説明

歯付きベルトの製造方法

【課題】長期間に渡って強度を維持できる歯布を有する歯付きベルトを簡易な工程により製造する方法を実現する。
【解決手段】歯付きベルトの製造時に、互いに別体である歯布ジャケット28と歯布処理シート24とを、成型金型26の表面に沿って配設する(図2(a)参照)。次に、心線30を歯布ジャケット28の上に巻きつけ、本体材料32を積層させる(図2(b)参照)。この状態で行われる加硫工程(図2(c)、(d)参照)において、加熱された歯布処理シート24の一部と本体材料32の一部を、それぞれ歯布ジャケット28の表面に含浸させる。このように、歯付きベルトの製造工程の一環として歯布ジャケット28を処理し、製造された歯付きベルトの歯布の耐久性を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯付きベルトの製造方法に関し、特に、自動車エンジン、一般産業用動力伝達装置等で用いられる歯付きベルトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や、一般産業用動力伝達装置の動力伝達のために、歯付きベルトが幅広く用いられている。歯付きベルトの歯部は、一般に、歯布によって覆われている。そして、歯部の耐久性を向上させるために、歯布に前処理を施したり、樹脂フィルムを固着させることが知られている(例えば特許文献1および2)。
【特許文献1】特開2004−66475号公報
【特許文献2】特開2003−222195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
歯付きベルトには、長期間の使用により、歯布の摩耗等が生じる。特に、油が付着する環境で使用される歯付きベルトにおいては、空中でのみ使用される場合に比べ、歯布の磨耗が早期に生じる傾向にある。この原因の一つとして、歯布の耐久性を向上させるための処理により歯布表面に存在する処理剤が、付着した油により劣化することが考えられる。
【0004】
そこで、このように厳しい環境で使用される歯付きベルトの歯布に、樹脂フィルムを固着させて強度を向上させることが考えられる。しかしながら、この場合、樹脂フィルムを歯布に固着させる工程が必要となるとともに、加硫工程において、歯部を容易に形成できない可能性もあることから、歯付きベルトの簡易な製造が困難となり得る。
【0005】
そこで本発明は、長期間に渡って強度を維持できる歯布を有する歯付きベルトを簡易な工程により製造する方法の実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の歯付きベルトの製造方法は、互いに別体である歯布と、樹脂もしくはエラストマーである歯布処理シートとを成型金型の表面で重なるように配設する配設工程と、ベルト本体を形成するためのゴム製の本体材料を歯布および歯布処理シートに積層させる積層工程と、歯布処理シートの少なくとも一部を歯布に含浸させるとともに、本体材料によりベルト本体を形成するために本体材料を加硫する加硫工程とを備えることを特徴とする。
【0007】
配設工程においては、例えば、歯布処理シートが成型金型の表面に接するように、歯布処理シートと歯布とが重ねられる。また、例えば、歯布が成型金型の表面に接するように、歯布処理シートと歯布とが重ねられる。
【0008】
加硫工程においては、例えば、本体材料の少なくとも一部を歯布に含浸させる。
【0009】
歯付きベルトの製造方法は、配設工程の前に、歯布に処理を施す前処理工程をさらに有することが好ましい。歯布処理シートは、例えばポリエステルエラストマーにより形成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、長期間に渡って強度を維持できる歯布を有する歯付きベルトを簡易な工程により製造する方法を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、歯付きベルトの製造方法についての本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。図1は、本実施形態の歯付きベルトの一部を破断して示す斜視図である。
【0012】
歯付きベルト10は、ベルト本体12、歯布18、歯布処理層20を有する。ベルト本体12は、歯ゴム層14および背ゴム層16を含む。歯ゴム層14の歯部21と歯底部22の外表面は、歯布18によって覆われている。さらに歯布18の外表面、すなわち歯付きベルト10の表面は、歯布処理層20によって覆われている。歯ゴム層14と背ゴム層16との間には、歯付きベルト10の長手方向に平行な複数の心線30が埋設されている。
【0013】
歯布18は、例えばナイロン繊維から成る織布で形成され、歯布処理層20は、例えば、耐油性および耐熱性に優れた熱可塑性ポリエステルエラストマーにより形成されている。そしてベルト本体12は、例えばH−NBRゴムにより形成されている。なお、図1および以下の図面では、歯布18、歯布処理層20、および後述する歯布処理層20の材料である歯布処理シート24は、説明の便宜上、厚さ方向に拡大して示されている。
【0014】
図2は、第1の実施形態における歯付きベルト10の製造工程を示す断面図である。図3は、加硫工程において、歯布処理シート24および本体材料の一部が含浸された状態の歯布ジャケットを示す断面図である。
【0015】
