説明

欠陥の低減方法

【解決手段】露光光に対して透明な基板上に、珪素と窒素と酸素とを含み、該酸素の含有量が7at%以上30at%以下である光機能性膜を、酸素含有ガスを含む雰囲気中でスパッタ成膜し、スパッタ成膜後、得られた光機能性膜を、該光機能性膜上に他の膜が積層されていない状態で、酸素含有ガスを含む雰囲気中で熱処理して得られたフォトマスクブランクを用いてマスクパターンを形成したフォトマスクを用いて、マスクパターンを転写する。
【効果】本発明のフォトマスクブランクから得られるフォトマスクを用いることで、ステッパーやスキャナーで長期間使用していても、フォトマスクを構成する窒素を含有する膜から放出される成分に起因して生成するアンモニアを含む物質(例えば、硫酸アンモニウム等)に由来する欠陥の発生を少なくすることができ、フォトリソグラフィー法を用いた半導体回路製造時の歩留低下を抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体集積回路などの製造に用いられるフォトマスクを用いたマスクパターンの転写における欠陥の低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IC、LSI、VLSI等の半導体集積回路の製造をはじめとして、広範囲な用途に用いられているフォトマスクとして、透光性基板上に遮光膜がスパッタ法により成膜されたバイナリ型フォトマスクブランクの遮光膜に、フォトリソグラフィー法を応用して紫外線や電子線などを使用することにより、所定のパターンを形成したものがある。
【0003】
また、遮光膜を有するフォトマスクの他に、位相シフトマスクがあり、微細パターンを転写するためのマスクとして位相シフトマスクが使用されている。位相シフトマスクは、位相シフター部の光透過特性によって、完全透過型位相シフトマスクとハーフトーン型位相シフトマスクとに実用的には大別することができる。
【0004】
完全透過型位相シフトマスクは、位相シフター部の光の透過率が基板露出部と同等で、露光波長に対して透明なマスクであり、通常、透光性基板を所定の位相差が得られるように掘り込んで作製される。
【0005】
一方、ハーフトーン型位相シフトマスクは、位相シフター部の光透過率が基板露出部の数%〜数十%程度のもので、ハーフトーン位相シフト膜は、通常スパッタリングによって成膜される。マスクとして使用する際の露光光に対して透明な基板上に、所望の位相差と透過率が得られるように、金属とシリコンの組成を調整した金属シリサイドターゲットを放電させ、又はそれぞれのターゲットにかかる電力が調整された金属シリサイドとシリコンのターゲットを同時放電させ、放電中に酸素や窒素を含むガスを添加しながら位相シフト膜が成膜されて、位相シフトマスクブランクが得られる。このようにして得られた位相シフトマスクブランクから、EBレジスト等を使用したリソグラフィー、エッチング等を行うことで位相シフトマスクが得られる。
【0006】
そして、このようにして製造したフォトマスクをステッパーやスキャナーにセットし、ウェハー上のレジストを感光させてマスクパターンをウェハー上に転写させて半導体回路が形成される。
【0007】
近年、ステッパーやスキャナーで窒素を含有する膜を備えるフォトマスクを長く使用していると、フォトマスク表面に、膜から放出された成分に起因して、アンモニアを含む物質(硫酸アンモニウムと考えられている)に由来する欠陥が発生し、ウェハー上にマスクパターンを転写する際の歩留を低下させる問題が発生している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3064769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、ウェハー上にマスクパターンを転写する際、フォトマスクを構成する窒素を含有する膜から放出される成分に起因して生成するアンモニアを含む物質(例えば、硫酸アンモニウム等)に由来する欠陥を低減して、ウェハーへのパターン転写の歩留を向上させることができる欠陥の低減方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、基板上に、珪素と窒素と酸素とを含む光機能性膜、好ましくは更に金属を含む光機能性膜を備えるフォトマスクブランクとして、アンモニアを含む物質による欠陥の発生原因となるアンモニアイオンの発生量の少ない高品位なフォトマスクを与えるフォトマスクブランクを、露光光に対して透明な基板上に、珪素と窒素と酸素とを含み、好ましくは更に金属を含み、酸素の含有量が7at%以上である光機能性膜を、酸素含有ガスを含む雰囲気中でスパッタ成膜し、スパッタ成膜後、得られた光機能性膜を、この光機能性膜上に他の膜が積層されていない状態で、酸素含有ガスを含む雰囲気中で熱処理することにより製造することができることを見出した。
【0011】
そして、特に、フォトマスクブランク用6025石英基板上に、金属と珪素と窒素と酸素とを含み、膜厚が50〜150nmの位相シフト膜を備えるフォトマスクブランクにあっては、上記位相シフト膜を、この位相シフト膜が基板上に成膜され、かつ位相シフト膜上に他の膜が積層されていない状態で、90℃の純水100mLに120分間浸漬処理したとき、処理後の純水中に含まれる上記位相シフト膜から純水に溶出した成分由来のアンモニウムイオンの量が10000ng以下であるものが有効であり、このようなフォトマスクブランクを上記した方法によって製造することができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0012】
即ち、本発明は、下記欠陥の低減方法を提供する。
請求項1:
珪素と窒素と酸素とを含む光機能性膜を備えるフォトマスクのマスクパターンの転写において、フォトマスクを構成する窒素を含有する上記光機能性膜から放出される成分に起因して生成するアンモニアを含む物質に由来する欠陥を低減する方法であって、
露光光に対して透明な基板上に、珪素と窒素と酸素とを含み、該酸素の含有量が7at%以上30at%以下である光機能性膜を、酸素含有ガスを含む雰囲気中でスパッタ成膜し、
スパッタ成膜後、得られた光機能性膜を、該光機能性膜上に他の膜が積層されていない状態で、酸素含有ガスを含む雰囲気中で熱処理することにより得られたフォトマスクブランクを用いてマスクパターンを形成したフォトマスクを用いて、マスクパターンを転写することを特徴とする欠陥の低減方法。
請求項2:
上記熱処理を、酸素ガスを5容量%以上100容量%未満で含む酸素ガスと不活性ガスとの混合ガス雰囲気中で、250℃以上の温度で5時間以上行うことを特徴とする請求項1記載の欠陥の低減方法。
請求項3:
上記光機能性膜が更に金属を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の欠陥の低減方法。
請求項4:
上記光機能性膜が位相シフト膜であることを特徴とする請求項1又は2記載の欠陥の低減方法。
請求項5:
上記位相シフト膜が更に金属を含むことを特徴とする請求項4記載の欠陥の低減方法。
請求項6:
上記フォトマスクブランクが、フォトマスクブランク用6025石英基板上に、金属と珪素と窒素と酸素とを含み、膜厚が50〜150nmの位相シフト膜を備えるフォトマスクブランクであって、
上記位相シフト膜を、該位相シフト膜が基板上に成膜され、かつ上記位相シフト膜上に他の膜が積層されていない状態で、90℃の純水100mLに120分間浸漬処理したとき、処理後の液に含まれる上記位相シフト膜から純水に溶出した成分由来のアンモニウムイオンの量が10000ng以下であることを特徴とする請求項5記載の欠陥の低減方法。
請求項7:
上記フォトマスクブランクが、上記熱処理後に、上記熱処理された位相シフト膜上に、更に、遷移金属と、酸素、窒素及び炭素から選ばれる少なくとも1種とを含み、珪素を含まない他の膜を成膜したフォトマスクブランクであることを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1項記載の欠陥の低減方法。
