説明

止血障害処置のための治療組成物に使用するためのリガンド

【課題】ヒトまたはヒト化モノクローナル抗体ならびにその断片、誘導体およびホモログでありうる。これらは思いがけない「プラトー効果」を示しうるリガンドを提供する。
【解決手段】本発明はリガンドおよびその製造方法ならびに前記リガンドを含む医薬製剤からなる。本リガンドは、因子または因子の複合体に結合し、モル過剰の状態であっても、前記因子または因子複合体の生理学的機能部位の機能を部分的にのみ損ないうる。それゆえ、本リガンドは、出血の危険を最小限に抑えつつ凝固障害および凝固障害に起因する血栓性病態を処置するのに、とりわけ適している。リガンドがモル過剰に存在しても、影響を受ける部位の生理学的機能をいくらか残すためには、本発明のリガンドの性質は特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規細胞株に関する。また本発明は前記細胞株から得ることができるリガンド、すなわちヒトおよび/またはヒト化モノクローナル抗体、ならびにその断片、例えばFab、Fab'、F(ab')2、scFv、単一可変ドメイン、相補性決定領域、誘導体、ホモログおよびそれらの組み合わせに関する。さらに本発明は前記リガンドを含む医薬組成物に関する。また本発明は、ヒトの凝固障害および凝固障害に起因する血栓性病態を予防および処置する方法であって、その必要がある患者への前記リガンドの投与による方法に関する。また本発明は特異的な哺乳類抗体を取得する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血餅の形成は負傷時に出血を制限(止血)するだけでなく、アテローム硬化性疾患との関連で、重要な動脈または静脈の閉塞により、重篤な器官損傷および死をもたらす場合もある。このように血栓症は間違った時期および場所での血餅形成である。血餅形成では循環血液タンパク質(凝固因子)、血球(特に血小板)および損傷した血管壁の構成要素の間に複雑で統制のとれた生化学反応のカスケードが起こる。抗凝固および抗血栓処置の目的は、例えば心筋梗塞、発作、末梢動脈疾患による四肢の喪失または肺塞栓症などといった危険な帰結を防止するために、血餅の形成を阻害することにある。これらの疾患の重要性を考えると、抗血栓療法が長年にわたって数少ない薬物、すなわち血小板を阻害するためのアスピリン、第IX、XおよびII(トロンビン)因子を間接的に阻害するヘパリン、およびビタミンK依存性因子(VII、IX、X、IIおよびプロテインC)を阻害する経口ワルファリンに頼ってきたことは、かなり驚くべきことである。最近、低分子量ヘパリン(第X因子および第II因子をさまざまな程度に阻害する)は、主に適用が容易である(1日1回の皮下注射、モニタリングは必要ない)という理由で、好んで選択される抗凝固剤になっている。血栓症に関与する過程の理解が増すにつれて、開発される凝固因子の特異的インヒビターはますます多くなっている。しかし、今までのところ、それら新規インヒビターでは、より良い効力と安全性のバランスは得られていない。特に直接的トロンビンインヒビターは大規模な臨床試験で出血合併症の増加と関連づけられている。
【0003】
アスピリンは血栓症に対する保護作用も提供する。アスピリンは、わずか30〜75mgの用量で、ヒト血小板酵素プロスタグランジンHシンターゼ(PGHS-1)のシクロオキシゲナーゼ活性を阻害することにより、臨床的には出血時間の延長として検出できる血小板の持続的な機能欠損を誘発する。アスピリンの胃腸副作用は用量依存的であるらしく、また二次予防にはアスピリンによる処置が無期限に推奨されるので、最小有効量を選択することには実用上の理由がある。また低用量(1日量30mg)の方が抗血栓性は高いかもしれないという推測もなされているが、至適投与量を確認しようとする試みからは矛盾する結果が得られている。血小板凝集を完全に抑制するのに必要なアスピリンの用量は、脳血管疾患患者では健常被検者よりも高く、同じ患者でも時間と共に変動するらしいと述べられている。しかし1日量30mg以上のアスピリンは主要な血管性症状の危険を最大でも20%低下させるに過ぎず、改善の余地はまだまだある。
【0004】
また、アスピリンの阻害作用は血栓症の予防につながると共に過剰出血にもつながる。2者の間のバランスは患者の絶対的な血栓リスク対出血リスクに決定的に依存する。
【0005】
急性心筋梗塞患者では、梗塞サイズの減少、心室機能の保全および死亡率の低下が様々な血栓溶解剤で実証されている。しかしこれらの薬剤には、大量の治療量が必要であること、フィブリン特異性が不足していること、付随する出血傾向が著しいことなどの重大な欠点が残っている。組換え組織プラスミノゲン活性化因子(t-PA)が患者の半分強で完全
な開存性を回復するのに対し、ストレプトキナーゼはこの目的を1/3未満の患者でしか達成しない。また、Verheugtら, J. Am. Coll. Cardiol.(1996)27:618-627によれば、血栓溶解療法後の再閉塞は入院中に5〜10%の症例で、また最初の1年以内に30%までの症例で起こる。そこで急性心筋梗塞患者に対する補助的抗トロンビン療法の効果が数多くの研究によって調べられている。一例として米国特許第5,589,173号には、閉塞性血栓を溶解し、その再形成を防止する方法であって、血栓溶解剤の補助として、組織因子タンパク質アンタゴニスト(これはモノクローナルまたはポリクローナル抗体でありうる)を投与することからなる方法が開示されている。
【0006】
モノクローナル抗体に抗血栓剤としての治療的価値があることは既に明らかにされている。この分野における最初の認可薬は、血小板GPIIbIIIaレセプターに対するマウスモノクローナル抗体(7E3)のヒト化Fab断片であるアブシキシマブ(Abciximab)(ReoPro(商標))だった。マウス抗体には、ヒト治療へのマウス抗体の使用を厳しく制限しうる特徴がある。Jaffersら, Transplantation(1986)41:572によって教示されているように、マウス抗体は、外来タンパク質として、ヒト抗マウス抗体(HAMA)と呼ばれる抗免疫グロブリン反応を誘発し、それがマウス抗体の治療効力を低下させもしくは破壊し、かつ/または患者のアレルギー反応もしくは過敏反応を惹起する。血栓塞栓性障害の治療における再投与の必要性は、上記のような免疫反応の可能性を増加させる。ヒトモノクローナル抗体の使用はこの制限に対処するものではあるが、そのような抗体を従来のハイブリドーマ技術によって大量に製造するのは困難なことがわかっている。
【0007】
そこで、マウスモノクローナル抗体の高い結合親和力を保っているがヒト体内で低下した免疫原性を示す「ヒト化」抗体が、組換え技術を使って構築されている。具体的には、非ヒト抗体の可変領域(V)をヒト抗体の定常(C)領域と組み合わせたキメラ抗体が提案されている。一例として、マウスFc断片を7E3から除去し、ヒト定常免疫グロブリンG Fab領域で置換することにより、c7E3 Fabまたはアブシキシマブとして知られているキメラが形成された。このようなキメラ免疫グロブリンを得る方法は、米国特許第5,770,198号に詳述されている。
【0008】
モノクローナル抗体7E3 FabによるGPIIb/IIIa阻害と血栓溶解療法との相乗作用の可能性は、Kleimanら, J. Am. Coll. Cardiol.(1993)22:381-389によって評価された。この研究では大出血が頻繁に起こった。したがって、この強力な抗血栓化合物の併用では、生命を危険にさらす出血の可能性が大きな懸念であることは明らかである。
【0009】
ネズミ抗体の免疫原性を低下させる最近の試みでは、Vドメイン全体ではなく相補性決定領域(CDR)、すなわちV領域中の超可変領域を、ヒト抗体に移植する。このようなヒト化抗体はCDR移植抗体として知られている。そのようなCDR移植抗体の一つを比較的単純なニトロフェナセチル抗原に対して構築することは成功しているが、より複雑な抗原を認識するCDR移植抗体の構築では、結合活性が無改変非ヒト抗体よりかなり低い抗体が得られている。単に非ヒトCDRをヒト抗体に導入するだけでは、完全な結合活性を保つには不十分であることが、数多くの例で実証されている。ヒト化抗体の設計に際して考慮すべき重要アミノ酸を同定して、そのような設計のための理論的指針を提案するには、関係のあるマウス抗体の精密なコンピューターモデルが必要であるが、いずれの場合も、作業を関係のある特定の非ヒト抗体に適合させ、最適化しなければならない。
【0010】
組織因子(TF)は、第VII因子および第VIIa因子のレセプターとして機能することによって前記外因系経路を開始させる膜糖タンパク質であり、抗凝固療法の標的として研究されている。TFは、この役割の他にも、血管疾患およびグラム陰性菌敗血症ショックなどの病態に関連づけられている。マウスモノクローナル抗体の抗凝固能力を特徴づけようとする研究では、評価したモノクローナル抗体の大半によるTF機能の阻害は、TFが血漿と接触
した時に迅速に形成されるTF/VIIa複合体の解離に依存することが明らかになった。WO96/40,921に開示されているように、モノクローナル抗体の一つであるTF8-5G9は、複合体の解離を伴わずにTF/VIIa複合体を阻害する能力を持ち、よって血漿中で速やかな抗凝固作用を与えた。
【0011】
標的となる凝固因子は中分子量範囲(約45,000〜160,000)を示し、かつ比較的高い正常血漿濃度(少なくとも0.01μmol/L)を示す。
【0012】
利用できる全ての抗血栓剤に伴う一つの打ち消しがたい懸念は、過量投与の危険、すなわち生命を脅かす過剰出血の危険である。それゆえ最新の抗血栓剤には患者の綿密なモニタリングが欠かせない。
【0013】
したがって、過量投与が起こりえず、モニタリングを必要とせず、出血問題を伴わない、凝固障害の処置に有効な化合物が必要とされている。抗体に基づく治療剤の場合、理想的な化合物は、免疫原性を誘発しない完全な抗凝固効力を有するヒト抗体だろう。
【0014】
第VIII因子は重要な凝固補因子活性を与えるタンパク質であり、かなり高い分子量(265,000)と極めて低い正常血漿濃度(0.0007μmol/L)を持つヒト凝固因子の一つである。2,332アミノ酸残基を持つ第VIII因子は、最も長い既知ポリペプチド鎖の一つであり、肝臓、脾臓および胎盤で合成される。第VIII因子の遺伝子は186,000ヌクレオチドを含むことが明らかになっている。
