説明

橋梁工事用移動式安全帯取付装置

【課題】橋梁工事における桁上で作業に関し、取り付け時、取り外し時の安全性が確保され、かつ施工性、経済性に優れた移動式安全帯取付装置を提供する。
【解決手段】左右一対の支柱部1と、支柱部1どうしを連結する連結部2と、支柱部1の下端のストッパー部3と、支柱部1の上部間を連結する手摺部4とで枠組みを構成し、連結部2に左右一対の車輪部5を取り付ける。左右の支柱部1と、ストッパー部3と、連結部2に取り付けた車輪部5とで、作業員は手摺部4などに安全帯のフックをかけることができる。桁11の上フランジ11aを取り囲むことで、桁直角方向への落下を防止しつつ、車輪部5により桁11の上フランジ11a上を作業員とともに移動させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路橋などの橋梁工事において、桁上で作業員が移動する際の安全性を向上させるための安全帯取付装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に高所で作業を行う際は、安全帯を取付可能な安全装置を事前に設置し、その装置に作業員の腰部に取り付けた安全帯のフックを掛けることで作業員の転落を防止している。
【0003】
しかしながら、安全装置を設置する際と撤去する作業時には、安全帯を取り付ける装置がない場合がほとんどであり、その際の安全対策が課題となっている。
【0004】
従来、橋梁工事における桁上での作業の場合、H形鋼桁、I桁などの上フランジに親綱支柱を5m程度の間隔をあけて固定し、その支柱間にロープや鋼管製の手すりを設置して安全装置としている。
【0005】
例えば、桁の高さが2m程度の場合、桁をクレーン架設する前に梯子を使用して地上で支柱を取り付ける場合が多い。この場合、梯子を支柱設置間隔毎に設置する必要があり、作業員は毎回梯子を上下移動しなければならない。
【0006】
また、撤去時は桁の上フランジから1.5m程度下がった位置に設置した中段足場を利用して行う場合が多い。この場合、中段足場を施工しなければならないため、経済性、施工速度の問題で課題が残る。
【0007】
その他、従来技術として、特許文献1には鉄骨建物における梁上での作業に使用する墜落防止装置として、梁の上フランジに装着され、上フランジ上を回転移動する一対の回転移動手段と、回転移動手段を連結する連結手段と、安全帯取付手段とからなる墜落防止装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2712013号
【特許文献2】特開2009−240357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述のように、桁の上フランジに親綱支柱を取り付ける方法では、取り付け時や取り外し時の安全性や施工性、経済性の課題がある。
【0010】
また、特許文献1記載のものは、鉄骨建物における梁上での作業を建物対象としたもので、構造的に簡易ではあるがそのまま橋梁工事に利用することはできない。
【0011】
特に橋梁工事の場合、桁自体が大型である他、桁どうしの接続部は高力ボルト接合のための添接板の段差があり、段差を乗り越えられる構造のものが必要となる。
【0012】
また、主桁上に架設される床版との結合のためのスタッドジベルなどが設けられ、主桁上フランジ端部にはシール材が設置されるなど、ジベルやシール材の存在も考慮し、これらを回避できる構造であることが要求される。
【0013】
本発明は上述のような課題の解決を図ったものであり、橋梁工事における桁上で作業に関し、取り付け時、取り外し時の安全性が確保され、かつ施工性、経済性に優れた移動式安全帯取付装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に係る橋梁工事用移動式安全帯取付装置は、橋梁工事における桁上での作業の際に、作業員の安全帯を取り付けるための装置であって、桁の上フランジの両側に配置される左右一対または複数対の支柱部と、前記左右の支柱部を連結する連結部と、前記連結部に設けられ桁の上フランジ上を移動可能な左右1対または複数対の車輪部と、前記支柱部の下部に設けられ、前記連結部および車輪部とともに桁の上フランジを取り囲むことで桁直角方向への落下を防止するストッパー部とを有することを特徴とするものである。
【0015】
本発明は、安全装置の設置・解体時に作業員が桁の上フランジ上を歩くことが可能な安全帯取付装置として、安全帯取付装置自身が作業員と共に移動する方式としたものである。すなわち、安全帯取付装置に移動用の車輪部を設けることで、桁の上フランジ上を歩く作業員が押すまたは引くことで容易に移動させることが可能であり、転落災害が防止できる。
【0016】
