説明

歩行支援装置、及び歩行支援プログラム

【課題】装着者が体感する負荷の変動を小さくした歩行支援をする。
【解決手段】歩行支援装置において、装着者Mの疲労度を推定し、推定した疲労度をアシスト量を決定するパラメータとして使用することで、疲労度を考慮した可変アシスト制御を行う。具体的には、脚部を繋ぐリンク(連結部)に、大腿部、脹脛部、足部の各部を拘束部材で拘束し、各拘束部材に歪ゲージを取り付け、歪ゲージの出力から各部の拘束力を測定する。この測定した拘束力が大きくなると、対応する各部がむくんでいると考えられ、装着者の疲労度が増加していると推定される。そこで、推定した疲労度の増加に対応して、アシスト量を通常の設定(アシスト量)よりも大きくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行支援装置、及び歩行支援プログラムに関し、例えば、装着者の歩行運動のアシストに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、装着者の動作をアシストする装着型ロボットとして歩行アシスト装置が注目を集めている。
装着型ロボットには、センサなどで体の動きを検知して装着者の身体動作を支援するものがあり、装着者の歩行運動等を補助することができる。
例えば、特許文献1の「装着式動作補助装置、装着式動作補助装置の制御方法および制御用プログラム」は、筋電センサにより装着者の動作意図を読み取って、装着者の運動を支援している。
【0003】
しかし、従来の歩行アシスト装置では、装着者に対するアシスト量は、固定的に決められている。すなわち、従来のアシスト量は、例えば体重から割り出された任意の割合や、最大筋力の中での任意の割合として静的な固定値として与えられている。
しかし、装着者の実際の筋力は、歩行時間/距離が長期化に伴う疲労の増加によって変化(低下)するにもかかわらず、当該筋力の変化に対応したアシストはされていなかった。
従って、歩行アシスト装置の装着後すぐと、装着終了時において装着者の体感する負荷が著しく変化するなどのため違和感を与えていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−95561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、歩行アシストにおいて、装着者が体感する負荷の変動を小さくした歩行支援をすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)請求項1に記載の発明では、歩行支援対象者の脚部を保持する保持手段と、前記保持手段が保持する各部を駆動する駆動手段と、前記駆動手段が発揮する力を制御して前記脚部の移動をアシストする制御手段と、前記歩行支援対象者の前記脚部の疲労度を推定する疲労度推定手段と、を具備し、前記制御手段は、前記推定した疲労度の増加に対応して前記脚部に対するアシスト量を増加させる、ことを特徴とする歩行支援装置を提供する。
(2)請求項2記載の発明では、前記保持手段は、前記歩行支援対象者の少なくとも大腿部と脹脛部とを含む脚部を保持し、前記疲労度推定手段は、前記保持手段で保持する前記大腿部と脹脛部の疲労度を個別に推定し、前記制御手段は、個別に推定した大腿部と脹脛部の疲労度の増加に対応して、当該各部に対するアシスト量を増加させる、ことを特徴とする請求項1に記載の歩行支援装置を提供する。
(3)請求項3記載の発明では、前記疲労度推定手段は、前記保持手段が保持している脚部のむくみ量を測定し、当該測定したむくみ量から疲労度を推定する、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の歩行支援装置を提供する。
(4)請求項4記載の発明では、前記保持手段による脚部の保持部に配置された歪ゲージを備え、前記疲労度推定手段は、前記歪ゲージで検出される歪量から、むくみ量を測定する、ことを特徴とする請求項3に記載の歩行支援装置を提供する。
