説明

橋梁落下防止具

【課題】簡易な構成で緩衝機能を有する橋梁落下防止具を提供する。
【解決手段】橋梁落下防止具10は、側面視にて略U字状に湾曲した弾性体12を備えている。弾性体12は、断面が円形状とされ、U字の一端側と他端側が、各々一端部14と他端部16とされている。弾性体12の内部には、PC鋼線20の中間部22が埋設されている。PC鋼線20は、PC鋼より線(PCケーブル)などにより構成することができる。PC鋼線20の中間部22は、コイルスプリング状とされている。PC鋼線20は、第1端部24が弾性体12の一端部14から外側に露出され、第2端部26が弾性体12の他端部16から外側に露出されている。PC鋼線20は、第1端部24、中間部22、第2端部26が連続したPC鋼線20で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋桁同士や、橋桁と橋脚など、2つの橋梁構造物を連結して橋梁の落下を防止する橋梁落下防止具に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁を構成する橋桁同士を連結したり、橋桁と橋脚とを連結したりして、橋梁の落下を防止するために、特許文献1に記載のような落橋防止装置が提案されている。この落橋防止装置は、連結ケーブル4を用いて橋桁同士等を連結すると共に、緩衝ゴム16により、地震時の橋桁の移動に伴う衝撃的な地震力を緩和する。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の落橋防止装置は、連結ケーブル4の両端部に緩衝機能やクリアランスを設けた機構が複雑になってしまう。また、橋脚等への取付用のブラケット5のサイズが大きくなるため、取付位置が限られてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3124500号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は係る事実を考慮し、簡易な構成で緩衝機能を有する橋梁落下防止具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の橋梁落下防止具は、一端部と他端部とを有する弾性体と、第1端側が第1橋梁構造物に固定され第2端側が前記第1橋梁構造物と異なる第2橋梁構造物に固定されると共に、前記第1端側が前記弾性体の前記一端部側に配置され前記第2端側が前記弾性体の前記他端部側に配置され中間部が湾曲した状態で前記弾性体に埋設されたPC鋼材とを備えている。
【0007】
上記構成の橋梁落下防止具では、PC鋼材の第1端側が第1橋梁構造物に固定され第2端側が前記第1橋梁構造物と異なる第2橋梁構造物に固定される。第1橋梁構造物及び第2橋梁構造物へのPC鋼材の固定は、固定位置、スペース等に応じた適切な任意の方法で行うことができる。
【0008】
第1橋梁構造物と第2橋梁構造物との温度変化等による相対移動に対しては、PC鋼材の第1端側、第2端側の少なくとも1箇所の長さに余裕をもたせることにより、当該相対移動に追随させることができる。
【0009】
地震等により、第1橋梁構造物と第2橋梁構造物とが離れてPC鋼材に引張力が作用すると、湾曲した状態のPC鋼材が線形になるように変形する。このとき、PC鋼材に接着していた弾性体がPC鋼材の変形に追従しようとするため、圧縮や引張りなどの変形抵抗が生じる。これにより、引張りの際の衝撃を緩和することができる。
【0010】
請求項2に記載の橋梁落下防止具は、前記PC鋼材は、少なくとも中間部においてコイルスプリング状とされていること、を特徴とする。
【0011】
このように、弾性体内に埋設されるPC鋼材の形状をコイルスプリング状とすることにより、弾性体が線形になるように変形した後のPC鋼材の線形変形時に、PC鋼材に接着していた弾性体がPC鋼材の変形に追従しようとするため、圧縮や引張りの他、曲げ、ねじれなどの変形抵抗が生じる。また、コイルプリング状とすることにより、弾性体の単位体積当たりのPC鋼材の体積を、単純に湾曲させるよりも増加させることができ、前述した変形抵抗を大きくすることができる。これにより、さらに、引張りの際の衝撃を緩和することができる。
【0012】
請求項3に記載の橋梁落下防止具は、前記弾性体が、前記一端部から前記他端部にかけて湾曲部を有していること、を特徴とする。
【0013】
