説明

機械の点検方法

【課題】分解せずにギヤの摩耗の発生や進行を推定し、分解を伴う精密点検の頻度の最適化を図ることが可能な機械の点検方法を提供する。
【解決手段】グリスが塗布されたギヤ機構を有する機械(巻上機100)の点検方法であって、予め酸化させたグリスを用いてギヤ機構の摩耗を再現した摩耗試験を行い、摩耗粒子が発生し始める段階におけるグリスの酸化度からなる第1管理値を設定し、ギヤ機構の摩耗によって発生する摩耗粒子の大きさについて第2管理値を設定し、機械の分解を伴わない普通点検において、ギヤ機構の近傍からグリスを採取し、採取したグリスの酸化度を測定し、測定した酸化度が第1管理値を超えていた場合には、採取したグリスに含まれる摩耗粒子の大きさを測定し、測定した摩耗粒子の大きさが第2管理値を超えていた場合に、機械の分解を伴う精密点検を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリスが塗布されたギヤ機構を有する機械の点検方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ギヤ機構を有する機械においては、ギヤ同士の歯面が摺動するものであるから、ギヤ機構を円滑に稼働させるために、潤滑剤が塗布される。潤滑剤としては、機械の回転速度が速い場合には低粘度の潤滑剤(いわゆるオイル)が用いられ、回転速度が遅い場合には高粘度の潤滑剤(いわゆるグリス)が用いられる。またギヤの材質、荷重、使用環境(温度など)に応じて、様々な種類の潤滑剤が用いられる。
【0003】
しかし潤滑剤を塗布したギヤ機構であっても、互いに擦れるものであるから、摩耗が生じる。特に大きな力がかかるギヤ機構では、摩耗も大きい。ギヤ歯が摩耗すると歯飛びを生じ、動作不良に陥るおそれもあるため、定期的な点検を行う必要がある。
【0004】
例えば、ギヤ機構を有する機械として、水力発電所の水門扉の巻上機を例に用いて説明する。巻上機にはスピンドル式やラック式、ワイヤー式などがあるが、いずれもモータの駆動力を減速機(ギヤ機構)によってトルク上昇させて、水門扉を上下動させる装置である。巻上機は一例として、機械の分解を伴わない普通点検を一年に一度行い、機械の分解を伴う精密点検を三年に一度行う。普通点検では外観検査や動作確認、電装基板のチェックを行う程度であるが、精密点検ではギヤ機構を分解清掃し、グリスの入れ替えを行っている。精密点検においてはギヤ歯の摩耗度も点検し、摩耗が激しい場合にはギヤの交換を行う。
【0005】
ギヤ歯の摩耗度は、ギヤ歯の形状や、グリス中の摩耗粒子の濃度によって測定することができる。ギヤ歯の形状とは、ある程度大型のギヤ歯が対象となるが、刃先の幅を直接的にノギスなどによって測定するものである。グリス中の摩耗粒子の濃度は、例えばプラズマ発光分析などによってグリス中の金属元素の濃度を分析することができる。
【0006】
またグリスも、経時によって劣化することが知られている。グリスの劣化は様々な形態があるが、主に酸化が原因となって、粘度の低下や増加、高分子の破壊が生じる。また摩耗粒子や塵埃の混入、水の混入などによっても、適正な潤滑能力を失う。グリスが潤滑能力を失えば、ギヤ歯の摩耗が進行することも当然である。
【0007】
特許文献1には、赤外線吸収スペクトル法によるタービン油の劣化度(酸化度)の評価法が記載されている。具体的には、タービン油に赤外線を照射して、タービン油の波数720cm−1付近での比較吸収ピークの吸光度における新油からの変化率を求め、変化率に基づいて酸化物吸収ピーク(波数1710cm−1)の吸光度を補正し、補正された酸化物吸収ピークの吸光度からタービン油の劣化度を評価するものである。特許文献1によれば、劣化の影響を受けない比較吸収ピークの値を用いて膜厚等の測定条件の違いを補正することにより、酸化物吸収ピークの吸光度を良好な測定精度で測定でき、タービン油の劣化度を正確に評価することができるとしている。
【0008】
また特許文献2には、熱媒体油の近赤外スペクトルと、熱媒体油の管理指標値との間の相関を利用して、未知の熱媒体油の物性、性能を推定する方法が記載されている。具体的には、複数の性状、性能既知の熱媒体油の近赤外スペクトルを測定し、多変量解析(管理値の例として分解生成物量、重合生成物量)して性状、性能と近赤外スペクトルとの相関をとり、次いで、未知熱媒体油の近赤外スペクトルを測定し、この測定結果から未知熱媒体油の性能、寿命等を推定する。特許文献2によれば、この推定に基づいて未知の熱媒体油の劣化度を評価し、その交換時期、並びに新油の補充時期等について、短時間のうちに的確な判断を行えるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−28793号公報
【特許文献2】特開2000−105231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、ギヤ機構を有する機械を健全に動作継続させるためには、点検が不可欠である。しかし、ギヤ機構の分解作業は、大型のギヤが重量物であることや、機構が複雑であることから、ギヤ等の分解と組立、清掃に日数を取られること、組み立て後の動作確認に手間を要することなどから、点検保守費用が膨大になりやすい。数が多くなればなおさらであって、1台については3年に1度の精密点検であっても、事業者側にとっては常時何台もの機械の精密点検を行っている状態となってしまう。