(5)請求項5記載の発明では、歩行支援対象者の脚部を保持する保持手段と、前記保持手段が保持する各部を駆動する駆動手段と、を備えた歩行支援装置が有するコンピュータで用いられる歩行支援プログラムであって、前記駆動手段が発揮する力を制御して前記脚部の移動をアシストする制御機能と、前記歩行支援対象者の前記脚部の疲労度を推定する疲労度推定機能と、を前記コンピュータに実現させ、前記制御機能は、前記推定した疲労度の増加に対応して前記脚部に対するアシスト量を増加させる、ことを特徴とする歩行支援プログラムを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、装着者の疲労度を推定し、疲労度の変化に応じてアシスト量を動的に変化させるようにしたので、装着者が体感する負荷の変動を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】装着型ロボットである歩行アシスト装置の装着状態についての説明図である。
【図2】歩行アシスト装置のシステム構成についての説明図である。
【図3】疲労度の検出とアシスト量との関係についての説明図である。
【図4】歩行アシスト処理の内容を表したフローチャートである。
【図5】歩行アシスト処理における疲労度考慮可変アシスト処理を表したサブルーチンである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(1)実施形態の概要
歩行支援装置において、装着者Mの疲労度を推定し、推定した疲労度をアシスト量を決定するパラメータとして使用することで、疲労度を考慮した可変アシスト制御を行う。
疲労度は、装着者Mは装着時に比べて疲労時までの間に何らかの変化があるとの前提に、その変化量を疲労度を推定するパラメータとして使用する。そして本実施形態では、外的な変化として、装着者Mのむくみによる変化を検出している。
具体的には、脚部を繋ぐリンク(連結部)に、大腿部、脹脛部、足部の各部を拘束部材で拘束し、各拘束部材に歪ゲージを取り付け、歪ゲージの出力から各部の拘束力を測定する。
この測定した拘束力が大きくなると、対応する各部がむくんでいると考えられ、装着者の疲労度が増加していると推定される。
そこで、推定した疲労度の増加に対応して、アシスト量を通常の設定(アシスト量)よりも大きくする。
【0010】
(2)実施形態の詳細
図1は、歩行アシスト装置1の装着状態を示した図である。
歩行アシスト装置1は、装着者Mの腰部及び下肢に装着し、装着者Mの歩行を支援(アシスト)する歩行支援装置である。なお、例えば、上半身、下半身に装着して全身の動作をアシストするものであってもよい。
【0011】
歩行アシスト装置1は、腰部装着部7、歩行アシスト部2、連結部8、3軸センサ3、3軸アクチュエータ6、撮像カメラ5、光源装置4、撮像カメラ5と光源装置4を保持する撮像ユニット9、無線通信装置10、ナビゲーション装置12、着地センサ13、拘束部材50、拘束測定センサ60などを備えている。
腰部装着部7は、歩行アシスト装置1を装着者Mの腰部に固定する固定装置である。腰部装着部7は、装着者Mの腰部と一体となって移動する。
また、腰部装着部7は、歩行アクチュエータ17(図2)を備えており、装着者Mの歩行動作に従って連結部8を前後方向などに駆動する。
【0012】
連結部8は、腰部装着部7と歩行アシスト部2を連結している。
拘束部材50は、歩行アシスト部2に対して脚部(大腿部、脹脛部、足部)を拘束することで歩行アシスト装置1を装着するための装具として機能する。拘束部材50には、脚部のそれぞれを拘束している拘束力を計測する拘束測定センサ60が配設されており、この拘束センサ60の出力値に基づいて装着者Mの疲労度が推定される。
歩行アシスト部2は、拘束部材50によって装着者Mの下肢に装着され、歩行アクチュエータ17により前後方向などに駆動されて装着者Mの歩行運動を支援する。
【0013】
なお、図1(a)では、歩行アクチュエータ17が連結部8を介して歩行アシスト部2を駆動する構成を示したが、これは、図と説明を簡略化するためである。
詳細には、図1(b)に示されるように、歩行アシスト部2は、股関節部21、膝関節部22、足首関節部23からなる多関節構造を有しており、各関節部21〜23は、連結部81〜83で連結されている。
各関節部21〜23と連結部81は、各関節部21〜23に設置された図示しないエンコーダによって回転角が検出され、それぞれの関節に設置された歩行アクチュエータ17の動力によって駆動されるようになっている。
