説明

歯の製造方法及びこれにより得られた歯

【課題】羊膜の新しい用途を提供すると共に、特有の細胞配置を保持した歯を製造する歯を提供する。
【解決手段】支持担体の内部に、羊膜由来間葉系細胞及び上皮系細胞のいずれか一方のみから実質的になる第1の細胞集合体と、いずれか他方のみから実質的になる第2の細胞集合体とを混合することなく密着させて配置すること、前記第1及び第2の細胞集合体を前記支持担体の内部で培養すること、により歯を製造する。また、ここで、前記上皮系細胞が歯胚由来であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯の製造方法及びこれにより得られた歯に関する。
【背景技術】
【0002】
歯は、最外層にエナメル質、その内層に象牙質という硬組織を有し、さらにその内側に象牙質を産生する象牙芽細胞、中心部に歯髄を有する器官である。また、歯は齲蝕や歯周病等によって失われることがあり、歯の有無は外見や食べ物の味覚に大きく影響し、また健康維持や質の高い生活を維持するという観点から歯の再生技術が種々開発されている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、歯胚から単離された上皮系細胞や間葉系の歯嚢細胞などの細胞を、生体吸収性の担体と共にラットの腹腔内に移植することで歯様の組織が再生されることが開示されている。
歯胚の再生方法としては、例えば、特許文献1には、歯胚細胞を、線維芽細胞増殖因子等の生理活性物質の存在下で培養することが記載されている。また、特許文献2には、歯胚細胞及びこれらの細胞に分化可能な細胞のうち少なくとも1種類を、フィブリンを含む担体と一緒に培養することが提案されており、ここでフィブリンを含む担体は、歯胚の目的形状のものを使用して、特有の形態を有する「歯」を形成すると記載されている。
【0004】
一方、再生医療の観点から、これまで廃棄されていた生体試料の再利用が注目されている。特に、疾患等によって切り取られる組織とは異なり、出産時に廃棄対象となっている臍帯や羊膜等の組織は、幹細胞の存在や細胞の分化に関与可能な器官として注目されている。
そのうち、羊膜に着目した技術としては、例えば特許文献3には、羊膜由来の上皮細胞や間質細胞を未分化のまま大量に増殖させる技術が開示されている。この方法によって増殖した細胞は、未分化の胚性幹細胞に類似した多分化能を有するために、再生医療等に有用である旨が記載されている。
また、特許文献4には、ヒト羊膜間葉細胞層及びヒト羊膜上皮細胞層からサイドポピュレ−ション細胞を、幹細胞として分離したことが記載されている。この細胞が少なくとも神経細胞に分化可能であり、神経細胞により生産される物質の供給源として有用であることが記載されている。
【非特許文献1】J. Dent. Res., 2002, Vol.81(10), pp.695-700
【特許文献1】特開2004−331557号公報
【特許文献2】特開2004−357567号公報
【特許文献3】特開2006−6249号公報
【特許文献4】特開2004−253682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、再生された歯又は歯胚が組織として機能するには、組織を構成する複数種の細胞が適切な相対位置に配置(細胞配置)されていることが必須である。単に羊膜を用いても、組織として有効な歯を提供することは困難である。
【0006】
従って本発明は、羊膜の新しい用途を提供すると共に、特有の細胞配置を保持した歯を製造する歯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の歯の製造方法は、支持担体の内部に、羊膜由来間葉系細胞及び上皮系細胞のいずれか一方のみから実質的になる第1の細胞集合体と、いずれか他方のみから実質的になる第2の細胞集合体とを混合することなく密着させて配置すること、前記第1及び第2の細胞集合体を前記支持担体の内部で培養すること、含むものである。
ここで、前記上皮系細胞が歯胚由来であることが好ましい。
また、前記培養を、歯周組織が形成されるまで継続することが好ましい。
本発明の歯は、上記製造方法によって得られたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、羊膜の新しい用途を提供することができると共に、特有の細胞配置を保持した歯を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の歯の製造方法は、支持担体の内部に、羊膜由来間葉系細胞及び上皮系細胞のいずれか一方のみから実質的になる第1の細胞集合体と、いずれか他方のみから実質的になる第2の細胞集合体とを混合することなく密着させて配置すること(以下、配置工程という)、前記第1及び第2の細胞集合体を前記支持担体の内部で培養すること(以下、培養工程という)、含むものである。
本製造方法では、羊膜由来間葉系細胞と上皮系細胞とからそれぞれ形成された細胞集合体を、混合することなく密着させて支持担体の内部に配置し培養するので、緊密な接触状態によって細胞間相互作用を効果的に再現することができ、内側に象牙質、外側にエナメル質という歯に特有の細胞配置を効果的に再現し、組織としての歯を形成することができる。
