説明

歪み計測用パターン

【課題】本発明は、試料を変えることなく、スケールレベルが異なる歪みを一貫して計測できる歪み計測手段を提供することを目的とする。
【解決手段】上記課題を解決するために、歪み計測用パターンは、歪み計測方法にて試料の歪みを可視化する為に試料表面に形成され、異なるスケールレベルの歪みに適合した複数のパターンを同一試料面に重ねて形成してあること、また、前記各パターンは、相互にその規則性、形状又は大きさが異ならせてあることを特徴とする手段を用いた。
また、前記歪み計測用パターンにおいて、モアレ法用のグリッドパターンと画像相関法用のドットパターンとが重ねられてなること、ミリスケール用パターンと、ナノスケール用パターンとにより構成されていることを特徴とする手段を採用した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の歪みを可視化して計測する為の歪み計測用パターンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機械や構造物に生ずる変位・歪みを測定する方法としては、一般的に電気抵抗歪みゲージ法が広く用いられ、被測定物に直接貼り付ける計測法として広範囲に使用されている。
この他に、ホログラフィ干渉法(粗面からの反射波面の振幅位相分布を記録して変形を測定する手法)、幾何学的モアレ法(モデル格子とマスター格子を重ね合わせることにより生じる濃淡の干渉縞を利用して変形を計測する手法)、モアレ干渉法(マスター格子の代わりにレーザーや電子線などを用いて生じる干渉縞を利用して変形を計測する手法)、レーザースペックル干渉法(試料表面にレーザービームを照射すると乱反射したビームの相互干渉により観察面上に生じるレーザースペックルの移動・変化より歪みを測定する手法)などの光学的測定法スペックル画像相関法(試料表面に作製したスペックル(ランダム)を2次元デジタル画像として取り込み、変形前後の画像を解析することにより変形を計測する手法)などの画像解析法など多くの計測手法が提案され、実施されている。
光学的測定法(画像解析法を含む)は非接触での計測が可能であることや2次元の面データとして全視野での計測が可能であることから歪みゲージ法とは異なる利点を有している。
これらの測定法は何れも対象とする測定領域に合わせてゲージの大きさを選択することが必要となるため、予め決められたスケールでの測定領域にしか適用することは出来ない。
ナノレベルからミリレベルの歪みを一貫して計測する手段は、存在せず、それ故に、スケールの異なる歪みの相関関係は、類推するしかなかった。
【0003】
具体的には、ナノテクノロジーによりナノ構造の新素材やナノ組織制御による新たな特性を発現する構造・機能材料の開発とともに実用化への応用研究も行われている。例えば、ナノ粒子やカーボンナノチューブをポリマーや金属中に複合化したナノ複合材料、異種材料を組み合わせたハイブリッド材料やナノ積層材料、金属組織の微細化によるナノ構造材料など、多種多様なナノ組織構造を持つ構造・機能材料が開発されている。このようなナノ組織構造を持つ材料組織の特徴として、複雑性、異方性、不均一性が認められることが多く、同時に多種多様の界面が存在している。このような複雑な組織構造を持つ材料に負荷が作用する場合、材料物性や組織構造に依存した局所的な不均一変形、複雑な界面での剥離や応力伝達能力の変化など、これらの変形挙動が相互的に作用しながらマクロ的な変形が進行するため、バルク材料の力学特性に重要な影響を及ぼすことになる。このため巨視的特性と局所領域で生じる現象との相互関係、組織構造との関連性などを定量的に計測・評価する手法が求められている。
これまで変形特性に関しては、ナノ〜マクロスケールまでそれぞれ異なるディメンジョンで計測・評価が行われて来た。例えば、ナノスケールにおける歪み計測手法に関しては、電子顕微鏡の回折法(非特許文献1)やナノモアレ法(非特許文献2)を用いた歪み解析法などが提案されているが、バルク材料などから切り出した微小試料を用いた局所歪みの計測であるため、試料採取の際に生じる応力開放や応力状態が異なる。また計測範囲が局所的であるため同一の試料を用いてマクロ変形を計測できない。同様にマクロスケールにおける歪み計測では歪みゲージ法などがあるが、その手法を使ってナノスケールでの変形を測定することは出来ない。