説明

欠陥マーキング装置

【課題】長さ方向に搬送される長尺のシート状製品の欠陥を検査装置により検出し、検出された欠陥部分に正確かつ明瞭にマーキングを施すことができる欠陥マーキング装置を提供する。
【解決手段】長さ方向に搬送される長尺のシート状製品の欠陥を検査装置により検出し、該検査装置より搬送方向の下流側において検出された欠陥部分にマーキングを施す装置において、マーキング部材の押し出しと引き込みをソレノイドの作動により行い、ソレノイドへの印加電圧及び電圧印加時間を多段階に調整することを可能とした回路を有することを特徴とする欠陥マーキング装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、欠陥マーキング装置に関する。さらに詳しくは、本発明は、長さ方向に搬送される長尺のシート状製品の欠陥を検査装置により検出し、検出された欠陥部分に正確かつ明瞭にマーキングを施すことができる欠陥マーキング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂フィルム、シートなどの長尺のシート状製品の製造工程では、シート状製品が搬送される工程において、検査装置により欠陥が自動的に検出され、搬送方向の下流側において検出された欠陥部分にマーキングが施され、後工程においてマーキングを指標として欠陥部分の除去又は補修が行われる。欠陥の検出とマーキングは、CCDなどの撮像手段により得られた画像を処理して欠陥を認識し、シート状製品の搬送速度と欠陥の大きさに応じて、検査装置より搬送方向の下流側にあるマーキング装置を作動させ、欠陥部分にシート状製品の長手方向と平行なマーキングを施すことにより行われる。撮像手段と計算機の進歩により、マーキング位置を正確に定めることは容易になったが、シート状製品へのマーキングは物理的な手段に頼らざるを得ないので、まだ多くの問題があり、さまざまなマーキング手段が試みられている。
例えば、シート状製品をカットして一定の形状の区画部分を切り出す際に、該区画部分に欠陥が含まれていないことを確実に保証し、かつ歩留まりの低下を抑制することができるシート状製品の欠陥マーキング方法として、欠陥部分に対し、インクジェット方式のマーカーやフェルトペンを用いてマーキングを施す方法が報じられている。しかし、インクジェット方式は、速乾性のインクを用いるとヘッドの詰まりを生じやすく、ヘッド先端のクリーニングを頻繁に行う必要があり、遅乾性のインクを用いると、シート状製品の乾燥が必要になる。また、インクジェット方式では、22mm間隔でヘッドを並べるほど小型化することは困難であり、仮に並べることが可能としても非常に高価な装置となる。インクジェットのヘッドを欠陥部に移動させることは可能だが、同一ラインに発生する欠陥には対応することができない。フェルトペンでマーキングするためには、フェルトペンを待機位置からマーキング位置まで移動させなければならないが、フェルトペンを迅速かつ正確に移動させることは容易ではなく、シート状製品の欠陥部分のマーキングが不明瞭になったり、不正確になったりしやすい。また、フェルトペンを迅速に移動させるために駆動機構を大きくすると、マーキングヘッド上で隣接するフェルトペン間の間隔が広くなり、微細な欠陥に対しても広い面積のシート状製品を除去しなければならないという問題が生ずる。
また、塗付機やその他の加工機を用いてシートの加工を行う際に、欠陥の個所に付けたマークが失われて、欠陥が見落とされることを解消する欠陥マーキング方法として、連続的に走行するシート状物が有する欠陥を検出し、シート状物の欠陥を有する個所若しくはその近傍の欠陥を有する側とは反対側の面に、先端が硬度の高い素材若しくは刃からなるマーキング具を用いてマークを付けることにより、欠陥の個所を明示する欠陥マーキング方法が提案され、ソレノイドを用いて軸付砥石を駆動する方法が例示されている(特許文献1)。しかし、この文献には、ソレノイドの作動速度が、シートの走行速度にくらべて十分に速くはない旨が記載されている。
欠陥マーキング装置において、マーキング部材を駆動するためのアクチュエータとしては、電気式モータ、エアモータ、油圧モータなどのモータ類、ソレノイド、エアシリンダ、油圧シリンダなどが考えられる。これらの中で、モータ類は、回転運動を直線運動に変換する必要があり、変換装置を含めると大型化するので、マーキングヘッドに狭い間隔で多数のマーキング部材を取り付けることは困難である。油圧シリンダは、戻り配管が必要であり、動作流体の粘度が高いために高速動作に適しない。エアシリンダは、方向制御弁を設け、空気信号、電気信号などにより、空気の流れ方向を変える必要があり、小型化が困難である。ソレノイドは、電気信号によって直接駆動することができ、小型であるが、ストロークが短く、出力が小さいという問題がある。
