説明

機能的な血管ネットワークの形成を開始するための脂肪組織細胞の使用

本発明は、機能的血管化の形成を誘導するための、任意の起源の、髄質又は髄外の白色脂肪組織由来の細胞(特には髄外の間質-血管画分(SVF)由来の細胞)及び/又は成熟脱分化脂肪細胞の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能的血管化の形成を誘導するための、任意の起源の、髄質又は髄外の白色脂肪組織由来の細胞(特に髄外の間質-血管画分(SVF)由来の細胞)及び/又は成熟脱分化脂肪細胞の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
虚血病理に関係する合併症を制限するため、及び/又は組織再生を促進するために、新血管化を刺激する有効な治療手段に対する必要性が、特に西洋社会に存在する。
【0003】
今日まで、虚血の有害効果を制限するために提案された治療ストラテジーは、まさに虚血部位での脈管の成長及びリモデリングの刺激の際、及び/又は内皮始原細胞の移植の際に要求されてきた。虚血領域を効果的に再血管化させ得る内皮細胞を取得するために今日までに提案されている方法は、基本的に、循環成人内皮始原細胞から成熟内皮細胞を取得することに基づいていた。単球/マクロファージ系統(CD45+、CD14+)に由来する造血性起源のこれらヒト単核細胞は、血管形成性成長因子の存在下で、骨髄から(骨髄-単核細胞をBM-MNCと呼ぶ)又は末梢血から単離される(20;21;27;38;39)。
【0004】
より具体的には、BM-MNC(骨髄-単核細胞)の移植は、実験的虚血において新血管化を効果的に刺激し、傷害組織の顕著な改善及び長期生存を導くことが示されている(26;27)。ヒトにおいて実施された試験により、このような治療法がこの疾患の進行を制限する可能性が示されている(28〜32)。
【0005】
しかし、これら内皮始原細胞のパーセンテージが低いこと及びエキソビボ拡大の困難さ並びに病的状態で観察されるこれら細胞の機能的劣化は、虚血の治療にこれらを使用することの大きな制限を構成する。
【0006】
したがって、特に虚血により損傷した組織の修復に関して使用することができる成熟内皮細胞へ分化し得る同種細胞集団を形成する細胞の単純に取得され効果的な供給源を提供する現実の必要性が存在する。
【0007】
脂肪組織は哺乳動物において種々の形態で存在する:髄外の白色脂肪組織(この組織はその生物の主要な貯蔵器官に相当する)、髄質の白色脂肪組織(この組織の正確な役割は未知である)及び発熱性褐色脂肪組織。
【0008】
個体の生涯を通じて維持される相当の拡大能力のため、成体における白色脂肪組織は取得が容易な豊富な細胞の供給源を構成する。
【0009】
この白色脂肪組織は2つの細胞画分からなる:
− 脂肪細胞画分。これは、脂肪組織の細胞の30%〜60%に相当し、トリグリセリドの蓄積により特徴付けられる(浮遊している細胞画分)。この画分は、非常に優勢な(99%)分化脂肪細胞及び少数の混入マクロファージ(脂肪小滴に富む)から構成される。
及び
− 非脂肪細胞画分。これは、幾らかの血液細胞、幾らかの成熟内皮細胞(微小血管内皮の細胞:CD31+、CD144+)、血管周囲細胞、線維芽細胞及び多能性幹細胞を含み、間質-血管画分 (SVF)と呼ばれる。
【0010】
成熟脂肪細胞への前脂肪細胞の分化を研究するために従来使用されてきた間質-血管画分は、脂肪細胞の始原細胞(前脂肪細胞)に加え、造血性及び神経原性始原細胞のみを含む多能性幹細胞の供給源であり、また骨原性、軟骨原性及び筋原性の系統に分化し得る間葉性幹細胞の供給源でもあることが示されている(10;11;12;13;PCT国際出願第WO 02/055678号及び米国出願第2003/0082152号)。
【0011】
これら2つの細胞画分は、Bjorntorpら(14)により記載された方法のような方法に従って密度の差により分離できる。
白色脂肪組織は、分化血管内皮細胞に対する、脂肪細胞(Bouloumieら,Ann. Endocrin., 2002, 63, 91-95;Wangら,Horm. Metab. Res., 2003, 35, 211-216)及び間質-血管画分の細胞(Rehmanら,Journal of the American College of Cardiology, 2003, 41, 6 supplement A, 3008A)により産生される血管形成促進因子の効果に起因する独特な血管形成特性を保持する。
【0012】
これら血管形成特性(これらは、おそらく、脂肪組織の拡大で代謝活性における役割を演じている)は、外傷後又は病的状態後(虚血後)に関連して血管形成を促進するため、自家細胞治療に応用される。したがって、自家脂肪組織の注入は、移植物の再血管化及び軟組織の再構築を促進するために、外科で通常に実践されている(Bouloumieら、Wangら、上記)。更に、冠血管疾患の治療で、血管形成を促進するために、自家間質-血管画分を投与することもまた推奨されている(Rehmanら、上記)。
【0013】
しかし、新血管化は、既存の脈管の内皮細胞に対する血管形成促進因子の効果(血管形成)に起因するだけでなく、内皮始原細胞から産生される分化内皮細胞の産生及び形成中の脈管への組み込み(脈管形成)にも起因する。
このような内皮始原細胞は、脂肪組織から、特に多能性細胞を含有する間質-血管画分から単離されていない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような状況下、本発明者らは、機能的血管ネットワークの全体的又は部分的な再構築を得ることを可能にする成熟内皮細胞に分化し得る髄質又は髄外の脂肪組織(取得が容易(例えば脂肪吸引))の細胞の同質亜集団を単離した。
【0015】
したがって、本発明の主題は、特に虚血に関連して、機能的血管ネットワークの全体的又は部分的な再構築を意図する医薬品を製造するために、同種亜集団を形成する髄質又は髄外の白色脂肪組織の細胞(これら細胞は少なくとも表面抗原CD13及びHLA ABCを発現する(CD13+、HLA ABC+))を使用することである。
【0016】