【0014】
連結部(リンク)81には、大腿M1を拘束(保持)するための拘束部材51が取り付けられ、拘束部材51には拘束測定センサ61が取り付けられている。大腿M1を連結部81に拘束部材51で固定している拘束力が拘束測定センサ61で測定される。
同様に連結部82には、脹脛M2を拘束(保持)するための拘束部材52が取り付けられ、拘束部材52には拘束測定センサ62が取り付けられている。大脹脛M2を連結部82に拘束部材52で固定している拘束力が拘束測定センサ62で測定される。
同様に連結部83には、足部M3を拘束(保持)するための拘束部材53が取り付けられ、拘束部材53には拘束測定センサ63が取り付けられている。足部M3を連結部83に拘束部材53で固定している拘束力が拘束測定センサ63で
測定される。
【0015】
本実施形態の拘束測定センサ61〜63としては、歪ゲージが使用されるが、拘束部材51〜53を空気圧により拘束する構成とし拘束測定センサ61〜63として各空気圧を測定する空気圧センサを使用するようにしてもよい。
【0016】
図1(a)に戻り、3軸センサ3は、腰部装着部7に設置され、腰部装着部7の姿勢などを検知する。3軸センサ3は、例えば、3次元ジャイロによる3軸角速度検出機能や3軸角加速度検出機能などを備えており、前進方向、鉛直方向、体側方向の軸の周りの回転角度、角速度、角加速度などを検知することができる。
なお、前進方向の軸の周りの角度をロール角、鉛直方向の軸の周りの角度をヨー角、体側方向の軸の周りの角度をピッチ角とする。
【0017】
3軸アクチュエータ6は、例えば、球体モータで構成されており、撮像カメラ5と光源装置4が設置された撮像ユニット9のロール角、ヨー角、ピッチ角を変化させる。
撮像ユニット9には、光源装置4と撮像カメラ5が固定されており、3軸アクチュエータ6を駆動すると、光源装置4の照射方向(光源装置4の光軸の方向)と撮像カメラ5の撮像方向(撮像カメラ5の光軸の方向)は、相対角度を保ったまま、腰部装着部7に対するロール角、ヨー角、ピッチ角を変化させる。
【0018】
撮像ユニット9で適切な画像を撮像するためには、撮像ユニット9を所定の角度で歩行基準面(歩行面)に向ける必要があるが、装着者Mが歩行アシスト装置1を装着した場合に、装着状態によって撮像ユニット9が傾くため、3軸アクチュエータ6によってこれを補正する。
【0019】
光源装置4は、例えば、レーザ、赤外光、可視光などの光を所定の形状パターンで照射する。本実施の形態では、光源装置4は、照射方向に垂直な面に対して円形となる形状パターンで光を照射するものとするが、矩形形状、十字、点など各種の形状が可能である。
【0020】
撮像カメラ5は、被写体を結像するための光学系と、結像した被写体を電気信号に変換するCCD(Charge−Coupled Device)を備えた、赤外光カメラ、可視光カメラなどで構成され、光源装置4が歩行基準面に照射した投影像を撮像(撮影)する。
光源装置4が所定の形状パターンで照射した光による投影像は、照射方向と歩行面の成す角度や、歩行面に存在する障害物(段差など)により円形から変形した(歪んだ)形状となるが、この形状を解析することにより前方の状態(例えば、下り坂の存在、平地の存在など)を検知することができる。
【0021】
無線通信装置10は、階段に関する各種情報や、エスカレータに関する踏板情報などの各種情報、その他歩行環境に関する各種情報を検出する。
無線通信装置10は、これら歩行環境に関する情報を、階段やエスカレータ等の各種設備周辺に配置されている照明100が発光する光や、図示しない情報送信装置から送信される情報から取得する。
歩行環境情報に階段や下り坂の始点や終点、平地の始点や終点を示す情報が含まれている場合、これによって、歩行アシスト装置1は、階段や下り坂の始点や終点、平地の始点や終点を認識することができる。
【0022】
本実施形態では、歩行環境情報として階段に関する各種情報(階段情報)を使用するが、この各種情報については、取得可能な場合には無線通信装置10で取得する。
また、無線通信装置10で取得できない場合には、撮像カメラ5で撮像した階段や、光源装置4で照射した光の画像を解析、認識することで取得することになる。