【0011】
一方、精密点検を行うときに何らの支障も生じていない場合も多く(そのような頻度に定めてあるのであるが)、精密点検の頻度には見直す余地があると考えられる。ところが単に精密点検の頻度を減らすと、やはり時々は支障を生じる個体もある。また、巻上機の例でも、設置箇所によって稼働頻度に差があり、より早く消耗するものと、ほとんど消耗しないものがあり、どのくらいが最適な頻度であるかはいかにも図りがたい。
【0012】
そこで、分解せずにギヤの摩耗の発生や進行、すなわち摩耗度を推定する要望が生じる。しかしこれは簡単そうに思えて容易ではない。ノギスによってギヤ歯の形状を測定するためにはグリスを拭き取らなくてはならず、また内歯は歯面にノギスが当てられないため、分解しなければ測定が難しいからである。またグリス中の摩耗粒子の濃度を測定しようとしても、グリスの粘度が高く摩耗粒子が拡散しないため、場所によって摩耗粒子の濃度が著しく偏っており、点検口から手の届く範囲でグリスを採取しただけでは適切に濃度が測定できる保証が全くない。
【0013】
なお、上記の特許文献1は、潤滑剤の赤外線吸収スペクトル法による劣化評価が記載されている。しかし、あくまで潤滑剤の劣化であって、潤滑剤の劣化とギヤの摩耗の発生や進行との関係については記載されていない。
【0014】
また、上記の特許文献2では、熱媒体油の近赤外スペクトルが、熱媒体油の分解生成物量や重合生成物量などの管理値との相関を有していることが記載されている。しかし、あくまで熱媒体油自体の管理値(状態パラメータ)であって、やはりギヤの摩耗の発生や進行との関係については記載するところがない。
【0015】
そこで本発明は、分解せずにギヤの摩耗の発生や進行を推定し、分解を伴う精密点検の頻度の最適化を図ることが可能な機械の点検方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために発明者らが鋭意研究したところ、摩耗粒子には種類があり、腐食摩耗粒子と凝着摩耗粒子、および異物混入によって突発的に発生する切削摩耗粒子に大別でき、それぞれ顕微鏡観察することによって識別できることに着目した。そして、上記の摩耗粒子のうち腐食摩耗粒子はグリスの酸化に伴って発生すること、および凝着摩耗粒子は摩耗度の進行に伴って大きくなることを突き止めた。これらのことから、摩耗粒子の濃度に代えて大きさによって摩耗度を推定できることに想到し、さらに検討をかさねて本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち本発明の代表的な構成は、グリスが塗布されたギヤ機構を有する機械の点検方法であって、予め酸化させたグリスを用いてギヤ機構の摩耗を再現した摩耗試験を行い、摩耗粒子が発生し始める段階におけるグリスの酸化度からなる第1管理値を設定し、ギヤ機構の摩耗によって発生する摩耗粒子の大きさについて第2管理値を設定し、機械の分解を伴わない普通点検において、ギヤ機構の近傍からグリスを採取し、採取したグリスの酸化度を測定し、測定した酸化度が第1管理値を超えていた場合には、採取したグリスに含まれる摩耗粒子の大きさを測定し、測定した摩耗粒子の大きさが第2管理値を超えていた場合に、機械の分解を伴う精密点検を行うことを特徴とする。
【0018】
上記構成によれば、まずグリスの酸化度によって腐食摩耗または凝着摩耗の蓋然性を判断し、蓋然性が高い場合(酸化度が第1管理値を超えた場合)にはじめて摩耗粒子の大きさを測定して摩耗度を確認してから、必要に応じて精密点検を行う。このように、簡易に測定できる酸化度によって1次的に判断すること、および摩耗粒子の大きさは採取箇所に依存しにくいことなどから、簡易かつ正確に精密点検の必要性を判断できる。したがって、分解せずにギヤの摩耗の発生や進行を推定し、分解を伴う精密点検の頻度の最適化を図ることができる。
【0019】
摩耗粒子の大きさの測定により、摩耗粒子が測定されたか否かに応じて第1管理値を較正してもよい。これにより、グリスの種類や、機械の稼働頻度の違いにもよらず、最適な第1管理値を得ることができる。
【0020】
点検の対象となる多数の機械を稼働頻度に応じてグループ分けし、グループ毎に第1管理値の較正を行ってもよい。グリスの酸化度が同じであっても稼働頻度が異なれば摩耗度も異なってくることから、本質的には個別に較正を図ることが望ましい。しかし普通点検が1年に1度などの頻度とすると、較正するだけのサンプルデータを収集するために相当の年月を要してしまい、事実上較正ができなくなってしまう。そこで稼働頻度毎にグループ分けすることにより、迅速に、かつ適正に較正を行うことが可能となる。
【0021】
点検の対象となる多数の機械を稼働頻度に応じてグループ分けし、グループ毎に稼働頻度の条件を反映した摩耗試験を行い、第1管理値の設定を行ってもよい。稼働頻度を考慮した摩耗試験を行いグループ毎に第1管理値を設定できれば、最初からより最適な第1管理値を得ることができる。
【0022】
摩耗粒子の大きさの測定は、採取したグリスの酸化度が第1管理値を超えていた場合に加えて、定期的に行ってもよい。定期的に摩耗粒子の大きさを測定することで、グリスの酸化度とは関係しない切削摩耗についても検知することができる。
【0023】
グリスの酸化度は赤外線吸収スペクトルによって測定してもよい。なお、赤外線スペクトルによって測定されたグリスの劣化度(酸化度)をIR酸化度と呼ぶこともある。これにより機械の設置されている現場において簡易に酸化度を測定することが可能となる。
【0024】
摩耗粒子の大きさは、グリス中に含まれる摩耗粒子をフェログラフィ分析装置によって測定してもよい。これにより、摩耗粒子の大きさを簡易かつ正確に測定することが可能となる。
【0025】
機械は、水門扉の巻上機であってもよい。水門扉は長年に亘って使用され、台数も多く、かつ重量物である水門扉を稼働させるためにギヤに大きな荷重がかかるものであるから、本発明を適用して精密点検の頻度を最適化することにより、その利益を十分に享受することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、分解せずにギヤの摩耗の発生や進行を推定し、分解を伴う精密点検の頻度の最適化を図ることが可能となり、ギヤ機構を有する機械の点検における負担を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】水力発電所等に用いられる水門扉の巻上機を説明する図である。
【図2】巻上機の故障要因を示すチャートである。
【図3】摩耗粒子を説明する図である。
【図4】グリスの劣化と摩耗の関係を調べる試験を説明する図である。
【図5】IR酸化度を測定するIR試験器を説明する図である。
【図6】摩耗粒子の大きさを測定可能なフェログラフィ分析装置を説明する図である。
【図7】巻上機においてグリスを採取する方法を説明する図である。
【図8】本実施形態にかかる機械の点検方法を示すフローチャートである。
【図9】第1管理値の較正について説明する図である。
【図10】第3管理値を用いた場合の点検方法を示すフローチャートである。
【図11】定期的に摩耗粒子の大きさを測定する例であって、あわせて精密点検も定期的に行う場合の点検方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0029】
本実施形態においては、本発明にかかる点検方法の対象たる機械として、水門扉の巻上機を例に用いて説明する。水門扉は長年に亘って使用され、台数も多く、かつ重量物である水門扉を稼働させるためにギヤに大きな荷重がかかるものである。このため、本発明を適用して精密点検の頻度を最適化することにより、その利益を十分に享受することができる。ただし、グリスが塗布されたギヤ機構を有する機械であれば、いずれも本発明にかかる機械の点検方法を適用することができる。
【0030】
図1は水力発電所等に用いられる水門扉の巻上機を説明する図である。図1(a)に示す巻上機100は、水門扉150を上下させることにより、流れる水量を調節する装置である。図1(a)に示すように河川等の水源160から水路170に流れる水量を調整する門を制水門といい、図示はしないが、水力発電所の水路等から砂を排出するための門を排砂門という。
【0031】
図1(b)はスピンドル式の巻上機100の例である。電装基板110によって制御される電動モータ112の駆動力は、減速機114によってトルクを上昇させた上でウオームギヤ116に伝達される。この駆動力がウオームギヤ116と雌ネジ118によって回転方向を90度変換されることにより、スピンドル120が上下方向に移動する。水門扉150は重量物であることから減速機114のギヤ比は大きくとられ、水門扉150の上下動の速度は0.3(m/min)程度が平均的である。なお、ウオームギヤ116には、手動にて水門扉150を上下させるための手動ハンドル122も接続されている。
【0032】
スピンドル120と雌ネジ118の間には、減速機114を構成する各ギヤ間よりも大きなトルク(接触応力)が作用する。したがってこれらの間ではグリスの油膜切れが生じやすく、摩耗が発生しやすい。スピンドル120は長尺かつ大径のネジであって、製造費が高価である。このため、スピンドル120と組み合わされる雌ネジ118はスピンドル120よりもやわらかい材質によって形成されており、専ら雌ネジ118が摩耗するように構成されている。具体的には、スピンドル120はSS(構造用鋼)、SC(機械構造用炭素鋼)、SUS(ステンレス鋼)などの鋼材によって形成され、雌ネジ118はそれよりもやわらかい高力黄銅鋳物などの黄銅(真鍮)によって形成されている。
【0033】
図2は巻上機100の故障要因を示すチャートである。図2(a)に示すように、電装基板110等の故障による電気的要因が38%、機械的要因が62%である。このうち電気的要因については、ケースを開けば電装基板110をチェックすることができ、またどこかに不具合があれば明らかに動作不良となるため、点検整備は比較的容易である。従って電気的要因についての点検は、格別の負担とはならない。