従って、複雑なナノ構造を持つ材料に対して変形挙動のスケール相互作用を定量的に測定するのは従来の技術では困難であるとともに、マクロ歪みとの関連性を議論するには至っていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような実情に鑑み、試料を変えることなく、スケールレベルが異なる歪みを一貫して計測できる歪み計測手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明1の歪み計測用パターンは、歪み計測方法にて試料の歪みを可視化する為に試料表面に形成される歪み計測用パターンであって、異なるスケールレベルの歪みに適合した複数のパターンを同一試料面に重ねて形成してあることを特徴とする。
発明2は、発明1の歪み計測用パターンにおいて、前記各パターンは、相互にその規則性、形状又は大きさが異ならせてあることを特徴とする。
発明3は、発明2の歪み計測用パターンにおいて、モアレ法用のグリッドパターンと画像相関法用のドットパターンとが重ねられてなることを特徴とする。
発明4は、発明1から3のいずれかの歪み計測用パターンにおいて、ミリスケール用パターンと、ナノスケール用パターンとにより構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明は一本の試験片を用いて数十ナノ〜ミリメートル領域におけるマルチスケール歪み計測を行う手法とその測定用パターンを提供するものである。材料組織や構造をナノ〜ミリスケールで制御することにより目的とした力学・機能特性を発現することが可能となる。しかし、変形破壊挙動の局所特性とマクロ特性との関連性やマクロ特性に及ぼすナノ効果、またそれらを連結する界面効果などのスケール相互効果についてはこれまで異なるディメンジョンで評価されて来たため定量的に調べることは不可能であった。
本発明は、力学または熱的負荷が作用した場合の局所変形不均一性と巨視的変形特性との相互関連性や複雑な組織構造を持つ変形特性との関連性を調べるツールとして提供するものであり、ナノ粒子などを強化素材とするナノ複合材料、ナノ組織を制御したナノ構造材料、高分子/金属/セラミックスの異種材料組み合わせたハイブリッド材料、半導体デバイス材料など広範囲への応用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】試験片採取方法とマルチパターン形成位置
【図2】実施例1のマルチスケールパターンを示す写真 (a)グリッド+ランダムパターン、(b)(a)の中央四角の拡大写真
【図3】ナノスケールパターンニングの一例
【図4】電子線モアレ干渉法による引張り方向の観察例(a)変形前、(b)公称歪み6.5%、(c)公称歪み16.7%
【図5】電子線モアレ干渉法による直角方向の観察例(a)変形前、(b)公称歪み6.5%、(c)公称歪み16.7%
【図6】画像相関法を用いた引張り方向の変位分布(倍率:400)(a)公称歪み6.5%、(b)公称歪み16.7%
【図7】画像相関法を用いた直角方向の変位分布(倍率:400)(a)公称歪み6.5%、(b)公称歪み16.7%
【図8】画像相関法を用いた引張り方向の歪み分布(倍率:400)(a)公称歪み6.5%、(b)公称歪み16.7%
【図9】画像相関法を用いた引張り方向の変位分布(倍率:4000)(a)公称歪み6.5%、(b)公称歪み16.7%
【図10】画像相関法を用いた直角方向の変位分布(倍率:4000)(a)公称歪み6.5%、(b)公称歪み16.7%
【図11】画像相関法を用いた引張り方向の歪み分布(倍率:4000)(a)公称歪み6.5%、(b)公称歪み16.7%
【図12】画像相関法を用いた公称歪み6.5%におけるナノスケール変形(倍率:40000)(a) 変位分布、(b)歪み分布
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下の実施例では、複数のパターンからなる歪み計測用パターン(以下、これをマルチスケールパターンという。)の例として、モアレ法用のグリッドパターンと画像相関法用のランダムパターンとが重ねられてなる歪み計測用パターンを例示した。
当該、マルチスケールパターンを形成する材料としては、一般に、変形性・薄膜性が良いことから金を用いているが、従来周知のパターニング材料であればいずれも問題なく使用可能であり、試料の材質と計測条件に基づき、適切なものを選択するのが望ましい。