本実施形態における歯付きベルト10は、以下のように製造される。まず、必要に応じて、RFL処理もしくはゴム糊処理等の前処理を歯布材料(図示せず・歯布)に施す(前処理工程)。この処理の後、歯布材料を縫合して歯布ジャケット28(歯布)を形成する。そして図2(a)に示されるように、互いに別体である歯布ジャケット28と歯布処理シート24とを、成型金型26の表面に沿って配設する(配設工程)。このとき、本実施形態では、歯布処理シート24が成型金型26の表面26Sに接するように、歯布ジャケット28と歯布処理シート24とを重ね合わせる。歯付きベルト10の表面を歯布処理層20によって覆うためである(図1参照)。
【0016】
次に、心線30を歯布ジャケット28の上に巻きつける(図2(b)参照)。さらに、ベルト本体12(図1参照)を形成するためのH−NBRゴムの本体材料32を、歯布処理シート24、歯布ジャケット28、および心線30の上に積層させる(積層工程)。そして、これらの部材が積層された成型金型26を加硫釜(図示せず)内に入れ、加硫温度となるように加熱し、本体材料32には、成型金型26の外側から矢印Aで示すように圧力を加える(加硫工程・(図2(c)参照))。
【0017】
このときの加硫温度は、歯布処理層20を構成する熱可塑性ポリエステルエラストマーの軟化温度以上となるように調整されている。このため加硫工程においては、軟化した歯布処理層20が、歯布ジャケット28の表面に入り込む。この結果、製造された歯付きベルト10においては、後述するように、歯布処理シート24の一部が歯布ジャケット28に含浸される。なお、歯布処理層20を樹脂で形成した場合にも同様に、加硫温度はその樹脂の軟化温度以上に調整される。
【0018】
なお、歯布ジャケット28と歯布処理シート24とが互いに固着されておらず、それぞれ独立したシート状の部材であることから、互いに重ねられた歯布ジャケット28と歯布処理シート24とは容易に変形可能である。従って、加硫工程において、本体材料32に大きな圧力を加えることなしに、歯布ジャケット28と歯布処理シート24とを本体材料32の変形に追従させることができる。
【0019】
この加硫工程により、本体材料32が歯ゴム層14および背ゴム層16(図1参照)に対応する形状となり、心線30が本体材料32内に埋設されたベルトスラブ11が形成される(図2(d)参照)。このベルトスラブ11を冷却後に成型金型26から脱型し、所定の幅に裁断することにより、歯付きベルト10(図1参照)が製造される。
【0020】
加硫工程においては、加熱された歯布処理シート24の一部と、本体材料32の一部がそれぞれ歯布ジャケット28の表面に含浸される(含浸工程・図3参照)。この場合、例えば、本体材料32は破線Bまで、歯布処理シート24は破線Cまで歯布ジャケット28内に入り込む。
【0021】
歯布処理シート24および本体材料32をどれだけ歯布ジャケット28内に含浸させるかは、歯付きベルト10において必要とされる歯布18の強度、硬さ等に応じて調整され、破線BおよびCが一致するまで、すなわち歯布処理シート24と本体材料32とが歯布ジャケット28内で互いに接するまで含浸させても良い。なお図1においては、歯布ジャケット28から形成された歯布18に入り込んだ歯布処理層20および歯ゴム層14の一部は省略されている。
【0022】
このように、歯布処理シート24による含浸処理が歯布ジャケット28に施されると、歯布ジャケット28は、歯布処理シート24と一体化されるとともに本体材料32に固着される。そして歯布処理シート24が、耐熱性および耐油性に優れた熱可塑性のポリエステルエラストマーであるため、歯付きベルト10の耐久性が向上する。前処理工程において歯布材料の表面に形成された処理液の層が、歯布処理層20(図1参照)によって保護され、油による膨潤等が抑制されるからである。従って、歯付きベルト10が、例えば高温下で油が付着するような厳しい環境下で使用される場合においても、歯布18の摩耗が防止され、歯付きベルト10の長寿命化が可能となる。
【0023】
以上のように第1の実施形態によれば、歯布ジャケット28とは別体の歯布処理シート24により、歯付きベルト10の製造工程の一環である加硫工程において歯布ジャケット28を処理し、歯布18の性能を向上させることができる。そしてこのように簡易な工程で、耐久性に優れた歯付きベルト10を製造できる。
【0024】
さらに、歯布処理シート24を歯布ジャケット28に予め固着させた場合には、これらの部材の材質の組み合わせを自由に変更できないのに対し、本実施形態では、互いに別体の歯布ジャケット28と歯布処理シート24との組み合わせを自由に選択、変更できる。従って、歯布処理シート24の材質を、例えば耐油性、強度に優れたフッ素樹脂、ウレタン樹脂に変更するなど、歯付きベルト10の用途に応じた設計変更にも柔軟な対応が可能である。
【0025】
図4は、第2の実施形態の歯付きベルト40の一部を破断して示す斜視図である。図5は、本実施形態の加硫工程において、歯布処理シート24の一部が含浸された状態の歯布ジャケット28を示す断面図である。これらの図面では、第1の実施形態と対応する構成要素は、第1の実施形態と同一の符号により示されている。
【0026】
