説明

次亜リン酸系イオン吸着材、次亜リン酸系イオン処理方法および次亜リン酸系イオン処理装置

【課題】無電解メッキの廃液等に含まれ、これまで処理困難であった亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンを吸着できる次亜リン酸系イオン吸着材を提供する。
【解決手段】本発明の次亜リン酸系イオン吸着材は、β−オキシ水酸化鉄および/または非晶質オキシ水酸化鉄からなり、処理対象である処理液に含まれる次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンを吸着し得ることを特徴とする。この次亜リン酸系イオン吸着材を用いれば、亜リン酸イオン等を単に吸着するのみならず、その脱着、回収、さらには次亜リン酸系イオン吸着材自体の再生も可能である。従って本発明によれば、亜リン酸イオンの除去、回収を低コストで高効率に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解メッキの廃液等に含まれ、これまで処理困難であった次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンを吸着できる次亜リン酸系イオン吸着材と、それを用いた処理方法およびその処理方法を実現する処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
環境意識の高揚に伴い、工業廃水や家庭排水などの浄化処理技術が盛んに研究、開発されている。さらに工業廃水等には貴重な資源も多く含まれることから、廃水等の処理技術は、単に環境問題のみならず、資源回収または省資源化等の観点からも重要である。回収または省資源化が着目されている資源の一つに、広い分野で多様に用いられるリン(P)がある。リンは、枯渇が懸念されており、現在高騰中の貴重な資源である。日本は、そのリンの入手をほぼ100%輸入に頼っている。従って、これまで廃棄処分されていたリンを有効に資源回収して再資源化することは、少なくとも日本にとって重要である。このような状況の下、リンを効率的に吸着、回収できるオキシ水酸化鉄が近時開発され、下記の特許文献1〜4等に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許4012975号公報
【特許文献2】特許4126399号公報
【特許文献3】特許4247633号公報
【特許文献4】特開2009−72773号公報
【特許文献5】特開2006−297382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
もっとも、これまでオキシ水酸化鉄によって吸着、回収されてきたのはオルト(正)リン酸イオン(PO3−)のみであり、特許文献1〜4等にはそれに関する記載しかない。また単にオルトリン酸イオンの除去、吸着、回収等ならば、そのオキシ水酸化鉄を用いる以外にも、凝集剤を用いた凝集沈殿法、イオン交換樹脂を用いたイオン交換法、特許文献5にあるような吸着材など、多くの処理材や処理方法等が従来から実用化等されている。
【0005】
ところが、例えば、工業的に重要な無電解メッキ(特にNi−Pメッキ)の還元剤(次亜リン酸ナトリウムなど)として多用される次亜リン酸イオンやそれが酸化した亜リン酸イオンなどは、コストや効率等の点で、現実的に有効な処理方法や回収方法等は未だ実用化または提案されていない状況にある。この理由として、次亜リン酸イオンはカルシウム塩等として沈殿せず、また亜リン酸イオンはカルシウム塩等として沈殿するがリン濃度が200mg−P/Lまでしか低減できないことなどが挙げられる。このため次亜リン酸イオンや亜リン酸イオンは、従来、一旦酸化させてオルトリン酸イオンとして処理されたり、規制値以下に希釈されて排水されたりしてきたのが実情である。当然ながら、このような状況は環境上も資源上も好ましいものではない。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、これまで処理や回収が困難であった次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンを効率的に処理できる次亜リン酸系イオン吸着材を提供することを目的とする。さらにそれを用いた次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンの処理方法と、それを実現する処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンを効率的に吸着するオキシ水酸化鉄を得た。そして、その吸着後のオキシ水酸化鉄から、次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンを効率的に脱着、回収させることに成功した。これらの成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0008】
《次亜リン酸系イオン吸着材》
(1)本発明の次亜リン酸系イオン吸着材は、β−オキシ水酸化鉄(β−FeOOH)および/または非晶質オキシ水酸化鉄(FeOOH)からなり、処理対象である処理液に含まれる次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンを吸着し得ることを特徴とする。
本発明のオキシ水酸化鉄は、次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンなどを高効率に吸着する。吸着された陰イオン種(次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオン)は、pH調整等により吸着サイトから容易に溶離(脱着)して効率的に回収され得る。しかもその後の再生処理により、そのオキシ水酸化鉄を繰り返し使用して次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンを吸着、除去、回収等し得る。
