橋桁上への床版の敷設方法
【課題】橋梁の建設において、川や谷の上に架け渡した橋桁の上に床版を敷設する方法に関し、大型のクレーンを用いることなく、橋桁上への床版の敷設を行うことができる技術手段を得る。
【解決手段】架設された橋桁上に固定した複数枚の床版の上に橋桁と平行にレール材を設置して当該レールに沿って走行する台車を設け、新たに敷設する床版を台車に搭載すると共に当該床版を敷設する箇所の橋桁上に延長レール材を設置し、新たな床版を搭載した台車を延長レール材上に移動し、移動した床版の底板の開口を通して橋桁上に吊り台を設置して当該吊り台の吊り具で新たな床版を吊り上げ、台車と延長レール材とを撤去して当該床版を橋桁上に吊り降ろし、吊り台を撤去して吊り降ろした床版を橋桁に固定するという作業を繰り返す。
【解決手段】架設された橋桁上に固定した複数枚の床版の上に橋桁と平行にレール材を設置して当該レールに沿って走行する台車を設け、新たに敷設する床版を台車に搭載すると共に当該床版を敷設する箇所の橋桁上に延長レール材を設置し、新たな床版を搭載した台車を延長レール材上に移動し、移動した床版の底板の開口を通して橋桁上に吊り台を設置して当該吊り台の吊り具で新たな床版を吊り上げ、台車と延長レール材とを撤去して当該床版を橋桁上に吊り降ろし、吊り台を撤去して吊り降ろした床版を橋桁に固定するという作業を繰り返す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、橋梁の建設において、川や谷の上に架け渡した橋桁の上に床版を敷設する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
橋梁を建設するときは、川や谷の両岸及びその間に設けた橋脚間に形鋼ないしボックス構造の橋桁を架け渡し、その橋桁の上に橋の幅に対応する長さを備えた多数の床版を並べて敷設し、その床版の上にコンクリートの路盤を形成するという作業で建設が行われる。
【0003】
床版は、図6に示すような平面矩形の鋼板製の部材である。図に示す床版1は、平行に架設した2本の橋桁の上に敷設する床版の例である。床版1は、道路幅に相当する長さを備えた細長い矩形形状で、その長手両端は、コンクリートの路盤の側端を成形するべく上方に折れ曲がっている。床版1の上面には、長手方向の剛性を付与するために複数本のリブ11が溶着されている。
【0004】
床版1の底板12は、橋桁2の上の部分のコンクリート路盤厚さが厚くなるように、橋桁2の両側の部分で下方に傾斜している。そして、橋桁2の上面となる部分には、底板12が設けられておらず、開口している。すなわち、コンクリートの路盤の橋桁2の部分は、橋桁2に直接載っており、橋桁2の間の部分及び橋桁から張り出した部分は、床版の底板12の上に載っている。
【0005】
橋桁2の両側の底板12相互は、リブ11で連結された状態となっている。床版1の両側辺(橋梁の長手方向の両辺)には、隣接する床版相互を接続する繋ぎ板(スプライスプレート)をボルト止めするための多数のボルト挿通孔(図示せず)が設けられている。
【0006】
床版1は、底板12の開口の両縁13を橋桁2の上面に載せた状態で、図7、8に示すように、橋桁2の両側の底板12相互の間に掛渡された押え材3と、橋桁2の上面に溶着して立設した引張ボルト21と、この引張ボルトに螺合して押え材3を下方に押し付けるナット22と、リブ11に溶着した山形鋼18に溶着したナット31と、このナットに螺合した押ボルト32とで、橋桁2上に定置される。すなわち、橋桁2の上面に植立した引張ボルト21の上端を橋桁2の両側の底板間に架け渡した押え材3のボルト挿通孔に挿通してナット22で締め付けることにより、床版1を下方に押し付け、この押し付け力を、リブ11に溶着されている山形鋼18に設けたボルト孔の下に溶着したナット31に螺合した押ボルト32が橋桁2の上面に当接することにより受止めて、床版1を橋桁2の上に固定している。そして、隣接する既設の床版とは、その側辺相互の間に図示しない繋ぎ板をあてがって床版の底板12と繋ぎ板とをボルトナットで締結することにより連結している。
【0007】
床版の底板12上及び橋桁2の上面には、コンクリート路盤内の鉄筋と連結する多数のピンが植立されている(図示されていない)。また、橋桁2の上面に立設した引張ボルト21や押え材3もコンクリート路盤内に埋設される。最終的には橋桁2と床版1及び隣接する床版相互は、打設されたコンクリートの路盤によって強固に連結一体化された構造となる。
【0008】
従来、橋桁2上への床版1の敷設に際しては、床版を順にクレーンで吊り上げて敷設位置に吊り降ろし、吊り降ろされた床版を作業者が順次橋桁に固定してゆくという方法で床版の敷設が行われていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