また、歯を製造するための材料として、これまで廃棄されることが多かった羊膜、特に羊膜由来の間葉系細胞を用いることによって、歯の材料の候補を新たに創出することができ、一方、羊膜の新しい利用形態を提供することができる。
【0010】
本発明において、「歯」とは、内側に象牙質及び外側にエナメル質の層を連続して備えた組織をいい、歯冠や歯根を有する方向性を備えた組織であることが好ましい。歯の方向性は、歯冠や歯根の配置によって特定することができる。歯冠や歯根は、形状や組織染色などに基づいて目視にて確認することができる。歯冠とは、エナメル質と象牙質の層構造を有する部分をいい、歯根にはエナメル質の層は存在しない。
象牙質及びエナメル質は、当業者には、組織染色などによって形態的に容易に特定することができる。また、エナメル質は、エナメル芽細胞の存在によって特定することができ、エナメル芽細胞の存在は、アメロジェニンの有無によって確認することができる。一方、象牙質は、象牙芽細胞の存在によって特定することができ、象牙芽細胞の存在は、デンチンシアロプロテインの有無によって確認することができる。アメロジェニン及びデンチンシアロプロテインの確認はこの分野で周知の方法によって容易に実施することができ、例えば、in situ ハイブリダイゼーション、抗体染色等をあげることができる。
また、歯の方向性は、歯冠や歯根の配置によって特定することができる。歯冠や歯根は、形状や組織染色などに基づいて目視にて確認することができる。
【0011】
本発明において「歯胚」及び「歯芽」は、後述する発生段階に基づいて区別されたものに特に言及する場合に用いられる表現である。この場合の「歯胚」とは、将来歯になることが決定付けられた歯の初期胚であり、歯の発生ステージで一般的に用いられる蕾状期(Bud stage)から鐘状期(Bell stage)までの段階であり、特に歯の硬組織としての特徴である象牙質、エナメル質の蓄積が認められない組織である。一方、「歯芽」とは本発明で用いられる「歯胚」の段階移行の、歯の硬組織の特徴である象牙質、エナメル質の蓄積が始まった段階から歯が歯肉から萌芽して一般的に歯としての機能を発現する前の段階の組織をいう。
【0012】
歯胚から歯への発生は、蕾状期、帽状期、鐘状前期及び後期の各ステージを経て行われる。ここで、蕾状期では、上皮系細胞が間葉系細胞を包むように陥入し、鐘状前期及び鐘状後期に至ると、上皮系細胞部分が外側のエナメル質となり、間葉系細胞部分が内部に象牙質を形成するようになる。従って、上皮系細胞と間葉系細胞との細胞間相互作用によって歯胚から歯が形成される。
なお本発明において「間葉系細胞」とは、間葉組織由来の細胞を意味し、「上皮系細胞」とは上皮組織由来の細胞を意味する。
また本発明において「歯周組織」とは、歯の主として外層の形成された歯槽骨及び歯根膜をいう。歯槽骨及び歯根膜は、当業者には、組織染色などによって形態的に容易に特定することができる。
【0013】
以下、本発明の歯の製造方法について説明する。
本発明の歯の製造方法における配置工程では、支持担体の内部に、第1の細胞集合体と第2の細胞集合体とを接触させて配置する。
ここで第1の細胞集合体及び第2の細胞集合体は、それぞれ間葉系細胞のみ、又は上皮系細胞のみから実質的に構成されているものである。ここで、間葉系細胞のみから実質的に構成されている細胞集合体は、上述した歯形成用間葉系細胞を含むものである。この歯形成用間葉系細胞を含む細胞集合体は、上述した製造方法に従った調製工程によって調製することができ、一方、上皮系細胞のみから実質的に構成されている細胞集合体は、間葉系細胞から実質的になる細胞集合体とは独立して調製することができる(第1の細胞調製工程及び第2の細胞調製工程)。
【0014】
また、「細胞集合体」とは、細胞が密集した状態をいい、組織の状態であっても、単一細胞の状態であってもよい。また「実質的になる」とは、対象となる細胞以外のものをできるだけ含まないことを意味する。本発明においては、羊膜間葉系細胞から実質的になる細胞集合体は単一細胞で構成されているのに対して、上皮系細胞から実質的になる細胞集合体は、組織の一部又は単一細胞の集合体とすることができる。上皮系細胞及び間葉系細胞は共に単一細胞で構成された細胞集合体であることが、培養後に複数の歯を同時に形成可能となるため、好ましい。
第1の細胞集合体第2の細胞集合体は、いずれが上皮系細胞及び間葉系細胞であってもよく、この細胞集合体を構成する細胞の数は、動物の種類や、支持担体の種類、硬さ及び大きさによって異なるが、細胞集合体1個あたり、一般に10〜10個、好ましくは10〜10個とすることができる。
【0015】
本発明に用いられる間葉系細胞は羊膜由来間葉系細胞である。羊膜は、胎盤の一部を構成すると共に子宮内で胎児を包む器官であり、これは通常、分娩時に排泄物として廃棄されている。本発明では、羊膜であればその入手経路は特に制限されないが、分娩時の廃棄物としての羊膜を利用するものであることが好ましい。
羊膜は、羊膜上皮細胞層と、羊膜基底膜層と、これらの層よりも厚い羊膜緻密層の三層で構成されている。本発明における羊膜由来間葉系細胞は、このうちの羊膜緻密層に由来する間葉系細胞であればよい。