【0034】
しかし機械的要因については、内部のギヤ等が複雑に噛合しているため視認性が著しく悪いこと、外観からは緩みや損傷などが極めてわかりにくいこと、および不具合が生じ始めていても必ずしも動作不良とならないことから、故障がわかりにくく、分解点検が基本となっている。ところが分解整備は、大型の機械であるため各部品が重く、また複雑な機構であるため、分解はもちろん組立にも手間と時間を要する。従って機械的要因についての点検(分解を伴う点検)は、作業者にとって負担が大きいものとなっている。
【0035】
ここで、機械的要因の中でも、故障しやすい箇所とそうでない箇所がある。図2(b)に示すように、各種の故障要因があるところ、雌ネジ118の損傷(摩耗)とグリスの劣化が支配的である。これは、やはり巻上機100においてはスピンドル120と雌ネジ118の間に最も大きなトルクがかかるためであるが、他の機械であってもグリスが塗布されたギヤ機構を有するような機械であれば、同様に力が集中して故障しやすい箇所があるものと考えられる。
【0036】
図2(c)は機械の動作頻度と摩耗量の関係を示す図である。上記の機械的要因のうち、グリスの劣化は主として経時的変化であるが(同種の機械のケーシングの密閉度が同程度であるとした場合)、雌ネジ118の損傷(摩耗)については各機械の動作頻度によって大幅に異なる。すなわち、油膜切れを生じた機械であっても、動作させなければ摩耗しない。ここで図2(c)を参照すると、動作頻度が少ない場合には摩耗が少ないが、動作頻度が多い場合には摩耗が多いものと少ないものの間のバラツキが多いことがわかる。換言すれば、動作頻度が多いからといって、必ずしも摩耗が多いともいえないことがわかる。
【0037】
そこでSEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)を用いて摩耗粒子を観察すると、摩耗粒子には種類があり、腐食摩耗粒子と凝着摩耗粒子、および異物混入によって突発的に発生する切削摩耗粒子に大別できる。そして、顕微鏡観察することによって、それぞれ識別することができる。
【0038】
図3は摩耗粒子を説明する図である。図3(a)は腐食摩耗粒子のSEM写真であって、有機酸によって金属表面が腐食されることによって生じるものである。図3(b)は凝着摩耗粒子のSEM写真であって、油膜切れによって金属同士がこすれ合って生じるものである。図3(c)は切削摩耗粒子のSEM写真であって、混入した砂などの異物によって切削されて生じるものである。
【0039】
上記の摩耗粒子のうち、腐食摩耗粒子は不定型な形状をなしていて、あまり大きくはならない。凝着摩耗粒子は、薄くて、組織が比較的整った表面性状を有し、あたかもスライスして剥ぎ取ったような外観をしている。切削摩耗粒子は細く鋭利な形状をしており、線状(棒状)の形状をしている。このように、摩耗粒子がいずれの種類であるのかは、形状を見れば概ね判別することが可能である。なお、SEMに代えてTEM(Transmission Electron Microscope:透過型電子顕微鏡)や光学顕微鏡を用いても、同様に摩耗粒子の形状を観察することができる。
【0040】
そこで、潤滑剤の劣化度(酸化度)と、腐食摩耗粒子の発生との関係を調べた。図4はグリスの劣化と摩耗の関係を調べる試験を説明する図である。
【0041】
図4(a)は試験器200の構成を説明する図である。試験器200は2つの試験片を摺り合わせる装置であって、駆動軸202の先端に上部試験片204を固定し、ステージ206の上に下部試験片208を固定して、上部試験片204を梃子210と重錘212によって下部試験片208に加圧する。そして駆動軸202を回転させることにより上部試験片204を下部試験片208に対してスラスト方向に回転させる。ステージ206は回転可能に構成されており、ステージ206から突出するように設けられたアーム214はトルク検知器216に押し当てられており、摩擦係数を算出することが可能となっている。また室温および下部試験片208の温度については、熱電対218を用いて測定を行った。
【0042】
上部試験片204には、スピンドル120と同じステンレス鋼(SUS304)を用いた。下部試験片208には、雌ネジ118と同じ高力黄銅を用いた。試験条件として、面圧を3.36N/mm、回転数を68rpm、試験時間を90秒とした。そして上部試験片204と下部試験片208の摺擦面にはグリスを供給しながら試験を行った。ここでグリスは加速劣化処理によって酸化度を変化させ、酸化度に応じた摩耗粒子の発生について測定を行った。酸化度については、赤外線を照射し、吸収スペクトルから酸成分を同定するIR酸化度(abs/cm)を測定した。
【0043】
グリスは、新品、劣化初期、劣化中期I、劣化中期II、劣化終期の5種類を用意した。「劣化終期」のグリスは、約16年経過後相当まで加速劣化させたものである。劣化初期、劣化中期I、劣化中期IIのグリスは、新品のグリスと劣化終期のグリスをそれぞれ、75:25、50:50、25:75の比で混合したものである(それぞれ、約4年、約8年、約12年経過後相当のグリスと考えられる)。
