説明

歪補償回路及び歪補償方法

【課題】各動作点において非線形歪の逆歪特性と遅延歪の逆歪特性とを独立したパラメータとして設定でき、信号レベルを変化させても、最適な歪補償を行えるようにする。
【解決手段】動作点パラメータ算出部52及び53で、入力信号の電力値を基に、非線形歪及び遅延歪に対する動作点パラメータを独立して設定する。非線形逆歪特性発生部54及び遅延逆歪特性発生部55で、動作点パラメータ算出部52及び53からの動作点パラメータに応じて、非線形逆歪特性及び遅延逆歪特性を発生させ、補償係数算出部56で補償係数を算出させ、複素乗算器57で入力信号に複素乗算する。非線形歪及び遅延歪に対する動作点パラメータを独立して設定できるので、信号レベルが変化した場合でも、非線形歪と遅延歪とを最適に補償することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信回路の歪補償回路及び歪補償方法に関するもので、特に、プレディストータ方式の歪補償回路及び歪補償方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通信機等に用いられる増幅器の歪補償回路として、プレディストータ方式が知られている(例えば特許文献1、特許文献2)。プレディストータ方式は、予め与えられた増幅器の逆歪特性を入力信号に付与することにより、フィードバック制御を用いずに、増幅器出力における歪を改善するものである。
【0003】
図5は、プレディストータ方式を用いた送信回路の一例のブロック図である。図5において、Iチャネル及びQチャネルの入力信号は、FIRフィルタ511を介して、歪補償回路512に供給される。歪補償回路512には、予め、増幅器514の非線形歪をキャンセルするような逆歪特性が設定されている。歪補償回路512の出力信号は、直交変調回路513で直交変調された後、増幅器514で電力増幅される。増幅器514の出力信号は、バンドパスフィルタ515で帯域制限されて、アンテナ516から送信される。
【0004】
このようなプレディストータ方式では、歪補償回路512により増幅器514の非線形歪と逆特性の歪を予め入力信号に付加しておくことで、増幅器514の非線形歪を除去できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−113077号公報
【特許文献2】特開2004−200767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、図5に示したプレディストータ方式を用いた送信回路では、増幅器514の非線形特性による歪を除去するものである。しかしながら、送信回路で生じる歪には、増幅器514の非線形特性により生じる歪の他、主にバンドパスフィルタ515の群遅延特性による遅延歪がある。
【0007】
そこで、増幅器514の非線形歪とバンドパスフィルタ515の群遅延特性とを予め合成して歪補償回路512により補償することが考えられる。
【0008】
しかしながら、増幅器514の非線形特性により生じる歪は、信号レベルに依存して変化するのに対して、主にバンドパスフィルタ515の群遅延特性による遅延歪は、信号レベルの影響を大きく受けない。このため、増幅器514の非線形特性により生じる歪とバンドパスフィルタ515の群遅延特性による遅延歪とを歪補償回路512に設定し、プレディストータ方式で補償しようとすると、信号レベルを変化させたときに、歪補償が不完全になるような場合がある。
【0009】
例えばポイント・トゥー・ポイントのマイクロ波・ミリ波通信システムでは、大気の減衰量に応じて、出力電力を増減させて使用している。このように出力電力を増減させシステムの場合には、出力電力の増減したときに、歪補償が十分でなくなるというような問題が生じている。
【0010】
上述の課題を鑑み、本発明の目的は、各動作点において非線形歪の逆歪特性と遅延歪の逆歪特性とを独立したパラメータとして設定でき、信号レベルを変化させても、最適な歪補償を行える歪補償回路及び歪補償方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の課題を解決するために、本発明は、入力信号の電力値を計算する入力電力値計算手段と、入力電力値から非線形歪に対する動作点パラメータと遅延歪に対する動作点パラメータとを独立して求める動作点パラメータ算出手段と、動作点パラメータに基づいて、各動作点における非線形逆歪特性及び遅延逆歪特性を発生させる手段と、非線形逆歪特性及び遅延逆歪特性から補償係数を算出する手段と、入力信号に対して補償係数を複素乗算し、入力信号に対して非線形逆歪特性及び遅延逆歪特性を付加する手段とを備えることを特徴とする。
【0012】