請求項8:
上記他の膜が遮光膜又は反射防止膜であることを特徴とする請求項7記載の欠陥の低減方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のフォトマスクブランクから得られるフォトマスクを用いることで、ステッパーやスキャナーで長期間使用していても、フォトマスクを構成する窒素を含有する膜から放出される成分に起因して生成するアンモニアを含む物質(例えば、硫酸アンモニウム等)に由来する欠陥の発生を少なくすることができ、フォトリソグラフィー法を用いた半導体回路製造時の歩留低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のフォトマスクブランクの一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
本発明のフォトマスクブランクは、基板上に、珪素と窒素と酸素とを含む光機能性膜を備えるフォトマスクブランクであり、図1に示されるように、石英等の露光光が透過する透明基板1上に、スパッタ装置を用いたスパッタリングなどによって光機能性膜2を、少なくとも1層(図1では1層のものを示した)成膜したものである。
【0016】
近年、半導体素子の微細化が進み、露光波長の短波長化が進み、露光波長が193nmとなって以降、珪素と共に窒素を含む、位相シフト膜などの光機能性膜を備えるフォトマスク、特にMo等の金属と珪素と共に窒素を含む、位相シフト膜などの光機能性膜を備えるフォトマスクが使用されている。このような珪素と共に窒素を含む光機能性膜を有するフォトマスクを使い続けていると、フォトマスク上に、徐々に欠陥が発生し、歩留を低下させる問題が起きている。この欠陥の原因が、硫酸アンモニウムの析出物であるという報告があることから、硫酸アンモニウムによる欠陥発生物質の原因とされる硫酸やアンモニアを、フォトマスクを構成する膜から発生させないことが求められる。
【0017】
位相シフト膜などの光機能性膜に、珪素と共に窒素が含まれる場合、特に、金属と珪素と共に窒素が含まれる場合、この窒素が何らかの反応によりアンモニアを生成する主原料となり得る。実際に、金属と珪素と共に、窒素を含む光機能性膜が成膜されたフォトマスクブランクを温純水に浸漬した後の溶液を分析すると、アンモニウムイオンが検出される。
【0018】
そこで、本発明では、このようなフォトマスクブランクを、露光光に対して透明な基板上に、珪素と窒素と酸素とを含み、好ましくは更に金属を含み、酸素の含有量が7at%以上である膜を、酸素含有ガスを含む雰囲気中でスパッタ成膜し、スパッタ成膜後、得られた光機能性膜を、この光機能性膜上に他の膜が積層されていない状態で、酸素含有ガスを含む雰囲気中で熱処理することにより製造する。
【0019】
本発明のように、珪素と窒素と酸素とを含む光機能性膜の成膜時に、酸素含有ガスを添加して成膜すること(即ち、光機能性膜は、更に酸素とを含むものとなる)と、成膜後に酸素含有ガスを含む雰囲気で熱処理を行うことによって、珪素と窒素とを含む光機能性膜からのアンモニアの発生を低減することができる。即ち、本発明の方法で光機能性膜を成膜したフォトマスクブランクから作製したフォトマスクでは、フォトマスクを用いたパターン露光中におけるアンモニア発生量が少なく、アンモニアが含まれる析出物を低減することができ、半導体素子製作時のリソグラフィー工程での歩留低下を防ぐことができる。
【0020】
このような光機能性膜は、例えば、スパッタ法により成膜される。スパッタ法は真空中にアルゴンなどのガスを導入し、膜の材料元素からなるターゲットに電圧をかけてガスをイオン化し、ターゲットにガスイオンが衝突した際にターゲット材が弾き飛ばされてスパッタ微粒子化し、飛ばされたスパッタ微粒子を、膜を成膜したい基板上に堆積させて成膜する方法である。
【0021】
珪素と窒素と酸素とを含む光機能性膜を成膜する方法としては、珪素(Si)を含むターゲットを用いてスパッタすることにより成膜する方法が挙げられる。金属と珪素と窒素と酸素とを含む光機能性膜を成膜する方法としては、金属及び/又は珪素(Si)を含むターゲットを用いてスパッタすることにより成膜する方法が挙げられる。