床版は、橋梁の道路幅に相当する長さを備えた溶接構造物であり、重量物である。この重量物を川や谷上に架けられた橋桁の上に搬送するには、クレーンを必要とする。クレーンには、最大吊り荷重により表示される種々の大きさのものがあるが、それぞれのクレーンには、吊り荷重の重さに応じた安全作業範囲が定められている。すなわち、クレーンは、真上に吊り上げるときは、最大吊り荷重の吊り荷を吊り上げることができるが、ブームを倒してクレーンの設置位置から離れた位置に吊り荷を搬送しようとすると、吊り上げ可能な吊り荷の重さが急激に低下する。それは、吊り荷がクレーンの設置位置から離れると、吊り荷の荷重及びブームの自重がクレーンを転倒させるモーメントとして作用するためである。
【0010】
従って、橋梁のような水平方向に長い構造物を建設する場合は、吊り荷をクレーンの設置位置から離れた位置まで搬送しなければならないので、搬送物(床版)の重量より遥かに大きな最大吊り荷重のクレーンを用いなければならない。更に、橋が長いときは、大きなクレーンを用いても床版を橋桁の中央にまで搬送することができず、川底や谷底に仮設の基礎を建設して大型のクレーンを設置しなければならない。
【0011】
このような大型クレーンの使用や設置には多大がコストがかかる。特に山間部での橋梁の建設においては、橋を架けようとするところが深い谷であったり、両岸が急傾斜の斜面であったりして、大型のクレーンの設置が困難である場合が多い。また、設置が可能であったとしても、設置のための仮基礎の建設や分解して現場に搬送したクレーンの組立及び設置に多大な労力とコストを必要とする。
【0012】
この発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、大型のクレーンを用いることなく、橋桁上への床版の敷設を行うことができる技術手段を得ることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明の橋梁における床版の敷設方法においては、橋桁2の上に固定された既設の床版1のリブ11の上に定置される複数本のレール材15と、新たな床版1aを敷設する箇所に定置される複数本の延長レール材16と、延長レール材16を定置された既設のレール材15と同じ高さで橋桁2上に保持するための台脚17と、各レール材15及び延長レール材16上を自由走行する台車5と、複数の台車5を各レール材及び延長レール材に沿って走行させるウインチなどの駆動装置51と、橋桁2上に植立した引張ボルト21に螺合するナットによって橋桁2上に仮固定される複数の吊り台6とを使用する。また、この発明の方法においては、架設する橋梁の少なくとも一方の岸に設置された少なくとも何枚かの床版を当該岸近くの橋桁上に吊り降ろすことができるなクレーンを用いる。
【0014】
橋桁2上に敷設した床版1を固定する押え材3及び引張ボルト21は、リブ11の上端より下方に位置し、押ボルト32は、リブ11の上面上に突出していない。従って、押え材3や引張ボルト21に邪魔されることなく、レール材15を既設の床版1上に定置することができる。吊り台6は、レバーチェンブロックや一般的なチェンブロックなどの吊り具61を備えたものとする。
【0015】
この発明の方法による床版の敷設は、次のように行われる。まず、川岸に設置したクレーンでその安全作業範囲内の何枚かの床版1を橋桁2上に従来と同様な方法で敷設する。次に敷設済み床版1のリブ11上の橋桁2の上方に位置する箇所に、レール材15を定置する。レール材15は、少なくとも2本を橋梁の幅方向に離して平行に定置する。橋桁2が2本以上あるときは、両側の橋桁2の上方となる位置に定置し、橋桁2が一本のときは、その両側に定置する。定置したレール材15の各々に、台車5を載せる。一本のレール材は、台車5が転倒しない幅を有する1本のレールか、又は台車5が転倒しない間隔で設けた2本のレールで形成される。
【0016】
次に、定置したレール材15を延長するように、次の床版を敷設する位置の橋桁上に、延長レール材16を載置する。この延長レール材は、短時間の間のみ設置するものなので、一般的には固定しなくてもよい。次に、台車5をクレーンの安全作業範囲内に移動し、クレーンで次に敷設する床版1aを台車5上に吊り降ろす。そして、ウインチなどの駆動装置51で、複数の台車5及びその上に載置された床版1aを一体として、延長レール材16上に移動する。
【0017】
