説明

機能水の製造方法

【課題】 ナノバブル水を利用した新規な機能水の製造方法を提供すること。
【解決手段】 電解質イオンを2価の陽イオンの総モル濃度が1価の陽イオンの総モル濃度よりも1.5倍以上高い量で含有する電気伝導度が300μS/cm以上でpHが7〜9の水溶液中に、粒径が1〜50μmの微小気泡を発生させた後、微小気泡を含む水溶液に対して物理刺激を加えることによって微小気泡を強制的に縮小させて粒径を50〜500nmとし、さらにフィルタを通過させることで圧力刺激を加えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食料品分野などにおいて有用な機能水の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大きさがナノオーダーの気泡(ナノバブル)を含む水(ナノバブル水)は、例えば生物の新陳代謝の亢進といった作用を有することが特許文献1などから公知であり、今日、様々な技術分野において利用可能な機能水として期待されている。しかしながら、ナノバブル水が有する機能性には今だ不明な部分も多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−245817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、ナノバブル水を利用した新規な機能水の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、ナノバブル水に対して圧力刺激を加えると、その特性が変化し、新規な機能水として利用価値を有するものになることを知見した。
【0006】
上記の知見に基づいてなされた本発明の機能水の製造方法は、請求項1記載の通り、電解質イオンを2価の陽イオンの総モル濃度が1価の陽イオンの総モル濃度よりも1.5倍以上高い量で含有する電気伝導度が300μS/cm以上でpHが7〜9の水溶液中に、粒径が1〜50μmの微小気泡を発生させた後、微小気泡を含む水溶液に対して物理刺激を加えることによって微小気泡を強制的に縮小させて粒径を50〜500nmとし、さらにフィルタを通過させることで圧力刺激を加えることを特徴とする。
また、請求項2記載の製造方法は、請求項1記載の製造方法において、0.01〜5MPaの圧力をかけてろ過精度が0.01〜5μmのフィルタを通過させることを特徴とする。
また、本発明の機能水は、請求項3記載の通り、請求項1記載の方法によって製造されてなることを特徴とする。
また、本発明の飲食料品の製造方法は、請求項4記載の通り、飲食料品の製造工程中において請求項1記載の方法によって製造されてなる機能水を添加することを特徴とする。
また、本発明の飲食料品は、請求項5記載の通り、請求項4記載の方法によって製造されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ナノバブル水を利用した新規な機能水の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1におけるフィルタを通過させる前のナノバブルを含む水溶液のESRスペクトルである。
【図2】同、フィルタを通過させた後のESRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の機能水の製造方法は、電解質イオンを2価の陽イオンの総モル濃度が1価の陽イオンの総モル濃度よりも1.5倍以上高い量で含有する電気伝導度が300μS/cm以上でpHが7〜9の水溶液中に、粒径が1〜50μmの微小気泡を発生させた後、微小気泡を含む水溶液に対して物理刺激を加えることによって微小気泡を強制的に縮小させて粒径を50〜500nmとし、さらにフィルタを通過させることで圧力刺激を加えることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の機能水の製造方法において用いる、電解質イオンを2価の陽イオンの総モル濃度が1価の陽イオンの総モル濃度よりも1.5倍以上高い量で含有する電気伝導度が300μS/cm以上でpHが7〜9の水溶液は、例えば、ナトリウム塩やカリウム塩などの1価の陽イオンを生じる電解質と、マグネシウム塩やカルシウム塩などの2価の陽イオンを生じる電解質を、上記のモル濃度条件を満たすような用量で水に溶解して調製することができる。必要に応じて塩酸や水酸化ナトリウムなどで水溶液のpHを調整してもよい。
【0011】