【0022】
後者の場合、ターゲットとしては、金属のみを含むターゲット、珪素のみを含むターゲット、金属と珪素との双方を含むターゲットのいずれをも用い得る。ターゲットは、成膜する光機能性膜の金属及び珪素の含有量に応じて、ターゲットの種類、ターゲット数、ターゲットに含まれる金属と珪素との比率などを適宜変更することができ、また、各ターゲットに印加する電圧を調整することによっても金属と珪素との比率を調整することが可能である。
【0023】
光機能性膜の金属としては、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、タングステン(W)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)等の遷移金属などが挙げられる。
【0024】
本発明において、スパッタリング方法は、直流電源を用いたものでも高周波電源を用いたものでもよく、また、マグネトロンスパッタリング方式であっても、コンベンショナル方式であってもよい。
【0025】
また、成膜時にAr、He、Ne、Kr等の希ガスに、窒素含有ガス、酸素含有ガスを添加して成膜する。窒素含有ガスとしては、N2ガス、N2O等の酸化窒素が好適に用いられる。酸素含有ガスとしては、O2ガスなどの単体ガスを用いてもよいし、N2O等の酸化窒素を用いてもよい。酸化窒素の場合、窒素含有ガスでもあり、酸素含有ガスでもあることから、これのみで、窒素含有ガスと酸素含有ガスの両方のガスとしてもよい。窒素含有ガス及び酸素含有ガスの導入量は、成膜する光機能性膜の窒素及び酸素の含有量に応じて、適宜調整すればよい。
【0026】
例えば、珪素及び窒素の含有量(金属を含む場合は、金属、珪素及び窒素の含有量)は、光機能性膜の機能に応じて適宜設定されるが、例えば、光機能性膜が、珪素、窒素及び酸素を含む位相シフト膜の場合、珪素は30〜50at%、窒素は5〜50at%、金属、珪素、窒素及び酸素を含む位相シフト膜の場合、金属は1〜20at%、珪素は20〜50at%、窒素は5〜50at%とすることができる。また、本発明の光機能性膜は、更に炭素を含むものであってもよい。膜厚は、光機能性膜が位相シフト膜である場合、50nm以上とすることが好ましく、また、150nm以下とすることが好ましい。
【0027】
一方、酸素の含有量であるが、本発明においては、フォトマスク使用時のアンモニアの発生を抑制する効果の観点から、スパッタにより成膜された光機能性膜中の酸素の含有量、即ち、後述する酸素含有ガスを含む雰囲気中で熱処理する前の光機能性膜中の酸素の含有量が、7at%(7原子%)以上であることが必要である。しかし、光機能性膜の酸素含有量は、酸素含有量が高すぎると、膜の屈折率を低下させてしまうため、例えば、光機能性膜が位相シフト膜の場合、同一位相差を得るための膜厚が厚くなり、フォトマスク製作時の膜をエッチングするプロセスが困難になる問題があるため、酸素含有量を上げすぎないほうがよい。このような観点から、光機能性膜中の酸素含有量は、50%以下、望ましくは30at%以下がよい。なお、酸素を含有する雰囲気下での加熱処理について後述するが、この加熱処理では、膜の最表面部を除く部分の酸素含有量はほとんど変化せず、膜全体としての酸素含有量は実質的に変化しないため、酸素含有量はスパッタリング時に設計値に調整すればよい。
【0028】
スパッタ成膜後、得られた光機能性膜には、この光機能性膜上に他の膜が積層されていない状態で、酸素含有ガスを含む雰囲気中で熱処理が施される。酸素含有ガスを含む雰囲気中で熱処理することにより、光機能性膜からのアンモニアの発生を減らすことができる。
【0029】
この場合、酸素含有ガスを含む雰囲気としては、酸素ガス(O2)ガスのみ(酸素ガス濃度100容量%)を用いることも可能であるが、通常は、酸素ガスと不活性ガス(例えば、窒素(N2)ガス、希ガス(Ar、He、Ne、Kr等))との混合ガスを用いることが好ましい。この場合、酸素ガス濃度は、例えば5容量%以上100容量%未満とすることができ、典型的には大気(air)を用いることができる。