羊膜由来間葉系細胞は、羊膜組織全体から羊膜由来間葉系細胞を、表面抗原パターン等を用いて個別に選択してもよいが、羊膜上皮細胞層と分離した後の羊膜緻密層から調製することが、他の細胞の混入を少なくすることができるため好ましい。
【0016】
羊膜緻密層の他の細胞層からの分離は、ハサミ等を用いて膜の厚みや形態に基づいて他の細胞層から物理的に分離したものであってもよく、酵素処理を用いて化学的に上皮細胞層又は基底膜層等から分離したものであってもよい。緻密層を得るために用いられる酵素としては、上皮細胞層を分離することができるものであればよく、上皮細胞層を分離するためのトリプシンや基底膜層を溶解するためのディスパーゼ等を好ましく用いることができる。これらの酵素は、単独で又は複数組み合わせて使用してもよい。これらの酵素処理によって上皮細胞層及び基底膜層を除去した後に得られる細胞層を羊膜緻密層とすることができる。
【0017】
酵素処理のための処理温度や処理時間は、また場合により採用される遠心分離や攪拌の条件は、使用する酵素の酵素活性に基づいて適宜設定可能であり、当業者であれば容易に実施することができる。これらの酵素処理は、組織の状態に応じて繰り返し行ったり、複数種の酵素を組み合わせて行ってもよい。酵素処理を用いた処理としては、公知文献、例えばJ. Neurosci. Res. 78, 208-214, 2004等を参照することができる。
【0018】
羊膜間葉系細胞を羊膜緻密層として得た場合には、羊膜緻密層を、酵素処理や攪拌等を用いて、更に単一細胞にするができる。羊膜緻密層を単一細胞にするために使用可能な酵素としては、コラーゲナーゼやディスパーゼ、パパインなどの酵素を挙げることができる。これらの酵素は、単独で又は複数組み合わせて使用してもよい。これらの酵素の濃度や処理条件は、当業者であれば容易に適宜設定可能である。
【0019】
また間葉系細胞から実質的になる細胞集団は、羊膜由来間葉系細胞を含んでいれば他の間葉系細胞を含んでいてもよい。
上記間葉系細胞以外の他の間葉系細胞としては、歯胚及び歯胚以外に由来する間葉系細胞を挙げることができる。歯胚以外に由来する間葉系細胞としては、生体内の他の間葉系組織に由来する細胞であり、好ましくは、血液細胞を含まない骨髄細胞や間葉系幹細胞、さらに好ましくは口腔内間葉系細胞や顎骨の内部の骨髄細胞、頭部神経堤細胞に由来する間葉系細胞、前記間葉系細胞を生み出しうる間葉系前駆細胞やその幹細胞等を挙げることができる。
間葉系細胞として羊膜以外に由来する間葉系細胞を用いる場合には、組み合わせる他の間葉系細胞の由来や歯形成能によって異なるが、目的とする細胞配置を有した歯を確実に得るため、羊膜由来間葉系細胞を少なくとも50重量%以上とすることが好ましく、約75質量%以上がより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。50質量%以上であれば、他の組織由来の間葉系細胞の歯形成能の大きさに関係なく、目的とする歯を確実に得ることができるため、好ましい。
【0020】
本製造方法で用いられる上皮系細胞は、生体内での細胞配置を再現して特有の構造及び方向性を有する歯を効果的に形成するために歯胚に由来するものであることが好ましく、細胞の分化段階の幼若性と均質性の観点から蕾状期から帽状期からのものであることが好ましい。
また、歯胚以外に由来する上皮系細胞であってもよく、これには、生体内の他の上皮系組織に由来する細胞を挙げることができる。好ましくは、皮膚や口腔内の粘膜や歯肉の上皮系細胞、さらに好ましくは皮膚や粘膜などの分化した、例えば角化した、あるいは錯角化した上皮系細胞を生み出しうる未熟な上皮系前駆細胞、たとえば非角化上皮系細胞やその幹細胞等を挙げることができる。
【0021】
細胞集合体を調製するために各細胞を組織から単離する場合、歯胚及び他の組織は、哺乳動物の霊長類、例えばヒト、サルなど、有蹄類、例えば豚、牛、馬など、小型哺乳類の齧歯類、例えばマウス、ラット、ウサギなどの種々の動物の顎骨等から採取することができる。歯胚及び組織の採取は、通常、組織の採取で用いられる条件をそのまま適用すればよく、無菌状態で取り出し、適当な保存液に保存すればよい。なお、ヒトの歯胚としては、第3大臼歯いわゆる親知らずの歯胚の他、胎児歯胚を挙げることができるが、自家組織の利用との観点から、親知らず歯胚を用いることが好ましい。
【0022】
組織、例えば歯胚から、上記細胞を調製する場合には、まず周囲の組織から単離された歯胚を、形状に従って歯胚間葉組織及び歯胚上皮組織に分ける。このとき、歯胚組織は顕微鏡下で構造的に見分けることが可能であるため、解剖用ハサミやピンセット等で切断、あるいは引き剥がすことによって容易に分離することができる。また、歯胚組織からの歯胚間葉組織及び歯胚上皮組織の分離は、その形状に従って注射針、タングステンニードル、ピンセット等で切断、あるいは引き剥がすことにより容易に行うことができる。
好ましくは、周囲組織から歯胚細胞を容易に分離するため及び/又は歯胚組織から上皮組織及び間葉組織を分離するために、酵素を用いてもよい。このような用途に用いられる酵素としては、ディスパーゼ、コラーゲナーゼ、トリプシン等を挙げることができる。