【0009】
ところで本発明のオキシ水酸化鉄により次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンが高効率に吸着されるメカニズムは必ずしも定かではないが、現状では次のように考えられる。次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンは、先ず、上述したβ−オキシ水酸化鉄または非晶質オキシ水酸化鉄が有する陰イオン吸着サイト(水素結合サイト)に結合等して効率的に吸着されると考えられる。さらに次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンは、無数の微細な孔を有する多孔質体からなるオキシ水酸化鉄の細孔内にも取り込まれて、より効率的に吸着されると考えられる。少なくともこの点で、オルトリン酸イオンが吸着メカニズムと大きく相違すると考えられる。このような相違が生じる理由として、イオン半径の相違が考えられる。すなわち、オルトリン酸イオン(例えば、PO3−)は、イオン半径が大きくて多孔質体の内部にまでは侵入し難いか、侵入するとしてもその速度がかなり小さい。このため、オルトリン酸イオンは殆どがオキシ水酸化鉄の表面に吸着するだけと考えられる。一方、次亜リン酸イオン(例えば、PO)または亜リン酸イオン(例えば、PO2−)は、オルトリン酸イオン(例えば、PO3−)よりもイオン半径が相当に小さい。このため、オキシ水酸化鉄の細孔内部まで侵入でき、しかもその速度も大きいと考えられる。こうして次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンは、オキシ水酸化鉄の表面に水素結合サイトを介して吸着されるのみならず、その細孔を通じて内部にまで侵入して吸着され、それら相加的または相乗的に作用した結果、オキシ水酸化鉄による吸着性がオルトリン酸イオンよりも相当に優れたものになったと考えられる。このことは実際、亜リン酸イオンよりもイオン半径がさらに小さい次亜リン酸イオンの方が吸着開始後短時間経過時の吸着性に優れることからも裏付けられる。いずれにしろ、これまで未知であった要因が相加的または相乗的に作用して、次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンは、オルトリン酸イオンと同等以上に吸着されるようになったと考えられる。
【0010】
(2)オキシ水酸化鉄には、結晶構造の相違によって、α−オキシ水酸化鉄(ゲータイト)、β−オキシ水酸化鉄(アカガネイト)、γ−オキシ水酸化鉄(レピドクロサイト)または非晶質オキシ水酸化鉄がある。γ−オキシ水酸化鉄なども次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンを吸着し得るが、本発明でいうオキシ水酸化鉄は、それらのうちでも特に次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンの吸着性に優れるβ−オキシ水酸化鉄および/または非晶質オキシ水酸化鉄、さらにはβ−オキシ水酸化鉄と非晶質オキシ水酸化鉄の混合物である。β−オキシ水酸化鉄の具体的な結晶サイズや形態(細孔径、細孔数等)は特に問わない。
【0011】
次亜リン酸イオンはPOを含むイオンであり、亜リン酸イオンはPO含むイオンであれば、そのイオン価数を問わない。例えば次亜リン酸イオンならHPO (これを適宜、単に「PO」と記す。)、亜リン酸イオンならHPO またはHPO2−(これを適宜、単に「PO」または「PO2−」と記す。)が代表的である。また、次亜リン酸イオンと亜リン酸イオンを総称して単に「次亜リン酸系イオン」と記す。
【0012】
《次亜リン酸系イオン処理方法》
本発明は上述の吸着材としてのみならず、その吸着材を用いた次亜リン酸系イオン処理方法としても把握できる。
(1)すなわち本発明は、上述した次亜リン酸系イオン吸着材と処理対象である処理液とを酸性域で接触させて、該処理液に含まれる次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンを該次亜リン酸系イオン吸着材に吸着させる吸着工程を備えることを特徴とする次亜リン酸系イオン処理方法でもよい。
この吸着工程により、排水または廃水等の処理液中に含まれる次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンをオキシ水酸化鉄へ吸着させ、処理液からそれらイオンを効率的に除去できる。
【0013】
(2)また本発明は、その吸着工程後の次亜リン酸系イオン吸着材を塩基性液と接触させて、該次亜リン酸系イオン吸着材から次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンを脱着させる脱着工程を備えることを特徴とする次亜リン酸系イオン処理方法でもよい。
【0014】
この脱着工程により、オキシ水酸化鉄に吸着させた次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンを、オルトリン酸イオン等に変化させることなく、そのまま効率的に回収することが可能となる。具体的にいうと、例えば、次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンは、次亜リン酸塩または亜リン酸塩として回収される。この場合、脱着工程は、次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンの回収工程と考えることができる。
【0015】