【0030】
熱処理は、温度250℃以上で実施することが好ましい。熱処理温度は高すぎると基板の変形を伴うようになるおそれがあり、特に、高平坦度を維持するためには600℃以下とすることが好ましい。また、処理時間は5時間以上とすることが好ましい。処理時間の上限は、処理温度にもよるが、経済性を考慮すれば、通常10時間程度以下とすることが好ましい。
【0031】
また、熱処理した位相シフト膜上には、更に、少なくとも遷移金属(例えば、クロム(Cr)など)と、酸素、窒素及び炭素から選ばれる少なくとも1種とを含み、珪素を含まない他の膜を成膜することができる。このような他の膜としては、遮光膜、反射防止膜などが挙げられる。具体的には、位相シフト膜上に、遮光膜を設ける場合、例えば、位相シフト膜上に、Cr系等の遮光膜のみを設けたもの、遮光膜を設け、遮光膜上に、更に、遮光膜からの反射を低減させるCr系等の反射防止膜を設けたものなどが挙げられる。また、位相シフト膜上に、反射防止膜を設けたものとしては、基板側から位相シフト膜、Cr系等の第1の反射防止膜、Cr系等の遮光膜、Cr系等の第2の反射防止膜を順に設けたものが挙げられる。
【0032】
この場合、Cr系遮光膜又はCr系反射防止膜としてはクロム酸化物(CrO)、クロム酸化窒化物(CrON)、クロム酸化炭化物(CrOC)若しくはクロム酸化窒化炭化物(CrONC)又はこれらを積層したものを用いることが好ましい。
【0033】
このようなCr系遮光膜及びCr系反射防止膜は、クロム単体、又はクロムに酸素、窒素、炭素のいずれか若しくはこれらを組み合わせたものを添加したターゲットを用い、Ar、He、Ne、Kr等の希ガスに、成膜する膜の組成に応じて、酸素含有ガス、窒素含有ガス及び炭素含有ガスから選ばれるガスを適宜添加したスパッタガスを用いた反応性スパッタリングにより成膜することができる。
【0034】
なお、光機能性膜として位相シフト膜を主に例示したが、珪素と窒素と酸素とを含む光機能性膜、特に、金属と珪素と窒素と酸素とを含む光機能性膜であれば、これに限定されるものではなく、遮光膜、反射防止膜などにおいても、同様にアンモニアの発生を抑制することができる。これらの膜は、位相シフト膜と共に基板上に設けられる膜であってもよい。また、このような光機能性膜を備えるフォトマスクブランクであれば、位相シフトマスクブランクに限られず、バイナリ型フォトマスクブランクなどであってもよい。
【0035】
本発明のフォトマスクブランクの製造方法によれば、ウェハー上へのパターン転写に用いられるフォトマスクの素材となる6025サイズ(6インチ(約152.4mm)×6インチ(約152.4mm)×0.25インチ(約6.35mm))の位相シフトマスクブランクの場合、フォトマスクブランク用6025石英基板上に、金属と珪素と窒素と酸素とを含み、膜厚50〜150nmの位相シフト膜を備えるフォトマスクブランクにおいて、この位相シフト膜が基板上に成膜され、かつ位相シフト膜上に他の膜が積層されていない状態で、90℃の純水100mLに120分間浸漬処理したとき、処理後の液に含まれる上記位相シフト膜から純水に溶出した成分由来のアンモニウムイオンの量が10000ng以下となり、アンモニアを含む物質による欠陥の発生原因となるアンモニアイオンの発生量の少ない高品位な位相シフトマスクを与える位相シフトマスクブランクを提供することができる。なお、純水に溶出したアンモニウムイオンの量は、イオンクロマトグラフィーを用いて定量することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0037】
[実施例1]