前述したように、床版の底板12は、橋桁2の上方となる部分には設けられていない。そこで次に、延長レール材16上に移動した床版1の床板が設けられていない開口部分を通して、橋桁2上に吊り台6を仮固定し、その吊り具61で台車5上から床版1を吊り上げる。吊り台6は、橋桁2に立設されている引張ボルト21に挿通したナットで締め付けて仮固定することができる。
【0018】
この状態で、台車5をレール材15側に戻し、延長レール材16を橋桁2上から撤去する。台車5は、1本のレール材ごとに個別に設けられているので、人力で容易に移動することができる。また、一本ごとの延長レール材16は、長さの短いものであるから、人力で撤去することができる。
【0019】
次に、吊り台の吊り具61で吊り上げられている床版1aを橋桁2上に降ろす。そして、吊り降ろされた床版1aを、従来と同様に、繋ぎ板で既設の床版1の先頭のものと接続し、吊り台6を撤去する。吊り台6は、吊り具61を取り外し可能にし、更に必要があれば、枠を分解可能な構造とすることにより、人力で撤去することができる。橋桁2上から吊り台6を撤去した後、従来と同様に、リブ11に溶着されているナット31に螺合する押ボルト32と、押え材3に挿通した引張ボルト21の先端に螺合したナット22とにより、新たに敷設した床版1aを橋桁2に固定する。そして、新たに固定した床版のリブの上までレール材15を延長する。
【0020】
以上の作業を繰り返すことにより、新たな床版を順次敷設してゆく。
【発明の効果】
【0021】
この発明の方法によれば、橋桁上の床版の敷設において、大型クレーンの使用や、クレーンを川底や谷底に設置する必要がなくなる。台車による床版の搬送や延長レール材の設置及び撤去、並びに吊り台の設置及び撤去に従来より多くの人手を必要とするが、大型クレーンを使用する必要がないこと、及び大型クレーンの搬入、組立及び大型クレーンのための仮設基礎の設置及びそれらに必要な人手が不要となるので、橋桁上への床版の敷設作業に要する費用を大幅に低減できる。特に、山間地に建設される橋梁の建設において、橋梁の建設費及び作業負担を大幅に低減できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】既設の床版上に設置したレール材上の台車に新たな床版を吊り降ろした状態を示す側面図
【図2】吊り降ろした新たな床版をその敷設位置に移動した状態を示す側面図
【図3】橋桁上に固定した吊り台で新たな床版を吊り上げた状態を示す側面図
【図4】図3の正面図
【図5】新たな床版を橋桁上に吊り降ろした状態を示す側面図
【図6】床版の斜視図
【図7】図6のA部における床版の固定構造を示す拡大正面図
【図8】図6のB部における床版の固定構造を示す拡大正面図
【図9】レール材の平面図
【図10】同正面図
【図11】延長レール材及び台脚の側面
【図12】同正面図
【図13】台車の側面図
【図14】吊り台の側面図
【図15】同正面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に示す実施例を参照して、この発明を更に説明する。床版1及び1aは、図6ないし図8で説明した構造で、2本の橋桁2の上に敷設される。図9及び図10は、この発明の方法に用いるレール材の一実施例を示した図である。図のレール材15は、上向きのコ字形鋼からなり、両端にボルトやCクランプなどで既設の床版1のリブ11上に固定するためのフランジ14が溶接してある。レール材15は、既設の床版1上の、2本の橋桁2の上方の位置に互いに平行に設置される。
【0024】
図11及び12は、延長レール材とその台脚を示した図である。延長レール材16は、敷設する床版の幅(橋梁の長さ方向の寸法)に相当する長さを備えている。延長レール材16は、その両端を橋桁2上に定置した台脚17で支持されて、既設の床版上に定置したレール材15と同一高さに設置される。図の延長レール材16は、台脚17の上面に溶着した2個の位置決め材19の間に嵌め込んで支持されており、延長レール材16と台脚17とは分解可能である。図の例では、延長レール材16を2本、台脚17を4個使用する。
【0025】
図13は、レール材15及び延長レール材16上を走行する台車を示した図である。図の台車5は、レール材15及び延長レール材16の上向きのコ字溝内を走行する小型のクローラ52を前後両端に備えたもので、台車5の台53は角材で製作され、軽量化及びクレーンで吊り降ろした際の床版1aの損傷を防止する構造としてある。台車5は、2個準備され、それぞれがレール材15及び延長レール材16の1本のコ字溝に案内されて走行する。
【0026】
図14及び15は、吊り台の例を示した図である。図の吊り台6は、2個の門形枠62と、その上に架け渡されるビーム63とを備えている。ビーム63と門形枠62とは、Cクランプ64で締結されており、分解及び組立が可能な構造となっている。図の吊り具61は、ビーム63に巻回したワイヤで吊り下げられたレバーチェンブロックで、ビーム63上の任意の位置に取り付けられるようになっている。ビーム63を門形枠62の外側に張り出させて、その張り出し位置に取り付けることもできる。