この使用の第1の有利な実施形態によれば、同種亜集団を形成する細胞はまた表面抗原CD34を発現する。
【0017】
この使用の第2の有利な実施形態によれば、脂肪組織細胞は、培養における制限細胞拡大により取得可能な、髄外の間質-血管画分の細胞の同種亜集団(以下「SVF-CULT」と呼ぶ)により代表される。
この実施形態の有利な構成によれば、髄外の間質-血管画分の細胞の同種亜集団は、この細胞の10代未満の連続継代での制限細胞拡大により取得可能である。
【0018】
したがって、驚くべきことに、制限細胞拡大は、連続継代数がせいぜい10代に制限されているため、血管形成促進能を有する細胞に特徴的な表面抗原を有するが造血細胞に特徴的な表面マーカー(単球/マクロファージ系統又は分化内皮細胞の表面マーカーを含む)を有しない細胞の同種集団の増殖を促進する。
【0019】
また、驚くべきことに、このような細胞は、例えば、最小培地(例えば、10%の胎仔又は新生仔のウシ血清を含むDMEM培地)中で培養することにより取得される。
血管形成促進特性をより迅速に開始する特異的条件もまた使用できる。これらは以下に詳述する(脂肪組織細胞を選択する方法を参照)。
【0020】
上記使用の第3の有利な実施形態によれば、脂肪組織細胞は、成熟脱分化脂肪細胞の同種亜集団(以下「DDAC」と呼ぶ)により代表される。
脱分化脂肪細胞は、特に、R. Negrelら(17)又はM. Shigematsuら(19)に記載された条件下で取得される。
【0021】
したがって、髄外の間質-血管画分の制限拡大により、又は成熟脂肪細胞の脱分化により、少なくとも上記表面抗原(すなわち:CD13、HLA ABC)を発現する細胞(CD13+、HLA ABC+)の亜集団が取得される。CD34表面抗原(これは新たに単離された細胞中に存在する)は、培養での連続継代の過程で徐々に見られなくなることがある。他方、これら細胞は、特に、以下の表面抗原を発現しない:CD45、CD14、CD31及びCD144 (CD45-、CD14-、CD31-及びCD144-)。少なくとも上記表面抗原を発現する細胞の亜集団は、CD31及びCD144表面抗原を発現する機能的な内皮細胞に分化し得る。
【0022】
上記使用の第4の有利な実施形態によれば、同種亜集団を形成する脂肪組織細胞(これは少なくとも以下の表面抗原を発現する:CD13+、HLA ABC+)は、固相又は半固相のポリマー支持体に結合されている。
【0023】
この実施形態の1つの有利な構成によれば、固相ポリマー支持体は、好ましくは、以下の成分:コラーゲン、ラミニン及びプロテオグリカンの少なくとも1つを含む再構成基底膜マトリクス、又は以下の成分:フィブロネクチン、コラーゲン、ラミニン及びトロンボスポンディンの少なくとも1つを含む再構成細胞外マトリクスである。支持体は、マトリクスを分解する酵素も、また酵素阻害剤及び成長因子も含むことができる。特に適切なマトリクスの例として、Matrigel(登録商標)マトリクス(Becton Dickinson;40)を挙げ得る。
【0024】
本実施形態の別の有利な構成によれば、半固相ポリマー支持体は、好ましくはセルロース誘導体、特にメチルセルロースである。
【0025】
本発明によれば、細胞はまた遺伝的に改変されていることができる。したがって:
− 細胞は、自己遺伝子の少なくとも1つの変異を含むことができるか、又は
− 細胞は、異種遺伝子の少なくとも1つのコピーを含有することができる。
この遺伝的に改変された細胞は、好ましくは、ヒト起源である。
【0026】
本発明の主題はまた、機能的血管ネットワークの全体的又は部分的な再構築を意図する医薬品を製造するために、同種亜集団を形成する髄質又は髄外の白色脂肪組織の細胞(これらは、上記での定義のように少なくとも以下の表面抗原:CD13+、HLA ABC+を発現する)と、非経口若しくは部位内(intra-site)(損傷器官でのインサイチュ)投与に適切な少なくとも1つのビヒクル及び/又は少なくとも1つの支持体を含有する組成物を使用することである。
【0027】
本発明の主題はまた、同種亜集団を形成する髄質又は髄外の白色脂肪組織の細胞(上記での定義のように、少なくとも表面抗原CD13及びHLA ABCを発現する)と、非経口若しくは部位内投与に適切な少なくとも1つのビヒクル及び/又は少なくとも1つの支持体を含有する医薬組成物である。ここで、細胞は、上記のような固相又は半固相のポリマー支持体に結合される。
【0028】
本発明で規定される細胞は、虚血病理、特に心血管病理(例えばアテローム性動脈硬化症)の治療に有用である。事実、動脈炎を患っている患者で虚血を誘引する因子は、アテローム斑の破裂及び血栓の形成である。
【0029】
これら細胞は、虚血した組織の性質にかかわらず、活性であり、特に脳、膵臓、肝臓、筋肉及び心臓のような組織に影響する虚血の治療に使用することができる。
これら細胞は、投与経路にかかわらず、活性である:これらは、具体的には、全身性に(筋肉内、腹腔内又は静脈内)、又は損傷組織内に直接、投与することができる。
【0030】
本発明の主題はまた、同種亜集団を形成する髄質又は髄外の白色脂肪組織の細胞(これらは少なくとも表面抗原CD13及びHLA ABCを発現する)を培養する方法である。この方法は、少なくとも以下の工程を含むことを特徴とする:
− 内皮細胞の形成を刺激し得る少なくとも1つの成長因子と、任意に少なくとも1つの適切なサイトカインとを含む培地における、適切な固相培養支持体上での、連続継代が10代未満の、脂肪組織の細胞(髄外の間質-血管画分の細胞又は成熟脱分化脂肪細胞)の制限細胞拡大;
− 培養物の酸素環境の連続的又は一過性の改変、及び
− 細胞外又は細胞内媒体への酸化促進剤又は抗酸化剤分子の添加による、細胞のレドックス平衡又は細胞による活性酸素種の産生の連続的又は一過性の改変。
【0031】
本発明によれば、
− 同種亜集団を形成する髄質又は髄外の白色脂肪組織の細胞(これらは少なくとも表面抗原CD13及びHLA ABCを発現する)は、髄外の間質-血管画分又は脱分化脂肪細胞からなり、そして
− 培養培地は好ましくは液体培養培地である。
【0032】
この方法の有利な実施形態によれば、内皮細胞の形成を刺激し得る成長因子は、特にVEGF、好ましくは約10ng/mlの濃度のVEGFである。
