説明

歩行型作業機の車輪保全用スタンド取付構造

【課題】嵩張るブラケットを機体フレームの側面に取り付ける必要のない歩行型作業機の車輪保全用スタンド取付構造を提供すること。取り付けの容易な車輪保全用スタンド取付構造を提供すること。
【解決手段】下端に接地部29を備えたスタンドバー26の上端付近に、スタンドバー26の長手方向と交差状に延出した少なくとも2つのアーム部26B,27をスタンドバー26の長手方向に沿って互いに離間するように形成し、歩行型作業機の機体フレーム20の側部20Sに、少なくとも2つのアーム部26B,27を横向きに挿通可能な少なくとも2つの被挿通部20H,21が互いに上下方向に離間して形成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行型作業機の左右の一方の車輪を地面から浮き上がらせた状態で保持することで、車輪の交換やトレッド調整などのメンテナンスを実施するための歩行型作業機の車輪保全用スタンド取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の耕耘機などを含む歩行型作業機の車輪保全用スタンド取付構造に関連する先行技術文献情報として下記に示す特許文献1がある。この特許文献1に記された歩行型作業機では、下方に開口部を備え、上端を閉じられた箱型のブラケットが機体フレームの側面に取り付けられ、下端に接地部を備えた棒状のスタンドバーの上端を同ブラケットに下方から差し込む形態で車輪保全用スタンドが取り付けられる。ブラケットの上端に形成された小孔からは、スタンドバーの上端から上向きに延びた小径部のみが抜け出るので、小径部の側面に形成された細孔にピンを挿通すれば、スタンドバーの脱落が防止される構成となっている。また、スタンドバーの上端から少し下方に側方に突出した突部を設けてあり、この突部がブラケットの下端部外方側内面に当接するようにスタンドバーの上端を差し込むことによって、スタンドバーが鉛直状に近い姿勢となり、歩行型作業機の傾斜角度(保全の対象となる車輪の上昇高さ)を増加させることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公平03−044609号公報(第3欄〜第4欄、図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記された車輪保全用スタンド取付構造では、比較的嵩張る頑丈なブラケットを機体フレームの側面に取り付けておく必要があった。
また、特許文献1に記された車輪保全用スタンド取付構造では、作業者がスタンドバーの上端を同ブラケットに下方から差し込む際には、スタンドバーの上端がブラケット内に隠れて見えない状態で、同上端の小径部をブラケットの上端に形成された小孔に挿通させる作業内容となるため、取り付け作業に手間取る虞があった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、従来技術による車輪保全用スタンド取付構造が与える課題に鑑み、嵩張るブラケットを機体フレームの側面に取り付ける必要のない歩行型作業機の車輪保全用スタンド取付構造を提供することにある。
【0006】
また、本発明の目的は、従来技術による車輪保全用スタンド取付構造が与える課題に鑑み、取り付けの容易な歩行型作業機の車輪保全用スタンド取付構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による歩行型作業機の車輪保全用スタンド取付構造の特徴構成は、
下端に接地部を備えたスタンドバーの上端付近に、前記スタンドバーの長手方向と交差状に延出した少なくとも2つのアーム部を前記長手方向に沿って互いに離間するように形成し、
歩行型作業機の機体フレームの側部に、前記少なくとも2つのアーム部を横向きに挿通可能な少なくとも2つの被挿通部が互いに上下方向に離間して形成してある点にある。
【0008】
