説明

正帯電性アクリル系重合体粒子の製造方法及びその製造方法により得られた正帯電性アクリル系重合体粒子

【課題】 正帯電性アクリル系重合体粒子の製造方法、及びその製造方法により得られた粒子を提供する。
【解決手段】 水系媒体中、シード粒子およびカチオン性界面活性剤の存在下、該シード粒子に、重合性モノマーを吸収させて、シード乳化重合を行い、アクリル系重合体粒子を製造する工程を含み、
前記シード粒子がビニル系重合体粒子、前記重合性モノマーが(メタ)アクリルエステル系モノマーを20〜100重量%、及び前記(メタ)アクリルエステル系モノマーと共重合可能なビニル系重合性モノマー0〜80重量%の混合物であり、
前記(メタ)アクリルエステル系モノマーのエステル部の置換基の炭素数が4以上10以下であり、目開き45μmの篩通過率が80%〜99%であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,正帯電性アクリル系重合体粒子の製造方法、及びその製造方法により得られた粒子に関する。更に詳しくは、本発明は、シード粒子およびカチオン性界面活性剤の存在下、該シード粒子に、(メタ)アクリルエステル系モノマーを吸収させて、シード乳化重合によって得られ、目開き45μmの篩通過率が80%〜99%であることを特徴とする正帯電性アクリル系重合体粒子の製造方法、及びその製造方法により得られた粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル系重合体樹脂粒子は、塗料添加剤、粘着剤、化粧品添加剤、トナー添加剤、光拡散剤、液晶スペーサー、バインダー、レオロジー調節剤、増量剤、塗膜性能改良剤等として広く用いられている。さらには従来から塗料、土木材料のトップコート、シーラー、インクジェット記録材料、電着塗料等幅広い用途分野を有しており、その利用価値は高い。このような重合体樹脂粒子は、トナー同士のブロッキング防止やトナーの流動性向上、且つ機械的な外力や熱による融着や凝集あるいは割れや欠け等を起こすことがなく、電子写真機、複写機、プリンター等の部品を損傷することがないためトナーの添加剤(以下、トナー外添剤)等に好適に用いられている。
従来、このような微粒子としては、シリカ等の無機系材料やアクリル樹脂等の有機系材料からなる微粒子が一般的に用いられてきた。しかし無機系材料からなる微粒子には、硬度が高すぎるため感光体ドラムを傷めやすいという問題点や平均粒子径も100nm以下程度の小さいものに限定されるという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−163985号公報
【特許文献2】特開2005−82765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、乳化重合法で作製した平均粒子径が0.3μm以下かつゲル分率を調節した粒子によって流動性を向上させる方法が開示されている。しかしながら上記方法で得られる粒子では、十分な流動性を付与することはできないという問題点があった。またイソブチルメタクリレートなど、エステル部の炭素数が多い正帯電性粒子では流動性はますます悪化する。また上記方法では正帯電性アクリル系ではやはり十分な流動性は得られなかった。
一方、特許文献2では、有機−無機複合材料でなる微粒子が流動性を付与できると開示しているが、有機溶媒を使用しており反応時間が長時間にわたるため生産効率が良くないという問題点がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明では上記課題を解決すべく検討した結果、特定のモノマー比率でシード乳化重合法を行うことにより優れた流動性を付与できる正帯電性アクリル系重合体粒子を得られることを見出し、本発明に至った。
【0006】
かくして本発明では、水性媒体中、シード粒子およびカチオン性界面活性剤の存在下、該シード粒子に、アクリル系重合性モノマーを吸収させて、シード乳化重合を行い、アクリル系重合体粒子を製造する工程を含み、
前記シード粒子がビニル系アクリル系重合体粒子であり、前記アクリル系重合性モノマーが(メタ)アクリルエステル系モノマーを20〜100重量%、及び前記(メタ)アクリルエステル系モノマーと共重合可能なビニル系重合性モノマー0〜80重量%の混合物であり、
前記(メタ)アクリルエステル系モノマーのエステル部の置換基の炭素数が4以上10以下であり、前記アクリル系重合体粒子の目開き45μmの篩通過率が80%〜99%であることを特徴とする正帯電性アクリル系重合体粒子の製造方法、及びその製造方法により得られた粒子が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の正帯電性アクリル系重合体粒子は、目開き45μmの篩通過率が80〜99%と流動性に優れているという特徴を有している。そのため、静電荷像現像に使用されるトナー用の外添剤(電子写真用トナー外添剤に使用される)として使用できる他、塗料添加剤、粘着剤、化粧品添加剤、トナー添加剤、光拡散剤、液晶スペーサ、バインダー、レオロジー調節剤、増量剤、塗膜性能改良等として好適である。