【0033】
この方法の別の有利な実施形態によれば、培養物の酸素環境は、1%であり、数時間〜数日である。
【0034】
酸化促進剤又は抗酸化剤分子は、特には、以下からなる群より選択される:
− ミトコンドリア機能の阻害剤及び/又は活性化剤、特に、アンチマイシン(好ましくは1〜1000nM、好ましくは1〜100nMの濃度)、1〜100nMの濃度のロテノン、数ng〜数μg/mlの濃度のオリゴマイシン、コエンザイムQ、ヌクレオチド、又はその他の等価な分子、及びカルボニルシアニド-m-クロロフェニルヒドラゾン、並びに
− トロロックス(trolox)、ピロリジンジチオカルバメート、N-アセチルシステイン、テトラキス(4-安息香酸)ポルフィリンマンガン(III)(manganese (III) tetrakis(4-benzoic acid)porphyrin)、又はその他の等価な分子からなる群より選択される抗酸化剤。
【0035】
本発明の主題はまた、分化内皮細胞に対して活性な分子についてスクリーニングする方法である。この方法は、少なくとも以下の工程を含むことを特徴とする:
− 半固相ポリマー培養培地で、同種亜集団を形成する髄質又は髄外の白色脂肪組織の細胞(これらは上記での定義のように少なくとも表面抗原CD13及びHLA ABCを発現する)を培養する工程
− このように取得した分化内皮細胞を試験すべき分子ライブラリと接触させる工程
− 分化内皮細胞に対して活性な分子を同定及び選択する工程。
【0036】
本発明による方法は、分化内皮細胞に対して活性である可能性がある新規な化学分子及び新規遺伝子の産物の両方についてのスクリーニングに有用である。
【0037】
このスクリーニング方法の有利な実施形態によれば、固相培地での培養からなる工程に先行して、上記のような、前記細胞の血管形成促進能を増大させることを可能にする条件下で予め培養する。
【0038】
このスクリーニング方法の別の有利な実施形態によれば、半固相培地での培養からなる工程は、上記のような、前記細胞の血管形成促進能を増大させることを可能にする条件下で実施する。
【実施例】
【0039】
本発明は、上記構成のほかに、以下の記載から明らかになる他の構成も包含する。以下の記載では、本発明の主題である方法の実施の例に言及し、また添付の図面にも言及する。
【0040】
添付図面において、
− 図1は、虚血後肢への注入後の、本発明の条件下で培養した髄外の間質-血管画分(SVF)のマウス細胞の血管形成特性を、骨髄単核細胞(BM-MNC)と比較して説明する。明確化のため、本発明の条件下で該画分を培養して得た細胞を、実施例の残りの部分で、SVF-CULT細胞と呼ぶ。
a)細血管造影による脈管密度の分析。左パネル:大腿閉塞の15日後の虚血右後肢(Isch)及び非虚血左後肢(N-Isch)の代表的な細血管造影。矢印は大腿動脈の結紮端部を示す。右パネル:非虚血肢と比較した、虚血し処置した肢での血管造影スコア。
【0041】
b)大腿閉塞の15日後のレーザドップラー灌流画像化による後肢血流のインビボ分析。左パネル:非虚血肢及び虚血しSCF-CULT細胞で処置した肢での通常灌流を示す血流画像(黒で示す)、及び虚血しPBSで処置した後肢での血流の明白な減少を示す血流画像。右パネル:非虚血肢と比較した、虚血し処置した肢での血流の測定。
c)総フィブロネクチンの免疫標識による毛細管密度の分析。右パネル:大腿閉塞の15日後の虚血筋肉の切片の代表的な顕微鏡写真。毛細管(矢印で示す)は白く見え、筋細胞は黒く見える。右パネル:非虚血肢と比較した、虚血し処置した肢での毛細管密度の測定。
PBS:PBSで処置したマウス。SVF:SVF-CULT細胞で処置したマウス。BM-MNC:骨髄細胞で処置したマウス。値は平均±標準偏差で表す(1群当たりn=6;** P<0.01)。
【0042】
− 図2は、本発明の条件下での間質-血管画分のヒト細胞の異種集団(培養前に取得した即席調製物、以下「SVF-EXT」と呼ぶ)の拡大が同種細胞集団(SVF-CULT)の出現を効果的に促進することを示す:
a)及びb):SVF-EXT細胞及びSVF-CULT細胞の分散図。これらの図は、x軸に細胞サイズの推定値(FSC高:前方散乱高)及びy軸に細胞の粒度(SSC高:側方散乱高)を含む。
c)及びd):SVF-CULT細胞(黒塗りカラム)と比較した、SVF-EXT細胞の異種集団(白抜きカラム)での、それぞれ造血細胞(CD45)、単球/マクロファージ(CD14)及び成熟内皮細胞(CD144)に特徴的なCD45、CD14及びCD144抗原の同定。
【0043】
− 図3は、ヒトSVF-CULT細胞が、虚血後肢への注入後に、内皮細胞前駆体の機能特性及び抗原特性を保有することを示す:
a)及びb)ヒトSVF-CULT細胞の注入は、虚血せず移植を受けていない左後肢(PBS群)と比較して、虚血し移植を受けた右後肢で、血管造影スコア及びレーザドップラー灌流画像化によりインビボで測定した血流を有意に増大させる(* P<0.05);
c)ヒトSVF-CULT細胞の注入の15日後、ヒトCD31マーカーのイソ型を特異的に指向する抗体は、赤血球を含有する機能的脈管(脈管内側で灰色矢印で示す)を縁取る多くのCD31陽性細胞(黒矢印で示す)を標識する(×1000)。
【0044】
− 図4は、インビトロ条件下又はインビボに移植されたMatrigel(登録商標)マトリクス中でのSVF-CULT細胞の内皮細胞への分化を説明する:
a)脂肪生成培地でのSVF-CULT細胞の脂肪細胞への分化(×200);
b)SVF-CULT細胞がメチルセルロースを含有する培地に播種されたときの自発的な多分岐配置及び管状構造の形成(×200);
c)及びd)それぞれヒトCD31マーカーのイソ型及びvWF (フォン・ビルブラント因子)マーカーを指向する抗体での、メチルセルロースを含有する培地に播種されたSVF-CULT細胞の標識;分岐配置の形成が見られる(×600);
【0045】
e)及びf)SVF-CULT細胞を含有しインビボに移植されたMatrigel(登録商標)マトリクスにおける管状構造の形成(黒矢印で示す);赤血球もまた管状構造内に観察された(灰色矢印で示す);