本実施形態で使用する階段情報としては、例えば、階段全体の幅(横方向の長さ)L0、ステップ幅P0、段差の高さH、装着者Mの位置に対する情報(階段左側の幅L1、右側の幅L2、軸足から次のステップまでの距離P1)等がある。
なお、装着者Mの位置に対する情報については、装着者Mの位置によって異なる情報なので、無線通信装置10ではなく撮像カメラ5の撮像画像により判断する。但し、階段の左右から装着者Mを認識して階段の両側から装着者Mまでの距離L1、L2が無線により提供される場合には、当該情報を使用することになる。
【0023】
ナビゲーション装置12は、GPS(Global Positioning System)衛星からのGPS信号を受信したり、所定のサーバと通信したりして装着者Mの現在位置を特定したり、現在位置から目的地までの経路を探索したりなどのナビゲーション機能を有している。
探索した経路には、下り坂の区間、平地の区間などの歩行面の状態に関する情報も含まれている。
着地センサ13は、両脚のそれぞれの足裏に設置されており、足裏が接地したことを検出する。接地センサ13により装着者Mの歩数が計数される。
【0024】
図2は、歩行アシスト装置1に設置された装着ロボットシステム15を説明するための図である。
装着ロボットシステム15は、歩行支援機能を発揮するように歩行アシスト装置1を制御する電子制御システムであり、ECU16、歩行アクチュエータ17、バッテリ18、タイマー19を備えている。
【0025】
ECU(Electronic Control Unit)16は、図示しないCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、記憶装置、各種インターフェースなどを備えた電子制御ユニットであり、歩行アシスト装置1の各部を電子制御する。
【0026】
CPUは、記憶媒体に記憶された各種コンピュータプログラムを実行し、歩行アクチュエータ17を駆動し、疲労度の変化に対応した歩行アシストを行う各種歩行支援を行う。
CPUは、光源装置4、撮像カメラ5、3軸アクチュエータ6、3軸センサ3、無線通信装置10、ナビゲーション装置12、着地センサ13、及び、拘束測定センサ60とインターフェースを介して接続している。CPUは、光源装置4からの照射をオンオフしたり、撮像カメラ5から撮像データを取得したり、3軸アクチュエータ6を駆動したり、3軸センサ3から検出値を取得したり、無線通信装置10から階段情報を含む歩行環境情報を取得したり、ナビゲーション装置12から装着者Mの現在位置を取得したりする。
またCPUは、接地センサ13から接地信号を取得し、接地信号の受信ごとにカウントアップすることで、歩数を計数すると共に、歩行距離を算出するようになっている。
【0027】
ROMは、読み取り専用のメモリであって、CPUが使用する基本的なプログラムやパラメータなどを記憶している。
RAMは、読み書きが可能なメモリであって、CPUが演算処理などを行う際のワーキングメモリを提供する。RAMには、本実施形態で使用する、前回の大腿歪量、脹脛歪量、足部歪量や、前回の大腿疲労度、脹脛疲労度、足部疲労度や、係数中の歩数などの各種値が記憶される。
【0028】
記憶装置は、例えば、ハードディスクやEEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)などで構成された大容量の記憶媒体を備えており、歩行支援を行うためのプログラムなどの各種プログラムや、歩行アシスト装置1の歩行情報をサンプリングにより検出して記憶するためのアーカイブなどを記憶している。
また記憶装置には、本実施形態において測定した各部の拘束力(歪量)又はその変化量から疲労度を取得するための歪−疲労度マップ(図3参照)が記憶されている。この歪−疲労度マップは、複数の被験者による拘束力(歪量)と疲労度との関係を、各拘束部(大腿M1、脹脛M2、足部M3)毎に計測することで作成される。なお、疲労度の取得にはマップに限らず、所定の算出式、変換式を定義しておくことで、拘束力やその変化量に対応する疲労度を取得するようにしてもよい。