例えば、高温での変形特性を調べるためであればより高温で安定な白金を選択することも可能である。
【0009】
マルチスケールパターンの形成方法としては、異なるスケールを持つパターンを組み合わせることであり、同時に異なるスケール毎に計測出来ることを満足する作製方法である。パターン形成には従来用いられている各種方法を異なるスケールで組み合わせ各スケール毎に計測可能であれば問題なく使用可能であり、試料の材質や用いるパターン材料により選択するのが適切である。
例えば、下記実施例では、電子線を利用したナノメートル構造を持つランダムパターンと数十ミクロンメートル構造を持つグリッドパターン作製技術の異なるスケールの組み合わせた手法であり、電子線レジストの選択(例えばトクヤマTBER−1)とスピンコーターの回転数を選択することによる数十ナノメートルの薄膜を試料表面に形成することも可能であり、高分解能電子顕微鏡を用いてナノオーダーのグリッドおよびランダムパターンを形成することが原理的に可能となる。さらにナノパターンニングに関して、電子線を利用する以外に、スパッタ法、誘導自己組織配列を利用した方法、FIB加工による方法など、これら全てのパターンニング手法と電子線パターンニング手法を組み合わせることによりマルチスケールパターンニングを作製することが出来る。
パターンの種類は上記(グリッド、ランダム)の他に、規則的に並んだドットパターンとフラクタルパターン(特徴的なスケールを持たず自己相似性があるパターンであり自然界に存在する様々なパターンが相当する。)がある。マルチスケールパターンは同じパターンを用いる場合であっても、スケールが異なることとスケール毎に計測可能の条件が満足出来れば作製可能となる。フラクタルパターンをナノメートル分解能でミリメールの範囲に描画することが出来ればこのパターンを利用することが可能となる。
【0010】
本発明が適用できる試料としては、上記のようにしてマルチパターンが形成できる材料であればいずれも可能である。
例えば、金属、有機、無機の異種物質から構成される材料、特に弾性率や強度特性などの材料物性が未知の新規物質にも適用可能出来る。
組織構造は数十ナノからミリメートルの範囲であれば複雑構造、単純構造、異方性や不均一性構造などその構造によらずマルチスケールで変形計測を行うことが出来る。具体的には、構造材料、半導体材料、バイオ材料、高温材料、複合材料、機能材料などミリスケールのバルク体を形成する材料であれば適用可能となる。
【0011】
試料への負荷形式については、下記実施例に限らず、圧縮、せん断、曲げなど全ての負荷形式に対応出来る。さらに電界放射型電子顕微鏡の試料チャンバー内に負荷デバイスを導入することにより、負荷状態あるいは除荷状態で同じ場所を測定することが可能になるため、弾性変形〜塑性変形までの挙動をマルチスケールで計測出来ることを可能とする。
【0012】
本発明は、以下のようにすることで残留応力測定にも利用可能である。
例えば半導体デバイス分野においては、薄型化、小型化、軽量化、多機能化、ナノレベルでの構造の複雑化などに伴い発生する故障のモードもより複雑な要因が関係している。特に熱膨張係数の差に起因したストレスマイグレーション、ワイヤボンディングの劣化、使用過程に形成される複数の金属間化合物との熱膨張差に起因した局所不均一歪みによるき裂発生など残留応力の測定が大きな課題となっている。残留応力の測定はX線を利用して測定が可能であるが、局所応力測定やマルチスケールでの応力測定は出来ない。本発明のマルチスケールパターンを描画した例えば半導体デバイス材料を電界放射型電子顕微鏡の試料チャンバー内に導入した加熱ステージにセットし、試料を加熱した際に生じる不均一熱歪みを測定して、構成する材料の弾性定数から残留応力を求めることが出来る。
【0013】
本発明は、以下のようにすることで熱歪み不均一性の測定にも利用できる。
残留応力測定と同様に、異種物質から構成される複合材料、ハイブリッド材料、積層材料、また多結晶材料でも結晶方位によりその熱膨張係数が異なるため、外部から熱が与えられた場合には、それぞれ構成素材や構造の熱膨張差に起因した不均一熱歪みが発生する。この熱歪み分布をマルチスケールで測定することが出来る。 本発明は、1本の試験片(試料)を用いて同一場所におけるマルチスケール歪み計測を行うための測定法および測定用パターンを提供するものである。
実施例を以下に示す。数十ナノメール、ミクロンメール、ミリメールのそれぞれのスケールにおけるパターンの作製およびそれを用いてマルチスケール歪み計測を行ったものである。
