説明

橋梁の押出架設装置

【課題】 自重がより大きい橋梁の主桁を押出し工法に基づいて下り勾配で架橋する場合において、その滑り出しによる過走を防止することができ、工事全体の安全性を向上させる。
【解決手段】 橋梁の主桁2を押出し工法により下り勾配で架設する際に、主桁2を押出方向へ押し出す水平押出部5と、この水平押出部5における押出速度が複数段階に亘って減速するようにこれを制御するための油圧ポンプ10、インバータ11、操作盤12とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
橋梁の主桁を押出し工法により架設する橋梁の押出架設装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート橋の主桁を架設する際に、従来より押出し工法が頻繁に利用されている。この押出し工法は、橋脚後方の陸上等において設置される主桁製作ヤード上で長さ10〜20mのブロックに分割した主桁を順次押し出すことにより橋梁を架設する工法である。従来において、このような押出し工法に基づいて橋梁を架設するための押出し装置が数多く提案されている(例えば、特許文献1、2)。この押出し工法では、品質管理、工程管理上においても有利であり、架設作業全体のコストを大幅に削減することも可能である。
【0003】
図5は、従来において開示されている押出し装置の一例を示している。この図5に示すように、水平ジャッキ20並びに鉛直ジャッキ24の伸縮動作によって、滑り板21上を摺動する支持部材22の上端面に主桁23を設置する。そして、水平ジャッキ20で支持部材22を引き寄せることにより、主桁23の押し出しを行う。
【0004】
この押出し工法において、下り勾配において主桁を押し出す際において、主桁が不当に滑り出さないように、いわゆる「惜しみ」を取るための過走防止機能を付加した押出し装置も提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【特許文献1】特開昭57−193605号公報
【特許文献2】特開平6−212607号公報
【特許文献3】特開平9−125320号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、上述した特許文献では、下り勾配であっても主桁の押出しを制御しながらより安全に架設するための技術が開示されている一方で、特に傾斜角が5%を超えるような急勾配の橋梁を架設する際に、或いは予期しえない地震等が発生した場合において、かかる安全性をより強固なものとしつつ、しかも確実に主桁を押し出すことができる技術までは開示されていない。
【0006】
特に、より自重が大きい主桁を勾配の急な箇所において架設する場合には、かかる自重による慣性力により、主桁を効率よく制御することができず、さらに押出し作業中において地震等が発生した場合には、主桁自体が滑り出してしまうことから、より危険度が上昇してしまうという問題点もあった。
【0007】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、自重がより大きい橋梁の主桁を押出し工法に基づいて下り勾配で架橋する場合において、その滑り出しによる過走を防止することができ、工事全体の安全性を向上し得る橋梁の押出架設装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、橋梁の主桁を複数段階に亘って減速させることにより、下り勾配であっても慣性力を抑えて、主桁の過走を防止可能な橋梁の押出架設装置を発明した。
【0009】
即ち、本発明を適用した橋梁の押出架設装置は、橋梁の主桁を押出し工法により下り勾配で架設する橋梁の押出架設装置において、上記主桁を押出方向へ押し出す押出機構と、上記押出機構における押出速度が複数段階に亘って減速するようにこれを制御するための制御手段とを備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、橋梁の主桁を押出し工法により下り勾配で架設する際に、主桁を押出方向へ押し出す押出機構と、押出機構における押出速度が複数段階に亘って減速するようにこれを制御するための制御手段とを備えている。
【0011】
これにより、自重の大きい主桁を特に傾斜角が5%を超えるような急勾配の箇所において架設する場合であっても、かかる主桁の過走を防止することが可能となる。また、本発明では、押出し架設時において地震が発生した場合においても、その主桁の過走を防止することができ,工事全体の安全性を向上することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態として、押出し工法に基づいて架橋する橋梁の押出架設装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