支柱部は連結部およびストッパー部とともに枠組を構成する部分であり、連結部とストッパー部が桁の上フランジを取り囲むようにして、傾いたときでも桁直角方向へ落下しないようにしている。
【0017】
これらは一体のものとして製作することもできるが、別体の組立て式のものとすることもできる。桁への取り付けは、例えば架設した桁端部から桁軸方向へ嵌め込むことによって行うことができる。桁端部には通常、足場が設置されているため、足場上で設置および取り外しが可能である。また、組立て式の場合は、各部材をネジ式あるいは嵌込み式とすることで、上フランジ側面から分解組立することも可能である。
【0018】
車輪部は桁の上フランジ上を滑らかに摺動させるためのものであり、作業員が押し引きする際の負担が軽減される。なお、車輪部に段差吸収用のスプリングを入れておけば、さらにスムーズな移動が可能となる。また、車輪部をストッパー側にも設け、桁上フランジを上下から挟み込むようにしてもよい。
【0019】
安全帯は装置の車輪部を除く、何れの位置にも取り付け可能であり、支柱部に手摺部あるいは操作の際に手で握るための把持部などが設けられている場合などは、それらに取り付けることもできる。
【0020】
車輪部は装置の安定性や方向性を考慮すると、最低2個必要である。さらに自立性を高めるためには3個以上の車輪があると良い。車輪の高さは特に限定されないが、移動面に突起や不陸などがある場合は、それらを越えることが可能な高さとすればよい。
【0021】
本装置は作業員が容易に移動できるためには手押しまたは手引きが可能な手すり付き構造が望ましいが、安全帯やその他ロープ等を介して歩きながら引く構造や、作業員自身が上に乗って人力または電動で移動出来る台車式構造にもできる。
【0022】
ストッパー部と桁の上フランジとの隙間は少ない程良いが、桁の高さ方向および幅方向の製作誤差を考慮して設定することが望ましい。
【0023】
請求項2は、請求項1に係る橋梁工事用移動式安全帯取付装置において、前記支柱部の上部に、左右の支柱を連結する手摺部が設けられていることを特徴とするものである。
【0024】
手摺部は、作業員が桁上を歩いて行く際に手で握って安全装置を移動させることができる。また、左右の支柱間を連結することで、枠組部材の一部として装置の剛性を高めることができる。また、上述のように安全帯の取付け部としても利用することができる。
【0025】
請求項3は、請求項1または2に係る橋梁工事用移動式安全帯取付装置において、前記連結部が、前記車輪部による桁フランジ上の移動の際に、桁フランジ部に取り付けられるジベルの高さ以上の高さとなるように設けられていることを特徴とするものである。
【0026】
桁フランジ上にはスタッドジベルなどのジベルが取り付けられる場合が多く、支柱間をつなぐ連結部の高さをジベルの高さ以上としておくことで、スムーズな移動が可能となる。なお、車輪部についてはジベル間を通過する位置に取り付けるようにすればよい。
【0027】
請求項4は、請求項1、2または3に係る橋梁工事用移動式安全帯取付装置において、前記ストッパー部に、桁上フランジ下面との間に、前記車輪部による桁フランジ上の移動の際、桁どうしを長手方向に接続する添接板位置の段差を乗り越えられるだけのクリアランスが設けられていることを特徴とするものである。
【0028】
落下防止の観点からは桁上フランジ下面とストッパー部との間隔が狭いほど設計が容易であり、ストッパー部も短くて済むが、通常、主桁どうしの接続位置には高力ボルト接合のための添接板などによる段差があるため、段差を乗り越えられるだけのクリアランスを設けておくことが考えられる。
【0029】
段差の回避手段としては、この他、前述したように車輪部にスプリングを組み込んでおくことが考えられる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、支柱部、連結部、ストッパー部、また必要に応じて設けられる手摺部が、転落防止のための頑丈な枠組を構成し、車輪部により桁上フランジ上をスムーズに移動させることができるため、高い安全性が確保され、かつ施工性の向上が図れる。
【0031】
それにより、橋梁工事の桁上での作業に使用する安全装置の設置・解体時においても作業員の転落災害を防止することができる。
【0032】
また、桁接続部の添接板による段差、桁上に設けられるジベル、桁フランジ端部のシール材など、橋梁工事特有の課題も容易に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の移動式安全帯取付装置の一実施形態を示したものであり、(a)は装置が取り付けられる橋梁主桁側面からみた図、(b)は橋軸直角方向の断面図である。
【図2】本発明の移動式安全帯取付装置の他の実施形態における橋梁主桁側面からみた図である。
