説明

止水装置

【課題】推進機に施工誤差が生じた場合であっても、到達坑口の止水を簡易に実現することを可能とした止水装置を提供する。
【解決手段】推進機の到達坑口部3に形成された止水装置1であって、円筒状の本体部11と、推進機後方の推進管の外周囲に周設される環状のシール部材12と、シール部材12を保持する支持リング13と、本体部11の地山側の開口に取り付けられた蓋部材14と、を備え、支持リング13が本体部11の内部において上下左右への移動が可能に配設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推進トンネルの施工時における到達坑口の止水装置に関する。
【背景技術】
【0002】
推進工法によりトンネルを構築する場合には、推進機により地中を切削するとともに、この推進機の後方に推進管を配置し、この推進管を利用して推進機を推し進める。
【0003】
地下水位以深におけるトンネル施工においては、発進坑口や到達坑口での鏡付けの際に、土砂や地下水等が噴出するおそれがある。そのため、土砂や地下水等の噴出を防止するための止水構造が多数開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、坑口部に予め配設された二重の閉塞部材(弾性板材やブラシ等)やゴム弾性材等からなる膨張袋により、推進機や推進管と坑口部との隙間を閉塞する止水構造が開示されている。
【0005】
二重の閉塞部材を利用した止水構造は、推進機と坑口部との隙間を閉塞するように坑口部に固定された第一の閉塞部材と、推進機よりも小さい外径の推進管と坑口部との隙間を閉塞するように設けられた第二の閉塞部材とにより、止水性を確保するものである。第二の閉塞部材は、ゴム板等からなる複数の閉塞片を、ブラケットを介して孔口部の中心方向にスライド可能に設けてなる。これにより、推進機の通過後、縮径することで推進管の周囲の隙間を閉塞することを可能にしている。
【0006】
また、膨張袋を利用した止水構造は、ブラケットを介して坑口部の中心方向にスライド可能に設けられた複数の膨張袋を膨張させることで坑口部において推進機や推進管の周囲に形成された隙間を閉塞し、止水性を確保するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−299097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、従来の止水構造は、坑口部に固定されているのが一般的であるため、推進機に施工誤差が生じた場合には、止水性が低下するおそれがあった。
また、スライド可能に設けられた複数の閉塞片や膨張袋は、単に推進管の外径に応じて坑口部の中心方向に縮径するものであるため、掘進機の施工誤差により推進管の軸心にブレが生じた場合には、止水性が低下するおそれがあった。また、複数の閉塞片または膨張袋同士の隙間からの地下水の浸透を防止するために作業を慎重に行う必要があった。
【0009】
このような観点から、本発明は、推進機に施工誤差が生じた場合であっても、到達坑口の止水を簡易に実現することを可能とした止水装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題を解決する本発明に係る止水装置は、推進機の到達坑口部に形成されたものであって、円筒状の本体部と、推進機または推進機後方の推進管の外周囲に周設される環状のシール部材と、前記シール部材を保持する支持リングと、を備える止水装置であって、前記支持リングが、前記本体部の内部において上下左右への移動が可能に配設されていることを特徴としている。
【0011】
かかる止水装置によれば、環状のシール部材が、上下左右への移動が可能となるように配設されているため、推進機に施工誤差が生じた場合であっても、誤差を吸収した状態で止水性を確保することができる。
また、環状のシール部材を採用しているため、止水性がさらに向上する。
【0012】
前記止水装置において、前記本体部には、少なくとも地山側端部にフランジが形成されていて、前記フランジには、隙間を有して蓋部材が固定されており、前記支持リングの外周部が前記隙間に挿入されていることで上下左右への移動が可能に保持されていてもよい。
【0013】
かかる止水装置によれば、簡易な構成により、止水性を確保することが可能なため、製造コスト等により経済的である。
【0014】
前記止水装置において、前記支持リングは、シール部材が配設されるシール固定部と、前記隙間に外周部分が挿入される板状の開口付き円板部と、前記シール固定部と前記円板部との間に開設された調芯部と、を備えてなり、前記調芯部が、前記円板部から前記シール固定部に向かうに従って、内径が縮小するテーパ状を呈した部分であってもよい。
【0015】
かかる止水装置によれば、推進機の先端部が調芯部に接触すると、支持リングが調芯部のテーパに沿って移動するため、推進機の誤差を吸収して推進機をシール部材に挿通させることが可能となる。
【0016】
また、前記隙間に、前記本体部の径方向で進退する複数本の締め付けボルトが配設されていれば、支持リングの位置を固定することが可能となる。
【0017】
