説明

橋脚耐震補強に関する中間拘束筋の補強構造及び補強方法

【課題】既設躯体の側面形状に合わせて中間拘束筋を容易に配筋できるようにする。
【解決手段】橋脚1の補強構造は、既設躯体120を水平方向に貫通する削孔12Aに挿通された中間拘束筋5で、既設躯体120の水平方向に配筋された帯鉄筋4を拘束し、中間拘束筋5及び帯鉄筋4並びに既設躯体120の外側面にポリマーセメントモルタル6を巻立てて構築されている。中間拘束筋5は、削孔12Aに挿通されて既設躯体120を貫通した上下一組の鉄筋51,52の両端部を鉛直方向に屈曲させ、屈曲した鉛直部分で両鉄筋51,52の端部(辺部51a,51b,52a,52b)同士を接続することで形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、躯体に配筋された帯鉄筋を躯体を貫通する中間拘束筋で拘束し、躯体の外側面にモルタルを巻立てる躯体の補強構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1に記載の補強方法では、棒鋼で構成されたL字状の一組の鉄筋を躯体の側面に上下に並んで開口した貫通孔に挿通させた後、鉄筋同士を溶接で接続することで、両貫通孔を通って四角環状を呈した中間拘束筋を形成しており、この中間拘束筋で帯鉄筋及び鉛直筋を既設躯体とで挟み込むように既設躯体に配筋してから、躯体の外側面にモルタルを巻立ている。
【0003】
この方法では、既設躯体が外側面にテーパーの付いていない橋脚である場合には、組となる一対のL字状の鉄筋のうちの一方の一辺部を一側面側から上側の貫通孔に、他方の一辺部を他側面側から下側の貫通孔にそれぞれ挿通させ、一辺部と同方向に屈曲した他辺部の先端を、上側又は下側の貫通孔に挿通された組となる鉄筋の一辺部の先端に、貫通孔内で溶接接続して、中間拘束筋を形成している。
【0004】
既設躯体が外側面にテーパーの付いている橋脚である場合には、組となる一対のL字状の鉄筋のうちの一方の一辺部を一側面側から上側の貫通孔に、他方の一辺部を他側面側から下側の貫通孔にそれぞれ挿通させた後、別途用意した直線状の鉄筋の屈曲した一端を、各鉄筋の一辺部の先端に貫通孔内で溶接接続する。続いて、L字状の鉄筋の他辺部の外側面に、相手側の鉄筋に接続された直線状の鉄筋の外側面を溶接接続し、直線状の鉄筋を介してL字状の鉄筋同士を接続して、中間拘束筋を形成している。
【0005】
【特許文献1】特開2008−215056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の補強方法では、テーパーの有無やテーパーの角度等の既設躯体の側面形状に応じて形状の異なる鉄筋を用意し、鉄筋同士の接続方法も変える必要があった。また、鉄筋の先端同士を貫通孔内で溶接接続するために、貫通孔の一端に拡径部を設ける必要があった。このため、中間拘束筋の配筋作業に手間がかかった。
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上記課題を解決することができる補強構造及び補強方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的を達成するために、本発明の補強構造は、躯体の水平方向に配筋された帯鉄筋と、前記躯体を水平方向に貫通して前記帯鉄筋を前記躯体に拘束する中間拘束筋と、前記該中間拘束筋及び前記帯鉄筋並びに前記躯体の外側面に巻立てられたモルタルとで前記躯体を補強する補強構造であって、前記中間拘束筋は、前記躯体を貫通した上下一組の鉄筋の両端部が鉛直方向に屈曲され、鉛直部分において前記両端部が接続されて構成されており、前記モルタルはポリマーセメントモルタルであることを特徴とする。
また、本発明は、前記両端部が、フレアー溶接により接続されていることを特徴とする。
また、本発明は、ポリマーセメントモルタルが、前記中間拘束筋の外側に前記中間拘束筋の外径と同じ厚さのかぶり量をもたせて、前記躯体に巻き立てられていることを特徴とする。
また、本発明は、前記躯体が、橋脚であることを特徴とする。