【特許文献1】特開2002−338111号公報(第2−4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、長さ方向に搬送される長尺のシート状製品の欠陥を検査装置により検出し、検出された欠陥部分に正確かつ明瞭にマーキングを施すことができる欠陥マーキング装置を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、シート状製品の欠陥部分にマーキングを施すマーキング部材をソレノイドにより駆動し、ソレノイドへの電圧印加開始後、短時間のみ高い電圧を印加し、その後定常電圧まで印加電圧を低下させることにより、小型のソレノイドを用いてマーキング部材を迅速かつ正確に移動させ得ることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)長さ方向に搬送される長尺のシート状製品の欠陥を検査装置により検出し、該検査装置より搬送方向の下流側において検出された欠陥部分にマーキングを施す装置において、マーキング部材の押し出しと引き込みをソレノイドの作動により行い、ソレノイドへの印加電圧及び電圧印加時間を多段階に調整することを可能とした回路を有することを特徴とする欠陥マーキング装置、及び、
(2)ソレノイドがプッシュ型ソレノイドであり、ソレノイドへの電圧印加開始後4〜50msまでの間ソレノイドに定常電圧の1.3〜10倍の電圧を印加したのち、印加電圧を定常電圧まで低下させる機構を有する(1)記載の欠陥マーキング装置、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明の欠陥マーキング装置においては、マーキング部材を押し出すソレノイドへの電圧印加開始後、短時間のみ高い電圧を印加するので、マーキング部材は移動開始時には強い力で迅速に押し出され、シート状製品の欠陥部分に明瞭かつ正確にマーキングが施される。マーキング部材の先端がシート状製品の表面に達したのちは、印加電圧を低下させるので、シート状製品の長手方向に長い欠陥部分が存在してマーキング部材が押し出され続けても、ソレノイドコイルが過熱するおそれがない。マーキング部材が移動開始時には強い力で迅速に押し出されるので、復帰スプリングとして強力なスプリングを用いることができ、電圧の印加を停止すると、マーキング部材がシート状製品の表面から迅速に離脱し、マーキングの終点も明瞭かつ正確になる。本発明装置によれば、通常なら大型で力のあるソレノイドを用いることで、強力なスプリングに抗してマーキング部材を押し出す機構とするところを、瞬間的に印加電圧を加える小型のソレノイドを用いて、隣接するマーキング部材の間隔を短縮し、1本のマーキング部材が負担するシート状製品の領域を狭くすることができ、検出された欠陥部分近傍の除去面積を小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の欠陥マーキング装置は、長さ方向に搬送される長尺のシート状製品の欠陥を検査装置により検出し、該検査装置より搬送方向の下流側において検出された欠陥部分にマーキングを施す装置において、マーキング部材の押し出しと引き込みをソレノイドの作動により行い、ソレノイドへの印加電圧及び電圧印加時間を多段階に調整することを可能とした回路を有する欠陥マーキング装置である。本発明の欠陥マーキング装置は、ソレノイドがプッシュ型ソレノイドであり、ソレノイドへの電圧印加開始後4〜50msまでの間ソレノイドに定常電圧の1.3〜10倍の電圧を印加したのち、印加電圧を定常電圧まで低下させる機構を有することが好ましい。
図1は、本発明の欠陥マーキング装置の一態様の説明図である。シート状製品1は、矢印の方向に搬送されている。シート状製品が、CCDカメラ2により撮像され、検査装置3により画像処理が行われる。シート状製品に欠陥が検出されたとき、検査装置3から駆動装置4に信号が送られ、ソレノイド5が作動してマーキングペン6が押し出され、支持ロール7の上を搬送されるシート状製品の所定の位置にマーキングが施される。
【0007】
図2は、本発明装置の他の態様のマーキングペンの配列を示す側面図及び上面図である。本態様においては、シート状製品の全幅にわたって多数のソレノイドにより駆動されるマーキングペン6が等間隔に配列されている。検査装置において欠陥が検出されたとき、ソレノイドによりシート状製品の幅方向において欠陥に最も近いマーキングペンが押し出され、マーキングが施される。マーキングの長さは、あらかじめ設定した値となるように、画像処理装置において演算される。