また、前記隙間内に、グリスが充填されていれば、支持リングの移動を妨げることなく、隙間内への地下水や土砂の流入を防止することができる。
【0018】
また、前記シール部材が、ゴム製のチューブ材であれば、内部に気体や液体を注入することでシール部材が膨張し、推進管との隙間を遮蔽することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の止水装置によれば、推進機に施工誤差が生じた場合であっても、到達坑口の止水を簡易に実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施の形態に係る止水装置を示す断面図である。
【図2】(a)は図1に示す止水装置のA−A矢視図、(b)は図1に示す止水装置のB−B断面図である。
【図3】(a)および(b)は、止水装置の使用状況を示す断面図である。
【図4】(a)および(b)は、図3に続く止水装置の使用状況を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の好適な実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、同一要素には同一の符号を用い、重複する説明は省略する。
【0022】
本実施形態の止水装置1は、図1に示すように、土留壁2に形成された到達坑口部3に対応して設置されており、到達坑口部3に推進機が到達した際の止水を行うものである。
【0023】
止水装置1は、円筒状の本体部11と、推進機後方の推進管の外周囲に周設される環状のシール部材12と、シール部材12を保持する支持リング13と、本体部11の地山側の開口に取り付けられた蓋部材14とを備えている。
【0024】
本体部11は、円筒状の鋼材であって、両端にそれぞれ接続フランジ(第一接続フランジ11a,第二接続フランジ11b)が形成されている。
本体部11には、後記する注入管16および排気管17(図2(b)参照)の位置に対応して、注入口16aおよび排気口17aが形成されている。
【0025】
地山G側の第一接続フランジ11aには蓋部材14が固定される。第一接続フランジ11aと蓋部材14との間には、隙間11cが形成されている。なお、第一接続フランジ11aの周縁には、蓋部材14側に突出するように厚肉部11eが形成されている。そのため、蓋部材14は、この厚肉部11eに当接した状態で固定されることで、厚肉部11eの内側に隙間11cが形成される。
【0026】
第一接続フランジ11aの厚肉部11eにはトンネルの軸方向に貫通する複数のボルト孔11fが形成されており、蓋部材14や土留壁2との締着が可能に構成されている。
【0027】
隙間11cには、後記するシール固定部13(円板部13b)の外周部が挿入されている。これにより、シール固定部13(シール部材12)は、上下左右(推進管の径方向)に移動可能に保持されることになる。
【0028】
また、第一接続フランジ11aの厚肉部11eには、本体部11の径方向で進退する3本以上(本実施形態では8本)の締め付けボルト15が等間隔で配設されている(図2(a)参照)。厚肉部11eを貫通した締め付けボルト15の先端は、締め付けることで後記する円板部13bの周面に当接する。
【0029】
さらに、隙間11cには、グリス11dが充填されており、隙間内への地下水や土砂の浸入を防止するとともに、シール固定部13の急激な移動を防止している。なお、グリス11dは、必要に応じて充填すればよい。
【0030】
本体部11の地山Gと反対側の端部外面に一体に形成された第二接続フランジ11bは、環状の板材からなる。
なお、第二接続フランジ11bは、必要に応じて形成すればよく、省略してもよい。
【0031】
第二接続フランジ11bには、図2(b)に示すように、複数のボルト孔11e,11e,…が形成されている。接続フランジ11bにボルト孔11e,11e,…が形成されているため、例えば推進機を回収するための筒状の収容装置等、必要に応じて他の装置を止水装置1に接続が可能である。
【0032】
シール部材12は、推進管の外周面に沿って地下水が浸透することを防止する部材であって、止水装置1を貫通する推進管の外周面に密着する。
【0033】
シール部材12は、図1および図2に示すように、環状に形成されたゴム製(樹脂製)のチューブ材により構成されている。膨張前(収縮時)のシール部材12の内径は、推進機が挿通できるように、推進機の外径よりもわずかに大きく構成されている。
【0034】
シール部材12には、注入管16が接続されている。シール部材12は、注入管16を介して内部に注入された液体や気体(本実施形態では水)の圧力により膨張し、推進管3の外周面に密着する(図4(b)参照)。
【0035】
本実施形態のシール部材12には、図2(b)に示すように、排気管17が接続されており、注入管16から水を注入する際に、シール部材12内の排気が可能となるように構成されている。
本実施形態では、注入管16をシール部材12の下部に接続し、排気管17をシール部材12の上部に接続している。なお、注入管16および排気管17は、支持リング13の移動に追従可能な長さを有している。
【0036】
