歩行解析及び運動メニュー提案システム
【課題】被験者が日常的に行うことのできる歩行動作の測定を行って対称性の指標を含む歩行能力を検出し、適切な運動メニューを提案することができる、簡易な構成で測定操作やデータ管理が容易かつ低廉な歩行解析及び運動メニュー提案システムを提供する。
【解決手段】被験者の歩行動作を測定して歩行能力を求める歩行能力検出手段1と、求めた前記歩行能力から前記被験者の転倒リスクを判別する転倒リスク判別手段2と、前記歩行能力または前期転倒リスクに合わせた転倒予防及び運動機能向上のための運動メニューを提案する運動メニュー提案手段3と、前記運動メニューを告知するとともに前記歩行能力及び前記転倒リスクの少なくとも一方を告知する告知手段4と、を有する歩行解析及び運動メニュー提案システム100であって、前記歩行能力検出手段1は、左右の足の歩行能力の比または対称程度を示す指標を求める対称性検出手段7を含むことを特徴とする。
【解決手段】被験者の歩行動作を測定して歩行能力を求める歩行能力検出手段1と、求めた前記歩行能力から前記被験者の転倒リスクを判別する転倒リスク判別手段2と、前記歩行能力または前期転倒リスクに合わせた転倒予防及び運動機能向上のための運動メニューを提案する運動メニュー提案手段3と、前記運動メニューを告知するとともに前記歩行能力及び前記転倒リスクの少なくとも一方を告知する告知手段4と、を有する歩行解析及び運動メニュー提案システム100であって、前記歩行能力検出手段1は、左右の足の歩行能力の比または対称程度を示す指標を求める対称性検出手段7を含むことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の歩行能力を求め、これを基にして適切な運動メニューを提案する歩行解析及び運動メニュー提案システムに関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者にとって運動能力の低下は切実な問題であり、日頃から適切な運動メニューを実施することで歩行能力を維持したいという要求は大きい。また、リハビリ施設などでは、病気や事故により一時的に歩行能力が低下した被験者の運動機能向上を図るため、被験者の歩行能力を求めるとともに、機能回復に好ましい運動メニューを提案することが行われている。歩行能力の測定や運動メニューの提案は、熟練した専門の測定者やリハビリ指導者により行われるのが一般的となっている。運動メニューの提案に際しては、転倒などの弊害が発生しないように、運動目的や運動の内容、強度を適切なものとする必要がある。
【0003】
このように、被験者の歩行能力を求め、歩行能力あるいは転倒リスクに合う適切な運動メニューを提案するシステムとして、例えば特許文献1に開示される転倒予防指導支援システムがある。特許文献1のシステムは、一般的にマットレス形感圧式歩行分析計と呼ばれる測定器を用いて被験者の歩行動作時の足圧分布データを測定し、その画像処理データにより特徴を抽出して転倒の危険度を判定し、さらに歩行訓練指導画面を表示している。
【0004】
また、特許文献2に開示される転倒予防指導支援装置は、被験者が所定の直線距離を最大努力で歩いた時間である全力歩行データと、被験者が両脚を揃えた状態から最も大きく片方の脚を踏み出し反対側の脚をその横に揃えた時の最大一歩幅データと、被験者が所定高さの台を手すりなしで確実に昇り一旦台上で両脚をそろえて直立した後に向こう側に着実に降りることができるかどうかを判定した踏み台昇降データと、を転倒回避能力評価値として入力部から入力するようになっている。そして、制御部で転倒回避能力評価値を評価するとともに指導項目を決定し、転倒予防の指導のためのバランスチャートを作成し、経年変化グラフを作成し、バランスチャートと経年変化グラフとを印刷出力するようになっている。さらに、記憶部では、転倒回避能力基準値ファイルと指導項目選択ファイルと測定履歴ファイルと平均値データファイルとを記憶するように構成されている。
【特許文献1】特開2002−345786号公報
【特許文献2】特開2006−102462号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の技術では、歩行者がマットレス上を自然に3歩から5歩程度歩いた際にマットレス下側の圧力センサが足圧を検出し、システムはその画像時系列データに基づいて歩行者の歩行動作を解析している。また、得られる数値データは、歩幅と歩隔(歩行方向と直交する方向における左右の足の各基準点間の距離)との比率や、歩行者の足の荷重と加圧面積との比率であり、これらの数値データに基づいて転倒危険度を演算している。さらに、これらの数値及び、歩行者の実際の歩行パターンと理想的なパターンとを重ね合わせたグラフを歩行訓練指導画面として表示している。しかしながら、これらの数値やグラフは抽象的であり、経験の浅い指導者にとっては歩行訓練指導画面に基づいて指導を行うことは困難である。また、測定設備は長大かつ高価であり、かつ測定操作が難しかった。さらに測定設備で得られたデータをシステムに再度入力する手間が煩わしく、また入力ミスやデータ紛失のおそれもあった。
【0006】
一方、歩幅を測定する従来方法として、足に水をつけ乾いた床の上を歩行し、足跡の間隔を測定する簡易な方法が行われている。この方法は、設備費用は低廉であるが、測定時の操作やデータの記録及び保管に多大な手間がかかっていた。
【0007】
また、特許文献2の技術においては、被験者が「10m全力歩行」「最大一歩幅」「つぎ足歩行」「40cm踏み台昇降」の各測定項目を行ったときの測定結果から転倒回避能力を算出し評価している。しかしながら、多くの測定項目を実施して多数の指標を求めることが必要であるため、被験者及び測定者の双方で負担となっていた。また、被験者の歩行能力が低下しているときには、測定精度を得ることが困難となり、あるいは実施自体が困難となる測定項目もある。例えば、転倒するおそれのある被験者の場合、床面に貼付された5cm幅の布テープ上に左右どちらかの足を置き、その足のつま先にもう片方の足の踵が接した姿勢を一歩目とし、これを交互に続け、続けてできた歩数を数える「つぎ足歩行」は、測定精度の得られないおそれがある。また、40cmの踏み台を手すりなしで確実に昇り、一旦台上で両脚をそろえて直立した後に向こう側に着実に降りることができるかどうかを判定する「40cm踏み台昇降」は、被験者の安全が確保できず実施できない場合がある。
【0008】
また、従来は、左右両足の総合的な歩行能力を表す指標や、左右の足で個別に求めた指標のみが用いられていた。つまり、左右の足の歩行能力の比や対称程度を示す指標は、用いられていなかった。この左右対称性の指標は、転倒リスクを判別し運動メニューを提案するときの判断材料として有効である。
【0009】
本発明は、上記のような現状に鑑みてなされたものであり、被験者が日常的に行うことのできる歩行動作の測定を行って対称性の指標を含む歩行能力を検出し、転倒予防及び運動機能向上のための運動メニューを提案することができる、簡易な構成で測定操作やデータ管理が容易かつ低廉な歩行解析及び運動メニュー提案システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、日常的に行うことのできる歩行動作の測定のみを行って歩行能力を求め転倒リスクを判別し運動メニューを提案するシステムを、特願2007−077350号で出願済みである。その後鋭意検討を進め、歩行能力の指標として左右の足の歩行能力の比または対称程度を示す指標が有効であることに想到し、出願済みのシステムを改良した本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、上記課題を解決する本発明の歩行解析及び運動メニュー提案システムは、被験者の歩行動作を測定して歩行能力を求める歩行能力検出手段と、求めた前記歩行能力から前記被験者の転倒リスクを判別する転倒リスク判別手段と、前記歩行能力または前期転倒リスクに合わせた転倒予防及び運動機能向上のための運動メニューを提案する運動メニュー提案手段と、前記運動メニューを告知するとともに前記歩行能力及び前記転倒リスクの少なくとも一方を告知する告知手段と、を有する歩行解析及び運動メニュー提案システムであって、前記歩行能力検出手段は、左右の足の歩行能力の比または対称程度を示す指標を求める対称性検出手段を含むことを特徴とする。
【0012】
さらに、左右の足の歩行能力の比または対称程度を示す前記指標は、左足歩幅と右足歩幅との比を表す左右歩幅比である、ことが好ましい。
【0013】
本発明の歩行解析及び運動メニュー提案システムは、対称性検出手段を含む歩行能力検出手段と、転倒リスク判別手段と、運動メニュー提案手段と、告知手段と、で構成することができる。各手段は、例えば、パソコン及びその周辺装置とソフトウェアとにより実現することができる。また、対称性検出手段は、歩行能力検出手段の一部としてソフトウェアで実現することができる。言うまでもないが、「歩行能力を求める」とは、歩行能力の高低を表す歩行速度や歩幅などの指標を定量的に数値化して求めることを意味する。
【0014】
対称性検出手段が求める歩行能力の指標は、左右の足の歩行能力の比または対称程度を示す指標であり、左足歩幅と右足歩幅との比を表す左右歩幅比である、ことが好ましい。例えば、左足を踏み出したときの左足歩幅L、右足を踏み出したときの右足歩幅Rのとき、左右歩幅比Xは次式で求められる。
【0015】
X=L/(L+R):R/(L+R)
左右歩幅比X=50:50であれば、左右の歩幅が等しいと言える。左右歩幅比をはじめとする左右対称性の指標は、転倒リスクを判別する際に参考とすることができる。また、運動メニューの選択に際して、左右で異なる運動種目や異なる運動強度を提案することも可能になる。さらに、左右対称性の指標は、いずれか一方の足の潜在的な疾病や損傷を見つけだすことや、歩行能力向上程度の左右の比較評価にも有効であると考えられる。
【0016】
前記対称性検出手段が対象とする前記歩行動作は、所定距離の歩行動作のうち始めと終わりの各一定距離を除いた中間部分の歩行動作である、ことでもよい。
【0017】
また、前記対称性検出手段が対象とする前記歩行動作は、所定距離の歩行動作のうち始めと終わりの各一定歩数を除いた中間部分の歩行動作である、ことでもよい。
【0018】
さらに、前記左右歩幅比は、複数個の左足歩幅及び右足歩幅からそれぞれ求められた平均左足歩幅及び平均右足歩幅を用いて求められる、ことが好ましい。
【0019】
対称性検出手段が対象とする被験者の歩行動作の形態に制約はないが、左右歩幅比を求める前提となる左右の足の各歩幅を得られることが条件となる。所定距離の歩行動作のうち始めと終わりの各一定距離を除いた中間部分の歩行動作を対象とすれば、歩き始めと歩き終わりの不揃いな歩行動作を削除して、中間の安定した歩行動作のみを対象とすることができ、左右歩幅比の精度が向上する。また、所定距離の歩行動作のうち始めと終わりの各一定歩数を除いた中間部分の歩行動作を対象とすれば、中間の安定した歩行動作のみを対象とすることができ、かつ歩幅を求める際に1歩未満の端数処理を行う煩雑さが解消される。中間の安定した歩行動作が左右各複数歩の場合、左右それぞれで平均値演算を行い、求められた平均左足歩幅及び平均右足歩幅から左右歩幅比を求めることができる。
【0020】
前記歩行動作は、前記被験者が通常の速度で歩行する通常歩行動作のみの1歩行形態、または前記被験者が全力で歩行する全力歩行動作及び前記通常歩行動作の2歩行形態である、ことが好ましい。
【0021】
歩行動作の形態は、被験者が通常の速度で歩行する通常歩行動作のみの1歩行形態とすることができ、被験者が全力で歩行する全力歩行動作を加えて2歩行形態とすることもできる。1歩行形態とした場合は測定及びデータ処理を簡易に行うことができ、2歩行形態とした場合には、歩行能力の指標の種類が増えて転倒リスクの判定精度を向上することができる。
【0022】
前記歩行能力検出手段は、前記被験者の腰部に取り付けて歩行動作中の加速度を測定する加速度測定手段と、測定された加速度を基に前記歩行能力を推定する歩行能力推定手段と、を有する、ことが好ましい。
【0023】
歩行能力検出手段は、加速度測定手段と、歩行能力推定手段と、で構成することができる。加速度測定手段は、被験者の腰部に取り付けて歩行動作中の加速度を測定するものである。加速度測定手段は、少なくとも被験者の腰部の前後方向すなわち歩行方向の加速度を連続的に測定するように構成することができる。また、上下方向及び左右方向を含む3方向の加速度を連続的に測定するようにしてもよい。
【0024】
歩行能力推定手段は、測定した加速度のデータから歩行速度、歩幅や左右歩幅比などの歩行能力の指標を推定する手段である。この推定には相関推定式を用いることができる。詳述すると、予め多数の予備被験者を対象とし標準的な測定器を用いて歩行能力の指標を実測し、同時に3方向の加速度を測定する。そして、歩行能力の指標と加速度との間の相関分析を行って、相関性があることを確認し、歩行能力の指標を加速度の関数として表す相関推定式を求めておく。この後、被験者を対象として加速度を測定し、実測された加速度の値を相関推定式に代入すれば、被験者の歩行能力の指標を推定することができる。
【0025】
歩行能力推定手段で歩幅を求める別法として、数学的な積分演算を用いることもできる。つまり、歩き始めの位置及び速度ゼロを初期条件とし、測定した加速度を積分演算することで歩行速度を得ることができ、もう一度積分演算することにより歩行距離を求めることができる。さらに、加速度変化の特徴点と歩行動作とを対応付けることができて、一歩に要した一歩時間を求めることができ、歩行速度と一歩時間とから歩幅を求めることができる。