上記の特徴構成による歩行型作業機の車輪保全用スタンド取付構造では、スタンドバーの長手方向と交差状に延出した2つのアーム部を、歩行型作業機の機体フレームの側部に上下方向に離間して形成された2つの被挿通部に対して横向きに挿通することで、スタンドバーが機体フレームの側部に対して上下にずれる現象と、スタンドバーが筒状部材を中心に回転する現象とが同時に規制されるので、車輪保全用スタンドは安定した状態で歩行型作業機を支持することができる。すなわち、歩行型作業機の機体フレームの側部には、2つのアーム部を横向きに挿通可能な2つの被挿通部を形成するだけで済み、嵩張るブラケットを機体フレームの側部に取り付ける必要がないため、歩行型作業機の軽量化に役立ち、耕作地の土などが付着する箇所が従来に比して少なくなる点でも好都合である。
【0009】
また、上記の特徴構成による車輪保全用スタンド取付構造では、2つのアーム部の取り付け対象である被挿通部が機体フレームの側部に設けられているので、作業者は深く屈まずに車輪保全用スタンドを取り付けることができ、従来技術に比して取り付け作業が容易なものとなる。
【0010】
本発明の他の特徴構成は、前記2つのアーム部のいずれか一方が他方よりも先行して前記被挿通部に挿通されるように構成されている点にある。
【0011】
特許文献1の発明では、作業者がスタンドバーの上端を同ブラケットに下方から差し込む作業の最初の段階から、少なくとも保全すべき車輪が地面から浮き上がる程度まで、継続的に別の作業者などの手で歩行型作業機を傾斜させておく必要があった。
しかし、本構成であれば、2つのアーム部のいずれか一方を他方よりも先に被挿通部に挿通するという、作業者が最初に行う操作は、歩行型作業機を全く傾斜させない姿勢でも実施でき、この第1の挿通の完了後に、別の作業者などの手で歩行型作業機を傾斜させた状態で、2つのアーム部の他方を別の被挿通部に挿通すればよい。この方法をとれば、歩行型作業機を傾斜姿勢に保っておく時間を短くできるため、取り付け作業が更に容易となる。
【0012】
本発明の他の特徴構成は、前記2つの被挿通部の少なくとも一方が、前記2つのアーム部の一方を受け入れるべく横向き姿勢で設けられた筒状部材によって構成されている点にある。
【0013】
本構成であれば、スタンドバーの長手方向と交差状に延出した2つのアーム部の少なくとも一方を、歩行型作業機の機体フレームの側部に形成された筒状部材に横向き姿勢で挿通するので、2つのアーム部の双方を基本的に単なる孔状の被挿通部に挿通する構成に比べて、機体フレームの側部から側方に延ばした垂線に対するスタンドバーの振れが規制されるので、車輪保全用スタンドはさらに安定した状態で歩行型作業機を支持することができる。
【0014】
本発明の他の特徴構成は、前記筒状部材が前記側部から横外側に突出形成してあり、前記筒状部材と前記一方のアーム部との各側面に、共通の抜け止めピンを挿通可能な係止孔が設けられ、前記筒状部材と前記一方のアーム部との少なくともいずれかの前記係止孔は、挿通方向に並設された複数の係止孔によって構成されている点にある。
【0015】
本構成であれば、アーム部の挿通方向に並設された複数の係止孔の中で最も適切な位置の係止孔を選択して抜け止めピンを挿通することで、筒状部材または被挿通部に対する2つのアーム部の挿通深さが変更され、保全すべき車輪の地面からの上昇レベルを調整できる。
【0016】
本発明の他の特徴構成は、車輪保全用スタンドの収納手段として、前記機体フレームの側部に、前記スタンドバーを前記側部に沿った前後向き姿勢で弾性的に挟み込む把持機構が設けられている点にある。
【0017】
本構成であれば、車輪保全用スタンドが不要なときは、機体フレームの側部に設けられた把持機構にスタンドバーの部分を挟み込むという簡単な操作で、歩行型作業機の本来の作業に際して邪魔にならない形で収納しておくことができ、必要なときは機体フレームの把持機構から外して、直ぐに筒状部材及び被挿通部に支持された取り付け姿勢にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】歩行型作業機の全体左側面図である。
【図2】車輪保全用スタンドによって前傾姿勢とした歩行型作業機の要部後面図である。
【図3】車輪保全用スタンドを取り付けたエンジンフレームの左側面図である。
【図4】車輪保全用スタンドを収納したエンジンフレームの左側面図である。
【図5】車輪保全用スタンドを収納した歩行型作業機の要部平面図である。
【図6】車輪保全用スタンドの収納部を示す要部正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