(3)さらに本発明は、その脱着工程後の次亜リン酸系イオン吸着材を酸性液と接触させて、該次亜リン酸系イオン吸着材を再生する再生工程を備えることを特徴とする次亜リン酸系イオン処理方法でもよい。
この再生工程により、オキシ水酸化鉄からなる次亜リン酸系イオン吸着材を繰り返し使用することが可能となり、処理液を低コストで処理可能となり、また省資源化等も図れる。
【0016】
(4)本発明の次亜リン酸系イオン処理方法は、上述した吸着工程、脱着工程または再生工程のいずれか一つからなってもよいが、例えば、吸着工程と脱着工程、吸着工程と脱着工程と再生工程など、複数の工程を組み合わせたものでもよい。
【0017】
《次亜リン酸系イオン処理装置》
さらに本発明は、上述の処理方法の実現に適した次亜リン酸系イオン処理装置としても把握できる。
(1)すなわち本発明は、上述した次亜リン酸系イオン吸着材を収容する吸着材収容体と、該吸着材収容体へ処理対象である処理液を導通させる処理液導通手段と、該吸着材収容体へ塩基性液を導通させる塩基性液導通手段と、該処理液または該塩基性液の該吸着材収容体への導通を制御する導通制御手段とを備え、次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンの吸着および脱着をし得ることを特徴とする次亜リン酸系イオン処理装置でもよい。
【0018】
導通制御手段を介して処理液または塩基性液の吸着材収容体への導通が適宜切り換えられる。これにより、処理液中に含まれる次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンの吸着、除去または回収を行うことが可能となり、処理液を効率的に処理可能となる。
【0019】
(2)また本発明は、さらに吸着材収容体へ酸性液を導通させる酸性液導通手段を備え、前記導通制御手段は、該酸性液の該吸着材収容体への導通も制御できると好適である。
これにより次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンの吸着・除去・回収に加えて、次亜リン酸系イオン吸着材の再生も効率的に行うことが可能となる。
【0020】
《その他》
特に断らない限り本明細書でいう「x〜y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値a、bは、任意に組合わされて「a〜b」のような範囲を構成し得る。さらに本明細書に記載した範囲内に含まれる任意の数値を、数値範囲を設定するための上限値または下限値とすることもできる。
特に断らない限り本明細書でいう溶液濃度を表す「%」は「質量パーセント濃度」((溶質質量/溶液質量)x100)を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1A】一実施例である吸着試料による次亜リン酸イオンの吸着性能(次亜リン酸イオンの漏洩濃度)と次亜リン酸イオンの通過量との関係を示すグラフである。
【図1B】その吸着試料による次亜リン酸イオンの除去率と次亜リン酸イオンの通過量との関係を示すグラフである。
【図1C】その吸着試料を通過した処理液のpHと次亜リン酸イオンの通過量との関係を示すグラフである。
【図2A】一実施例である吸着試料による亜リン酸イオンの吸着性能(亜リン酸イオンの漏洩濃度)と亜リン酸イオンの通過量との関係を示すグラフである。
【図2B】その吸着試料による亜リン酸イオンの除去率と亜リン酸イオンの通過量との関係を示すグラフである。
【図2C】その吸着試料を通過した処理液のpHと亜リン酸イオンの通過量との関係を示すグラフである。
【図3A】次亜リン酸イオンの存在割合とpHとの相関図である。
【図3B】亜リン酸イオンの存在割合とpHとの相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
発明の実施形態を挙げて本発明をより詳しく説明する。なお、以下の実施形態を含めて本明細書で説明する内容は、本発明に係る次亜リン酸系イオン吸着材のみならず、それを用いた次亜リン酸系イオン処理方法および次亜リン酸系イオン処理装置にも適宜適用され得る。従って上述した本発明の構成に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成を付加し得る。この際、製造方法に関する構成は物または装置に関する構成ともなり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0023】
《次亜リン酸系イオン吸着材》
(1)次亜リン酸系イオン吸着材はオキシ水酸化鉄からなるが、その他、無機材や樹脂等を含んでもよい。もっとも、オキシ水酸化鉄のみで十分な性能を発揮し得る。次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンを吸着し得る限り、そのオキシ水酸化鉄の製造方法や形態は問わない。本発明のオキシ水酸化鉄は、例えば、上述した特許文献1または特許文献2に記載の方法によっても製造される。具体的には次のようにして得られる。
【0024】
(a)3価の鉄イオン含有溶液に塩基を加え、pHを3.3〜6(好ましくは3.5〜5.5)に調整してオキシ水酸化鉄を含む沈殿物を生成させる生成工程と、(b)該沈殿物を100℃以下で乾燥してオキシ水酸化鉄を得る乾燥工程と、(c)得られたオキシ水酸化鉄を水と接触させた後に100℃以下で乾燥する水処理乾燥工程と、を順次行うことにより得られる。
【0025】
上記の3価の鉄イオン含有溶液(原料溶液)は、例えば、塩化第二鉄(FeCl)、硫酸第二鉄(Fe(SO)、硝酸第二鉄(Fe(NO)等の第二鉄化合物を含有する溶液である。反応性等の点で塩化第二鉄の水溶液が好ましい。上記の塩基は、原料溶液の中和、pH調整を行い、オキシ水酸化鉄を含む沈殿生成物を生成させる。このような塩基として、NaOH、KOH、NaCO、KCO、CaO、Ca(OH)、CaCO、NH、NHOH、MgO、MgCO等がある。特に入手性や取扱性等の点で水酸化ナトリウムが好ましい。