【0027】
次に図1〜5を参照して、上記構造のレール材15、延長レール材16、台車5及び吊り台6並びに台車走行用のウインチ51と川岸に設置したクレーンとを使用した、この発明の床版の敷設方法の手順を説明する。
【0028】
まず、橋梁を架設した岸に設置したクレーンでその安全作業範囲内の何枚かの床版1を橋桁2上に従来と同様な方法で敷設する。次に敷設済み床版のリブ11上の橋桁2の上方に位置する箇所に、レール材15を定置する。レール材15は、2本の橋桁2の上方の位置に定置する。定置したレール材15の各々に、個別に台車5を載せる。台車5のクローラ52は、レール材15及び延長レール材16の上向きのコ字溝に嵌り込んだ状態で、レール材15及び延長レール材16に沿って個別に走行する。
【0029】
次に、定置したレール材15を延長するように、次の床版1aを敷設する位置の橋桁2上に、延長レール材16を台脚17で支持して設置する。この延長レール材16は、短時間の間のみ設置するものなので、一般的には固定しなくてもよい。次に、2台の台車5をクレーンの安全作業範囲内、すなわち岸近くに移動し、クレーンで次に敷設する床版1aを台車5上に吊り降ろす。図1に示す71は図示しないクレーンの吊りワイヤ、72は台車5に連結されているウインチ51のワイヤである。そして、延長レール材16の延長上の橋桁2上に固定した電動ウインチ51で台車5を引張って、複数の台車5及びその上に載置された床版1aを一体として、延長レール材16上に移動する(図2)。
【0030】
前述したように、床版1の底板12は、橋桁2の上方となる部分は開口している。そこで次に、延長レール材16上に移動した床版1の開口部分を通して、橋桁2上に吊り台6を設置する。図の例では、橋桁2の上面に溶接して立設されている引張ボルト21を利用して、延長レール材16の両側に門形枠62をナットで固定し、その上面にビーム63を掛渡してCクランプ64で固定する。そして、吊り具61をビーム63に取り付け、吊り具61で台車5上から床版1aを吊り上げる(図3、4)。
【0031】
この状態で、台車5をレール材15側に戻し、延長レール材16及び台脚17を橋桁2上から撤去する。台車5は、1本のレール材ごとに個別に設けられているので、人力で容易に移動することができる。また、一本ごとの延長レール材16は、長さの短いものであるから、人力で撤去することができる。
【0032】
次に、吊り台の吊り具61で吊り上げられている床版1aを橋桁2上に降ろす(図5)。そして、吊り降ろされた床版1aを、従来と同様に、繋ぎ板で既設の床版1の先頭のものと接続し、吊り台6を撤去する。吊り台6は、吊り具61を取り外し、ビーム63と門形枠62を分解して、人力で撤去する。橋桁2上から吊り台6を撤去した後、従来と同様に、リブ11に溶着されているナット31に螺合する押ボルト32と、押え材3に挿通した引張ボルト21に螺合したナット22とにより、橋桁2上に固定する。すなわち、引張ボルト21の張力と押ボルト32の圧縮力とにより、新たに敷設した床版1aを橋桁2に固定する。そして、新たに固定した床版1aのリブの上に、新たにレール材15aを設置する。この新たなレール材15aは、新たに敷設しようとする床版1に予め定置しておいても良い。
【0033】
以上の作業を繰り返すことにより、新たな床版を順次敷設して、最終的に全ての床版を橋桁2上に敷設する。床版1は、橋桁を架設した岸の片側から反対側の岸に向かって敷設していっても良いし、両側から中央に向かっての敷設していっても良い。後者の場合は、岸の両側にクレーンを設置する。これらのクレーンは、数枚の床版をクレーンの近くに敷設できる程度の安全作業範囲を持ったもので良い。
【符号の説明】
【0034】
1 床版
1a 新たな床版
2 橋桁
3 押え材
5 台車
6 吊り台
11 床版のリブ
12 床版の底板
15 レール材
16 延長レール材
17 台脚
61 吊り具
【技術分野】
【0001】
この発明は、橋梁の建設において、川や谷の上に架け渡した橋桁の上に床版を敷設する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
橋梁を建設するときは、川や谷の両岸及びその間に設けた橋脚間に形鋼ないしボックス構造の橋桁を架け渡し、その橋桁の上に橋の幅に対応する長さを備えた多数の床版を並べて敷設し、その床版の上にコンクリートの路盤を形成するという作業で建設が行われる。
【0003】
