説明

歪測定装置

【課題】焼き付けを防止しつつ、広い測定範囲で歪を測定できる歪測定装置を提供すること。
【解決手段】測定対象物3の歪に応じて第二電極12bが第一電極12aの内側へ進退移動することによりこれらの電極(12a,12b)が形成するコンデンサの静電容量が変化するように構成され、第一絶縁支持体14aは、第一電極12aよりも第二電極12b側へ延出し、この延出部分に第一電極12aの内側空間に連通する貫通穴が設けられ、この貫通穴に第二電極12bが挿通されて案内されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歪測定装置の機械的構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば火力発電所における、ボイラやタービンあるいはそれらの配管など、熱影響を受けやすい金属溶接部などの余寿命を検査する方法の一つとして、歪測定法が知られている。この歪測定法は、測定対象物表面の歪から金属溶接部などの余寿命を検査するものであるが、これらの計測対象面が表面温度600℃以上の高温になるため、高温下での測定が可能な歪計が必要である。
【0003】
従来、このような高温下での歪測定は、例えば図1及び図2に示すような歪計1を用いて行われていた(非特許文献1参照)。以下、この歪計1の概要を説明する。
【0004】
図1は、歪計1の平面模式図であり、図2は、同歪計1の断面模式図である。これらの図に示すように、歪計1は、アーチ状に湾曲させた2枚の矩形金属板(5a,5b)を、隙間を隔てて重ね合わせた構造となっている。これら2枚の金属板(5a,5b)の間にはコンデンサを形成する1対の電極板(7a,7b)が対向配置されている。かかる構成によれば、測定対象物3表面が伸縮するのに応じて、電極板(7a,7b)の間の距離が変わるので、電極板(7a,7b)で構成されるコンデンサの静電容量が変化する。従って、このコンデンサの静電容量を検知することで測定対象物表面の歪を測定できる。
【非特許文献1】REMNANT LIFE MONITORING, APPLICATIONS REPORT, AUTOMATIC SYSTEMS LABORATORIES LTD; JULY 1972, Vol, 119, No7
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のように対向する電極板(7a,7b)の間隔変化を検出する構成は、測定可能なレンジ幅が小さいため、広い歪範囲に亘って歪を測定することができなかった。これに対して、広い範囲の歪を測定するべく、一方の電極を他方の電極に対して変位可能に案内し、測定対象面の歪に応じて電極が相対変位して両電極の対向面積が変わることにより、電極間の静電容量が変化する構成とすることが考えられる。この構成では、測定装置が高温下に置かれた場合に、電極を変位可能に案内する摺動部分に焼き付きが生ずるおそれがある。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、焼き付けを防止しつつ、広い測定範囲で歪を測定できる歪測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、筒状に構成された第一の電極と、該第一の電極の内側へ進退可能とされ、前記第一の電極と共にコンデンサを構成する第二の電極と、前記第一の電極を支持するセラミック製の第一の絶縁支持体と、前記第二の電極を支持する第二の絶縁支持体と、前記第一及び第二の絶縁支持体を測定対象物に夫々取付ける取付部材と、を備え、前記測定対象物の歪に応じて前記第二の電極が前記第一の電極の内側へ進退移動することにより前記コンデンサの静電容量が変化するように構成され、前記第一の絶縁支持体は、前記第一の電極よりも前記第二の電極側へ延出し、この延出部分に前記第一の電極の内側空間に連通する貫通穴が設けられ、この貫通穴に前記第二の電極が挿通されて案内されることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、セラミック製の第一の絶縁支持体が第二の電極を案内するように構成されているので、高温下で使用したときに絶縁支持体と第二の電極とが焼き付くのを防止できる。