説明

機能鋏

【課題】 一般的な鋏の切り方以外に、例えば飲薬袋の開封においては、切口をずらして飲みやすい形に切断することができるなど、用途に即した機能を付加して利便性を図れる機能鋏を提供する。
【解決手段】 一般的な鋏における一対の切断刃の内、少なくとも一方の切断刃の刃先前に平行させて摩擦棒を配し、切断に先駆けて被切断物と摺接して摩擦する手段を設けた。そしてこの摩擦棒に用途に適応した装備を取り付けることができるようにした。また、この摩擦棒の一端を切断刃と共に回動可能に軸着させて、被切断物と摺接する位置にも摺接しない位置にも移動して係止できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来の鋏に、用途に適応させた切り方ができる機能を付加した、機能鋏に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に鋏は、一対の切断刃同士を互いに交差させて、挟んだ物を単に切り離すための道具であって、刃物と同じように切れ味や切り易さにこだわって改良を重ねてきた経緯があり、切断刃の形状や、大きさや、切り方に特徴を持たせたものが数多く存在する。しかし、本来は切れ味や切り易さは素より、用途に適応して役立つ機能を兼備させ、利便性や作業効率の向上を追求した鋏が望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の鋏には、二枚重ねの紙を、一度の切断で異なる形状に切り分けたり、鋏の滑りを防止したり等、機能面から一歩踏み込んで改良した物は見当らなかった。例えば飲薬袋の開封では、切口が一つに揃ってしまう為に指で開けづらく、そして飲みづらく、また、毛髪や布地のカットでは、鋏の根元付近ほど挟み角が広くなるので小さい鋏ほど挟んだ物が逃げ易くなり、鋏に滑りが生じて切りづらく、巧くカットするには熟練を要していた。
【0004】
更に、鋏に付随した問題としては、例えばレトルト食品に使われているラミネートパックは、開けてしまうと残りを衛生的に保存しておくことができなかったこと、また、園芸の剪定作業では、感染予防の目的から樹木毎に鋏を取り替えるかあるいは追って消毒する必要があり、コストや手間の掛かる作業だったこと等がある。
【0005】
本発明は、このような問題を、従来の鋏に用途に即した機能を付加することにより解決し、切断作業の利便性や効率化を図れる機能鋏を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1では、一対の切断刃が互いに交差して開閉回動可能に軸着した鋏において、一対の切断刃の内少なくとも一方の切断刃の刃先前に平行させて摩擦棒を配し、切断に先駆けて被切断物と摺接して摩擦する手段を設けると共に、この摩擦棒の一端を切断刃と共に回動可能に軸着させて、被切断物と摺接する位置にも摺接しない位置にも移動して係止できるようにした。これにより、被切断物が二枚重ねの場合は、上記摩擦棒が切断の際に先駆けて重なり合う内の一枚と摺接して摩擦し、交差する両刃先間にその一枚を引き込もうとする力となって働き、その結果、それぞれ切られる方向が微妙に変わるので、一度の切断でも切口が重ならず、ずれた形に切断することが可能になる。また、上記摩擦棒を刃先前からもう一方の切断刃の峰附近に移動させて係止することにより、一般的な鋏としても使用することができる。
【0007】
請求項2では、上記摩擦棒に、摩擦調整用のパイプ状カバーを装着した。これにより、被切断物との摺接時の摩擦を、このパイプの材質や形状や長さで調整し、切口形状や切断ずれ幅を必要に応じて設定することができる。因みに被切断物が袋状の場合は、切り始めと終わりの端部が閉じているので切口を凹状と凸状に切り分けることが可能になる。
【0008】
請求項3では、上記摩擦棒に、切断逃げ防止用のコイル状カバーを装着した。これにより、このコイルが摩擦棒と切断刃との間に介在して被切断物に対する仕切りや押えの役目を果たし、挟まれた物は切断に先駆けて仕切られたり押えられたりして順次逃場を失うので、被切断物が逃げることで生じる鋏の滑りを防止することが可能になる。
【0009】
請求項4では、上記摩擦棒に、熱溶着用のパイプ状ヒーターを装着した。これにより、切断に先駆けてこのヒーターが被切断物と摺接し、被切断物がラミネートパック等の場合は、切断と同時に切り離す側の切口を押圧しながらシールすることが可能になる。
【0010】
請求項5では、上記摩擦棒に、噴霧用のパイプ状シャワーノズルを装着した。これにより、蒸気や液体をこのノズルに圧送して、切断と同時に刃先や切口の周辺に蒸気や液体を噴霧することが可能になる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の機能鋏は、以下に記載されるような効果を有する。
【0012】
被切断物が二枚重ねの場合には、摺接する上記摩擦棒により、切口をずらして切り離せるので切口の段差に指が掛かり、分離し易くすることができる。また、上記摩擦棒を被切断物と摺り合わない位置に係止させて、一般的な鋏としても使用することができる。