しかも本発明では、水性媒体を使用することや反応時間も上記記載の方法よりも大幅に短縮できるため高い生産効率で目的の正帯電性アクリル系重合体粒子を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、シード粒子であるビニル系アクリル系重合体粒子に、エステル部の炭素数が4以上10以下である(メタ)アクリルエステル系モノマーを20〜100重量%含むアクリル系重合性モノマーを吸収させて、シード乳化重合によって得られる。目開き45μmの篩通過率が80〜99%であることを特徴とする正帯電性アクリル系重合体粒子の製造方法、及びその製造方法により得られる粒子である。ここで「(メタ)アクリル」は、アクリル又はメタクリルを意味する。
【0009】
(シード粒子)
本発明で使用されるシード粒子は、ビニル系モノマーを重合させてなる重合体である。具体的には、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニルモノマー、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリルエステルモノマー、酢酸ビニルなどの単独重合体、あるいはこれらと共重合可能なモノマーとのブロック、ランダム、グラフト共重合体が挙げられる。なお、前記アクリル系重合性モノマーの吸収性が優れるという点で(メタ)アクリルエステルモノマーを含む重合体が好ましい。
【0010】
シード粒子の製造方法は特に限定されないが、乳化重合、ソープフリー乳化重合あるいは懸濁重合などの方法を用いることができる。シード粒子の粒径の均一性や製造方法の簡便さを考慮すると、乳化重合およびソープフリー乳化重合法が好ましい。
本発明のシード粒子の数平均分子量は特に限定されないが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる測定で、10,000以上が好ましく、より好ましくは12,000〜500,000である。このようなシード粒子は、得られるアクリル系重合体粒子の粒径を均一なものとするために粒径が均一であることが好ましい。
本発明のシード粒子の平均粒子径は小さすぎるとシード粒子へのアクリル系重合性モノマーの吸収が不十分となり、重合安定性が著しく低下することがあり、大きすぎるとアクリル系重合性モノマーの使用量を少なくする必要があり、生産性が低下するため、0.05〜0.4μmが好ましい。
シード粒子の使用量は、少ないと、シード粒子上あるいはシード粒子中以外で重合が進行し、微小な粒子や粗大な粒子が多く生成することがあり、得られる重合体の粒径の均一性が低下する恐れがある。またシード粒子の使用量が多いと、シード粒子を形成する重合体との相分離に起因する粒子の異形化が起こり、アクリル系重合体粒子の真球度が低下する恐れがあるので、重合性モノマー100重量部に対して1〜50重量部が好ましく、3〜30重量部がより好ましく、5〜15重量部が特に好ましい。
【0011】
(アクリル系重合性モノマー)
本発明で使用されるアクリル系重合性モノマーは、エステル部の置換基の炭素数が4以上10以下の(メタ)アクリルエステル系モノマーを20〜100重量%、及び前記(メタ)アクリルエステル系モノマーと共重合可能なビニル系重合性モノマー0〜80重量%の配合物である。
【0012】
本発明では、エステル部の置換基の炭素数が4以上10以下の(メタ)アクリルエステル系モノマーを用いる。エステル部の置換基の炭素数3以下の場合、重合時の安定性は良好であるものの篩通過率が低下してしまう。また、エステル部の置換基の炭素数が11以上の場合は、重合時の安定性が悪化し、粒子径が大きくなってしまうことがある。また得られた粒子の篩通過率も低下してしまう。より具体的には、本発明で使用されるエステル部の置換基の炭素数が4以上10以下の(メタ)アクリルエステル系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル等が挙げられる。特に、高い流動性を付与できるという点で(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニルがより好ましい。これら(メタ)アクリルエステル系モノマーは単独で使用してもよく、二種以上を併用しても良い。
上記(メタ)アクリルエステル系モノマーの使用量は、少ないと重合安定性は良好であるが篩通過率が低下してしまうため、全重合性モノマーに対して20〜100重量%であり、50〜100重量%がより好ましい。
【0013】
