説明

橋梁用弾性支承

【課題】弾性体に突出部を設けるのみで、弾性体の表面歪を軽減できる橋梁用弾性支承を提供する。
【解決手段】間隔をおいて複数配置された補強プレート23と各補強プレート23を覆う弾性体22により構成された弾性支持部21と、弾性体22を橋桁2側に連結する橋桁連結プレート24と、弾性体22を橋脚3に連結する橋脚連結プレート25とを備え、橋桁2から橋脚3に加わる変形力を低減する橋梁用弾性支承において、橋桁連結プレート24側及び橋脚連結プレート25側に外方向に突出した突出部26を有するため、これら連結プレート24,25側で生ずるクラックやしわを低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は橋桁と橋脚との間に設けられた高減衰の橋梁用弾性支承に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の橋梁用弾性支承として図10に示すものが一般的に知られている。橋梁用弾性支承1は橋桁2と橋脚3との間に配置されるもので、橋桁2から橋脚3に加わる歪み、即ち、外気温度の変化に伴う橋桁2の橋軸方向(図10の双方向矢印)への剪断力、風などによる橋軸方向に直行する方向を含む水平方向への剪断力等を減衰している。
【0003】
この橋梁用弾性支承1は、ソールプレート11、上沓12、弾性支持部13、下沓14及びベースプレート15を順次配置した構造となっている。また、弾性支持部13の上面はソールプレート11及び上沓12を介して橋桁2に連結する一方、弾性支持部13の下面は下沓14及びベースプレート15を介して橋脚3に連結し、これにより、弾性支持部13が橋桁2及び橋脚3に一体に連結している。
【0004】
また、弾性支持部13は間隔をおいて複数配置された補強プレート13aと該各補強プレート13aを覆う弾性体13bとを有し、弾性体13bの弾性力により橋桁2から加わる歪みが吸収されている。この弾性体13bは各補強プレート13aに交互に積層し加硫接着したゴム製の内部弾性体13cと、内部弾性体13c及び各補強プレート13aの外周面を覆うよう加硫接着したゴム製の側壁弾性体13dとからなり、この側壁弾性体13dにより内部弾性体13cを外部環境から保護し、内部弾性体13cの劣化(クラックなど)を防止するようにしている。
【0005】
しかしながら、この橋梁用弾性支承では、内部弾性体13cが側壁弾性体13dで保護されるものの、側壁弾性体13dにもクラックやしわが形成され、橋梁用弾性支承の外観を損ねるばかりか、残存した歪みにより局部破壊を引き起こすおそれがあった。
【0006】
このような問題点を解決するため、出願人は特開2009−243652号公報(特許文献1)に記載した弾性支承を提案した。特許文献1に記載した弾性支承は、側壁弾性体を内外2層で構成したもので、内層を破断伸びを優先したゴム材料で形成する一方、外層を硬度を優先したゴム材料で形成している。これにより、内層で剪断力を低減する一方、外層でクラック等の発生を防止している。
【0007】
また、出願人は同じく上記問題点を解決するため、特開2000−1820号公報(特許文献2)に記載した弾性支承も提案している。特許文献2に記載した弾性支承は、補強プレートと交互に積層した内部弾性体のうち、橋桁や橋脚に近接した内部弾性体の周縁部に剪断弾性係数の大きな補強ゴムを使用し、これにより、内部弾性体のクラックを防止する構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−243652
【特許文献2】特開2000−1820
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記特許文献1の弾性支承では、側壁弾性体として2種類の弾性体を用意する必要があり材料コストが割高になることはもとより、側壁弾性体を内部弾性体に接着する際、内部弾性体の外側に2種類の弾性体を配置するなど製造工程が複雑となるという問題点を有していた。
【0010】
また、前記特許文献2の弾性支承では、内部弾性体としてこれまた2種類の弾性体を用意する必要があり、特許文献1と同様に材料のコスト高や製造工程の複雑化を招くものとなっていた。
【0011】
本発明の目的は、前記従来の課題に鑑み、弾性体に突出部を形成するのみで、弾性体の表面歪を軽減できる橋梁用弾性支承を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は前記課題を解決するため、請求項1の発明は、間隔をおいて複数配置された補強プレートと各補強プレートを覆う弾性体により構成された弾性支持部と、該弾性体を橋桁側に連結する橋桁連結プレートと、弾性体を橋脚に連結する橋脚連結プレートとを備え、橋桁から橋脚に加わる変形力を低減する橋梁用弾性支承において、弾性体は橋桁連結プレート側及び橋脚連結プレート側を外方向に突出してなる突出部を有する構造となっている。