(歩行型作業機の全体構成)
図1に示すように、歩行型作業機は、駆動源となるエンジン1と、走行機体として兼用される伝動ケースとしてのミッションケース2と、走行装置の一例である左右の車輪3と、ロータリ耕耘装置4と、後方に延出された一対の操縦ハンドル5とを備えて構成されている。尚、図1は歩行型作業機が後述する車輪保全用スタンド25を用いて前傾姿勢に保持された状態を示している。
【0020】
ミッションケース2は、下方に延出された前部ケース2Aと、斜め後方下方に延出された後部ケース2Bとを備えた二股状に構成されている。前部ケース2Aの下部から駆動軸6が左右に延出されており、この駆動軸6の左右両端部に左右の車輪3が装着されている。後部ケース2Bの下部から左右に回転軸7が延出されており、この回転軸7に複数の耕耘爪8が装着されてロータリ耕耘装置4が構成されている。
【0021】
ロータリ耕耘装置4の少なくとも上半分は、上方と外側方からロータリカバー9で覆われている。ロータリカバー9はミッションケース2の後部ケース2Bの前後中間位置の両側部に固定されている。
ロータリカバー9の後端部中央には、角パイプ状の上下に開口したボス部9Cが形成されており、このボス部9Cに上下に長い帯板状の抵抗棒10が上下位置調節可能に取り付けられて、この抵抗棒10によって耕耘爪8の耕耘深さを設定することができる。
【0022】
抵抗棒10の下端部には、板状のブラケット11が後方に延出されており、このブラケット11によって抵抗棒10が耕地面に食い込み過ぎることを防止できる。ブラケット11には、非作業時移動用車輪(不図示)が着脱可能に取り付けられており、ブラケット11に非作業時移動用車輪を後方から差し込み装着することで、車輪3と非作業時移動用車輪との協働でロータリ耕耘装置4を浮上させた状態で歩行型作業機を移動できるように構成されている。
【0023】
ミッションケース2を構成する前部ケース2Aの前端部から前方にエンジンフレーム20が延出されており、このエンジンフレーム20にエンジン1が搭載されている。エンジン1とミッションケース2はベルト伝動機構13を介して連動連結されており、テンションクラッチレバー16を操作することによりエンジン1からミッションケース2への動力の伝達の断接操作を行うことができる。
【0024】
ミッションケース2の後部ケース2Bの上部から斜め後方上方に向って、操縦ハンドル5が左右方向の軸心周りに上下位置調節可能に取り付けられており、この操縦ハンドル5の右側にクラッチレバー14及び停止スイッチ15が配設され、さらに操縦ハンドル5の後端側に上下揺動可能にテンションクラッチレバー16が配設されている。クラッチレバー14は、ミッションケース2内のロータリ耕耘装置4用のクラッチ(不図示)の断接操作用として、ミッションケース2上部の操作アーム(不図示)に連係されている。停止スイッチ15はエンジン1の停止操作用としてエンジン1に配線されている。
【0025】
ミッションケース2の上部から斜め後方上方に主変速レバー17が延出されており、この主変速レバー17を操作することにより、車輪3の変速操作及び正逆転操作、並びにロータリ耕耘装置4の正逆転操作を行うことができる。
【0026】
エンジン1及びミッションケース2の上部には、燃料タンク30が配設されている。燃料タンク30は燃料タンクカバー31及び開閉カバー32で覆われている。また、燃料タンクカバー31とロータリカバー9とに亘って後部カバー33が装着されており、エンジン1とミッションケース2とに亘って設けられたベルト伝動機構13はベルトカバー34によって覆われている。
【0027】
エンジンフレーム20及びミッションケース2の両側部には、左右の車輪3の上方を覆うフェンダ18が固定されており、歩行型作業機を走行させることによって巻き上げられた土や泥等が、車輪3の上方及び後方に位置する機器や後方で作業する作業者等に飛散しないように構成されている。また、エンジンフレーム20の先端からはガード部材19が斜め上向きに突設されている。ガード部材19はバランスウェイトの役目を兼ねている。
【0028】
(車輪保全用スタンドの構成)