【0023】
細胞集合体を構成する細胞は、採取した組織から単一細胞の状態に調製してもよい。調製工程において単一の細胞に容易に分散可能とするために、酵素を用いてもよい。このような酵素としては、ディスパーゼ、コラーゲナーゼ、トリプシン等を挙げることができる。このとき、上皮組織からの上皮系細胞の分離にはコラーゲナーゼ処理後にトリプシン処理とDNase処理をすることが好ましい。他方、間葉組織からの間葉系細胞の分離には、コラーゲナーゼとトリプシンで同時に処理し、最終的にDNase処理をすることが好ましい。このときDNase処理を行うのは、酵素処理により一部の細胞がダメージをうけ、細胞膜が溶解したときに溶液中に放出されるDNAによって細胞が凝集し細胞の回収量が低下することすることを防ぐためである。
【0024】
なお、細胞集合体を構成する細胞は、それぞれ充分な細胞数を得るために、配置工程に先立って予備的な培養を経たものであってもよい。細胞の培養は、一般に動物細胞の培養に用いられる温度等の条件をそのまま用いることができる。
培養に用いられる培地としては、一般に動物細胞の培養に用いられる培地、例えばダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)等を用いることができ、細胞の増殖を促進するための血清を添加するか、あるいは血清に代替するものとして、例えばFGF、EGF、PDGF等の細胞増殖因子やトランスフェリン等の既知血清成分を添加してもよい。なお、血清を添加する場合の濃度は、そのときの培養状態によって適宜変更することができるが、通常10容量%とすることができる。細胞の培養には、通常の培養条件、例えば37℃の温度で5%CO濃度のインキュベーター内での培養が適用される。また、適宜、ストレプトマイシン等の抗生物質を添加したものであってもよい。
【0025】
配置工程における細胞集合体の配置は、上記第1及び第2の細胞集合体を、細胞の接触状態を保持可能な支持担体の内部に配置する。このとき、各細胞集合体は互いに混合することがない。このように各細胞集合体を混合することなく配置するので、細胞集合体の間に境界線が形成される。このような配置形態を、本明細書中では適宜「区画化」と表現する。
【0026】
ここで用いられる支持担体としては、細胞を内部で培養可能なものであればよく、好ましくは、上記培地との混合物である。このような支持担体としては、コラーゲン、フィブリン、ラミニン、細胞外マトリクス混合物、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、乳酸/グリコール酸共重合体(PLGA)、セルマトリクス(商品名)、メビオールゲル(商品名)、マトリゲル(商品名)等を挙げることができる。これらの支持担体は、細胞を内部に配置したときに配置した位置をほぼ維持可能な程度な硬さを有するものであればよく、ゲル状、繊維状、固体状のものを挙げることができる。ここで、細胞の位置を維持可能な硬さとは、通常、三次元培養として適用される硬さ、即ち、細胞の配置を保持できると共に増殖による肥大化を阻害しない硬さであればよく、容易に決定することができる。例えば、コラーゲンの場合、最終濃度2〜3mg/mlの濃度での使用が適切な硬さを提供する。
なお、ここで支持担体は、第1及び第2の細胞集合体が担体内部で成育することができる程度の厚みを有すればよく、目的とする組織の大きさ等によって適宜設定することができる。
【0027】
また、支持担体は、細胞の接触状態を保持可能であればよい。ここでいう「接触状態」とは、各細胞集合体において、また細胞集合体間において、確実に細胞相互作用させるために緊密(高密度)の状態であることが好ましい。
高密度の状態とは、組織を構成する際の密度と同等程度であることをいい、例えば、細胞集合体の場合、細胞配置時で5×10〜1×10個/ml、細胞の活性を損なわずに確実に細胞相互作用させるため好ましくは1×10〜1×10個/ml、最も好ましくは2×10〜8×10個/mlの密度をいう。このような細胞密度に細胞集合体を調製するには、細胞を遠心によって凝集させ沈殿化することが細胞の活性を損なわずに簡便に高密度化できるため好ましい。このような遠心は、細胞の生存を損ねない300〜1200×g、好ましくは500〜1000×gの遠心力に該当する回転数で3〜10分間行えばよい。300×gよりも低い遠心では、細胞の沈殿が不十分となって細胞密度が低くなる場合があり、一方、1200×gよりも高い遠心では細胞が損傷を受ける場合があるため、それぞれ好ましくない。
【0028】
遠心分離によって高密度の細胞を調製する場合には、通常、細胞遠心分離するために用いられるチューブ等の容器に単一細胞の懸濁液を調製した後に遠心分離し、沈殿物としての細胞を残して上清をできるだけ取り除けばよい。このときに使用されるチューブ等の容器は、上清を完全に除去する観点から、シリコーンコートされたものであることが好ましい。
【0029】
遠心分離による沈殿物とした場合には、沈殿物をそのまま支持担体の内部に配置すればよい。このとき、目的とする細胞以外の成分(例えば、培養液、緩衝液、支持担体等)は、細胞の容量と等量以下であることが好ましく、目的とする細胞以外の成分を含まないことを最も好ましい。このような高密度の細胞集合体では、細胞が緊密に接触しており、細胞間相互作用が効果的に発揮される。
