説明

橋梁の架設工法及び架設構造

【課題】セッティングビームが不要で、桁上を有効に使え、施工性の向上が図れると共に、墜落や落下の可能性を減少できる橋梁の架設工法及び架設構造を提供する。
【解決手段】新設桁3を吊上げて橋脚又は橋台1上の既設桁2に連結して架設する橋梁の架設工法において、上記既設桁2の軸方向端部に上面から先端に向かって下降する階段状又は傾斜面状の仮受け部4を形成すると共に、上記新設桁3の軸方向端部に上記仮受け部4に対応する形状の係合部5を形成しておき、上記新設桁3を吊上げて該新設桁3の係合部5を上記既設桁2の仮受け部4に係合させて仮受け状態とし、この仮受け状態で仮受け部4と係合部5とを連結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁の架設工法及び架設構造に係り、特に既設桁に新設桁を架設する際にセッティングビームを用いずに架設する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図7は従来の橋梁の架設工法を説明する説明図、図8は従来の橋梁の架設工法の他の例を説明する説明図である。橋梁の大ブロック一括架設等においては、例えば図7に示すように、クレーンの吊りワイヤ25により新設桁3を吊上げて橋脚又は橋台1上の既設桁2に連結して架設する場合、予め新設桁3にセッティングビーム20を取付けておき、このセッティングビーム20を介して新設桁3の荷重の一部を既設桁2の上部で仮受けし、この仮受け状態で既設桁2の軸方向端部と新設桁3の軸方向端部とを連結している。
【0003】
図7の場合、新設桁3は、軸方向の一端がセッティングビーム20を介して既設桁2上に支持され、他端が橋脚又は橋台1上に支持されるが、図8に示すように、新設桁3の両端がそれぞれセッティングビーム20を介して既設桁2又は脚上ブロック21に仮受け支持されるようにしても良い。なお、図8は、臨港幹線道路の建設において新設桁3をフローティングクレーン22の吊りワイヤ25により吊上げている状態を示している。
【0004】
関連する技術としては、橋脚又は橋台上の脚上ブロック上の吊具を脚上ブロックを貫通して垂れ下げて地上の桁に係止し、脚上ブロック上の吊具駆動体により吊具を引き上げることにより桁を地上から脚上ブロックの横に吊上げ、この吊上げ状態で桁の軸方向端部の継ぎ手部分と脚上ブロックの継ぎ手部分とを連結することにより、桁を脚上ブロック間に架設する工法がある(特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開2007−218029号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した橋梁の架設工法においては、セッティングビームが必要であり、その取付けや撤去に手間がかかるだけでなく、セッティングビームにより桁上空間が制約されるという問題がある。また、既設桁と新設桁の軸方向端部が垂直の直線切りになっているため、端部間の隙間からの墜落や落下の危険性がある。なお、上記特許文献1記載の技術においては、吊具で桁の軸方向端部を吊上げた状態で桁の軸方向端部の継ぎ手部分と脚上ブロックの継ぎ手部分とを連結しなければならないため、万が一、吊具が切断すると桁が落下する虞がある。
【0007】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであり、セッティングビームが不要で桁上を有効に使え、施工性の向上が図れると共に、墜落や落下の可能性を減少できる橋梁の架設工法及び架設構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のうちの第1の発明は、新設桁を吊上げて橋脚又は橋台上の既設桁に連結して架設する橋梁の架設工法において、上記既設桁の軸方向端部に上面から先端に向かって下降する階段状又は傾斜面状の仮受け部を、且つ上記新設桁の軸方向端部に上記仮受け部に対応する形状の係合部をそれぞれ予め形成しておき、上記新設桁を吊上げて該新設桁の係合部を上記既設桁の仮受け部に係合させて仮受け状態とし、この仮受け状態で仮受け部と係合部とを連結することを特徴とする。