【0026】
前記歩行能力検出手段は、前記左右歩幅比に加えて、歩行速度、歩幅、歩調、膝伸展力、足首背屈力、の少なくとも一つを求める、ことでもよい。
【0027】
対称性検出手段を含む歩行能力検出手段は、歩行能力の指標として左右歩幅比だけでなく、歩行速度、歩幅、歩調、膝伸展力、足首背屈力、の少なくとも一つを求めるようにしてもよい。上記指標のうち歩幅は、左右歩幅比を求める過程で既に得られている。他の指標は、前述の歩幅を求める相関推定式と同様の方法で求めることができる。歩行能力の指標を増やすことにより、後述の転倒リスクの判定精度を向上することができ、さらには提案する運動メニューをより適切化することができる。
【0028】
転倒リスク判別手段は、求めた歩行能力の高低から転倒リスクの大小を判別することができる。例えば、転倒リスクを、転倒危険、転倒注意、躓き注意、問題なし(元気)の4段階のどれか一つと判別することができる。
【0029】
前記運動メニュー提案手段は、複数ある運動目的に対してそれぞれ前記運動メニューを保持し、求められた前記歩行能力または前記転倒リスクに合う前記運動メニューを選択して提案する、ようにしてもよい。
【0030】
運動メニューは、激しい運動から軽い運動まで多数準備し、運動の実施回数や実施時間も考慮することが好ましい。そして、運動メニュー提案手段は、これらの運動メニューを全て保持しておき、求められた歩行能力または転倒リスクに合う運動メニューを選択して提案するように構成することができる。
【0031】
さらに、前記運動メニュー提案手段は、対称性向上を前記運動目的とする対称性向上運動メニューを保持し、求められた前記左右歩幅比に合う前記対称性向上運動メニューを選択して提案する、ことが好ましい。
【0032】
左右の歩行能力の対称性が損なわれている被験者のために、対称性向上を運動目的とする専用の対称性向上運動メニューを準備し、運動メニュー提案手段で保持して、求められた左右歩幅比に合う対称性向上運動メニューを選択して提案するように構成することができる。
【0033】
告知手段は、運動メニューを告知するとともに、歩行能力及記転倒リスクの少なくとも一方を告知するものである。告知手段には、例えば、パソコンのディスプレーを用いることができ、被験者やリハビリの指導者などに運動メニューをはじめとする必要情報を表示して告知することができる。告知手段には出力プリンタを用いて必要情報を印刷して告知するようにしてもよく、その他の情報告知媒体を用いることもできる。
【0034】
前記告知手段は、前記歩行能力及び前記転倒リスクの少なくとも一方の時系列変化を告知する、ようにしてもよい。
【0035】
繰り返してシステムを利用する被験者のために、告知手段で歩行能力及び転倒リスクの少なくとも一方の時系列変化を告知することができる。すると、歩行能力の変化の様子や実施した運動メニューの効果を容易に確認することができて便利である。
【0036】
前記歩行能力検出手段、前記転倒リスク判別手段、前記運動メニュー提案手段、及び告知手段の相互間の一部または全てが、有線通信手段または無線通信手段により結合されている、ことでもよい。
【0037】
各手段を通信手段で結合することにより、離れた地点からでも本発明のシステムを利用することができる。また、データを一元的に管理することができて再入力の手間が不要となり、入力ミスやデータ紛失の心配もなく、効率的である。
【発明の効果】
【0038】
本発明の歩行解析及び運動メニュー提案システムでは、被験者の歩行動作を測定するだけで、転倒リスクの判別や運動メニューの提案に有効な左右対称性の指標を求めることができ、実用性能が高められた。さらに、左右対称性の指標は、潜在的な疾病や損傷を見つけだすことや、左右の足の機能回復程度の比較評価にも有効である。
【0039】
また、加速度測定手段を有する態様では、被験者の歩行動作時の腰部加速度を測定するだけでよいので、多くの測定項目が必要とされる従来の方法と比較して、被験者及び測定者の負担が少なく、装置構成は簡易でかつ低廉である。
【0040】
さらに、各手段間を通信手段で結合した態様では、データを一元的に管理することができて再入力の手間が不要となり、入力ミスやデータ紛失の心配もなく、効率的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
本発明を実施するための最良の形態を、図1〜図12を参考にして説明する。図1は本発明の実施例の歩行解析及び運動メニュー提案システム100を説明する機能ブロック図である。図示されるように、実施例のシステム100は、歩行能力検出手段1、転倒リスク判別手段2、運動メニュー提案手段3、告知手段4により構成されている。歩行能力検出手段1は、加速度測定手段5及び歩行能力推定手段6で構成され、歩行能力推定手段6は対称性検出手段7を含んでいる。
【0042】
加速度測定手段5は被験者の歩行動作時の腰部加速度を測定する手段であり、歩行能力推定手段6は腰部加速度から歩行能力の指標を推定する手段であり、対称性検出手段7は腰部加速度から左右歩幅比を推定する手段である。また、転倒リスク判別手段2は、歩行能力から転倒リスクを判別する手段である。運動メニュー提案手段3は、歩行能力及び転倒リスクを参考にして、データベース8内に記憶された多数の運動メニューから適切なものを選択して提案する手段である。告知手段4は、歩行能力、転倒リスク、選択して提案する運動メニューなどを、被験者やリハビリ指導者に告知する手段である。
【0043】
上記の各手段1〜7は、加速度計とコンピュータ及び周辺装置からなるハードウェアと、コンピュータ上で実行されるソフトウェアとにより実現されている。図2は、実施例のシステム100の実態構成を説明するハードウェア構成図である。本実施例のシステム100は、歩行動作を測定する加速度計10、被験者の歩行能力を推定し転倒リスクを判別し運動メニューを選択提案する演算部20、歩行時間などを測定する時間測定部30、歩行能力・転倒リスク・運動メニューを告知する表示部40、各種情報を記憶する記録部50、で実態構成されている。
【0044】
加速度計10は加速度測定手段5に相当し、被験者の歩行動作時に腰部に取り付けて加速度を検出するものである。加速度計10は、歩行方向すなわち前後方向のX方向加速度検出部12と、左右方向のY方向加速度検出部14と、上下方向のZ方向加速度検出部16と、により構成されている。各検出部12、14、16は一体化されており、前後加速度、左右加速度、上下加速度のすべてを検出することができるようになっている。3方向の加速度は、それぞれ独立した前後加速度信号、左右加速度信号、上下加速度信号とされて、演算部20に出力されるようになっている。
【0045】
なお、加速度計10としては、一般的に知られている加速度センサを使用することができる。例えば、圧電素子を用いた3軸の加速度センサや、静電容量型の3軸加速度センサ等を使用することができる。3軸加速度センサの場合、上記前後加速度検出部12、左右加速度検出部14、上下加速度検出部16は、一つの検出素子とすることができる。または、1軸あるいは2軸の加速度センサを組み合わせて使用してもよい。
【0046】
演算部20は、A/D変換器22と、演算装置としてのCPU24と、記憶装置としてのROM26及びRAM28と、から構成されている。A/D変換器22は、加速度計10から入力されるアナログ加速度信号をディジタル加速度信号に変換するものである。A/D変換器22から出力されるディジタル加速度信号は、RAM28に一旦記憶され、CPU24により所定の処理が行われるようになっている。例えば、ディジタル加速度信号は、時間測定部30から入力される時間情報とともに処理されて、歩行動作数歩分の時間変化波形としてRAM28に記憶されるようになっている。
【0047】
また、ROM26には、歩行能力推定手段6に相当するソフトウェアが格納されている。つまり、RAM28に記憶された3方向の加速度信号の時間変化波形から、特定の歩行動作の開始や終了の時点や特定の期間を抽出して歩行能力を求めるソフトウェアが格納されている。さらに、ROM26には、その他の手段2、3、4、に相当するソフトウェアも同様に格納されている。これらのソフトウェアは、必要に応じて随時実行されるようになっている。
【0048】
次に、図3を参考にして歩行動作を説明する。図3は、歩行動作及び対応する加速度信号の時間変化波形を示す図である。歩行とは、交互に左右の足を前に振り出すものである。地面に接して体重を支持している足を立脚といい、地面から離れて前に振り出される足を遊脚という。左右各足において、地面に着いた状態の立脚期と、地面から離れた遊脚期とがある。両足が同時に立脚期となっている期間が両脚支持期間Aとなり、一方の足だけが立脚期となっている期間が単脚支持期間Bとなる。
【0049】
立脚期は、遊脚となった足の踵が地面に接触する状態(踵接地)で開始し、爪先側も地面に接地することで足の底が略床面に沿って接触する状態(足底接地)、足の底が床面に接触した状態から踵の部分が床面から離れる状態(踵離地)を経て、爪先(足尖)が床面から離れることにより、足が床面から離れる状態(足尖離地)で終了する。したがって、踵接地から足尖離地までが立脚期となり、足尖離地から踵接地までが遊脚期となる。
【0050】
特定の歩行動作とは、図3に示される踵接地動作や足底接地動作や足尖離地動作などのうちいずれかを示すものである。踵接地動作は一方の足の踵が接地する動作であり、足底接地動作は一方の足の底全体が接地する動作であり、足尖離地動作は他方の足の足尖が離地する動作である。
【0051】
次に、歩行能力推定手段6について説明する。歩行能力推定手段6は、ソフトウェアで実現された期間抽出手段、推定指標算出手段、及び歩行能力算出手段により構成されている。期間抽出手段は、上述の特定の歩行動作が始まる時点及び終わる時点や継続している特定期間を抽出するものである。推定指標算出手段は、抽出された特定期間内における3方向の加速度に基づいて推定指標を算出するものである。なお、推定指標は、加速度と歩行能力との関係を仲介するパラメータである。歩行能力算出手段は、ROM26に格納された推定指標と歩行能力との関係(例えば関係式)を利用して、推定指標から歩行能力を算出するものである。歩行能力算出手段の一部は、左右歩幅比を算出する対称性検出手段7となっている。
【0052】
転倒リスク判別手段2もソフトウェアで実現されており、算出された各歩行能力を基にして、転倒リスクを判別するようになっている。判別に際しては、予め求められてROM26に格納された歩行能力の高低と多段階の転倒リスクとの対応関係を利用している。
【0053】
同様に、運動メニュー提案手段3もソフトウェアで実現されており、歩行能力及び転倒リスクの少なくとも一方を参考にして、適切な運動メニューを選択し提案するようになっている。選択及び提案に際しては、予め求められてROM26に格納された歩行能力及び転倒リスクと多数の運動メニューとの対応関係を利用している。
【0054】
上記のように推定された歩行能力や判別された転倒リスク及び提案された運動メニューは、RAM28に一旦記憶させておくことができ、自動的にあるいは操作により記録部50に保存することができる。
【0055】
告知手段4に相当する表示部40は、歩行能力、転倒リスク及び運動メニューを自動的にあるいは操作により表示するようになっている。なお、被験者の情報等を入力する図略の入力部が備えられており、表示部40は被験者や日付などの情報も一緒に表示するようになっている。また、記録部50に保存されている過去の測定結果も併せて表示されるようになっている。さらに、告知手段4として結果を印刷出力する図略の出力プリンタも備えられている。
【0056】
次に、上述のように構成された実施例の歩行解析及び運動メニュー提案システム100の動作、作用について説明する。図4は、実施例のシステム100の動作、作用を説明するフローチャートの図である。
【0057】
図4において、まず測定準備として、被験者の腰部に加速度計10を取り付ける。(ステップS1)。次に、被験者の歩行動作に併せて加速度を測定する。加速度計10で検出された腰部の3方向の加速度信号は、A/D変換器22によりディジタル変換されて一旦RAM28に記憶される(ステップS2)。次いで、CPU24は、3方向の加速度の時間変化波形を作成する(ステップ3)。
【0058】
このとき、被験者の歩行動作は通常歩行と全力歩行の2歩行形態とする。また、歩行動作の所定距離は16mとして測定を行い、CPU24で歩き始めと歩き終わりの各4歩を除いた中間部分の歩行動作を有効なデータとして扱うようにしている。4歩の歩行距離は、一般的には約3mに相当するので、概ね10mの安定した歩行動作を有効なデータとして歩行能力を求めることになる。また、16mの歩行動作で測定を行い、CPU24で歩き始めと歩き終わりの各3mを除いた中間部分の10mの歩行動作を有効なデータとして扱うようにしてもよい。この場合には、10mの両端にある1歩未満の端数を、例えば削除して扱うことができる。10mの有効なデータ中からは、左右各6〜7歩程度の有効な歩幅データが得られる。さらには別法として、11mの歩行動作で測定を行い、CPU24で歩き始めと歩き終わりの各4歩または各3mを除いた中間部分の概ね5mの歩行動作を有効なデータとして扱うようにしてもよい。この別法では、左右各3歩程度の有効な歩幅データが得られる。