【0026】
原料溶液と塩基の反応を制御する観点から、原料溶液中のFe3+濃度は0.01〜5mol/Lさらには0.05〜3mol/L、塩基のOH濃度は0.1〜10モル/Lさらには1〜5モル/Lが好ましい。pHを3.3〜6に調整するのは、pHが過小でも過大でも、吸着サイト(水素結合サイト)を有するオキシ水酸化鉄の沈殿物が安定して生成されないからである。pHは3.5〜5.5さらには3.7〜5.3に調整されると好ましい。
【0027】
乾燥工程は、吸引濾過等により濾別した上記の沈殿物を、空気中、真空中または不活性ガス中に、2時間〜2日間好ましくは5時間〜24時間おいてなされる。この際の乾燥温度が過大であると、次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンの吸着サイト(水素結合サイト)の生成を制御することが困難となる。乾燥温度が過小であると、乾燥に長時間を要して実用的でない。そこで乾燥温度は40〜60℃が好ましい。
【0028】
水処理乾燥工程中の乾燥は、上記乾燥工程と同様に行うことができる。ところで本工程により、吸着性能に優れたオキシ水酸化鉄が得られるメカニズムは次のように考えられる。生成工程および乾燥工程を経て得られたオキシ水酸化鉄の凝集体中には、不純物として塩(NaCl等)のナノサイズの結晶が存在する。この凝集体が水と接触すると、塩が溶出して塩の存在した部分に細孔が形成される。その結果、オキシ水酸化鉄の比表面積が増大すると考えられる。また、生成工程中のpHは3.3〜6に調整されるため、得られたオキシ水酸化鉄の沈殿物は、完全な結晶化には水酸基(OH)が不足した状態となっている。しかも、このオキシ水酸化鉄は乾燥されることで、水酸基がより不足した状態となる。この状態のオキシ水酸化鉄へ本工程中の水処理で水と接触すると、急激な吸水が起こり、その吸水によってオキシ水酸化鉄の結晶格子間が緩むと考えられる。
【0029】
こうして得られたオキシ水酸化鉄は、通常の水酸化鉄(α−FeOOH)よりも結晶間隔が大きくなり、β−FeOOH構造とアモルファス構造が共存したオキシ水酸化鉄になることがわかっている。このオキシ水酸化鉄からなる次亜リン酸系イオン吸着材は、比表面積が大きく、多くの吸着サイトを有して、次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンを高効率に吸着すると考えられる。
【0030】
(2)このようにして得られたオキシ水酸化鉄は、例えば、BET比表面積が100〜400m/gであり、オキシ水酸化鉄1kg当りの水酸基含有量が7〜30mol−OH/kgである。このオキシ水酸化鉄は、従来のものと比較して、比表面積が非常に大きく、5〜8倍の吸着サイト(水素結合サイト)を有している。
【0031】
なお、オキシ水酸化鉄の水酸基含有量は、フーリエ変換赤外分光光度計(拡散反射法)を用いて、FeOOHの O−Hの伸縮状態を測定し、Russel et al., Nature 1974, 248, 220-221からFeOOHのピークを3130cm−1及び3420cm−1として、Miura et al., Am. Chem. Soc., Fuel Chem., 1999, 44 (3), 642-646に基づいて算出し、決定することができる。
【0032】
本発明の次亜リン酸系イオン吸着材は、例えば、針状結晶のオキシ水酸化鉄が凝集してできた凝集体粒子であると好ましい。針状結晶は、幅が10〜500nmさらには50〜200nmであり、長さ/幅の比(L/D)が通常5/1〜50/1さらには5/1〜20/1であると好ましい。
凝集体粒子の平均粒子径は0.125〜2mmさらには0.25〜0.5mmであると好ましい。平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒度分布計(例えば、株式会社堀場製作所、LA−920)を用いて、レーザー回折/散乱法で測定された体積基準粒度分布から算出されるメジアン径から求まる。なおオキシ水酸化鉄の凝集体は無数の細孔を有し、その平均細孔径が0.1〜5.0nmさらには0.5〜1.5nmであると好ましい。
【0033】
ちなみにオキシ水酸化鉄の結晶構造は、基本的には斜方晶であり、Fe3+イオンに3つのO2−と3つのOHが配位したFeO8面体からなる。この配位したOHのO−Hの伸縮がフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)で測定したときに特徴的なスペクトルとして観察される。例えば、FTIRスペクトルは、O−H伸縮を示す3420cm−1に大きなピークを示す。これは弱い水素結合のOH基が大量に含有していることを示す。次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンは、これらOH基と置換して、オキシ水酸化鉄に吸着されると考えられる。従ってOH基を大量に含有するオキシ水酸化鉄ほど、次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンの吸着性能に優れる。
【0034】
なお上述した各工程の条件を適宜調整することにより、BET比表面積、水酸基含有量、平均粒子径、細孔径等の特性が異なるβ−オキシ水酸化鉄または非晶質オキシ水酸化鉄(ひいては次亜リン酸系イオン吸着材)を得ることができる。
【0035】
《次亜リン酸系イオン処理方法》
本発明の次亜リン酸系イオン処理方法は、次亜リン酸系イオン吸着材による次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンの吸着工程、それらイオンの脱着工程またはその次亜リン酸系イオン吸着材の再生工程のいずれか一工程または複数工程の組合わせからなる。以下、各工程について順次説明する。
(1)吸着工程