g)及びh) ヒトCD31マーカーのイソ型に対する抗体での、Matrigel(登録商標)含有物の管状構造を縁取るSVF-CULT細胞の標識(×400及び1000)。
【0046】
− 図5は、二重増殖能を有する始原細胞又は前駆体(これらは内皮細胞表現型を獲得する能力を有する)への成熟脂肪細胞の脱分化を説明する:
a)hDDAC細胞(ヒト脱分化脂肪細胞)は、脂肪生成培地で培養すると、増殖し再度脂肪細胞に分化することができる(×400);
b)hDDAC細胞は、メチルセルロースを含む培地で培養すると、分岐配置及び管状構造(黒矢印)を形成する(×400);
c)メチルセルロースを含有する培養培地での成熟脂肪細胞の脱分化により形成された分岐配置及び管状構造は、抗vWF抗体で標識される(×400);
【0047】
d)及びe):これらの図は、虚血後肢への移植後のhDDAC細胞の血管形成促進特性を説明する。hDDAC細胞は、虚血後肢での血管造影スコア及び皮膚血流の回復においてSVF-CULT細胞と同程度に効果的である。
値は平均±標準偏差で表す(1群当たりn=6;* P<0.05)。PBS:PBSで処置したマウス。SVF:SVF-CULT細胞で処置したマウス。hDDAC:脱分化ヒト脂肪細胞で処置したマウス;
f)ヒトCD31マーカーのイソ型を指向する抗体での、新たに形成した脈管(黒矢印で示す)上に層を形成している多くのCD31陽性細胞の標識(×1000)。
【0048】
− 図6は、内皮細胞を取得するための脂肪細胞系統の細胞の可塑性を説明する。脂肪細胞始原細胞は、脂肪細胞に分化する能力及び機能的な内皮表現型を獲得する能力を有する。成熟脂肪細胞は、二重増殖能を有する始原細胞に分化することができる。
【0049】
しかし、これらの実施例は本発明の主題を説明する目的のためにのみ提示され、如何なる様式でも本発明の限定を構成しないことを理解すべきである。
【0050】
実施例1:虚血マウス筋肉におけるマウスSVF-CULT細胞による新血管化の誘導
1.1 材料及び方法
1.1.1 動物及び組織サンプル
7週齢の雄性C57Bl/6マウス又はnu/nuマウス(Harlan,フランス)を制御環境(21℃にて12時間/12時間の明暗サイクル)下で水及び標準食餌を自由摂取させて生育する。実験の最後に、マウスをCO2での麻酔下での頸椎脱臼により犠牲にする。鼠径部の脂肪組織及び筋肉を、後の分析のために素早く取り出し、処理する。
【0051】
1.1.2 後肢を虚血したマウスモデル
イソフルラン吸入で動物を麻酔する。右大腿動脈を結紮する。続いてマウスの虚血肢に106個のSVF-CULT細胞を筋肉内注射する。
【0052】
1.1.3 脂肪組織の間質-血管画分の細胞及び骨髄細胞の単離
− 骨髄細胞:
脛骨及び大腿骨を洗浄し次いでフィコール密度勾配での遠心分離により低密度単核細胞を単離することによって骨髄細胞を取得する(34)。
−髄外の脂肪組織の間質-血管画分の細胞
Bjorntorpら(14)のプロトコルに若干変更を加えて従って、間質-血管画分の細胞を脂肪組織から単離する。簡潔には、マウス鼠径部脂肪組織を、37℃にて45分間、0.2%のBSAを含有するPBSリン酸緩衝液中2mg/mlのコラゲナーゼ(Sigma)での消化に供する。100μmナイロン膜での濾過による非加水分解断片の排除後、成熟脂肪細胞を遠心分離(600g、10分)によりSVF-EXT細胞のペレットから分離する。
【0053】
SVF-EXT細胞を、10%の新生仔ウシ血清(NCS)を補充したDMEM F12培地中に、30,000細胞/cm2の密度で播種する。6時間の培養後、非接着性細胞を洗浄により除去し、次いで(接着性)細胞を、使用の前に数日(1〜3日)間培養する;このようにしてSVF-CULT細胞を取得する。
【0054】
1.1.4 新血管化の定量
処置期間の最後に、脈管密度を高解像度細血管造影により評価した(36)。血管造影スコアは、定量領域で、1画像当たりに脈管が占める画素のパーセンテージにより表す。
細血管造影分析を、総フィブロネクチンを指向する抗体を用いる毛細管密度の評価により補充する(36)。次いで、毛細管密度を、Optilab/Proソフトウェアを用いて、規定領域の無作為フィールドで算出する。
【0055】
虚血後の血管ネットワークの機能性を、JS Silvestreら(36)に記載のように、マウスで実施するレーザドップラー灌流画像化により分析する。
【0056】
1.2 結果
先ず、脂肪組織の血管形成能を、マウスSVF-CULT細胞を用い骨髄単核細胞との比較により評価した。
【0057】
これら細胞は鼠径部脂肪組織から調製し、1〜3日間の制限拡大(連続継代数を10未満に制限)を取得するために培養する。1×106個のSVF-CULT細胞の移植は、血管造影スコアの2.6倍増加(図1a、P<0.01)、ドップラー組織灌流スコアの2.3倍増加(図1b、P<0.001)及び毛細管密度の1.6倍増加(図1c、P<0.01)により示されるように、明らかに、虚血後肢の組織の新血管化を改善する。1×106個のSVF-CULT細胞の注入後に観察される新血管化の程度は、1×106個の骨髄単核細胞の注入後に観察されるものに匹敵する(図1a〜c)。本発明による培養プロセスは、SVF-EXT細胞(本発明のように制限拡大を伴う培養に置かれていない)の直接注入後に観察される非常に貧弱な新血管化により示されるように、SVF-CULT細胞の血管形成能を非常に有意に改善する。更に、白色組織より血管化されることが知られている褐色脂肪組織に由来する血管間質からの細胞を用いた実験は、効果がないことを証明した。
【0058】
実施例2:SVF-EXT細胞及びSVF-CULT細胞の表現型特徴付け
2.1 材料及び方法
2.1.1 SCF-EXT及びSVF-CULT細胞の調製
マウスSVF-EXT及びSVF-CULT細胞を実施例1に詳述したように調製する。
対応するヒト細胞を、患者の同意を得て取得したヒト腹部皮下組織を含有する腹部皮下脂肪摘出サンプル又は腎摘出サンプルから、同様な様式で調製する。
【0059】
2.1.2 細胞の表現型分析