シール部材12は、図1に示すように、支持リング13を介して止水装置1に配設されている。
支持リング13は、シール部材12が配設されるシール固定部13aと、板状の開口付円板部13bと、シール固定部13aと円板部13bとの間に介設された調芯部13cと、を備えている。
【0037】
シール固定部13aには、シール部材12を配設するための凹部13dが形成されている。凹部13dは、内空側に開口した環状の溝条である。シール固定部13aの構成は限定されるものではないが、本実施形態では環状の鋼材からなる。また、シール固定部13aは、調芯部13cを介して円板部13bに一体に固定されている。
【0038】
シール固定部13aには、注入管16または排気管17を接続するための管取付治具16b,17bが設置されている。
【0039】
円板部13bは、第一接続フランジ11aと蓋部材14との間に形成された隙間11cに、外周部分が挿入されている。円板部13bは、隙間11cの直径よりも小さい外径の形状からなり、隙間11c内において、上下左右(径方向)に移動することができる。
円板部13bの中央部は、開口している。円板部13bの開口は、推進機に施工誤差が生じた場合であっても、推進機を挿通することができるように、推進機の外径よりも大きな形状に形成されている。
【0040】
調芯部13cは、図1に示すように、円板部13bからシール固定部13aに向かうに従って、内径が縮小するテーパ状を呈した部分である。
調芯部13cは、間隔をあけて配設されたシール固定部13aと円板部13bとを連結している。
【0041】
このように、シール部材12は、支持リング13を介して、上下左右(径方向)に移動できるので、推進機に施工誤差が生じた場合であっても、推進機の位置に応じて移動し、推進機および推進管を挿通させることができる。そして、推進機または推進管を挿通させた状態でシール部材12を膨張させると、推進機または推進管の外周面にシール部材12が密着して止水を行う。
【0042】
蓋部材14は、本体部11の地山G側の端面に固定された鋼板であって、図2(a)に示すように、中央部が開口した円板により構成されている。
蓋部材14の開口は、円板部13bの開口と同等の直径により形成されている。
【0043】
蓋部材14には、トンネル軸方向に貫通する複数の雌ネジ14a,14a,…が形成されている。雌ネジ14aはボルト孔11eの位置に対応して形成されており、ボルト孔11e(第一接続フランジ11a)を挿通したボルトを雌ネジ14aに螺合させることで、蓋部材14が本体部11に固定される。
本実施形態では、図1に示すように、第一接続フランジ11aおよび蓋部材14を挿通させたボルト18を利用して止水装置1を土留壁2へ固定している。なお、止水装置1の固定方法は限定されるものではない。
【0044】
締め付けボルト15は、第一接続フランジ11aの外周に沿って固定された取付ナット15aに螺合されており、回転により中心方向への進退が可能に配置されている。
締め付けボルト15は、隙間11c内においてシール固定部13(円板部13b)に当接することで、シール部材12の径方向での移動を拘束する。
【0045】
次に、本実施形態の止水装置1による到達坑口3の止水方法を説明する。
本実施形態では、到達坑口部3に到達した推進機4の施工誤差が生じている場合について説明する。
【0046】
止水装置1は、図3(a)に示すように、推進機4の到達に先立って、到達坑口3に対応して、土留壁2に固定されている。このとき、支持リング13は、軸心CL1が本体部11の軸心CL2と一致した位置で、締め付けボルト15により固定されている。
【0047】
ここで、到達坑口3は、土留壁2に形成された開口部であって、推進機4に施工誤差が生じている場合であっても挿通することが可能となるように、推進機4の外径よりも大きな形状に形成されている。
なお、土留壁2の構成は限定されるものではなく、例えば、鋼矢板等の構成部材により構成されていてもよい、コンクリート製であってもよい。
【0048】
図3(b)に示すように、推進機4が施工誤差を有して到達坑口部3に到達すると、図3(b)に示すように、推進機4の先端が調芯部13cに当接する。
推進機4が到達坑口部3(支持リング13)に到達したか否かは、音や振動等(推進機4のカッタビットと調芯部13cとの接触音等)により確認することができる。推進機4の先端が支持リング13内に入り込んだら、締め付けボルト15を緩めて(中心から外方向に後退させて)支持リング13の径方向での移動を開放する。
【0049】
締め付けボルト15を緩めた状態で、推進機4を進行させると、支持リング13は、調芯部13cのテーパに沿って移動する。支持リング13は、図4(a)に示すように、推進機4の推進にともない、調芯部13cの軸心CL1と推進機4の軸心CL3とが一致する位置に移動する。
調芯部13cの軸心CL1と推進機4の軸心CL3とを一致させることで、推進機4が支持リング13(シール部材12)を貫通することが可能となる。
【0050】
推進機4の軸心と支持リング13(シール部材12)の中心とが略一致したら(例えば、推進機4が支持リングを13を貫通したら)、締め付けボルト15により支持リング13を固定する。そして、図4(b)に示すように、推進管5がシール部材12を貫通するまで、推進機4を進行させる。