本発明は、入力信号の電力値を計算する工程と、入力電力値から非線形歪に対する動作点パラメータと遅延歪に対する動作点パラメータとを独立して求める工程と、動作点パラメータに基づいて、各動作点における非線形逆歪特性及び遅延逆歪特性を発生させる工程と、非線形逆歪特性及び遅延逆歪特性から補償係数を算出する工程と、入力信号に対して補償係数を複素乗算し、入力信号に対して非線形逆歪特性及び遅延逆歪特性を付加する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、各動作点パラメータにおける非線形逆歪特性と遅延逆歪特性とをそれぞれ独立して求めて、入力信号に対して非線形逆歪特性及び遅延逆歪特性を付加することで、回路の非線形及び遅延歪を補償するようにしている。このため、増幅器の非線形特性により生じる非線形歪が補償できると共に、バンドパスフィルタの群遅延特性により生じる遅延歪が補償できる。また、信号レベルが変化した場合でも、非線形歪と遅延歪とを最適に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態の送信回路の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第2の実施形態を示すブロック図である。
【図3】本発明の第3の実施形態を示すブロック図である。
【図4】本発明の第4の実施形態を示すブロック図である。
【図5】プレディストータ方式を用いた送信回路の一例のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態の送信回路の構成を示すブロック図である。図1において、Iチャネル及びQチャネルの入力信号は、FIR(Finite Impulse Responce)フィルタ11を介して、歪補償回路12に供給される。歪補償回路12は、予め計測された回路の非線形歪及び遅延歪から、各動作点パラメータにおける非線形逆歪特性と遅延逆歪特性とをそれぞれ独立して求めて入力信号に付加することで、回路の非線形及び遅延歪を補償するものである。
【0016】
歪補償回路12で処理された信号は、直交変調器13により直交変調された後、増幅器14で電力増幅される。増幅器14の出力信号は、バンドパスフィルタ15により帯域制限され、アンテナ16から出力される。
【0017】
図1に示すように、歪補償回路12は、入力電力値計算部51と、動作点パラメータ算出部52及び53と、非線形逆歪特性発生部54と、遅延逆歪特性発生部55と、補償係数算出部56と、複素乗算器57とを有している。
【0018】
入力電力値計算部51は、Iチャネル及びQチャネルの入力信号から、入力信号の電力値を計算する。すなわち、Iチャネルの入力信号レベルをA、Qチャネルの入力信号レベルをjBとすると、入力信号の電力値は、(A+B)により算出できる。
【0019】
動作点パラメータ算出部52及び53は、入力電力値計算部51で計算された入力信号の電力値から、非線形歪及び遅延歪に対する動作点パラメータを独立して設定する。この実施形態では、非線形歪及び遅延歪に対する動作点パラメータを独立して設定できるように、非線形逆歪特性発生部54に対する動作点パラメータ算出部52と、遅延逆歪特性発生部55に対する動作点パラメータ算出部53とが別々に設けられている。
【0020】
非線形逆歪特性発生部54には、予め測定して得られた非線形逆歪特性が設けられており、非線形逆歪特性発生部54は、動作点パラメータ算出部52からの動作点パラメータに応じて、非線形逆歪特性を発生する。
【0021】
遅延逆歪特性発生部55には、予め測定して得られた遅延逆歪特性が設けられている。遅延逆歪特性発生部55は、動作点パラメータ算出部53からの動作点パラメータに応じて、遅延逆歪特性を発生する。
【0022】
補償係数算出部56は、非線形逆歪特性発生部54からの非線形逆歪特性と、遅延逆歪特性発生部55からの遅延逆歪特性とから、非線形及び遅延歪を補償するための補償係数を算出し、複素乗算器57に設定する。
【0023】
複素乗算器57は、Iチャネル及びQチャネルの入力信号に対して、補償係数算出部56からの補償係数を複素乗算し、入力信号に対して非線形逆歪特性及び遅延逆歪特性を与える。
【0024】
歪補償回路12では、以下のようにして、非線形歪を補償することができる。
【0025】
Iチャネルの信号をA、Qチャネルの信号をBとすると、入力信号は、(A+jB)と表現できる。ここで、増幅器14のゲインをGとすると、出力信号Pは、
P=G(A+jB) (1)
となる。
【0026】
非線形特性による非線形歪成分をΔgとして、(1)式を表すと、
P=G・Δg(A+jB) (2)
【0027】
このことから、Δgをキャンセルするような成分を入力信号に与えておけば、非線形歪を除去できる。すなわち、非線形特性による非線形歪成分Δg予め測定しておき、入力信号レベルに対して、(1/Δg)なる成分を乗算しておく。
(A+jB)・(1/Δg) (3)
