーザー光50を照射することによって樹脂部材10aと樹脂部材10bの接合面における樹脂部材を溶着させ、樹脂部材10aと樹脂部材10bを接合させるものである。発熱媒体11は、その表面に光吸収剤20が塗布されており、照射されたレーザー光のエネルギーを光吸収剤20により熱エネルギーに換えて樹脂部材へと伝達するものであるため、樹脂部材どうしが溶着した後は、剥離除去する。該発熱媒体11は、図5に示すように、樹脂部材を表裏両面から挟むように配置してもよく、また、表裏何れか片面のみに配置するようにしてもよい。
【実施例】
【0038】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
実施例1において用いた使用材料は以下の通りである。
<使用材料>
・樹脂部材A 材質 トリアセチルセルロース(富士フィルム社製、Tg170℃、融点275℃)
厚み 80μm
形状 10mm×50mm
・光吸収剤A ジェンテックス社製 商品名「Clearweld LD120C」(示差熱天秤を用いて350℃まで加熱して測定された重量減少量は60%)
・レーザー 波長 940nm
出力 30W
スポット 2mmφ
・加圧部材 材質 溶融石英ガラス
厚み 10mm
・ステージ シリコンラバー(3mm厚)上にポリイミド(デュポン社製、商品名「カプトン」 125μm厚)を積置したもの
【0040】
<重量減少量の測定>
示差熱天秤(Thermo plus、Rigaku社製、TG8120シリーズ高温型)を用いて重量減少量を測定した。測定条件は以下のとおりとした。
・昇温レート 10℃/min
・測定雰囲気 N2
・測定温度 30〜500℃
・保持時間 0min
【0041】
図7は、下記実施例及び比較例で使用した光吸収剤Aについて、上記示差熱天秤を用いて測定した重量減少量の測定結果を示したグラフである。
【0042】
<レーザー接合テスト>
樹脂部材Aの端部に幅10mm×長さ10mmの領域に光吸収剤Aを塗布して乾燥させ、厚み100nmの光吸収剤Aの塗布層を形成した。この光吸収剤Aの塗布層は、波長940nmのレーザー光の透過率が40%であった。該塗布層が形成された樹脂部材Aをステージ上に載置し、光吸収剤の塗布層を覆うように同じ材質の他の樹脂部材Aを重ね合わせ、その上から加圧部材で15kgf/cm2の圧力で押圧した。該加圧部材を押圧した状態で、上記条件のレーザー光を30Wと70Wにそれぞれ調節して速度100mm/sで1ライン走査照射し、樹脂部材Aのレーザー接合を行った。
【0043】
<テスト結果>
上記レーザー接合テストを経た樹脂部材を目視にて観察したところ、レーザー光が30Wおよび70Wのいずれの場合にも、樹脂が分解や炭化などを起こさず、良好な状態で接合されていることが確認された。
【0044】
(実施例2)
<使用材料>
・光吸収剤B フタロシアニン系染料(示差熱天秤を用いて350℃まで加熱して測定された重量減少量は42%)
他は実施例1と同じ材料を使用した。
【0045】
<レーザー接合テスト>
トルエンに1重量%の割合で上記光吸収剤Bを溶かすことにより光吸収剤溶液を作製し、樹脂部材Aの端部に幅10mm×長さ10mmの領域に20mL/mm2の塗布量で光吸収剤溶液を塗布し、トルエンを揮発・乾燥させることにより光吸収剤の塗布層を形成した。その後、上記実施例1のレーザー接合テストと同様にしてレーザー出力30Wおよび70Wでのレーザー接合を行った。
【0046】
<テスト結果>
上記レーザー接合テストを経た樹脂部材を目視にて観察したところ、レーザー光が30Wおよび70Wのいずれの場合にも、樹脂が分解や炭化などを起こさず、良好な状態で接合されていることが確認された。
【0047】
(実施例3)
<使用材料>
・樹脂部材B 材質 ポリエチレンテレフタレート(PET、Tg67℃、融点243℃)
厚み 50μm
形状 10mm×50mm
他は実施例1と同じ材料を使用した。
【0048】
<レーザー接合テスト>
樹脂部材Bを用いることを除き、他は上記実施例1のレーザー接合テストと同様にしてレーザー出力30Wおよび70Wでのレーザー接合を行った。
【0049】
<テスト結果>
上記レーザー接合テストを経た樹脂部材を目視にて観察したところ、レーザー光が30Wおよび70Wのいずれの場合にも、樹脂が分解や炭化などを起こさず、良好な状態で接合されていることが確認された。
【0050】
(実施例4)
<使用材料>
・樹脂部材C 材質 ポリカーボネート(PC、Tg146℃、融点253℃)
厚み 70μm
形状 10mm×50mm
他は実施例1と同じ材料を使用した。
【0051】
<レーザー接合テスト>
樹脂部材Cを用いることを除き、他は上記実施例1のレーザー接合テストと同様にしてレーザー出力30Wおよび70Wでのレーザー接合を行った。
【0052】
<テスト結果>
上記レーザー接合テストを経た樹脂部材を目視にて観察したところ、レーザー光が30Wおよび70Wのいずれの場合にも、樹脂が分解や炭化などを起こさず、良好な状態で接合されていることが確認された。
【0053】
(実施例5)
<使用材料>
・樹脂部材D 材質 ポリビニルアルコール(クラレ社製、Tgなし、融点210℃)
厚み 75μm
形状 10mm×50mm
他は実施例1と同じ材料を使用した。
【0054】
<レーザー接合テスト>
樹脂部材Dを用いるとともにレーザー出力を90Wに変更することを除き、他は上記実施例1のレーザー接合テストと同様にしてレーザー接合を行った。