床版は、図6に示すような平面矩形の鋼板製の部材である。図に示す床版1は、平行に架設した2本の橋桁の上に敷設する床版の例である。床版1は、道路幅に相当する長さを備えた細長い矩形形状で、その長手両端は、コンクリートの路盤の側端を成形するべく上方に折れ曲がっている。床版1の上面には、長手方向の剛性を付与するために複数本のリブ11が溶着されている。
【0004】
床版1の底板12は、橋桁2の上の部分のコンクリート路盤厚さが厚くなるように、橋桁2の両側の部分で下方に傾斜している。そして、橋桁2の上面となる部分には、底板12が設けられておらず、開口している。すなわち、コンクリートの路盤の橋桁2の部分は、橋桁2に直接載っており、橋桁2の間の部分及び橋桁から張り出した部分は、床版の底板12の上に載っている。
【0005】
橋桁2の両側の底板12相互は、リブ11で連結された状態となっている。床版1の両側辺(橋梁の長手方向の両辺)には、隣接する床版相互を接続する繋ぎ板(スプライスプレート)をボルト止めするための多数のボルト挿通孔(図示せず)が設けられている。
【0006】
床版1は、底板12の開口の両縁13を橋桁2の上面に載せた状態で、図7、8に示すように、橋桁2の両側の底板12相互の間に掛渡された押え材3と、橋桁2の上面に溶着して立設した引張ボルト21と、この引張ボルトに螺合して押え材3を下方に押し付けるナット22と、リブ11に溶着した山形鋼18に溶着したナット31と、このナットに螺合した押ボルト32とで、橋桁2上に定置される。すなわち、橋桁2の上面に植立した引張ボルト21の上端を橋桁2の両側の底板間に架け渡した押え材3のボルト挿通孔に挿通してナット22で締め付けることにより、床版1を下方に押し付け、この押し付け力を、リブ11に溶着されている山形鋼18に設けたボルト孔の下に溶着したナット31に螺合した押ボルト32が橋桁2の上面に当接することにより受止めて、床版1を橋桁2の上に固定している。そして、隣接する既設の床版とは、その側辺相互の間に図示しない繋ぎ板をあてがって床版の底板12と繋ぎ板とをボルトナットで締結することにより連結している。
【0007】
床版の底板12上及び橋桁2の上面には、コンクリート路盤内の鉄筋と連結する多数のピンが植立されている(図示されていない)。また、橋桁2の上面に立設した引張ボルト21や押え材3もコンクリート路盤内に埋設される。最終的には橋桁2と床版1及び隣接する床版相互は、打設されたコンクリートの路盤によって強固に連結一体化された構造となる。
【0008】
従来、橋桁2上への床版1の敷設に際しては、床版を順にクレーンで吊り上げて敷設位置に吊り降ろし、吊り降ろされた床版を作業者が順次橋桁に固定してゆくという方法で床版の敷設が行われていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
床版は、橋梁の道路幅に相当する長さを備えた溶接構造物であり、重量物である。この重量物を川や谷上に架けられた橋桁の上に搬送するには、クレーンを必要とする。クレーンには、最大吊り荷重により表示される種々の大きさのものがあるが、それぞれのクレーンには、吊り荷重の重さに応じた安全作業範囲が定められている。すなわち、クレーンは、真上に吊り上げるときは、最大吊り荷重の吊り荷を吊り上げることができるが、ブームを倒してクレーンの設置位置から離れた位置に吊り荷を搬送しようとすると、吊り上げ可能な吊り荷の重さが急激に低下する。それは、吊り荷がクレーンの設置位置から離れると、吊り荷の荷重及びブームの自重がクレーンを転倒させるモーメントとして作用するためである。
【0010】
従って、橋梁のような水平方向に長い構造物を建設する場合は、吊り荷をクレーンの設置位置から離れた位置まで搬送しなければならないので、搬送物(床版)の重量より遥かに大きな最大吊り荷重のクレーンを用いなければならない。更に、橋が長いときは、大きなクレーンを用いても床版を橋桁の中央にまで搬送することができず、川底や谷底に仮設の基礎を建設して大型のクレーンを設置しなければならない。
【0011】
このような大型クレーンの使用や設置には多大がコストがかかる。特に山間部での橋梁の建設においては、橋を架けようとするところが深い谷であったり、両岸が急傾斜の斜面であったりして、大型のクレーンの設置が困難である場合が多い。また、設置が可能であったとしても、設置のための仮基礎の建設や分解して現場に搬送したクレーンの組立及び設置に多大な労力とコストを必要とする。
【0012】