さらに、測定対象物表面の歪量に応じて第二の電極が第一の電極に対して第一の絶縁支持体で案内されながら進退する構造なので、第一の電極と第二の電極が重なっている長さまで測定できるため測定範囲を広くすることもできる。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、コイルと、このコイルの内側へ進退可能な金属体と、これらコイル及び金属体を夫々支持する絶縁支持体と、前記絶縁支持体を測定対象物に夫々取付ける取付部材と、を備え、前記金属体が前記コイルに対して進退移動することにより前記コイルの電気的特性が変化するように構成した歪測定装置であって、前記コイルを支持する第一の絶縁支持体は、前記コイルよりも前記金属体側へ延出し、この延出部分に前記コイルの内側空間に連通する貫通穴が設けられ、この貫通穴に前記金属体が挿通されて案内されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、焼き付けを防止しつつ、広い測定範囲で歪を測定できる歪測定装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施形態につき、添付図面を参照して詳細に説明する。本発明に係る歪測定装置は、例えば、火力発電所のボイラの溶接部分や各種蒸気管などのように、高温下に晒されて熱影響を受けやすい金属材料溶接部などの歪を測定するのに用いられる。まず、この歪測定装置の概略、及び測定原理を説明する。
【0012】
図3は、歪測定装置10の概略図である。同図に示すように、歪測定装置10は、筒状の第一電極12aと、この第一電極12aの中空部内に挿入される第二電極12bとを備えている。第一電極12aの内周面と第二電極12bの外周面との間には所定の間隔が設けられており、両電極(12a,12b)はコンデンサを形成している。電極(12a,12b)には静電容量測定回路15が接続され、この静電容量測定回路15により前記コンデンサの静電容量が測定される。そして、測定された静電容量から歪検出回路17により歪が求められ、表示装置18に表示される。電極(12a,12b)は、それぞれ絶縁支持体(14a,14b)に支持されて、取付部材16により測定対象物3の表面に固定されている。
【0013】
第一電極12aを支持するセラミック製の絶縁支持体14aは、第一電極12aよりも第二電極12b側へ延出している。この延出部分には、第一電極12aの内側空間に連通する貫通穴13が設けられ、この貫通穴13に第二電極12bが挿通されて案内される。
【0014】
以上の構成によれば、測定対象物3表面に歪が生じたときに、電極(12a,12b)の進退移動によって第一電極12aと第二電極12bの重なり長さが変化する。このため、電極(12a,12b)の対向面積が変化するので、これら電極(12a,12b)で構成される静電容量も変化する。従って、静電容量測定回路15で測定した静電容量から歪検出回路17により歪を求めることができる。
【0015】
また、第一電極12aを支持するセラミック製の第一絶縁支持体14aが第二電極12bの軸受けとなるように構成されているため、高温下で使用しても第二電極12bが焼き付けを起こすことがない。さらに、測定対象物表面の歪量に応じて第二電極12bが第一電極12aに対して第一絶縁支持体14aで案内されながら進退する構造なので、測定範囲を広くすることもできる。
【0016】
歪測定装置10により検出された歪データは、様々な態様で利用できる。例えば、表示装置18で画面に表示して担当者が目視で歪を読み取ることができるようにしてもよいし、或いは、歪データを無線あるいは有線の通信回線を介してサーバーに送信して自動的にコンピューターに入力、及び解析できるようにしてもよい。
【0017】
また、図4は第一電極12a、及び第二電極12bの位置関係を一定としたときの歪検出回路17の出力電圧の温度変化を示している。歪測定装置10は、同図のような温度特性があるので、これを補償するように補償回路(図示せず)を備えてもよい。
【0018】
次に、歪測定装置10を構成する材料について説明する。まず、電極(12a,12b)を構成する材料としては、高温下で使用しても酸化しない金属材料を用いる。なお、本明細書中で酸化しないとは、例えば500℃以上の高温度下でも金属内部まで酸化が進行しないことを意味する。
【0019】