吸着工程は、次亜リン酸系イオン吸着材と処理対象である処理液とを酸性域で接触させてなされる。酸性域は、pH1.5〜7(pH1.5以上7未満)、pH2〜6、pH2.5〜5さらにはpH3〜4.5であると好ましい。pHが過小(強酸域)ではオキシ水酸化鉄が溶解する可能性があり、pHが過大(中性からアルカリ性域)になるとオキシ水酸化鉄による吸着が困難となる。
【0036】
ここで次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンは、雰囲気(pH)によって存在割合やイオン価数が異なる。この様子を図3Aおよび図3Bに示した。次亜リン酸イオン(HPO )の場合、pH1.2でその存在割合はほぼ0.5となり、pH3以上でその存在割合はほぼ1となる。亜リン酸イオン(HPO )の場合、pH1.5でその存在割合はほぼ0.5となり、pH3〜5でその存在割合はほぼ1となり、pH6.8でその存在割合はほぼ0.5となる。処理対象である陰イオン種が明確な場合または処理液中に含まれる陰イオン種が特定されている場合、そのイオンの存在割合が最大または極大になるpH域で吸着工程を行うのが好ましい。次亜リン酸イオンを対象とする場合であれば、例えばpH2.5以上さらにはpH3以上で吸着工程を行い、亜リン酸イオンを対象とする場合であれば、例えばpH2.5〜5.5さらにはpH3〜5で吸着工程を行うとよい。処理液中に次亜リン酸イオンおよび亜リン酸イオンが混在する場合、それら両者の存在割合が共に高くなるpHの重畳域で吸着工程を行うとよい。例えばpH2.5〜5.5さらにはpH3〜5で行うとよい。
pH調整に用いる酸の種類は問わないが、塩酸(HCl)を用いると、塩化物イオン量が増加して次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンの吸着量が増加して好ましい。次亜リン酸系イオン吸着材と接触させる処理液の温度は10〜35℃さらには15〜25℃であると効率的な吸着が可能となり好ましい。
次亜リン酸系イオン吸着材と処理液とを接触させる際の通液時間または空間時間(SV)は5〜30/hさらには10〜20/hであると好ましい。SVが過小では処理時間が延びて効率的ではないし、過大では十分な吸着を確保できない。
【0037】
(2)脱着工程または回収工程
脱着工程は、吸着工程後の次亜リン酸系イオン吸着材を塩基性液(脱着液)と接触させて行われる。脱着工程を阻害しない限り、塩基性液の種類は問わないが、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化カルシウム(Ca(OH))などを用いることができる。NaOHを用いた塩基性液の場合、2〜20%さらには5〜15%であると好ましい。塩基性液の濃度が過小では脱着が不十分となり、過大では経済的ではなく、オキシ水酸化鉄の一部が水酸化鉄(II)となり好ましくない。ここで次亜リン酸ナトリウム等は、塩基性液の濃度が過大になっても、溶解度があまり低下せず、次亜リン酸イオンの脱着性または回収性は良好である。一方、亜リン酸系ナトリウム等は、塩基性液の濃度が過大になると、溶解度が低下して、脱着性または回収性も低下する傾向にある。
処理時間(脱着時間)は30分〜4時間さらには1〜3時間であると好ましい。処理時間が過小では脱着が不十分となり、過大では非効率である。
【0038】
この脱着工程後の塩基性液(脱着液)を加熱濃縮すると、次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンを含む塩(結晶、その凝集体)が得られる(回収工程)。例えば、脱着液がNaOH水溶液なら、次亜リン酸ナトリウムまたは亜リン酸ナトリウムが得られ、脱着液がCa(OH)水溶液なら、次亜リン酸カルシウムまたは亜リン酸カルシウムが得られる。さらに、亜リン酸イオンを含む水酸化アルカリ脱着液に、カルシウム塩(水酸化カルシウム等)を加えると、亜リン酸カルシウムが得られる。また次亜リン酸イオンと亜リン酸イオンを含む水酸化アルカリ脱着液に、カルシウム塩(水酸化カルシウム等)を加えると、亜リン酸カルシウムが析出(晶出)し、脱着液中の次亜リン酸イオン含有率を高めることができる。このようにすれば、処理液または脱着液が次亜リン酸イオンと亜リン酸イオンを含む混合液であっても、それぞれのイオンを分離して除去、回収することも可能である。
【0039】
(3)再生工程
再生工程は、脱着工程後の次亜リン酸系イオン吸着材を酸性液と接触させてなされる。
次亜リン酸系イオン吸着材の再生を阻害しない限り、酸性液の種類は問わないが、例えば、塩酸(HCl)を用いるとよい。この場合、pHを2〜3.5さらには2.5〜3.5に調整すると、効率的な再生がなされる。pHが過小(強酸域)ではオキシ水酸化鉄が溶解する可能性があり、pHが過大になると再生が不十分となる。
【0040】
次亜リン酸系イオン吸着材と酸性液とを接触させる際の通液時間または空間時間(SV)は20〜40/hさらには25〜35/hであると好ましい。SVが過小では処理時間が延びて効率的ではないし、過大ではポンプ等の送液装置が大型化し経済的でない。再生工程は、次亜リン酸系イオン吸着材へ通液した後の酸性液(例えば、HCl)のpHが2.5〜3.5に到達した時点で終了させるとよい。
【0041】
《次亜リン酸系イオン処理装置》
本発明の次亜リン酸系イオン処理装置は、次亜リン酸系イオン吸着材を収容する吸着材収容体へ、処理液、塩基性液または酸性液を導通させるそれぞれの導通手段と、それらの導通を切り換え制御する導通制御手段とからなる。これらの具体的な構成は、例えば、次のようである。
【0042】