【実施例1】
【0014】
本実施例は、マルチスケール変形測定用パターン作製の具体例を示す。
以下の積層鋼板(10)を試料とした。
オーステナイトステンレス鋼SUS304と高張力鋼WT780Cをそれぞれ交互に15層積層した層積鋼板(10)から、図1の点線で囲った箇所を切り出し、これを短冊状試験片(11)(長さ45mm幅3mm厚さ1mm)に加工し、表面を鏡面状に研磨した。各層の厚さは約0.7mmである。WT780C鋼は微細なナノメートル構造を持つマルテンサイト組織、SUS304鋼は平均粒径約30ミクロンのオーステナイト組織のミクロンメートル構造を持つ多結晶材料、ミリメートルの積層構造であり、ナノメートル〜ミリメートルのマルチスケール構造を持つ材料を試料とした。試験片採取方法とマルチパターン形成位置を図1に示した。
測定用試料表面にして、それに間隔10μmのグリッド(金)(1)と数百nm〜数μmドットのランダムパターン(金)(2)からなるマルチスケールパターン(P)を形成した。
変形挙動の測定および歪み解析は、前記グリッドを利用したモアレ法によりミリスケール解析を行い、数十ナノ〜ミクロンスケールの歪みは、前記ランダムパターンの画像解析により求めた。マルチスケールで変形量を測定するマイクログリッドは以下の手順で作製した。
【0015】
前記ミリスケールのマイクログリッド(1)の作製法
ミリスケールでのパターンを作製するために、試料表面に電子線レジスト(日本ゼオンZEP−520)をスピンコーターを用いて1500rpm、120秒間回転させて薄く塗布した。
次に、170℃にて60分間のベーキング処理を行い、パターンジェネレータを装備した走査型電子顕微鏡(トプコンSX−40A)を用いて倍率100倍、ビーム電流200pA、加速電圧20kV、ビームブランキングの数を1:9の条件にて、電子線を10μm間隔で約1mmの領域に直交格子状に照射し、専用現像液で電子線を照射した部分を取り除いた。
その後95℃において60分間のポストベーキングを行い、イオンコーター(エイコーエンジニアリングIB−5)を用いて厚さ40nmの金蒸着を行った。
最後にアセトンを用いて電子線レジストを剥離することにより1mmの領域に格子状グリッド(1)を作製した。
【0016】
前記数百nm〜数ミクロンのランダムパターン(2)の作製法
前記格子状グリッド(1)を形成した試料表面に、以下のようにしてランダムパターン(2)を形成した。
前記格子状グリッド(1)を作製した領域に、同一の電子線レジストを同一条件にて塗布しベーキングを行った。
次に、パターンジェネレータを搭載した電子線パターン描画装置(サンユー電子製)を用いて倍率100倍、ビーム電流600pA、加速電圧20kV、1ドットの露光時間10秒の条件にて、電子線スペックル(ランダム)パターンを照射した。
その後、前記格子状グリッド(1)と同様の条件にて現像・金蒸着・レジストの剥離を行うと図2(a)に示すような格子状グリットとランダムが同時に存在するパターンが完成する。
下記に示したマルチスケール変形の観察に用いる装置に示した電界放射型電子顕微鏡の反射電子画像の一例である。金の原子番号が鉄鋼材料の原子番号より大きいため作成グリッドが白めに観察され、格子状グリッドとランダムパターンが重なり合っている場所においても金蒸着の厚さによるコントラストが生じることになるため両者のパターンを明瞭に識別することが出来る。
【実施例2】
【0017】
前記数十ナノメートルのランダムパターンの作製法
本実施例は、前記数十ナノメートルのランダムパターン(2)の別の作製法を例示する。
イオンスパッタ用いる場合、イオンスパッタにより飛び出す金属のクラスターは数から数十nmの大きさがある。短時間でイオンスパッタすることによりナノオーダーのクラスターが独立した状態のランダムパターンを作製することができる。また電子線照射・現像部はレジストが試料表面の方が上部より露光現像されている場合が多く、イオンスパッタによる回り込みによる蒸着は開口部よりも少ないためナノパターンができる場合がある(図2(b)矢印)(図2(b)は前記実施例1の製法によるもの)。