さらに記憶装置には、装着者Mの移動距離を取得するために、1歩当たりの移動距離Lが記憶される。なお、後述するように本実施形態では疲労度の再取得のタイミングとして時間X(min)と距離Y(km)を使用しているが、距離Yに変えて歩数Sを使用するようにしてもよく、この場合1歩当たりの移動距離Lの記憶は無くてもよい。
【0029】
歩行アクチュエータ17は、ECU16からの指令に基づいて歩行アシスト部2を駆動する。
ECU16は、股関節部21、膝関節部22、足首関節部23の各関節部に備えた歩行アクチュエータ17を個別に制御することにより、歩行アシスト装置1に一体として歩行支援動作を行わせる。
バッテリ18は、例えば、リチウムイオン電池などで構成された蓄電装置である。バッテリ18の供給する電力により歩行アクチュエータ17を駆動したり、ECU16を動作させることができる。
タイマー19は、歩行支援装置1を装着してから、及びリセット後の装着時間xを計測する。
【0030】
次に上記のように構成された歩行アシスト装置1による疲労度を考慮した歩行アシスト処理について説明する。
図3は、疲労度の検出とアシスト量との関係を説明するためのものである。
最初に疲労度を推測しアシスト量を更新する更新タイミングについて説明する。
本実施形態では、歩行アシスト装置1を装着者Mに装着した後、図3(a)に示す所定の基準時点から、同(b)に示す所定の間隔後に、疲労度を取得(再取得)し、取得した疲労度の変化に応じて対応する各部へのアシスト量を動的に変更する。
【0031】
ここで、基準時点から所定の間隔後の更新タイミングは、図3(b)に示すように、基準時点から、時間X(min)経過、及び、歩行距離Y(km)歩行、という2条件のうち、いずれか先に条件を満たした時点である。そして、何れか一方の条件を満たした時点(所定間隔後)を更新タイミングとして、疲労度の取得とアシスト量の更新を行うと共に、当該時点を新たな基準時点に更新する。
このように時間や距離の一方だけでなく、両者を更新タイミングの決定に使用することで、短時間で長距離を歩行した場合や、あまり移動しないが長時間装着している場合などのようにあらゆる場面に対応した装着者Mの疲労度をより適切な更新タイミングで推定し、それをアシスト量の動的変化に反映させることができる。
【0032】
基準時点は、歩行アシスト装置1に装着してシステムを起動した時点が最初の基準時点で、以後、時間Xの経過、又は距離Yの歩行によりリセットされた時点が次の基準時点となる。
【0033】
次に、疲労度の推定及びアシスト量の更新について説明する。
図3(a)に示すように、基準時点(前回の測定時)において、拘束測定センサ61〜63の各々により測定した、大腿M1の大腿歪量(拘束力)をTa0、脹脛M2の脹脛歪量をTb0、足部M3の足歪量をTc0とする。これらの値は、初回又は前回の測定値であり、RAMの所定領域に記憶されている。
また、前回の歪変化量に対して歪−疲労度マップから推定した疲労度Ha0、Hb0、Hc0がそれぞれRAMに記憶されている。
なお、図3では各部について右脚を例に説明しているが、左脚も同様にして、右脚とは別に測定及びアシスト量の更新が行われる。
【0034】
この基準時点から、図3(b)に示すように、時間Xが経過し、又は距離Yだけ歩行することで、次の更新タイミングになる。
この時点における、拘束測定センサ61〜63の各々による大腿M1の測定値が大腿歪量(拘束力)Ta1、脹脛M2の測定値が脹脛歪量をTb1、足部M3の測定値が足歪量をTc1であったとする。
【0035】
この測定値に対し、大腿M1、脹脛M2、足部M3における、各歪変化量を求める。すなわち、歪変化量ΔTa(=Ta1−Ta0)、ΔTb(=Tb1−Tb0)、ΔTc(=Tc1−Tc0)を算出する。
そして、図3(b)に示すように、大腿M1、脹脛M2、足部M3の各部に対応して記憶装置に記憶されている各歪−疲労度マップを使用して、算出した歪変化量ΔTa、ΔTb、ΔTcから、各部の疲労度Ha1、Hb1、Hc1を推定する。
【0036】
この推定した各疲労度Ha1、Hb1、Hc1と、前回(基準時点)での疲労度Ha0、Hb0、Hc0とから、疲労度の増加量αa、αb、αcを得る。