本発明による歩行型作業機では、図1、図2に例示するように、車輪保全用スタンド25を用いて、左右の車輪3の一方を地面から浮き上がらせた傾斜姿勢で保持することができる。この傾斜姿勢では、車輪3をサイズの異なるものと交換する、或いは、左右の車輪3のトレッドを調整するなどのメンテナンス作業を実施可能である。
必要に応じて車輪保全用スタンド25を歩行型作業機に取り付けるための車輪保全用スタンド取付構造は、以下の構成となっている。
【0029】
図2に例示するように、エンジンフレーム20(機体フレームの一例)はコ字状に曲げ加工された鋼板からなり、水平に延出した天井部20Pと、天井部20Pの左右両端から下方に延出した一対の側壁部20S(側部の一例)とを有する。
図3及び図4に例示するように、歩行型作業機のエンジンフレーム20の左右の側壁部20Sには、車輪保全用スタンド25のための筒状部材21及び挿通孔20H(被挿通部の一例)が前後及び上下に位置ずれした状態で設けられている。筒状部材21はエンジンフレーム20の側壁部20Sの下端付近から垂直に立設されており、挿通孔20Hは筒状部材21の上方に形成されている。尚、側壁部20Sの筒状部材21の基端部に相当する位置にも、筒状部材21の内径と概して等しい内径の貫通孔22Hが形成されており、筒状部材21はこの貫通孔22Hの周縁に溶接固定されている。
【0030】
車輪保全用スタンド25は下端に接地部29を備えたスタンドバー26を備える。スタンドバー26は、接地部29を含む長尺で直線状のスタンドバー本体26Aと、スタンドバー本体26Aの上端から斜め上方に屈曲形成されたやはり直線状の第1アーム部26Bとを有する。第1アーム部26Bはスタンドバー本体26Aに対して10°〜40°の角度、特に好適には20°〜30°の角度をなす。スタンドバー本体26Aの左右いずれかの側面の一部には直線棒状の第2アーム部27が溶接などで固定されている。
【0031】
第2アーム部27はスタンドバー本体26Aの長手方向に沿って第1アーム部26Bと離間するように、且つ、概して第1アーム部26Bと平行な姿勢で設けられている。
第2アーム部27と第1アーム部26Bとの間隔は、第2アーム部27を筒状部材21に挿通開始した状態で、第1アーム部26Bを挿通孔20Hに対して円滑に挿通できるように設定されている。
【0032】
車輪保全用スタンド25の取り付け時には、第2アーム部27が筒状部材21と一直線に揃うような姿勢で車輪保全用スタンド25をエンジンフレーム20の側壁部20Sに近付けていくことで、第1アーム部26Bを挿通孔20Hに挿通し、第2アーム部27を筒状部材21の内面に挿通するだけでよい。
【0033】
尚、第1アーム部26Bと第2アーム部27と筒状部材21の各延出量は、第2アーム部27が筒状部材21と一直線に揃うような姿勢で車輪保全用スタンド25をエンジンフレーム20の側壁部20Sに近付けていくとき、第1アーム部26Bの先端が挿通孔20Hに挿通開始されるのと、第2アーム部27の先端が筒状部材21の内面に挿通開始されるのが同時にならないように設定されている。具体的には、この実施形態では、第1アーム部26Bの先端が挿通孔20Hに挿通開始されるよりも前に、第2アーム部27の先端が例えば数cmの長さで筒状部材21の内面に挿通開始される。
【0034】
車輪保全用スタンド25を取り付ける工程の初期の一部は、左右の車輪3及びロータリ耕耘装置4(又はブラケット11に差し込み装着した非作業時移動用車輪)の全てを同時に接地させたままで行うことができる。
取り付けの一般的な手順としては、先ず、保全対象となる車輪3の側(図1では左側)の筒状部材21の内面に第2アーム部27の先端のみを数cmの長さで挿通する。この操作は、第2アーム部27の軸心を中心にして接地部29を時計方向や反時計方向に回転させる要領で車輪保全用スタンド25を少し傾斜させて行う限り、左右の車輪3及びロータリ耕耘装置4(又は非作業時移動用車輪)の全てを同時に接地させたままで実施できる。
【0035】
次に、別の作業者が例えば操縦ハンドル5などを利用して保全対象となる車輪3を地面から所定量だけ持ち上げている間に、第2アーム部27を筒状部材21の内面で回転させながら、第1アーム部26Bを挿通孔20Hに挿通開始し、以後は、第2アーム部27が適切な挿通深さとなるまで、第1アーム部26Bと第2アーム部27との各挿通を同時に進めていけばよい。