このように、弾性体が湾曲を有すると、地震等により、第1橋梁構造物と第2橋梁構造物とが離れてPC鋼材に引張力が作用すると、弾性体にも引張力が作用して、湾曲部分が線形になるように変形する。この際、弾性体の曲げ変形抵抗により、引張りの際の衝撃を緩和することができる。
【0014】
請求項4に記載の橋梁落下防止具は、前記弾性体が、前記一端部から前記他端部にかけてのU字状とされていること、を特徴とする。
【0015】
このように、弾性体をU字状とすることにより、U字の両端部に引張力が作用した場合に効率よく衝撃を緩和することができる。また、U字にすることにより、コンパクトに構成することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の橋梁落下防止具は、簡易な構成で緩衝機能を備えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1実施形態に係る橋梁落下防止具の概略構成を示す図である。
【図2】(A)〜(C)は、第1実施形態に係る橋梁落下防止具の製作工程を示す説明図である。
【図3】第1実施形態に係る橋梁落下防止具が取り付けられた状態を示す図である。
【図4】第1実施形態に係る橋梁落下防止具が取り付けられたときの、取付部分の拡大図である。
【図5】第1実施形態に係る橋梁落下防止具の変形例(A)〜(C)の概略構成を示す図である。
【図6】第2実施形態に係る橋梁落下防止具の概略構成を示す図である。
【図7】第2実施形態に係る橋梁落下防止具が取り付けられた状態を示す図である。
【図8】第2実施形態に係る橋梁落下防止具の変形例(A)〜(B)の概略構成を示す図である。
【図9】第3実施形態に係る橋梁落下防止具の概略構成を示す図である。
【図10】第3実施形態に係る橋梁落下防止具の変形例の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1実施形態]
【0019】
図1に示すように、本実施形態の橋梁落下防止具10は、側面視にて略U字状に湾曲した弾性体12を備えている。弾性体12は、断面が円形状とされ、U字の一端側と他端側が、各々一端部14と他端部16とされている。なお、弾性体12の断面は、必ずしも円形状である必要はなく、四〜八角形などの多角形や、楕円形状であってもよい。弾性体12は、天然ゴム、合成ゴム、繊維入りゴムなどのゴム材などの弾性を有する材料で構成することができる。
【0020】
弾性体12の内部には、PC鋼材としてのPC鋼線20の中間部22が埋設されている。PC鋼線20は、PC鋼より線(PCケーブル)などにより構成することができる。PC鋼線20の中間部22は、コイルスプリング状とされている。PC鋼線20は、第1端部24が弾性体12の一端部14から外側に露出され、第2端部26が弾性体12の他端部16から外側に露出されている。PC鋼線20は、第1端部24、中間部22、第2端部26が連続したPC鋼線20で構成されている。PC鋼線20の中間部22は、弾性体12内に埋設されているので、PC鋼線20が露出している場合と比較して、耐候性を向上させることができる。また、PC鋼線20の中間部22は、コイルプリング状とされているので、弾性体12の単位体積当たりのPC鋼線20の体積を、単純に湾曲させるよりも増加させることができ、後述する変形の際に抵抗力を大きくすることができる。
【0021】
橋梁落下防止具10は、例えば、以下のようにして製作することができる。
【0022】
図2(A)に示すように、弾性体12の形状、及び、第1端部24、第2端部26に対応する型の構成された2分割金型36を用意し、図2(B)に示すように、予めコイルスプリング状に形成したPC鋼線20を金型36内にセットする。そして、図2(C)に示すように、注入口36Eからゴムを注入して、加硫する。
【0023】
なお、弾性体12の材料として、熱可塑性の樹脂を用いる場合には、高温の熱可塑性樹脂を注入口36Eから注入し、冷却することにより製作することができる。
【0024】
上記構成の橋梁落下防止具10を取り付ける際には、第1端部24を第1橋梁構造物としての橋脚30に固定し、第2端部26を第2橋梁構造物としての橋桁32に固定する。橋桁32は、支承31を介して橋脚30に支持されている。固定の方法は、取付位置や取付け領域のサイズなどに応じて選択することができる。
【0025】