【0013】
請求項1の発明によれば、橋桁から弾性支持部に水平方向の剪断変形力が加わったとしても、橋桁連結プレート側及び橋脚連結プレート側に外方向に突出した突出部を有するため、これら連結プレート側で生ずるクラックやしわを低減することができる。
【0014】
なお、突出部は、請求項2の発明の如く側壁弾性体に形成してもよいし、請求項3の発明の如く内部弾性体を突出させて形成してもよい。
【0015】
請求項4の発明は、請求項1乃至請求項3の橋梁用弾性支承において、突出部は弾性支持体の側面のうち少なくとも橋軸方向と直行する側面に有する構造となっている。
【0016】
一般に外気温度の変化に伴う歪みは特に橋軸方向で発生するため、少なくとも、橋軸方向と直行する側面に形成することが必要となる。
【0017】
請求項5の発明は、請求項1乃至請求項4の橋梁用弾性支承において、各補強プレート側の前記弾性体は、橋桁連結プレートと橋脚連結プレートから離れるに従って薄く形成している。
【0018】
弾性体にかかる剪断応力のうち、各連結プレートの近傍は大きく、また、各連結プレートから離れるに従って小さくなる。そこで、各補強プレート側の弾性体の厚さ寸法も各所に加わる剪断応力に応じて設計すればよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、弾性体に突出部を形成するだけで、弾性体の表面歪を軽減できるので、極めて簡単な剪断力減衰構造となっている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態に係る橋梁用弾性支承の橋軸方向断面図
【図2】第1実施形態の要部拡大断面図
【図3】第1実施形態に係る橋梁用弾性支承の変形状態を示す橋軸方向断面図
【図4】突出部の厚さ寸法に対応した歪変形量を示す断面図
【図5】FEMモデルによる表面歪解析を示す断面図
【図6】第2実施形態に係る橋梁用弾性支承の一部を省略した橋軸方向断面図
【図7】第3実施形態に係る橋梁用弾性支承の橋軸方向断面図
【図8】第4実施形態に係る橋梁用弾性支承の橋軸方向断面図
【図9】第5実施形態に係る橋梁用弾性支承の橋軸方向断面図
【図10】従来の橋梁用弾性支承の橋軸方向断面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1乃至図3は本発明に係る橋梁用弾性支承を示すもので、図1は第1実施形態に係る橋梁用弾性支承の橋軸方向断面図、図2は第1実施形態の要部拡大断面図、図3は第1実施形態に係る橋梁用弾性支承の変形状態を示す橋軸方向断面図である。なお、図10に示す従来例と同一構成部分は同一符号を用い、その詳細な説明は省略する。
【0022】
本実施形態に係る橋梁用弾性支承20は、従来例と同様に橋桁2と橋脚3との間に配置され、また、橋梁用弾性支承20の構造も従来例と同様に上位にある橋桁2から下位にある橋脚3に向かって、ソールプレート11、上沓12、弾性支持部21、下沓14及びベースプレート15と順次配置されている。更に、弾性支持部21の上面に連結するソールプレート11及び上沓12はボルト16a,16bによって橋桁2に連結する一方、弾性支持部21の下面に連結する下沓14及びベースプレート15はボルト16c,16dによって橋脚3に連結しており、これにより、弾性支持部21が橋桁2と橋脚3を連結する構造となっている。
【0023】
以上の構成に特徴的構成を有するものではなく、本実施形態に係る橋梁用弾性支承20は弾性支持部21の構造に特徴有しており、以下、弾性支持部21の構造を詳述する。
【0024】
弾性支持部21は全体としては例えば直方体形状に形成され、橋桁2から橋脚3へ伝達される剪断力を低減する弾性体22と、上下に間隔をおいて複数配置された鉄鋼製の補強プレート23と、弾性体22の上部に配置された鉄鋼製の橋桁連結プレート24と、弾性体22の下部に配置された鉄鋼製の橋脚連結プレート25とを有する。
【0025】
ここで、橋桁連結プレート24がボルト16eを介して上沓12に連結され、一方、橋脚連結プレート25がボルト16fを介して下沓14に連結されており、これにより、弾性体22が橋桁連結プレート24を介して橋桁2側に連結するとともに、橋脚連結プレート25を介して橋脚3側に連結されている。
【0026】