【0036】
このようにして、少なくとも第2アーム部27の先端が側壁部20Sの貫通孔21Hに到達する程度まで、第1アーム部26B及び第2アーム部27を挿通すれば、所定長さを備えた筒状部材21の内面全長に亘って第2アーム部27が支持されることで、側壁部20Sから側方に延ばした垂線に対するスタンドバー本体26Aの振れが十分に規制される。また、第1アーム部26Bが挿通孔20Hに係止されることで、スタンドバー本体26Aが筒状部材21を中心に回転する現象も規制されるので、歩行型作業機を後述する保全用の前傾姿勢とした場合も車輪保全用スタンド25は安定した状態で歩行型作業機を支持することができる。
【0037】
第2アーム部27の側面には第2アーム部27の長手方向に沿って2つの貫通孔状の係止孔27Hが互いに間隔を空けて形成されている。筒状部材21の側面には単一の係止孔21Hが形成されている。第2アーム部27の挿通深さの調整によって、第2アーム部27の2つの係止孔27Hの一方と筒状部材21の係止孔21Hとを揃えると、これらの係止孔27H,21Hに共通の抜け止めピン30を第2アーム部27の抜け止め手段として挿通可能となっている。
【0038】
車輪保全用スタンド25の取り付けが完了した後は、別の作業者が車輪3を地面から持ち上げる力を次第に緩めることで、スタンドバー26の接地部29を接地させることができる。この状態では、歩行型作業機は、右側の車輪3と車輪保全用スタンド25のスタンドバー26とロータリ耕耘装置4(又は非作業時移動用車輪)とで接地されている。図3に示す状態ではスタンドバー26は前方下方に傾斜した傾斜姿勢となる。
【0039】
今度は、この状態から、先端のガード部材19が接地されるまで、一対の操縦ハンドル5を利用して後部を持ち上げていくと、図1に示すように、歩行型作業機が、右側の車輪3と車輪保全用スタンド25のスタンドバー26と、ガード部材19との3点を介して接地され、左側の車輪3が地面から引き上げられた左車輪保全用の前傾姿勢が得られる。この図1に示す状態では、スタンドバー26は斜め後方下方に傾斜した傾斜姿勢となる。
右側の車輪3を保全する際には、同じ要領で、車輪保全用スタンド25の第2アーム部27と第1アーム部26Bをエンジンフレーム20の右側の筒状部材21及び挿通孔20Hに挿通するとよい。
【0040】
図2(a)は、第2アーム部27の基端寄りの係止孔27Hに抜け止めピン30を挿通する形態で、車輪保全用スタンド25の取り付けを完了し、ガード部材19が接地した左車輪保全用の前傾姿勢とした状態を示している。この状態では、第1アーム部26B及び第2アーム部27の挿通深さが深く、第2アーム部27の先端が左側の側壁部20Sを超えて、エンジンフレーム20の内部空間に達し、第1アーム部26Bの外周に溶接などで固定した環状の当接部28が側壁部20Sに押付けられた状態が得られる。
【0041】
図2(b)は、第2アーム部27の先端寄りの係止孔27Hに抜け止めピン30を挿通する形態で、車輪保全用スタンド25の取り付けを完了し、左車輪保全用の前傾姿勢とした状態を示している。この状態では、第1アーム部26B及び第2アーム部27の挿通深さは浅めで、第2アーム部27の先端が左側の側壁部20Sの外表面の位置と一致しており、第1アーム部26Bの当接部28と側壁部20Sとの間には未だ一定の距離がある。
【0042】
図2(a)と図2(b)を比較すると理解されるように、第1アーム部26B及び第2アーム部27の挿通深さが深めの図2(a)の状態の方が、図2(b)よりも歩行型作業機の傾斜度合い、及び、保全対象である左側の車輪3の地面からの浮き上がり高さが大となっている。
【0043】
図3に示すように、この実施形態では、車輪保全用スタンド25を機体フレーム20の左側に取り付けた状態で歩行型作業機の側面から観察すると、第2アーム部27はスタンドバー本体26Aの左側の側面に接合されているが、図5に示すように、平面視における右側の筒状部材21が左側の筒状部材21よりも僅かに後方寄りに変位して、左右の筒状部材21が前後に位置ずれした状態で配置されているため、車輪保全用スタンド25を機体フレーム20の左側に取り付けた場合と、車輪保全用スタンド25を機体フレーム20の右側に取り付けた場合とで、平面視におけるスタンドバー26の延出位置が互いにほぼ同じ位置となっている。