本発明の前記エステル部の置換基の炭素数が4以上10以下の(メタ)アクリルエステル系モノマーと共重合可能なモノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニルモノマー、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリルエステルモノマー、酢酸ビニル等が挙げられ,特に(メタ)アクリル酸メチルが好ましい。
本発明で使用される前記エステル部の置換基の炭素数が4以上10以下の(メタ)アクリルエステル系モノマーと共重合可能なビニル系重合性モノマーの使用量は、同様の理由で、全重合性モノマーに対して0〜80重量%であり、0〜50重量%が好ましい。
【0014】
またアクリル系重合性モノマーに連鎖移動剤を添加しても良い。連鎖移動剤の具体例としては、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン、α−メチルスチレンダイマー、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノール等のフェノール系化合物、アリルアルコール等のアリル化合物、ジクロロメタン、ジブロモメタン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素化合物などが挙げられ、重合性モノマー混合物100重量部に対して、0.1〜5重量部使用することが好ましい。より好ましくは0.3〜3重量部である。
【0015】
アクリル系重合性モノマーには、本発明の効果を阻害しない範囲で、他のモノマーや添加剤が添加されてもよい。
他のモノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン等の芳香族ビニル化合物が挙げられる。
さらに他のモノマーとしては、二官能性重合性ビニル系モノマーが挙げられる。具体的には、(メタ)アクリル酸アリル、ジビニルベンゼン、アルキレングリコールジメタクリレート(アルキレンは炭素数2〜4の範囲が好ましい)等が挙げられる。二官能性重合性ビニル系モノマーの混合割合は、(メタ)アクリルエステル系モノマー100重量部に対して50重量部以下であることが好ましく、40重量部以下であることがより好ましい。
他の添加剤としては、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、消泡剤、増粘剤、熱安定剤、レべリング剤、滑剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0016】
(水性媒体)
乳化重合は、水性媒体中で行われる。水性媒体としては、特に限定されないが、水、水と水溶性有機溶媒(例えば、低級アルコール)との混合物等が挙げられる。この内、廃水処理の問題が少ない水が好ましい。
【0017】
(シード乳化重合)
上記アクリル系重合性モノマーは、水系媒体中においてシード粒子の存在下、シード乳化重合に付される。
本発明では、上記のようなアクリル系重合性モノマーをシード粒子に吸収させてシード乳化重合するに際して、アクリル系重合性モノマーは、後述するようなカチオン性界面活性剤、および水系媒体と混合・攪拌して乳化し、水性媒体中にアクリル系重合性モノマーが分散した乳化分散液(O / W型エマルジョン)とし、該乳化分散液にシード粒子の水分散液を添加することが好ましい。
上記乳化分散液を調整する際の重合性モノマーと水系媒体との使用割合(重量部/重量部)は、1:20〜1:2の範囲であることが好ましい。1:20よりアクリル系重合性モノマー配合物の割合が少なくなると、生産性が悪くなる場合があるので好ましくない。1:2よりアクリル系重合性モノマー配合物の割合が多くなると、重合中の粒子の安定性が悪くなり重合後のアクリル系重合体粒子の凝集物が生じてしまう場合があるので好ましくない。より好ましい使用割合(重量部/重量部)は1:15〜1:3である。
アクリル系重合性モノマーをシード粒子に吸収させるための時間は特に限定されないが、10分から3時間が好ましい。
【0018】
本発明で使用できるカチオン性界面活性剤としては特に限定されず、公知のカチオン性界面活性剤をいずれも使用できる。例えば、アルキルアミン、又はその塩、ポリアルキレンオキサイドを有するアンモニウム塩、ピリジニウム塩、アミノアルコール脂肪酸誘導体、ポリアミン脂肪酸誘導体、イミダゾリン,アルキルトリメチルアミン、又はそのアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアミン又はそのアンモニウム塩,アルキルジメチルベンジルアミン,又はそのアンモニウム塩,ピリジニウム塩,アルキルイソキノリニウム塩,塩化ベンゼトニウムなどが挙げられる。このなかでアンモニウム塩酸塩、アンモニウム硫酸塩、アンモニウムスルフォン酸塩、アンモニウムパラトルエンスルフォン酸塩、アンモニウム酢酸塩等のアンモニウム塩が好ましい。例えば、ラウリルトリメチルアンモニウム塩酸塩、ステアリルトリメチルアンモニウム塩酸塩、セチルメチルアンモニウム塩酸塩、およびジステアリルジメチルアンモニウムクロライドN−ポリオキシアルキレン−N,N,N−トリアルキルアンモニウムパラトルエンスルフォン酸塩などがより好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせてもよい。