この信号を、非線形特性を含む増幅器14で増幅すると、
P=G・Δg・(A+jB)・(1/Δg) (4)
となり、非線形成分Δgが除去できる。
【0028】
非線形逆歪特性発生部54には、増幅器14等の非線形特性を予め測定して得られた非線形逆歪特性が設けられている。これにより、非線形歪を補償することができる。
【0029】
また、歪補償回路12において、回路の遅延歪は、以下のようにして補償することができる。
【0030】
Iチャネルの信号をA、Qチャネルの信号をBとすると、入力信号は、(A+jB)と表現できる。ここで、位相θは、
θ=B/A (5)
となる。このことから、Iチャネルと、Qチャネルに対する重みを変化させることで、位相が変わり、遅延成分を補償できる。
【0031】
すなわち、Iチャネルに対するゲインをg、Qチャネルに対するゲインをgとすると、
・A+jg・B (6)
となり、gとgとの比(g:g)により位相が変わる。
【0032】
そこで、バンドパスフィルタ15等の群遅延量を予め求めておき、この群遅延成分をキャンセルするように、ゲインgとgの比を変化させれば、バンドパスフィルタ15の群遅延特性により生じる遅延歪を補償することができる。遅延逆歪特性発生部55には、バンドパスフィルタ15等の群遅延特性を予め測定して得られた遅延逆歪特性が設けられている。これにより、遅延歪を補償することができる。
【0033】
このように、本発明の第1の実施形態においては、非線形逆歪特性発生部54に対する動作点パラメータ算出部52と、遅延逆歪特性発生部55に対する動作点パラメータ算出部53とが別々に設けられており、非線形歪及び遅延歪に対する動作点パラメータを独立して設定できる。非線形歪は主に増幅器14等の非線形特性により生じるものであり、信号レベルに依存して変化する。これに対して、遅延歪は主にバンドパスフィルタ15等の群遅延特性によるものであるから、信号レベルの影響を殆ど受けない。このため、信号レベルを変化させたときに、非線形歪に対する特性と遅延歪に対する特性が同様に変化してしまうと、歪補償が不完全になる。そこで、本発明の第1の実施形態においては、非線形歪及び遅延歪に対する動作点パラメータを独立して設定できるようにしている。このため、信号レベルが変化した場合でも、非線形歪と遅延歪とを最適に補償することができる。
【0034】
<第2の実施形態>
図2は、本発明の第2の実施形態を示すブロック図である。図2において、FIRフィルタ111、歪補償回路112、直交変調器113、増幅器114、バンドパスフィルタ115は、図1におけるFIRフィルタ11、歪補償回路12、直交変調器13、増幅器14、バンドパスフィルタ15と同様である。
【0035】
また、図2において、歪補償回路112を構成する入力電力値計算部151、動作点パラメータ算出部152及び153、非線形逆歪特性発生部154、遅延逆歪特性発生部155、補償係数算出部156、複素乗算器157は、図1における歪補償回路12を構成する入力電力値計算部51、動作点パラメータ算出部52及び53、非線形逆歪特性発生部54、遅延逆歪特性発生部55、補償係数算出部56、複素乗算器57と対応している。
【0036】
本発明の第2の実施形態では、非線形逆歪特性発生部154に対する動作点パラメータ算出部152に対して、増幅器出力電力設定情報が入力されている。そして、動作点パラメータ算出部152は、入力電力値計算部51で計算された入力電力値と、増幅器出力電力設定情報とから、非線形逆歪特性発生部54に対する動作パラメータを設定している。
【0037】
なお、非線形歪は、主に増幅器14等の非線形特性により生じるものであるから、出力信号レベルに依存して変化するのに対して、遅延歪は、主にバンドパスフィルタ15等の群遅延特性によるものであるから、入力信号レベルの影響を大きく受けない。このため、この実施形態では、非線形逆歪特性発生部154に対する動作点パラメータ算出部152に対してのみ、増幅器出力電力設定情報が入力されている。これにより、出力電力が変化した場合でも、非線形歪と遅延歪とを最適に設定することができる。
【0038】
<第3の実施形態>
図3は、本発明の第3の実施形態を示すブロック図である。図3において、FIRフィルタ211、歪補償回路212、直交変調器213、増幅器214、バンドパスフィルタ215は、図1におけるFIRフィルタ11、歪補償回路12、直交変調器13、増幅器14、バンドパスフィルタ15と同様である。
【0039】
また、図3において、歪補償回路212を構成する入力電力値計算部251、動作点パラメータ算出部252及び253、複素乗算器257は、図1における歪補償回路12を構成する入力電力値計算部51、動作点パラメータ算出部52及び53、複素乗算器57と対応している。
【0040】