導通手段は、各液を貯める貯留槽と吸着材収容体を連結する配管と、配管を通じて各液を圧送させるポンプと、配管の連通または遮断を切り換える電磁バルブなどから構成される。導通制御手段は、電磁バルブのON−OFF作動を制御して、各液と吸着材収容体との連通を制御する電子制御装置またはPLC制御盤などである。導通制御手段による制御は、各部のpH、各工程の処理時間などの情報に基づいてなされる。pHは、貯留槽、吸着材収容体、配管等に設けたpH検出器などに基づいて検出され、その情報は導通制御手段に送られる。
【0043】
《用途》
本発明により、これまで処理や回収が困難であった次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンをそのまま除去または回収することが可能となる。その処理対象となる処理液は、次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンを含むものであれば、排出源、提供源または供給源などを問わない。その処理液は、吸着質である次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオン以外の元素やイオンを含有していてもよい。処理液の溶媒は水以外でもよい。このような処理液として、無電解メッキ(特にNi−Pメッキ)の廃液が代表的である。その他、化学製品製造工程における還元剤廃液、合成樹脂や触媒、医薬品製造工程等の廃液等の廃液または排水などの処理にも本発明は有効である。
【実施例】
【0044】
《次亜リン酸系イオン吸着材》
次のようにしてオキシ水酸化鉄(次亜リン酸系イオン吸着材)を用意した。
(1)吸着試料1〜3
塩化第二鉄(FeCl・6HO)を0.1mol/Lの割合で水に溶解した。ここへ濃度2mol/LのNaOH溶液を室温で撹拌しながら添加し、溶液全体のpHを4に調整した。この溶液中に生じた沈殿生成物を24時間静置して吸引濾過して沈殿物を得た(生成工程)。
【0045】
この沈殿物を50℃で48時間、定温乾燥器中で乾燥してオキシ水酸化鉄(FeOOH)を得た(乾燥工程)。得られたFeOOHのBET比表面積は50.6m/g、水酸基含有量は12.78mol−OH/kg−FeOOH、凝集体粒子としての平均粒子径は200μmであった。
【0046】
このオキシ水酸化鉄を純水中に投入し室温で5分間撹拌した。このときのパルプ濃度(乾燥オキシ水酸化鉄の質量/水質量)は5%とした。その撹拌後の吸引濾過により、オキシ水酸化鉄を得た。得られたオキシ水酸化鉄を55℃で24時間乾燥処理した(水処理乾燥工程)。得られたオキシ水酸化鉄のBET比表面積は218.6m/g、水酸基含有量は12.8mol−OH/kg−FeOOH、凝集体粒子としての平均粒子径は、137.5μmであった。なお、測定条件は次のとおりである。
【0047】
BET比表面積は、日本ベル株式会社製、BET比表面積測定装置、型式BELSORP-miniを用いて測定した。水酸基含有量は、日本電子株式会社製、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)、型式SPX60(拡散反射法)を用いて、FeOOHの水素結合サイトとして、 O−Hの伸縮状態を測定した。Russel et al., Nature 1974, 248, 220-221からFeOOHのピークを3130cm−1及び3420cm−1として、水酸基含有量をMiura et al., Am. Chem. Soc., Fuel Chem., 1999, 44 (3), 642-646に基づいて算出し決定した。平均粒子径は、株式会社堀場製作所製、レーザー回折/散乱式粒度分布計、型式LA-920を用いて測定された体積基準粒度分布から得たメジアン径により算出した。
【0048】
最終的に得られたオキシ水酸化鉄をX線回折法(XRD:X‐ray diffraction)により結晶構造を解析したところ、β−FeOOH型の結晶構造であった。もっとも、XRDのスペクトル強度は比較的弱く、そのオキシ水酸化鉄は、β型構造を有しているものの非晶質構造も有することがわかった。そのオキシ水酸化鉄の凝集体を分級して、粒径が0.125〜0.25mmのオキシ水酸化鉄粒子からなる吸着試料1と、粒径が0.25〜0.5mmのオキシ水酸化鉄粒子からなる吸着試料2とを用意した。
【0049】
(2)吸着試料C1およびC2
上記の吸着試料とは別に、市販のα−FeOOH(ナカライテスク株式会社製、水酸化鉄(III) 〔水酸化第二鉄〕)からなる吸着試料を用意した(吸着試料C1)。また、市販のγ−FeOOH(株式会社高純度化学研究所製、γ―オキシ水酸化第二鉄)からなる吸着試料も用意した(吸着試料C2)。
【0050】
《次亜リン酸系イオン処理方法》
〈試験α1〉
(1)処理液
処理液として、次亜リン酸ナトリウム(和光純薬株式会社製、ホスフィン酸ナトリウム一水和物:NaPH・HO)を用いて、次亜リン酸イオン濃度を100mg−PO/Lに調製した水溶液(処理液A1)と、次亜リン酸イオン濃度を1500mg−PO/Lに調製した水溶液(処理液A2)を用意した。これら処理液のpHは、処理液A1:pH7.0(pH調整なし)、処理液A2:pH5.3(pH調整なし)であった。これら処理液に10%塩酸(HCl)を加えて、pHを3.5に調整した水溶液(処理液A1’または処理液A2’)もそれぞれ用意した。
【0051】
(2)吸着試験(吸着工程)
ビーカーを用いた回分式で吸着試験を行った。すなわち、各処理液200mlをビーカーに入れ、各ビーカーに吸着試料を投入した。この際、投入した吸着試料の質量や粒径および処理時間(吸着時間)を種々変化させた。各吸着試料による次亜リン酸イオンの吸着性能および吸着前後のpHを測定した。こうして得られた測定結果を表1に示した。なお、この測定時の処理液の温度は20〜22℃であった。
【0052】
次亜リン酸イオンの吸着性能は、ICP(Inductively Coupled Plasma )発光分光分析装置(株式会社島津製作所ICPS−7000 ver.2)及びサプレッサ方式イオンクロマトグラフ(株式会社島津製作所 個々の製品の集合体なので装置の型番はない)を用いて行った。吸着量(mg−PO/g)は、吸着試料1g当たりの次亜リン酸イオンの吸着量であり以下同様である。本明細書でいう吸着量は特に断らない限りICPによる値で評価する。