【0013】
更に、飲み薬袋等の場合には、上記摩擦棒にパイプ状カバーを装着して摺接時の摩擦を調整することにより、切口を凹状と凸状に切り分けることが可能になる。これは筒状に開くと切断面が斜めになっているために、薬袋を傾斜させて凸状側を口元に当てることで頭を後ろに反らさなくても良く、高齢者においでもこぼさず飲み切ることが容易になる。
【0014】
次に、被切断物が毛髪のようにカールして束になった物や厚い布地のような場合でも、上記摩擦棒にコイル状カバーを装着することで、鋏が滑らずに楽に切り進めることが可能になる。また、両刃先の交差が最も危険な鋏にあって、本発明は少なくとも片方の刃先が上記摩擦棒によりカバーされている為に安全性が高く、例えばペットのカットに用いた場合、作業中に少しぐらい動かれても傷つける恐れが少ないので安心である。
【0015】
次に、レトルト食品等で使われているラミネートパックの開封の場合には、上記摩擦棒にパイプ状ヒーターを装着することで、例えば半分残したい時等、予め中身を両端に振り分け中心部を切断することにより、パイプ状ヒーターがパックと摺り合い、切断と同時に残す側の中身を扱いて切口を押圧しながら熱溶着することができるので、内容物の挟まりによるシール漏れを防ぐことができ、空気接触無しに衛生的にシールを完了して継続保存することが可能になる。また、これを園芸等で使用すれば、刃先や切口の熱殺菌が切断と同時に行えるので効率的な感染予防ができる。
【0016】
次に、剪定作業で使用する場合には、上記摩擦棒にパイプ状シャワーノズルを装着し、そこに加圧した高温蒸気や消毒液等を送り込み噴霧することにより、剪定作業と刃先や枝の切口周辺の殺菌消毒作業を同時進行できるので効率的な作業ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図1〜図8に基づいて説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態を示す分解斜視図であり、取手の付いた一対の切断刃1と2、摩擦棒3、偏心カラー4及びこれに嵌合する調整つまみ5により構成され、それぞれが有する回動軸孔に軸ボルト6と軸ナット7を通して組み付けるようすを分解して図示したものであり、これらは支点を中心にしてそれぞれが回動可能に軸着している。因みに機能鋏の場合には摩擦棒取手部3dをつまんで係止部3cを切断刃2の被係止穴2cに落し込む方法で係止させ、摩擦棒棒状部3aを切断刃2の刃先前に配して使用する。また同様にして、係止部3cを今度は切断刃1の被係止穴1cに移動することで摩擦棒棒状部3aが切断刃1の峰付近に留まるので被切断物と摺接しなくなり、通常の鋏として使用することが可能になる。尚、摩擦棒3は、弾性と耐磨耗性に優れた材料で、表面を粗面に仕上げた物が適当であり、例えばステンレスのばね材をヘアライン仕上等にして摩擦効果を高めて使用してもよい。
【0019】
図2は、本機能鋏の支点である回動軸部分の拡大断面図であり、切断刃1と摺接する切断刃2の側面に摩擦棒3のループ部3bを配し、これを、偏心カラー4を嵌合させた調整つまみ5で押圧しながら両側より軸ボルト6と軸ナット7で締め付けてあり、常に摩擦棒棒状部3aを切断刃1側に押圧する方向に付勢してある。
【0020】
そしてこの支点部分は、摩擦棒棒状部3aに装着するパイプやコイルの太さに違いがあっても刃先と摩擦棒を平行に保つように調整できるようにしたものであり、調整つまみ5を回すことにより、中心からずれた位置に回動軸孔を有する偏心カラー4を軸にしたループ部3bが回動軸を移動し、摩擦棒の支点からの距離を装着する物の太さに応じて調整することが可能になる。また、この回動軸調整機構の偏心カラー4の片面は斜盤を形成しているので、そこに嵌合する調整つまみ5により、つまみの回転に応じてループ部3bの収まる隙間を制限させて、摩擦棒と被切断物との摺接圧力を調節することもできる。
【0021】
尚、回動軸調整機構の偏心カラー4と調整つまみ5は組み合わせて一体としてもよく、この場合はループ部3bとの圧接面となるフランジ部を傾斜させるか、またはそれに代わる突起を一部に付ける方法もある。そして本発明が選択できる複数の機能は、それぞれの機能を単独に持つ専用鋏としてもよく、この場合には回動軸調整機構は不要になるので、単純に回動軸孔をあけた摩擦棒をプレス加工等で作ってもよい。そして、更に鋏の両側から摩擦棒をそれぞれ軸着させて両刃先前に配してもよい。また、一般的な鋏としての摺動感を良くするために、切断刃2と偏心カラー4の間にループ部3bと同径程度のワッシャーを入れてもよい。
【0022】
図3は、摩擦棒3にパイプ状カバー31を装着して薬袋8を切る直前の断面図であり、摩擦棒3の外周に被せたパイプ状カバー31が切断刃2の刃先2a前に位置し、切断に先駆けて薬袋と摺接し、袋上側8a一枚を徐々に摩擦し始めている様子を示す。
【0023】