この発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、大型のクレーンを用いることなく、橋桁上への床版の敷設を行うことができる技術手段を得ることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明の橋梁における床版の敷設方法においては、橋桁2の上に固定された既設の床版1のリブ11の上に定置される複数本のレール材15と、新たな床版1aを敷設する箇所に定置される複数本の延長レール材16と、延長レール材16を定置された既設のレール材15と同じ高さで橋桁2上に保持するための台脚17と、各レール材15及び延長レール材16上を自由走行する台車5と、複数の台車5を各レール材及び延長レール材に沿って走行させるウインチなどの駆動装置51と、橋桁2上に植立した引張ボルト21に螺合するナットによって橋桁2上に仮固定される複数の吊り台6とを使用する。また、この発明の方法においては、架設する橋梁の少なくとも一方の岸に設置された少なくとも何枚かの床版を当該岸近くの橋桁上に吊り降ろすことができるなクレーンを用いる。
【0014】
橋桁2上に敷設した床版1を固定する押え材3及び引張ボルト21は、リブ11の上端より下方に位置し、押ボルト32は、リブ11の上面上に突出していない。従って、押え材3や引張ボルト21に邪魔されることなく、レール材15を既設の床版1上に定置することができる。吊り台6は、レバーチェンブロックや一般的なチェンブロックなどの吊り具61を備えたものとする。
【0015】
この発明の方法による床版の敷設は、次のように行われる。まず、川岸に設置したクレーンでその安全作業範囲内の何枚かの床版1を橋桁2上に従来と同様な方法で敷設する。次に敷設済み床版1のリブ11上の橋桁2の上方に位置する箇所に、レール材15を定置する。レール材15は、少なくとも2本を橋梁の幅方向に離して平行に定置する。橋桁2が2本以上あるときは、両側の橋桁2の上方となる位置に定置し、橋桁2が一本のときは、その両側に定置する。定置したレール材15の各々に、台車5を載せる。一本のレール材は、台車5が転倒しない幅を有する1本のレールか、又は台車5が転倒しない間隔で設けた2本のレールで形成される。
【0016】
次に、定置したレール材15を延長するように、次の床版を敷設する位置の橋桁上に、延長レール材16を載置する。この延長レール材は、短時間の間のみ設置するものなので、一般的には固定しなくてもよい。次に、台車5をクレーンの安全作業範囲内に移動し、クレーンで次に敷設する床版1aを台車5上に吊り降ろす。そして、ウインチなどの駆動装置51で、複数の台車5及びその上に載置された床版1aを一体として、延長レール材16上に移動する。
【0017】
前述したように、床版の底板12は、橋桁2の上方となる部分には設けられていない。そこで次に、延長レール材16上に移動した床版1の床板が設けられていない開口部分を通して、橋桁2上に吊り台6を仮固定し、その吊り具61で台車5上から床版1を吊り上げる。吊り台6は、橋桁2に立設されている引張ボルト21に挿通したナットで締め付けて仮固定することができる。
【0018】
この状態で、台車5をレール材15側に戻し、延長レール材16を橋桁2上から撤去する。台車5は、1本のレール材ごとに個別に設けられているので、人力で容易に移動することができる。また、一本ごとの延長レール材16は、長さの短いものであるから、人力で撤去することができる。
【0019】
次に、吊り台の吊り具61で吊り上げられている床版1aを橋桁2上に降ろす。そして、吊り降ろされた床版1aを、従来と同様に、繋ぎ板で既設の床版1の先頭のものと接続し、吊り台6を撤去する。吊り台6は、吊り具61を取り外し可能にし、更に必要があれば、枠を分解可能な構造とすることにより、人力で撤去することができる。橋桁2上から吊り台6を撤去した後、従来と同様に、リブ11に溶着されているナット31に螺合する押ボルト32と、押え材3に挿通した引張ボルト21の先端に螺合したナット22とにより、新たに敷設した床版1aを橋桁2に固定する。そして、新たに固定した床版のリブの上までレール材15を延長する。
【0020】
以上の作業を繰り返すことにより、新たな床版を順次敷設してゆく。
【発明の効果】
【0021】
この発明の方法によれば、橋桁上の床版の敷設において、大型クレーンの使用や、クレーンを川底や谷底に設置する必要がなくなる。台車による床版の搬送や延長レール材の設置及び撤去、並びに吊り台の設置及び撤去に従来より多くの人手を必要とするが、大型クレーンを使用する必要がないこと、及び大型クレーンの搬入、組立及び大型クレーンのための仮設基礎の設置及びそれらに必要な人手が不要となるので、橋桁上への床版の敷設作業に要する費用を大幅に低減できる。特に、山間地に建設される橋梁の建設において、橋梁の建設費及び作業負担を大幅に低減できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】既設の床版上に設置したレール材上の台車に新たな床版を吊り降ろした状態を示す側面図