上記の取り付けは、例えば、図3に示すように行うことができる。図4にも示すように、まず、第1端部24、第2端部26の各々の先端を雄ねじ40Nの形成された先端固定具40に固定する。一方、橋脚30と橋桁32には、取付板42及び2枚のリブ板44が溶接された支持板46をアンカーボルト等で固定する。取付板42の中央部には、PC鋼線20を挿通可能な穴42Aが穿孔されている。2枚のリブ板44は、取付板42の背面側に取付板42と直交するように固定されている。
【0026】
次に、先端固定具40を穴42Aに挿通し、外径が穴42Aよりも大径のワッシャ45を介して2個のナット47を先端固定具40の雄ねじに螺合させる。ナット47により、PC鋼線20は、取付板42からの抜けが防止されて固定される。取付部分の外側は、カバー48で覆う。PC鋼線20の第1端部24、第2端部26は、橋脚30と橋桁32との相対移動に追随可能な長さが、緩みなどにより予め確保されている。
【0027】
上記のように、本実施形態の橋梁落下防止具10は、簡易な構成とされており、取付位置、スペースに応じて、適切な取付を行うことができる。
【0028】
次に、上記のように橋脚30へ第1端部24が固定され、橋桁32に第2端部26が固定された橋梁落下防止具10の作用について説明する。
【0029】
橋脚30と橋桁32とが、熱等により伸縮して相対移動する際には、PC鋼線20の第1端部24、第2端部26が伸張、または、緩むなどして、追随する。本実施形態によれば、ケース内にクリアランスを設けるなどの複雑な構成を必要とすることなく、簡易な構成で、PC鋼線20を橋脚30と橋桁32との通常時における相対移動に追随させることができる。
【0030】
地震などにより、橋脚30、橋桁32に大きな振動が入力され、橋桁32が橋脚30から落下する方向へと大きく相対移動すると、まず、PC鋼線20の第1端部24と第2端部26とが伸張される。次に、弾性体12のU字形状が伸張され、棒状に変形する。このとき、弾性体12の曲げ変形抵抗(第1の変形抵抗)が生じる。弾性体12が棒状に変形した後、PC鋼線20の中間部22が伸張され、直線状に変形する。このとき、中間部22に接着している弾性体12が、当該変形に追随して局所的に圧縮、引張り、曲げ、ねじれ、などの変形抵抗(第2の変形抵抗)が発生する。
【0031】
以上のように、第1変形抵抗、第2変形抵抗という2段階の変形抵抗により、高い緩衝機能を得ることができる。
【0032】
なお、本実施形態では、PC鋼線20の中間部22のみをコイルスプリング状としたが、図5(A)に示すように、第1端部24、第2端部26についても、コイルスプリング状としてもよい。このように、第1端部24、第2端部26をコイルスプリング状とすることにより、PC鋼線20の通常時における伸張部分をコンパクトにすることができる。
【0033】
また、本実施形態では、PC鋼線20の中間部22をコイルスプリング状としたが、図5(B)に示すように、単に湾曲された湾曲形状の中間部22Aとしてもよい。
【0034】
[第2実施形態]
【0035】
次に、第2実施形態について説明する。本実施形態では第1実施形態と同様の部分についての説明は、省略する。
【0036】
図6に示すように、本実施形態の橋梁落下防止具70は、断面円形の棒状とされた弾性体72を備えている。弾性体72は、一端側と他端側が、各々一端部74と他端部76とされている。なお、弾性体72の断面は、必ずしも円形状である必要はなく、四〜八角形などの多角形や、楕円形状であってもよい。弾性体72は、天然ゴム、合成ゴム、繊維入りゴムなどのゴム材などの弾性を有する材料で構成することができる。
【0037】
弾性体72の内部には、PC鋼線80の中間部82が埋設されている。PC鋼線80は、PC鋼より線(PCケーブル)などにより構成することができる。PC鋼線80の中間部82は、コイルスプリング状とされている。PC鋼線80は、第1端部84が弾性体72の一端部74から外側に露出され、第2端部86が弾性体72の他端部76から外側に露出されている。PC鋼線80は、第1端部84、中間部82、第2端部86が連続したPC鋼線80で構成されている。
【0038】
橋梁落下防止具70の取り付けは、図7に示すように、第1実施形態と同様にして行うことができる。また、橋梁落下防止具50の製作、作用についても、第1実施形態と同様である。このとき、適宜、取付板42等の向きを調整して、取り付けることができる。
【0039】