図4は、前記薬袋8を切り始めた時の断面図であり、摩擦調整用のパイプ状カバー31が袋上側8a一枚をさらに摩擦して交差間際の両刃先間に引き摺り、続けて切断刃1,2の交差により袋の上側と下側がずれた状態で切断される様子を示す。
【0024】
図5は、前記薬袋8を切り終えた時の上側面図であり、袋上側8aと袋下側8bがそれぞれ凹状と凸状に切り分けられ、飲みやすい切口に切断された様子を示す。また、薬袋8の切り離された最後の部分は、切断刃1とパイプ状カバー31の間に挟まれて保持されるので飛散することがない。尚、このパイプ状カバーは、シリコーンや合成ゴム等の樹脂製パイプやローレット加工等した金属製パイプ等、被切断物の材質に合わせて摩擦相性の良い材質を選定する事で効果を高めることができる。
【0025】
図6は、摩擦棒3にコイル状カバー32を装着した状態の下側面図であり、このコイル状カバー32と切断刃1の間にはコイル線材分の高さと螺旋のピッチ幅で仕切られた空間が確保されているので、毛髪等の場合にはこの仕切りが被切断物の移動を妨げ、布地等の場合にはコイル自身が布逃げを食い止める押さえになって働き、いずれの場合にも鋏の滑りを防止しすることができるので切断が容易になる。尚、コイル状カバー32は、ステンレスのコイルばね等を用いて、内径が摩擦棒よりも若干大きめの方が摩擦棒3の先端より装着しやすく適当であるが、その場合は抜け落ちない程度に端部の径を小さくしたほうがよい。
【0026】
図7は、摩擦棒3にパイプ状ヒーター33を装着した状態の斜視図であり、このヒーターは摩擦棒3の先端より差し込みネジ等で固定した後、電気を通せば設定温度を保てるようにしてあり、ラミネートパック等の場合は、このヒーターが切断に先駆けて摺接し、切口を押圧しながら加熱して切断と同時に残す側の溶着が可能になる。また、このヒーターは園芸等では剪定鋏の刃先や切口の熱殺菌に利用でき、刃先の形を園芸用に替えてヒーターもそれに合わせれば更に扱いやすくなる。
【0027】
図8は、摩擦棒3にパイプ状シャワーノズル34を装着した状態の斜視図であり、この図は通常の機能使用時とは異なり摩擦棒係止部3cを切断刃1の被係止穴1cに移動して係止させた状態を示しノズルを上向きにしてある。尚、このノズルは内外二重のパイプからなり、内パイプの内径は摩擦棒3よりも若干大きめにしてあり、摩擦棒3の先端より差し込み回転可能に装着されている、また、外パイプには複数のノズルが装備してあり、加圧した高温蒸気や消毒液等を内外パイプの空間内に送り込み刃先1a及び2aに向かってシャワー状に噴霧することができる。そして場合によっては摩擦棒係止部3cを被係止穴2cに移動してノズルを下向きに回転させて使用することもできる。また、刃先の形を園芸用に替えれば更に扱いやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】 本発明の実施形態を示す機能鋏の分解斜視図
【図2】 同機能鋏の回動軸部分の断面図
【図3】 同摩擦棒にパイプ状カバーを装着して袋を切る直前の断面図
【図4】 同摩擦棒にパイプ状カバーを装着して袋を切り始めた時の断面図
【図5】 同摩擦棒にパイプ状カバーを装着して袋を切り終えた時の上側面図
【図6】 同摩擦棒にコイル状カバーを装着した状態の下側面図
【図7】 同摩擦棒にパイプ状ヒーターを装着した状態の斜視図
【図8】 同摩擦棒にパイプ状シャワーノズルを装着した状態の斜視図
【符号の説明】
【0029】
1、2 切断刃
1a、2a 刃先
1b、2b 回動軸孔
1c、2c 被係止穴
3 摩擦棒
3a 棒状部
3b ループ部
3c 係止部
3d 取手部
4 偏心カラー
5 調整つまみ
6 軸ボルト
7 軸ナット
8 薬袋
8a 袋上側
8b 袋下側
31 パイプ状カバー
32 コイル状カバー
33 パイプ状ヒーター
34 パイプ状シャワーノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の切断刃が互いに交差して開閉回動可能に軸着した鋏において、一対の切断刃の内少なくとも一方の切断刃の刃先前に平行させて摩擦棒を配し、切断に先駆けて被切断物と摺接して摩擦する手段を設けると共に、この摩擦棒の一端を切断刃と共に回動可能に軸着させて、被切断物と摺接する位置にも摺接しない位置にも移動して係止できるようにしたことを特徴とする機能鋏。
【請求項2】
上記摩擦棒に、摩擦調整用のパイプ状カバーを装着したことを特徴とする請求項1記載の機能鋏。
【請求項3】
上記摩擦棒に、切断逃げ防止用のコイル状カバーを装着したことを特徴とする請求項1記載の機能鋏。
【請求項4】
上記摩擦棒に、熱溶着用のパイプ状ヒーターを装着したことを特徴とする請求項1記載の機能鋏。
【請求項5】
上記摩擦棒に、噴霧用のパイプ状シャワーノズルを装着したことを特徴とする請求項1記載の機能鋏。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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