上記カチオン性界面活性剤の使用量は、少なすぎるとシード粒子へのアクリル系重合性モノマーの吸収が不十分となり、重合安定性が著しく低下することがある。多すぎると水相での重合が起こり易く微小な粒子が多量に発生し、目的とするアクリル系アクリル系重合体粒子の収率が低下することがあるため、重合性モノマー100重量部に対して0.01〜0.5重量部であることが好ましく、0.02〜0.2重量部がより好ましい。
【0019】
本発明で使用できるカチオン性界面活性剤の代わりにカチオン性水溶性高分子を使用しても良い。具体例としては、アミノ基変性ポリビニルアルコール、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、カチオン化ヒドロキシエチルセルロースなどが挙げられ、特にアミノ基変性ポリビニルアルコール、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドが好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
上記カチオン性水溶性高分子の使用量は、少なすぎるとシード粒子へのアクリル系重合性モノマーの吸収が不十分となり、重合安定性が著しく低下することがある。多すぎると水相での重合が起こり易く微小な粒子が多量に発生し、目的とする重合体粒子の収率が低下することがあるため、前記カチオン性界面活性剤と同じく、アクリル系重合性モノマー配合物100重量部に対して0.01〜0.5重量部であることが好ましく、0.02〜0.2重量部がより好ましい。
【0020】
本発明における重合開始剤は、水溶性重合開始剤、油溶性重合開始剤のいずれもが使用できる。重合安定性の点で水溶性重合開始剤が好ましい。
本発明で使用できる水溶性重合開始剤としては、カチオン性水溶性重合開始剤が好ましく使用できる。本発明で用いられるカチオン性水溶性重合開始剤の具体例としては、2,2−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩化水素、2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二硫化二水和物、2,2−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]水和物、2,2−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}二塩化水素、2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−エチルプロパン)二塩化水素、2,2−アゾビス{2−メチル−N[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2−アゾビス(N−ヒドロキシエチルイソブチルアミド)、4,4−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物類等があげられる。また、前記過硫酸塩類、および有機過酸化物類にナトリウムスルホオキシレートホルムアルデヒド、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素アンモニウム、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸アンモニウム、過酸化水素、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム、L−アスコルビン酸、およびその塩、第一銅塩、第一鉄塩などの還元剤を重合開始剤に組み合わせて用いるレドックス系開始剤なども挙げられる。
【0021】
油溶性重合開始剤としては、過酸化ベンゾイル、過酸化−t−ブチル、ラウリルペルオキサイド、t−ブチルヒドロキシペルオキサイド、クメンヒドロキシペルオキサイド、t−ブチルパーベンゾエイト、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、メチルエチルケトンパーオキサイド、イソプロピルパーオキシカーボネート、ジオクタノイルパーオキサイド等の過酸化物類、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル、アゾビスシクロへキサンカルボニトリル等のアゾ系化合物類等が挙げられる。
重合開始剤の使用量は、その種類により相違するが、アクリル系重合性モノマー配合物100重量部に対して、0.1〜5重量部使用することが好ましい。より好ましくは、0.3〜3重量部である。