【0015】
第VIII因子は不活性血漿タンパク質として循環している。第V因子と第VIII因子は、三つのAドメインと二つのCドメインならびにA2ドメインとA3ドメインをつなぐ構造的に異なるBドメインという構造上共通する構成を持つ相同なタンパク質である。第VIII因子は1nmol/Lの濃度でフォン・ウィルブランド因子と強固に会合した多数の断片分子種として循環している。第VIII因子活性化はA1ドメインとA2ドメインの間の切断によって起こり、不安定なヘテロ三量体第VIIIa因子分子が生成する。第VIIIa因子は酸性リン脂質を含有する膜に強固に結合する。Araiら, J. Clin. Invest.(1989)83:1978によれば、第VIII因子はC2ドメイン内のアミノ酸2302と2332の間にリン脂質結合部位を持っている。ShimaらのThrom. Haemost.(1993)69:240およびJ. Biol. Chem.(1994)269:11601によれば、同じ第VIII因子領域には、A3ドメイン中のアミノ酸残基1645〜1689と共同して作用するフォン・ウィルブランド因子結合部位も存在する。
【0016】
第VIII因子の補因子活性を阻害するポリクローナル抗体は、第VIII因子を完全(I型)にまたは部分的(II型)に阻害するというその能力に従って、I型インヒビターまたはII型 インヒビターに分類されている。Gawrylら, Blood(1982)60:1103-9によれば、ヒトII型自己抗体による第VIII因子の低い不活化は、フォン・ウィルブランド因子の立体効果によるものであると考えられる。モノクローナル抗体には言及がなく、今までに、このようなII型インヒビターが治療的に使用されたことはなかった。Biggsら, Br. J. Haematol.(1972)23:137は、以前に、II型阻害パターンは低い親和力に関係するのではないかという、ヒトポリクローナル抗体を使って得られたデータから導いた解釈を提出している。B. Lyら, Scandinavian Journal of Haematology(1982)28:132-140には第VIII因子に対するポリクローナル抗体が開示されており、それらの抗体は、同種抗体を産生する血友病患者でも、自身の第VIII因子に対する自己抗体を持っている稀な患者でも、IgGクラスに属するものが最も多い。これらのポリクローナル抗体は、Biggsら(1972)およびHoyerら(1982)に記載の抗体と同様に、第VIII因子活性を部分的に不活化する。患者のポリクローナル抗体が示した第VIII因子不活性化パターンを、モノクローナル抗体で再現できるかどうかは、この文書でも言及されていない。ここでもモノクローナル抗体は言及されていない。
【0017】
欧州特許出願EP-A-123,945、EP-A-152,746およびEP-A-432,134は全て、ハイブリドーマ細胞株によって産生され第VIIIc因子ポリペプチド断片との特異的反応パターンを持つモノクローナル抗体を開示している。これらのモノクローナル抗体は、血漿中の第VIIIc因子および関連ポリペプチドの存在をイムノアッセイ法によって検出するのに役立つとされているが、これらの文書に潜在的な治療的使用を示唆する記載はない。
【0018】
J. Battleら, Annals of Hematology(1997)75:111-115には、フォン・ウィルブランド因子に対するウサギポリクローナル抗体と同様に、血漿第VIII因子に対して部分的な阻害活性を示す、重度フォン・ウィルブランド病患者由来のポリクローナル同種抗体が開示されている。したがってこれらのポリクローナル抗第VIII因子抗体は、血友病A患者に見いだされる抗第VIII因子II型抗体に似たパターンに従って、第VIII因子を不活化する(Gawrylら, Blood(1982)60:1103-9)。しかし、前記ヒト同種抗体中には第VIII因子抗体は検出されなかったことから、非特異的阻害であることが示唆された。
【0019】
J. Ingerslevら, Clinica Chimica Acta(1988)174:65-82には、ヒトフォン・ウィルブランド因子に対する一連のマウスモノクローナル抗体が開示されている。免疫グロブリンイソタイプIgG1に属するそのうちの2つは、前記文書の表Iに示されているように、極めて低い第VIII因子の阻害(1.3BU/mg免疫グロブリン)を示す。これに対し、インヒビターを持つ血友病A患者に由来するヒトモノクローナル抗体BO2C11は、7,000BU/mgタンパク質という比活性を持つ(Jacqueminら, Blood(1998)92:496-506)。これは、Ingerslevが記載したような抗体の動物またはヒトへの投与は、極めて大量の抗体(数百mg/ml)が血漿中に存在しない限り、第VIII因子活性にはおそらく影響を及ぼさないことを示している。著者らは、これらの抗体が、大過剰に使用した場合に、Gawrylら, Blood(1982)60:1103-9に記載されているインヒビターを初めとするI型またはII型(すなわち部分的不活化)ポリクローナルヒト第VIII因子インヒビターと同様に、阻害活性を示すかどうかを開示していない。
【0020】
Maraganoreら, Circulation(1992)86:413は、第VIII因子の残基1675-1686に相当する合成12アミノ酸ペプチドが、第VIII因子の凝血促進活性の活性化に必要なトロンビンによる重鎖の切断と、第VIII因子をフォン・ウィルブランド因子から解離させるために必要な軽鎖の切断とを阻害すること、および前記ペプチドのチロシン硫酸化は第VIII因子による前記ペプチドの認識を強化することを明らかにした。
【0021】
J. Clin. Invest(1988)82:206-211には、ウサギにヒト抗第VIII因子抗体を注入することによって血友病Aの動物モデルを得ることが記載されている。WO95/01570に従ってヒトまたはブタ第VIII因子の軽鎖に対する抗体を第1の動物で産生させた後、得られた精製単一特異性抗体を使って第2の動物で一過性の血友病が誘発された。米国特許第5,804,159号にも、いくつかの血液凝固因子に作用する抗血漿抗体製剤(例えばヒトフォン・ウィルブランド因子および第VIII因子に対する抗体または第VIII因子/フォン・ウィルブランド因子複合体に対する抗体または凝血原に対する抗体、抗凝固薬、血餅構造因子、線維素溶解因子およびリン脂質を含む製剤)を使った哺乳動物における一過性凝固障害の誘発が開示されている。
【0022】
しかし、第VIII因子が関与する上記の抗体化合物はいずれも治療用としては記載されていない。事実、当業者の間には、抗血栓療法のために抗第VIII因子抗体を研究することに偏見がある。なぜなら、第VIII因子の欠乏は血友病Aの病因なので、そのような抗体は出血状態を誘発するだろうと考えているからである。
【0023】
WO97/26010には、血栓性障害用の医薬組成物に有用な、凝固因子に対して自己抑制的中
和活性を有するモノクローナル抗体が開示されている。この文書における自己抑制的中和活性とは、限定的凝固調節が起こるような形でヒト凝固因子に結合し血栓形成を抑制する抗体の活性と定義されている。また限定的凝固調節とは、活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)の延長によって測定される凝固時間の増加であって、モノクローナル抗体濃度の増加にもかかわらず血漿が凝血能を保ち、aPTTがある最大値(好ましくは35〜100秒)に達するものと定義されている。このようにaPTTは抗血栓剤の効力対出血傾向の一次評価基準として使用されている。
【0024】
さらに具体的に述べると、前掲の文書は、第VIII因子に対するヒツジポリクローナル(SAF8C-IG、Affinity Biologicals社から購入)がaPTTの自己抑制的延長を誘発すること(aPTTは約65秒の最大値まで増加した)を実証している。しかし本発明者らは、SAF8C-IGはヒト第VIII因子の活性を完全に阻害すること(図10参照)、すなわちSAF8C-IGはGawrylら, Blood(1982)60:1103-9の分類におけるI型インヒビターであることを実証した。これは、一定の最大値までの凝固時間の限定的増加は必ずしも凝固因子の部分的不活性とは相関せず、まして出血の危険の減少とはさらに相関しないことを示している。例えば、凝固因子が完全に欠損している患者は通常60〜100秒の範囲のaPTTの限定的延長を示すが、それでも著しい出血の危険にさらされていることはよく知られている(Hathawayら, Am JClin Pathol(1979)71:22-25およびHoffmannら, Thromb Haemostas(1978)39:640-645)。
【0025】
逆に、延長したAPTTが血栓症リスクの低下の確実なパラメーターにならないことは、よく知られている。特に、内因系凝固経路のもう一つの凝固因子である第XII因子の欠乏は、最高6倍に延長されたAPTTをもたらす(Hathawayら, Am J Clin Pathol(1979)71:22-25およびHoffmannら, Thromb Haemostas(1978)39:640-645)。しかし、この欠乏症を持つ患者のうち、かなりの数の患者が心筋梗塞または血栓塞栓症を経験していることから、APTTの顕著な延長にもかかわらず、第XII因子欠乏症患者は血栓性疾患から保護されていないことがわかる(McPherson RA, Am J Clin Pathol(1977)68:420およびGlueck HIら,
Ann Intern Med(1966)64:390)。
【0026】
JacqueminらはBlood(1998)92:496-506で、インヒビターを持つ血友病A患者のメモリーB細胞由来の細胞株によって産生される第VIII因子特異的ヒトIgG4モノクローナル抗体(BO2C11)に言及している。B02C11は第VIII因子のC2ドメインを認識し、当該Cドメインのフォン・ウィルブランド因子への結合とリン脂質への結合をどちらも阻害するとされている。これは7,000ベセスダ単位/mgの比活性で無改変および活性化第VIII因子の凝固促進活性を完全に阻害するとされている。本発明者らは、BO2C11がヒト第VIII因子の活性を完全に阻害する一方で、aPTTによって測定される凝固時間を約110秒延長することをさらに明らかにした。これは、一定の最大値までの凝固時間の増加が必ずしも凝固因子の部分的不活化とは相関しないことを、再び実証している。このような第VIII因子レベルの低下は、重度血友病A患者の場合と同様に、患者を重大な出血リスクにさらすことになる(Levine PH, Ann NY Acad Sci(1975)240:201、Gilbert MS, Mount Sinai JMed(1977)44:339)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