【0059】
ステップ3に続いて、CPU24は、期間検出手段のソフトウェアにより、加速度信号の時間変化から特定の歩行動作が行われる時点及び特定期間を判定する(ステップS4)。具体的には、(1)加速度信号を時間微分することにより、加速度信号がピーク値に達した時点を検出する、または(2)前後加速度、上下加速度、左右加速度から選択される一つの加速度に着目して正から負あるいは負から正に変化する時点を検出する、あるいは(3)加速度信号のピーク値に対してある所定割合の加速度となる時点を検出する。検出されたこれらの時点は、特定の歩行動作が開始あるいは終了する時点となる。
【0060】
上記(1)〜(3)の方法のうちいずれを用いるかの判定基準は、予めROM26に保存しておくことができ、実行時に自動選択することができる。また、(2)の方法でどの方向の加速度を選択するか、あるいは(3)の方法で所定割合をどうするか、についてもROM26で設定できるようになっている。さらに、上記(1)〜(3)の方法のうち、最も適切なものを随時選択するようにしてもよいし、これらの方法を適宜組み合わせた方法を採用することもできる。
【0061】
一例として、上記(2)の方法による右踵接地の検出判定基準ソフトウェアのフローについて説明する。前後加速度の大きな負のピークを検出し(ステップS401)、負のピークの直前の前後加速度の極小点を検出する(ステップS402)。次に負のピークと極小点との間に左右加速度が正から負に変化する点があるか否か判定する(ステップS403)。左右加速度が正から負に変化する点が上記範囲内にある場合は、該変化点を(右)踵接地動作の時点と判定する(ステップS404)。左右加速度が正から負に変化する点が上記範囲内にない場合は、極小点を(右)踵接地動作の時点と判定する(ステップS405)。なお、上記の説明は(右)踵接地における判定であり、(左)踵接地を判定する場合には、上記ステップS403において、負のピークと極小点との間に左右加速度が負から正に変化する点があるか否かを判定すればよい。
【0062】
ステップ4に続いて、判定された特定の歩行動作の特定時点及び特定期間をRAM28に記憶する(ステップS5)。次にCPU24は、推定指標算出手段のソフトウェアにより、特定の歩行動作の特定期間中における推定指標を算出する。(ステップS6)。
【0063】
一例として、後述の推定指標V1を算出するソフトウェアのフローについて説明する。前後加速度が正から負になる時点を検出し(ステップS601)、次に前後加速度が負から正になる時点を検出する(ステップS602)。さらに、一方の足の踵接地時点から他方の足の踵接地時点までの時間である一歩時間を算出する(ステップS603)。検出された2つの時点及び算出された一歩時間を後述の算出式に代入し、推定指標V1を算出する(ステップS604)。
【0064】
本実施例では7つの推定指標V1〜V7を算出しており、CPU24は算出した各推定指標をRAM28に記憶する(ステップS7)。次にCPU24は、歩行能力算出手段のソフトウェアにより、歩行能力を算出する。具体的には、歩行能力として歩行速度及び歩幅を算出する場合、CPU24はROM26に記憶されている歩行速度算出式及び歩幅算出式にそれぞれ算出した各推定指標を代入する(ステップS8)。歩行能力の各指標は有効な歩行動作の1歩ごとに算出されるので、歩行動作中の左右各足の平均値や最大値、最小値を求めるようにしている。なお、膝伸展力及び足首背屈力も同様に算出することができる。
【0065】
次にCPU24は、算出済みの平均左足歩幅L及び平均右足歩幅Rを用いて、次式により左右歩幅比Xを求める(ステップS9)。
【0066】
左右歩幅比X=L/(L+R):R/(L+R)
算出された歩行速度、歩幅、左右歩幅比はRAM28に一旦記憶され、自動的にあるいは操作により記録部50に保存される(ステップS10)。ここまでで、歩行能力を求める動作が終了する。
【0067】
続いて、被験者の情報として、氏名、年齢、身長、体重、性別を入力する。(ステップS11)。次に、記憶されている歩行速度、歩幅、左右歩幅比のデータを再度読み込む。これらのデータは、他の測定機器で測定され別途入力されたものであってもよい(ステップS12)。読み込まれた歩行速度及び歩幅を用い、次式により歩調を算出する(ステップS13)。
【0068】
歩調(step/min)=歩行速度(m/sec)÷歩幅(m)×60
次に求められた歩行速度、歩幅及び歩調の値の組み合わせにより、被験者の転倒リスクを図5及び図6の一覧表に基づいて判別する。(ステップS14)。図5は、通常歩行形態での測定データを基にして転倒リスクを判別する一覧表である。表に示されるように、歩行速度は0.69(m/sec)以下、1.5(m/sec)以上及びその間が多数段階に分けられ、歩幅は0.49(m)以下、0.8(m)以上及びその間が多数段階に分けられ、歩調は90(step/min)以下、91(step/min)以上の2段階に分けられている。そして、各段階の組み合わせにより転倒リスクが判別されるようになっている。例えば、歩行速度0.69(m/sec)以下でかつ歩幅0.49(m)以下step/min)以下の場合は“転倒危険がある”と判定される。また、歩行速度1.5(m/sec)以上でかつ歩幅0.8(m)以上かつ歩蝶91(step/min)以上の場合は“問題なし”と判定される。
【0069】
また、図6は、全力歩行形態での測定データを基にして転倒リスクを判別する一覧表であり、通常歩行形態と比較して段階間の境界値が異なっている。この2つの一覧表では、転倒リスクは、転倒危険、転倒注意、躓き注意、問題なしの4段階に分けられている。例示された段階間の境界値は、被験者の体格、年齢、性別、歩行形態(通常歩行、全力歩行)等に合わせて適宜設定することができる。
【0070】
判別された転倒リスクは、RAM28に一時的に記憶され、さらに自動的にあるいは操作により記録部50に保存される。(ステップS15)。
【0071】
本実施例では、左右歩幅比は転倒リスクの判別には直接的には用いられていない。しかしながら、左右歩幅比が均衡していなければ転倒リスクは増加するので、これを定量的に評価して転倒リスクの判別に反映することができる、例えば、図5及び図6の一覧表に、転倒リスクを段階付けて追加することができる。
【0072】
次に、判別された転倒リスクを基にして、予め保存されている運動メニューから転倒予防及び運動機能向上に適切なもの選択する(ステップ16)。このとき、転倒リスクだけでなく、歩行能力も参考にして運動メニュー選択することができる。例えば、被験者の左右歩幅比が均衡していないときには、バランス機能向上の運動目的に適した運動メニューを推奨したり、左右で運動種目を変えたり、左右で運動強度を変えたりることができる。
【0073】
上記のように、CPU24によって、歩行能力の指標が算出され、転倒リスクが判別されて、運動メニューが選択される。そして最後に、CPU24は、運動メニューをその他の情報とともに表示部40に表示して告知する(ステップS17)。その他の情報とは、歩行能力、転倒リスク、被験者情報などであり、過去のデータも含まれる。これらの情報は、操作により選択して表示するようにしてもよく、あるいはすべての情報を自動的に表示するようにしてもよい。また、被験者が所望する運動メニューを選択するようにして、選択した運動メニューの詳細を表示させることもできる。
【0074】
次に、推定指標を用いた歩行速度及び歩幅の算出方法の詳細について説明する。まず、歩行速度及び歩幅を算出する際に用いる7つの推定指標V1〜V7の選定理由と算出式について説明する。
【0075】
(推定指標V1)前後加速度を積分することにより前進速度、つまり歩行速度をある程度算出することはできるが、積分誤差の影響が大きく、推定精度の面で問題がある。そこで以下のように考えた。歩行動作は、加速動作と減速動作の繰り返しであり、加速動作にかける時間(加速時間)と減速動作にかける時間(減速時間)の比率を見た場合に、加速にかける時間が大きいほうが速い歩行速度となる傾向がある、したがって、一歩時間における減速時間の比率が推定指標として使用できる。この場合、減速時間とは、前後方向において最大速度となる点(前後の最大速度位置と称す)から前後方向の最低速度になる点(前後の最低速度位置と称す)までの時間にあたる。したがって、推定指標V1を次の算出式により求めることとした。
【0076】
推定指標V1=前後の最大速度位置から前後の最低速度位置までの時間/一歩時間
加速度は、速度の微分である。そのため、図3において前後の速度が最大になる点は加速度が時間軸を正から負に横切るところであり、前後の速度が最小になる点は加速度が時間軸を負から正に横切るところである。よって、"最大速度位置から最低速度位置までの時間“とは、”前後加速度が負から正になる時間“−”正から負になる時間“である。
【0077】
ここで、推定指標V1と歩行速度との相関性を確認するために、多数の予備被験者で実測したデータを用いて相関分析を行った。つまり、X軸を推定指標V1とし、Y軸を(歩行速度/身長)とし、予備被験者のデータをプロットして相関グラフを作成した。Y軸の歩行速度は、本実施例とは別の三次元動作分析システムを利用して測定された実測値である。また、個人差の影響を低減して規格化するために、歩行速度を身長で割った値を用いた。この相関グラフでは、一歩時間における減速時間の割合が小さいほど歩行速度を身長で割った値が大きい傾向があり、推定指標V1と歩行速度を身長で割った値との間には負の相関が認められた。なお、歩行速度や歩幅を身長で割って規格化することは、他の推定指標V2〜V7でも共通に実施している。
【0078】
(推定指標V2)大きな正の加速度が起こると、大きな負の加速度が起こる。歩行速度が速い場合、加速度変化は大きいと考えられる。そのため一歩期間における減速を示す負の前後加速度は歩行速度を反映していると考えた。
【0079】
加速度変化が大きい場合、消費エネルギーは大きくなる。上記のように推定指標V1と歩行速度とが相関が取れていることから、歩行速度が速い場合には一歩時間において加速動作に費やす時間が長くなることが分かる。つまり大きな制動(負の加速度)が起こった場合、それは加速時間が長かったと考えられる。これは消費エネルギーが極力大きくならないような歩行を行っていると考えられ、通常歩行は最小限の消費エネルギーで行う運動であるという仮定に則していると考えられる。したがって、推定指標V2を次の算出式により求めることとした。
【0080】
推定指標V2=前後加速度が正から負に変わる点から負から正へ変わる点までの前後加速度の積分値/積分期間時間
"前後加速度が正から負に変わる点から負から正へ変わる点までの前後加速度の積分値"とは、推定指標V1の"最大速度位置から最低速度位置までの時間"を表す期間の前後加速度を時間積分した値である。つまり推定指標V2は、その積分値を積分期間時間で割った値で、減速動作時における平均減速度を意味する。また、推定指標V2と(歩行速度/身長)との相関分析を行ったところ、両者の間には負の相関が認められた。
【0081】
(推定指標V3)歩行中の身体重心は、上下動を繰り返す。身体重心位置は、踵接地時に最も低くなり、身体が直立した状態にある時(立脚中期)に最も高くなる。立脚中期後、足が身体前方へ振り出されることにより、身体重心が下方へ移動し、踵接地時に最下点となる。
【0082】
したがって重心が上方へ移動する際に発生する上方加速度、上方への移動速度の減速の際に発生する上方減速加速度、重心が下方へ移動する際に発生する下方加速度も歩行速度を反映していると考えられる。上方加速度は、踵接地時の衝撃による振動が入っていると考えられるため、外力による振動の影響が少ないと考えられる上方減速加速度と下方加速度に着目した。
【0083】
立脚中期は足尖離地後に現れる。そのため足尖離地後の上下加速度における負の加速度は、立脚中期直前での上下減速加速度と足を前に振り出すことによる身体重心の下方加速度を示していると考えた。踵接地直前の正の上下加速度は、踵接地時の衝撃力を緩和するための下方速度を減速させるための加速度であると考えた。この衝撃緩和という動作は、踵接地時(制動期)の筋負荷を低減することができ、消費エネルギーを抑えるという仮定に準じていると言える。歩行速度を反映していると考えられる両積分値の絶対値の和を推定指標V3とした。
【0084】
推定指標V3=|上方速度の減速量/期間時間|+|下方速度の減速量/期間速度|
"上方速度の減速量"とは、足尖離地から上下加速度が負から正に変わる点までを期間とした上下加速度の時間積分値を示す。よって、|上方速度の減速量/期間時間|は、この特定期間での上下方向平均減速度の絶対値を意味する。また"下方速度の減速量"とは、上下加速度が負から正に変わる点から踵接地までを特定期間とした上下加速度の時間積分値を示す。よって、|下方速度の減速量/期間時間|は、この特定期間での上下方向平均加速度の絶対値を意味する。また、推定指標V3と(歩行速度/身長)との相関分析を行ったところ、両者の間には正の相関が認められた。
【0085】
(推定指標V4)
推定指標V4=(右[左]踵接地から左[右]踵接地までの前後加速度を積分し、最大速度と最低速度の差)/(前後の最大速度位置から前後の最低速度位置までの時間/一歩時間)
ここで、推定指標V4と(歩行速度/身長)との相関分析を行ったところ、両者の間には正の相関が認められた。
【0086】