【0009】
上記仮受け部に高さ調整機構を介して上記係合部を係合させることにより仮受け状態とし、この仮受け状態で仮受け部と係合部と間の高さ調整を行ってから仮受け部と係合部とを連結することが好ましい。
【0010】
第2の発明は、新設桁を吊上げて橋脚又は橋台上の既設桁に連結して架設する橋梁の架設構造において、上記既設桁の軸方向端部に形成され上面から先端に向かって下降する階段状又は傾斜面状の仮受け部と、上記新設桁の軸方向端部に形成され上記仮受け部に対応する形状の係合部と、上記既設桁の仮受け部に上記新設桁の係合部を係合させた状態で仮受け部と係合部を連結する連結具とを備えたことを特徴とする。
【0011】
上記新設桁及び既設桁は箱桁からなり、上記仮受け部及び係合部は、箱桁の底板上面又は天板下面に軸方向に設けられた複数の縦補強材と、隣り合う縦補強材間に横架された横補強材と、これら縦補強材及び横補強材の端面に設けられた座板とを有していることが好ましい。
【0012】
上記仮受け部と係合部におけるそれぞれの座板の間には高さ調整機構が設置されることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、セッティングビームが不要で、桁上を有効に使え、施工性の向上が図れると共に、墜落や落下の可能性を減少できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基づいて詳述する。図1は本発明に係る橋梁の架設工法の実施形態を説明するための概略的説明図である。
【0015】
図1において、1は橋脚又は橋台、2は橋脚又は橋台1上に設置された既設桁(既設の橋桁)、3は既設桁に連結して架設される新設桁(新設の橋桁)である。
【0016】
上記既設桁2の軸方向端部には上面から先端に向かって下降する階段状(図示例では厚さ方向の下半分が軸方向に突出した形状)の仮受け部4が形成されている。この仮受け部4は、既設桁2の軸方向端部を上下方向中間位置で水平に切断する水平部4aと、この水平部4aの奥端から上方に垂直に切断する垂直部4bとによって側面L字状に形成されている。
【0017】
上記新設桁3の軸方向端部には上記仮受け部4に対応する形状(図示例では厚さ方向の上半分が軸方向に突出した形状)の係合部5が形成されている。この係合部5は、新設桁3の軸方向端部を上下方向中間位置で水平に切断する水平部5aと、この水平部5aの奥端から下方に垂直に切断する垂直部5bとによって側面逆L字状に形成されている。
【0018】
上記既設桁2に新設桁3を連結する場合には、上記新設桁3をクレーンの吊具である吊ワイヤ25により吊上げて該新設桁3の係合部5を上記既設桁2の仮受け部4に上方から載せて(係合させて)仮受け状態とし、この仮受け状態で仮受け部4と係合部5とを連結すればよい。上記仮受け状態では、既設桁2の水平部4aに新設桁3の水平部5aが載り、既設桁2の垂直部4bと新設桁3の先端部とが対向し、新設桁3の垂直部5bと既設桁2の先端部とが対向する。
【0019】
既設桁2の垂直部4bと新設桁3の先端部とが離間している場合には、新設桁3を吊りながら先端部をワイヤで引っ張って隙間の調整をすればよい。既設桁2の仮受け部4と新設桁3の係合部5の連結は、例えば添え板(スプライスプレート)及び高張力ボルトといった連結具によってなされる。なお、図示例では、新設桁3の一端の係合部5が既設桁2の仮受け部4に支持され、新設桁3の他端が橋脚又は橋台1上に支持されるようになっている。
【0020】
このように橋梁の架設工法及び架設構造によれば、既設桁2の軸方向端部に上面から先端に向かって下降する階段状の仮受け部4を形成すると共に、新設桁3の軸方向端部に上記仮受け部4に対応する形状の係合部5を形成しておき、上記新設桁3を吊上げて該新設桁3の係合部5を上記既設桁2の仮受け部4に係合させて仮受け状態とし、既設桁2に新設桁3の荷重を直接預けた状態で仮受け部4と係合部5とを連結するため、セッティングビームを用いずに架設工事を容易に且つ安全に行うことができる。