【0022】
重合系の攪拌回転数は、特には限定はされないが例えば、5リットル容量の反応器を使用した場合、100〜500rpmであることが好ましい。また、重合温度は、使用するモノマーや重合開始剤の種類により相違するが、30〜100℃であることが好ましく、重合時間は2〜10時間であることが好ましい。
また、アクリル系重合体粒子の水性媒体からの単離は公知の方法を用いることができ、スプレードライヤーに代表される噴霧乾燥法、ドラムドライヤーに代表される加熱された回転ドラムに付着させて乾燥する方法、凍結乾燥法等により行うことができる。さらに乾燥させたアクリル系重合体粒子は、粉砕機、解砕機等で凝集物を解すことが望ましい。
【0023】
本発明の正帯電性アクリル系重合体粒子は、0.1〜1.0μmの平均粒子径を有する。0.1μm未満の場合、アクリル系重合体粒子の凝集力が大きくなることにより、篩通過率が低下するため好ましくない。また1.0μmを越える場合、アクリル系重合体粒子の比表面積が小さくなり、篩通過率が低下するので好ましくない。より好ましい平均粒子径は0.15〜0.8μmである。なお、平均粒子径の測定方法は、実施例の欄に記載する。
【0024】
更に、本発明の正帯電性アクリル系重合体粒子は、目開き45μmの篩通過率が80〜99%である。80%より小さいと、例えば静電荷像現像に使用されるトナー用の添加剤とした場合に、流動性の付与が不十分である。
【0025】
本発明の正帯電性アクリル系重合体粒子は、流動性に優れた正帯電性アクリル系重合体粒子であり、所望の用途に用いることができる。そのような用途として、静電荷像現像に使用されるトナー用の添加剤として使用できるほか、塗料や、インキ粘着剤用、接着剤用、人工大理石用等の添加剤、紙処理剤用、化粧品用等の充填材、クロマトグラフィーのカラム充填材、フィルム用のアンチブロック剤や、光拡散剤等として適している。
【実施例】
【0026】
以下、実施例及び比較例により本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中の平均粒子径、篩通過率の測定方法を下記する。
【0027】
(平均粒子径)
ここでいう平均粒子径は、動的光散乱法あるいは光子相関法と呼ばれる方法を利用して測定した粒子径を意味する。すなわち、0.1vol%に調整した正帯電性アクリル系重合体粒子の水系分散液に25℃においてレーザー光を照射し、アクリル系重合体粒子から散乱される散乱光強度をマイクロ秒単位の時間変化で測定する。検出された重合体樹脂粒子に起因する散乱強度分布を正規分布に当てはめて、平均粒子径を算出するためのキュムラント解析法により求めた平均粒子径である。この種の平均粒子径は、市販の測定装置で簡便に測定可能であり、本実施例ではマルバーン社から市販されている「ゼータサイザーナノZS」を測定に使用している。
上述の市販の測定装置にはデータ解析ソフトが搭載されており、測定データを自動的に解析できる。
【0028】
(重合安定性)
ここでいう重合安定性は、得られた正帯電性アクリル系重合体粒子の水系分散液全量を目開き100μmのステンレス篩に通し、篩上の残存物を50℃で24時間乾燥させた後、残存物の重量を秤量する。この値(Wa)を凝集物生成率を算出し((1)式)、得られた値が5%未満である場合は重合安定性が非常に優れている(◎)、5〜10%である場合は重合安定性が優れている(○)、10%で以上である場合は重合安定性が悪い(×)と判断した。

凝集物生成率=(Wa/重合性モノマー使用量)×100

【0029】
(篩通過率の測定)
a.外添処理
後述の合成方法で製造したスチレン−ブチルメタクリレート共重合体である平均粒子径10μm粒子を15gと測定資料0.45gの混合物をミルミキサー(National 製 品番MX−X57−Y ファイバーミキサー)で5秒間混合処理し、その後1分間静置保管した。再度5秒混合、1分間静置保管を繰りかえし、計5回行った。測定する正帯電性アクリル系重合体粒子を後述の合成方法で製造したスチレン−アクリル系重合体粒子に外添処理したものを擬似トナーとする。
【0030】
b.篩通過率
凝集度の測定はホソカワミクロン社製のパウダーテスター使用書により測定した。パウダーテスターに金属製の目開き45μmの1段篩を用いて測定した。上記記載の方法で外添処理を行った擬似トナー2gを1段篩に載置し、パウダーテスターに7.2Vのレオスタット電圧を印加して93秒間1段篩を振動させ、45μmの篩に残留した粉体の重量を測定し、以下の式により算出した値が凝集度として示されている。篩通過率に変換して計算。
凝集度(%)=(上段フルイに残った粉体重)/2g×100
篩通過率(%)=100−凝集度(%)
【0031】
<合成例>