【0044】
尚、第2アーム部27は、第2アーム部27の側面ではなく第2アーム部27の基端側の端面を介してスタンドバー本体26Aの側面に溶接などで固定することで、第2アーム部27の軸心とスタンドバー本体26Aの軸心とが一つの平面内に含まれるように構成してもよい。この場合は、平面視において左右の各筒状部材21の軸心どうしが一直線状になるように配置すればよい。
【0045】
(収納部の構成)
機体フレーム20の左側の側壁部20Sには、車輪保全用スタンド25の収納部32が設けられている。図3、図4、図5に示すように、収納部32は、側壁部20Sの後方寄りに設けられた第1ブラケット33と、側壁部20Sの前方寄りに設けられた第2ブラケット34とを有する。
【0046】
第1ブラケット33は、側壁部20Sの一部にプレス加工などでコの字状の切り込みを入れた後で、同箇所を外向きに折り返すことで、外向きに突出したフランジ状とし、図4及び図5に示すように、フランジ状の同第1ブラケット33には、横向き姿勢にした車輪保全用スタンド25の第2アーム部27の先端を上方から挿通可能な開口部33Pが形成されている。
【0047】
第2ブラケット34(把持機構の一例)は、側壁部20Sの外表面にボルトなどで固定されたベース部34Aと、ベース部34Aの上下端部付近から側方に折り曲げられた一対の板状の弾性クリップ片34Bとを備えている。弾性クリップ片34Bはその断面形状の中に互いに上下で対向する湾曲凹部34Pを含む。そこで、スタンドバー本体26Aが横向きになるように車輪保全用スタンド25を持ち、第2アーム部27を第1ブラケット33の開口部33Pに上方から挿通し、次に、スタンドバー本体26Aが側壁部20Sの外表面に沿うように車輪保全用スタンド25を弾性クリップ片34Bに押付けると、弾性クリップ片34Bの先端が一旦上下に弾性的に開きながら、車輪保全用スタンド25のスタンドバー本体26Aを湾曲凹部34Pに受け入れ、引き続き、スタンドバー本体26Aを係止したまま自動的に閉じられ、車輪保全用スタンド25の収納が完了する。この状態では、図4に示すように、車輪保全用スタンド25の全体または略全体が側面視で三角形状の側壁部20Sと重複する位置に配置されて、スタンドバー26が側壁部20Sの長手方向に沿った前後向き姿勢でコンパクトに配置される。
【0048】
第1ブラケット33の代わりに第2ブラケット34と同様の機構を後方にも設けることで、横向き姿勢のスタンドバー本体26Aを上下から弾性的に挟み込む2つの把持機構が前後に互いに間隔を空けて並設された収納部としてもよい。
【0049】
〔別実施形態〕
〈1〉上記の実施形態とは異なり、第1アーム部26Bと第2アーム部27とをほぼ等しい長さとなるように構成してもよく、この場合も、第2アーム部27が筒状部材21と一直線に揃うような姿勢で車輪保全用スタンド25をエンジンフレーム20の側壁部20Sに近付けていくとき、第1アーム部26Bの先端が挿通孔20Hに挿通開始されるよりも前に、第2アーム部27の先端が筒状部材21の内面に数cmの長さで挿通開始される。
【0050】
〈2〉上記の実施形態とは逆に、第2アーム部27が筒状部材21と一直線に揃うような姿勢で車輪保全用スタンド25をエンジンフレーム20の側壁部20Sに近付けていくとき、第2アーム部27の先端が筒状部材21の内面に挿通開始されるよりも前に、第1アーム部26Bの先端が例えば数cmの長さで挿通孔20Hに挿通開始される構成としてもよい。
【0051】
〈3〉上記の実施形態とは逆に、筒状部材21が上方に、挿通孔20Hが下方に配置された形態で実施してもよい。或いは、挿通孔20Hの構成を略し、2つの筒状部材21が上下に並設された形態で実施してもよい。
【0052】
〈4〉筒状部材21の全長または一部が側壁部20Sから内側に延出された構成としてもよい。この構成では、側壁部20Sから内側に延出された左右の筒状部材21の側面どうしをエンジンフレーム20の内部の位置において溶接などで互いに固定することが可能である。或いは、単一の筒状部材21が左右の側壁部20Sを同時に貫通した形態で実施することも可能である。
【0053】