図1は、この橋梁の主桁2を図中における桁押出し方向へ向けて押し出すことにより、これを架設する押出架設装置1の構成につき示す図である。この押出架設装置1は、橋脚3上にそれぞれ載置された水平押出部5と、鉛直ジャッキ6とを備え、さらに水平押出部5に油圧を供給するための油圧ポンプ10と、油圧ポンプ10に接続されるインバータ11と、このインバータ11に接続される操作盤12とを備えている。
【0014】
水平押出部5は、主桁2に当接可能な滑り板51と、この滑り板51上において、図中桁押出し方向へ摺動自在に設けられているスライドジャッキ52とを備えている。
【0015】
鉛直ジャッキ6は、主桁2の底面を仮支持可能な当接面6aを有し、図示しない制御部により制御された油圧状態に応じて、鉛直方向へ伸縮自在に構成されている。
【0016】
油圧ポンプ10は、インバータ11による制御の下、ホース71を介してスライドジャッキ52内の油圧を上昇させ、或いは降下させる。
【0017】
インバータ11は、水平押出部5による主桁2の押出速度を可変にするために設置される。実際にこのインバータ11により、油圧ポンプ10からのポンプ吐出量をコントロールすることにより、鉛直ジャッキ6における油圧状態を制御することが可能となり、上記主桁2の押出速度を段階的に緩やかにしたり、或いは主桁2の押出動作そのものを停止させたりすることが可能となる。
【0018】
操作盤12は、この押出架設装置1全体を制御するためのいわゆる中央処理ユニットとしての役割を担う。
【0019】
次に、本発明を適用した押出架設装置1の動作につき図2を用いて説明をする。先ず図2(a)に示すように、鉛直ジャッキ6を押し下げるとともに、水平押出部5における滑り板51を押し上げてこれを主桁2の底面に当接させる。そして、スライドジャッキ52により、この主桁2の底面に当接させた滑り板51を図中桁押出し方向へ摺動させる。これにより、主桁2を桁押出し方向へ押し出すことが可能となる。
【0020】
滑り板51をある一定の距離に亘り摺動させた後、図2(b)に示すように、鉛直ジャッキ6を鉛直方向に押し上げる。その結果、かかる鉛直ジャッキ6の当接面6aは主桁2の底面を仮支持することが可能となる。また、これに伴って水平押出部5における滑り板51の上面は主桁2の底面から徐々に離間していくことになる。
【0021】
次に図2(c)に示すように、スライドジャッキ52により滑り板51を図中桁押出し方向と正反対方向へ摺動させる。その結果、滑り板51は水平押出部5の左端部まで戻ることになる。次に、この鉛直ジャッキ6を下方に押し下げ、さらに滑り板51を上方へ押し上げて上述した図2(a)以降の作業を繰返し実行する。
【0022】
これにより、主桁2は桁押出し方向へ順次押し出されていくことになり、橋梁の押出し架設を完了させることができる。
【0023】
なお、この押出架設装置1では、特に急激な傾斜角からなる下り勾配で主桁2を架設する際に、以下に説明するようにその押出速度を制御するようにしてもよい。
【0024】
図3は、この押出架設装置1による主桁2の押出速度の例を示している。この例に示すように、開始時a1から速度がv1となるように押し出しを開始し、次に押出速度をv2まで上げる。次に停止時において、押出速度v2から押出速度v1へと一度減速し、しばらくこの押出速度v1で主桁2の押し出しを行った後、押出速度を0とし、押出動作を停止させる。これら押出速度の制御は、上述の如くインバータ11による制御の下、スライドジャッキ52における油圧状態を制御することにより実行する。
【0025】
即ち、押出速度v2で主桁2の押し出しを行っている場合には、比較的高速で主桁2が移動しているところ、桁押出し方向への慣性力が増大してしまう。このため、押出速度v2から急激に停止させると、主桁2が滑ってしまう。特に下り勾配の傾斜角が急な場合には、かかる主桁2の滑り量が大きくなってしまう。
【0026】
このため、押出速度v2から押出速度v1へ一度減速することにより、かかる慣性力を小さくする。そしてこの押出速度v1で所定時間に亘り主桁2を押し出し、慣性力を落とし込んだ後に、押し出しを停止させる。即ち、桁押出し方向への慣性力が落とし込まれた状態で主桁2の押し出しを停止させることができるため、当該主桁2の滑りを抑えることが可能となる。なお、上述した例では、押出速度を2段階に亘り減速する場合を例にとり説明をしたが、かかる場合に限定されるものではなく、押出速度を複数段階に亘って減速するものであれば、いかなるものであってもよい。
【0027】