(推定指標V5)次に、加速前期にあたる右足尖離地から右立脚後期(足尖離地以降の上下加速度が負から正に変わる点)までの前後加速度を積分し、右立脚後期時の前後速度を歩行速度の推定指標V5とした(同様に左立脚後期時の前後速度も用いることが出来る)。
【0087】
推定指標V5=右[左]足尖離地から右[左]立脚後期までの前後加速度の積分値
ここで、推定指標V5と(歩行速度/身長)との相関分析を行ったところ、両者の間には正の相関が認められた。
【0088】
(推定指標V6)次に、立脚初期(足尖離地以降、上下加速度が正から負へ変わる最初の点)から立脚後期までの上下加速度を積分し算出される速度と立脚後期から他方の足の踵接地までの上下加速度を積分し算出される速度の和の大きさを推定指標V6とした。
【0089】
推定指標V6=|一方の足の立脚初期から立脚後期までの上下加速度の積分値|と|一方の足の立脚後期から他方の足の踵接地直前までの上下加速度の積分値|の和
ここで、推定指標V6と(歩行速度/身長)との相関分析を行ったところ、両者の間には正の相関が認められた。
【0090】
(推定指標V7)
推定指標V7=推定指標V6/推定指標V1
ここで、推定指標7と(歩行速度/身長)との相関分析を行ったところ、両者の間には正の相関が認められた。
【0091】
次に、推定指標V1〜V7を用いて歩行速度を求める歩行速度推定式について説明する。歩行速度推定式は、相関分析の結果を基にして、いずれか1つの推定指標に係数を掛け定数を加えた一次関数で表現することができる。また、より精度を向上するために重回帰分析を行って、複数の推定指標を用いた推定式を得ることもできる。推定指標V1〜V3を用いた推定式の例を次に示す。
【0092】
推定歩行速度=0.249×V1−0.091×V2+0.049×V3+0.269
上記の推定式に、予備被験者の測定データから算出した推定指標V1〜V3を代入して推定歩行速度を算出し、実測歩行速度との相関性を確認した。つまり、X軸を(推定歩行速度/身長)とし、Y軸を(実測歩行速度/身長)として予備被験者の測定データをプロットした相関グラフを作成したところ、正の高い相関が認められた。
【0093】
また、推定指標V4〜V7を用いた場合には次の推定式が得られた。
【0094】
推定歩行速度=0.18×V4+0.56×V5+0.69×V6−0.15×V7+0.38
この推定式でも、正の高い相関が認められた。
【0095】
次に、歩幅を求める歩幅推定式であるが、歩行速度推定式と同様に、1つまたは複数の推定指標に係数を掛け定数を加えた式で表現することができる。例えば、推定指標V4、V6、V7を用いた場合には次の推定式が得られた。
【0096】
推定歩幅=0.11×V4+0.27×V6−0.06×V7+0.24
上記の推定式に、予備被験者の測定データから算出した推定指標V4、V6、V7を代入して推定歩幅を算出し、実測歩幅との相関性を確認した。つまり、X軸を(推定歩幅/身長)とし、Y軸を(実測歩幅/身長)として予備被験者の測定データをプロットした相関グラフを作成したところ、正の高い相関が認められた。
【0097】
以上説明したように、相関分析を行って推定指標の算出式と歩行速度推定式及び歩幅推定式を得たことにより、加速度を測定するだけで歩行速度及び歩幅を精度よく推定できることが明らかになった。
【0098】
なお、歩幅には別の推定式を用いることもでき、詳細は先の出願である特願2007−077350号を参照いただきたい。また、膝伸展力及び足首背屈力を推定する推定式についても、先の出願で詳細に説明しているので省略する。
【0099】
次に、図7〜図11を参考にして、表示部40で表示される歩行能力、転倒リスク及び運動メニューの表示画面の例について説明する。
【0100】
図7は、歩行能力の表示画面の例である。表示画面の上段左上には画面のタイトルとして「歩行解析」が表示されている。画面上段中央から右側にかけて、表示可能な内容がシンボル及び言葉で表示されている。図示されるように、「登録者一覧」「解析結果」「アドバイス」「運動選択」「運動メニュー」「終了」「印刷」がそれぞれ表示され、さらに現在表示している「解析結果」だけが強調表示されている。画面上段のタイトルの下には、被験者の名前、性別、年齢、身長、体重が表示されるようになっている。なお、画面上段の表示内容は、他の表示画面でも共通となっている。画面中段には、求められた通常歩行及び全力歩行時の歩行速度及び歩幅が過去のデータとともに表示されている。また、基準として同年代の被験者の平均値データが右側に表示されている。画面下段には、過去から現在に至る歩行能力の時系列変化がグラフで表示されている。同年代の平均値データや被験者の歩行能力の時系列変化が表示されることにより、被験者の運動能力向上の意欲を促すことができる。
【0101】
図8は、図7に表示された歩行能力の時系列変化のグラフを拡大したものであり、(1)は歩行速度、(2)は平均歩幅、(3)は左右歩幅及び左右歩幅比を示している。各グラフは左から右へと3回分の時系列変化が表示され、いずれも右肩上がりで歩行能力が向上してきたことを例示している。(1)(2)において、上側の折れ線は全力歩行を示し、下側の折れ線は通常歩行を示している。(3)において、左右歩幅比は数値表示されており、右側の最新データは50:50で対称性が満たされているとわかる。
【0102】
図9は、タイトルに「アドバイス」と表示された転倒リスク及びアドバイスの表示画面の例である。画面中段左側には転倒リスクが時系列的に表示され、画面中段右側には全力歩行時及び通常歩行時の歩行速度と歩幅とが四角形表示されている、四角形は、各値が大きいほど拡がるので、直感的な理解を容易にしている。画面下段には、転倒リスクに合わせて運動メニューを選択する際のアドバイスが表示されている。
【0103】
図10は、タイトルに「運動選択」と表示された運動メニュー提案の表示画面の例である。図10では、転倒リスクが「問題なし(元気)」と判定された場合の運動メニューが表示されている。各運動メニューは、運動目的ごとに複数提案され、図解と運動種目名称が表示されている。図示されるように、運動目的は体力向上と歩行動作改善とに大区分され、体力向上は柔軟性向上・下肢筋力強化・バランス機能向上・敏捷性向上に小区分され、歩行動作改善は踏み出し改善・歩行姿勢改善に小区分されている。合計6区分の運動目的に対して合計18種目の運動メニューが提案されている。被験者やリハビリ指導者は、この画面上で所望する運動メニューを選択することができる。
【0104】
図10の運動メニュー提案画面で運動メニューが選択されると、運動メニューの詳細を説明する別画面が開くようになっている。図11は、運動メニューの詳細を説明する別画面であり、体力向上のうちバランス機能を向上するための片足振りバランス運動が例示されている。この画面では、運動メニューの実施要領や注意事項が図解と文章とで表示される他、実施回数や実施時間も表示されて運動量の目安を知ることができる。
【0105】
また、図1や図2には略されている出力プリンタを用いることにより、図7〜図11の表示画面を用紙に印刷出力することができる。さらに、選択した運動メニューの実施計画書や記録用紙も印刷出力することができる。図12は、運動メニューの実施計画書と記録用紙とを兼ねた週間カレンダーの例である。このカレンダーには選択した運動メニューが記載されており、1週間分の実施内容を書き込むとともに、達成度を自己評価できるようになっている。また、週間カレンダーよりも長期の月間カレンダーも用意されている。被験者はこれらのカレンダーを印刷して持ち帰り、利用することができる。
【0106】
以上説明したように、実施例の歩行解析及び運動メニュー提案システム100によれば、歩行動作時の腰部加速度を測定するだけで、歩行速度や歩幅などの歩行能力の指標を精度よく推定することができる。加速度の測定は、簡易な設備を用いて容易な操作で短時間のうちに行うことができ、専門的な知識も必要とされない。したがって、被験者及び測定者の負担が小さい。
【0107】
さらに、本示実施例では、左右歩幅比を求めて、転倒リスクの判別や運動メニューの提案に活用することができて、実用性能が高められた。また左右歩幅比は、潜在的な疾病や損傷を見つけだすことや、左右の足の機能回復程度の比較評価にも有効である。
【0108】
なお、膝伸展力、背屈力を求めた後さらに被験者の現時点での歩行年齢を算出することもできる。具体的には、ROM26に、膝伸展力又は背屈力の強さと歩行年齢との関係式を予め記憶させておき、算出された膝伸展力、背屈力を関係に代入することにより、歩行年齢を算出することができる。求めた歩行年齢は、他の歩行能力の指標と同様に保存及び表示することができる。その他、本発明は様々な応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明の実施例の歩行解析及び運動メニュー提案システムを説明する機能ブロック図である。
【図2】図1の実施例のシステムの実態構成を説明するハードウェア構成図である。
【図3】歩行動作及び対応する加速度信号の時間変化波形を示す図である。
【図4】図1及び図2の実施例のシステムの動作、作用を説明するフローチャートの図である。
【図5】図1及び図2の実施例において、通常歩行形態での測定データを基にして転倒リスクを判別する一覧表である。
【図6】図1及び図2の実施例において、全力歩行形態での測定データを基にして転倒リスクを判別する一覧表である。
【図7】表示部で表示される歩行能力の表示画面の例である。
【図8】図7に表示された歩行能力の時系列変化のグラフを拡大したものであり、(1)は歩行速度、(2)は平均歩幅、(3)は左右歩幅及び左右歩幅比を示している。
【図9】表示部で表示される転倒リスク及びアドバイスの表示画面の例である。
【図10】表示部で表示される運動メニュー提案の表示画面の例である。
【図11】図10の表示画面から開かれる運動メニューの詳細を説明する別画面の例である。
【図12】出力プリンタにより印刷出力された、実施計画書と記録用紙とを兼ねた週間カレンダーの例である。
【符号の説明】
【0110】
100:歩行解析及び運動メニュー提案システム
1:歩行能力検出手段
2:転倒リスク判別手段
3:運動メニュー提案手段
4:告知手段
5:加速度測定手段
6:歩行能力推定手段
7:対称性検出手段
10:加速度計(加速度測定手段)
20:演算部 22:A/D変換器 24:CPU 26:ROM 28:RAM
30:時間計測部
40:表示部
50:記録部
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の歩行能力を求め、これを基にして適切な運動メニューを提案する歩行解析及び運動メニュー提案システムに関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者にとって運動能力の低下は切実な問題であり、日頃から適切な運動メニューを実施することで歩行能力を維持したいという要求は大きい。また、リハビリ施設などでは、病気や事故により一時的に歩行能力が低下した被験者の運動機能向上を図るため、被験者の歩行能力を求めるとともに、機能回復に好ましい運動メニューを提案することが行われている。歩行能力の測定や運動メニューの提案は、熟練した専門の測定者やリハビリ指導者により行われるのが一般的となっている。運動メニューの提案に際しては、転倒などの弊害が発生しないように、運動目的や運動の内容、強度を適切なものとする必要がある。
【0003】
このように、被験者の歩行能力を求め、歩行能力あるいは転倒リスクに合う適切な運動メニューを提案するシステムとして、例えば特許文献1に開示される転倒予防指導支援システムがある。特許文献1のシステムは、一般的にマットレス形感圧式歩行分析計と呼ばれる測定器を用いて被験者の歩行動作時の足圧分布データを測定し、その画像処理データにより特徴を抽出して転倒の危険度を判定し、さらに歩行訓練指導画面を表示している。
【0004】
また、特許文献2に開示される転倒予防指導支援装置は、被験者が所定の直線距離を最大努力で歩いた時間である全力歩行データと、被験者が両脚を揃えた状態から最も大きく片方の脚を踏み出し反対側の脚をその横に揃えた時の最大一歩幅データと、被験者が所定高さの台を手すりなしで確実に昇り一旦台上で両脚をそろえて直立した後に向こう側に着実に降りることができるかどうかを判定した踏み台昇降データと、を転倒回避能力評価値として入力部から入力するようになっている。そして、制御部で転倒回避能力評価値を評価するとともに指導項目を決定し、転倒予防の指導のためのバランスチャートを作成し、経年変化グラフを作成し、バランスチャートと経年変化グラフとを印刷出力するようになっている。さらに、記憶部では、転倒回避能力基準値ファイルと指導項目選択ファイルと測定履歴ファイルと平均値データファイルとを記憶するように構成されている。
【特許文献1】特開2002−345786号公報
【特許文献2】特開2006−102462号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の技術では、歩行者がマットレス上を自然に3歩から5歩程度歩いた際にマットレス下側の圧力センサが足圧を検出し、システムはその画像時系列データに基づいて歩行者の歩行動作を解析している。また、得られる数値データは、歩幅と歩隔(歩行方向と直交する方向における左右の足の各基準点間の距離)との比率や、歩行者の足の荷重と加圧面積との比率であり、これらの数値データに基づいて転倒危険度を演算している。さらに、これらの数値及び、歩行者の実際の歩行パターンと理想的なパターンとを重ね合わせたグラフを歩行訓練指導画面として表示している。しかしながら、これらの数値やグラフは抽象的であり、経験の浅い指導者にとっては歩行訓練指導画面に基づいて指導を行うことは困難である。また、測定設備は長大かつ高価であり、かつ測定操作が難しかった。さらに測定設備で得られたデータをシステムに再度入力する手間が煩わしく、また入力ミスやデータ紛失のおそれもあった。