本発明は、止血に関与する因子(特に凝固カスケードの因子または因子群、より具体的には第VIII因子またはその複合体)に結合する新規リガンド、すなわち新規モノクローナルヒトまたはヒト化抗体、その断片、誘導体およびホモログ;止血に関与する因子または因子群に結合するポリペプチドまたは他の分子;前記モノクローナル抗体の供給源となりうる新規細胞株;前記リガンドを含む医薬組成物;ならびにヒトの凝固障害および凝固障害に起因する血栓性病態を予防および処置する方法であって、その必要がある患者への前
記リガンドの投与による方法に関する。
【0028】
したがって本発明の第1の主目的は、哺乳動物(より具体的にはヒト)における出血の危険を低下させる効果的かつ安全な抗血栓療法を提供することである。
【0029】
本発明のもう一つの目的は、哺乳動物(より具体的にはヒト)における出血の危険を低下させる効果的な抗血栓療法をもたらす治療組成物を提供することである。
【0030】
本発明のさらにもう一つの目的は、今までに知られていた治療法および組成物よりも安全に使用できる抗血栓療法および抗血栓治療組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明の一側面は、止血(特に凝固カスケード)に関与するヒトタンパク質因子、より具体的には第VIII因子またはその複合体を、特異的リガンドを使用して標的とすることである。好ましくは、(ポリクローナル抗体以外の)これらのリガンドは、リガンドをモル過剰に使用した場合でも当該因子の残存活性が残るように、標的因子の機能を部分的にのみ阻害することによって、治療的に有用なプラトーレベルを与える。特定の標的因子に関して本発明リガンドの阻害作用を表す曲線を前記リガンドの濃度に対して作成し、少なくとも1%、好ましくは少なくとも2%の最小残存因子活性がまだ存在する濃度を決定することができる。この濃度の5倍の濃度における残存因子活性は、最小点での残存活性とは実質的に相違しないべきである。また特に、止血(特に凝固カスケード)に関与する因子または因子群、より具体的には第VIII因子またはその複合体を、リガンドがモル過剰である場合でも、部分的にのみ不活化する能力を持つ高親和性モノクローナル抗体(ヒト抗体およびヒト化抗体)ならびにその断片、誘導体およびホモログを提供し、よって過量投与および過量投与に起因する出血合併症の危険を防止することは、本発明のさらなる一側面である。本発明のさらにもう一つの側面は、各ヒトモノクローナル抗体を産生する新規細胞株を提供することである。
【0032】
本発明は上記の抗体またはその断片をコードするポリヌクレオチド配列も包含する。遺伝コードの縮重の結果として本発明の範囲に包含されるヌクレオチド配列が多数存在することは理解されるだろう。また本発明は、上記モノクローナル抗体またはその断片に対応する相補配列も包含する。特に本発明は上記モノクローナル抗体もしくはその断片または上記ポリヌクレオチドもしくは相補配列から構築されるプローブを包含する。
【0033】
また本発明は、ヒト体内での凝固を減弱する方法であって、止血(特に凝固カスケード)に関与する因子または因子群、より具体的には第VIII因子またはその複合体を、リガンドがモル過剰であっても部分的にのみ不活化する能力を有する(ポリクローナル抗体以外の)リガンド、例えばヒトもしくはヒト化モノクローナル抗体、その断片、誘導体またはホモログを、凝固の減弱を必要とする患者に投与することからなる方法を提供する。また本発明は、哺乳動物(具体的にはヒト)における血栓性病態を処置または予防する方法であって、止血(特に凝固カスケード)に関与する因子または因子群、より具体的には第VIII因子または第VIII因子を含む複合体を、リガンドがモル過剰であっても部分的にのみ不活化する能力を有する(ポリクローナル抗体以外の)リガンド、例えばヒトもしくはヒト化モノクローナル抗体、その断片、誘導体またはホモログを、前記処置または予防を必要とする哺乳動物に治療上有効な量投与することからなる方法を提供する。好ましい一態様として、上記血栓性病態は、例えば血管内凝固、動脈血栓症、動脈再狭窄、静脈血栓症および動脈硬化症などから選択することができる。
【0034】
本発明のもう一つの態様は、止血(特に凝固カスケード)に関与する因子または因子群、より具体的には第VIII因子または第VIII因子を含む複合体上のある部位に結合して、リ
ガンドがモル過剰であっても前記因子を部分的にのみ不活化する能力を有する(ポリクローナル抗体以外の)リガンドを、医薬的に許容できる担体との混合物として含んでいる医薬組成物に向けられる。前記リガンドは、好ましくは、ヒトもしくはヒト化またはハイブリッド化高親和性抗第VIII因子または抗第VIII因子-フォン・ウィルブランド因子複合体モノクローナル抗体またはその断片、誘導体もしくはホモログである。本発明の医薬組成物は所望により治療有効量の血栓溶解剤をさらに含んでもよい。
【0035】
本発明のもう一つの態様は、特異的モノクローナル抗体の選択方法に向けられる。マウスなどの動物を第VIII因子などのタンパク質で免疫する従来の方法では、第VIII因子分子上のいくつかのエピトープが関係しうる免疫学的反応が誘発される。本発明は、野生型タンパク質のエピトープに対する特異的モノクローナル抗体を得るためのより選択的な方法を提供する。まず、野生型タンパク質が少なくとも部分的に機能修飾された形のタンパク質を持つドナー(例えばヒトなどの哺乳動物)を用意する(すなわち選択する)。当該タンパク質の一ドメインに存在する前記修飾は、任意の理由(例えば人種または系統)、先天的な遺伝的欠陥、病気または人的干渉(例えば機能修飾型に対する免疫寛容)によるものであることができる。次に上記哺乳動物ドナーに免疫反応を惹起するために野生型タンパク質を投与する。この段階では、十分量の野生型タンパク質(例えば第VIII因子)を免疫反応が生じるまで投与することが重要である。次に、本方法の最終段階として、上記哺乳動物ドナー由来のB細胞の選択を行うと、例えば野生型タンパク質を部分的にのみ不活化する抗体を産生するドナー由来のBリンパ球を選択することなどにより、修飾された領域中のエピトープに対するモノクローナル抗体が得られる可能性は、はるかに大きくなる。
【0036】
第VIII因子阻害の抗凝固処置としての可能性は、今まで探求されてこなかった。その理由は、おそらく、第VIII因子活性を完全に(重度血友病)または大きく(中等度血友病)欠く血友病A患者で起こる出血合併症がよく知られているからだろう。しかし血友病Aは、制限的凝固補因子としての第VIII因子の重要性を示すだけでなく、凝固とアテローム性動脈硬化の間の既存の関連も示している。アテローム性動脈硬化およびその血栓性合併症は血友病A患者の間ではかなり稀であることが実際にわかっている。出血を防ぐのに十分な止血は可能であるが、病的な血管内血栓形成を妨げるレベルに第VIII因子活性を拮抗することは、血栓形成促進性疾患、例えば深部静脈血栓症(DVT)、肺塞栓症(PE)、術後、妊娠中、冠状動脈疾患(CAD)、脳血管疾患(CVD)、末梢動脈疾患(PAD)および血管介入処置中などにおける安全な血液凝固阻止にとって、かなり有望である。
【0037】
本発明は新規リガンド、すなわち新規ヒトおよびヒト化モノクローナル抗体ならびにその断片、誘導体およびホモログの驚くべき決定に基づいている。これらのリガンドは、思いがけない「プラトー効果」(すなわち、たとえリガンドが過剰であっても、個別にまたは共同して、止血(特に凝固カスケード)に関与する因子のもっぱら部分的な不活化を達成すること)を示しうる。リガンドは因子または因子の複合体に結合し、その結果、前記因子または因子複合体の生理学的機能部位の機能を部分的にのみ損ないうる。この「プラトー効果」ゆえに、本リガンドは、特にWO97/26010に記載されている自己抑制的中和活性を持つ抗体と比較して、出血の危険を最小限に抑えつつ凝固障害および凝固障害に起因する血栓性病態を処置するのに、とりわけ適している。したがって、WO97/26010に開示されている凝固因子に対する抗体の自己抑制的中和活性と、本発明が包含する臨床的に意味のあるプラトー阻害(KRIX-1などの抗第VIII因子抗体は第VIII因子活性を85%以下しか阻害しない)との間には、著しい相違がある。
【0038】
リガンドがモル過剰に存在しても、影響を受ける部位の生理学的機能をいくらか残すためには、本発明のリガンドの性質は特に有用である。本リガンドは、第VIII因子または第VIII因子複合体に結合して第VIII因子の活性を少なくとも部分的に阻害する抗第VIII因子
抗体、または第VIII因子複合体に対する抗体、特にヒトまたはヒトハイブリッドモノクローナル抗体であることができる。データは、II型インヒビターがI型抗体とは異なる抗原決定基と反応すること、そしてこれらの決定基は第VIII因子/フォン・ウィルブランド因子複合体では部分的にブロックされることを示している。
【0039】
以下、添付の図面を参照して、本発明をより詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
(定義)
「抗体」という用語は、該当する因子またはその因子のドメインのエピトープ決定基に結合する能力を有する完全な分子およびその断片、例えばFab、Fab'、F(ab')2またはFvなどを指す。
【0041】
本明細書で使用する「ヒト化抗体」という用語は、ヒト抗体により良く類似するように非抗原結合領域のアミノ酸が置換されている抗体分子を指す。
【0042】
本明細書で使用する「再構成ヒト抗体」または「ヒトハイブリッド抗体」という用語は、抗原結合領域のアミノ酸が本発明の配列、例えばヒト抗体のレパートリーから得られたCDRまたは可変領域の他の部分で置換されているヒト抗体を指す。
【0043】