弾性体22は、各補強プレート23と交互に積層してなる内部弾性体22aを有し、この内部弾性体22aにより橋桁2や橋脚3側から伝達される剪断力を減衰している。内部弾性体22aの材料は、剪断力の吸収に好適な材料、即ち、特許文献1などで出願人が既に提案している高減衰ゴムが使用されている。例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエン共重合ゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、シリコーンゴム等である。また、これらゴムには、必要に応じて、充填剤、可塑剤、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫助剤等の添加剤が配合されている。
【0027】
また、弾性体22は側壁弾性体22bを有している。側壁弾性体22bは内部弾性体22a、各補強プレート23、橋桁連結プレート24及び橋脚連結プレート25の側面を覆うもので、内部弾性体22a等を外部の衝撃等から保護している。側壁弾性体22bの材料は、内部弾性体22aと同様に弾性材料形成され、かつ、耐候性や外部衝撃に優れたものが好ましい。例えば、ブチルゴム、アクリルゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)等である。
【0028】
また、側壁弾性体22bの厚さ寸法は均一なものではなく、図2に示すように、橋桁連結プレート24及び橋脚連結プレート25側の厚さ寸法W1が、補強プレート23側の厚さ寸法W2より2倍ほど大きく設計し、各連結プレート24,25側に外方向に突出した突出部26を形成している。
【0029】
本実施形態に係る橋梁用弾性支承20において、突出部26は次のような解析等に基づき設けられた。
【0030】
即ち、図3に示すように、橋梁用弾性支承20が橋軸方向に変位するとき、図4(a)(b)に示すように、各内部弾性体22aと各補強プレート23が橋軸方向に変位し、弾性支持部21全体が斜めに延びている。これにより、各補強プレート23を間に隣接する各内部弾性体22a間に、歪みが発生し、この歪みが側壁弾性体22bの外面に凹所B1,B2を形成する要因となっている。
【0031】
ここで、図4(a)に示すように、側壁弾性体22bの厚さ寸法が小さいときは、凹所B1の凹みが大きく、剪断変形量が大きいことが理解できる。これに対して、図4(b)に示すように、側壁弾性体22bの厚さ寸法が大きいときは、凹所B2の凹みが小さく、剪断変形量が小さいことが理解できる。
【0032】
更に、図5に示すように、出願人はFEMモデルによる表面歪解析を行った。このモデル100は、本実施形態と同様に、橋桁連結プレート101と橋脚連結プレート102との間に補強プレート103と内部弾性体104とを交互に積層するとともに、各補強プレート103及び内部弾性体104の側面に側壁弾性体105を配置し、これらの各部材101〜105を加硫接着したものである。
【0033】
ここで、図5(a)に示すように、橋軸方向に剪断力を加えモデル100を変形させた。ここで、モデル100の左右両側面に生ずる剪断変形量を検証したところ、図5(b)(c)に示すように、側壁弾性体10の外面のうち、橋桁連結プレート101及び橋脚連結プレート102側に剪断変形量が集中していることが分かった。
【0034】
以上の解析等から、特許文献1,2に記載された発明から想到できない次のような技術的構造を創作した。即ち、弾性体22において、橋桁連結プレート24及び橋脚連結プレート25側を外方向に突出させることにより、側壁弾性体22bの歪変形量を効率よく小さくできるという技術的構造である。
【0035】
本実施形態に係る橋梁用弾性支承20によれば、弾性体22のうち、連結プレート24,25側を外方向に突出した突出部26を有するため、弾性体の表面歪を軽減できるし、また、単に突出部26を設けるだけであり、極めて簡単な剪断力減衰構造となっている。
【0036】
図6は本発明に係る橋梁用弾性支承の第2の実施形態を示すもので、前記第1実施形態と同一構成部分は同一符号で示し、その説明を省略する。
【0037】
本実施形態に係る橋梁用弾性支承30は弾性体32のうち側壁弾性体32bの構造を改良したものである。
【0038】
前記第1実施形態では、側壁弾性体の厚さ寸法において各連結プレート24,25側のみを考慮するものであったが、本実施形態では突出部36に加え、補強プレート23側の厚さ寸法も考慮したものである。即ち、補強プレート23側の厚さ寸法を各連結プレート24,25から離れるに従って小さくするという改良を行った。これにより、側壁弾性体32bを剪断応力に応じた過不足のない適切な厚さ寸法に設定できる。
【0039】
図7は本発明に係る橋梁用弾性支承の第3の実施形態を示すもので、前記第1実施形態と同一構成部分は同一符号で示し、その説明を省略する。
【0040】