篩通過率の測定に使用したスチレン−アクリル系重合体粒子の製造について説明する。5L容量のオートクレーブに、水2600重量部にピロリン酸マグネシウム26重量部を分散させ、亜硝酸ナトリウム0.13重量部、フォスファノールLO−529(東邦化学社製)1.3重量部を溶解させた。そこへ、アゾビスイソブチロニトリル10.4重量部、t−ブチルパーオキシー2−エチルヘキサノエート3.9重量部を溶解させたスチレン910重量部、メタクリル酸ブチル390重量部の混合溶液を加え、ホモジナイザーで4000rpmで乳化させた後、ナノマイザーシステム
LA−33(ナノマイザー(株)製)により処理圧0.5MPaで処理して分散液を得た。得られた分散液を450rpmの攪拌回転数で攪拌しつつ、60℃で6時間に亘って加熱した。その後スルファミン酸1.3重量部、ドデシルベンゼンスルホン酸Na2.6重量部を溶解させた水100重量部を加え、110℃まで加熱して更に1時間に亘って攪拌を続けながら重合を行った。その後室温まで冷却し、脱水・乾燥を行うことでスチレン−アクリル系重合体粒子を得た。得られたスチレン−アクリル系重合体粒子の平均粒子径は10μmであった。
【0032】
(実施例1〜6、比較例2,3で使用するシード粒子の合成方法1)
5L容量のオートクレーブに、水3600重量部、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライドの28%水溶液(花王株式会社製 コータミン86W)1.429重量部、メタクリル酸メチル400重量部、ノルマルオクチルメルカプタン8重量部を供給し、250rpmの攪拌回転数で攪拌しつつ、70℃に加熱した。次に2,2‘−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩(和光純薬工業社製
V−50)を2重量部供給し、70℃にて3時間に亘って攪拌後、80℃まで加熱して更に1時間に亘って攪拌を続けながら乳化重合を行った。その後、乳化液を室温まで冷却することでアクリル系重合体粒子の水系分散液を得た。得られた水分散液中のアクリル系重合体粒子の平均粒子径は0.12μmであった。重量平均分子量は、36,900であった。
【0033】
(実施例1)
5L容量のオートクレーブに、水2740重量部、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライドの28%水溶液(花王株式会社製 コータミン86W)0.571重量部、メタクリル酸メチル240重量部、メタクリル酸イソブチル560重量部、ノルマルドデシルメルカプタン8重量部を供給し、10分間7000rpmの攪拌回転数でホモジナイザーにて乳化攪拌した後、合成方法1で製造したアクリル系重合体粒子の水分散液400重量部供給した後、1時間に亘って室温で攪拌を行った。その後70℃まで加熱し、2,2‘−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩(和光純薬工業社製V−50)を2重量部供給し、3時間に亘って攪拌した後、80℃にて1時間に亘って攪拌を続けながら乳化重合を行った。その後、乳化液を室温まで冷却することで正帯電性アクリル系重合体粒子の水系分散液を得た。得られた水系分散液中の正帯電性アクリル系重合体粒子の平均粒子径は0.28μmであった。さらに得られた正帯電性アクリル系重合体粒子の水系分散液をスプレードライヤーにて給気温度105℃、排気温度55℃で処理し、その後ジェットミルで処理することで正帯電性アクリル系重合体粒子の粉末を得た。この正帯電性アクリル系重合体粒子を上記記載の方法で外添処理した後の擬似トナーの目開き45μmの篩通過率は83%であり、流動性に優れていた。
【0034】
(実施例2)
メタクリル酸イソブチルの代わりにメタクリル酸ターシャリーブチル(TBMA;エステル部炭素数4)(共栄社化学社製;ライトエステルTB)とした以外は実施例1と同様の方法で行った。
得られた水系分散液中の正帯電性アクリル系重合体粒子の平均粒子径は0.32μmであった。この正帯電性アクリル系重合体粒子を上記記載の方法で外添処理した後の擬似トナーの目開き45μmの篩通過率は95%であり、非常に流動性に優れていた。
【0035】
(実施例3)
メタクリル酸イソブチルの代わりにメタクリル酸シクロヘキシル(CHMA;エステル部炭素数6)(共栄社化学社製;ライトエステルCH)とした以外は実施例1と同様の方法で行った。
得られた水系分散液中の正帯電性アクリル系重合体粒子の平均粒子径は0.36μmであった。この正帯電性アクリル系重合体粒子を上記記載の方法で外添処理した後の擬似トナーの篩通過率は85%であり、流動性に優れていた。
【0036】
(実施例4)
メタクリル酸メチル240重量部の代わりに560重量部、メタクリル酸イソブチル560重量部の代わりに240重量部とした以外は実施例1と同様の方法で行った。
得られた水系分散液中の正帯電性アクリル系重合体粒子の平均粒子径は0.28μmであった。この正帯電性アクリル系重合体粒子を上記記載の方法で外添処理した後の擬似トナーの篩通過率は81%であり、流動性に優れていた。