細胞を、0.2%の胎仔ウシ血清を含有するリン酸緩衝化生理食塩水中で標識する;細胞を、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フィコエリトリン(PE)又はペリジニンクロロフィルタンパク質(peridinin chlorophyll protein)(PerCP)に共役させた抗マウス又は抗ヒトモノクローナル抗体(mAb)と共に、30分間4℃にてインキュベートする。洗浄後、細胞をフローサイトメトリー(FACS Calibur, Becton Dickinson)により分析する。次いで、得られたデータを、Cell Questソフトウェア(Becton Dickinson)を用いて分析する。Serotecから入手したCD144を除いて、抗体は全てBD Biosciencesから入手した。
【0060】
2.1.4 統計学的分析
Prisme(商標)ソフトウェア(GraphPad sofware)を用いて、対応のあるt検定によって全ての統計学的分析を行う。
【0061】
2.2 結果
フローサイトメトリーによりSVF-EXT及びSVF-CULT(ヒト又はマウス)細胞の表現型の比較分析を行った。ヒト及びマウスの細胞で得られた結果は匹敵するので、ヒト細胞に関する結果のみを提示する。
【0062】
ヒト皮下脂肪組織から得たSVF-EXT細胞は、図2aの分散図に示されるように、異種である。本発明の条件下で1〜3日間これら細胞を培養すると、単一細胞集団(SVF-CULTと呼ぶ)の取得(図2b)により示されるように、細胞集団の同種化を生じる。
抗原型表現型はこの分散図を確証する。SVF-EXT細胞は異種であり、種々の集団、特に造血細胞(CD45マーカーについて陽性の細胞)、及びマーカーCD34、CD13及びHLA ABCを発現する非造血細胞(CD45マーカーについて陰性)の集団を含む(図2c)。
【0063】
間質-血管画分は、VE-カドヘリン(CD144)及びCD31マーカーを指向する抗体で標識されない(図2c)ことにより示されるように、成熟内皮細胞を有意な比率で含有しない。SVF-CULT集団(本発明の条件)では、この集団は、優勢には、未分化細胞から構成され、90±3%の細胞がCD34マーカーを発現し、99±0.2%の細胞がCD13及びHLA ABCマーカーについて陽性である。他方、これらSVF-CULT細胞は、造血細胞に特徴的なマーカー(CD45)も単球/マクロファージに特徴的なマーカー(CD14)も、分化内皮細胞に特徴的であるCD144及びCD31マーカーも発現しない(図2c)。これらの結果は、インビトロ(又はエキソビボ)での1〜3日間の細胞拡大が、血管形成促進能を有する細胞に特徴的な幾つかの表面抗原を保有するが分化細胞に特徴的な表面マーカーは保有しない細胞(SVF-CULT細胞)の同種集団の増殖を促進することを示す。
【0064】
実施例3:虚血マウス筋肉におけるSVF-CULT細胞での新血管化の誘導、及びこの集団の内皮細胞への分化
3.1 材料及び方法
7週齢の雄性nu/nuマウス(Harlan、フランス)を実施例1に開示したものと同じ条件下で生育させる。
ヒト脂肪組織のサンプルは、実施例2で使用したものと同一である。
ヒト及びマウスのSVF-CULT細胞は、実施例1及び2で詳述したように単離する。
新血管化の定量及び表現型分析は実施例1及び2にそれぞれ詳述したように行う。
【0065】
3.2 結果
再血管化に対するヒトSVF-CULT細胞の注入(又は移植)の効果を免疫欠損ヌードマウスで評価する。マウスSVF-CULT細胞と同様に、後肢虚血の15日後に1×106個のヒトSVF-CULT細胞を注入することにより、血管造影スコア及び皮膚血流の有意な増加(虚血し処置していないヌードマウスと比較して、それぞれ1.6倍及び1.5倍、P<0.01)を得ることが可能になる(図3a及び3b)。2つの可能な機序(これらは両立しないわけではない)が血管形成促進効果を説明し得る:SVF-CULT細胞による血管形成成長因子の放出、又は、再生脈管への細胞の組込み(又は移植)による注入細胞の直接寄与。事実、VEGFは、可能性のある血管形成因子として検出される(31±8ng/ml)。
【0066】
したがって、新血管に組み込まれるSVF-CULT細胞の能力を評価するため、マウス組織とは反応しないヒトCD31マーカーに特異的な抗体を使用して、免疫化学実験を行なった。再生脈管上に層を形成しているCD31マーカーについて陽性である多くの細胞が、処置した後肢で証明される(図3c)。CD31マーカーについて陽性である細胞は、未処置である他方の後肢では検出されない。ヒトCD31+細胞の検出は、インビボ条件下で、SVF-CULT細胞が内皮細胞に分化し、脈管再生に直接寄与することを強く示唆する。
【0067】
実施例4:インビトロ又はインビボのMatrigel(登録商標)マトリクスにおけるヒトSVF-CULT細胞の脂肪細胞又は内皮細胞への自発的分化
4.1 材料及び方法
髄外の間質-血管画分(SVF)のヒト細胞は、実施例2のように、調製して培養する。
細胞機能を保存しつつクローンレベルにてインビトロで分化する能力を試験するため、SVF-CULT細胞を半固相培地(メチルセルロース;15)で培養する。SVF-CULT細胞の初代培養物をトリプシン処理し、次いで7×103細胞/mlの濃度で1.5mlのMethocult MG3534、MG、H4534 (StemCell Technologies)又はその他の等価培地に播種する。内皮型形態を有する細胞に関して発生を刺激するため、細胞を10日間培養し、次いで免疫標識により分析する。メチルセルロースの存在下での培養物のコロニーを、PBS緩衝液で洗浄し、メタノール/アセトン混合物中で−20℃にて20分間固定する。次いで、この調製物を1%BSA含有PBS中でブロッキングし、抗ヒトCD31抗体(Dako、参照MO823)又は抗ヒトvWF因子又は抗マウスvWF因子抗体のいずれかと共に1時間インキュベートする。
【0068】