本発明のリガンドに関して本明細書で使用する「相同(な)」という用語は、ある本発明リガンドの標的部位への結合と競合するかまたはある本発明リガンドの標的部位への結合を阻害する分子を指す。結合は特異的でなければならない。すなわち代替分子の結合は、本発明リガンドと同じように当該部位に対して特異的でなければならない。本発明のリガンドがアミノ酸配列を含む場合は、相同として、例えば問題のリガンドと少なくとも80%、より好ましくは90%、最も好ましくは95%のアミノ酸配列一致度を持つことを挙げることができる。
【0044】
(詳細な説明)
特定の態様および特定の図面を参照して本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるわけではなく、本発明は特許請求の範囲によってのみ限定される。具体的には、本発明を主に第VIII因子に対するリガンドに関して説明するが、本発明はこれらに限定されるわけではない。本発明は、特定のモノクローナル抗体を選択することで、止血に関与する因子を部分的にのみ不活化することにより、治療的に有用な「プラトー阻害」を得ること、ならびにそのようなヒトもしくはヒト化モノクローナル抗体またはその断片、誘導体もしくはホモログを製造し、これらを抗血栓療法および抗血栓療法組成物に使用することという一般概念に関する。これらのリガンドおよび組成物は、リガンドがモル過剰に存在する場合でさえ因子の不活化は部分的でしかないという有利な性質を持ちうる。これは、たとえ標的因子を完全に不活化してしまうと予想されそうな量でリガンドを使用しても、不活化がなお不完全であることを意味する。
【0045】
本発明は、ヒト第VIII因子と反応するヒトモノクローナル抗体を産生する特別な細胞株を提供する。より具体的には、本発明は、タンパク質加水分解切断部位またはフォン・ウィルブランド因子またはテンナーゼ複合体反応に干渉することによって、または第VIII因子の三次元的コンフォメーション変化を誘発することによって、特に第VIII因子のあるドメインを標的とし、前記ドメイン内にあるエピトープを認識することによって、ヒト第VIII因子の補因子活性を不活化する能力を有するヒトモノクローナル抗体を産生する特別な細胞株を提供する。好ましいドメインの一つは第VIII因子のC1ドメインであるが、本発明はこれに限定されない。第VIII因子のC2ドメイン上の部位も部分的に阻害することができる。本発明には、フォン・ウィルブランド因子からの第VIII因子の遊離速度を低下させる
ポリクローナル抗体以外のリガンド、特にモノクローナル抗体も包含される。これらのモノクローナル抗体は、フォン・ウィルブランド因子に結合している第VIII因子を特異的に標的とし、ゆえに第VIII因子とフォン・ウィルブランド因子の複合体に伴うエピトープを標的とする。本発明は、上記モノクローナル抗体の断片、例えばFab、Fab'、F(ab')2、scFv、CDR、単一可変ドメインなど、ならびにこれらの誘導体、ホモログおよび組み合わせも提供する。より具体的には、これらのモノクローナル抗体および断片は、第VIII因子の一ドメイン(特に第VIII因子のC1ドメイン)を標的とすることができる。またこれらは第VIII因子のC2ドメイン上の一部位を部分的に阻害してもよい。またこれらは、フォン・ウィルブランド因子と第VIII因子の複合体に伴うエピトープを標的としてもよい。したがって本発明の一側面は、機能的な第2部位(例えばリン脂質との結合を担っている第VIII因子のC2ドメイン中の部位)から遠く離れた第1部位(例えば第VIII因子のC1ドメイン中の部位)に、リガンドがモル過剰かつ治療的に過量に存在する場合でさえ第2部位の機能が部分的にしか損なわれないような形で結合する、ポリクローナル抗体以外のリガンドを提供することである。
【0046】
本発明のモノクローナル抗体を産生するKRIX1という名の細胞株は、BCCM/LMBP(Belgian Co-ordinated Collections of Microorganisms/Plasmid Collection Laboratorium voor Moleculaire Biologie、ヘント大学(ベルギー、B-9000ヘント、K. L. Ledeganckstraat 35))に、受託番号LMBP5089CBとして1999年7月1日に寄託された。
【0047】
また本発明は、上記寄託細胞株から得られるヒトモノクローナル抗体の反応性と実質的に類似する反応性を有するヒトモノクローナル抗体を産生する細胞株ならびにこれらのさらなる細胞株から得ることができるヒトモノクローナル抗体も提供する。
【0048】
また本発明は、ヒト抗体のレパートリーに由来する要素のみを含む、第VIII因子または第VIII因子とフォン・ウィルブランド因子とを含む複合体に結合してそれを部分的にのみ不活化する再構成ヒトモノクローナル抗体またはヒトハイブリッドモノクローナル抗体も提供する。ヒトハイブリッドモノクローナル抗体とは、ヒト抗体と本発明の可変領域とから構築されるハイブリッド抗体を意味する。従来、当技術分野では、動物(例えばマウス)由来の第VIII因子に対する抗体を得るか、またはヒト抗体とマウス抗体由来の可変領域とからキメラ抗体を構築することしかできなかった。
【0049】
また本発明は、止血(特に血液の凝固カスケード)に関与する因子(または前記因子を含む複合体)、好ましくは第VIII因子または第VIII因子を含む複合体を、前記因子または複合体のある部位に結合することによって部分的にのみ不活化する能力(このもっぱら部分的な不活化は本発明のリガンドが前記因子に対してモル過剰である場合でも起こる)を有する(ポリクローナル抗体以外の)リガンドを提供する。リガンドが結合する部位は、前記因子または複合体の生理学的相互作用に直接的または実質的に関与する場合も、直接的または実質的には関与しない場合もある。例えばリガンドは前記因子の生理学的機能部位から所定の距離にある部位に結合しうる。部分的「プラトー」不活化とは、本明細書では、例えばCoatest(登録商標)(Kabi Vitrum(ベルギー、ブリュッセル))またはChromogenix AB(スウェーデン、メルンダル)から入手できる発色アッセイなどの適切な試験法による決定で、多くて98%の不活化、好ましくは多くて95%の不活化を意味するものとする。必要な活性化のレベルは止血に関与する因子の生理学的機能に依存する。一方、治療的に有用であるために、血液因子の不活化は、上記と同じ試験法で決定して、少なくとも約65%、好ましくは少なくとも約70%でなければならない。本発明のリガンドが、従来から第VIII因子に対するII型抗体について想定されていた機序とは異なる方法で働くことは理解されるだろう。従来の機序の一つは、もう一つの因子(例えばフォン・ウィルブランド因子)との競合という機序である。競合機序の速度論では、ある分子種が他の分子種と比較して高濃度である(例えばモル過剰である)場合、阻害は事実上完全であることに
なる。これに対し、本発明のリガンドは、過剰のリガンドとは実質上無関係に、問題の因子の不活化がプラトーに達する。II型抗体に従来から想定されているもう一つの機序は、低親和性という機序であるが、この場合も、過量は反応を完全な阻害に至らせる。
【0050】
標的とする血液因子が第VIII因子である場合、本発明のリガンドは、寄託された細胞株KRIX1から得ることができ、第VIII因子の補因子活性を部分的にのみ不活化する能力を有する(好ましくはIgGクラスの)ヒトモノクローナル抗体であることができる。より具体的に述べると、本発明は、好ましい一態様として、第VIII因子のC1ドメイン内にあるエピトープを認識することができる、上記の起源に由来するヒトモノクローナル抗体に関する。一つの説明または理論に拘泥するわけではないが、このようなヒトモノクローナル抗体の結合により、補因子活性の発現にとって必須の一段階であるリン脂質への活性化第VIII因子の結合が、部分的に損なわれると考えられる。
【0051】
また本発明は、上記の特徴と実質的に同じ特徴を持ち、動物(好ましくはマウス)の意図的免疫化によって(例えばマウスにヒト第VIII因子を注射した後、その脾臓リンパ球をマウス骨髄腫細胞株と融合し、次いで抗第VIII因子抗体を産生する培養細胞を同定し、クローニングすることによって)製造されるモノクローナル抗体を提供する。次に、例えば非ヒトモノクローナル抗体由来の結合相補性決定領域(「CDR」)を、JonesらがNature(1986)321:522にまたはRiechmannがNature(1988)332:323に開示しているようなヒトフレームワーク領域(特にヒト遺伝子の定常C領域)と結合することによって、動物が産生したモノクローナル抗体をヒト化する。
【0052】
また本発明は、上記モノクローナル抗第VIII因子抗体の断片および誘導体、特に相補性決定領域(「CDR」)ならびにそのホモログも提供する。例えば本発明は、当技術分野周知の方法(例えばStanworthら, Handbook of Experimental Immunology(1978)第1巻、第8章(Blackwell Scientific Publications)記載の方法など)による前記モノクローナル抗体のタンパク質加水分解的消化によって生成する抗原結合性断片Fab、Fab'およびF(ab')2を提供する。抗体結合部位を含有するこれらの断片は、補体活性化またはFcγレセプターへの結合能などといった親抗体の性質のいくつかを失っている。本発明には、抗体の一本鎖可変領域断片(scFv)、単一可変ドメイン断片、ならびにこれらの断片および上記の断片の組み合わせも包含される。
【0053】
また本発明は、上記モノクローナル抗体の可溶型または膜固定型一本鎖可変部分およびそれらを下記のように取得する方法も提供する。ヒト重鎖および軽鎖の可変部分のDNA配列を個別の反応で増幅し、クローニングする。15アミノ酸リンカー配列、例えば(Gly4 Ser3)を、例えばDieffenbachおよびDveksler著「PCR Primer, a laboratory manual」(1995)(Cold Spring Harbour Press, 米国ニューヨーク州プレーンビュー)などに従って、2段階ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、VHとVLの間に挿入する。次に、一本鎖可変領域断片(scFv)を可溶型またはファージディスプレー型ポリペプチドとして発現させるのに適したベクターに、上で得た断片を挿入する。これは、例えばGillilandら, Tissue Antigens(1996)47:1-20に記載の方法など、当業者に周知の方法によって達成できる。また本発明には、Applied Biosystemsの合成装置、Milligen(USA)から入手できるモデル9050などのポリペプチド合成装置、または関連技術によるモデルを使った合成によって得ることができ、単独でまたは他のもしくは類似の超可変領域と共同して親抗体の性質に似た性質を発揮する、モノクローナル抗体の超可変領域を表すペプチドを含んでなるリガンドも包含される。