【0051】
シール部材12の内側空間に推進管5が配置されたら、注入管16を介してシール部材12の内部に水を圧入して推進管5の外周面にシール部材12を密着させる。これにより、シール部材12による止水が完了する。
【0052】
以上、本実施形態の止水装置1によれば、支持リング13が、推進機4の進入してきた方向に応じて上下左右(径方向)に移動するため、推進機4の施工誤差を吸収することが可能となる。
そのため、シール部材12による推進管5への密着度が低下することがなく、止水性を維持することが可能となる。
【0053】
また、シール部材12(支持リング13)を推進機4の軸心に応じて移動させることで、推進機4によりシール部材12を傷つけることを防止している。
【0054】
支持リング13の移動代として形成された隙間11c内にグリス11dが充填されているため、隙間11c内に地下水や土砂等が浸入して支持リング13の移動を妨げることがない。
また、グリス11dにより、支持リング13が急激に移動することが防止されているため、支持リング13が本体部11等に勢いよく衝突して破損することが防止されている。
【0055】
シール部材12は、環状に形成されたチューブ材により構成されているため、内部に注入された水により膨張し、推進管5の外周面に密着する。
【0056】
調芯部13cがテーパ面を有して形成されているため、推進機4の進行にともなって調芯部13cがテーパに沿って移動することで、支持リング13と推進機4との位置あわせが自動的に行われる。そのため、到達坑口部3の止水作業を簡易に行うことができる。
【0057】
注入管16は、支持リング13の移動に対応する長さを有しているため、支持リング13が推進機4に応じて移動した場合であっても、シール部材12への注入が可能である。
【0058】
以上、本発明について、好適な実施形態について説明したが、本発明は前記各実施形態に限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、止水装置1を土留壁2に固定するものとしたが、止水装置1の設置方法は限定されるものではなく、土留壁2に固定された他の取り付け部材を介して固定してもよい。
【0059】
また、止水装置の設置箇所(到達坑口部の形成箇所)は、土留壁に限定されるものではなく、例えばトンネルの内壁面に固定してもよい。
【0060】
また、シール部材12として、チューブ材を使用したが、推進管5の外周面に密着して止水することが可能であればシール部材12の構成は限定されるものではない。例えば、リップシールでもよいし、内面に沿って貼り付けられたゴム板を使用し、内壁面とゴム板との間に水等を注入することでゴム板を膨張させるものとしてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 止水装置
11 本体部
11a 第一接続フランジ
11c 隙間
11d グリス
12 シール部材
13 支持リング
13a シール固定部
13b 円板部
13c 調芯部
14 蓋部材
15 締め付けボルト
2 土留壁
3 到達坑口部
4 推進機
5 推進管
G 地山

【特許請求の範囲】
【請求項1】
推進機の到達坑口部に形成された止水装置であって、
円筒状の本体部と、
推進機または推進機後方の推進管の外周囲に周設される環状のシール部材と、
前記シール部材を保持する支持リングと、を備え、
前記支持リングが、前記本体部の内部において上下左右への移動が可能に配設されていることを特徴とする、止水装置。
【請求項2】
前記本体部には、少なくとも地山側端部にフランジが形成されていて、
前記フランジには、隙間を有して蓋部材が固定されており、
前記支持リングの外周部が前記隙間に挿入されていることで上下左右への移動が可能に保持されていることを特徴とする、請求項1に記載の止水装置。
【請求項3】
前記支持リングは、シール部材が配設されるシール固定部と、前記隙間に外周部分が挿入される板状の開口付き円板部と、前記シール固定部と前記円板部との間に開設された調芯部と、を備えてなり、
前記調芯部が、前記円板部から前記シール固定部に向かうに従って、内径が縮小するテーパ状を呈した部分であることを特徴とする、請求項2に記載の止水装置。
【請求項4】
前記隙間には、前記本体部の径方向で進退する複数本の締め付けボルトが配設されていることを特徴とする、請求項2または請求項3に記載の止水装置。
【請求項5】
前記隙間内に、グリスが充填されていることを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれか1項に記載の止水装置。
【請求項6】
前記シール部材が、ゴム製のチューブ材であることを特徴とする、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の止水装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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