【0030】
組織の状態で使用する場合には、酵素処理等を行って、対象となる細胞以外の結合組織等を除去することが好ましい。目的とする細胞以外の成分が多い場合、例えば細胞の容量と等量以上になると、細胞間相互作用が充分に発揮されないため、好ましくない。
【0031】
また、第1の細胞集合体と第2の細胞集合体との接触は、第1の細胞集合体と第2の細胞集合体の接触は密接であるほど好ましく、第1の細胞集合体に対して第2の細胞集合体を押し付けて配置することが特に好ましい。また、第1の細胞集合体と第2の細胞集合体との周囲を培養液、酸素透過を阻害しない固形物で包み込むことも、細胞集合体同士の接触を密接にするのに有効であり、粘度の異なる溶液に密度の高い細胞懸濁液を入れて配置させ、溶液をそのまま固化することも、細胞の接触の保持を容易に達成できるため、好ましい。このとき、第1の細胞集合体を歯胚間葉系細胞の単一細胞集合物とし、第2の細胞集合体を歯胚上皮組織とした場合には、歯胚上皮組織のエナメル結節が第1の細胞集合体に接触するように配置することが好ましいが、これに限定されない。
【0032】
支持担体がゲル状、あるいは溶液状等の場合には、配置工程の後に支持担体を固化する固化工程を設けてもよい。固化工程によって、支持担体内部に配置された細胞が支持担体内部に固定化される。支持担体の固化には、一般に用いた支持担体の固化条件をそのまま適用すればよい。例えば支持担体にコラーゲン等の固化可能な化合物を用いた場合には、通常適用される条件で、例えば培養温度下で数分〜数十分間静置させることにより、固化することができる。これにより、支持担体内部における細胞間の結合を固定化できると共に、強固なものにすることができる。
【0033】
本発明の製造方法における培養工程では、第1の細胞集合体及び第2の細胞集合体を支持担体内部で培養する。この培養工程では、互いに緊密に接触された第1の細胞集合体及び第2の細胞集合体によって細胞間相互作用が効果的に行われて、組織、即ち歯が再構成される。
培養工程は、支持担体によって第1の細胞集合体と第2の細胞集合体との接触状態が維持されて行われればよく、第1及び第2の細胞集合体を有する支持担体単独による培養であっても、他の動物細胞の存在下での培養であってもよい。
培養期間としては、支持担体内部に配置された細胞数及び細胞集合体の状態、更には培養工程の実施条件によって異なるが、一般に、1〜300日、エナメル質を外側に有し、象牙質を内側に有する歯を形成するためには、好ましくは1〜120日、迅速に提供可能とする観点からは、好ましくは1〜60日とすることができる。更に歯周組織を備えた歯とするためには、一般に1〜300日、好ましくは1〜60日とすることができる。
【0034】
支持担体のみによる培養とした場合には、動物細胞の培養に用いられる通常の条件下での培養とすることができる。ここでの培養は、一般に動物細胞での培養条件をそのまま適用すればよく、前述した条件をそのまま適用することができる。また培養には、哺乳動物由来の血清を添加してもよく、またこれらの細胞の増殖や分化に有効であることが既知の各種細胞因子を添加してもよい。このような細胞因子としては、FGF、BMP等を挙げることができる。
また、組織や細胞集合体のガス交換や栄養供給の観点から器官培養を用いることが好ましい。器官培養では、一般に、動物細胞の増殖に適した培地上に多孔性の膜をフロートさせ、その膜上に支持担体で包埋された細胞集合体を置いて培養を行う。ここで用いられる多孔性の膜には、0.3〜5μm程度の孔を多数有した膜であることが好ましく、具体的にはセルカルチャーインサート(商品名)、アイソポアフィルター(商品名)を挙げることができる。
【0035】
他の動物細胞の存在下での培養の場合には、動物細胞からの各種サイトカイン等の作用を受けて、早期に特有の細胞配置を有する歯を形成することができるので、好ましい。このような他の動物細胞の存在下での培養は、単離細胞や培養細胞を用いて生体外での培養によって行ってもよい。
【0036】
また、第1及び第2の細胞集合体を有する支持担体を生体へ移植して、生体内で培養を行ってもよい。このような生体内での培養は、歯、更には歯周組織の形成を早期に行うことができるため特に好ましい。この場合、支持担体と共に第1及び第2の細胞集合体が生体内へ移植される。
【0037】
この用途に利用可能な動物は、哺乳動物、例えばヒト、豚、マウス等を好ましく挙げることができ、歯胚組織と同一の種に由来するものであることが更に好ましい。ヒト歯胚組織を移植する場合には、ヒト、又は免疫不全に改変したヒト以外の他の哺乳動物を用いることが好ましい。このような生体内成育に好適な生体部位としては、動物細胞の器官や組織をできる限り正常に発生させるためには、腎臓皮膜下、腸間膜、皮下移植、口腔内等が好ましい。
移植による成育期間としては、移植時の大きさと発生させる歯の大きさによって異なるが、一般に、3〜400日とすることができる。例えば、腎臓皮膜下への移植期間は移植する培養物の大きさと再生させる歯の大きさによっても異なるが、歯の再生と移植先で発生させる歯の大きさの観点から7〜60日間であることが好ましい。