電極(12a,12b)を高温下で酸化しない金属材料で構成すれば、高温度下で長時間使用しても電極(12a,12b)の性状変化が少なくなるので、酸化による電極表面の誘電率の変化による影響を受けにくくなり、従って、測定誤差を小さくすることができる。
【0020】
500℃以上の高温下で酸化しない金属材料としては、例えば、ニッケル基合金、クロム基合金、コバルト基合金や、Crを9%以上含有するSUH21,SUH409,SUH409L,SUH446,SUS405,SUS410L,SUS430,SUS430JIL,SUS436JIL,SUH1,SUH3,SUH4,SUH11,SUH600,SUH616,SUS403,SUS410,SUS410JI,SUS431,SUH31,SUH35,SUH36,SUH37,SUH38,SUH309,SUH310,SUH330,SUH660,SUH661,SUS302B,SUS304,SUS309S,SUS310S,SUS316,SUS316Ti,SUS317,SUS321,SUS347,SUSXM14JI,SUS630,SUS631などの耐熱鋼を挙げることができる。
【0021】
また、本実施形態に係る歪測定装置10は、電極(12a,12b)を支持する絶縁支持体14を構成する材料として、例えば純度90%以上のセラミックス材料を用いる。セラミックス材料の材質としては、例えばアルミナ、サファイアなどがある。
【0022】
このように、絶縁支持体14として純度の高いセラミックス材料を使用すれば、高温度下でも電極(12a,12b)と取付部材16との間の電気的絶縁を確保することができる。セラミックス材料の純度は、例えば90%以上であれば常温では十分な電気絶縁を実現できるが、温度500℃付近でも5MΩ程度の絶縁抵抗を実現できるよう、純度99%以上であることが好ましい。より好ましくは、純度99.7%以上であれば、例えば温度600℃付近でも40MΩ程度の絶縁抵抗を実現することができる。
【0023】
また、第一絶縁支持体14a、及びその中空部の形状については、第二電極12bを支持できればよく、特に限定されない。例えば、円筒状でもよく、角柱状でもよい。図5にその一例を示す。同図によれば、第一絶縁支持体14aの中空部側に設けた溝状のガイド部19と、第二電極12b側に設けた凸部とが嵌合するような形状を示しているが、第二電極12b側に設けた凸部と、第一絶縁支持体14aの中空部側に設けた溝状のガイド部19とが嵌合するようにしてもよい。このように、ガイド部19に沿って第二電極12bを挿入できるようにすれば、第二電極12bを安定的に案内することが可能である。
【0024】
また、ガイド部19は複数設けてもよい。ガイド部19の態様は、例えば図6から図8に断面図を示すように、様々な変形及び工夫が想定できる。このようにガイド部19を設ければ、測定対象物3が伸縮しても第一電極12aが軸受け内を移動しやすくなるので、第一電極12aが応力を受けて破断することがなくなる。さらに、第一電極12aが安定的に固定できるので、例えば振動が加わりやすい環境であっても精度の高い測定を行うことができる。
【0025】
表1は、絶縁支持体の高温特性を比較した結果を示す表である。表1によれば、アルミナ(材質記号A−479,純度99.5%)は、500℃程度の高温下における特性がよく、600℃における絶縁抵抗は5MΩであった。また、アルミナ(材質記号A−480S,純度99.7%)は、600℃程度の高温下においても特性がよく、40MΩの絶縁抵抗を示した。従って、高純度アルミナを絶縁材として使用すれば、高温でも歪測定が可能であることが明らかとなった。
【表1】

【0026】
図9は、本発明の別の実施形態であるコイル型歪測定装置100の断面図である。コイル型歪測定装置100は、コイル20と、このコイル20の内側へ進退可能な金属体22と、これらコイル20を支持する第一絶縁支持体24aと、金属体22を支持する第二絶縁支持体24bと、この絶縁支持体(24a,24b)を測定対象物3表面に固定する取付部材(26a,26b)とを備えて構成されている。そして、金属体22は第一絶縁支持体24aに設けられた貫通穴13に挿通されて、軸方向に変位可能に案内される。
【0027】
従って、測定対象物3表面に歪が発生すれば、それに応じて金属体22がコイル20の内側へ進退移動し、コイル20に生じるインダクタンスが変化する。すなわち、コイル型歪測定装置100は、この金属体22の進退移動により発生するコイル20の電気的特性変化に基づいて、測定対象物3の歪を測定することができる。