【0054】
また本発明は、ヒトの止血障害、特に凝固カスケードの障害およびその障害に起因する血栓性病態を予防または処置するための医薬組成物であって、活性成分として、ポリクローナル抗体以外のリガンド(好ましくは上述したようなヒトモノクローナル抗体)を、医
薬的に許容できる担体との混合物の形で含有する医薬組成物も提供する。前記モノクローナル抗体は、ベルジアン・コーディネイテッド・コレクションズ・オブ・マイクロオーガニズムス(Belgian Co-ordinated Collections of Microorganisms)に受託番号LMBP5089CBとして寄託された細胞株KRIX1から得ることができるヒトモノクローナル抗体、またはその断片、誘導体もしくはホモログであることが、より好ましい。前記モノクローナル抗体との相同性の程度は、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは90%、最も好ましくは95%であり、その相同性は特に抗体の相補性決定領域に関するものであることが好ましい。本発明のリガンドは、等価な効力を持つ合成ポリペプチドも包含しうる。本発明の医薬組成物は、例えば処置または予防法に関して以下にしめすような治療有効量の上記成分を含むべきである。
【0055】
本発明の医薬組成物は、いわゆる補助的抗血栓処置の観点から、治療有効量の血栓溶解剤をさらに含んでもよい。そのような血栓溶解剤は、その種類に依存する通常の投与量と共に、当業者にはよく知られている。本発明の医薬組成物に含めることができる数多くの血栓溶解剤例のなかでは特に、t-PA、ストレプトキナーゼ、レプチラーゼ、TNK-t-PAまたはスタフィロキナーゼを、非限定的に挙げることができる。
【0056】
本発明の医薬組成物での使用に適した医薬担体は、例えばRemington's Pharmaceutical
Sciences、第16版(1980)などに記載されており、その製剤は当業者にはよく知られている。これには、ありとあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗細菌および抗真菌剤(例えばフェノール、ソルビン酸、クロロブタノール)、等張化剤(例えば砂糖、塩化ナトリウム)などが包含される。組成物中のモノクローナル抗体活性成分の作用持続時間を制御するために、追加の成分を含めてもよい。したがって、制御放出組成物は、例えばポリエステル、ポリアミノ酸、ポリビニルピロリドン、エチレンビニルアセテートコポリマー、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、プロタミン硫酸などの適当なポリマー担体を選択することによって達成できる。薬物の放出速度および作用持続時間は、ヒドロゲル、ポリ乳酸、ヒドロキシメチルセルロース、ポリメタクリル酸メチル、および他の上記ポリマーなどといったポリマー物質製の粒子(例えばマイクロカプセル)に、モノクローナル抗体活性成分を組み込むことによって制御することもできる。このような方法にはリポソーム、ミクロスフェア、マイクロエマルション、ナノ粒子、ナノカプセルなどのコロイド薬物送達系が含まれる。投与経路によっては、活性成分を含む医薬組成物を保護コーティングする必要があるかもしれない。注射に適した剤形には、滅菌水性溶液または分散液および即時調合剤用の滅菌散剤がある。したがって典型的担体としては生体適合性の水性緩衝液、エタノール、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールおよびその混合物が挙げられる。
【0057】
また本発明は、ポリクローナル抗体以外の(上記)リガンドの医薬としての使用も提供する。より好ましくは、本発明で使用される医薬は、哺乳動物(好ましくはヒト)の止血障害(特に凝固障害)および他の血栓性病態を予防および/または処置するための手段である。前記リガンドは当技術分野周知の任意の手段によって、すなわち経口的、鼻腔内、皮下、筋肉内、皮内、静脈内、動脈内もしくは非経口的に、またはカテーテル法によって、患者に投与することができる。本発明によれば、リガンドは、他の医薬(例えば上記医薬組成物の項に記載したような血栓溶解剤)と共に、医薬として使用することもできる。
【0058】
したがって本発明は、止血、凝固障害または血栓性病態を処置および/または予防する方法ならびに哺乳動物(好ましくはヒト)における凝固を減弱する方法であって、そのような処置もしくは予防または凝固の減弱を必要とする哺乳動物に、上述したようなポリクローナル抗体以外のリガンドの治療有効量を投与することからなる方法を提供する。前記リガンドは、Belgian Co-ordinated Collections of Micro-organismsに受託番号LMBP5089CBとして寄託された細胞株KRIX1から得ることができるヒトまたはヒト化モノクローナル
抗体であるか、抗原結合性断片Fab、Fab'またはF(ab')2、相補性決定領域(CDR)、可溶型または膜固定型一本鎖可変部分(scFv)、単一の可変ドメインもしくは誘導体、またはこれらの要素の組み合わせであることが好ましい。
【0059】
本明細書にいう治療有効量とは、処置すべき哺乳動物の体重1キログラムにつき約1マイクログラム〜約10ミリグラム、より好ましくは約10マイクログラム〜約1ミリグラムを意味する。ほとんどのIgGヒト抗体は長い半減期を持つことを考えると、IgGクラスのモノクローナル抗体である本発明のリガンドは、患者の快適さに寄与する定期的処置の恩恵を享受できるだろうことは理解できるだろう。
【0060】
予防または処置すべき前記血栓性病態の好ましい態様としては、血管内凝固、動脈血栓症(これは急性心筋梗塞および脳卒中の原因になりうる)、動脈再狭窄、静脈血栓症(偶発的外傷もしくは手術による外傷または運動抑制の結果として末梢静脈でよく起こる)または動脈硬化症を挙げることができる。最も好ましい処置方法では、その患者の臨床状態を確定する基準に応じて医師によって決定される投与量のボーラス(静脈内注射)が患者に施される。
【0061】
本発明の処置および/または予防方法は、上記医薬組成物の項に記載したような血栓溶解剤の治療有効量を患者に投与(好ましくは逐次的に投与)することによる、同じ血栓性病態のさらなる処置または予防を含んでもよい。本明細書にいう「逐次的に」とは、本発明のリガンドと既知の血栓溶解剤とが、同時にではなく逐次的に患者に投与されることを意味する。
【0062】
また本発明は、
a)あるタンパク質ドメインに野生型タンパク質と比較して修飾を有する少なくとも部分的に機能的な生理活性タンパク質を持っている非ヒト哺乳動物を選択する工程、
b)免疫反応を誘発するために前記非ヒト哺乳動物に野生型タンパク質を投与する工程、および
c)野生型タンパク質を部分的にのみ不活化する抗体を産生する上記非ヒト哺乳動物由来のBリンパ球を選択する工程、
を含む、非ヒト哺乳動物由来のモノクローナル抗体の取得方法も提供する。この方法では、非ヒト動物を屠殺し、工程(c)を行うためにその脾臓を摘出することが、一般に行われる。
【0063】
また本発明は、あるタンパク質ドメインに野生型タンパク質と比較して修飾を有する少なくとも部分的に機能的な生理活性タンパク質を持ちかつ野生型タンパク質を投与されたヒトの血液からモノクローナル抗体を取得する方法であって、前記ヒトの血液から野生型タンパク質を部分的にのみ不活化する抗体を産生するBリンパ球を選択する工程を含む方法も提供する。
【0064】
本発明は、上述したさまざまな側面に体現されているように、多くの利点を有する。本発明のヒトモノクローナル抗体の治療的使用の主な利点は、その処置が想定している免疫反応に高度に特異的なことである。凝固亢進状態では、本発明のヒトモノクローナル抗体の特異性により、凝固カスケード経路内の相互作用が当該抗体によって認識される因子に確実に限定される。
【0065】
より具体的には、上記の好ましい特徴を持つ抗第VIII因子抗体の使用により、第VIII因子のターゲティングに関わる利点、第VIII因子阻害の特徴に関わる利点および抗体の使用に関わる利点のユニークな組み合わせが得られる。すなわち、
・第VIII因子のターゲティングによって、補因子活性(例えば第VIII因子の補因子活性)
の中和には、当該補因子活性が増進する酵素活性を完全に阻害してしまう危険がなくなることになり、その結果、第IX因子などの酵素を直接ターゲットとする方法に比べて有利になる。
・上述したインヒビターの態様は、第VIII因子の補因子活性を効率よくしかし部分的にのみ阻害して、本発明のモノクローナル抗体を100倍以上過剰に使用しても、治療的に有用なプラトーに至らせるという特徴を共通して持っている。本発明のモノクローナル抗体は第VIII因子の不活化に関してプラトー効果をもたらし、それがボーラス適用を可能にし、モニタリングの必要または過量投与の危険を伴わずに数週間にわたって安全な抗血栓的保護を与える。
・ヒトIgG抗体は3週間(IgG3は例外で1週間)という長い半減期を示すので、極めて安定した血漿抗血栓剤レベルを与え、投与頻度の劇的な減少を可能にする。また、ヒト抗体または誘導体の使用により、免疫反応を誘発する危険が最小限に抑えられる。
【0066】
例示のみを目的として記載する以下の実施例によって本発明をさらに説明する。
実施例1−血友病A患者由来のモノクローナル抗体の作成