〈5〉被挿通部として筒状部材21を全く用いずに、上下に配置された2つの貫通孔を被挿通部とした形態での実施も可能である。この構成では、車輪保全用スタンド25によって歩行型作業機を車輪保全用の姿勢に支持させる際に、第1アーム部26B及び第2アーム部27をその全長に亘って各貫通孔に挿通し、且つ、スタンドバー本体26Aが側壁部20Sの外表面と平行となる状態で用いるとよい。
【0054】
〈6〉スタンドバー26の下端に接地部29を設けずに、下端に接地部を備えた筒状のカバー部材を、スタンドバー26の下端にスライド自在に外嵌設置し、スタンドバー26の下端からのカバー部材の延出量を変更する操作によって、車輪保全用スタンド25による歩行型作業機の傾斜度合いと、保全対象となる車輪3の浮き上がり量とを調整する構成としてもよい。この場合、例えば、カバー部材にはその長手方向に沿って複数の係止孔を等間隔などで並設しておけば、選択した係止孔とスタンドバー26の下端に形成された貫通孔とに亘ってピン状部材を挿通することで、スタンドバー26とカバー部材の間の相対位置が決定され、どの係止孔にピン状部材を挿通するかで、カバー部材を加えたスタンドバー26の実質的な長さを調整することができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
歩行型作業機の左右の一方の車輪を地面から浮き上がらせた状態で保持することで、車輪の交換やメンテナンスを実施するための歩行型作業機の車輪保全用スタンド取付構造として利用できる。
【符号の説明】
【0056】
3 車輪
5 操縦ハンドル
19 ガード部材
20 エンジンフレーム(機体フレーム)
20H 挿通孔(被挿通部)
20S 側壁部(側部)
21 筒状部材(被挿通部)
21H 係止孔(被挿通部)
22H 貫通孔
25 車輪保全用スタンド
26 スタンドバー
26A スタンドバー本体
26B 第1アーム部
27 第2アーム部
27H 係止孔
29 接地部
30 抜け止めピン
32 収納部
33 第1ブラケット
33A ベース部
33B フランジ部
33P 開口部
34 第2ブラケット(把持機構)
34A ベース部
34B 弾性クリップ片
34P 湾曲凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下端に接地部を備えたスタンドバーの上端付近に、前記スタンドバーの長手方向と交差状に延出した少なくとも2つのアーム部を前記長手方向に沿って互いに離間するように形成し、
歩行型作業機の機体フレームの側部に、前記少なくとも2つのアーム部を横向きに挿通可能な少なくとも2つの被挿通部が互いに上下方向に離間して形成してある、
歩行型作業機の車輪保全用スタンド取付構造。
【請求項2】
前記2つのアーム部のいずれか一方が他方よりも先行して前記被挿通部に挿通されるように構成されている請求項1に記載の歩行型作業機の車輪保全用スタンド取付構造。
【請求項3】
前記2つの被挿通部の少なくとも一方が、前記2つのアーム部の一方を受け入れるべく横向き姿勢で設けられた筒状部材によって構成されている請求項1または2に記載の歩行型作業機の車輪保全用スタンド取付構造。
【請求項4】
前記筒状部材が前記側部から横外側に突出形成してあり、前記筒状部材と前記一方のアーム部との各側面に、共通の抜け止めピンを挿通可能な係止孔が設けられ、前記筒状部材と前記一方のアーム部との少なくともいずれかの前記係止孔は、挿通方向に並設された複数の係止孔によって構成されている請求項3に記載の歩行型作業機の車輪保全用スタンド取付構造。
【請求項5】
車輪保全用スタンドの収納手段として、前記機体フレームの前記側部に、前記スタンドバーを前記側部に沿った前後向き姿勢で弾性的に挟み込む把持機構が設けられている請求項1から4のいずれか一項に記載の歩行型作業機の車輪保全用スタンド取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−197026(P2012−197026A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62342(P2011−62342)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】