図3は、本発明装置の欠陥マーキング方式の一態様の説明図である。駆動装置から送られる信号によりエアシリンダー8が作動し、マーキングペン収納管のシャッター9が開かれる。次いで、マーキングペン押し出し引き込みソレノイド5が作動して、マーキングペン収納管10からマーキングペン6が押し出され、ペン先11により搬送されるシート状製品1にマーキングが施される。マーキングを終了すると、ソレノイドの電圧印加が停止され、復帰スプリングによりマーキングペンがマーキングペン収納管の中に引き込まれる。マーキングペンが引き込まれると、エアシリンダー8が作動してシャッター9が押し出されて、マーキングペン収納管が閉じられる。
【0008】
図4は、本発明の欠陥マーキング装置における電圧印加方法の一態様の説明図である。検査装置においてシート状製品の欠陥が検出されたとき、時間t0においてソレノイドに定常電圧V1より高い電圧V2が印加されたのち、時間t1において印加電圧が定常電圧V1まで低下され、時間t2において電圧の印加が停止される。ソレノイドへの電圧印加開始時に高い電圧を印加することにより、シャフトが復帰スプリングの弾性力に抗して強い力で迅速に押し出されるので、シャフトの先端に取り付けたマーキングペンにより、シート状製品の表面にマーキングの始点が正確な位置に明瞭に記される。マーキングペンに十分な加速度が与えられたのちは、高い電圧V2の印加を必要とせず、定常電圧V1の印加により、マーキングペンのペン先がシート状製品の表面に到達した状態を維持し、マーキングを継続することができる。画像処理装置における演算により定められた時間t2にソレノイドへの電圧印加が停止され、印加電圧は0となり、シャフトは復帰スプリングの強い弾性力により引き込まれ、シャフトの先端に取り付けたマーキングペンのペン先は迅速にシート状製品の表面から離れ、マーキングの終点も正確な位置に明瞭に記される。
図4に示す態様においては、印加電圧はV2とV1の2段階で制御しているが、本発明装置においては、印加電圧をさらに3段階以上の多段階に制御することもできる。
【0009】
本発明装置においては、電圧印加開始後の電圧V2を、定常電圧V1まで低下させることにより、長時間の連続運転を行ってもソレノイドコイルが焼損するおそれがない回路設計を行うことが好ましい。ソレノイドへの電圧印加開始後の電圧V2は、定常電圧V1の1.3〜10倍であることが好ましく、2〜7倍であることがより好ましい。ソレノイドへの電圧印加開始後の電圧V2が定常電圧V1の1.3倍未満であると、シャフトを強い力で迅速に押し出す効果が十分に発現しないおそれがある。ソレノイドへの電圧印加開始後の電圧V2が定常電圧V1の10倍を超えると、ソレノイドコイルの温度が上昇しすぎて、押し出し力が低下したり、コイルが焼損したりするおそれがある。
本発明装置において、定常電圧V1より高い電圧V2を印加する時間すなわち(t1−t0)は、4〜50ms(ミリ秒)であり、好ましくは5〜30msであり、より好ましくは10〜20msである。定常電圧V1より高い電圧V2を印加する時間が4ms未満であると、マーキングペンが強い力で迅速に押し出されてシート状製品の表面に到達するための加速が得られないおそれがある。定常電圧V1より高い電圧V2を印加する時間が50msを超えると、連続的なオン/オフの動作により、ソレノイドコイルの温度が上昇して、コイルが焼損するおそれがある。
本発明に用いるマーキング部材としては、例えば、油性マーキングペン、圧縮空気を充填してインクを押し出す加圧ボールペン、油性色鉛筆などを挙げることができる。これらの中で、速乾性のインクを充填した油性マーキングペンを好適に用いることができる。速乾性のインクを用いることにより、乾燥工程のない短い製造ラインでマーキングを施すことができる。速乾性のインクを用いる場合は、ペン先を封鎖するマーキングペン収納管のシャッターを設けて、ペン先の乾燥を防ぐことが好ましい。
【実施例】
【0010】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
実施例1
幅1,600mm、厚さ50μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの検査を行った。ポリエチレンテレフタレートフィルムの上方に、CCDカメラ8台を200mm間隔で取り付け、ポリエチレンテレフタレートフィルムの下方に、CCDカメラと対応する位置に光源を設置した。CCDカメラと光源より2.0m下流のポリエチレンテレフタレートフィルムの上方に、幅1,600mmの中にプッシュ型ソレノイド[新電元工業(株)、S−0712、直径19mm]の改造品により作動される油性マーキングペンの収納管と、エアシリンダーにより作動される該収納管のシャッターとの組み合わせ73組を22mm間隔で備えたマーキングヘッドと、ポリエチレンテレフタレートフィルムの下方に、マーキングヘッドと対向する位置に支持ロールを設けた。