【0021】
セッティングビームが不要になるため、セッティングビームの取付け作業や撤去作業が不要になるだけでなく、桁上(既設桁及び新設桁の上面)を有効に使えるようになり、施工性の向上が図れる。また、既設桁2と新設桁3の連結部が階段状であるため、垂直の直線切りのものと異なり、墜落や落下を減少できる。
【0022】
図2は仮受け部と係合部の具体的な実施形態を示す縦断面図、図3は図2のA−A線断面図である。上記新設桁2及び既設桁3は、図2ないし図3に示すように鋼製の天板(上部フランジ)2a、3a、底板(下部フランジ)2b、3b及び左右の側板(ウエブ)2c、3cを有する箱桁からなっており、箱桁の内面には軸方向に沿って適宜補強材6、7が設けられていると共に、軸方向に適宜間隔で隔壁8が設けられている。
【0023】
既設桁2の端部には階段状の仮受け部4が設けられ、新設桁3の端部には仮受け部4に対応する形状の係合部5が設けられるが、仮受け部4及び係合部5の強度の向上を図ると共に高さ調整を可能とするために以下のように構成されていてもよい。
【0024】
上記仮受け部4は、既設桁2の底板2bの上面に軸方向に設けられた複数の縦補強材9と、隣り合う縦補強材9間に横架された複数の横補強材10と、これら縦補強材9及び横補強材10の上端面に設けられた下部座板11とを有している。上記係合部5は、新設桁3の天板3aの下面に軸方向に設けられた複数の縦補強材12と、隣り合う縦補強材12間に横架された複数の横補強材13と、これら縦補強材12及び横補強材13の下端面に設けられた上部座板14とを有している。これにより、既設桁2の仮受け部4及び新設桁3の係合部5の強度の向上が図られている。
【0025】
また、上記仮受け部4と係合部5との間である下部座板11と上部座板14との間には、高さ調整機構例えば高さ調整ジャッキ15が介在される。上記仮受け部4に高さ調整ジャッキ15を介して上記係合部5を係合させることにより仮受け状態とし、この仮受け状態で仮受け部4と係合部5と間の高さ調整を行ってから仮受け部4と係合部5とを連結する。
【0026】
下部座板11は、先端側の水平部11aと、この水平部11aの後端から隔壁8に向かって上り傾斜の傾斜部11bとからなっている。上部座板14は、先端側の水平部14aと、この水平部14aの後端から隔壁8に向かって下り傾斜の傾斜部14bとからなっている。下部座板11の水平部11aと上部座板14の水平部14aとが上下方向で対向しており、これらの間に高さ調整ジャッキ15が介在される。上記下部座板11の水平部11a上に高さ調整ジャッキ15がサンドル16を介して設置され、高さ調整ジャッキ15の頂部が上部座板14の水平部14a下面に当接される。
【0027】
上部座板14及び下部座板11は、図3に示すように、左右に一組ずつ配置され、高さ調整ジャッキ15が左右に2個配置されている。これにより、高さ調整ジャッキ15に加わる新設桁3の荷重が1/2に軽減されて高さ調整ジャッキ15の小型化が図れると共に、新設桁3の左右の高さ調整も可能になっている。上記高さ調整ジャッキ15及びサンドル16は、新設桁3の架設後に天板2a、3a、側板2c、3c又は底板2b、3bに設けられた図示しないマンホールから外部に搬出されるようになっている。図2ないし図4の実施形態によれば、既設桁2の仮受け部4及び新設桁3の係合部5の強度の向上が図れると共に既設桁2と新設桁3との間の高さ調整を容易に行うことができる。
【0028】
図4は連結部の構造を概略的に示す図である。既設桁2の仮受け部4と新設桁3の係合部5を連結する場合、天板2a、3a、側板2c、3c及び底板2b、3bのそれぞれの対向する縁部同士が例えば添え板(スプライスプレート)17及び高張力ボルト18といった連結具19によって連結される。
【0029】
図5は本発明に係る橋梁の架設工法の他の実施形態を説明するための概略的説明図であり、本実施形態では、橋脚又は橋台1に支持された両既設桁2の対向する端部に階段状の仮受け部4を形成し、これらの仮受け部4に両端部が係合するように新設桁3の両端部に係合部5を形成したものである。本実施の形態においても、前記実施形態と同様の効果が得られる。