【0028】
以上の構成によれば、広範囲の歪を測定できるとともに、金属体22がセラミック製の第一絶縁支持体24aで案内されるので、上記第一実施形態と同様に高温下で使用した場合に焼き付きが起きるのを防止できる。また、第一絶縁支持体24aにガイド部を設ければ、金属体22がコイル20内側を移動しやすくなり応力を受けて破断することがなくなるとともに、金属体22を安定的に固定することができるので、精度の高い測定を行うことができるようになる。
【0029】
なお、上記実施形態では、本発明の歪測定装置が火力発電所のボイラの溶接部分や各種蒸気管の歪測定に適用される場合を例として説明したが、本発明はこれに限らず、例えば、自動車エンジンの振動測定にも適用が可能である。すなわち、自動車、特に高級乗用車ではエンジンの静寂性が重要な要素となるのであるが、エンジンが発する微振動を測定し、これと逆位相の変位を与えることにより微振動を打ち消して、エンジンの静寂性を向上できる。これまでは、非常に高温となるエンジンの振動変位を測定できる装置が存在しなかったため、このような機能を有する自動車は実現されていなかったが、本発明の歪測定装置により、エンジンの振動変位の測定が可能となり、上記機能を実現することが可能となる。また、エンジンの振動を打ち消すことで、ボルトナット類の緩みが抑えられるという効果も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】歪計の平面模式図である。
【図2】歪計の断面模式図である。
【図3】歪測定装置の概略図である。
【図4】歪測定装置の温度特性を示す図である。
【図5】支持部材の断面形状1を示す図である。
【図6】支持部材の断面形状2を示す図である。
【図7】支持部材の断面形状3を示す図である。
【図8】支持部材の断面形状4を示す図である。
【図9】コイル型歪測定装置の断面模式図である。
【符号の説明】
【0031】
1 歪計 3 測定対象物
5a,5b 金属板 7a,7b 電極板
10 歪測定装置 12a,12b 電極
13 貫通穴 14a,14b 絶縁支持体
15 静電容量測定回路 16 取付部材
17 歪検出回路 18 表示装置
19 ガイド部 20 コイル
22 金属体 24a,24b 絶縁支持体
26a,26b 取付部材 100 コイル型歪測定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状に構成された第一の電極と、
該第一の電極の内側へ進退可能とされ、前記第一の電極と共にコンデンサを構成する第二の電極と、
前記第一の電極を支持するセラミック製の第一の絶縁支持体と、
前記第二の電極を支持する第二の絶縁支持体と、
前記第一及び第二の絶縁支持体を測定対象物に夫々取付ける取付部材と、を備え、
前記測定対象物の歪に応じて前記第二の電極が前記第一の電極の内側へ進退移動することにより前記コンデンサの静電容量が変化するように構成され、
前記第一の絶縁支持体は、前記第一の電極よりも前記第二の電極側へ延出し、この延出部分に前記第一の電極の内側空間に連通する貫通穴が設けられ、この貫通穴に前記第二の電極が挿通されて案内されることを特徴とする歪測定装置。
【請求項2】
コイルと、このコイルの内側へ進退可能な金属体と、これらコイル及び金属体を夫々支持する絶縁支持体と、前記絶縁支持体を測定対象物に夫々取付ける取付部材と、を備え、
前記金属体が前記コイルに対して進退移動することにより前記コイルの電気的特性が変化するように構成した歪測定装置であって、
前記コイルを支持する絶縁支持体は、前記コイルよりも前記金属体側へ延出し、この延出部分に前記コイルの内側空間に連通する貫通穴が設けられ、この貫通穴に前記金属体が挿通されて案内されることを特徴とする歪測定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−315853(P2007−315853A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−144074(P2006−144074)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】