【0044】
図4(b)はグリスの劣化度と腐食摩耗の有無との関係を表す図である。銘柄Aについては劣化中期Iのグリスで腐食摩耗粒子が発生し、銘柄Bについては劣化終期のグリスで腐食摩耗粒子が発生した。
【0045】
この結果から、腐食摩耗粒子は劣化(酸化度)が進行したある段階から発生し始めることがわかった。摩耗は油膜切れが原因で生じ、油膜切れはグリスの劣化(酸化)によって生じやすくなるのであるから、結果的にIR酸化度を摩耗度の1つの管理値として利用することができる。例えば、管理値は図4(b)において腐食摩耗が発生し始めた段階におけるIR酸化度(銘柄Aでは劣化中期IのIR酸化度)を用いて設定することができる(このときのIR酸化度をX(abs/cm)とする)。腐食摩耗粒子は凝着摩耗粒子の予兆を表す指標の1つとなり、腐食摩耗粒子が発生した後は摩耗が加速度的に進行することになるため、腐食摩耗粒子が発生するときの酸化度を管理値とすることが適切である。
【0046】
また詳細な観察により、摩耗度の進行に応じて凝着摩耗粒子の数が増大し、また粒子が大きくなる傾向にあることがわかった。ここで摩耗度は、従来はグリス中の摩耗粒子の濃度によって測定していたが、グリスの粘度が高く摩耗粒子の濃度が著しく偏ってしまうため、分解してグリスを採取しなければ適切に濃度を測定することはできなかった。しかし大きさによって判断するのであれば、少しでも摩耗粒子が混入していれば観察することができるため、容易に摩耗度を判断することができる。すなわち、摩耗粒子の濃度に代えて、凝着摩耗粒子の大きさをもって摩耗度の1つの管理値とすることができる。
【0047】
本実施形態においては、腐食摩耗粒子が発生する段階のIR酸化度を第1管理値として1次判断を行い、所定の凝着摩耗粒子の大きさを第2管理値として2次判断を行う。すなわち、原則としてIR酸化度が第1管理値を超えた場合にのみ摩耗粒子の大きさを測定し、摩耗粒子の大きさが第2管理値を超えた場合にのみ精密点検を行う。以下に示す測定装置を用いた場合、IR酸化度の方が簡便に測定することが可能だからである。
【0048】
図5はIR酸化度を測定するIR試験器を説明する図である。図5(a)はIR試験器230の外観図であって、試料塗布部232、遮光板234、表示部236、操作部238を有している。試料塗布部232にグリスを塗布して遮光板234を閉じ、内部から赤外線を照射して吸収ピークを測定することにより、IR酸化度を測定する。詳しくは、波数1710cm−1付近に現れる吸収ピーク(カルボン酸のCO基等に起因する)を測定することにより、IR酸化度(abs/cm)を測ることができる。なお、波数720cm−1付近に現れる吸収ピーク(炭化水素のCH基等に起因する)は油が酸化しても変化しないため、このピークの値を用いて補正することにより、さらに正確な評価をすることができる。このように、赤外線吸収スペクトルを用いたIR試験器230は小型化することが可能であり、可搬性を有するため、巻上機100の設置されている現場において簡易に酸化度を測定することが可能となる。
【0049】
評価(測定結果)は表示部236に表示することができる。表示部236には、第1管理値(IR酸化度)を100%として、評価をパーセント表示する。なお、測定結果であるIR酸化度そのものをあわせて表示させてもよい。第1管理値は、図4に示した試験器200を用いて事前に予備試験を行うことにより設定することができる。また、内蔵された記憶部(不図示)に複数種類のグリスについてそれぞれ第1管理値を記憶させておき、操作部238を用いて切り替えて測定(評価)を行うことができる。
【0050】
図6は摩耗粒子の大きさを測定可能なフェログラフィ分析装置を説明する図である。図6(a)に示すフェログラフィ分析装置240は、グリス内に含まれる摩耗粒子を磁力によって配列させて観察するフェログラフ分析を行う装置である。特に本実施形態にかかるフェログラフィ分析装置240は、磁場内でプレートを回転させ、プレート上のグリス中の摩耗粒子を遠心力と磁力によって円環状に配列して捕捉する回転式のフェログラフィ分析装置であって、短時間で分析を行うことが可能となる。図6(a)に示すフェログラフィ分析装置240は、貯留容器242から摩耗粒子の含まれた試料をプレート244上に供給し、プレート保持回転手段246によって磁場発生手段248(磁石)の上でプレート244を回転させる。摩耗粒子が補足されたプレート244は、不図示の光学顕微鏡で観察することができる。これにより、摩耗粒子の大きさを簡易かつ正確に測定することが可能となる。
【0051】
図6(b)に示すように、摩耗粒子の大きさの評価(判定)は、顕微鏡によって測定した大きさが第2管理値を超えたか否かによってすることができる。摩耗粒子の大きさと摩耗の程度との関係は、大きさが15μm未満のときは若干摩耗、15μm以上40μm未満の間は遷移領域、40μm以上は処置を要する摩耗状態というように分類することができる。本実施形態では摩耗状態のみを判定すればよいため、40μmを第2管理値とする。なお第2管理値の数値は例であって、材質の組み合わせ等に応じて適宜定めるものである。