このように、本発明を適用した押出架設装置1では、スライドジャッキ52による主桁2の押出速度が複数段階に亘って減速するように当該スライドジャッキ52における油圧状態を制御する。これにより、自重の大きい主桁2を勾配の急な箇所において架設する場合であっても、かかる主桁2の過走を防止することが可能となる。また、本発明を適用した押出架設装置1は、押出し架設時において地震が発生した場合においても、その主桁2の過走を防止することができる。なお、本発明では、特に傾斜角が5%を超えるような急勾配の橋梁を架設する際においても、同様に適用可能である。
【0028】
また本発明では、上記減速すべき押出速度の制御を、例えば、主桁2に当接される滑り板51と当該主桁との摩擦係数μと、上記下り勾配の傾斜角θとに基づいて、実行するようにしてもよい。
【0029】
この制御すべき押出速度を決定する際には、例えば図4に示すようなモデルに基づいて決定するようにしてもよい。このモデルでは、主桁2と、これに当接される滑り板51をあえて上下反転させて構成している。滑り板51から主桁2を動かす力Fは、滑り板51の重力W、摩擦係数μとの関係において以下の式(1)で表すことが可能となる。ちなみに、A=Wcosθ、B=Wsinθとする。
【0030】
F=μA−B=μWcosθ−Wsinθ=W(μcosθ−sinθ)・・・(1)
【0031】
また、速度変化による慣性力Faは、実際に制御する速度V、停止時の速度Vとし、さらに、上記インバータ11により停止命令が出されてから停まりきるまでの時間をΔtとしたとき、以下の式(2)で表すことが可能となる。
【0032】
Fa=W/g×(V−V)/Δt・・・・・・(2)
【0033】
ここで、主桁2を動かす力Fに対する慣性力Faの安全率φは、以下の式(3)で定義することができる
S=F/Fa>φ・・・・・・・・・・(3)
【0034】
この(3)式に、上記(1)、(2)式を代入して整理すると下記(4)式として表される。なお、この(4)式においては、停止時の速度Vにつき0を代入している。
gΔt(μcosθ−sinθ)/φ>V・・・・・・・・・(4)
【0035】
このように、実際に制御する速度Vは、摩擦係数μと、下り勾配の傾斜角θに支配されることが分かる。これら摩擦係数μと傾斜角θとΔtは、設計時において分かっている値であるため、これを上記(3)式に代入し、さらに安全率φを設定することで制御する速度Vを容易に求めることが可能となる。
【0036】
なお、本発明を適用した押出架設装置1では、設定した速度Vに対して、安全率φを考慮しつつ、さらにΔtを調整するようにしてもよい。即ち、摩擦係数μとけ医者角θに対して、速度VとΔtとを互いに調整することにより、スライドジャッキ52による主桁2の押出速度を複数段階に亘って減速させ、ひいては主桁2の過走を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明を適用した押出架設装置の構成につき示す図である。
【図2】本発明を適用した押出架設装置の動作につき説明するための図である。
【図3】本発明を適用した押出架設装置による主桁の押出速度の例を示す図である。
【図4】制御すべき押出速度を決定するためのモデルを示す図である。
【図5】従来技術につき説明するための図である。
【符号の説明】
【0038】
1 押出架設装置
2 主桁
3 橋脚
5 水平押出部
6 鉛直ジャッキ
10 油圧ポンプ
11 インバータ
12 操作盤
51 滑り板
52 スライドジャッキ
71 ホース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁の主桁を押出し工法により下り勾配で架設する橋梁の押出架設装置において、
上記主桁を押出方向へ押し出す押出機構と、
上記押出機構における押出速度が複数段階に亘って減速するようにこれを制御するための制御手段とを備えること
を特徴とする橋梁の押出架設装置。
【請求項2】
上記制御手段は、上記押出機構における押し出し時において上記主桁に当接される部材と当該主桁との摩擦係数μと、並びに上記下り勾配の傾斜角θとに基づいて、上記押出速度を制御すること
を特徴とする請求項1記載の橋梁の押出架設装置。
【請求項3】
上記制御手段は、上記主桁を押し出す力に対する慣性力の安全率をφとし、重力加速度をgとし、さらに上記押出機構により減速されてから停止するまでの時間をΔtとしたとき、下記の式
gΔt(μcosθ−sinθ)/φ>V
の範囲で表される押出速度Vに減速されるように制御すること
を特徴とする請求項2記載の橋梁の押出架設装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−283324(P2006−283324A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−102262(P2005−102262)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000103769)オリエンタル建設株式会社 (136)
【Fターム(参考)】