そして、大腿M1に対応する股関節部21、脹脛M2に対応する膝関節部22、足部M3に対応する足首関節部23に対する疲労度を考慮したアシスト量を次の各式(1)〜(3)に従って決定する。
【0037】
股関節部21のアシスト量=前回アシスト量×(1+Ha)…(1)
膝関節部22のアシスト量=前回アシスト量×(1+Hb)…(2)
足首関節部23のアシスト量=前回アシスト量×(1+Hc)…(3)
【0038】
上記式において、Ha、Hb、Hcは更新用の疲労度である。この更新用疲労度Ha、Hb、Hcは、今回推定した疲労度と前回推定した疲労度とを比較し、増加している場合には前回推定値+増加量α、増加していない場合には前回推定値となる。
具体的には、次の通りである。
【0039】
Ha=Ha0+αa(Ha1>Ha0)
Ha=Ha0 (Ha1=Ha0)
Hb=Hb0+αb(Hb1>Hb0)
Hb=Hb0 (Hb1=Hb0)
Hc=Hc0+αb(Hc1>Hc0)
Hc=Hc0 (Hc1=Hc0)
【0040】
ただし、大腿M1に対する疲労度の増加量αaは、αa=Ha1−Ha0であるため、増加した場合のHa=Ha0+αa=Ha1、増加していない場合のHa=Ha0=Ha1となり、何れの場合も更新用疲労度Haの値は今回推定した新しい疲労度Ha1となる。他の更新用疲労度Hb、Hcも同じである。
このため、式(1)〜(3)においては、更新用疲労度Ha、Hb、Hcとして、今回推定した疲労度Ha1、Hb1、Hc1を使用することができる。
【0041】
次に、本実施形態における歩行アシスト処理について図4のフローチャートを参照して説明する。
最初に歩行アシスト装置1の電源がオンされてシステムが起動すると(ステップ11)、ECU16は、拘束測定センサ61〜63としての歪ゲージ(以下単に歪ゲージ61〜63という)の出力値を取得し、それぞれ大腿歪量Ta0、脹脛歪量Tb0、足歪量Tc0としてRAMの所定領域に記憶し、その後タイマー19をスタートする(ステップ12)。
【0042】
そして装着者Mが歩行を開始するとECU16は着地センサ13からの入力信号に基づき歩数の計数を開始し(ステップ13)、歩行終了により電源がオフされたか否かを監視する(ステップ14)。
電源オフされていなければ(ステップ14;N)、ECU16は、タイマー19が所定の時間X分経過したか否か(ステップ15)、及び、計数している歩数を換算した距離Ykmだけ歩行したか否かを判断する(ステップ16)。
ECU16は、基準時点から時間X分が経過していなく(ステップ15;N)、かつ、基準時点から距離Ykmだけ歩行していない場合(ステップ16;N)、ECU16はステップ14に戻り、システムの終了、及び、時間X分と距離Ykmの監視を継続する。
【0043】
一方、基準時点から時間X分が経過した場合(ステップ15;Y)、又は、基準時点から距離Ykmだけ歩行した場合(ステップ16;Y)、ECU16は、更新タイミングであると判断し、サブルーチンである疲労度考慮可変アシスト処理を実行することで、疲労度の再推定とアシスト量の更新を行う(ステップ17)。
この疲労度考慮可変アシスト処理(ステップ17)の後、ECU16は、タイマー19をリセットすることで装着時間X分をクリアする(ステップ18)。
またECU16は、着地センサ13からの入力信号のカウント値をゼロにリセットすることで、装着歩行距離Ykmをクリアする(ステップ19)
【0044】
このようにステップ14からステップ19を繰り返し継続し、電源のオフを検出すると、ECU16は、歩行アシスト処理を終了する。
【0045】
図5は、歩行アシスト処理における疲労度考慮可変アシスト処理(ステップ17)を表したサブルーチンである。なお、このサブルーチンによる処理は、大腿M1、脹脛M2、足部M3の各部毎に行われる。
ECU16は、最初に、歪ゲージ61〜63の出力値から、それぞれ大腿歪量Ta1、脹脛歪量Tb1、足歪量Tc1を取得する(ステップ31)。
次にECU16は、基準時点からの歪量の変化量ΔTを取得する(ステップ32)。すなわち、ECU16は、大腿M1、脹脛M2、足部M3における、歪変化量ΔTa(=Ta1−Ta0)、ΔTb(=Tb1−Tb0)、ΔTc(=Tc1−Tc0)を取得する。
【0046】