【0052】
上記のIR酸化度の測定にも、フェログラフィ分析にも、少量のグリスを採取できればよい。また特に、フェログラフィ分析において摩耗粒子の大きさを判定する場合には、摩耗粒子の濃度分布に気を遣うことなく、わずかでも摩耗粒子が混入されていればよいため、結果的にギヤ同士の接触箇所近辺から少量のグリスを採取すればよいことになる。
【0053】
図7は巻上機100においてグリスを採取する方法を説明する図である。巻上機100において摩耗粒子が主に生じると考えられるのは、スピンドル120と雌ネジ118の噛合部と、雌ネジ118とウオームギヤ116の噛合部である。そこで図7(a)はスピンドル120のネジ谷から採取する道具を示し、図7(b)はウオームギヤ116近傍からグリスを採取する道具を示し、図7(c)は巻上機100の点検口を示している。
【0054】
スピンドル120と雌ネジ118の噛合部は、雌ネジ118の内部にスピンドル120が挿通されているから、分解せずにその隙間からグリスを採取することはできない。そこで、スピンドル120の雌ネジ118近傍から採取することになる。そこで図7(a)に示すように、自在に曲げることのできる針金262の先端にビニルチューブ264を取り付け、巻上機100の上部点検口124(雌ネジ118より上)や下部点検口126(雌ネジ118より下)からビニルチューブ264を差し込み、スピンドル120のネジ谷からグリスをこそげとることによって採取する。
【0055】
雌ネジ118とウオームギヤ116との噛合部は、近くにある給脂口128からグリスを採取する。ただしウオームギヤ116が給脂口128よりも下方にあって直線的に作業できないこと、および比較的多量のグリスが充填されていることから、針金ではウオームギヤ116の周辺に到達しにくい。そこで図7(b)に示すように、可撓性のあるチューブ266(シリコンチューブまたはテフロン(登録商標)製のチューブ)の後端に注射器状のシリンダー268を取り付けて、給脂口128からチューブ266の先端を差し込み、シリンダー268で吸い取ることによりグリスを採取する。
【0056】
このように、分解せずに、摩耗粒子が主に生じると考えられる箇所からグリスを採取することができる。換言すれば、分解せずに採取できるグリスによって、十分に有益な検査を行うことができる。
【0057】
次に、本実施形態にかかる機械の点検方法の流れについて説明する。図8は本実施形態にかかる機械の点検方法を示すフローチャートである。
【0058】
まず図4に示した試験器200を用いて予備試験を行い(S102)、腐食摩耗粒子が発生した時点のIR酸化度を求めて、これを第1管理値とする。これは事前の準備であって、1つの巻上機100について原則として1度だけ行う。なお、第2管理値についてはあらかじめ定めておく。
【0059】
次に、所定の時期に(例えば1年に1度)、普通点検を行う(S104)。普通点検とは、動作確認、外観検査、電装基板のチェックなどを含み、分解検査を伴わない点検である。この普通点検において、図6に示したようにギヤ機構の近傍からグリスを採取する(S106)。採取したグリスは、図5に示したIR試験器230によってIR酸化度を測定する。
【0060】
IR試験器230は、測定したIR酸化度と第1管理値とを比較し(S110)、表示部236に評価を表示する(パーセント表示)。第1管理値以上であった場合(評価が100%を超えていた場合)には、図6に示した装置を用いてフェログラフィ分析を行い、採取したグリスに含まれる摩耗粒子(凝着摩耗粒子)の大きさを測定する(S112)。測定した摩耗粒子の大きさが第2管理値を超えたか否かを判定し(S114)、超えていた場合には摩耗が発生している可能性が極めて高いから、この時点で初めて精密点検を行う(S116)。精密点検とは機械の分解を伴う点検であって、ギヤ機構の分解および組立、グリス交換、および必要に応じて部品の交換などを含む。
【0061】
S116の精密点検が終了した場合、S110においてIR酸化度が第1管理値未満である場合、及びS114において摩耗粒子の大きさが第2管理値未満である場合には、巻上機100の設備健全性に対する総合判断を行い、整備(交換)の要否を判定する(S118)。整備(交換)が要と判定された場合には整備(交換)し(S120)、それ以外の場合には次回の普通点検(S102)まで待機となる。
【0062】
上記構成によれば、まずグリスの酸化度によって腐食摩耗または凝着摩耗の蓋然性を判断し、蓋然性が高い場合(酸化度が第1管理値を超えた場合)にはじめて摩耗粒子の大きさを測定して摩耗度を確認してから、必要に応じて精密点検を行う。このように、簡易に測定できる酸化度によって1次的に判断すること、および摩耗粒子の大きさは採取箇所に依存しにくいことなどから、簡易かつ正確に精密点検の必要性を判断できる。したがって、分解せずにギヤの摩耗の発生や進行を推定し、分解を伴う精密点検の頻度の最適化を図ることができる。
【0063】