プッシュ型ソレノイド[新電元工業(株)、S−0712]の汎用規格は、シャフトの先端に何も取り付けない無負荷の状態で、駆動ストローク5.5mmとしたとき、定常電圧12V、ストローク応答速度20msである。このプッシュ型ソレノイドの復帰スプリングを強化して、先端取り付け機器重量30g、ストローク10mmに改造し、シャフトにペン固定ホルダーと油性マーキングペンを取り付けた。この状態で48Vの電圧を印加すると、応答時間は20msであった。
フィルムに欠陥が検出され、欠陥がマーキングヘッド近傍の所定の位置に達したとき、欠陥に最も近い位置の油性マーキングペンの収納管を開き、ソレノイドに48Vの電圧を10ms印加して油性マーキングペンを押し出したのち、印加電圧を12Vに低下させて油性マーキングペンが押し出された状態を保ち、欠陥が点状の場合は長さ22mmのマーキングが施されたとき、また、欠陥がフィルムの長手方向に長い場合は欠陥の全体が通過したとき、電圧の印加を停止して油性マーキングペンが引き込まれるように設定した。
ポリエチレンテレフタレートフィルムを速度20m/minで搬送し、欠陥を検出してマーキングを施した。10時間に、25箇所の欠陥が検出された。マーキングの長さはすべて22mmであり、マーキングの始点と終点はすべて明瞭に視認することができ、欠陥はすべて微細なフィッシュアイであった。幅方向について、マーキングとフィッシュアイの距離はすべて11.0mm以内であった。
【産業上の利用可能性】
【0011】
本発明の欠陥マーキング装置においては、マーキング部材を押し出すソレノイドへの電圧印加開始後、短時間のみ高い電圧を印加するので、マーキング部材は移動開始時には強い力で迅速に押し出され、シート状製品の欠陥部分に明瞭かつ正確にマーキングが施される。マーキング部材の先端がシート状製品の表面に達したのちは、印加電圧を低下させるので、シート状製品の長手方向に長い欠陥部分が存在してマーキング部材が押し出され続けても、ソレノイドコイルが過熱するおそれがない。マーキング部材が移動開始時には強い力で迅速に押し出されるので、復帰スプリングとして強力なスプリングを用いることができ、電圧の印加を停止すると、マーキング部材がシート状製品の表面から迅速に離脱し、マーキングの終点も明瞭かつ正確になる。本発明装置によれば、小型のソレノイドを用いて、隣接するマーキング部材の間隔を短縮し、1本のマーキング部材が負担するシート状製品の領域を狭くすることができ、検出された欠陥部分近傍の除去面積を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の欠陥マーキング装置の一態様の説明図である。
【図2】本発明装置の他の態様のマーキングペンの配列を示す側面図及び上面図である。
【図3】本発明装置の欠陥マーキング方式の一態様の説明図である。
【図4】本発明の欠陥マーキング装置における電圧印加方法の一態様の説明図である。
【符号の説明】
【0013】
1 シート状製品
2 CCDカメラ
3 検査装置
4 駆動装置
5 ソレノイド
6 マーキングペン
7 支持ロール
8 エアシリンダー
9 シャッター
10 マーキングペン収納管
11 ペン先

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さ方向に搬送される長尺のシート状製品の欠陥を検査装置により検出し、該検査装置より搬送方向の下流側において検出された欠陥部分にマーキングを施す装置において、マーキング部材の押し出しと引き込みをソレノイドの作動により行い、ソレノイドへの印加電圧及び電圧印加時間を多段階に調整することを可能とした回路を有することを特徴とする欠陥マーキング装置。
【請求項2】
ソレノイドがプッシュ型ソレノイドであり、ソレノイドへの電圧印加開始後4〜50msまでの間ソレノイドに定常電圧の1.3〜10倍の電圧を印加したのち、印加電圧を定常電圧まで低下させる機構を有する請求項1記載の欠陥マーキング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−114138(P2007−114138A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−308121(P2005−308121)
【出願日】平成17年10月24日(2005.10.24)
【出願人】(000214272)長瀬産業株式会社 (137)
【Fターム(参考)】