また、本発明の補強方法は、躯体の補強方法であって、前記躯体の水平方向に帯鉄筋を配筋する工程と、前記躯体に水平方向に貫通する貫通孔を削孔する工程と、前記貫通孔に中間拘束筋を挿入し、両端部を屈曲する工程と、上下方向において隣接する該両端部同士を鉛直部分において接続する工程と、前記中間拘束筋及び前記帯鉄筋並びに前記躯体の外側面にポリマーセメントモルタルを打設する工程とを備え、前記両端部同士を水平部分では接続しないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、躯体を貫通した一組の鉄筋を躯体の外側面に沿わせて鉛直方向に屈曲させ、屈曲した鉛直部分同士を接続して中間拘束筋を形成することから、躯体の側面形状に合わせて中間拘束筋を容易に配筋することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態の補強構造を備えた橋脚を示す正面図である。
【図2】図1の橋脚を示す側面図である。
【図3】図1の橋脚のA−A矢視断面図である。
【図4】図1の橋脚を後方から見た部分断面図である。
【図5】図4を部分的に拡大して示す断面図である。
【図6】図4に示す中間拘束筋の配筋方法の一例を示す第1の図である。
【図7】図4に示す中間拘束筋の配筋方法の一例を示す第2の図である。
【図8】図4に示す中間拘束筋の配筋方法の一例を示す第3の図である。
【図9】図4に示す中間拘束筋の配筋方法の一例を示す第4の図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の最良の形態について説明する。
図1は、本実施形態の橋脚1を示す正面図である。図2は、橋脚1を示す側面図である。図3は、橋脚1のA−A矢視断面図である。
【0012】
図1〜図3に示す橋脚1は、杭14で地盤に定着されたフーチング11と、フーチング11から上方に延びて上端に支承部13が設けられた脚部12とを備え、脚部12の上面で橋桁を支承する。脚部12は、上下方向の中央部から上端部にかけての外側面に増厚補強部21が、下部の外側面に定着部保護部22がそれぞれ既設脚部120(図3参照)に巻立てられて補強されている。
【0013】
定着部保護部22で覆われた既設脚部120の下部には、複数の削孔12Aが形成されている。削孔12Aは、既設脚部120の両側面間を水平方向に貫通している。既設脚部120の両側面には、所定間隔を置いて上下に並んで組となる一対の削孔12Aが、上下及び前後方向に沿って複数組開口している。図1〜図3に示す例では、上下方向に並んだ3組の削孔12Aと、上下方向に並んだ2組の削孔12Aとが、既設脚部120の両側面に前後方向に交互に並んで開口しており、2組の各削孔12Aの組が3組の各削孔12Aの組の間に配置されている。
【0014】
図4に示すように、増厚補強部21及び定着部保護部22の形成された脚部12の上端から下端にかけての外側面には、既設脚部120の外側面に沿って上下方向に延びた軸方向鉄筋3と、既設脚部120の外側面に沿って既設脚部120の周方向に延びた帯鉄筋4とが配筋されている。また、上下に並んで組となる一対の各削孔12Aには中間拘束筋5が挿通されている。
【0015】
増厚補強部21では軸方向鉄筋3及び帯鉄筋4が、定着部保護部22では軸方向鉄筋3、帯鉄筋4、及び中間拘束筋5が、それぞれ既設脚部120に巻立てられたモルタル6に埋設されて脚部12と一体化している。定着部保護部22でのポリマーセメントモルタル6の巻立て厚は、軸方向鉄筋3,帯鉄筋4,及び中間拘束筋5の公称径(外径)に、中間拘束筋5の公称径(外径)と等しい厚さのかぶり量を合計した厚さとなる。つまり、ポリマーセメントモルタル6は、中間拘束筋5の外側に中間拘束筋5の外径と同じ厚さのかぶり量をもたせて、既設脚部120に巻き立てられている。
【0016】
軸方向鉄筋3は、既設脚部120の上端から下端にかけて直線状に延びており、隣り合う軸方向鉄筋3との間に間隔を置いて、既設脚部120の周方向に沿って複数設けられている。帯鉄筋4は、既設脚部120の外側面に沿って水平方向延びた環状を呈しており、隣り合う帯鉄筋4との間に間隔を置いて、既設脚部120の上下方向に沿って複数設けられている。また、中間拘束筋5は、組となる一対の削孔12Aを通して既設脚部120を水平方向に貫通し、既設脚部120の両側面に沿って両削孔12A間を延びた四角環状を呈している。