【図2】吊り降ろした新たな床版をその敷設位置に移動した状態を示す側面図
【図3】橋桁上に固定した吊り台で新たな床版を吊り上げた状態を示す側面図
【図4】図3の正面図
【図5】新たな床版を橋桁上に吊り降ろした状態を示す側面図
【図6】床版の斜視図
【図7】図6のA部における床版の固定構造を示す拡大正面図
【図8】図6のB部における床版の固定構造を示す拡大正面図
【図9】レール材の平面図
【図10】同正面図
【図11】延長レール材及び台脚の側面
【図12】同正面図
【図13】台車の側面図
【図14】吊り台の側面図
【図15】同正面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に示す実施例を参照して、この発明を更に説明する。床版1及び1aは、図6ないし図8で説明した構造で、2本の橋桁2の上に敷設される。図9及び図10は、この発明の方法に用いるレール材の一実施例を示した図である。図のレール材15は、上向きのコ字形鋼からなり、両端にボルトやCクランプなどで既設の床版1のリブ11上に固定するためのフランジ14が溶接してある。レール材15は、既設の床版1上の、2本の橋桁2の上方の位置に互いに平行に設置される。
【0024】
図11及び12は、延長レール材とその台脚を示した図である。延長レール材16は、敷設する床版の幅(橋梁の長さ方向の寸法)に相当する長さを備えている。延長レール材16は、その両端を橋桁2上に定置した台脚17で支持されて、既設の床版上に定置したレール材15と同一高さに設置される。図の延長レール材16は、台脚17の上面に溶着した2個の位置決め材19の間に嵌め込んで支持されており、延長レール材16と台脚17とは分解可能である。図の例では、延長レール材16を2本、台脚17を4個使用する。
【0025】
図13は、レール材15及び延長レール材16上を走行する台車を示した図である。図の台車5は、レール材15及び延長レール材16の上向きのコ字溝内を走行する小型のクローラ52を前後両端に備えたもので、台車5の台53は角材で製作され、軽量化及びクレーンで吊り降ろした際の床版1aの損傷を防止する構造としてある。台車5は、2個準備され、それぞれがレール材15及び延長レール材16の1本のコ字溝に案内されて走行する。
【0026】
図14及び15は、吊り台の例を示した図である。図の吊り台6は、2個の門形枠62と、その上に架け渡されるビーム63とを備えている。ビーム63と門形枠62とは、Cクランプ64で締結されており、分解及び組立が可能な構造となっている。図の吊り具61は、ビーム63に巻回したワイヤで吊り下げられたレバーチェンブロックで、ビーム63上の任意の位置に取り付けられるようになっている。ビーム63を門形枠62の外側に張り出させて、その張り出し位置に取り付けることもできる。
【0027】
次に図1〜5を参照して、上記構造のレール材15、延長レール材16、台車5及び吊り台6並びに台車走行用のウインチ51と川岸に設置したクレーンとを使用した、この発明の床版の敷設方法の手順を説明する。
【0028】
まず、橋梁を架設した岸に設置したクレーンでその安全作業範囲内の何枚かの床版1を橋桁2上に従来と同様な方法で敷設する。次に敷設済み床版のリブ11上の橋桁2の上方に位置する箇所に、レール材15を定置する。レール材15は、2本の橋桁2の上方の位置に定置する。定置したレール材15の各々に、個別に台車5を載せる。台車5のクローラ52は、レール材15及び延長レール材16の上向きのコ字溝に嵌り込んだ状態で、レール材15及び延長レール材16に沿って個別に走行する。
【0029】
次に、定置したレール材15を延長するように、次の床版1aを敷設する位置の橋桁2上に、延長レール材16を台脚17で支持して設置する。この延長レール材16は、短時間の間のみ設置するものなので、一般的には固定しなくてもよい。次に、2台の台車5をクレーンの安全作業範囲内、すなわち岸近くに移動し、クレーンで次に敷設する床版1aを台車5上に吊り降ろす。図1に示す71は図示しないクレーンの吊りワイヤ、72は台車5に連結されているウインチ51のワイヤである。そして、延長レール材16の延長上の橋桁2上に固定した電動ウインチ51で台車5を引張って、複数の台車5及びその上に載置された床版1aを一体として、延長レール材16上に移動する(図2)。
【0030】