上記のような方法で調製された水溶液中に粒径が1〜50μmの微小気泡を発生させる方法は特段限定されるものではなく、二相流旋回方式や加圧溶解方式などに基づく公知の微小気泡発生装置を用いて行うことができる。二相流旋回方式を採用する場合、回転子などを利用して半径が10cm以下の渦流を強制的に生じせしめ、壁面などの障害物や相対速度の異なる流体に気(例えば空気)液混合物を打ち当てることにより、渦流中に獲得した気体成分を渦の消失とともに分散させることで、所望の微小気泡を大量に発生させることができる。また、加圧溶解方式を採用する場合、2気圧以上の高圧下で気体を水中に溶解させた後、これを大気圧に開放することにより生じた溶解気体の過飽和条件から気泡を発生させることができる。この場合、圧力の開放部位において、水流と障害物を利用して半径が1mm以下の渦を多数発生させ、渦流の中心域における水の分子揺動を起因として多量の気相の核(気泡核)を形成させるとともに、過飽和条件に伴ってこれらの気泡核に向かって水中の気体成分を拡散させ、気泡核を成長させることにより、所望の微小気泡を大量に発生させることができる。なお、これらの方法によって発生した気泡は、粒径が50μm以下の微小気泡で(測定は例えばPMS社製LiQuilaz−E20などのレーザー光遮断方式の液中パーティクルカウンターによる)、その個数は100個/mL以上である(必要であれば特開2000−51107号公報や特開2003−265938号公報などを参照のこと)。
【0012】
微小気泡を含む水溶液に対して物理刺激を加える方法としては、例えば特許文献1に記載の、放電発生装置を用いて溶液を放電させる方法、超音波発信装置を用いて溶液に超音波照射を行う方法、例えば溶液を流動させて多孔板(オリフィス)を通過させることによる圧縮、膨張および渦流を利用する方法などが挙げられる。このような方法による物理刺激の付加によって微小気泡を強制的に縮小させ、粒径を50〜500nmにすることで(測定は例えば大塚電子社製FDLS−3000などのファイバー光学動的光散乱光度計による)、pHが7〜9の条件下において気泡のゼータ電位は−60mVよりも低い値(マイナス値として大きい値)となり、静電気的な作用によって電解質イオンが気泡の気液界面に濃縮せしめられるが、2価の陽イオンの総モル濃度が1価の陽イオンの総モル濃度よりも1.5倍以上高くすることで、静電気的引力が1価の陽イオンよりも強い2価の陽イオンが高濃度に気泡の気液界面に濃縮せしめられ、当該領域における溶液中に局在化する水酸基イオンなどの陰イオンとの接触性が高まることで気泡が安定化される。
【0013】
次に、安定化が図られたナノバブルを含む水溶液に対してフィルタを通過させることで圧力刺激を加える。これによって溶液の特性が変化し、新たな機能性が付与される。圧力刺激は、0.01〜5MPaの圧力をかけてろ過精度が0.01〜5μmのフィルタを通過させることで加えることが望ましい。付加する圧力が5MPaを超えたりフィルタのろ過精度が0.01μm未満であったりすると、ナノバブルに対する刺激が強すぎることで溶液の特性変化に悪影響が生じる恐れがある一方、付加する圧力が0.01MPa未満であったりフィルタのろ過精度が5μmを超えたりすると、ナノバブルに対して十分な刺激が加わらないことで溶液の特性が変化しにくくなる恐れがある。なお、付加する圧力は0.1〜0.5MPaがより望ましく、0.2〜0.4MPaがさらに望ましい。また、フィルタのろ過精度は0.05〜3μmがより望ましく、0.5〜2μmがさらに望ましい。フィルタは例えばポリオレフィン製の市販のものを用いればよい。
【0014】
このようにして製造される本発明の機能水を、例えば飲食料品の製造工程中において添加することにより、飲食料品の味や風味の向上が期待できる。機能水の添加の方法は特段限定されるものではなく、製造原料に混ぜ込んだり噴霧したりする方法などが挙げられる。
【実施例】
【0015】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0016】
実施例1:本発明の機能水の製造とその特性
容積が約80Lの水槽中に、ナトリウムイオン濃度が26.7mg/L、カルシウムイオン濃度が68.2mg/L、マグネシウムイオン濃度が40.4mg/Lとなるように、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カルシウム、塩化マグネシウムを水に溶解し、2価の陽イオンの総モル濃度と1価の陽イオンの総モル濃度の比率が約3:1、電気伝導度が約660μS/cm、pHが約7.8の水溶液を調製した。この水溶液中に、50Wのシャフトタイプの微小気泡発生装置を利用して粒径が1〜50μmの微小気泡(マイクロバブル:PMS社製LiQuilaz−E20による)を発生させた。水槽中に浮遊する微小気泡の個数は約200個/mLであった。次に、この微小気泡を含む水溶液を450Wのポンプを利用して循環させ、穴径が5mm、穴密度が2個/cm、板厚が5mmの多孔板を循環経路中に設置することで、微小気泡を含む水溶液が多孔板を通過する際に発生する圧縮、膨張および渦流を物理刺激として付加し、微小気泡をその粒径が500nm以下のナノバブルになるまで強制的に縮小させた(粒径の下限値は50nm:大塚電子社製FDLS−3000による)。その後、400Wのマグネットポンプを利用して水槽中のナノバブルを含む水溶液を吸引し、0.3MPaの圧力で押出側のパイプ中に設置したろ過精度が1μmの市販のポリオレフィン製フィルタ(セントラルフィルター工業株式会社製の商品名:ジュラクリーンII(DCII−V−001−750))を通過させ、本発明の機能水を得た。