【0017】
各軸方向鉄筋3は、図4に示すようにアンカー定着部30でフーチング11に定着され、図5に示すように固定部材31で既設脚部120の外側面に固定されている。固定部材31は、軸方向鉄筋3を収容する固定バンド31Aと、固定バンド31Aを既設脚部120に定着させるアンカーボルト31Bとを備えており、既設脚部120の側面に形成された削孔にグラウト等の固化材を充填することで、若しくは、くさびの打込みによる拡底固定方法で定着されている。各帯鉄筋4は、軸方向鉄筋3の外側で鉄筋同士をフレアー溶接で連結して環状に組み立てられており、軸方向鉄筋3と交差する箇所では軸方向鉄筋3と結束線で固定されている。
【0018】
また、中間拘束筋5は、既設脚部120の側面とで軸方向鉄筋3及び帯鉄筋4を挟み込むようにして、既設脚部120の両側面に沿って上下方向に延びている。図4に示すように、各中間拘束筋5は、既設脚部120の外側面に上下方向に並んで隣り合った3本の帯鉄筋4を脚部12に拘束しており、これにより軸方向鉄筋3及び帯鉄筋4が面外方向に膨らむのが防止されている。
【0019】
次に、橋脚1を補強する増厚補強部21及び定着部保護部22の構築方法の一例を、図6〜図9を参照して説明する。この例では、軸方向鉄筋3及び帯鉄筋4を既設脚部120に配筋し、既設脚部120を水平方向に貫通する削孔12Aを削孔してから、既設脚部120への中間拘束筋5の定着が行われる。
【0020】
中間拘束筋5の定着作業では、まず、図6に示すように、予めL字状に屈曲させておいた鉄筋51の一辺部51aを、一側側から削孔12A(削孔12A1)内に挿入する。次に、図7に示すように、既設脚部120の一側側に位置した鉄筋51の他辺部51bを、削孔12A1の下側で隣り合った削孔12A(削孔12A2)側に向けた状態で、削孔12A1の他側側の開口部から突出した一辺部51aを、削孔12A2側に折り曲げる。これにより、削孔12A1に挿通された鉄筋51が、一辺部51aの先端部及び鉄筋51bを削孔12A2側に向けて、コの字状を呈した状態となる。
【0021】
続いて、図8に示すように、予めL字状に屈曲させておいた中間拘束筋52の一辺部52aを一側側から削孔12A2内に挿入し、他辺部52bを削孔12A1側に向けた状態で、図9に示すように、削孔12A2の他側側の開口部から突出した一辺部52aを削孔12A1側に折り曲げる。これにより、削孔12A2に挿通された鉄筋52が、一辺部52aの先端部及び鉄筋52bを削孔12A1側に向けてコの字状を呈した状態となり、削孔12A1に挿通された鉄筋51とで四角環状を呈した状態となる。
【0022】
続いて、削孔12A1から既設脚部120の一側面に沿って下方に延びた鉄筋51の他辺部51bと、削孔12A2から既設脚部120の一側面に沿って上方に延びた鉄筋52の他辺部52bとをフレアー溶接等の溶接により外周面で接続し、削孔12A1から既設脚部120の他側面に沿って下方に延びた鉄筋51の一辺部51aと、削孔12A2から既設脚部120の他側面に沿って上方に延びた鉄筋52の一辺部52aとをフレアー溶接等の溶接により外周面で接続する。このようにして、中間拘束筋5を既設脚部120に配筋した後、ポリマーセメントモルタル6を打設することで、増厚補強部21及び定着部保護部22が構築される。
【0023】
本実施形態によれば、削孔12Aに挿通させた鉄筋51,52の端部(辺部51a,51b,52a,52b)を既設脚部120の側面に沿わせて鉛直方向に屈曲させ、屈曲した鉛直部分(辺部51a,51b,52a,52b)同士を接続することで中間拘束筋5が形成されているので、テーパーの有無やテーパーの角度等の既設躯体120の側面形状に応じて鉄筋51,52を屈曲させることで、既設躯体120の側面形状に合わせて中間拘束筋5を形成することができる。また、既設躯体120の側面に沿って延びた鉄筋51,52の辺部51a,51b,52a,52b同士を接続することから、鉄筋51,52同士の接続作業を容易に行うことができる。このため、中間拘束筋5の配筋作業を容易に行うことが可能となる。
【0024】