その他、数十ナノメートル厚さで塗布した電子線レジスト上に金蒸着した場合、図3(a)に示すような数十nmの金粒子がランダムに分散した構造を作製することが出来る。また前記数百nm〜数ミクロンのランダムパターン(2)を作製する際、表面に残留した数十ナノメートル厚さの電子線レジストの薄膜上に金蒸着した場合には、前記ランダムパターン内に数十ナノメートルのランダムパターンを作製することが出来る。図3(b)は前記と同様の手法で作製したグリッドとランダムパターンを組み合わせた観察例であり、ランダムパターン内に数十ナノメートルの金クラスターのナノパターンを作製することが出来る(図3(c))。
【実施例3】
【0018】
前記実施例1にて形成したマルチパターンを持つ試料の観察に用いる装置の実施例を以下に示す。
一本の試験片を用いてナノ〜ミリスケールまでのマルチスケール変形不均一性およびスケール相互作用をその場観察および歪み計測で行うには、ナノ〜ミリスケールをカバーする観察装置が必要となる。ここでは電界放射型走査型電子顕微鏡(FEI−Quanta200:電界放射型の高分解能走査型電子顕微鏡である。直接的に高分解能の像を高精度で観察することができ,超微細形状の観察,付着物の検査,材質・不純物・欠陥等を高倍率で観察することができる。)を用いた。この電子顕微鏡の二次電子分解能は高真空時にて1.2nm(30KV使用時)以下、反射電子分解能は2.5nm(30KV使用時) 以下であり、観察倍率は原理的に15倍〜200万倍をカバーしている。
【実施例4】
【0019】
マルチスケール変形その場観察と歪み解析
電界放射型走査型電子顕微鏡の試料チャンバー内にマイクロ引張りデバイス(最大荷重:5KN)をセットし、実施例1の試料に引張り変形を与え、同一場所における反射電子画像をマルチスケールで観察し、それぞれビットマップ形式のデジタル画像としてコンピュータに取り込んだ。
【0020】
ミリスケールでの変位および歪み計測
前記デジタル画像を用いて、電子線モアレ法による電子線モアレ干渉縞の観察結果を図4および図5に示す。図4は引張り方向(上下方向)、図5は電子線を90度スキャンローテーションした場合の引張り方向と直角方向の干渉縞を示してある。倍率は65倍、全視野の画像解像度を512×442、それぞれ公称歪み(試験片の裏面に貼り付けた歪みゲージにより計測した巨視的歪み量)を(a)変形前、(b)6.5%、(c)16.7%と変化させた場合の観察例である。
引張り方向のモアレ干渉縞の観察例では(図4)、変形前では殆ど認められないのに対し、公称歪みの増加に伴い縞の本数が増えている。これは試験片に描画されたグリッド間隔が引張り変形により広がったために生じたものである。さらに縞の形状が部分的に波状となっており変形の不均一性が場所に依存することを示している。また縞の方向が変形の増加に従い全体的に右上がりになる傾向を示しているが、これはステンレス鋼と高張力鋼で変形挙動が異なることを示唆しているものと考えられる。モアレ縞間隔から幾何学的に算出した歪み量を図中に数値で示したが、高張力鋼の層がステンレス鋼の層に比べ引張り歪み量が大きい傾向を示していることが明らかとなった。
一方、図5に示した引張りに対して直角方向の変形挙動では、引張り方向と同様に縞の本数が公称歪みの増加に伴い増えているが、その本数は引張り方向に比べ少ないことが分かる。縞の形状についても同様に波状であり変形量が場所に依存した不均一変形挙動が認められている。全体的には中心より下側で縞の間隔が大きくなっており公称歪みの増加に伴ってその傾向が大きくなる。直角方向は圧縮側の変形となるため、図5(b)(c)中に示した歪み量はマイナスの数値で示してある。直角方向の歪み量は引張り歪み量の約1/2の値を示しており、鉄鋼材料の塑性変形時におけるポアソン比0.5とほぼ一致している。また高張力鋼の層がステンレス鋼の層に比べ圧縮歪み量も引張り方向と同様に大きくなっていることが明らかとなった。
【0021】
ミクロンスケールでの変位および歪み計測
図4および図5中の四角領域を拡大して変形量を測定した一例を図6〜図8に示す。観察倍率は400倍で行った。それぞれ(a)と(b)は公称歪み6.5%と16.7%与えた場合である。これらはマルチスケールパターンのランダムパターンを利用して変形前後の画像から画像相関法により解析して得られたものである。図6は引張り方向の変位分布を示したもので、モアレ干渉縞と同様の挙動(図4)を示すものであるが、モアレ法では得られない詳細な変形挙動が認められていることが分かる。変位量で色分けした領域は、モアレ干渉縞と同様の結果を示しているもので、(a)の公称歪み6.5%では変位量が約35μm(17.7〜53.1μmの範囲で変形)、(b)公称歪み16.7%では変形量が約97.4μmであり、公称歪みの増加とともに増えていることと、場所に依存した波状の変形不均一性が大きくなっていることが分かる。