【0038】
生体への移植を行う前に、生体外での培養(前培養)を行ってもよい。この前培養によって細胞間の結合と第1及び第2の細胞集合体同士の結合を強固にして、細胞間相互作用をより強固にすることができるため好ましい。その結果、全体の成育期間を短縮することができる。
前培養の期間は短期であっても長期であってもよい。長期間、例えば3日以上、好ましくは7日以上とした場合には、歯胚から歯芽に発生させることができるので、移植後に歯ができるまでの期間を短縮することもできるため好ましい。前培養の期間としては、例えば腎臓皮膜下へ移植を行う場合の器官培養として、好ましくは1〜7日とすることが効率よく歯を再生するために好ましい。
【0039】
本発明の製造方法によって製造された歯は、内側に象牙質、外側にエナメル質という歯としての特有の細胞配置(構造)を有するものであり、また好ましくは、更に歯の先端(歯冠)と歯根という方向性も備えているものである。少なくともこのような特有の細胞配置、好ましくは細胞配置に加えて方向性を有することによって、歯としての機能も発揮できるものである。このため、歯の代替物として広く利用することが可能である。特に、自家の歯胚に由来した間葉系細胞及び上皮系細胞を用いた場合には、拒絶反応による問題を回避しつつ使用することができる。また一般に移植抗原が適合した他人の歯胚に由来する細胞を用いる場合にも拒絶反応による問題を回避することが可能である。
【0040】
また本発明の製造方法によって製造された歯は、歯特有の細胞配置を有する歯の集合体であってもよい。
このような歯の集合体は、歯特有の細胞配置を有する複数の歯で構成されているため、個々の歯を集合体から分離して、以下に述べるように1つの歯の移植片として用いることができる。この結果、移植片としての歯を効率よく作製することができる。
【0041】
複数の歯で構成された歯の集合体を得るためには、第1及び第2の細胞集合体いずれも、共に単一細胞により構成されていることが好ましい。これにより、歯の本数を制御するエナメルセンター等の因子を含む部分を複数存在させることができ、複数本の歯を容易に形成することができる。
なお、培養工程は、前記と同様に、器官培養であっても腎臓皮膜下での培養であってもよいが、得られた歯を移植片として用いる場合には、他の動物細胞との接触がなく且つ全行程in vitroで調製することができる器官培養とすることが好ましい。
【0042】
さらに本発明の製造方法では、培養期間を歯周組織が形成されるまで継続してもよい。これにより、歯そのものに加えて、歯を顎骨上で支持し、固定化する歯槽骨や歯根膜などの歯周組織も形成させることができる。この結果、移植後に実用可能な歯を提供することが可能である。
【0043】
なお、歯周組織を製造するためには、上記培養工程の後に、前記培養によって得られた歯周組織を単離する工程を設けて歯周組織のみを得てもよい。歯周組織の単離は、培養工程の過程で形成された歯周組織と歯とを分離することができる如何なる方法によって行ってもよく、ピンセット等による分離や、酵素による部分消化等を挙げることができる。
【0044】
本発明に従って得られた歯及び歯周組織は、移植片として用いられる他、歯の発生過程を解明するための研究にも好ましく利用することができ、今後の歯に関連する組織発生のために有効なリサーチツールとして利用することができる。
なお、得られた歯又は歯周組織を移植片として用いる場合には、製造方法における培養工程を、他の動物細胞との接触がなく且つ全行程in vitroで調製することができる器官培養としたものであることが好ましい。
【0045】
また、本発明には、歯の移植方法が含まれる。この移植方法では、上記歯の集合体を得る工程と、歯の複合体から個々の歯を分離する工程と、分離された歯を、移植部位での他の歯と同一の方向性となるように揃えて移植する工程とを含む。
これにより、歯の移植を、特有の細胞配置と方向性を備えた複数の歯を同時に得て、効率よく実施することができる。
【0046】
本発明による歯は、歯の欠損及び損傷を伴う各種症状、例えば、齲蝕、辺縁性歯周炎(歯槽膿漏)、歯周病による歯の欠損、事故などによる折損や脱落等の治療又は処置に適用することもできる。
即ち、本発明の治療方法は、本発明による製造方法によって得られた歯及び/又は歯周組織を、欠損及び/又は損傷部位へ移植することを含む。これにより、欠損及び/又は損傷部位の上記症状を治療及び/又は緩和することができる。
本発明の他の治療方法は、本発明における培養工程のみ、或いは、配置工程及び培養工程を、欠損及び/又は損傷部位において実施させることを含む。この場合、支持担体としては、上述したものに加えて、欠損及び/又は損傷部位の周囲組織そのものを支持担体として適用してもよい。これにより、生体内での周辺組織からのサイトカイン等によって、より迅速に欠損及び/又は損傷部位の治療等を行うことができる。
【実施例】
【0047】
以下に本発明の実施例について説明するが、これに限定されるものではない。また実施例中の%は、特に断らない限り、重量(質量)基準である。
(1)羊膜由来間葉系細胞の調製
ヒト羊膜間葉系細胞の歯形成能を評価するために、ヒト羊膜組織からヒト羊膜間葉系細胞を調製した。