上記実施形態では、中間拘束筋5を構成する鉄筋51,52を予めL字状に屈曲させておいた場合について説明したが、削孔12A内に挿入した後に鉄筋51,52をL字状に屈曲させて辺部51b,52bを形成してもよい。また、上記実施形態では、鉄筋51,52の何れも脚部12の一側側から削孔12A内に挿入した場合について説明したが、鉄筋51,52を削孔12A内に挿入する方向は任意である。
【0025】
上記実施形態では、各中間拘束筋5で3本の帯鉄筋4を拘束した場合について説明したが、各中間拘束筋5が拘束する帯鉄筋4の本数は任意であり、2本以下でも4本以上でもよい。また、上記実施形態では、各帯鉄筋4を4本又は5本の中間拘束筋5で拘束した場合について説明したが、帯鉄筋4を拘束する中間拘束筋5の本数は任意である。
【0026】
また、上記実施形態では、軸方向鉄筋3及び帯鉄筋4を配筋してから、既設脚部120に削孔12Aを削孔した場合について説明したが、既設脚部120に削孔12Aを削孔してから軸方向鉄筋3及び帯鉄筋4を配筋してもよい。また、鉄筋51,52同士の接続方法はフレアー溶接には限定されず、他の溶接方法や機械的接続方法も用いることが出来る。
【0027】
また、ポリマーセメントモルタルを打設する方法は任意であり、例えば左官作業,吹付工法,型枠充填工法で打設することができる。本発明の補強構造は、水中,陸上の任意の場所に設置された橋脚の耐震補強方法での補強構造に適用することができる。また、各中間拘束筋5で既設脚部120に拘束する帯鉄筋4の本数は任意であり、3本には限定されない。
【符号の説明】
【0028】
1 橋脚
11 フーチング
12 脚部
120 既設脚部
12A 削孔(貫通孔)
13 支承部
14 杭
21 増厚補強部
22 定着部保護部
3 軸方向鉄筋
30 アンカー定着部
31 固定部材
31A 固定バンド
31B アンカーボルト
4 帯鉄筋
5 中間拘束筋
51,52 鉄筋
51a,52a 折曲部(端部,鉛直部分)
51b,52b 折曲部(端部,鉛直部分)
6 ポリマーセメントモルタル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
躯体の水平方向に配筋された帯鉄筋と、前記躯体を水平方向に貫通して前記帯鉄筋を前記躯体に拘束する中間拘束筋と、該中間拘束筋及び前記帯鉄筋並びに前記躯体の外側面に巻立てられたモルタルとで前記躯体を補強する補強構造であって、
前記中間拘束筋は、前記躯体を貫通した上下一組の鉄筋の両端部が鉛直方向に屈曲され、鉛直部分において前記両端部が接続されて構成されており、
前記モルタルはポリマーセメントモルタルであることを特徴とする補強構造。
【請求項2】
前記両端部は、フレアー溶接により接続されていることを特徴とする請求項1に記載の補強構造。
【請求項3】
ポリマーセメントモルタルは、前記中間拘束筋の外側に前記中間拘束筋の外径と同じ厚さのかぶり量をもたせて、前記躯体に巻き立てられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の補強構造。
【請求項4】
前記躯体は、橋脚であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の補強構造。
【請求項5】
躯体の補強方法であって、
前記躯体の水平方向に帯鉄筋を配筋する工程と、
前記躯体に水平方向に貫通する貫通孔を削孔する工程と、
前記貫通孔に中間拘束筋を挿入し、両端部を屈曲する工程と、
上下方向において隣接する該両端部同士を鉛直部分において接続する工程と、
前記中間拘束筋及び前記帯鉄筋並びに前記躯体の外側面にポリマーセメントモルタルを打設する工程と
を備え、前記両端部同士を水平部分では接続しないことを特徴とする補強方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−168970(P2011−168970A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31315(P2010−31315)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(590005092)奈良建設株式会社 (1)
【Fターム(参考)】