6025石英基板上に、カソードを2つ有するスパッタ装置にて、カソードとして片方にモリブデンシリサイド(MoSi)ターゲット、他方にシリコン(Si)ターゲットを用い、導入するガスをAr:5sccm、N2:50sccm、O2:4sccmの条件として位相シフト膜を成膜した。この位相シフト膜は、193nmでの位相差が157度、透過率が17%、膜厚が795Å(79.5nm)であり、酸素含有量は27at%であった。次に、基板上に成膜した位相シフト膜に対して、大気雰囲気中で、300℃、6時間の熱処理を行い、位相シフトマスクブランクを得た。熱処理後の位相シフト膜中の酸素含有量は27at%であった。
【0038】
この位相シフトマスクブランクを90℃の純水100mL中に120分浸漬させ、その浸漬処理液をイオンクロマトグラフィーで分析したところ、処理液中のアンモニアイオン量は、位相シフトマスクブランク1枚当たり1670ngであった。
【0039】
[実施例2]
6025石英基板上に、カソードを2つ有するスパッタ装置にて、カソードとして片方にモリブデンシリサイド(MoSi)ターゲット、他方にシリコン(Si)ターゲットを用い、導入するガスをAr:5sccm、N2:50sccm、O2:1.3〜3.0sccm(段階的に変化)の条件として位相シフト膜を成膜した。この位相シフト膜は、193nmでの位相差が176度、透過率が4.9%、膜厚が750Å(75nm)であり、酸素含有量は7〜15at%であった。次に、基板上に成膜した位相シフト膜に対して、大気雰囲気中で、300℃、6時間の熱処理を行い、位相シフトマスクブランクを得た。熱処理後の位相シフト膜中の酸素含有量は7〜15at%であった。
【0040】
この位相シフトマスクブランクを90℃の純水100mL中に120分浸漬させ、その浸漬処理液をイオンクロマトグラフィーで分析したところ、処理液中のアンモニアイオン量は、位相シフトマスクブランク1枚当たり2600ngであった。
【0041】
[実施例3,4]
実施例1,2と同様の方法で作製した位相シフトマスクブランクの上に、更に、Crターゲットを用い、導入するガスをAr:8〜20sccm、N2:1〜30sccm、O2:1〜20sccm(段階的に変化)の条件として、熱処理後の位相シフト膜上に、更にCrON遮光膜(膜厚460Å(46nm))を形成した位相シフトマスクブランクを得た。
【0042】
[比較例1]
6025石英基板上に、カソードを2つ有するスパッタ装置にて、カソードとして片方にモリブデンシリサイド(MoSi)ターゲット、他方にシリコン(Si)ターゲットを用い、導入するガスをAr:5sccm、N2:50sccmの条件として位相シフト膜を成膜した。この位相シフト膜は、193nmでの位相差が178度、透過率が6%、膜厚が680Å(68nm)であり、酸素含有量は0at%であった。次に、基板上に成膜した位相シフト膜に対して、大気雰囲気中で、300℃、6時間の熱処理を行い、位相シフトマスクブランクを得た。熱処理後の位相シフト膜中の酸素含有量は0at%であった。
【0043】
この位相シフトマスクブランクを90℃の純水100mL中に120分浸漬させ、その浸漬処理液をイオンクロマトグラフィーで分析したところ、処理液中のアンモニアイオン量は、位相シフトマスクブランク1枚当たり117380ngであった。
【0044】
[比較例2]
6025石英基板上に、カソードを2つ有するスパッタ装置にて、カソードとして片方にモリブデンシリサイド(MoSi)ターゲット、他方にシリコン(Si)ターゲットを用い、導入するガスをAr:5sccm、N2:40sccmの条件として位相シフト膜を成膜した。この位相シフト膜は、193nmでの位相差が190度、透過率が5%、膜厚が710Å(71nm)であり、酸素含有量は0at%であった。次に、基板上に成膜した位相シフト膜に対して、大気雰囲気中で、300℃、6時間の熱処理を行い、位相シフトマスクブランクを得た。熱処理後の位相シフト膜中の酸素含有量は0at%であった。
【0045】
この位相シフトマスクブランクを90℃の純水100mL中に120分浸漬させ、その浸漬処理液をイオンクロマトグラフィーで分析したところ、処理液中のアンモニアイオン量は、位相シフトマスクブランク1枚当たり124450ngであった。
【0046】