【0053】
(3)評価
表1の結果から次のことがわかる。先ず、吸着試料1〜3のいずれかを用いると、いずれの場合も、次亜リン酸イオンがよく吸着されていることがわかる。次に試験No.A1、試験No.A2と試験No.A3、試験No.A4とを比較すると、処理液中のpHが7よりも低下することにより各吸着試料による吸着量が増加することがわかる。特にpH5.5〜3さらにはpHが4.5〜3.5で吸着量がほぼ最大に至った。さらに試験No.A3および試験No.A4から、吸着時間が変化しても、各吸着試料の吸着量は殆ど変化していない。つまり最初の短時間の間に次亜リン酸イオンは十分に吸着試料へ吸着され、これら各吸着試料による次亜リン酸イオンの吸着速度が非常に速いこともわかった。
一方、試験No.C1と試験No.C2からわかるように、吸着試料C1または吸着試料C2は、次亜リン酸イオンを実質的に殆ど吸着しなかった。
【0054】
〈試験α2〉
(1)吸着試験
前述した吸着試料2を20g(15.92mL)用意して、内径φ26mmx高さ120mmの円筒形のカラム(吸着材収容体)に充填した。吸着試料2のカラム内の高さは30mmであった。
【0055】
このカラムへ濃度を1500mg−PO/Lに調製した次亜リン酸水溶液(処理液A3)を導入した。この処理液A3は、前述した次亜リン酸ナトリウム(NaPH・HO)の水溶液に10%HClを添加してpH3.4に調整したものである。処理液A3の通水は、空間時間(SV)は10/hで行った。このときの次亜リン酸イオン(PO)の吸着性能を測定して表2に示した(試験No.A11)。なお測定時の処理液の温度は20℃であった。次亜リン酸イオンの吸着性能は、前述したICP発光分光分析装置により測定したものである。表2中の「通水倍率」は、処理液の通水量(mL)/FeOOH量(mL)である。また表2中の「通過次亜リン酸(PO)量50mg/gでの除去率」は、吸着試料1g当たりの次亜リン酸イオンの通過量が50mgになったときの除去率である。除去率は、吸着試料を通過する次亜リン酸イオン量に対して吸着試料が吸着した次亜リン酸イオン量の割合である。
【0056】
(2)脱着試験(脱着工程)
上記の吸着試験後のカラムへ10%NaOH溶液(塩基性液、脱着液)を通液した。このとき、初回の脱着は通液速度:4.6mL/min(SV=17.3)で行い、2回目以降の脱着は通液速度:5.31mL/min(SV=20)で行った。脱着時間は30分間とした。この際のNaOH溶液の通液量、次亜リン酸の脱着濃度および次亜リン酸の回収量を表2に併せて示した(試験No.A11)。なお、上記の脱着液をさらに90分間(合計で2時間)通液した後に、吸着試料2を次の再生試験へ供した。
【0057】
(3)再生試験(再生工程)
上記の脱着試験後のカラムへpH2.5(濃度約0.01%)のHCl溶液を通液して、吸着試料2を再生した。このときの通水速度はSV=35/h、再生時間は15時間とした。この再生後の吸着試料2を用いて、再度、上記の吸着試験および脱着試験を行った。この操作を2回繰り返し、そのときの測定結果を表2に併せて示した(試験No.A12、試験No.A13)。
(4)上記の各試験を、吸着試料1g当たりの次亜リン酸イオンの通過量を変化させて行った。このとき測定したカラム出口の次亜リン酸イオン濃度(mg−PO/L)と、次亜リン酸イオンの除去率(%)およびカラム出口のpHを測定した結果を図1A〜図1Cに示した。
【0058】
(5)評価
表2から次のことがわかる。吸着試料2は、脱着、再生を繰り返しても十分な吸着性能を発揮するが、繰り返し数が増加するにつれて破過後の立ち上がりが急峻になる傾向にある。またNaOH溶液で脱着することにより、次亜リン酸イオンをそのまま(次亜リン酸ナトリウムとして)効率的に回収できた。これらのことは図1A〜図1Cからもわかる。つまり、吸着試料1g当たりの次亜リン酸イオンの通過量が変化しても、また、脱着・再生を繰り返しても、破過点まで次亜リン酸イオンの漏洩濃度は0.1mg−PO/L以下であり、処理液量に対して吸着試料量が適切なら、次亜リン酸イオンの除去率はほぼ100%であった。このように本発明に係る吸着試料を用いることで、次亜リン酸イオンを高効率に吸着除去できることがわかった。
【0059】
〈試験β1〉
(1)処理液
処理液として、亜リン酸ナトリウム(和光純薬株式会社製、亜リン酸水素二ナトリウム五水和物:NaHPO・5HO)を用いて、亜リン酸イオン濃度を1500mg−PO/Lに調製した水溶液(処理液B1)を用意した。この処理液へ10%塩酸(HCl)を加えてpH3.5に調整した。
【0060】
(2)吸着試験(吸着工程)
試験α1と同様に、ビーカーを用いた回分式の吸着試験を行った。すなわち、処理液B1:200mlをビーカーに入れ、各ビーカーに各種の吸着試料を投入した。この際、処理時間(吸着時間)を種々変化させた。各吸着試料による亜リン酸イオンの吸着性能および吸着前後のpHを測定した。こうして得られた測定結果を表3に示した。なお、測定方法や測定条件は前述した試験α1と同様であり、吸着量(mg−PO/g)は吸着試料1g当たりの亜リン酸イオンの吸着量である。
【0061】
(3)評価
表3の結果から次のことがわかる。先ず、吸着試料2を用いると、亜リン酸イオンがよく吸着された。しかもその吸着量は吸着時間と共に増加することが試験No.B1からわかる。このことから、吸着試料2による亜リン酸イオンの吸着は、次亜リン酸イオンの吸着と異なり、比較的緩やかに進行すること、いいかえるなら吸着速度がさほど大きくないことがわかった。