望ましい特異性および特徴を持つヒトモノクローナル抗体は、血友病Aまたは後天性血友病を患っている患者の末梢血から得られるBリンパ球の形質転換によって作成される。患者の選択方法は本発明の一態様である。より特異的な免疫学的反応を誘発するために、機能が損なわれた生理活性タンパク質(例えば第VIII因子)を持つ患者を探す。「損なわれた」とは、多少の残存機能を利用することはできるが、その残存機能は同じタンパク質の野生型について知られている機能よりも低いことを意味する。自己タンパク質と野生型タンパク質とを比較すると、それら2つのタンパク質間に(好ましくは関係のある領域またはドメインに)相違が認められるはずである。この相違は欠失であるかもしれないし、1または複数のアミノ酸の、他のアミノ酸による置換であるかもしれない。次に、免疫学的反応を誘発するのに十分な野生型タンパク質を、上記患者に投与する。次に、Bリンパ球をその患者から抽出し、望ましい性質を持つ抗体の産生に基づいて選択する。上の説明では「患者」に言及したが、この態様による方法は哺乳動物一般に適用できる。上記の方法により、欠陥を含有するドメインを標的とする抗体を獲得する可能性が高くなる。
【0067】
当業者に周知の技術を用いてエプスタイン・バーウイルスの感染および表面抗原の活性化によってB細胞を形質転換する。適当な抗体を含有する細胞上清を、以下の詳述するような特異的アッセイ法によって同定する。
【0068】
例えば、第VIII因子に対する抗体は、上清を、第VIII因子または第VIII因子/フォン・ウィルブランド因子複合体でコーティングしたポリスチレン製マイクロタイタープレートと反応させることによって同定される。特異的抗体の結合は、酵素に結合された非ヒトIgG試薬の添加によって検出される。前記酵素の存在下で着色化合物に変換される酵素基質の添加によって、特異的抗体を検出することができる。酵素結合免疫測定法(ELISA)と呼ばれるこのような方法は当業者にはよく知られており、例えばCurrent Protocols in Immunologyの第2章(John Wiley & Sons)(1994)などに詳述されている(その内容は参照により本明細書に組み込まれるものとする)。
【0069】
より具体的に述べると、この例では、抗第VIII因子IgG抗体の結合を、ヒトFcγに特異的な西洋ワサビペルオキシダーゼ標識マウスモノクローナル抗体の添加によって検出した。抗第VIII因子抗体のIgGサブクラスを図1に示すようにELISAによって検出した。第VIII因子機能活性の阻害を機能的凝固アッセイで以下のように試験した。等体積の細胞培養上清とプール正常血漿とを37℃で2時間インキュベートした後、残存第VIII因子活性を測定した。第VIII因子活性を有意に阻害する抗体を図1に星印で示す。
【0070】
次に、抗第VIII因子抗体を産生するB細胞(BO2C11など)を増殖させ、例えばCurrent P
rotocols in Immunology(上記参照)に記載されているような限界希釈法によってクローニングする。上述のように第VIII因子の凝固促進活性を阻害する能力を持つ抗第VIII因子抗体は、Dade(ドイツ、Duechingen)製の第VIII因子発色アッセイまたはKabi Vitrum(ベルギー、ブリュッセル)もしくはChromogenix AB(スウェーデン、メルンダル)から市販されているCoatest(登録商標)などの発色アッセイキットを使って同定される。
【0071】
等体積のモノクローナル抗体BO2C11とプール正常血漿とを37℃で2時間インキュベートした。混合前のBO2C11濃度をX軸上に示す。第VIII因子活性の低下を凝固アッセイで測定し、抗体の不在下で得られる活性の百分率として表した(図2参照)。残存活性は0に漸近した(完全な阻害)。
【0072】
本発明の更なる一態様として、十分な親和性で第VIII因子機能を阻害するが抗体大過剰で使用した場合でさえ第VIII因子凝固促進活性を完全には阻害しない抗体を選択した。そのような抗体の代表例を図3に示す。図3では、等体積のKRIX1と組換え第VIII因子または正常血漿とを37℃で2時間インキュベートし(血漿と混合する前のKRIX1の濃度(単位μg/ml)は表示のとおり)、上記の発色アッセイを用いて残存第VIII因子活性を測定した。図3は、興味深いことに濃度0.1μg/mlにおける約60%の第VIII因子阻害を示しており、また、さらに興味深いことに、0.5〜300μg/mlの全濃度範囲で約80%に漸近する第VIII因子阻害を示している。
【0073】
次に、このようにして選択した抗体をバルク培養で産生させ、当業者に周知の方法によりアフィニティークロマトグラフィーで精製する。
【0074】
非限定的な製造法の詳細は次のとおりである。ヒト組換え第VIII因子(比活性4000IU/mg)はHyland(カリフォルニア州グレンデール)から実験用試薬として入手した。イオン交換クロマトグラフィーで精製した血漿由来(pd)第VIII因子-フォン・ウィルブランド因子複合体(比活性±160IU/mgタンパク質、フォン・ウィルブランド因子対第VIII因子のw/w比は15:1)および精製第VIII因子-枯渇(depleted)フォン・ウィルブランド因子(フォン・ウィルブランド因子対第VIII因子のw/w比は4800:1;ロット951016)はベルギー赤十字社(ベルギー、ブリュッセル)から入手した。
【0075】
軽度血友病を患っていてインヒビターを持つドナーから末梢血試料を集めた。末梢血単核細胞(PBMC)をEBV感染によって不死化すると共に、表面抗原の活性化を行った。480細胞株をELISAによって第VIII因子に対する抗体の産生に関してスクリーニングした。例えばある細胞株(KRIX1と命名)の限界希釈法によるクローニングに成功した。抗体重鎖および軽鎖のV領域をコードするmRNAのRT-PCR増幅によってクローン性を検証したところ、10クローンのPCR産物から単一の配列が得られた。KRIX1細胞培養上清をプロテインA-セファロースに通すことによって、精製抗体を得た。IgGサブクラス特異的および軽鎖特異的抗体を使って行ったELISAにより、KRIX-1はIgG4κと同定された。
【0076】
固定化プロテインA(high-TRAP(登録商標)Protein A、Pharmacia(スウェーデン、ウプサラ))への吸着によってヒトモノクローナル抗体を精製した。パパイン消化によってヒトモノクローナル抗体のFab断片を調製した。50mmol/L L-システイン(Sigma)、1mmol/L EDTA(Merck)および10μgのパパイン(Sigma)を含有するリン酸緩衝液(40mmol/L KH2PO4、60mM Na2HPO4・2H2O、0.15M NaCl)に、選択した抗体1mgを500μg/mlになるように希釈した。その混合物を連続的に撹拌しながら37℃で3時間インキュベートした。ヨードアセトアミドを最終濃度75mmol/Lになるように室温で30分間添加することによって反応を停止した。消化された抗体をリン酸緩衝食塩水(140mmol/L NaCl、67mmol/L KCl、20mmol/L Na2HPO4、4.4mmol/L KH2PO4、pH7.4)に対して透析した。次に、プロテインAセファロース(Hi-Trap Protein A、Pharmacia)を通過させることによって、未消化のIgGとFc
断片とを除去した。得られたFab断片をSuperdex200(Pharmacia)でのゲル濾過クロマトグラフィーによってさらに精製した。
【0077】
抗第VIII因子IgG抗体の検出、IgGサブクラスの決定、およびフォン・ウィルブランド因子への第VIII因子結合の阻害の評価には、従来の方法を使用した。Fabおよび無改変抗体による選択した抗体への組換え第VIII因子の結合の阻害を解析するために、グリシン緩衝食塩水(20mmol/Lグリシン、34mmol/L NaCl、pH9.2)に5μg/mlになるように希釈した抗体50μlで、Maxisorbポリスチレンプレート(Nunc)を2時間コーティングした。洗浄後、Tris-カゼイン(150mmol/L NaClと0.5%カゼインとを含有する10mmol/Lトリス(ヒドロキシメチル)アミノエタン、pH7.3)に1μg/mlになるように希釈したビオチン標識組換え第VIII因子50μlを、様々な希釈率のヒトIgG 50μlと37℃で1時間混合した。その混合物のうち50μlを室温で2時間、プレートに加えた。洗浄後、アビジンペルオキシダーゼとOPDを逐次添加することによって、ビオチン化組換え第VIII因子の結合を検出した。
【0078】
組換え第VIII因子(最終濃度0.2μg/mL)を様々な濃度のヒトIgG抗体と共に37℃で2時間インキュベートし、残存第VIII因子活性を発色アッセイ(Coatest Factor VIII、Chromogenix AB(スウェーデン、メルンダル)またはKabi Vitrum(ベルギー、ブリュッセル))によって評価した。血漿第VIII因子活性の阻害はクエン酸三ナトリウム緩衝液中に採取した正常血漿プールを第VIII因子源として使用するベセスダ法によって測定した。残存第VIII因子活性は発色アッセイまたは一段階凝固アッセイによって評価した。
【0079】
実施例2−動物の免疫化によるモノクローナル抗体の作成
もう一つの選択肢として、実施例1に開示した特徴と同じ特徴を持つモノクローナル抗体を、動物の意図的免疫化によって作成することもできる。例えばマウスにフロインドアジュバント中のヒト第VIII因子を注射する。
【0080】
次に、脾臓リンパ球をマウス骨髄腫細胞株と融合することにより、モノクローナル抗ヒト因子第VIII抗体を得る。Current Protocols in Immunology(上記参照)に記載の方法を使って、限界希釈法により、抗第VIII抗体を産生する細胞培養上清を同定し、クローニングする。第VIII因子の凝固促進活性を阻害する所望の能力を有するインヒビターのさらなる選択は、実施例1に記載した通りに行われる。
【0081】
次に、マウスで産生されたモノクローナル抗体をヒト化する。例えば、マウス重鎖および軽鎖の可変部分の配列をヒト免疫グロブリン可変領域と整列して、フレームワーク領域で最大のホモロジーを持つヒト抗体を同定する。次に、ヒト化可変領域をコードするDNA断片を、例えばSatoら, Cancer Research(1993)53:851-6に記載のPCRに基づくCDR(相補性決定領域)移植法によって合成する。ヒト化抗体の重鎖可変部分をコードする最終PCR産物を消化して、第1発現プラスミド中のヒトCγ-1遺伝子の上流にサブクローニングする。最終構築物のヒト化軽鎖可変領域は第2発現プラスミド中のCκ遺伝子の上流に挿入される。次に、これら2つの構築物をCOS細胞発現系に同時トランスフェクトする。
【0082】
実施例3−抗第VIII因子抗体の特徴づけ