上記のように、金属と珪素と窒素と酸素とを含む膜の成膜において、酸素含有ガスを導入し、酸素含有量が7%以上である膜を成膜し、その後、この膜に対して、250℃以上の温度で5時間以上熱処理を行うことで、90℃の純水100mL中に120分間浸漬したときに、純水中に溶出した成分由来のアンモニウムイオン量が10000ng以下であるフォトマスクブランクを得ることができる。このようなフォトマスクブランクから、フォトマスクを製作し、これを露光に用いた場合、露光時にアンモニアを含む析出物による欠陥が発生しにくく、本発明のフォトマスクブランクは、パターン転写の歩留を向上させることができる高品位のフォトマスクブランクである。
【符号の説明】
【0047】
1 透明基板
2 光機能性膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪素と窒素と酸素とを含む光機能性膜を備えるフォトマスクのマスクパターンの転写において、フォトマスクを構成する窒素を含有する上記光機能性膜から放出される成分に起因して生成するアンモニアを含む物質に由来する欠陥を低減する方法であって、
露光光に対して透明な基板上に、珪素と窒素と酸素とを含み、該酸素の含有量が7at%以上30at%以下である光機能性膜を、酸素含有ガスを含む雰囲気中でスパッタ成膜し、
スパッタ成膜後、得られた光機能性膜を、該光機能性膜上に他の膜が積層されていない状態で、酸素含有ガスを含む雰囲気中で熱処理することにより得られたフォトマスクブランクを用いてマスクパターンを形成したフォトマスクを用いて、マスクパターンを転写することを特徴とする欠陥の低減方法。
【請求項2】
上記熱処理を、酸素ガスを5容量%以上100容量%未満で含む酸素ガスと不活性ガスとの混合ガス雰囲気中で、250℃以上の温度で5時間以上行うことを特徴とする請求項1記載の欠陥の低減方法。
【請求項3】
上記光機能性膜が更に金属を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の欠陥の低減方法。
【請求項4】
上記光機能性膜が位相シフト膜であることを特徴とする請求項1又は2記載の欠陥の低減方法。
【請求項5】
上記位相シフト膜が更に金属を含むことを特徴とする請求項4記載の欠陥の低減方法。
【請求項6】
上記フォトマスクブランクが、フォトマスクブランク用6025石英基板上に、金属と珪素と窒素と酸素とを含み、膜厚が50〜150nmの位相シフト膜を備えるフォトマスクブランクであって、
上記位相シフト膜を、該位相シフト膜が基板上に成膜され、かつ上記位相シフト膜上に他の膜が積層されていない状態で、90℃の純水100mLに120分間浸漬処理したとき、処理後の液に含まれる上記位相シフト膜から純水に溶出した成分由来のアンモニウムイオンの量が10000ng以下であることを特徴とする請求項5記載の欠陥の低減方法。
【請求項7】
上記フォトマスクブランクが、上記熱処理後に、上記熱処理された位相シフト膜上に、更に、遷移金属と、酸素、窒素及び炭素から選ばれる少なくとも1種とを含み、珪素を含まない他の膜を成膜したフォトマスクブランクであることを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1項記載の欠陥の低減方法。
【請求項8】
上記他の膜が遮光膜又は反射防止膜であることを特徴とする請求項7記載の欠陥の低減方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−212180(P2012−212180A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−163314(P2012−163314)
【出願日】平成24年7月24日(2012.7.24)
【分割の表示】特願2008−163058(P2008−163058)の分割
【原出願日】平成20年6月23日(2008.6.23)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】