図1に示した第1の実施形態では、非線形逆歪特性発生部54で非線形逆遅延特性を発生させ、遅延逆歪特性発生部55で遅延逆歪特性を発生させ、補償係数算出部56で、非線形逆遅延特性及び遅延逆歪特性を合成して、複素乗算器57に供給する係数を求めている。これに対して、この実施形態では、非線形逆遅延特性及び遅延逆歪特性を発生させ、非線形逆遅延特性及び遅延逆歪特性を合成して、複素乗算器57に供給する係数を求める処理を、1つの補償係数算出部258で行うようにしている。
【0041】
この第3の実施形態の場合にも、非線形歪に対する動作点パラメータ算出部252と、遅延歪に対する動作点パラメータ算出部253とが別々に設けられており、非線形逆歪特性に対する動作点パラメータと、遅延逆歪特性に対する動作点パラメータとを独立して発生できる。
【0042】
<第4の実施形態>
図4は、本発明の第4の実施形態を示すブロック図である。図4において、FIRフィルタ311、歪補償回路312、直交変調器313、増幅器314、バンドパスフィルタ315は、図3におけるFIRフィルタ211、歪補償回路212、直交変調器213、増幅器214、バンドパスフィルタ215と同様である。
【0043】
また、図4において、歪補償回路312を構成する入力電力値計算部351、動作点パラメータ算出部352及び353、複素乗算器357、補償係数算出部358は、図3における歪補償回路212を構成する入力電力値計算部251、動作点パラメータ算出部252及び253、複素乗算器257、補償係数算出部258と対応している。
【0044】
本発明の第4の実施形態では、非線形逆歪特性に対する動作点パラメータ算出部352に対して、増幅器出力電力設定情報が入力されている。そして、動作点パラメータ算出部352は、入力電力値計算部351で計算された入力電力値と、増幅器出力電力設定情報とから、非線形特性逆歪特性に対する動作パラメータを設定している。
【0045】
以上説明したように、本発明の実施の形態では、非線形歪に対する動作点パラメータと遅延歪に対する動作点パラメータとを独立して求めることができる。このため、信号レベルが変化した場合でも、非線形歪と遅延歪とを最適に補償することができる。
【0046】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【符号の説明】
【0047】
11,111,211,311:FIRフィルタ
12,112,212,312:歪補償回路
13,113,213,313:直交変調器
14,114,214,314:増幅器
15,115,215,315:バンドパスフィルタ
16,116,216,316:アンテナ
51,151,251,351:入力電力値計算部
52,152,252,352:動作点パラメータ算出部
53,153,253,353:動作点パラメータ算出部
54,154:非線形逆歪特性発生部
55,155:遅延逆歪特性発生部
56,156:補償係数算出部
57,157,257,357:複素乗算器
258,358:補償係数算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号の電力値を計算する入力電力値計算手段と、
前記入力電力値から非線形歪に対する動作点パラメータと遅延歪に対する動作点パラメータとを独立して求める動作点パラメータ算出手段と、
前記動作点パラメータに基づいて、各動作点における非線形逆歪特性及び遅延逆歪特性を発生させる手段と、
前記非線形逆歪特性及び前記遅延逆歪特性から補償係数を算出する手段と、
前記入力信号に対して前記補償係数を複素乗算し、前記入力信号に対して前記非線形逆歪特性及び前記遅延逆歪特性を付加する手段と
を備えることを特徴とする歪補償回路。
【請求項2】
前記非線形歪に対する動作点パラメータは、さらに、出力電力設定値に基づいて設定することを特徴とする請求項1に記載の歪補償回路。
【請求項3】
前記非線形逆歪特性の発生と、前記遅延逆歪特性の発生と、前記補償係数の算出とを1つの演算手段で構成するようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の歪補償回路。
【請求項4】
入力信号の電力値を計算する工程と、
前記入力電力値から非線形歪に対する動作点パラメータと遅延歪に対する動作点パラメータとを独立して求める工程と、
前記動作点パラメータに基づいて、各動作点における非線形逆歪特性及び遅延逆歪特性を発生させる工程と、
前記非線形逆歪特性及び前記遅延逆歪特性から補償係数を算出する工程と、
前記入力信号に対して前記補償係数を複素乗算し、前記入力信号に対して前記非線形逆歪特性及び前記遅延逆歪特性を付加する工程と
を含むことを特徴とする歪補償方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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