【0006】
一方、歩幅を測定する従来方法として、足に水をつけ乾いた床の上を歩行し、足跡の間隔を測定する簡易な方法が行われている。この方法は、設備費用は低廉であるが、測定時の操作やデータの記録及び保管に多大な手間がかかっていた。
【0007】
また、特許文献2の技術においては、被験者が「10m全力歩行」「最大一歩幅」「つぎ足歩行」「40cm踏み台昇降」の各測定項目を行ったときの測定結果から転倒回避能力を算出し評価している。しかしながら、多くの測定項目を実施して多数の指標を求めることが必要であるため、被験者及び測定者の双方で負担となっていた。また、被験者の歩行能力が低下しているときには、測定精度を得ることが困難となり、あるいは実施自体が困難となる測定項目もある。例えば、転倒するおそれのある被験者の場合、床面に貼付された5cm幅の布テープ上に左右どちらかの足を置き、その足のつま先にもう片方の足の踵が接した姿勢を一歩目とし、これを交互に続け、続けてできた歩数を数える「つぎ足歩行」は、測定精度の得られないおそれがある。また、40cmの踏み台を手すりなしで確実に昇り、一旦台上で両脚をそろえて直立した後に向こう側に着実に降りることができるかどうかを判定する「40cm踏み台昇降」は、被験者の安全が確保できず実施できない場合がある。
【0008】
また、従来は、左右両足の総合的な歩行能力を表す指標や、左右の足で個別に求めた指標のみが用いられていた。つまり、左右の足の歩行能力の比や対称程度を示す指標は、用いられていなかった。この左右対称性の指標は、転倒リスクを判別し運動メニューを提案するときの判断材料として有効である。
【0009】
本発明は、上記のような現状に鑑みてなされたものであり、被験者が日常的に行うことのできる歩行動作の測定を行って対称性の指標を含む歩行能力を検出し、転倒予防及び運動機能向上のための運動メニューを提案することができる、簡易な構成で測定操作やデータ管理が容易かつ低廉な歩行解析及び運動メニュー提案システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、日常的に行うことのできる歩行動作の測定のみを行って歩行能力を求め転倒リスクを判別し運動メニューを提案するシステムを、特願2007−077350号で出願済みである。その後鋭意検討を進め、歩行能力の指標として左右の足の歩行能力の比または対称程度を示す指標が有効であることに想到し、出願済みのシステムを改良した本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、上記課題を解決する本発明の歩行解析及び運動メニュー提案システムは、被験者の歩行動作を測定して歩行能力を求める歩行能力検出手段と、求めた前記歩行能力から前記被験者の転倒リスクを判別する転倒リスク判別手段と、前記歩行能力または前期転倒リスクに合わせた転倒予防及び運動機能向上のための運動メニューを提案する運動メニュー提案手段と、前記運動メニューを告知するとともに前記歩行能力及び前記転倒リスクの少なくとも一方を告知する告知手段と、を有する歩行解析及び運動メニュー提案システムであって、前記歩行能力検出手段は、左右の足の歩行能力の比または対称程度を示す指標を求める対称性検出手段を含むことを特徴とする。
【0012】
さらに、左右の足の歩行能力の比または対称程度を示す前記指標は、左足歩幅と右足歩幅との比を表す左右歩幅比である、ことが好ましい。
【0013】
本発明の歩行解析及び運動メニュー提案システムは、対称性検出手段を含む歩行能力検出手段と、転倒リスク判別手段と、運動メニュー提案手段と、告知手段と、で構成することができる。各手段は、例えば、パソコン及びその周辺装置とソフトウェアとにより実現することができる。また、対称性検出手段は、歩行能力検出手段の一部としてソフトウェアで実現することができる。言うまでもないが、「歩行能力を求める」とは、歩行能力の高低を表す歩行速度や歩幅などの指標を定量的に数値化して求めることを意味する。
【0014】
対称性検出手段が求める歩行能力の指標は、左右の足の歩行能力の比または対称程度を示す指標であり、左足歩幅と右足歩幅との比を表す左右歩幅比である、ことが好ましい。例えば、左足を踏み出したときの左足歩幅L、右足を踏み出したときの右足歩幅Rのとき、左右歩幅比Xは次式で求められる。
【0015】
X=L/(L+R):R/(L+R)
左右歩幅比X=50:50であれば、左右の歩幅が等しいと言える。左右歩幅比をはじめとする左右対称性の指標は、転倒リスクを判別する際に参考とすることができる。また、運動メニューの選択に際して、左右で異なる運動種目や異なる運動強度を提案することも可能になる。さらに、左右対称性の指標は、いずれか一方の足の潜在的な疾病や損傷を見つけだすことや、歩行能力向上程度の左右の比較評価にも有効であると考えられる。
【0016】
前記対称性検出手段が対象とする前記歩行動作は、所定距離の歩行動作のうち始めと終わりの各一定距離を除いた中間部分の歩行動作である、ことでもよい。
【0017】
また、前記対称性検出手段が対象とする前記歩行動作は、所定距離の歩行動作のうち始めと終わりの各一定歩数を除いた中間部分の歩行動作である、ことでもよい。
【0018】
さらに、前記左右歩幅比は、複数個の左足歩幅及び右足歩幅からそれぞれ求められた平均左足歩幅及び平均右足歩幅を用いて求められる、ことが好ましい。
【0019】
対称性検出手段が対象とする被験者の歩行動作の形態に制約はないが、左右歩幅比を求める前提となる左右の足の各歩幅を得られることが条件となる。所定距離の歩行動作のうち始めと終わりの各一定距離を除いた中間部分の歩行動作を対象とすれば、歩き始めと歩き終わりの不揃いな歩行動作を削除して、中間の安定した歩行動作のみを対象とすることができ、左右歩幅比の精度が向上する。また、所定距離の歩行動作のうち始めと終わりの各一定歩数を除いた中間部分の歩行動作を対象とすれば、中間の安定した歩行動作のみを対象とすることができ、かつ歩幅を求める際に1歩未満の端数処理を行う煩雑さが解消される。中間の安定した歩行動作が左右各複数歩の場合、左右それぞれで平均値演算を行い、求められた平均左足歩幅及び平均右足歩幅から左右歩幅比を求めることができる。
【0020】
前記歩行動作は、前記被験者が通常の速度で歩行する通常歩行動作のみの1歩行形態、または前記被験者が全力で歩行する全力歩行動作及び前記通常歩行動作の2歩行形態である、ことが好ましい。
【0021】
歩行動作の形態は、被験者が通常の速度で歩行する通常歩行動作のみの1歩行形態とすることができ、被験者が全力で歩行する全力歩行動作を加えて2歩行形態とすることもできる。1歩行形態とした場合は測定及びデータ処理を簡易に行うことができ、2歩行形態とした場合には、歩行能力の指標の種類が増えて転倒リスクの判定精度を向上することができる。
【0022】
前記歩行能力検出手段は、前記被験者の腰部に取り付けて歩行動作中の加速度を測定する加速度測定手段と、測定された加速度を基に前記歩行能力を推定する歩行能力推定手段と、を有する、ことが好ましい。
【0023】
歩行能力検出手段は、加速度測定手段と、歩行能力推定手段と、で構成することができる。加速度測定手段は、被験者の腰部に取り付けて歩行動作中の加速度を測定するものである。加速度測定手段は、少なくとも被験者の腰部の前後方向すなわち歩行方向の加速度を連続的に測定するように構成することができる。また、上下方向及び左右方向を含む3方向の加速度を連続的に測定するようにしてもよい。
【0024】
歩行能力推定手段は、測定した加速度のデータから歩行速度、歩幅や左右歩幅比などの歩行能力の指標を推定する手段である。この推定には相関推定式を用いることができる。詳述すると、予め多数の予備被験者を対象とし標準的な測定器を用いて歩行能力の指標を実測し、同時に3方向の加速度を測定する。そして、歩行能力の指標と加速度との間の相関分析を行って、相関性があることを確認し、歩行能力の指標を加速度の関数として表す相関推定式を求めておく。この後、被験者を対象として加速度を測定し、実測された加速度の値を相関推定式に代入すれば、被験者の歩行能力の指標を推定することができる。
【0025】
歩行能力推定手段で歩幅を求める別法として、数学的な積分演算を用いることもできる。つまり、歩き始めの位置及び速度ゼロを初期条件とし、測定した加速度を積分演算することで歩行速度を得ることができ、もう一度積分演算することにより歩行距離を求めることができる。さらに、加速度変化の特徴点と歩行動作とを対応付けることができて、一歩に要した一歩時間を求めることができ、歩行速度と一歩時間とから歩幅を求めることができる。
【0026】
前記歩行能力検出手段は、前記左右歩幅比に加えて、歩行速度、歩幅、歩調、膝伸展力、足首背屈力、の少なくとも一つを求める、ことでもよい。
【0027】
対称性検出手段を含む歩行能力検出手段は、歩行能力の指標として左右歩幅比だけでなく、歩行速度、歩幅、歩調、膝伸展力、足首背屈力、の少なくとも一つを求めるようにしてもよい。上記指標のうち歩幅は、左右歩幅比を求める過程で既に得られている。他の指標は、前述の歩幅を求める相関推定式と同様の方法で求めることができる。歩行能力の指標を増やすことにより、後述の転倒リスクの判定精度を向上することができ、さらには提案する運動メニューをより適切化することができる。
【0028】
転倒リスク判別手段は、求めた歩行能力の高低から転倒リスクの大小を判別することができる。例えば、転倒リスクを、転倒危険、転倒注意、躓き注意、問題なし(元気)の4段階のどれか一つと判別することができる。
【0029】
前記運動メニュー提案手段は、複数ある運動目的に対してそれぞれ前記運動メニューを保持し、求められた前記歩行能力または前記転倒リスクに合う前記運動メニューを選択して提案する、ようにしてもよい。
【0030】
運動メニューは、激しい運動から軽い運動まで多数準備し、運動の実施回数や実施時間も考慮することが好ましい。そして、運動メニュー提案手段は、これらの運動メニューを全て保持しておき、求められた歩行能力または転倒リスクに合う運動メニューを選択して提案するように構成することができる。
【0031】
さらに、前記運動メニュー提案手段は、対称性向上を前記運動目的とする対称性向上運動メニューを保持し、求められた前記左右歩幅比に合う前記対称性向上運動メニューを選択して提案する、ことが好ましい。
【0032】
左右の歩行能力の対称性が損なわれている被験者のために、対称性向上を運動目的とする専用の対称性向上運動メニューを準備し、運動メニュー提案手段で保持して、求められた左右歩幅比に合う対称性向上運動メニューを選択して提案するように構成することができる。
【0033】
告知手段は、運動メニューを告知するとともに、歩行能力及記転倒リスクの少なくとも一方を告知するものである。告知手段には、例えば、パソコンのディスプレーを用いることができ、被験者やリハビリの指導者などに運動メニューをはじめとする必要情報を表示して告知することができる。告知手段には出力プリンタを用いて必要情報を印刷して告知するようにしてもよく、その他の情報告知媒体を用いることもできる。
【0034】
前記告知手段は、前記歩行能力及び前記転倒リスクの少なくとも一方の時系列変化を告知する、ようにしてもよい。
【0035】
繰り返してシステムを利用する被験者のために、告知手段で歩行能力及び転倒リスクの少なくとも一方の時系列変化を告知することができる。すると、歩行能力の変化の様子や実施した運動メニューの効果を容易に確認することができて便利である。
【0036】
前記歩行能力検出手段、前記転倒リスク判別手段、前記運動メニュー提案手段、及び告知手段の相互間の一部または全てが、有線通信手段または無線通信手段により結合されている、ことでもよい。
【0037】
各手段を通信手段で結合することにより、離れた地点からでも本発明のシステムを利用することができる。また、データを一元的に管理することができて再入力の手間が不要となり、入力ミスやデータ紛失の心配もなく、効率的である。
【発明の効果】
【0038】
本発明の歩行解析及び運動メニュー提案システムでは、被験者の歩行動作を測定するだけで、転倒リスクの判別や運動メニューの提案に有効な左右対称性の指標を求めることができ、実用性能が高められた。さらに、左右対称性の指標は、潜在的な疾病や損傷を見つけだすことや、左右の足の機能回復程度の比較評価にも有効である。
【0039】
また、加速度測定手段を有する態様では、被験者の歩行動作時の腰部加速度を測定するだけでよいので、多くの測定項目が必要とされる従来の方法と比較して、被験者及び測定者の負担が少なく、装置構成は簡易でかつ低廉である。
【0040】
さらに、各手段間を通信手段で結合した態様では、データを一元的に管理することができて再入力の手間が不要となり、入力ミスやデータ紛失の心配もなく、効率的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