また図6(b)から明らかなように高張力鋼の層がステンレス鋼の層に比べ変形量が大きい傾向を示していることが分かる。これはモアレ干渉縞で観察した結果と同様の結果である。一方、直角方向の変位分布を図7示すが、同様に波状の分布から変形の不均一性がより顕著に認められている。変形量は公称歪み6.5%で約16μm、16.7%では48μmの圧縮方向の変位となり引張り方向のほぼ1/2の値を示している。全体的にはモアレ干渉縞で得られた結果と同様に、下側で変位分布の間隔が大きくなる傾向が認められ変形が上側に比べ少ないことが分かる。変位データを微分することにより得られる引張り方向の歪み分布を図8に示す。モアレ法で解析した歪み量より更に詳細な歪み分布が得られており、公称歪みの増加にともないその不均一性が更に大きくなることが分かる。
図9〜11は同様に図6の四角の領域をさらに拡大して変形を測定した一例である。観察倍率は4,000倍である。引張り方向およびポアソン方向ともに変形の不均一性が更に顕著に認められて来ることが分かる。図9(a)の公称歪み6.5%時の変形量は53.1μm、16.7%時では106μmとなり、400倍で観察した領域に比べ若干大き目の変位量を示している。直角方向は6.5%時で24μm、16.7%時では56μmの圧縮方向の変位で、同様に400倍での観察に比べ若干大きめの圧縮変位を示している。図11の引張り方向の歪み分布を見ると、マクロスケールでは得られない不均一歪み分布が顕著に認められていることが分かる。
【0022】
数十ナノスケールでの変位および歪み計測
図12は同様に図9(a)および図11(a)の四角領域をさらに拡大して変形および歪みを測定した一例である。観察倍率は40,000倍である。ここは数十nmの金粒子がランダムに分散したグリッド境界部分を解析したもので、引張り方向の変位量は280nmの範囲で不均一変形をしている。また同様に不均一な歪み分布が生じていることが分かる。数十ナノのランダムパターンを利用することによりナノ変位を計測することが出来ることを示している。
以上、ミリスケールから数十ナノスケールまでの変形挙動および歪み分布をマルチスケールグリッドを用いて計測出来ることを明らかにしたものである。
【符号の説明】
【0023】
(1)格子状グリッド
(2)ランダムパターン
(10)積層鋼板( 15層)
(11)短冊状試験片
(P)マルチスケールパターン
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】Journal of American Ceramic Society 88, 2277−2285, 2005
【非特許文献2】Measurement Science and Technology 16, 529-534, 2005

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歪み計測方法にて試料の歪みを可視化する為に試料表面に形成される歪み計測用パターンであって、異なるスケールレベルの歪みに適合した複数のパターンを同一試料面に重ねて形成してあることを特徴とする歪み計測用パターン。
【請求項2】
請求項1に記載の歪み計測用パターンにおいて、前記各パターンは、相互にその規則性、形状又は大きさが異ならせてあることを特徴とする歪み計測用パターン。
【請求項3】
請求項2に記載の歪み計測用パターンにおいて、モアレ法用のグリッドパターンと画像相関法用のドットパターンとが重ねられてなることを特徴とする歪み計測用パターン。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の歪み計測用パターンにおいて、ミリスケール用パターンと、ナノスケール用パターンとにより構成してあることを特徴とする歪み計測用パターン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−27526(P2011−27526A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173048(P2009−173048)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】