前記第1実施形態では突出部を側壁弾性体に形成していたが、本実施形態に係る橋梁用弾性支承40は内部弾性体42aに突出部46を形成した。
【0041】
即ち、図7に示すように、弾性体42のうち内部弾性体42aのうち、橋桁連結プレート24及び橋脚連結プレート25側を外側方向に突出させた突出部46を形成するとともに、突出部46を含む内部弾性体42aの外面に略均一に側壁弾性体42bを接着している。
【0042】
本実施形態に係る橋梁用弾性支承40においても各連結プレート24,25側の厚さ寸法が大きくなっているため、弾性体42に加わる剪断変形に対して減衰効果を十分に発揮することができる。
【0043】
図8は本発明に係る橋梁用弾性支承の第4の実施形態を示すもので、前記第1実施形態と同一構成部分は同一符号で示し、その説明を省略する。
【0044】
前記第1実施形態では弾性体22及び補強プレート23を保持するプレートとして、上下に橋桁連結プレート24と橋脚連結プレート25を配置していたが、図8に示すように、本実施形態に係る橋梁用弾性支承50ではこれら各連結プレート24,25を上沓12及び下沓14と兼用としたものである。本実施形態によれば、各連結プレート24,25が除去された分、構造も簡単なものとなっている。
【0045】
図9は本発明に係る橋梁用弾性支承の第5の実施形態を示すもので、前記第1実施形態と同一構成部分は同一符号で示し、その説明を省略する。
【0046】
前記第1実施形態に係る弾性体22は内部弾性体22aと側壁弾性体22bより構成しているが、本実施形態に係る橋梁用弾性支承60は弾性体62を内部弾性体62aのみで構成している。即ち、側壁弾性体を有しないタイプの橋梁用弾性支承60においても内部弾性体62aに突出部66を形成することにより、これまた、前記第1実施形態と同様の作用効果を発揮する。
【0047】
なお、前記各実施形態では突出部26,36,46,66を弾性体の橋軸方向に対向する面はもとより、これと隣接する橋軸方向に沿った側面にも形成しているが、外気温度などで大きく変形する部分が橋軸方向と対向する側面であるため、少なくともこの対向側面に設ける必要がある。
【符号の説明】
【0048】
20,30,40,50,60…橋梁用弾性支承、21…弾性支持部、22…弾性体、22a…内部弾性体、22b…側壁弾性体、23…補強プレート、24…橋桁連結プレート、25…橋脚連結プレート、26,36,46,66…突出部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
間隔をおいて複数配置された補強プレートと該各補強プレートを覆う弾性体により構成された弾性支持部と、該弾性体を橋桁側に連結する橋桁連結プレートと、該弾性体を橋脚に連結する橋脚連結プレートとを備え、該橋桁から該橋脚に加わる変形力を低減する橋梁用弾性支承において、
前記弾性体は前記橋桁連結プレート側及び前記橋脚連結プレート側を外方向に突出してなる突出部を有する
ことを特徴とする橋梁用弾性支承。
【請求項2】
前記弾性体は、前記各補強プレートと交互に積層して接着した内部弾性体と、該内部弾性体、該各補強プレート、前記橋桁連結プレート及び前記橋脚連結プレートの側面を覆う側壁弾性体とからなり、前記突出部を該側壁弾性体に形成した
ことを特徴とする請求項1記載の橋梁用弾性支承。
【請求項3】
前記弾性体は、前記各補強プレートと交互に積層して接着した内部弾性体と、該内部弾性体、該各補強プレート、前記橋桁連結プレート及び前記橋脚連結プレートの側面を覆う側壁弾性体とからなり、前記突出部を該内部弾性体に形成するとともに該側壁弾性体は該内部弾性体の側面を略均一に覆うよう形成した
ことを特徴とする請求項1記載の橋梁用弾性支承。
【請求項4】
前記突出部は、前記弾性支持体の側面のうち少なくとも橋軸方向と直行する側面に有する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一項記載の橋梁用弾性支承。
【請求項5】
前記各補強プレート側の前記弾性体は、前記橋桁連結プレートと前記橋脚連結プレートから離れるに従って薄く形成した
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一項記載の橋梁用弾性支承。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−31687(P2012−31687A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173680(P2010−173680)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】