前述したように、床版1の底板12は、橋桁2の上方となる部分は開口している。そこで次に、延長レール材16上に移動した床版1の開口部分を通して、橋桁2上に吊り台6を設置する。図の例では、橋桁2の上面に溶接して立設されている引張ボルト21を利用して、延長レール材16の両側に門形枠62をナットで固定し、その上面にビーム63を掛渡してCクランプ64で固定する。そして、吊り具61をビーム63に取り付け、吊り具61で台車5上から床版1aを吊り上げる(図3、4)。
【0031】
この状態で、台車5をレール材15側に戻し、延長レール材16及び台脚17を橋桁2上から撤去する。台車5は、1本のレール材ごとに個別に設けられているので、人力で容易に移動することができる。また、一本ごとの延長レール材16は、長さの短いものであるから、人力で撤去することができる。
【0032】
次に、吊り台の吊り具61で吊り上げられている床版1aを橋桁2上に降ろす(図5)。そして、吊り降ろされた床版1aを、従来と同様に、繋ぎ板で既設の床版1の先頭のものと接続し、吊り台6を撤去する。吊り台6は、吊り具61を取り外し、ビーム63と門形枠62を分解して、人力で撤去する。橋桁2上から吊り台6を撤去した後、従来と同様に、リブ11に溶着されているナット31に螺合する押ボルト32と、押え材3に挿通した引張ボルト21に螺合したナット22とにより、橋桁2上に固定する。すなわち、引張ボルト21の張力と押ボルト32の圧縮力とにより、新たに敷設した床版1aを橋桁2に固定する。そして、新たに固定した床版1aのリブの上に、新たにレール材15aを設置する。この新たなレール材15aは、新たに敷設しようとする床版1に予め定置しておいても良い。
【0033】
以上の作業を繰り返すことにより、新たな床版を順次敷設して、最終的に全ての床版を橋桁2上に敷設する。床版1は、橋桁を架設した岸の片側から反対側の岸に向かって敷設していっても良いし、両側から中央に向かっての敷設していっても良い。後者の場合は、岸の両側にクレーンを設置する。これらのクレーンは、数枚の床版をクレーンの近くに敷設できる程度の安全作業範囲を持ったもので良い。
【符号の説明】
【0034】
1 床版
1a 新たな床版
2 橋桁
3 押え材
5 台車
6 吊り台
11 床版のリブ
12 床版の底板
15 レール材
16 延長レール材
17 台脚
61 吊り具
【特許請求の範囲】
【請求項1】
架設された橋桁(2)上に固定した複数枚の床版(1)の上に橋桁(2)と平行にレール材(15)を設置して当該レールに沿って走行する台車(5)を設けた後、
前記床版(1)に連接して敷設する新たな床版(1a)を台車(5)に搭載すると共に当該新たな床版を敷設する箇所の橋桁(2)上にレール材(15)と連接する延長レール材(16)を設置し、新たな床版(1a)を搭載した台車(5)を延長レール材(16)上に移動し、移動した床版(1a)の底板(12)の開口を通して橋桁(2)上に吊り台(6)を設置して当該吊り台の吊り具(61)で新たな床版(1a)を吊り上げ、台車(5)と延長レール材(16)とを吊り上げた床版の下から撤去して当該床版を橋桁(2)上に吊り降ろし、吊り台(6)を撤去して吊り降ろした床版(1a)を橋桁(2)に固定する、橋桁上への床版の敷設方法。
【請求項1】
架設された橋桁(2)上に固定した複数枚の床版(1)の上に橋桁(2)と平行にレール材(15)を設置して当該レールに沿って走行する台車(5)を設けた後、
前記床版(1)に連接して敷設する新たな床版(1a)を台車(5)に搭載すると共に当該新たな床版を敷設する箇所の橋桁(2)上にレール材(15)と連接する延長レール材(16)を設置し、新たな床版(1a)を搭載した台車(5)を延長レール材(16)上に移動し、移動した床版(1a)の底板(12)の開口を通して橋桁(2)上に吊り台(6)を設置して当該吊り台の吊り具(61)で新たな床版(1a)を吊り上げ、台車(5)と延長レール材(16)とを吊り上げた床版の下から撤去して当該床版を橋桁(2)上に吊り降ろし、吊り台(6)を撤去して吊り降ろした床版(1a)を橋桁(2)に固定する、橋桁上への床版の敷設方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−174241(P2011−174241A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37250(P2010−37250)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(391064566)株式会社北都鉄工 (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(391064566)株式会社北都鉄工 (3)
【Fターム(参考)】
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