そして、取得した各変化量ΔTa、ΔTb、ΔTcから、大腿M1、脹脛M2、足部M3各部の疲労度を、疲労度Ha1、Hb1、Hc1を推定する(ステップ33)。
【0047】
次にECU16は、疲労度の進行度合いを確認するために、前回計測時(基準時点)と今回推定した疲労度とを比較する(ステップ34)。
すなわち、ECU16は、推定した各疲労度Ha1、Hb1、Hc1と、前回(基準時点)で推定した疲労度Ha、Hb0、Hc0とを比較する。
【0048】
そして、ECU16は、疲労度の進行度合いが前回よりも大きいか否かを判断する(ステップ35)。
すなわち、疲労度の進行度合いが前回よりも大きい場合(ステップ35;Y)、ECU16は、前回疲労度Ha0、Hb0、Hc0に増加量αa、αb、αcを加えた値を今回の更用新疲労度Ha、Hb、Hcとする(ステップ36)。
一方、疲労度が前回から変化していない場合(ステップ35;N)、ECU16は、前回の疲労度Ha0、Hb0、Hc0を更新用疲労度Ha、Hb、Hcとする(ステップ37)。
【0049】
そして、ECU16は、求めた更新用疲労度Ha、Hb、Hcを使用し、股関節部21、膝関節部22、足首関節部23のそれぞれに対する新アシスト量を決定する。
新アシスト量は、前回アシスト量に(1+更新アシスト量)を乗じた値であり、各関節部21〜23に対する具体的な計算は上記式(1)〜(3)に示す通りである。
【0050】
そして、ECU16は、算出した新アシスト量でアシスト制御を行う(ステップ39)。すなわち、ECU16は、歩行アクチュエータ17により歩行アシスト部2の股関節部21、膝関節部22、足首関節部23を駆動する。
【0051】
以上最適な実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく各種変形が可能であり、以下に説明する変形は上記した実施形態や、他の変形にも適用することができる。
本実施形態では、今回(更新タイミング時に)測定した疲労度H1が、基準時点での疲労度H0から増加している場合に、装着者Mが感じる体感アシスト量が一定になるようにするために、アシスト量も増加させるものである。
そのための処理として、図5で説明した疲労度考慮可変アシスト処理では、疲労度が増加しているか否かの判断を行い、増加しているか否かに応じて更新用疲労度を変更する場合について説明した。
しかし、上述したように、疲労度の増加の有無にかかわらず、更新用疲労度は、Ha=Ha1、Hb=Hb1、Hc=Hc1となる。
そこで、疲労度が増加下か否かの判断に関するステップ34からステップ7を省略し、ステップ33で推定した今回の疲労度Ha1、Hb1、Hc1を、そのまま更新用疲労度Ha、Hb、Hcとしてステップ38の処理を行うようにしてもよい。
【0052】
また、説明した実施形態では、基準時点から時間条件(X分)と距離条件(Ykm)の何れか先に満たした時点を、アシスト量を更新する更新タイミングとしたが、時間条件、距離条件の何れか一方だけを採用するようにしてもよい。この場合、時間条件や距離条件を比較的小さく、例えば、X=10分、Y=100mとすることで、ユーザの疲労を適切に推測することができる。
また、上記実施形態、及び上述した変形例において、時間条件X分、Ykmについては、ユーザが設定、変更できるようにしてもよく、また、使用する条件を何にするかを選択(時間条件X分、又は/及び距離条件Ykm)できるようにしてもよい。
【0053】
また、説明した実施形態では、更新条件を満たした時点すなわち更新タイミングで、大腿歪量Ta1、脹脛歪量Tb1、足歪量Tc1を取得する(ステップ31)場合について説明したが、更新条件を満たした後で、かつ、ユーザが歩行をしていない静止状態にある場合に測定するようにしてもよい。これにより、より正確な計測が可能になる。
【0054】
説明した実施形態の歩行アシスト装置1では、股関節部21、膝関節部22、足首関節部23のそれぞれをアシストの対象とする場合について説明したが、例えば、股関節だけであったり、膝関節だけのアシスト、また股関節と膝関節のアシスト、など装着者Mが必要とする箇所に限定してアシストするようにしてもい。この場合の歩行アシスト装置1は、各関節部21〜23と連結部81〜83のうち、アシスト対象となる部分のみの構成(アシストしない部分を省略した構成)としてもよい。また、各関節部21〜23や連結部81〜83は実施形態と同様な構成とし、アシスト対象を装着者Mに応じた一部に限定してアシスト制御するようにしてもい。