ここで、上記したように、第1管理値は事前に予備試験において設定される。しかし、巻上機100の密封度や設置箇所の環境などにより、IR酸化度と腐食摩耗の発生時期との関係が、実験室と合わない(または合わなくなる)おそれがある。そこで、フェログラフィ分析における摩耗粒子の大きさの測定により、摩耗粒子(腐食摩耗粒子)が測定されたか否かに応じて第1管理値を較正してもよい。これにより、グリスの種類や、機械の稼働頻度の違いにもよらず、最適な第1管理値を得ることができる。
【0064】
図9は第1管理値の較正について説明する図である。図8のフローチャートで示したフェログラフィ分析における摩耗粒子の大きさの測定(S112)の際に、腐食摩耗粒子が検出されたか否かを判断する(S124)。腐食摩耗粒子が発生していた場合には、現在の第1管理値よりも早期に劣化が進行していることを意味しているから、第1管理値を小さくする方向に較正する(S126)。腐食摩耗粒子が発生していなかった場合には、現在の第1管理値のときにはまだ劣化に余裕があることを意味しているから、第1管理値を大きくする方向に較正する(S128)。
【0065】
なお、普通点検(S104)が1年に1度程度の頻度であるから、前回と今回の測定の間で、IR酸化度が第1管理値付近を大きく通り過ぎてしまう可能性もある。このような場合には、測定したIR酸化度と第1管理値との差分を考慮して較正の幅を調節することができる。また、IR酸化度をどの程度較正すればよいかについては、適度な微小幅とすることができ、較正を繰り返すうちに適切な値に漸近させることができる。
【0066】
また、やはり普通点検(S104)が1年に1度程度の頻度であるから、較正するだけのサンプルデータを収集するために相当の年月を要してしまうおそれがある。かといって、図2(c)を用いて説明したように、グリスの酸化度が同じであっても稼働頻度が異なれば摩耗度も異なってくることから、本質的には個別に較正を図ることが望ましく、むやみに他の巻上機100のデータを用いることもできない。
【0067】
そこで、点検の対象となる多数の巻上機100を稼働頻度に応じてグループ分けし、グループ毎に第1管理値の較正を行ってもよい。稼働頻度はおおむね役割による分類と一致しており、例えば、図2(c)に示すように、取水口制水門等は頻繁に稼働させることから高頻度であり、ダム排砂門等は頻繁に稼働させていないことから、低頻度である。このようにグループ毎に第1管理値の較正を行うことにより、迅速に(早期に)、かつ適正に較正を行うことが可能となる。
【0068】
またさらに、最初の予備試験における第1管理値の設定においても、上記のグループ毎に稼働頻度の条件を反映した摩耗試験を行ってもよい。すなわち、グループの数に対応した回数の(条件の異なる)予備試験を行ってもよい。稼働頻度の条件は、例えば回転数を異ならせたり、間欠的に回転させたり、試験時間を異ならせたりすることにより反映することができる。このように稼働頻度を考慮した摩耗試験を行い、グループ毎に第1管理値を設定できれば、最初からより最適な第1管理値を得ることができる。
【0069】
第2管理値については、精密点検においてギヤ機構の摩耗度を判定し、摩耗度が許容範囲内であるか否かに応じて較正してもよい。これにより、ギヤの材質や、ギヤにかかる荷重の違いなどにもよらず、最適な第2管理値を得ることができ、さらに精密点検の頻度の最適化を図ることができる。
【0070】
また、IR酸化度について、第1管理値より低い値の第3管理値をさらに設定し、第3管理値以上第1管理値未満であった場合には、例えば普通点検の頻度を高くすることができる。第3管理値はそれ自体が物理的な意味合いを持つものではなく、図5(b)に示すように、第1管理値に対する所定の比率(例えば50%)として設定することができる。
【0071】
図10は第3管理値を用いた場合の点検方法を示すフローチャートである。IR試験器230によって測定したIR酸化度と第1管理値とを比較し(S110)、IR酸化度が第1管理値未満であった場合には、IR酸化度が第3管理値以上であるか否かについて判断する(S130)。そして第3管理値以上第1管理値未満であった場合には、次回の普通点検の点検頻度を短く(例えば半年後や、3ヶ月後に)設定する(S132)。
【0072】
短い頻度で行う点検は通常の普通点検よりもさらに簡易なものでよく、例えばグリスのIR酸化度の測定だけでもよい。これにより、グリスの酸化をもらさずに察知することが可能となる。IR酸化度は簡易に測定できるため、点検の頻度を高くしても負担は大きくならない。また逆に、短い頻度の簡易点検で第1管理値に至らなければ、普通点検の頻度を減らすことが可能となる。
【0073】
なお第3管理値は、第1管理値が較正された場合には、これに対する比率として較正しても良い。これにより、第1管理値と同様に最適化を図ることができる。
【0074】
また、上記実施形態においては、IR酸化度が第1管理値を超えた場合にのみ摩耗粒子の大きさを測定するように説明した。しかし、摩耗粒子の大きさの測定は、採取したグリスの酸化度が第1管理値を超えていた場合に加えて、定期的に行ってもよい。
【0075】