【0037】
(実施例5)
メタクリル酸メチル240重量部の代わりに80重量部、メタクリル酸イソブチル560重量部の代わりに720重量部とした以外は実施例1と同様の方法で行った。
得られた水系分散液中の正帯電性アクリル系重合体粒子の平均粒子径は0.34μmであった。この正帯電性アクリル系重合体粒子を上記記載の方法で外添処理した後の擬似トナーの篩通過率は90%であり、流動性に非常に優れていた。
【0038】
(実施例6)
メタクリル酸イソブチルの代わりにメタクリル酸イソボルニル(IBOA;エステル部炭素数10)(共栄社化学社製;ライトエステルIB−XA)とした以外は実施例1と同様の方法で行った。
得られた水系分散液中のアクリル系重合体粒子の平均粒子径は0.35μmであった。このアクリル系重合体粒子を上記記載の方法で外添処理した後の擬似トナーの篩通過率は81%であり、流動性に優れていた。
【0039】
(比較例1)
シード粒子を使用せずに乳化重合を行ったこと以外は実施例1と同様の方法で行った。
得られた水系分散剤中の正帯電性アクリル系重合体粒子の平均粒子径は0.32μmであった。この正帯電性アクリル系重合体粒子を上記記載の方法で外添処理した後の擬似トナーの篩通過率は66%であり、流動性に優れたものではなかった。
【0040】
(比較例2)
メタクリル酸メチル240重量部の代わりに720重量部、メタクリル酸イソブチル560重量部の代わりに80重量部とした以外は実施例1と同様の方法で行った。
得られた水系分散剤中の正帯電性アクリル系重合体粒子の平均粒子径は0.26μmであった。この正帯電性アクリル系重合体粒子を上記記載の方法で外添処理した後の擬似トナーの篩通過率は68%であり、流動性に優れたものではなかった。
【0041】
(比較例3)
メタクリル酸イソブチル560重量部の代わりにアクリル酸イソステアリル(STMA;エステル部炭素数18)(共栄社化学社製;ライトエステルST)560重量部とした以外は実施例1と同様の方法で行った。
得られた水系分散液中の正帯電性アクリル系重合体粒子の平均粒子径は1.85μmであり、所望のサイズではなかった。この正帯電性アクリル系重合体粒子を上記記載の方法で外添処理した後の擬似トナーの篩通過率は70%であり、流動性に優れるものではなかった。
【0042】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のアクリル系重合体粒子は、アクリル系重合体粒子の平均粒子径が0.1〜1.0μmであり、正帯電性に優れているという特徴を有している。そのため、静電荷像現像に使用されるトナー用の添加剤として使用できる他、塗料や、インキ粘着剤用、接着剤用、人工大理石用等の添加剤、紙処理剤用、化粧品用等の充填材、クロマトグラフィーのカラム充填材、静電荷像現像に使用されるトナー用の添加剤或いはキャリアーのコート剤、フィルム用のアンチブロック剤や、光拡散剤等として使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体中、シード粒子およびカチオン性界面活性剤の存在下、該シード粒子に、アクリル系重合性モノマーを吸収させて、シード乳化重合を行い、アクリル系重合体粒子を製造する工程を含み、
前記シード粒子がビニル系重合体粒子であり、
前記アクリル系重合性モノマーが(メタ)アクリルエステル系モノマーを20〜100重量%、及び前記(メタ)アクリルエステル系モノマーと共重合可能なビニル系重合性モノマー0〜80重量%の配合物であり、
前記(メタ)アクリルエステル系モノマーのエステル部の置換基の炭素数が4以上10以下であり、
前記アクリル系重合体粒子の目開き45μmの篩通過率が80%〜99%であることを特徴とする正帯電性アクリル系重合体粒子の製造方法。
【請求項2】
前記(メタ)アクリルエステル系モノマーのエステル部の置換基がイソブチル、t−ブチル、ベンジル、シクロヘキシル基、イソボルニル基であるいずれか一種又は二種以上であることを特徴とする請求項1に記載の正帯電性アクリル系重合体粒子の製造方法。
【請求項3】
平均粒子径が0.1〜1.0μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の正帯電性アクリル系重合体粒子の製造方法。
【請求項4】
静電荷像現像に使用されるトナー用の外添剤に使用される請求項1〜3のいずれかの項に記載の製造方法で得られた正帯電性アクリル系重合体粒子。


【公開番号】特開2011−26450(P2011−26450A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173701(P2009−173701)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】