Matrigel(登録商標)マトリクスを用いるインビボ血管形成アッセイを以下の方法で行う:マウスに、マウス組織又はヒト組織から単離した106個のSVF-CULT細胞を含有する0.5ml容量のMatrigel(登録商標)マトリクスを皮下注入する。14日目に、マウスを犠牲にし、R. Tamaratら(37)に記載されるように、血管形成を分析する。免疫標識のため、N. Nibbelinkら(35)に記載のように、Matrigel(登録商標)マトリクスを処理する。5μm厚の切片を、アルカリホスファターゼ共役抗体(Jackson)とインキュベートした後に、アルカリホスファターゼ(BCIP/NBT)で染色する。或いは、切片は、一次抗体とインキュベートし、次いでビオチン化二次抗体(Dako Carpinteria, CA)とインキュベートした後に、ジアミノベンジジン(DAB)で染色する;抗ヒトOxPhos複合体IV抗体は、Molecular Probes (Eugene, Oregon, USA)から入手した。
比較のため、SVF-CULT細胞を脂肪生成培地(Bjorntorpら、上記)で培養する。
【0069】
4.2 結果
細胞機能を保存しながらのクローンレベルでの細胞分化を研究することを可能にする半固相培地(メチルセルロース)においてインビトロで、そして固相マトリクス(Matrigel(登録商標))に結合した細胞の注入後インビボで、SVF-CULT細胞の分化を分析した。
【0070】
これらの条件下、SVF-CULT細胞は、中空管形態の構造を有するネットワークを形成する(図4b). それぞれCD31マーカー及びフォン・ビルブラント(vWF)因子を指向する抗体は、SVF-CULT細胞を強く標識する(図4c及び4d)。SVF-CULT細胞をMatrigel(登録商標)マトリクスと組み合せて注入すると、細胞はMatrigel(登録商標)マトリクス内で多くの管状構造を形成する。これら管状構造の内腔における赤血球の存在により、機能的血管構造の存在が立証される(図4e及びf)。CD31マーカーを指向する抗体及びvWFマーカーを指向する抗体は、脈管に似ているこれら構造を明確に標識する(図4g及びh)。
【0071】
対照的に、脂肪生成培地で培養したSVF-CULT細胞は、脂肪細胞に分化する(図4a)。
これら全ての結果より、SVF-CULT細胞は、内皮始原細胞の表現型特性及び機能特性を自発的に示すことが明らかにされる。
【0072】
実施例5:培養での成熟ヒト脂肪細胞の脱分化
5.1 材料及び方法
− 成熟ヒト脂肪細胞の脱分化
実施例1に記載したように脂肪組織のサンプルから単離した成熟ヒト脂肪細胞画分を、10%のNCSを補充したDMEM-F12培地中で注意深く洗浄し、106細胞/mlの濃度の懸濁液の形態に調製する。100μlの細胞懸濁液サンプルを25mm Thermanoxカバーガラス上に移し、35mm培養皿中に置く。第1のカバーガラスを第2のカバーガラスで覆い、周囲温度にての15分間のインキュベーション後、10%のNCSを補充した1.5mlのDMEM F12を加える。4日間又は5日間のインキュベーション後、小さな脂肪小滴を含有する接着性細胞(前脂肪細胞型の細胞)が現れる;これらは脂肪小滴がない線維芽細胞型の形態に変態する(このヒト脱分化脂肪細胞をhDDAC細胞と呼ぶ)。
【0073】
これら線維芽細胞型細胞は、次に、能動的に分裂し始め、特徴に目立った改変なく数世代の継代を経験し得る。
脱分化ヒト脂肪細胞をメチルセルロース中で培養し、実施例4に記載されるように免疫標識により分析する。更に、血管形成能を、実施例4に記載のように、Matrigel(登録商標)マトリクス中で注射後インビボにて分析する。実施例3で記載したように調製したSVF-CULT細胞の血管形成能を同時に分析する。
或いは、脱分化ヒト脂肪細胞を脂肪生成培地(Bjorntorpら、上記)で培養する。
【0074】
5.2 結果
脂肪組織から脂肪細胞前駆体細胞の同種集団を取得するため及びSVF-CULT細胞に由来する脂肪細胞及び内皮細胞に共通する前駆体の存在を確証するために、成熟脂肪細胞を以前に記載されたプロトコル(16;17;18;19)に従って脱分化させた。脂肪組織から単離した成熟脂肪細胞は浮遊細胞集団の99%に相当する。唯一の細胞汚染は脂肪小滴に富むマクロファージに由来し、その比率は1000細胞当たり数個の汚染細胞である。脂肪細胞を上記条件(17)下で培養する場合、細胞は最初に脂肪酸を失い、形態が前脂肪細胞型細胞に、次いで線維芽細胞型細胞(これはカバーガラスに付着することができる)に変化する。脂肪細胞がまた脂肪分解及び脂肪生成のための酵素内容物並びに分子マーカーも失う(17)ことを考えれば、この形態学的変化は機能的な変化に関連する。
【0075】
ヒト脱分化脂肪細胞(hDDAC)の同種集団は、脂肪生成培地中で培養すると、増殖する能力及び再度脂肪細胞へ分化する能力を有する(図5a)。
メチルセルロースを含有する培地中で培養したヒト脱分化脂肪細胞(hDDAC)の同じ同種集団は、分岐配置及び管の形態の構造を形成し(図5b)、99%より多くが、vWFマーカーを含むSVF-CULT細胞と同じマーカー(CD13、CD34及びHLA ABC)を同時発現する(図5c)。
【0076】
SVF-CULT細胞の場合と同様に、hDDAC細胞をMatrigel(登録商標)マトリクスと組み合せて注入すると、この細胞は、管腔中に赤血球を含有する多くの管状構造を形成する。このことは機能的血管構造の存在を証明する。
【0077】
これらの結果を図6に示す。この図は、内皮細胞を取得するための、脂肪細胞系統の細胞の可塑性を説明する。脂肪細胞始原細胞は、脂肪細胞に分化する能力及び機能的内皮表現型を獲得する能力を有する。成熟脂肪細胞は、二重増殖能を有する始原細胞に分化することができる。
【0078】
実施例6:虚血マウス筋肉におけるヒト脱分化脂肪細胞での新血管化の刺激及びこれら脂肪細胞の内皮細胞への分化
6.1 材料及び方法
hDDAC細胞の血管形成能をSV-CULT細胞(実施例3)と同様にヌードマウスで分析した。SV-CULT細胞を比較として用いる。
【0079】
6.2 結果
hDDAC細胞は、虚血後肢の血管化を回復させることにおいて、SVF-CULT細胞と同程度に効果的である(図5d及び5e)。SVF-CULT細胞の場合と同様に、多くのCD31マーカー陽性細胞が同定される。これら細胞は、hDDAC細胞を注入した後肢の新たに形成した脈管上で層を形成する(図5f)。
【0080】
実施例7:アテローム(マウスApoE -/-モデル)に関して新血管化を誘導するためのSVF-CULT細胞の使用