【0055】
そして、本実施形態による疲労度を考慮した可変アシスト処理の対象も、アシスト対象箇所(股関節部21、膝関節部22、足首関節部23)に適用するが、アシスト対象の全てに対して疲労度に応じたアシスト量に変化させる必要はなく、アシスト対象のうちの一部について疲労度を考慮した可変アシスト制御を行い、他は一定のアシスト量を継続するようにしてもよい。
例えば、装着者Mが疲れを比較的感じにくい箇所、例えば、足首関節部23に対するアシストを一定にし、股関節部21と膝関節部22については疲労度を考慮した可変アシストを行う。
【0056】
説明した実施形態では、拘束測定センサ60として歪ゲージを使用し、拘束部剤50による拘束力の変化を歪量で検出し、この歪量の変化から披露度の変化を推定したが、歪量が変化した割合を使用するようにしてもよい。この場合の割合は、基準時点からの割合でも、歩行アシスト装置1を装着した時点からの割合であってもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 装着型ロボット
2 歩行アシスト部
3 3軸センサ
4 光源装置
5 撮像カメラ
6 3軸アクチュエータ
7 腰部装着部
8 連結部
9 撮像ユニット
10 無線通信装置
12 ナビゲーション装置
13 着地センサ
15 装着ロボットシステム
16 ECU
17 歩行アクチュエータ
18 バッテリ
19 タイマー
50 拘束部材
60 拘束測定センサ(歪ゲージ)
100 照明

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行支援対象者の脚部を保持する保持手段と、
前記保持手段が保持する各部を駆動する駆動手段と、
前記駆動手段が発揮する力を制御して前記脚部の移動をアシストする制御手段と、
前記歩行支援対象者の前記脚部の疲労度を推定する疲労度推定手段と、
を具備し、
前記制御手段は、前記推定した疲労度の増加に対応して前記脚部に対するアシスト量を増加させる、
ことを特徴とする歩行支援装置。
【請求項2】
前記保持手段は、前記歩行支援対象者の少なくとも大腿部と脹脛部とを含む脚部を保持し、
前記疲労度推定手段は、前記保持手段で保持する前記大腿部と脹脛部の疲労度を個別に推定し、
前記制御手段は、個別に推定した大腿部と脹脛部の疲労度の増加に対応して、当該各部に対するアシスト量を増加させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の歩行支援装置。
【請求項3】
前記疲労度推定手段は、前記保持手段が保持している脚部のむくみ量を測定し、当該測定したむくみ量から疲労度を推定する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の歩行支援装置。
【請求項4】
前記保持手段による脚部の保持部に配置された歪ゲージを備え、
前記疲労度推定手段は、前記歪ゲージで検出される歪量から、むくみ量を測定する、
ことを特徴とする請求項3に記載の歩行支援装置。
【請求項5】
歩行支援対象者の脚部を保持する保持手段と、前記保持手段が保持する各部を駆動する駆動手段と、を備えた歩行支援装置が有するコンピュータで用いられる歩行支援プログラムであって、
前記駆動手段が発揮する力を制御して前記脚部の移動をアシストする制御機能と、
前記歩行支援対象者の前記脚部の疲労度を推定する疲労度推定機能と、
を前記コンピュータに実現させ、
前記制御機能は、前記推定した疲労度の増加に対応して前記脚部に対するアシスト量を増加させる、
ことを特徴とする歩行支援プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−205826(P2012−205826A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75081(P2011−75081)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】