本発明を実施するための最良の形態を、図1〜図12を参考にして説明する。図1は本発明の実施例の歩行解析及び運動メニュー提案システム100を説明する機能ブロック図である。図示されるように、実施例のシステム100は、歩行能力検出手段1、転倒リスク判別手段2、運動メニュー提案手段3、告知手段4により構成されている。歩行能力検出手段1は、加速度測定手段5及び歩行能力推定手段6で構成され、歩行能力推定手段6は対称性検出手段7を含んでいる。
【0042】
加速度測定手段5は被験者の歩行動作時の腰部加速度を測定する手段であり、歩行能力推定手段6は腰部加速度から歩行能力の指標を推定する手段であり、対称性検出手段7は腰部加速度から左右歩幅比を推定する手段である。また、転倒リスク判別手段2は、歩行能力から転倒リスクを判別する手段である。運動メニュー提案手段3は、歩行能力及び転倒リスクを参考にして、データベース8内に記憶された多数の運動メニューから適切なものを選択して提案する手段である。告知手段4は、歩行能力、転倒リスク、選択して提案する運動メニューなどを、被験者やリハビリ指導者に告知する手段である。
【0043】
上記の各手段1〜7は、加速度計とコンピュータ及び周辺装置からなるハードウェアと、コンピュータ上で実行されるソフトウェアとにより実現されている。図2は、実施例のシステム100の実態構成を説明するハードウェア構成図である。本実施例のシステム100は、歩行動作を測定する加速度計10、被験者の歩行能力を推定し転倒リスクを判別し運動メニューを選択提案する演算部20、歩行時間などを測定する時間測定部30、歩行能力・転倒リスク・運動メニューを告知する表示部40、各種情報を記憶する記録部50、で実態構成されている。
【0044】
加速度計10は加速度測定手段5に相当し、被験者の歩行動作時に腰部に取り付けて加速度を検出するものである。加速度計10は、歩行方向すなわち前後方向のX方向加速度検出部12と、左右方向のY方向加速度検出部14と、上下方向のZ方向加速度検出部16と、により構成されている。各検出部12、14、16は一体化されており、前後加速度、左右加速度、上下加速度のすべてを検出することができるようになっている。3方向の加速度は、それぞれ独立した前後加速度信号、左右加速度信号、上下加速度信号とされて、演算部20に出力されるようになっている。
【0045】
なお、加速度計10としては、一般的に知られている加速度センサを使用することができる。例えば、圧電素子を用いた3軸の加速度センサや、静電容量型の3軸加速度センサ等を使用することができる。3軸加速度センサの場合、上記前後加速度検出部12、左右加速度検出部14、上下加速度検出部16は、一つの検出素子とすることができる。または、1軸あるいは2軸の加速度センサを組み合わせて使用してもよい。
【0046】
演算部20は、A/D変換器22と、演算装置としてのCPU24と、記憶装置としてのROM26及びRAM28と、から構成されている。A/D変換器22は、加速度計10から入力されるアナログ加速度信号をディジタル加速度信号に変換するものである。A/D変換器22から出力されるディジタル加速度信号は、RAM28に一旦記憶され、CPU24により所定の処理が行われるようになっている。例えば、ディジタル加速度信号は、時間測定部30から入力される時間情報とともに処理されて、歩行動作数歩分の時間変化波形としてRAM28に記憶されるようになっている。
【0047】
また、ROM26には、歩行能力推定手段6に相当するソフトウェアが格納されている。つまり、RAM28に記憶された3方向の加速度信号の時間変化波形から、特定の歩行動作の開始や終了の時点や特定の期間を抽出して歩行能力を求めるソフトウェアが格納されている。さらに、ROM26には、その他の手段2、3、4、に相当するソフトウェアも同様に格納されている。これらのソフトウェアは、必要に応じて随時実行されるようになっている。
【0048】
次に、図3を参考にして歩行動作を説明する。図3は、歩行動作及び対応する加速度信号の時間変化波形を示す図である。歩行とは、交互に左右の足を前に振り出すものである。地面に接して体重を支持している足を立脚といい、地面から離れて前に振り出される足を遊脚という。左右各足において、地面に着いた状態の立脚期と、地面から離れた遊脚期とがある。両足が同時に立脚期となっている期間が両脚支持期間Aとなり、一方の足だけが立脚期となっている期間が単脚支持期間Bとなる。
【0049】
立脚期は、遊脚となった足の踵が地面に接触する状態(踵接地)で開始し、爪先側も地面に接地することで足の底が略床面に沿って接触する状態(足底接地)、足の底が床面に接触した状態から踵の部分が床面から離れる状態(踵離地)を経て、爪先(足尖)が床面から離れることにより、足が床面から離れる状態(足尖離地)で終了する。したがって、踵接地から足尖離地までが立脚期となり、足尖離地から踵接地までが遊脚期となる。
【0050】
特定の歩行動作とは、図3に示される踵接地動作や足底接地動作や足尖離地動作などのうちいずれかを示すものである。踵接地動作は一方の足の踵が接地する動作であり、足底接地動作は一方の足の底全体が接地する動作であり、足尖離地動作は他方の足の足尖が離地する動作である。
【0051】
次に、歩行能力推定手段6について説明する。歩行能力推定手段6は、ソフトウェアで実現された期間抽出手段、推定指標算出手段、及び歩行能力算出手段により構成されている。期間抽出手段は、上述の特定の歩行動作が始まる時点及び終わる時点や継続している特定期間を抽出するものである。推定指標算出手段は、抽出された特定期間内における3方向の加速度に基づいて推定指標を算出するものである。なお、推定指標は、加速度と歩行能力との関係を仲介するパラメータである。歩行能力算出手段は、ROM26に格納された推定指標と歩行能力との関係(例えば関係式)を利用して、推定指標から歩行能力を算出するものである。歩行能力算出手段の一部は、左右歩幅比を算出する対称性検出手段7となっている。
【0052】
転倒リスク判別手段2もソフトウェアで実現されており、算出された各歩行能力を基にして、転倒リスクを判別するようになっている。判別に際しては、予め求められてROM26に格納された歩行能力の高低と多段階の転倒リスクとの対応関係を利用している。
【0053】
同様に、運動メニュー提案手段3もソフトウェアで実現されており、歩行能力及び転倒リスクの少なくとも一方を参考にして、適切な運動メニューを選択し提案するようになっている。選択及び提案に際しては、予め求められてROM26に格納された歩行能力及び転倒リスクと多数の運動メニューとの対応関係を利用している。
【0054】
上記のように推定された歩行能力や判別された転倒リスク及び提案された運動メニューは、RAM28に一旦記憶させておくことができ、自動的にあるいは操作により記録部50に保存することができる。
【0055】
告知手段4に相当する表示部40は、歩行能力、転倒リスク及び運動メニューを自動的にあるいは操作により表示するようになっている。なお、被験者の情報等を入力する図略の入力部が備えられており、表示部40は被験者や日付などの情報も一緒に表示するようになっている。また、記録部50に保存されている過去の測定結果も併せて表示されるようになっている。さらに、告知手段4として結果を印刷出力する図略の出力プリンタも備えられている。
【0056】
次に、上述のように構成された実施例の歩行解析及び運動メニュー提案システム100の動作、作用について説明する。図4は、実施例のシステム100の動作、作用を説明するフローチャートの図である。
【0057】
図4において、まず測定準備として、被験者の腰部に加速度計10を取り付ける。(ステップS1)。次に、被験者の歩行動作に併せて加速度を測定する。加速度計10で検出された腰部の3方向の加速度信号は、A/D変換器22によりディジタル変換されて一旦RAM28に記憶される(ステップS2)。次いで、CPU24は、3方向の加速度の時間変化波形を作成する(ステップ3)。
【0058】
このとき、被験者の歩行動作は通常歩行と全力歩行の2歩行形態とする。また、歩行動作の所定距離は16mとして測定を行い、CPU24で歩き始めと歩き終わりの各4歩を除いた中間部分の歩行動作を有効なデータとして扱うようにしている。4歩の歩行距離は、一般的には約3mに相当するので、概ね10mの安定した歩行動作を有効なデータとして歩行能力を求めることになる。また、16mの歩行動作で測定を行い、CPU24で歩き始めと歩き終わりの各3mを除いた中間部分の10mの歩行動作を有効なデータとして扱うようにしてもよい。この場合には、10mの両端にある1歩未満の端数を、例えば削除して扱うことができる。10mの有効なデータ中からは、左右各6〜7歩程度の有効な歩幅データが得られる。さらには別法として、11mの歩行動作で測定を行い、CPU24で歩き始めと歩き終わりの各4歩または各3mを除いた中間部分の概ね5mの歩行動作を有効なデータとして扱うようにしてもよい。この別法では、左右各3歩程度の有効な歩幅データが得られる。
【0059】
ステップ3に続いて、CPU24は、期間検出手段のソフトウェアにより、加速度信号の時間変化から特定の歩行動作が行われる時点及び特定期間を判定する(ステップS4)。具体的には、(1)加速度信号を時間微分することにより、加速度信号がピーク値に達した時点を検出する、または(2)前後加速度、上下加速度、左右加速度から選択される一つの加速度に着目して正から負あるいは負から正に変化する時点を検出する、あるいは(3)加速度信号のピーク値に対してある所定割合の加速度となる時点を検出する。検出されたこれらの時点は、特定の歩行動作が開始あるいは終了する時点となる。
【0060】
上記(1)〜(3)の方法のうちいずれを用いるかの判定基準は、予めROM26に保存しておくことができ、実行時に自動選択することができる。また、(2)の方法でどの方向の加速度を選択するか、あるいは(3)の方法で所定割合をどうするか、についてもROM26で設定できるようになっている。さらに、上記(1)〜(3)の方法のうち、最も適切なものを随時選択するようにしてもよいし、これらの方法を適宜組み合わせた方法を採用することもできる。
【0061】
一例として、上記(2)の方法による右踵接地の検出判定基準ソフトウェアのフローについて説明する。前後加速度の大きな負のピークを検出し(ステップS401)、負のピークの直前の前後加速度の極小点を検出する(ステップS402)。次に負のピークと極小点との間に左右加速度が正から負に変化する点があるか否か判定する(ステップS403)。左右加速度が正から負に変化する点が上記範囲内にある場合は、該変化点を(右)踵接地動作の時点と判定する(ステップS404)。左右加速度が正から負に変化する点が上記範囲内にない場合は、極小点を(右)踵接地動作の時点と判定する(ステップS405)。なお、上記の説明は(右)踵接地における判定であり、(左)踵接地を判定する場合には、上記ステップS403において、負のピークと極小点との間に左右加速度が負から正に変化する点があるか否かを判定すればよい。
【0062】
ステップ4に続いて、判定された特定の歩行動作の特定時点及び特定期間をRAM28に記憶する(ステップS5)。次にCPU24は、推定指標算出手段のソフトウェアにより、特定の歩行動作の特定期間中における推定指標を算出する。(ステップS6)。
【0063】
一例として、後述の推定指標V1を算出するソフトウェアのフローについて説明する。前後加速度が正から負になる時点を検出し(ステップS601)、次に前後加速度が負から正になる時点を検出する(ステップS602)。さらに、一方の足の踵接地時点から他方の足の踵接地時点までの時間である一歩時間を算出する(ステップS603)。検出された2つの時点及び算出された一歩時間を後述の算出式に代入し、推定指標V1を算出する(ステップS604)。
【0064】
本実施例では7つの推定指標V1〜V7を算出しており、CPU24は算出した各推定指標をRAM28に記憶する(ステップS7)。次にCPU24は、歩行能力算出手段のソフトウェアにより、歩行能力を算出する。具体的には、歩行能力として歩行速度及び歩幅を算出する場合、CPU24はROM26に記憶されている歩行速度算出式及び歩幅算出式にそれぞれ算出した各推定指標を代入する(ステップS8)。歩行能力の各指標は有効な歩行動作の1歩ごとに算出されるので、歩行動作中の左右各足の平均値や最大値、最小値を求めるようにしている。なお、膝伸展力及び足首背屈力も同様に算出することができる。
【0065】
次にCPU24は、算出済みの平均左足歩幅L及び平均右足歩幅Rを用いて、次式により左右歩幅比Xを求める(ステップS9)。
【0066】
左右歩幅比X=L/(L+R):R/(L+R)
算出された歩行速度、歩幅、左右歩幅比はRAM28に一旦記憶され、自動的にあるいは操作により記録部50に保存される(ステップS10)。ここまでで、歩行能力を求める動作が終了する。
【0067】
続いて、被験者の情報として、氏名、年齢、身長、体重、性別を入力する。(ステップS11)。次に、記憶されている歩行速度、歩幅、左右歩幅比のデータを再度読み込む。これらのデータは、他の測定機器で測定され別途入力されたものであってもよい(ステップS12)。読み込まれた歩行速度及び歩幅を用い、次式により歩調を算出する(ステップS13)。
【0068】
歩調(step/min)=歩行速度(m/sec)÷歩幅(m)×60