次に試験No.D1からわかるように、吸着試料C1は亜リン酸イオンを実質的に殆ど吸着しなかった。一方、試験No.D2からわかるように、吸着試料C2は亜リン酸イオンを少し吸着するが、その吸着量は吸着試料2の1/6程度にすぎず、実用的ではなかった。
【0062】
〈試験β2〉
(1)吸着試験
試験α2と同様にしてカラムを用いた吸着試験を行った。すなわち、カラムへ濃度を1500mg−PO/Lに調製した亜リン酸水溶液(処理液B2)を導入した。この処理液B2は、前述した亜リン酸ナトリウム(NaHPO・5HO)の水溶液に10%HClを添加してpH3.4に調整したものである。処理液B2の通液は、空間時間(SV)は10/hで行った。このときの亜リン酸イオンの吸着性能を測定して表4に示した(試験No.B11)。なお、測定方法や測定条件は前述した試験α1と同様である。表4中の「通過亜リン酸(PO)量50mg/gでの除去率」は、吸着試料1g当たりの亜リン酸イオンの通過量が50mgになったときの除去率である。除去率は、吸着試料を通過する亜リン酸イオン量に対して吸着試料が吸着した亜リン酸イオン量の割合である。
【0063】
(2)脱着試験(脱着工程)および再生試験(再生工程)
試験α2と同様にして、脱着試験および再生試験を行い、さらに吸着試験を行った。この操作を2回繰り返し、そのときの測定結果を表4に併せて示した(試験No.B12、試験No.B13)。
この各試験を、吸着試料1g当たりの亜リン酸イオンの通過量を変化させて行った。このとき測定したカラム出口の亜リン酸イオン濃度(mg−PO/L)と、亜リン酸イオンの除去率(%)およびカラム出口のpHを測定した結果を図2A〜図2Cに示した。
【0064】
(3)評価
表4から次のことがわかる。吸着試料2は、脱着、再生が繰り返されても十分な吸着性能を発揮する。しかも、その繰り返し数が増加すると、増分は小さくなるものの吸着性能は増加する傾向を示した。またNaOH溶液で脱着することにより、亜リン酸イオンをそのまま(亜リン酸ナトリウムとして)効率的に回収できた。
これらのことは図2A〜図2Cからもわかる。つまり、吸着試料1g当たりの亜リン酸イオンの通過量が変化しても、また、脱着・再生を繰り返しても、破過点まで亜リン酸イオンの漏洩濃度は0.1mg−PO/L以下であり、処理液量に対して吸着試料量が適切なら、亜リン酸イオンの除去率はほぼ100%であった。このように本発明の吸着試料を用いることで、亜リン酸イオンを高効率に吸着除去できることがわかった。
【0065】
なお同じ吸着試料を用いても、次亜リン酸イオンを吸着する場合と亜リン酸イオンを吸着する場合で、吸着傾向に相違が生じた。これは両者の吸着メカニズムに多少なりとも相違があるためと考えられる。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

【0069】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
β−オキシ水酸化鉄(β−FeOOH)および/または非晶質オキシ水酸化鉄(FeOOH)からなり、
処理対象である処理液に含まれる次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンを吸着し得ることを特徴とする次亜リン酸系イオン吸着材。
【請求項2】
請求項1に記載の次亜リン酸系イオン吸着材と処理対象である処理液とを酸性域で接触させて、該処理液に含まれる次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンを該次亜リン酸系イオン吸着材に吸着させる吸着工程を備えることを特徴とする次亜リン酸系イオン処理方法。
【請求項3】
請求項2に記載の吸着工程後の次亜リン酸系イオン吸着材を塩基性液と接触させて、該次亜リン酸系イオン吸着材から次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンを脱着させる脱着工程を備えることを特徴とする次亜リン酸系イオン処理方法。
【請求項4】
前記脱着工程は、前記次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンを、次亜リン酸塩または亜リン酸塩として回収する回収工程である請求項3に記載の次亜リン酸系イオン処理方法。
【請求項5】
請求項4に記載の脱着工程後の次亜リン酸系イオン吸着材を酸性液と接触させて、該次亜リン酸系イオン吸着材を再生する再生工程を備えることを特徴とする次亜リン酸系イオン処理方法。
【請求項6】
請求項1に記載の次亜リン酸系イオン吸着材を収容する吸着材収容体と、
該吸着材収容体へ処理対象である処理液を導通させる処理液導通手段と、
該吸着材収容体へ塩基性液を導通させる塩基性液導通手段と、
該処理液または該塩基性液の該吸着材収容体への導通を制御する導通制御手段とを備え、
次亜リン酸イオンまたは亜リン酸イオンの吸着および脱着をし得ることを特徴とする次亜リン酸系イオン処理装置。
【請求項7】
さらに、前記吸着材収容体へ酸性液を導通させる酸性液導通手段を備え、
前記導通制御手段は、該酸性液の該吸着材収容体への導通も制御できる請求項6に記載の次亜リン酸系イオン処理装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【公開番号】特開2011−235222(P2011−235222A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107795(P2010−107795)
【出願日】平成22年5月8日(2010.5.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人科学技術振興機構、独創的シーズ展開事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(596164744)高橋金属株式会社 (9)
【Fターム(参考)】