本実施形態では、歯布18と歯布処理層20の配置が第1の実施形態と異なる。すなわち、歯付きベルト40の表面は歯布18によって覆われており、歯布処理層20が歯布18の内側に配置されている。この歯付きベルト40は、互いに別体である歯布ジャケット28と歯布処理シート24との配置が、第1の実施形態の配設工程、積層工程、および加硫工程(図2(a)〜(c)参照)とは反対である各工程を経て製造される。すなわち、本実施形態の配設工程では、歯布ジャケット28が成型金型26の表面26Sに接するように、歯布ジャケット28と歯布処理シート24とを重ね合わせる(図2(a)参照)。
【0027】
そして本実施形態の加硫工程では、歯布処理シート24のみを、歯布ジャケット28に含浸させる(図5参照)。本体材料32は歯布ジャケット28に接していないからである。この場合、歯布処理シート24を歯布ジャケット28に対してどれだけ含浸させるかは、第1の実施形態と同様に調整され(段落[0020]参照)、例えば歯布ジャケット28における一部の領域(破線Dの示す領域)まで含浸され、または歯布ジャケット28の全領域まで含浸されても良い。なお、図1と同様に図4においても、歯布18に入り込んだ歯布処理層20の一部は省略されている。
【0028】
以上のように第2の実施形態によれば、最外層に歯布18が配置されるように歯布ジャケット28を処理し、かつそのような歯付きベルト40を簡易な工程で製造することができる。この歯付きベルト40においては、歯布18の耐久性向上等の第1の実施形態と同様の効果が得られる上に、比較的硬い材質で形成される歯布処理層20が内部に設けられることから、歯付きベルト40の走行時における、歯布処理層20に起因した騒音の発生を抑制することが可能である。
【0029】
いずれの実施形態においても、歯付きベルト10、40の各部材の材質等は、上述のものに限定されない。例えば、歯布処理層20は、上述のポリエステルエラストマー、フッ素樹脂、およびウレタン樹脂以外のエラストマー、樹脂で形成されても良い。この歯布処理層20の材質は、主として歯付きベルト10、40に必要とされる性能に応じて選択される。
【0030】
また、歯ゴム層14と背ゴム層16とは、ゴム以外の材質により形成されても良く、互いに異なる材質で形成されても良い。また、心線30の周囲に、心線30との接着性が良好な接着ゴム層を設けても良い。
【0031】
本体材料32についても、H−NBRゴム以外が使用されても良い。例えば、フッ素ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、またはクロロプレンゴム等の単体、もしくはこれらの混合物が使用されても良い。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】第1の実施形態の歯付きベルトの一部を破断して示す斜視図である。
【図2】第1の実施形態における歯付きベルトの製造工程を示す断面図である。
【図3】第1の実施形態の加硫工程において歯布処理シートおよび本体材料の一部が含浸された状態の歯布を示す断面図である。
【図4】第2の実施形態の歯付きベルトの一部を破断して示す斜視図である。
【図5】第2の実施形態の加硫工程において歯布処理シートの一部が含浸された状態の歯布を示す断面図である。
【符号の説明】
【0033】
10、40 歯付きベルト
12 ベルト本体
18 歯布
24 歯布処理シート
26 成型金型
26S 表面
28 歯布ジャケット(歯布)
32 本体材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに別体である歯布と、樹脂もしくはエラストマーである歯布処理シートとを成型金型の表面で重なるように配設する配設工程と、
ベルト本体を形成するためのゴム製の本体材料を前記歯布および前記歯布処理シートに積層させる積層工程と、
前記歯布処理シートの少なくとも一部を前記歯布に含浸させるとともに、前記本体材料により前記ベルト本体を形成するために前記本体材料を加硫する加硫工程とを備えることを特徴とする歯付きベルトの製造方法。
【請求項2】
前記配設工程において、前記歯布処理シートが前記成型金型の表面に接するように、前記歯布処理シートと前記歯布とが重ねられることを特徴とする請求項1に記載の歯付きベルトの製造方法。
【請求項3】
前記配設工程において、前記歯布が前記成型金型の表面に接するように、前記歯布処理シートと前記歯布とが重ねられることを特徴とする請求項1に記載の歯付きベルトの製造方法。
【請求項4】
前記加硫工程において、前記本体材料の少なくとも一部を前記歯布に含浸させることを特徴とする請求項1に記載の歯付きベルトの製造方法。
【請求項5】
前記配設工程の前に、前記歯布に処理を施す前処理工程をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の歯付きベルトの製造方法。
【請求項6】
前記歯布処理シートが、ポリエステルエラストマーにより形成されることを特徴とする請求項1に記載の歯付きベルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−71428(P2010−71428A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−241542(P2008−241542)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000115245)ゲイツ・ユニッタ・アジア株式会社 (101)
【Fターム(参考)】