次に求められた歩行速度、歩幅及び歩調の値の組み合わせにより、被験者の転倒リスクを図5及び図6の一覧表に基づいて判別する。(ステップS14)。図5は、通常歩行形態での測定データを基にして転倒リスクを判別する一覧表である。表に示されるように、歩行速度は0.69(m/sec)以下、1.5(m/sec)以上及びその間が多数段階に分けられ、歩幅は0.49(m)以下、0.8(m)以上及びその間が多数段階に分けられ、歩調は90(step/min)以下、91(step/min)以上の2段階に分けられている。そして、各段階の組み合わせにより転倒リスクが判別されるようになっている。例えば、歩行速度0.69(m/sec)以下でかつ歩幅0.49(m)以下step/min)以下の場合は“転倒危険がある”と判定される。また、歩行速度1.5(m/sec)以上でかつ歩幅0.8(m)以上かつ歩蝶91(step/min)以上の場合は“問題なし”と判定される。
【0069】
また、図6は、全力歩行形態での測定データを基にして転倒リスクを判別する一覧表であり、通常歩行形態と比較して段階間の境界値が異なっている。この2つの一覧表では、転倒リスクは、転倒危険、転倒注意、躓き注意、問題なしの4段階に分けられている。例示された段階間の境界値は、被験者の体格、年齢、性別、歩行形態(通常歩行、全力歩行)等に合わせて適宜設定することができる。
【0070】
判別された転倒リスクは、RAM28に一時的に記憶され、さらに自動的にあるいは操作により記録部50に保存される。(ステップS15)。
【0071】
本実施例では、左右歩幅比は転倒リスクの判別には直接的には用いられていない。しかしながら、左右歩幅比が均衡していなければ転倒リスクは増加するので、これを定量的に評価して転倒リスクの判別に反映することができる、例えば、図5及び図6の一覧表に、転倒リスクを段階付けて追加することができる。
【0072】
次に、判別された転倒リスクを基にして、予め保存されている運動メニューから転倒予防及び運動機能向上に適切なもの選択する(ステップ16)。このとき、転倒リスクだけでなく、歩行能力も参考にして運動メニュー選択することができる。例えば、被験者の左右歩幅比が均衡していないときには、バランス機能向上の運動目的に適した運動メニューを推奨したり、左右で運動種目を変えたり、左右で運動強度を変えたりることができる。
【0073】
上記のように、CPU24によって、歩行能力の指標が算出され、転倒リスクが判別されて、運動メニューが選択される。そして最後に、CPU24は、運動メニューをその他の情報とともに表示部40に表示して告知する(ステップS17)。その他の情報とは、歩行能力、転倒リスク、被験者情報などであり、過去のデータも含まれる。これらの情報は、操作により選択して表示するようにしてもよく、あるいはすべての情報を自動的に表示するようにしてもよい。また、被験者が所望する運動メニューを選択するようにして、選択した運動メニューの詳細を表示させることもできる。
【0074】
次に、推定指標を用いた歩行速度及び歩幅の算出方法の詳細について説明する。まず、歩行速度及び歩幅を算出する際に用いる7つの推定指標V1〜V7の選定理由と算出式について説明する。
【0075】
(推定指標V1)前後加速度を積分することにより前進速度、つまり歩行速度をある程度算出することはできるが、積分誤差の影響が大きく、推定精度の面で問題がある。そこで以下のように考えた。歩行動作は、加速動作と減速動作の繰り返しであり、加速動作にかける時間(加速時間)と減速動作にかける時間(減速時間)の比率を見た場合に、加速にかける時間が大きいほうが速い歩行速度となる傾向がある、したがって、一歩時間における減速時間の比率が推定指標として使用できる。この場合、減速時間とは、前後方向において最大速度となる点(前後の最大速度位置と称す)から前後方向の最低速度になる点(前後の最低速度位置と称す)までの時間にあたる。したがって、推定指標V1を次の算出式により求めることとした。
【0076】
推定指標V1=前後の最大速度位置から前後の最低速度位置までの時間/一歩時間
加速度は、速度の微分である。そのため、図3において前後の速度が最大になる点は加速度が時間軸を正から負に横切るところであり、前後の速度が最小になる点は加速度が時間軸を負から正に横切るところである。よって、"最大速度位置から最低速度位置までの時間“とは、”前後加速度が負から正になる時間“−”正から負になる時間“である。
【0077】
ここで、推定指標V1と歩行速度との相関性を確認するために、多数の予備被験者で実測したデータを用いて相関分析を行った。つまり、X軸を推定指標V1とし、Y軸を(歩行速度/身長)とし、予備被験者のデータをプロットして相関グラフを作成した。Y軸の歩行速度は、本実施例とは別の三次元動作分析システムを利用して測定された実測値である。また、個人差の影響を低減して規格化するために、歩行速度を身長で割った値を用いた。この相関グラフでは、一歩時間における減速時間の割合が小さいほど歩行速度を身長で割った値が大きい傾向があり、推定指標V1と歩行速度を身長で割った値との間には負の相関が認められた。なお、歩行速度や歩幅を身長で割って規格化することは、他の推定指標V2〜V7でも共通に実施している。
【0078】
(推定指標V2)大きな正の加速度が起こると、大きな負の加速度が起こる。歩行速度が速い場合、加速度変化は大きいと考えられる。そのため一歩期間における減速を示す負の前後加速度は歩行速度を反映していると考えた。
【0079】
加速度変化が大きい場合、消費エネルギーは大きくなる。上記のように推定指標V1と歩行速度とが相関が取れていることから、歩行速度が速い場合には一歩時間において加速動作に費やす時間が長くなることが分かる。つまり大きな制動(負の加速度)が起こった場合、それは加速時間が長かったと考えられる。これは消費エネルギーが極力大きくならないような歩行を行っていると考えられ、通常歩行は最小限の消費エネルギーで行う運動であるという仮定に則していると考えられる。したがって、推定指標V2を次の算出式により求めることとした。
【0080】
推定指標V2=前後加速度が正から負に変わる点から負から正へ変わる点までの前後加速度の積分値/積分期間時間
"前後加速度が正から負に変わる点から負から正へ変わる点までの前後加速度の積分値"とは、推定指標V1の"最大速度位置から最低速度位置までの時間"を表す期間の前後加速度を時間積分した値である。つまり推定指標V2は、その積分値を積分期間時間で割った値で、減速動作時における平均減速度を意味する。また、推定指標V2と(歩行速度/身長)との相関分析を行ったところ、両者の間には負の相関が認められた。
【0081】
(推定指標V3)歩行中の身体重心は、上下動を繰り返す。身体重心位置は、踵接地時に最も低くなり、身体が直立した状態にある時(立脚中期)に最も高くなる。立脚中期後、足が身体前方へ振り出されることにより、身体重心が下方へ移動し、踵接地時に最下点となる。
【0082】
したがって重心が上方へ移動する際に発生する上方加速度、上方への移動速度の減速の際に発生する上方減速加速度、重心が下方へ移動する際に発生する下方加速度も歩行速度を反映していると考えられる。上方加速度は、踵接地時の衝撃による振動が入っていると考えられるため、外力による振動の影響が少ないと考えられる上方減速加速度と下方加速度に着目した。
【0083】
立脚中期は足尖離地後に現れる。そのため足尖離地後の上下加速度における負の加速度は、立脚中期直前での上下減速加速度と足を前に振り出すことによる身体重心の下方加速度を示していると考えた。踵接地直前の正の上下加速度は、踵接地時の衝撃力を緩和するための下方速度を減速させるための加速度であると考えた。この衝撃緩和という動作は、踵接地時(制動期)の筋負荷を低減することができ、消費エネルギーを抑えるという仮定に準じていると言える。歩行速度を反映していると考えられる両積分値の絶対値の和を推定指標V3とした。
【0084】
推定指標V3=|上方速度の減速量/期間時間|+|下方速度の減速量/期間速度|
"上方速度の減速量"とは、足尖離地から上下加速度が負から正に変わる点までを期間とした上下加速度の時間積分値を示す。よって、|上方速度の減速量/期間時間|は、この特定期間での上下方向平均減速度の絶対値を意味する。また"下方速度の減速量"とは、上下加速度が負から正に変わる点から踵接地までを特定期間とした上下加速度の時間積分値を示す。よって、|下方速度の減速量/期間時間|は、この特定期間での上下方向平均加速度の絶対値を意味する。また、推定指標V3と(歩行速度/身長)との相関分析を行ったところ、両者の間には正の相関が認められた。
【0085】
(推定指標V4)
推定指標V4=(右[左]踵接地から左[右]踵接地までの前後加速度を積分し、最大速度と最低速度の差)/(前後の最大速度位置から前後の最低速度位置までの時間/一歩時間)
ここで、推定指標V4と(歩行速度/身長)との相関分析を行ったところ、両者の間には正の相関が認められた。
【0086】
(推定指標V5)次に、加速前期にあたる右足尖離地から右立脚後期(足尖離地以降の上下加速度が負から正に変わる点)までの前後加速度を積分し、右立脚後期時の前後速度を歩行速度の推定指標V5とした(同様に左立脚後期時の前後速度も用いることが出来る)。
【0087】
推定指標V5=右[左]足尖離地から右[左]立脚後期までの前後加速度の積分値
ここで、推定指標V5と(歩行速度/身長)との相関分析を行ったところ、両者の間には正の相関が認められた。
【0088】
(推定指標V6)次に、立脚初期(足尖離地以降、上下加速度が正から負へ変わる最初の点)から立脚後期までの上下加速度を積分し算出される速度と立脚後期から他方の足の踵接地までの上下加速度を積分し算出される速度の和の大きさを推定指標V6とした。
【0089】
推定指標V6=|一方の足の立脚初期から立脚後期までの上下加速度の積分値|と|一方の足の立脚後期から他方の足の踵接地直前までの上下加速度の積分値|の和
ここで、推定指標V6と(歩行速度/身長)との相関分析を行ったところ、両者の間には正の相関が認められた。
【0090】
(推定指標V7)
推定指標V7=推定指標V6/推定指標V1
ここで、推定指標7と(歩行速度/身長)との相関分析を行ったところ、両者の間には正の相関が認められた。
【0091】
次に、推定指標V1〜V7を用いて歩行速度を求める歩行速度推定式について説明する。歩行速度推定式は、相関分析の結果を基にして、いずれか1つの推定指標に係数を掛け定数を加えた一次関数で表現することができる。また、より精度を向上するために重回帰分析を行って、複数の推定指標を用いた推定式を得ることもできる。推定指標V1〜V3を用いた推定式の例を次に示す。
【0092】
推定歩行速度=0.249×V1−0.091×V2+0.049×V3+0.269
上記の推定式に、予備被験者の測定データから算出した推定指標V1〜V3を代入して推定歩行速度を算出し、実測歩行速度との相関性を確認した。つまり、X軸を(推定歩行速度/身長)とし、Y軸を(実測歩行速度/身長)として予備被験者の測定データをプロットした相関グラフを作成したところ、正の高い相関が認められた。
【0093】
また、推定指標V4〜V7を用いた場合には次の推定式が得られた。
【0094】
推定歩行速度=0.18×V4+0.56×V5+0.69×V6−0.15×V7+0.38
この推定式でも、正の高い相関が認められた。
【0095】
次に、歩幅を求める歩幅推定式であるが、歩行速度推定式と同様に、1つまたは複数の推定指標に係数を掛け定数を加えた式で表現することができる。例えば、推定指標V4、V6、V7を用いた場合には次の推定式が得られた。
【0096】
推定歩幅=0.11×V4+0.27×V6−0.06×V7+0.24
上記の推定式に、予備被験者の測定データから算出した推定指標V4、V6、V7を代入して推定歩幅を算出し、実測歩幅との相関性を確認した。つまり、X軸を(推定歩幅/身長)とし、Y軸を(実測歩幅/身長)として予備被験者の測定データをプロットした相関グラフを作成したところ、正の高い相関が認められた。
【0097】
以上説明したように、相関分析を行って推定指標の算出式と歩行速度推定式及び歩幅推定式を得たことにより、加速度を測定するだけで歩行速度及び歩幅を精度よく推定できることが明らかになった。
【0098】
なお、歩幅には別の推定式を用いることもでき、詳細は先の出願である特願2007−077350号を参照いただきたい。また、膝伸展力及び足首背屈力を推定する推定式についても、先の出願で詳細に説明しているので省略する。
【0099】
次に、図7〜図11を参考にして、表示部40で表示される歩行能力、転倒リスク及び運動メニューの表示画面の例について説明する。
【0100】
図7は、歩行能力の表示画面の例である。表示画面の上段左上には画面のタイトルとして「歩行解析」が表示されている。画面上段中央から右側にかけて、表示可能な内容がシンボル及び言葉で表示されている。図示されるように、「登録者一覧」「解析結果」「アドバイス」「運動選択」「運動メニュー」「終了」「印刷」がそれぞれ表示され、さらに現在表示している「解析結果」だけが強調表示されている。画面上段のタイトルの下には、被験者の名前、性別、年齢、身長、体重が表示されるようになっている。なお、画面上段の表示内容は、他の表示画面でも共通となっている。画面中段には、求められた通常歩行及び全力歩行時の歩行速度及び歩幅が過去のデータとともに表示されている。また、基準として同年代の被験者の平均値データが右側に表示されている。画面下段には、過去から現在に至る歩行能力の時系列変化がグラフで表示されている。同年代の平均値データや被験者の歩行能力の時系列変化が表示されることにより、被験者の運動能力向上の意欲を促すことができる。
【0101】