インフォームドコンセントを行い、提供された胎盤から羊膜組織を物理的に剥離した。15cmディッシュにPBS(−)を適当量入れ、外科用ハサミで切断し、ピンセットを用いて洗浄することで血球系細胞を除去した。羊膜組織を新しいディッシュに移し、PBS(−)で再度洗浄してから、さらに裁断した後、25mlの0.25%トリプシン(GIBCO社製)を入れた50ml遠心管に移した。
まず羊膜由来上皮細胞を除去するため、次のように酵素処理を行った。振とう培養機を用いて、酵素反応(200rpm、15分、37℃)を行った後、処理後の羊膜組織を新しい25mlの0.25%トリプシン(GIBCO社製)を入れた50ml遠心管に移して、酵素反応(400rpm、15分、37℃)を行った。更に、トリプシン処理を3回(合計5回)繰り返し、主として上皮細胞層を除去した。
【0048】
次いで羊膜由来間葉細胞を回収するために、15mmディッシュにPBS(−)を適量入れ、5回目のトリプシン処理を終えた羊膜組織を移して洗浄し、約5mm四方にハサミで切断した。続いて、酵素混合液(ハンクス平衡塩類溶液中、1mg/mlコラーゲナーゼ(Sigma社製)、0.1%ディスパーゼII(Roche社製)、0.01%パパイン(Worthington社製)、0.01%DNase(Sigma社製))を入れた50ml遠心管に移して、振とう培養機で酵素反応(400rpm、1時間、37℃)を行った。酵素処理した細胞懸濁液を金属フィルターでろ過し、ろ過液を50ml遠心管で遠心(2000rpm、10分、室温)した。上清を捨て、ペレットをPBS(−)で3回洗浄した。40μmのナイロンメッシュでろ過後、遠心(2000rpm、10分、室温)して羊膜間葉系細胞を得た。
【0049】
羊膜間葉系細胞を、10ng/mlのhLIF(Sigma社製)、0.2mMメルカプトエタノール(Sigma社製)、10%FCS(JRH Biosciences, Lenexa, KS)を添加したDMEM/F12(Sigma社製)に懸濁し、1ml中に約1〜5×10個の細胞密度で10cm細胞培養ディッシュに播種した。再構成歯胚を作製するまで、適時、トリプシン処理によって細胞を分散し、継代培養を行った。
【0050】
(2)歯胚上皮組織の調製
Green Fluorescence Protein (EGFP) トランスジェニックマウスであるC57BL/6−TgN(act-EGFP)OsbC14−Y01−FM131(理研バイオリソースセンターより購入)の胎齢14.5日、胚仔から、下顎切歯歯胚を顕微鏡下で常法により摘出した。下顎切歯歯胚組織をCa2+,Mg2+不含リン酸緩衝液(PBS(−))で洗浄し、PBS(−)に最終濃度1.2U/mlのディスパーゼII (Roche社製)を添加した酵素液で室温にて12.5分間処理した後、10%FCS(JRH社製)を添加したDMEM(Sigma社製)で3回洗浄した。さらにDNaseI溶液(Takara社製)を最終濃度70U/mlになるよう添加し歯胚組織を分散させ、25G注射針 (Terumo社製)を用いて外科的に歯胚上皮系組織を分離した。
【0051】
(3)再構成歯胚の作製
再構成歯胚の作製には、上記で調製された歯胚上皮系組織と、ヒト羊膜間葉系細胞とを用いた。
ヒト羊膜間葉系細胞を、トリプシン処理によりディッシュから回収した。シリコングリースを塗布した1.5mlマイクロチューブ (Eppendorf社製)に、10%FCS(JRH社製) 添加DMEM(Sigma社製)で懸濁したヒト羊膜間葉系細胞を入れ、遠心分離により細胞を沈殿として回収した。遠心後の培養液の上清をできる限り除去し、再度遠心操作を行い、実体顕微鏡で観察しながら細胞の沈殿周囲に残存する培養液を GELoader Tip 0,5−20μl (eppendorf社製) を用いて完全に除去し、再構成歯胚作製に用いるヒト羊膜間葉細胞を準備した。
【0052】
シリコングリースを塗布したペトリディッシュに、2mg/mlのCellmatrix type I-A (新田ゼラチン社製)30μlを滴下してコラーゲンゲルドロップを作製した。この溶液に、上記ヒト羊膜間葉系細胞を、0.1−10μlのピペットチップ (Quality Scientific plastics社製)を用いて、0.2−0.3μlアプライして、細胞凝集塊を作製した。続いて、10μlのピペットチップを用いて、歯胚上皮系組織を同じゲルドロップにアプライし、タングステン針を用いて、分離した歯胚上皮系組織が本来、間葉組織と接触していた面をヒト羊膜間葉系細胞の細胞凝集塊に密着させた。その後、ゲルドロップを固化させることにより、歯胚上皮系組織とヒト羊膜間葉系細胞間の結合をより強固にすることで、高密度再構成歯胚を作製した。
【0053】
これを、図1を参照して説明する。
ピペットチップ16で先にゲルドロップ10(図1(A)参照)内に配置された細胞凝集塊12は、ゲルドロップ10内で球体を構成する(図1(B)参照)。この後に他方の細胞凝集塊14を押し込むことによって、球体の細胞凝集塊12がつぶされて、他方の細胞凝集塊14を包むようになる(図1(C)参照)。その後にゲルドロップ10を固化させることにより、細胞間の結合が強固になる(図1(D)参照)。
【0054】
(4)再構成した歯胚の器官培養