【図3】主桁添接板の段差を乗り越える状況を示した橋軸直角方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて説明する。ただし、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0035】
図1は、本発明の移動式安全帯取付装置の一実施形態を示したものであり、左右一対の支柱部1と、支柱部1どうしを連結する連結部2と、支柱部1の下端のストッパー部3と、支柱部1の上部間を連結する手摺部4とで枠組みを構成し、連結部2に左右一対の車輪部5を取り付けている。
【0036】
桁11に対しては、左右の支柱部1と、ストッパー部3と、連結部2に取り付けた車輪部5とで、桁11の上フランジ11aを取り囲むことで、桁直角方向への落下を防止しつつ、車輪部5により桁11の上フランジ11a上を作業員とともに移動できるようになっている。
【0037】
支柱部1、連結部2、ストッパー部3、手摺部4としては、金属製のパイプ材あるいは棒材が用いられる。本実施形態は溶接でこれらを接合する場合であるが、ネジや嵌め込みによる組立て式とすることもできる。
【0038】
作業員は自身の腰部に着用した安全帯のフックを手摺部4等に取り付け、安全帯取付装置と一緒に桁11の上フランジ11a上を移動する。作業員が桁11上から転落した際は、安全帯取付装置のストッパー部3が桁11の上フランジ11aに当たり、落下を防止する。なお、安全帯のフック取付け位置は手摺部4に限定されることはなく、安全帯フック取付け用の孔を手摺部4や支柱部1などに設け、そこに取り付けても問題ない。
【0039】
また、連結部2は、移動時に、桁11の上フランジ11aに植設されたスタッドジベル12にぶつからない高さとなるようにしてあるが、作業員が所定位置まで移動して手摺部4から手を離すと、図1(a)のように支柱部1が倒れた状態となる。その際、ストッパー部3が桁11の上フランジ11a下面に当たることで、斜めの自立状態が保たれるようにしてある。
【0040】
図2は、本発明の移動式安全帯取付装置の他の実施形態を示したもので、図1の実施形態のものに対し、車輪部5を左右それぞれ2輪設けることで自立できるようにしたものである。車輪部5は3輪以上でもよい。
【0041】
図3は、桁11接続部の添接板13の段差を乗り越える状況を示したものである。
【0042】
桁11どうしの接合を高力ボルトで行っている場合は、図3に示すように接合部の段差が生じるため、段差を越える隙間量が必要である。
【0043】
この他、移動の安定性を考慮すると、ストッパー部3にスプリング機能付きの車輪を付けることも考えられる。
【符号の説明】
【0044】
1…支柱部、2…連結部、3…ストッパー部、4…手摺部、5…車輪部、
11…桁、11a…上フランジ、12…スタッドジベル、13…添接板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁工事における桁上での作業の際に、作業員の安全帯を取り付けるための装置であって、
桁の上フランジの両側に配置される左右一対または複数対の支柱部と、
前記左右の支柱部を連結する連結部と、
前記連結部に設けられ桁の上フランジ上を移動可能な左右1対または複数対の車輪部と、
前記支柱部の下部に設けられ、前記連結部および車輪部とともに桁の上フランジを取り囲むことで桁直角方向への落下を防止するストッパー部
とを有することを特徴とする橋梁工事用移動式安全帯取付装置。
【請求項2】
前記支柱部の上部には左右の支柱を連結する手摺部が設けられていることを特徴とする請求項1記載の橋梁工事用移動式安全帯取付装置。
【請求項3】
前記連結部は、前記車輪部による桁フランジ上の移動の際に、桁フランジ部に取り付けられるジベルの高さ以上の高さとなるように設けられていることを特徴とする請求項1または2記載の橋梁工事用移動式安全帯取付装置。
【請求項4】
前記ストッパー部は、桁上フランジ下面との間に、前記車輪部による桁フランジ上の移動の際、桁どうしを長手方向に接続する添接板位置の段差を乗り越えられるだけのクリアランスが設けられていることを特徴とする請求項1、2または3記載の橋梁工事用移動式安全帯取付装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−206245(P2011−206245A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76721(P2010−76721)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(509200613)株式会社横河住金ブリッジ (8)
【Fターム(参考)】