図8は、図7に表示された歩行能力の時系列変化のグラフを拡大したものであり、(1)は歩行速度、(2)は平均歩幅、(3)は左右歩幅及び左右歩幅比を示している。各グラフは左から右へと3回分の時系列変化が表示され、いずれも右肩上がりで歩行能力が向上してきたことを例示している。(1)(2)において、上側の折れ線は全力歩行を示し、下側の折れ線は通常歩行を示している。(3)において、左右歩幅比は数値表示されており、右側の最新データは50:50で対称性が満たされているとわかる。
【0102】
図9は、タイトルに「アドバイス」と表示された転倒リスク及びアドバイスの表示画面の例である。画面中段左側には転倒リスクが時系列的に表示され、画面中段右側には全力歩行時及び通常歩行時の歩行速度と歩幅とが四角形表示されている、四角形は、各値が大きいほど拡がるので、直感的な理解を容易にしている。画面下段には、転倒リスクに合わせて運動メニューを選択する際のアドバイスが表示されている。
【0103】
図10は、タイトルに「運動選択」と表示された運動メニュー提案の表示画面の例である。図10では、転倒リスクが「問題なし(元気)」と判定された場合の運動メニューが表示されている。各運動メニューは、運動目的ごとに複数提案され、図解と運動種目名称が表示されている。図示されるように、運動目的は体力向上と歩行動作改善とに大区分され、体力向上は柔軟性向上・下肢筋力強化・バランス機能向上・敏捷性向上に小区分され、歩行動作改善は踏み出し改善・歩行姿勢改善に小区分されている。合計6区分の運動目的に対して合計18種目の運動メニューが提案されている。被験者やリハビリ指導者は、この画面上で所望する運動メニューを選択することができる。
【0104】
図10の運動メニュー提案画面で運動メニューが選択されると、運動メニューの詳細を説明する別画面が開くようになっている。図11は、運動メニューの詳細を説明する別画面であり、体力向上のうちバランス機能を向上するための片足振りバランス運動が例示されている。この画面では、運動メニューの実施要領や注意事項が図解と文章とで表示される他、実施回数や実施時間も表示されて運動量の目安を知ることができる。
【0105】
また、図1や図2には略されている出力プリンタを用いることにより、図7〜図11の表示画面を用紙に印刷出力することができる。さらに、選択した運動メニューの実施計画書や記録用紙も印刷出力することができる。図12は、運動メニューの実施計画書と記録用紙とを兼ねた週間カレンダーの例である。このカレンダーには選択した運動メニューが記載されており、1週間分の実施内容を書き込むとともに、達成度を自己評価できるようになっている。また、週間カレンダーよりも長期の月間カレンダーも用意されている。被験者はこれらのカレンダーを印刷して持ち帰り、利用することができる。
【0106】
以上説明したように、実施例の歩行解析及び運動メニュー提案システム100によれば、歩行動作時の腰部加速度を測定するだけで、歩行速度や歩幅などの歩行能力の指標を精度よく推定することができる。加速度の測定は、簡易な設備を用いて容易な操作で短時間のうちに行うことができ、専門的な知識も必要とされない。したがって、被験者及び測定者の負担が小さい。
【0107】
さらに、本示実施例では、左右歩幅比を求めて、転倒リスクの判別や運動メニューの提案に活用することができて、実用性能が高められた。また左右歩幅比は、潜在的な疾病や損傷を見つけだすことや、左右の足の機能回復程度の比較評価にも有効である。
【0108】
なお、膝伸展力、背屈力を求めた後さらに被験者の現時点での歩行年齢を算出することもできる。具体的には、ROM26に、膝伸展力又は背屈力の強さと歩行年齢との関係式を予め記憶させておき、算出された膝伸展力、背屈力を関係に代入することにより、歩行年齢を算出することができる。求めた歩行年齢は、他の歩行能力の指標と同様に保存及び表示することができる。その他、本発明は様々な応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明の実施例の歩行解析及び運動メニュー提案システムを説明する機能ブロック図である。
【図2】図1の実施例のシステムの実態構成を説明するハードウェア構成図である。
【図3】歩行動作及び対応する加速度信号の時間変化波形を示す図である。
【図4】図1及び図2の実施例のシステムの動作、作用を説明するフローチャートの図である。
【図5】図1及び図2の実施例において、通常歩行形態での測定データを基にして転倒リスクを判別する一覧表である。
【図6】図1及び図2の実施例において、全力歩行形態での測定データを基にして転倒リスクを判別する一覧表である。
【図7】表示部で表示される歩行能力の表示画面の例である。
【図8】図7に表示された歩行能力の時系列変化のグラフを拡大したものであり、(1)は歩行速度、(2)は平均歩幅、(3)は左右歩幅及び左右歩幅比を示している。
【図9】表示部で表示される転倒リスク及びアドバイスの表示画面の例である。
【図10】表示部で表示される運動メニュー提案の表示画面の例である。
【図11】図10の表示画面から開かれる運動メニューの詳細を説明する別画面の例である。
【図12】出力プリンタにより印刷出力された、実施計画書と記録用紙とを兼ねた週間カレンダーの例である。
【符号の説明】
【0110】
100:歩行解析及び運動メニュー提案システム
1:歩行能力検出手段
2:転倒リスク判別手段
3:運動メニュー提案手段
4:告知手段
5:加速度測定手段
6:歩行能力推定手段
7:対称性検出手段
10:加速度計(加速度測定手段)
20:演算部 22:A/D変換器 24:CPU 26:ROM 28:RAM
30:時間計測部
40:表示部
50:記録部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の歩行動作を測定して歩行能力を求める歩行能力検出手段と、求めた前記歩行能力から前記被験者の転倒リスクを判別する転倒リスク判別手段と、前記歩行能力または前期転倒リスクに合わせた転倒予防及び運動機能向上のための運動メニューを提案する運動メニュー提案手段と、前記運動メニューを告知するとともに前記歩行能力及び前記転倒リスクの少なくとも一方を告知する告知手段と、を有する歩行解析及び運動メニュー提案システムであって、
前記歩行能力検出手段は、左右の足の歩行能力の比または対称程度を示す指標を求める対称性検出手段を含むことを特徴とする歩行解析及び運動メニュー提案システム。
【請求項2】
左右の足の歩行能力の比または対称程度を示す前記指標は、左足歩幅と右足歩幅との比を表す左右歩幅比である請求項1に記載の歩行解析及び運動メニュー提案システム。
【請求項3】
前記対称性検出手段が対象とする前記歩行動作は、所定距離の歩行動作のうち始めと終わりの各一定距離を除いた中間部分の歩行動作である請求項1または2に記載の歩行解析及び運動メニュー提案システム。
【請求項4】
前記対称性検出手段が対象とする前記歩行動作は、所定距離の歩行動作のうち始めと終わりの各一定歩数を除いた中間部分の歩行動作である請求項1または2に記載の歩行解析及び運動メニュー提案システム。
【請求項5】
前記左右歩幅比は、複数個の左足歩幅及び右足歩幅からそれぞれ求められた平均左足歩幅及び平均右足歩幅を用いて求められる、請求項3または4に記載の歩行解析及び運動メニュー提案システム。
【請求項6】
前記歩行動作は、前記被験者が通常の速度で歩行する通常歩行動作のみの1歩行形態、または前記被験者が全力で歩行する全力歩行動作及び前記通常歩行動作の2歩行形態である請求項1〜5のいずれか一項に記載の歩行解析及び運動メニュー提案システム。
【請求項7】
前記歩行能力検出手段は、前記被験者の腰部に取り付けて歩行動作中の加速度を測定する加速度測定手段と、測定された加速度を基に前記歩行能力を推定する歩行能力推定手段と、を有する請求項1〜6のいずれか一項に記載の歩行解析及び運動メニュー提案システム。
【請求項8】
前記歩行能力検出手段は、前記左右歩幅比に加えて、歩行速度、歩幅、歩調、膝伸展力、足首背屈力、の少なくとも一つを求める、膝伸展力、足首背屈力、歩行速度、歩幅、及び歩調の少なくとも一つを求める請求項2〜7のいずれか一項に記載の歩行解析及び運動メニュー提案システム。
【請求項9】
前記運動メニュー提案手段は、複数ある運動目的に対してそれぞれ前記運動メニューを保持し、求められた前記歩行能力または前記転倒リスクに合う前記運動メニューを選択して提案する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の歩行解析及び運動メニュー提案システム。
【請求項10】
前記運動メニュー提案手段は、対称性向上を前記運動目的とする対称性向上運動メニューを保持し、求められた前記左右歩幅比に合う前記対称性向上運動メニューを選択して提案する、請求項9に記載の歩行解析及び運動メニュー提案システム。
【請求項11】
前記告知手段は、前記歩行能力及び前記転倒リスクの少なくとも一方の時系列変化を告知する請求項1〜10のいずれか一項に記載の歩行解析及び運動メニュー提案システム。
【請求項12】
前記歩行能力検出手段、前記転倒リスク判別手段、前記運動メニュー提案手段、及び告知手段の相互間の一部または全てが、有線通信手段または無線通信手段により結合されている請求項1〜11のいずれか一項に記載の歩行解析及び運動メニュー提案システム。
【請求項1】
被験者の歩行動作を測定して歩行能力を求める歩行能力検出手段と、求めた前記歩行能力から前記被験者の転倒リスクを判別する転倒リスク判別手段と、前記歩行能力または前期転倒リスクに合わせた転倒予防及び運動機能向上のための運動メニューを提案する運動メニュー提案手段と、前記運動メニューを告知するとともに前記歩行能力及び前記転倒リスクの少なくとも一方を告知する告知手段と、を有する歩行解析及び運動メニュー提案システムであって、
前記歩行能力検出手段は、左右の足の歩行能力の比または対称程度を示す指標を求める対称性検出手段を含むことを特徴とする歩行解析及び運動メニュー提案システム。
【請求項2】
左右の足の歩行能力の比または対称程度を示す前記指標は、左足歩幅と右足歩幅との比を表す左右歩幅比である請求項1に記載の歩行解析及び運動メニュー提案システム。
【請求項3】
前記対称性検出手段が対象とする前記歩行動作は、所定距離の歩行動作のうち始めと終わりの各一定距離を除いた中間部分の歩行動作である請求項1または2に記載の歩行解析及び運動メニュー提案システム。
【請求項4】
前記対称性検出手段が対象とする前記歩行動作は、所定距離の歩行動作のうち始めと終わりの各一定歩数を除いた中間部分の歩行動作である請求項1または2に記載の歩行解析及び運動メニュー提案システム。
【請求項5】
前記左右歩幅比は、複数個の左足歩幅及び右足歩幅からそれぞれ求められた平均左足歩幅及び平均右足歩幅を用いて求められる、請求項3または4に記載の歩行解析及び運動メニュー提案システム。
【請求項6】
前記歩行動作は、前記被験者が通常の速度で歩行する通常歩行動作のみの1歩行形態、または前記被験者が全力で歩行する全力歩行動作及び前記通常歩行動作の2歩行形態である請求項1〜5のいずれか一項に記載の歩行解析及び運動メニュー提案システム。
【請求項7】
前記歩行能力検出手段は、前記被験者の腰部に取り付けて歩行動作中の加速度を測定する加速度測定手段と、測定された加速度を基に前記歩行能力を推定する歩行能力推定手段と、を有する請求項1〜6のいずれか一項に記載の歩行解析及び運動メニュー提案システム。
【請求項8】
前記歩行能力検出手段は、前記左右歩幅比に加えて、歩行速度、歩幅、歩調、膝伸展力、足首背屈力、の少なくとも一つを求める、膝伸展力、足首背屈力、歩行速度、歩幅、及び歩調の少なくとも一つを求める請求項2〜7のいずれか一項に記載の歩行解析及び運動メニュー提案システム。
【請求項9】
前記運動メニュー提案手段は、複数ある運動目的に対してそれぞれ前記運動メニューを保持し、求められた前記歩行能力または前記転倒リスクに合う前記運動メニューを選択して提案する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の歩行解析及び運動メニュー提案システム。
【請求項10】
前記運動メニュー提案手段は、対称性向上を前記運動目的とする対称性向上運動メニューを保持し、求められた前記左右歩幅比に合う前記対称性向上運動メニューを選択して提案する、請求項9に記載の歩行解析及び運動メニュー提案システム。
【請求項11】
前記告知手段は、前記歩行能力及び前記転倒リスクの少なくとも一方の時系列変化を告知する請求項1〜10のいずれか一項に記載の歩行解析及び運動メニュー提案システム。
【請求項12】
前記歩行能力検出手段、前記転倒リスク判別手段、前記運動メニュー提案手段、及び告知手段の相互間の一部または全てが、有線通信手段または無線通信手段により結合されている請求項1〜11のいずれか一項に記載の歩行解析及び運動メニュー提案システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−261595(P2009−261595A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−114435(P2008−114435)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】
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