なお、本実施形態では、PC鋼線80の中間部82のみをコイルスプリング状としたが、図8(A)に示すように、第1端部84、第2端部86についても、コイルスプリング状としてもよい。このように、第1端部84、第2端部86をコイルスプリング状とすることにより、PC鋼線80の通常時における伸張部分をコンパクトにすることができる。
【0040】
また、本実施形態では、PC鋼線60の中間部62をコイルスプリング状としたが、図7(B)に示すように、単に弾性体72の中で波状に湾曲した形状の中間部82Aとしてもよい。
【0041】
[第3実施形態]
【0042】
次に、第3実施形態について説明する。本実施形態では第1、第2実施形態と同様の部分についての説明は、省略する。
【0043】
図9に示すように、本実施形態の橋梁落下防止具50は、側面視にて所定の振幅をもった波状に湾曲した弾性体52を備えている。弾性体52は、断面が円形状とされ、波状の一端側と他端側が、各々一端部54と他端部56とされている。なお、弾性体52の断面は、必ずしも円形状である必要はなく、四〜八角形などの多角形や、楕円形状であってもよい。弾性体52は、天然ゴム、合成ゴム、繊維入りゴムなどのゴム材などの弾性を有する材料で構成することができる。
【0044】
弾性体52の内部には、PC鋼線60の中間部62が埋設されている。PC鋼線60は、PC鋼より線(PCケーブル)などにより構成することができる。PC鋼線60の中間部62は、コイルスプリング状とされている。PC鋼線60は、第1端部64が弾性体52の一端部54から外側に露出され、第2端部66が弾性体52の他端部56から外側に露出されている。PC鋼線60は、第1端部64、中間部62、第2端部66が連続したPC鋼線60で構成されている。
【0045】
橋梁落下防止具50の製作、取り付けは、第1実施形態と同様にして行うことができる。また、橋梁落下防止具50の作用についても、第1実施形態と同様である。
【0046】
なお、本実施形態では、PC鋼線60の中間部62のみをコイルスプリング状としたが、図10(A)に示すように、第1端部64、第2端部66についても、コイルスプリング状としてもよい。このように、第1端部64、第2端部66をコイルスプリング状とすることにより、PC鋼線60の通常時における伸張部分をコンパクトにすることができる。
【0047】
また、本実施形態では、PC鋼線60の中間部62をコイルスプリング状としたが、図10(B)に示すように、単に弾性体52の波状に沿った形状の中間部62Aとしてもよい。
【符号の説明】
【0048】
10 橋梁落下防止具
12 弾性体
14 一端部
16 他端部
20 PC鋼線
22 中間部
24 第1端部
26 第2端部
50 橋梁落下防止具
52 弾性体
54 一端部
56 他端部
60 PC鋼線
62 中間部
64 第1端部
66 第2端部
70 橋梁落下防止具
72 弾性体
74 一端部
76 他端部
80 PC鋼線
82 中間部
84 第1端部
86 第2端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端部と他端部とを有する弾性体と、
第1端側が第1橋梁構造物に固定され第2端側が前記第1橋梁構造物と異なる第2橋梁構造物に固定されると共に、前記第1端側が前記弾性体の前記一端部側に配置され前記第2端側が前記弾性体の前記他端部側に配置され中間部が湾曲した状態で前記弾性体に埋設されたPC鋼材と、
を備えた橋梁落下防止具。
【請求項2】
前記PC鋼材は、少なくとも中間部においてコイルスプリング状とされていること、を特徴とする請求項1に記載の橋梁落下防止具。
【請求項3】
前記弾性体は、前記一端部から前記他端部にかけて湾曲部を有していること、を特徴とする請求項1または請求項2に記載の橋梁落下防止具。
【請求項4】
前記弾性体は、前記一端部から前記他端部にかけてのU字状とされていること、を特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の橋梁落下防止具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−242355(P2010−242355A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91375(P2009−91375)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】