ヒト(実施例1)または動物(実施例2)起源のモノクローナル抗体は、リン脂質への第VIII因子の結合を阻害するその能力を評価するアッセイ系を用いて特徴づけられる。例えばポリスチレンマイクロタイタープレートをホスファチジル-L-セリンでコーティングする。最終濃度2μg/mlの可溶型組換え第VIII因子を、様々な濃度の評価対象抗体と共に37℃で30分間混合する。次にその混合物をトロンビンですばやく活性化し、ホスファチジル-L-セリン被覆プレートに添加する。次に、そのプレートを21℃で2分間インキュベートし、抗第VIII因子A1ドメインmAb F14A2を2分間添加した後、HRP結合ヤギ抗マウスFcγと共に2分間インキュベートすることによって、第VIII因子の結合を検出した。この実験の
結果を細胞株KRIX1から産生されたモノクローナル抗体に関して図4に示す。この図には、抗体の不在下(黒いシンボル)または存在下(白いシンボル)での活性化第VIII因子結合の三重試料の平均値および標準偏差を示す。第VIII因子不在下での対照群は0.05未満のOD490値を与えた。図4から、細胞株KRIX1から産生されるモノクローナル抗体はリン脂質への第VIII因子の結合を有意に阻害するが、たとえ大過剰添加しても不完全な阻害しか引き起こさないことが、明らかである。
【0083】
血漿の不在下でKRIX1がドナーの突然変異型第VIII因子軽鎖を認識しないことを実証するために、野生型および突然変異型第VIII因子軽鎖をコードするDNA断片を合成した。対応するタンパク質を網状赤血球溶解液中で発現させた。無改変軽鎖および突然変異型軽鎖の正しい折り畳みは、第VIII因子軽鎖のカルボキシ末端部分にあるコンフォメーション依存エピトープを認識するヒトモノクローナル抗体BO2C11を用いる免疫沈降によって決定した。免疫沈降実験から、BO2C11は野生型およびArg2150His軽鎖を結合するが、KRIX1はもっぱら野生型軽鎖だけを補足することがわかった。SDS-PAGEゲルをオートラジオグラフィーフィルムに長時間ばく露しても、突然変異型軽鎖へのKRIX1の有意な結合は検出できなかった。対照実験では、第VIII因子または第VIII因子断片以外のアッセイ試薬への結合は認められず、可溶型組換え第VIII因子とのプレインキュベーションにより、メチオニン標識第VIII因子断片への結合が妨害されたことから、結合特異性が確認された。
【0084】
KRIX1はウェスタンブロット法では第VIII因子を認識しなかったことから、認識されるエピトープはコンフォメーション依存エピトープであることがわかる。そこで、網状赤血球溶解液中で生成させた第VIII因子断片を使って、さらなるエピトープマッピングを行った。このようなアプローチが第VIII因子ドメインの合成にとって効率がよいことは、予備実験によってわかっていた。網状赤血球溶解液中で生成させた標識第VIII因子ドメインを用いる免疫沈降法を、ヒトモノクローナル抗体BO2C11によって認識されるエピトープのマッピングによって確認した。網状赤血球溶解液中で生成させた第VIII因子C2欠失断片への結合と、大腸菌またはCOS細胞中で生成させた組換え断片への結合との間には、完全な一致が認められた。KRIX1は完全長軽鎖、A3C1、C1C2および単離されたC1 ドメインに相当する断片に結合した。これに対して、KRIX1は、置換Arg2150Hisを持つC1またはC1C2ドメインには結合しなかったが、対照実験ではArg2150His C1C2ドメインは、その正常型と同様にBO2C11によって結合された。
【0085】
KRIX1の結合を変化させうる軽鎖中の他の突然変異を検索した。表1に示すように、KRIX1は、突然変異Arg2150Hisを持つものを除いて、今までに試験した全ての突然変異型第VIII因子分子の活性を阻害した。
【0086】
【表1】

【0087】
第VIII因子を部分的に阻害するための医薬としてKRIX1を使用する場合、第VIII因子の軽微な突然変異は、治療の有効性に影響を与えないだろう。
【0088】
KRIX1はフォン・ウィルブランド因子への第VIII因子の結合を用量依存的に阻害した。第VIII因子結合の50%阻害を達成するのに必要なKRIX1の濃度(IC50)は0.25μg/mLであり、20μg/mLのKRIX1では95%を超える阻害が得られた。KRIX1のFab断片も、フォン・ウィルブランド因子への第VIII因子の結合を阻害した。しかし、フォン・ウィルブランド因子への第VIII因子結合の50%を阻害するのに必要なFabの量は、モル換算で無改変KRIX1の15倍だった。KRIX1 Fab断片が完全な抗体または部分消化された抗体をまだ含んでいる可能性を排除するために、追加実験を行った。プロテインA吸着およびゲルろ過クロマトグラフィーによって精製したFab断片のSDS-PAGE解析は単一のバンドを示した。痕跡量のFcγ断片がFab断片に結合した状態で残留している可能性はELISAで排除された。不溶化した第VIII因子を含むウェルを無改変またはFab KRIX1と共にインキュベートした。ペルオキシダーゼ標識抗κ軽鎖IgGを添加したところ、Fab KRIX1の結合と無改変KRIX1の結合をどちらも検出することができた。これに対して、ペルオキシダーゼ標識抗FcγIgGを添加した場合は、100μg/mlのFab調製物をウェルに入れても、特異的結合は認められなかった。
これに比べて、0.1μg/mlの無改変抗体の添加は、有意な結合をもたらした。ELISAでは、不溶化第VIII因子へのビオチン化KRIX1の結合を50%阻害するには、無改変抗体より15倍高濃度のFabが必要だったことから、Fab KRIX1断片は無改変抗体より第VIII因子に対する親和性が低いことがわかった。したがって、フォン・ウィルブランド因子への第VIII因子結合を阻害するには無改変抗体よりも高濃度のKRIX1 Fabが必要であることは、第VIII因子へのKRIX1 Fab断片の親和性が低いことに起因すると考えるべきである。
【0089】
KRIX1がドナー由来のポリクローナル抗体の典型であるかどうかを決定するために、競合アッセイを使用した。不溶化第VIII因子へのビオチン化KRIX1の結合を、様々な濃度のKRIX1、ドナー由来のポリクローナルIgGまたは対照ポリクローナルIgGの存在下で測定した。ドナー由来のIgGは第VIII因子へのKRIX1結合を用量依存的に阻害した。第VIII因子へのビオチン化KRIX1の結合を50%阻害するKRIX1およびドナー由来IgGの濃度は、それぞれ0.3μg/mlおよび170μg/mlだったが、対照IgGでは阻害は観察されなかった。
【0090】
実施例4−第VIII因子-フォン・ウィルブランド因子複合体に結合する血友病A患者由来のモノクローナル抗体の作成
もう一つの選択肢として、フォン・ウィルブランド因子からの第VIII因子の遊離速度を低下させる抗体を以下のように確認する。ポリスチレンマイクロタイタープレートをフォン・ウィルブランド因子に対する特異的抗体でコーティングする。フォン・ウィルブランド因子(5μg/mL)に複合体化したビオチン化組換え第VIII因子(0.5μg/mL)の溶液を様々な濃度のドナー(例えばKRIX1を得た上記の患者と同じドナー)由来のIgG(図5の黒い四角)、MoAb4H1D7、または非血友病被検者由来のIgG(図5の黒い三角)と混合する。フォン・ウィルブランド因子に対するマウス抗体MoAb4H1D7でコーティングしたマイクロタイタープレートに、表示の濃度のIgGを添加して、室温で2時間インキュベートした。洗浄後、第VIII因子を37℃で2分間、トロンビンによって活性化した。アビジンペルオキシダーゼの添加により、フォン・ウィルブランド因子に結合した第VIII因子を検出した。対照として、トロンビン消化不在下で結合したビオチン化第VIII因子の検出(OD450=460+47.7SD)および抗体不在下でトロンビン消化後のビオチン化組換え第VIII因子の検出(OD450=160+16.0SD)を含めた。
【0091】
これらの実験の結果をポリクローナル抗体に関して図5に示す。この図には三重試料の平均値と標準偏差を示す。図5は、抗体濃度を増加させるとプレートに結合した状態で留まる活性化第VIII因子の割合が有意に高くなることを示している。すなわち、図5は、フォン・ウィルブランド因子に結合した第VIII因子を認識するインヒビター抗体の存在下で、フォン・ウィルブランド因子からの活性化第VIII因子の解離が減少することを明らかにしている。モノクローナル抗体は本発明に記載の方法に従ってこれらのポリクローナル抗体から得られた。これは、本発明を、第VIII因子/フォン・ウィルブランド因子複合体に結合するモノクローナル抗体ならびにその断片および誘導体に拡大できることを示している。
【0092】
実施例5−抗体可変ドメインの配列決定
抗体可変ドメインの配列決定は以下のように行った。EBV不死化ヒトB細胞株からのRNAの単離は、TRIzol Reagentを使用し、製造者の説明書(Life Technologies)に従って行った。cDNAは第1鎖cDNA合成にSuperScriptプレアンプリフィケーションシステムを使って合成した。重鎖可変領域遺伝子(VH)をコードするcDNAは、Bakkusら, Blood, 80:2326, 1992に記載されているように、VHファミリーのリーダー配列とCγ領域の最初のエキソンとに特異的なプライマーを使って、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅した。アニーリングは60℃で行い、40PCRサイクルした。適切なサイズ(460bp)のPCR産物を1.5%アガロースゲルから単離し、TA Cloning Kit(Invitorogen BV(オランダ、リーク))を使ってクローニングした。関係あるVH遺伝子ファミリーに対応するプライマー対を使ったPC
Rスクリーニングを、無作為に選択したコロニーの培養物に対して行った。陽性コロニーのプラスミドDNAをWizard Plus Minipreps(Promega(カリフォルニア州メンロパーク)を使って単離し、Sequenase(US Biochemical(オハイオ州クリーブランド))により、製造者の説明書に従って両方向に配列決定した。可変遺伝子配列の解析は、V BASE Sequence Directory(Tomlinsonら, MRC Centre for Protein Engineering(英国ケンブリッジ))を使って行った。
【0093】