図11は定期的に摩耗粒子の大きさを測定する例であって、あわせて精密点検も定期的に行う場合の点検方法を示すフローチャートである。IR試験器230によって測定したIR酸化度と第1管理値とを比較し(S110)、IR酸化度が第1管理値未満であった場合であっても、摩耗粒子の大きさを測定する特定時期であるか否かを判断し(S140)、特定時期であった場合には採取したグリスに含まれる摩耗粒子(凝着摩耗粒子)の大きさを測定する(S112)。特定時期とは、例えば3年に1度のように、普通点検よりも長い期間に設定することができる。このように、定期的に摩耗粒子の大きさを測定することで、グリスの酸化度とは関係しない切削摩耗についても検知することができる。
【0076】
またさらに、摩耗粒子の大きさが第2管理値を超えた場合にのみ精密点検を行うよう説明していたが、測定した摩耗粒子の大きさが第2管理値を超えていなかった場合にも(S114)、精密点検の時期であるか否かを判断し(S142)、定期的に精密点検(S116)を行ってもよい。精密点検の時期は、上記の特定時期と同様に、例えば6年に1度のように、普通点検よりも長い期間に設定することができる。このように、定期的に精密点検を行うことにより、グリスの酸化に依存しない故障をも見逃すことなく点検することができる。
【0077】
上記説明した如く、本実施形態にかかる機械の点検方法によれば、分解せずにギヤの摩耗の発生や進行を推定し、分解を伴う精密点検の頻度の最適化を図ることが可能となり、ギヤ機構を有する機械の点検における負担を軽減することができる。
【0078】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、グリスが塗布されたギヤ機構を有する機械の点検方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0080】
100…巻上機、110…電装基板、112…電動モータ、114…減速機、116…ウオームギヤ、118…雌ネジ、120…スピンドル、122…手動ハンドル、124…上部点検口、126…下部点検口、128…給脂口、150…水門扉、160…水源、170…水路、200…試験器、202…駆動軸、204…上部試験片、206…ステージ、208…下部試験片、210…梃子、212…重錘、214…アーム、216…トルク検知器、218…熱電対、230…IR試験器、232…試料塗布部、234…遮光板、236…表示部、238…操作部、240…フェログラフィ分析装置、242…貯留容器、244…プレート、246…プレート保持回転手段、248…磁場発生手段、262…針金、264…ビニルチューブ、266…チューブ、268…シリンダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリスが塗布されたギヤ機構を有する機械の点検方法であって、
予め酸化させたグリスを用いて前記ギヤ機構の摩耗を再現した摩耗試験を行い、摩耗粒子が発生し始める段階におけるグリスの酸化度からなる第1管理値を設定し、
前記ギヤ機構の摩耗によって発生する摩耗粒子の大きさについて第2管理値を設定し、
前記機械の分解を伴わない普通点検において、
前記ギヤ機構の近傍からグリスを採取し、
採取したグリスの酸化度を測定し、
測定した酸化度が前記第1管理値を超えていた場合には、採取したグリスに含まれる摩耗粒子の大きさを測定し、
測定した摩耗粒子の大きさが前記第2管理値を超えていた場合に、前記機械の分解を伴う精密点検を行うことを特徴とする機械の点検方法。
【請求項2】
前記摩耗粒子の大きさの測定により、摩耗粒子が測定されたか否かに応じて前記第1管理値を較正することを特徴とする請求項1に記載の機械の点検方法。
【請求項3】
点検の対象となる多数の前記機械を稼働頻度に応じてグループ分けし、
前記グループ毎に前記第1管理値の較正を行うことを特徴とする請求項2に記載の機械の点検方法。
【請求項4】
点検の対象となる多数の前記機械を稼働頻度に応じてグループ分けし、
前記グループ毎に稼働頻度の条件を反映した前記摩耗試験を行い、前記第1管理値の設定を行うことを特徴とする請求項1に記載の機械の点検方法。
【請求項5】
前記摩耗粒子の大きさの測定は、前記採取したグリスの酸化度が前記第1管理値を超えていた場合に加えて、定期的にも行うことを特徴とする請求項1に記載の機械の点検方法。
【請求項6】
前記グリスの酸化度は赤外線吸収スペクトルによって測定することを特徴とする請求項1に記載の機械の点検方法。
【請求項7】
前記摩耗粒子の大きさは、グリス中に含まれる摩耗粒子をフェログラフィ分析装置によって測定することを特徴とする請求項1に記載の機械の点検方法。
【請求項8】
前記機械は、水門扉の巻上機であることを特徴とする請求項1に記載の機械の点検方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−53087(P2011−53087A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202310(P2009−202310)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(501016995)トライボテックス株式会社 (9)
【Fターム(参考)】