【0030】
図6は本発明に係る橋梁の架設工法の他の実施形態を説明するための概略的説明図であり、本実施形態では、既設桁2の軸方向端部に上面から先端に向かって下降する傾斜面状の仮受け部4を、且つ新設桁3の軸方向端部に上記仮受け部4に対応する形状の係合部5をそれぞれ予め形成しておき、上記新設桁3を吊上げて該新設桁3の係合部5を上記既設桁2の仮受け部4に係合させて仮受け状態とし、この仮受け状態で仮受け部4と係合部5とを連結するようにしたものである。本実施の形態においても、前記実施形態と同様の効果が得られる。
【0031】
以上、本発明の実施の形態を図面により詳述してきたが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲での種々の設計変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る橋梁の架設工法の実施形態を説明するための概略的説明図である。
【図2】仮受け部と係合部の具体的な実施形態を示す縦断面図である。
【図3】図2のA−A線断面図である。
【図4】連結部を概略的に示す図である。
【図5】本発明に係る橋梁の架設工法の他の実施形態を説明するための概略的説明図である。
【図6】本発明に係る橋梁の架設工法の他の実施形態を説明するための概略的説明図である。
【図7】従来の橋梁の架設工法を説明する説明図である。
【図8】従来の橋梁の架設工法の他の例を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0033】
1 橋脚又は橋台
2 既設桁
3 新設桁
4 仮受け部
5 係合部
9、12 縦補強材
10、13 横補強材
11、14 座板
15 高さ調整ジャッキ(高さ調整機構)
19 連結具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
新設桁を吊上げて橋脚又は橋台上の既設桁に連結して架設する橋梁の架設工法において、上記既設桁の軸方向端部に上面から先端に向かって下降する階段状又は傾斜面状の仮受け部を形成すると共に、上記新設桁の軸方向端部に上記仮受け部に対応する形状の係合部を形成しておき、上記新設桁を吊上げて該新設桁の係合部を上記既設桁の仮受け部に係合させて仮受け状態とし、この仮受け状態で仮受け部と係合部とを連結することを特徴とする橋梁の架設工法。
【請求項2】
上記仮受け部に高さ調整機構を介して上記係合部を係合させることにより仮受け状態とし、この仮受け状態で仮受け部と係合部と間の高さ調整を行ってから仮受け部と係合部とを連結することを特徴とする請求項1記載の橋梁の架設工法。
【請求項3】
新設桁を吊上げて橋脚又は橋台上の既設桁に連結して架設する橋梁の架設構造において、上記既設桁の軸方向端部に形成され上面から先端に向かって下降する階段状又は傾斜面状の仮受け部と、上記新設桁の軸方向端部に形成され上記仮受け部に対応する形状の係合部と、上記既設桁の仮受け部に上記新設桁の係合部を係合させた状態で仮受け部と係合部を連結する連結具とを備えたことを特徴とする橋梁の架設構造。
【請求項4】
上記新設桁及び既設桁は箱桁からなり、上記仮受け部及び係合部は、箱桁の底板上面又は天板下面に軸方向に設けられた複数の縦補強材と、隣り合う縦補強材間に横架された横補強材と、これら縦補強材及び横補強材の端面に設けられた座板とを有していることを特徴とする請求項3記載の橋梁の架設構造。
【請求項5】
上記仮受け部と係合部におけるそれぞれの座板の間には高さ調整機構が設置されることを特徴とする請求項4記載の橋梁の架設構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−209574(P2009−209574A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−53111(P2008−53111)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】