【0055】
<テスト結果>
上記レーザー接合テストを経た樹脂部材を目視にて観察したところ、樹脂が分解や炭化などを起こさず、良好な状態で接合されていることが確認された。
【0056】
(比較例1)
<使用材料>
・光吸収剤C 山本化成社製、商品名「YKR」(示差熱天秤を用いて350℃まで加熱して測定された重量減少量が30%)
上記光吸収剤を用いたことを除き、他は実施例1と同様の材料を使用した。
【0057】
<レーザー接合テスト>
光吸収剤として上記光吸収剤Cを用いることを除き、他は実施例1と同様にして、レーザー出力30Wおよび70Wによるレーザー接合テストを実施した。
【0058】
<テスト結果>
上記レーザー接合テストを経た樹脂部材を目視にて観察したところ、レーザー光が30Wの場合には、樹脂部材の分解、炭化などのない良好な接合が達成できたことが確認された。しかしながら、レーザー光が70Wの場合には、レーザー照射部には黒色に変色した部分が点在しており、且つ接合体は、焼け焦げた臭いを発していた。このことから、該テストにおいては、レーザーの過剰照射によって樹脂部材の炭化が起こったことが認められた。
【0059】
(比較例2)
<使用材料>
・光吸収剤D メチン系の油溶性染料を含む着色剤を樹脂に配合して製造されたインクタイプ(オリエント化学工業社製、商品名「eBIND ink」、示差熱天秤を用いて350℃まで加熱して測定された重量減少量が37%)
上記光吸収剤を用いたことを除き、他は実施例1と同様の材料を使用した。
【0060】
<レーザー接合テスト>
光吸収剤として上記光吸収剤Dを用いることを除き、他は実施例1と同様にしてレーザー出力30Wおよび70Wによるレーザー接合テストを実施した。
【0061】
<テスト結果>
上記レーザー接合テストを経た樹脂部材を目視にて観察したところ、レーザー光が30Wの場合には、樹脂部材の分解、炭化などのない良好な接合が達成できたことが確認された。しかしながら、レーザー光が70Wの場合には、レーザー照射部には黒色に変色した部分が点在しており、且つ接合体は、焼け焦げた臭いを発していた。このことから、該テストにおいては、比較例1と同様、レーザーの過剰照射によって樹脂部材の炭化が起こったことが認められた。
【0062】
(比較例3)
<使用材料>
・樹脂部材E 材質 熱可塑性ポリイミド(Tg:315℃)
厚み 50μm
形状 10mm×50mm
上記樹脂部材を用いたことを除き、他は実施例1と同様の材料を使用した。
【0063】
<レーザー接合テスト>
樹脂部材として上記樹脂部材Eを用い、更にレーザー出力を90Wに変更することを除き、他は実施例1と同様にしてレーザー接合テストを実施した。
【0064】
<テスト結果>
上記レーザー接合テストの結果、樹脂部材を接合することができなかった。これは、樹脂部材Eが高耐熱性の熱可塑性ポリイミドであるため、これを溶融させるための熱量が得られなかったためであると考えられる。
【0065】
(比較例4)
<使用材料>
・樹脂部材E(同上)
・光吸収剤D(同上)
上記樹脂部材Eおよび光吸収剤Dを用いたことを除き、他は実施例1と同様の材料を使用した。
【0066】
<レーザー接合テスト>
樹脂部材として上記樹脂部材E、光吸収剤として上記光吸収剤Dを用いること、更にレーザー出力を70Wに変更することを除き、他は実施例1と同様にしてレーザー接合テストを実施した。
【0067】
<テスト結果>
上記レーザー接合テストの結果、高耐熱性の熱可塑性ポリイミドを接合できたことが確認できた。しかしながら、樹脂部材を目視にて観察したところ、レーザー照射部には黒色に変色した部分が点在していることが確認された。このことから、該テストにおいては、レーザーの過剰照射によって樹脂部材の炭化が起こったことが認められた。
【符号の説明】
【0068】
10a、10b、10c 樹脂部材
20 光吸収剤
30 ステージ
40 加圧部材
50 レーザー光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上の樹脂部材を接触させ、その接触面の近傍に配置された光吸収剤にレーザー光を照射して樹脂部材を溶着させて接合する樹脂部材のレーザー接合方法であって、
前記樹脂部材の少なくとも何れか1つが、300℃未満のガラス転移点又は融点を有する熱可塑性樹脂であり、前記光吸収剤が、示差熱天秤を用いて350℃まで加熱して測定された重量減少量が40%以上であることを特徴とする樹脂部材のレーザー接合方法。
【請求項2】
2以上の樹脂部材が接触され、その接触面の近傍に配置された光吸収剤にレーザー光が照射されることで樹脂部材どうしが溶着接合されてなる樹脂部材のレーザー接合体であって、
前記樹脂部材の少なくとも何れか1つが、300℃未満のガラス転移点又は融点を有する熱可塑性樹脂であり、前記光吸収剤が、示差熱天秤を用いて350℃まで加熱して測定された重量減少量が40%以上であることを特徴とする樹脂部材のレーザー接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−178156(P2011−178156A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270428(P2010−270428)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】