上記のようにして製造した本発明の機能水を100mLのビーカーに入れた後、スピントラップ剤であるDMPO(5,5−ジメチル−1−ピロリン N−オキサイド)を30mg添加し、さらに塩酸を0.3mL添加した。こうして調製した溶液を電子スピン共鳴法(ESR)で測定し、スピンアダクトであるDMPO−OHのスペクトル(水酸基ラジカルの発生を意味するスペクトル)を観測した。その結果、フィルタを通過させる前のナノバブルを含む水溶液について同様の観測を行った際に認められたスペクトルが(図1)、フィルタを通過させた後は観測できなかった(図2)。
以上の結果から、ポンプ駆動力を利用してナノバブル水に対してフィルタを通過させることで圧力刺激を加えることにより、ナノバブル水の特性が変化することがわかったが、この現象は、ナノバブル水を圧力を加えてフィルタを通過させたことで、ナノバブル水に急激な圧力上昇が起こることにより、ナノバブルが一時的に縮小過程に導かれて消滅する傾向を示す一方で、2価の陽イオンの総モル濃度が1価の陽イオンの総モル濃度よりも約3倍高いことから、電気二重層の外側に位置する静電気的引力が強い2価の陽イオンが気泡の気液界面において陰イオンとより密接に凝縮された状態で存在するようになり、両者があたかも結晶体を構成して気泡を安定化する殻のごとく作用することに基づくものであると推察された(この作用が水酸基ラジカルの発生を抑制したものと考えられる)。
【0017】
参考例1:本発明の機能水の特性試験
30mLのビーカーに擂潰後の魚のすり身を20mLのラインまで入れ、そこに本発明の機能水を0.02mL添加し、よく攪拌した。30分間常温で放置した後、180℃の油に5分間投入したところ、内部に大量の発泡を生じて軽石のような状態になった。この現象はフィルタを通過させる前のナノバブル水でも認められたが、マイクロバブルを発生させる前の水溶液では認められなかったことから、上記の発泡は、高温加熱時における本発明の機能水に含まれるナノバブルの気泡核としての作用に起因すると考えられた。
【0018】
実施例2:本発明の機能水を利用した飲食料品の製造(その1)
30mLのビーカーに擂潰後の魚のすり身を20mLのラインまで入れ、そこに本発明の機能水を0.02mL添加し、よく攪拌した。30分間常温で放置した後、79℃で40分間加熱することで蒲鉾とした。加熱後の体積を調べたところ加熱前の体積に比較して10%以上の増加が認められた。一方、マイクロバブルを発生させる前の水溶液とフィルタを通過させる前のナノバブル水にはこのような効果は認められなかった。
【0019】
実施例3:本発明の機能水を利用した飲食料品の製造(その2)
小型手動噴霧器を利用して牛タン生肉に本発明の機能水を一切れあたり一吹き噴霧し、5分後に炭火網焼きを行った。その結果、本発明の機能水を噴霧した場合、噴霧しない場合に比較して厚みが2割以上厚くなるにもかかわらず、十分な柔らかさを持った食感であることがわかった。
【0020】
実施例4:本発明の機能水を利用した飲食料品の製造(その3)
水道水を用いて水洗いした白米4合に対して規定量の炊き水として本発明の機能水を用いて炊飯した。その結果、炊きあがりの御飯は水道水を炊き水として用いた場合に比較して感覚的に明瞭に識別可能なふっくら感と表面光沢を認めることができた。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は、ナノバブル水を利用した新規な機能水の製造方法を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質イオンを2価の陽イオンの総モル濃度が1価の陽イオンの総モル濃度よりも1.5倍以上高い量で含有する電気伝導度が300μS/cm以上でpHが7〜9の水溶液中に、粒径が1〜50μmの微小気泡を発生させた後、微小気泡を含む水溶液に対して物理刺激を加えることによって微小気泡を強制的に縮小させて粒径を50〜500nmとし、さらにフィルタを通過させることで圧力刺激を加えることを特徴とする機能水の製造方法。
【請求項2】
0.01〜5MPaの圧力をかけてろ過精度が0.01〜5μmのフィルタを通過させることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法によって製造されてなることを特徴とする機能水。
【請求項4】
飲食料品の製造工程中において請求項1記載の方法によって製造されてなる機能水を添加することを特徴とする飲食料品の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の方法によって製造されてなることを特徴とする飲食料品。




【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−167365(P2010−167365A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−12147(P2009−12147)
【出願日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(503357735)株式会社REO研究所 (21)
【出願人】(509023230)
【出願人】(505194697)ナーガインターナショナル株式会社 (5)
【Fターム(参考)】