ゲル中で作製した高密度再構成歯胚は、COインキュベーターに10分間静置してCellmatrix type I-A (新田ゼラチン社製)を固形化した。10容量%FCS(JRH社製)、0.1mg/mlのL−アスコルビン酸(Sigma社製)、2mMのL−グルタミン(GIBCO社製)を添加したDMEM(Sigma社製)に、セルカルチャーインサート(ポアサイズが0.4ミクロンのPETメンブレン;BD社製)が接するように培養容器を準備した。培養容器のセルカルチャーインサートの膜上に、再構成歯胚を、支持担体である周囲のゲルと共に移して、器官培養した。
【0055】
器官培養により歯の発生を解析する場合には、通常、14日間の培養を行った。培養終了後、4%パラホルムアルデヒド−リン酸緩衝液で6時間固定した後、4.5%のEDTA(pH7.2)で24時間の中性脱灰を行った。その後、常法によりパラフィン包埋して、10μmの切片を作製した。組織学的解析のためには常法に従い、ヘマトキシリン−エオジン染色(HE染色)を行った。
また、C57BL/6−TgN(act−EGFP)OsbC14-Y01-FM131マウス由来の歯胚を用いた場合には、中性脱灰後、12.5%ショ糖(Wako社製)で12時間、25%ショ糖(Wako社製)で12時間処理し、OCT compound(Miles Inc.社製)に包埋して、クリオスタット(Leica社製)で10μmの切片を作製し、蛍光顕微鏡(ZEISS社製)で観察した。また組織学的解析のためには常法に従い、ヘマトキシリン−エオジン染色(HE染色)を行った。
【0056】
(5)器官培養による評価
図2に示されるように、上記のようにして得られた再構成歯胚を器官培養することによって再生歯が形成された。この再生歯は、図2に示されるように、外側からエナメル芽細胞、エナメル質、象牙質、象牙芽細胞、中央に歯髄細胞を有していた。この細胞配置は、する正常な歯と同様である。
これらのことから、本実施例によれば、ヒト羊膜間葉系細胞と、歯胚上皮系組織とを高密度で区画化して培養することによって、間葉系細胞と上皮系組織とが効果的に相互作用して、特有の組織構造を有する歯を形成できることが明らかになった。
【0057】
次に、形成された歯を構成する各細胞の由来を、微分干渉顕微鏡及び蛍光顕微鏡を用いて確認した。
微分干渉微鏡像による観察では、歯胚の器官培養と同様に歯特有の、外側からエナメル芽細胞、エナメル質、象牙質、象牙芽細胞、中央に歯髄細胞を有する組織構造が確認できた。さらに、図3に示されるように、蛍光顕微鏡によるGFPの観察から、エナメル質の外側に位置するエナメル芽細胞はGFP陽性(図3中、明部)であり、象牙質の内部に位置する象牙芽細胞と歯髄細胞はGFP陰性(図3中、暗部)であることが判明した。
この結果は、エナメル質の外側に位置するエナメル芽細胞が上皮系細胞に由来する細胞であり、象牙質の内側に位置する象牙芽細胞と歯髄細胞が羊膜間葉系細胞に由来することを示している。
このように本発明によれば、羊膜由来間葉系細胞と歯胚由来上皮系細胞とを区画化して培養することにより、特有の細胞配置を有する歯を形成することができる。また、羊膜由来間葉系細胞が、歯の形成に有用であることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】(A)〜(D)は、本発明の実施例にかかる、歯胚由来間葉系細胞と上皮系細胞を用いた歯胚再構築の手順を概念的に示した図である。
【図2】本発明の実施例にかかる再構成歯胚の器官培養後のHE染色像である。図中のバーは25μmを示す。
【図3】本発明の実施例にかかる再構成歯胚の器官培養後の蛍光顕微鏡写真像と微分干渉顕微鏡像とを重ねた図である。図中のバーは100μmを示す。
【符号の説明】
【0059】
10 ゲルパック(支持担体)
12 細胞凝集塊(第1の細胞集合体)
14 細胞凝集塊(第2の細胞集合体)
16 ピペットチップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持担体の内部に、羊膜由来間葉系細胞及び上皮系細胞のいずれか一方のみから実質的になる第1の細胞集合体と、いずれか他方のみから実質的になる第2の細胞集合体とを混合することなく密着させて配置すること、
前記第1及び第2の細胞集合体を前記支持担体の内部で培養すること、
含む歯の製造方法。
【請求項2】
前記上皮系細胞が歯胚由来である請求項1記載の歯の製造方法。
【請求項3】
前記培養を、歯周組織が形成されるまで継続することを特徴とする請求項1又は2記載の歯の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載の歯の製造方法によって得られた歯。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−206500(P2008−206500A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−49128(P2007−49128)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【出願人】(598041566)学校法人北里研究所 (180)
【Fターム(参考)】