7.1 材料及び方法
SVF-CULT細胞の血管形成能を、14週齢のApoE欠損マウス(ApoEノックアウト(ApoE KO又はApoE -/-);Iffa-Credo)で、C57Bl/6マウス(実施例1)と同様に分析した。ApoE KOマウスにおける骨髄単核細胞の血管形成能を、比較のために同時に分析する。対照群には同条件でPBSを注入する。
【0081】
より具体的には、大腿閉塞の4週間後に、新血管化プロセスをレーザドップラー細血管造影により分析した。各パラメータを比較するために統計学的分析をANOVA型分散検定により行った(各群n=6)。続けてBonferroniのt検定を行い、差の原因となった群を同定した。P値<0.05を有意とみなす。
【0082】
7.2 結果
SVF-CULT細胞の投与により、処置ApoE KOマウスの虚血後肢において、無処置ApoE KOマウスと比較して、血管造影スコアが2倍に増加し(p<0.01)、血流は1.5倍に増加する(p<0.01)(表I)。SVF-CULT脂肪細胞の血管形成能は、骨髄単核細胞のそれと同様である(表I)。
【0083】
【表1】

【0084】
ApoE (-/-)マウスの虚血肢の処置は効果的であり、血管形成/新血管化を促進する。この効果は骨髄単核細胞の注入と同程度に効果的である。SVF-CULT細胞はアテロームに関して血管形成促進能を発揮することができる。
【0085】
実施例8:レドックス状態の改変によるSVF-CULT細胞の血管形成能の向上
8.1 材料及び方法
注入の2日前にアンチマイシン(40nM)及び/又はピロリジンジチオカルバメート(PDTC;0.5mM)でインビトロ処理したSVF-CULT細胞の血管形成能を、実施例1で記載したように、後肢を虚血したマウスモデルで分析した。更に、培養培地にアンチマイシンを添加することによりアンチマイシン単独で処理したSVF-CULT細胞又は無処理のSVF-CULT細胞の注入後、マウスにアンチマイシン(40nMで50μl)を毎日i.p.注入したか又はしなかった。PDTC単独で又はアンチマイシンとの組合せで同様に処置したマウスには、細胞の注入後何らの処置もしない。
【0086】
比較のために、細胞注入後に処置しないマウスにおける無処理SVF-CULT細胞の血管形成能を分析した。対照群には同条件下でエタノールを注入した。
大腿閉塞の8日後、新血管化プロセスを細血管造影により、そして必要に応じてレーザドップラーにより分析した。各パラメータを比較するために統計学的分析をANOVA型分散検定により行った(各群n=5)。続けてBonferroniのt検定を行い、差の原因となった群を同定した。P値<0.05を有意とみなす。
【0087】
8.2 結果
活性酸素種の産生及び細胞のレドックス状態の改変を誘導するミトコンドリア呼吸鎖複合体III阻害剤(アンチマイシン)及び活性酸素種の産生及び細胞のレドックス状態を制限する抗酸化剤(PDTC:ピロリジンジチオカルバメート)を用いて、血管形成促進能に対するSVF-CULT細胞のレドックス状態の改変の効果を試験した。結果を下記の表II及び表IIIに示す。
【0088】
【表2】

【0089】
【表3】

【0090】
虚血肢への注入前のアンチマイシン単独でのSVF-CULT細胞の処理は、血流が1.4倍に増加し(p<0.05;表II及びIII)、血管造影スコアが1.3倍に増加した(p=0.06;表III)ことによって示されるように、再血管化に対して有意にプラスで実質的な効果を有する。この効果は抗酸化剤により妨げられる(表III)。このことは、血管形成に好ましい効果に、活性酸素種及び/又はレドックス状態の改変が関与していることを示している。他方、アンチマイシンは、虚血筋肉へのSVF-CULT細胞の注入後に動物に直接投与した場合、何らの効果も有さない(表II)。
【0091】
参考文献
【表4】

【0092】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1−1】虚血後肢への注入後の、本発明の条件下で培養した髄外の間質-血管画分(SVF)のマウス細胞の血管形成特性を、骨髄単核細胞(BM-MNC)と比較して説明する図である。
【図1−2】虚血後肢への注入後の、本発明の条件下で培養した髄外の間質-血管画分(SVF)のマウス細胞の血管形成特性を、骨髄単核細胞(BM-MNC)と比較して説明する図である。
【図2】本発明の条件下での間質-血管画分のヒト細胞の異種集団の拡大が同種細胞集団(SVF-CULT)の出現を効果的に促進することを示す図である。
【図3】ヒトSVF-CULT細胞が、虚血後肢への注入後に、内皮細胞前駆体の機能特性及び抗原特性を保有することを示す図である。
【図4】インビトロ条件下又はインビボに移植されたMatrigel(登録商標)マトリクス中でのSVF-CULT細胞の内皮細胞への分化を説明する図である。
【図5】二重増殖能を有する始原細胞又は前駆体への成熟脂肪細胞の脱分化を説明する図である。
【図6】内皮細胞を取得するための脂肪細胞系統の細胞の可塑性を説明する図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能的血管ネットワークの全体的又は部分的な再構築を意図する医薬品を製造するための、少なくとも表面抗原CD13及びHLA ABCを発現する同種亜集団を形成する髄質又は髄外の白色脂肪組織の細胞の使用。
【請求項2】
同種亜集団を形成する細胞が表面抗原CD34もまた発現することを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
脂肪組織細胞が、培養での制限細胞拡大により取得可能な髄外の間質-血管画分の細胞の同種亜集団に相当することを特徴とする請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
髄外の間質-血管画分の細胞の同種亜集団が、該細胞の10代未満の連続継代での制限細胞拡大により取得可能であることを特徴とする請求項3に記載の使用。
【請求項5】
脂肪組織細胞が成熟脱分化脂肪細胞の同種亜集団に相当することを特徴とする請求項1又は2に記載の使用。
【請求項6】