実施例1に記載した抗体BO2C11のVHおよびVLの全配列は、それぞれアクセッション番号AJ224083およびAJ224084として、EMBL Nucleotide Sequence Databaseに提出された。
【0094】
図6および7に示すアミノ酸配列は、重鎖および軽鎖のそれぞれに3つのCDRを含む抗体BO2C11のVHおよびVL領域を定義づけている。また、これらの領域をコードするポリヌクレオチド配列も記載されている。配列番号2および3はそれぞれBO2C11の重鎖および軽鎖のアミノ酸配列であり、配列番号5および6はこれらの可変領域をコードするポリヌクレオチド配列である。
【0095】
図8および9に示すアミノ酸配列は、短鎖および長鎖のそれぞれに3つのCDR 1〜3を含む抗体KRIX-1のVHおよびVL領域を定義づけている。また、これらの領域をコードするポリヌクレオチド配列も記載されている。配列番号8および1はそれぞれKRIX-1の重鎖および軽鎖のアミノ酸配列であり、配列番号7および4はこれらの可変領域をコードするポリヌクレオチド配列である。
【0096】
実施例6(比較例)−抗体SAF8C-Igによる第VIII因子活性の阻害
機能アッセイにおける第VIII因子のレベルを、様々な濃度の抗体SAF8C-Igと共に37℃で2時間インキュベートしてから、実施例1に記載の発色アッセイ法で測定する。図10に示すように、残存第VIII因子活性は用量依存的に低下する。残存第VIII因子活性は、100μg/mlのSAF8C-Igで既に、正常活性の1%未満である。このように低い第VIII因子レベルは、例えばLevin, Ann. NY Acad. Sci.(1975)240:201およびGilbert, Mount Sinai J. Med.(1977)44:339などからよく知られているように、患者を高い自発的出血リスクにさらすことになる。
【0097】
実施例7−KRIX1によるハムスターにおける静脈血栓症の抑制
色素ローズベンガルを頸静脈に注射し、大腿静脈をキセノンランプの緑色光に4分間ばく露することにより、麻酔したハムスターの大腿静脈に血栓症を実験的に誘発した(Kawazakiら, Thromb Haemost(1999)81:306-11)。血管照射の結果として、色素は分解してラジカルを生成し、そのラジカルが血管内皮細胞を損傷する。このようにして内皮下構造が血液循環にさらされ、血栓形成が開始される。形成される血栓の量を、損傷した血管の徹照によって測定し(Kawazakiら, Thromb Haemost(1999)81:306-11)、血管を透過する白色光の量によって定量化する。図11に示すように、この実験を対照動物群で行った場合、13匹のハムスターで測定された平均血栓サイズは220,000±32,575(平均±SEM)任意光単位(Arbitrary light Units=A.U.)だったが、KRIX-1で12匹のハムスターからなる群を処置したところ(400〜800μg/kg、血栓誘発直前にボーラスとして投与)、平均血栓サイズは122,000±27,100A.U.に減少した(p=0.0188、マン-ホイットニー検定)。
【0098】
また、KRIX-1による第VIII因子阻害の速度論を生体外で以下のように解析した。ハムスターにKRIX-1(1600μg/kg)を静脈内注射した。注射前および注射後の様々な時点で採取した血漿を使って、第VIII因子:cのレベルを、発色アッセイ(Coatest Factor VIII(登録商標)(Chromogenix AB(スウェーデン、メルンダル))およびFactor VIII Chromogenic Assay(Dade(スイス、デューディンゲン)))で測定した。図12は、これらのハ
ムスターでは、抗体注射の30分後には既に第VIII因子活性が1.6IU/mlから0.3IU/mlに低下することを示しており、KRIX-1が第VIII因子を部分的にのみ阻害することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】ELISAにおける第VIII因子へのIgG抗体結合の形で表現した、血友病A患者由来のヒトモノクローナル抗体の産生結果を表す図。
【図2】モノクローナル抗体BO2C11による第VIII因子活性の阻害を表す図。
【図3】細胞株KRIX1から産生されるモノクローナル抗体による第VIII因子活性の阻害を表す図。
【図4】細胞株KRIX1から産生されるモノクローナル抗体によるホスファチジル-L-セリンへの活性型第VIII因子の結合の阻害を表す図。
【図5】活性型第VIII因子のフォン・ウィルブランド因子からの解離に対する特定のポリクローナル抗体の影響を表す図。
【図6】BO2C11モノクローナル抗体の重鎖可変領域VHに関するアミノ酸配列(下側の行)およびヌクレオチド配列(上側の行)。それぞれ本発明の具体的一態様に従う具体的一ポリペプチドリガンドである3つの相補性決定領域(CDR)も示してある。
【図7】BO2C11モノクローナル抗体の軽鎖可変領域VLに関するアミノ酸配列(下側の行)およびヌクレオチド配列(上側の行)。それぞれ本発明の具体的一態様に従う具体的一ポリペプチドリガンドである3つの相補性決定領域(CDR)も示してある。
【図8】KRIX1モノクローナル抗体の重鎖可変領域VHに関するアミノ酸配列(下側の行)およびヌクレオチド配列(上側の行)。それぞれ本発明の具体的一態様に従う具体的一ポリペプチドリガンドである3つの相補性決定領域(CDR)も示してある。
【図9】KRIX1モノクローナル抗体の軽鎖可変領域VLに関するアミノ酸配列(下側の行)およびヌクレオチド配列(上側の行)。それぞれ本発明の具体的一態様に従う具体的一ポリペプチドリガンドである3つの相補性決定領域(CDR)も示してある。
【図10】WO97/26010に記載の抗体SAF8C-Igによる第VIII因子活性の阻害を表すグラフ。
【図11】KRIX-1による第VIII因子阻害の速度を表す図。
【図12】ハムスターモデルにおけるKRIX-1による静脈血栓症の抑制を表す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノクローナル抗体であって、前記モノクローナル抗体が生理学的に過剰に存在する時に、第VIII因子または第VIII因子を含む2以上の因子の複合体を、前記因子または複合体のある部位に結合することによって、少なくとも65%かつ多くとも95%、凝血促進活性を不活化する能力を持つモノクローナル抗体。
【請求項2】
配列番号1に相当する軽鎖アミノ酸配列もしくはその少なくとも80%の相同性を有する配列と、配列番号8に相当する重鎖アミノ酸配列もしくはその少なくとも80%の相同性を有する配列とから定義される請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項3】
モノクローナル抗体の結合部位が前記因子または複合体の生理学的相互作用に直接的には関与しない、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項4】
第VIII因子のC1ドメイン内にあるエピトープを認識することができる、請求項1または請求項2のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体。
【請求項5】
請求項1もしくは2もしくは請求項4のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体であって、ベルジアン・コーディネイテッド・コレクションズ・オブ・マイクロオーガニズムス(Belgian Coordinated Collections of Microorganisms)に受託番号LMBP5089CBとして寄託されたKRIX1という名称の細胞株から得られるヒトモノクローナル抗体。
【請求項6】
動物の意図的免疫化によって産生される、請求項2または請求項1〜4のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体。
【請求項7】
請求項6のモノクローナル抗体から得ることができるヒト化モノクローナル抗体。
【請求項8】
IgGクラスに属する、請求項1〜7のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体。
【請求項9】
請求項1もしくは請求項2〜6のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体または請求項7に記載のヒト化モノクローナル抗体の抗原結合性断片Fab、Fab'もしくはF(ab')2、もしくはscFv。
【請求項10】
哺乳動物の止血障害および止血障害に起因する病態を予防または処置するための医薬組成物であって、活性成分として、請求項1もしくは請求項2〜6のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体または請求項7に記載のヒト化モノクローナル抗体またはその断片を、医薬的に許容できる担体との混合物の形で含有する医薬組成物。
【請求項11】
治療有効量の血栓溶解剤をさらに含む、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
請求項10に記載の抗原結合性断片Fab、Fab'もしくはF(ab')2、または相補性決定領域、または可溶型もしくは膜固定型一本鎖可変部分、または単一可変ドメイン、または誘導体をコードするポリヌクレオチド。
【請求項13】
第VIII因子のC1ドメインを標的とすることによって第VIII因子の補因子活性を不活化する能力を有する、請求項1に記載のモノクローナル抗体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−295455(P2008−295455A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−198354(P2008−198354)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【分割の表示】特願2001−509473(P2001−509473)の分割
【原出願日】平成12年7月13日(2000.7.13)
【出願人】(502014363)ライフ・サイエンシーズ・リサーチ・パートナーズ・フェレニゲング・ゾンデル・ウィンストーメルク (12)
【氏名又は名称原語表記】LIFE SCIENCES RESEARCH PARTNERS VZW
【Fターム(参考)】