少なくとも表面抗原CD13及びHLA ABCを発現する同種亜集団を形成する脂肪組織細胞が固相又は半固相ポリマー支持体に結合していることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
固相ポリマー支持体が、以下の成分:コラーゲン、ラミニン及びプロテオグリカンの少なくとも1つを含む再構成基底膜マトリクス、並びに、以下の成分:フィブロネクチン、コラーゲン、ラミニン及びトロンボスポンディンの1つを含む再構成細胞外マトリクスからなる群より選択されることを特徴とする請求項6に記載の使用。
【請求項8】
ポリマー支持体がマトリクスを分解する酵素も、また酵素阻害剤及び成長因子も含むことができることを特徴とする請求項6又は7に記載の使用。
【請求項9】
半固相ポリマー支持体が好ましくはセルロース誘導体、特にメチルセルロースであることを特徴とする請求項6に記載の使用。
【請求項10】
細胞が遺伝的に改変されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
細胞が自己遺伝子の少なくとも1つの変異を含むことを特徴とする請求項10に記載の使用。
【請求項12】
細胞が異種遺伝子の少なくとも1つのコピーを含有することを特徴とする請求項10に記載の使用。
【請求項13】
細胞がヒト起源であることを特徴とする請求項10〜12のいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
機能的血管ネットワークの全体的又は部分的な再構築を意図する医薬品を製造するための、請求項1〜13のいずれか1項に規定する少なくとも表面抗原CD13及びHLA ABCを発現する同種亜集団を形成する髄質又は髄外の白色脂肪組織の細胞と、非経口投与又は部位内投与に適切な少なくとも1つのビヒクル及び/又は少なくとも1つの支持体とを含有する組成物の使用。
【請求項15】
請求項6〜9のいずれか1項に規定する固相又は半固相ポリマー支持体に結合された請求項1〜5及び10〜13のいずれか1項に規定する少なくとも表面抗原CD13及びHLA ABCを発現する同種亜集団を形成する髄質又は髄外の白色脂肪組織の細胞と、非経口投与又は部位内投与に適切な少なくとも1つのビヒクル及び/又は少なくとも1つの支持体とを含有する医薬組成物。
【請求項16】
少なくとも以下の工程:
− 内皮細胞の形成を刺激し得る少なくとも1つの成長因子と、任意に少なくとも1つの適切なサイトカインとを含む培地における、適切な固相培養支持体上での、連続継代が10代未満の、髄外の間質-血管画分の細胞又は成熟脱分化脂肪細胞の制限細胞拡大;
− 培養物の酸素環境の連続的又は一過性の改変;及び
− 細胞外又は細胞内媒体への酸化促進剤分子又は抗酸化剤分子の添加による、細胞のレドックス平衡又は細胞による活性酸素種の産生の連続的又は一過性の改変
を含むことを特徴とする少なくとも表面抗原CD13及びHLA ABCを発現する同種亜集団を形成する髄質又は髄外の白色脂肪組織の細胞を培養する方法。
【請求項17】
内皮細胞の形成を刺激し得る成長因子が、特にVEGF、好ましくは約10ng/mlの濃度のVEGFであることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
培養物の酸素環境が1%で、数時間〜数日であることを特徴とする請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
少なくとも以下の工程:
− 半固相ポリマー培養培地で、請求項1〜5及び10〜13のいずれか1項に規定する少なくとも表面抗原CD13及びHLA ABCを発現する同種亜集団を形成する髄質又は髄外の白色脂肪組織の細胞を培養する工程;
− このように取得した分化内皮細胞を試験すべき分子ライブラリと接触させる工程;及び
− 分化内皮細胞に対して活性な分子を同定し選択する工程
を含むことを特徴とする分化内皮細胞に対して活性な分子をスクリーニングする方法。

【図4】
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【図1−1】
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【図1−2】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−504204(P2007−504204A)
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−525167(P2006−525167)
【出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【国際出願番号】PCT/FR2004/002258
【国際公開番号】WO2005/025584
【国際公開日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(502205846)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィク (154)
【出願人】(500307823)ユニヴェルシテ ポール サバティエ (2)
【住所又は居所原語表記】118,route de Narbonne,F−31062 Toulouse Cedex 4 FRANCE
【出願人】(506075263)ユニヴェルシテ パリ セプト(デニス ディドロ) (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS VII(Denis Diderot)
【住所又は居所原語表記】2 Place Jussieu,F−75251 Paris Cedex 05,FRANCE
【出願人】(302013564)アンスティテュ ナシオナル ド ラ サント エ ド ラ ルシュルシェ メディカル (6)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE
【住所又は居所原語表記】101 rue de Tolbiac,F−75654 Paris Cedex 13,France
【Fターム(参考)】