説明

歯磨組成物

【課題】歯のエナメル質へのフッ素イオンの取り込み量性が向上し、再石灰化効果の優れた歯磨組成物を提供する。
【解決手段】次の成分(A)、(B)及び(C):
(A)フッ素イオン供給化合物をフッ素換算で0.002〜5質量%、
(B)20℃において水溶液100gに対し5〜30g溶解する糖アルコール 30〜65質量%、
(C)水 10〜25質量%
を含有し、成分(B)と成分(C)の質量比(B/C)が1より大きく6以下である歯磨組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素イオン供給化合物を含有する歯磨組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯質の主成分はハイドロキシアパタイトであり、口中においては通常、リン酸イオンやカルシウムイオンの溶出(脱灰)と、リン酸カルシウムやハイドロキシアパタイトへの結晶化(再石灰化)が平衡状態にある。歯のう蝕は、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)等の細菌がショ糖等を分解して有機酸を産生しpHを低下させて、歯のカルシウム等を溶出させることにより脱灰を促進することで進行していく。う蝕の初期段階においては、エナメル質に白斑(ホワイトスポット)といわれる歯の表層下脱灰病巣を生じる。ここでフッ素イオンはカルシウムイオンとリン酸イオンの結晶化、すなわち再石灰化を促進することにより、う蝕の発生を防止し、かかる白斑を消失させうることが知られている。
【0003】
一方、キシリトール等の糖アルコールは、非醗酵性、う蝕原因菌の増殖抑制作用が知られており、特許文献1にはキシリトールとフッ素化合物とを特定割合で配合した口腔用組成物が報告されている。また、フッ素化合物による再石灰化を促進する技術として、特許文献2には、キシリトール等の糖アルコールとフッ化ナトリウムとマグネシウムイオンとを含有する口腔用組成物が記載され、特許文献3にはパラチニットとフッ素化合物を含有する口腔用組成物が記載され、パラチニットの含有量が多いほど再石灰化量が高い結果を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−48613号公報
【特許文献2】特開平11−12143号公報
【特許文献3】特開2000−247852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
歯のエナメル質にフッ素イオンを取り込ませ、再石灰化を促進するためには、フッ素イオン濃度を高くすることが考えられるが、フッ素イオンの溶解性、安全性の観点から大量に歯磨組成物に含有させることは困難であり、少量のフッ素イオンを効率的にエナメル質に取り込ませることが望ましい。一方、特許文献2、3の歯磨組成物はフッ素イオン供給化合物と糖アルコールとを組合せて再石灰化とう蝕原因菌増殖抑制の両方の効果によりむし歯を防止する旨が記載されているが、本発明者が検討したところ、歯のエナメル質へのフッ素イオンの取り込み量は必ずしも高くならなかった。
従って、本発明の課題は歯のエナメル質へのフッ素イオンの取り込み量性が向上し、再石灰化効果の優れた歯磨組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、フッ素イオン供給化合物と糖アルコールとを併用しているにもかかわらず、歯のエナメル質に対するフッ素イオン取り込み量が十分に向上しない原因について種々検討したところ、意外なことに、糖アルコールの量に対して水の量が多すぎると、十分量の糖アルコールが溶解しているにもかかわらず、歯のエナメル質に対するフッ素イオンの取り込み量は十分に向上しないことが判明した。一方、水の量が少なすぎる場合にも、歯のエナメル質に対するフッ素イオンの取り込み量は十分に向上しなかった。
そしてさらに検討したところ、フッ素イオン供給化合物と、水に対する溶解度の低い糖アルコールとを併用し、かつ水分量を一定の範囲に調整することにより、歯のエナメル質に対するフッ素イオンの取り込み量が顕著に向上し、歯再石灰化効果に優れた歯磨組成物が得られることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の成分(A)、(B)及び(C):
(A)フッ素イオン供給化合物をフッ素換算で0.002〜5質量%、
(B)20℃において水溶液100gに対し5〜30g溶解する糖アルコール 30〜65質量%、
(C)水 10〜25質量%
を含有し、成分(B)と成分(C)の質量比(B/C)が1より大きく6以下である歯磨組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の歯磨組成物を用いれば、フッ素イオン供給化合物のフッ素イオンが効率よくエナメル質に取り込まれてエナメル質の再石灰化が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の歯磨組成物は、フッ素イオン供給化合物(A)を含有する。当該フッ素イオン供給化合物は、無機化合物、有機化合物のいずれであっても良い。具体的には、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化スズ、フッ化ケイ素酸ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化アンモニウム、フッ化アルミニウム、フッ化銀、フッ化水素酸ヘキシルアミン、フッ化水素酸デカノールアミン、フッ化水素酸オクタデセニルアミン等が挙げられ、歯のエナメル質へのフッ素イオン取り込み量が高い点から、フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウムが好ましい。これらのフッ素イオン供給化合物は、1種又は2種以上を組合せて本発明の歯磨組成物に配合することができる。
フッ素イオン供給化合物(A)は、歯のエナメル質に対するフッ素イオン取り込み量を十分確保する点及び安全性の点から、当該組成物に対して、フッ素イオンに換算し0.002〜5質量%含有し、より好ましくは0.01〜1質量%、さらに好ましくは0.05〜1質量%含有する。
【0010】
本発明の歯磨組成物は、20℃において水溶液100gに対して5〜30g溶解する糖アルコール(B)を含有する。本発明に用いられる20℃において水溶液100gに対して5〜30g溶解する糖アルコール(B)としては、マンニトール、α−D−グルコピラノシル−1,6−ソルビトール、α−D−グルコピラノシル−1,6−マンニトール、α−D−グルコピラノシル−1,6−ソルビトールとα−D−グルコピラノシル−1,6−マンニトールの混合物であるパラチニット等が挙げられる。
【0011】
マンニトールは、ヘキシトールの一種でありマンノースの糖アルコールである。工業的には、トウモロコシデンプン糖の電解還元、蔗糖の高圧還元により生産されている。本発明で用いるマンニトールは、D−マンニトール、L−マンニトール、D,L−マンニトールから選ばれる少なくとも1種であればよく、特に限定されるものではないが、天然界に存在するD−マンニトールが入手容易であり好ましい。マンニトールの溶解度は20℃において水溶液100gに対して18gである。
【0012】
パラチニットは、二糖類の糖アルコールであり、α−D−グルコピラノシル−1,6ーマンニトール及びその異性体であるα−D−グルコピラノシル−1,6ーソルビトールの等モル混合物である。パラチニットはシュクロースを原料とし、シュクロースを糖転移酵素によりパラチノースとした後に、水素添加反応させることによって得られる。また、パラチニットは、三井製糖社、Sudzucker AG社(和名:南独製糖)の商品名であり、還元パラチノースあるいは、イソマルトという別名称もある。パラチニットの溶解度は20℃において水溶液100gに対して28gである。
【0013】
これらの糖アルコール(B)は1種又は2種以上を混合して用いることができる。また、糖アルコール(B)は粉体、粒状のいずれを配合してもよい。
これらの糖アルコール(B)は、歯のエナメル質に対するフッ素イオン取り込み量向上効果の点から、本発明の歯磨組成物中に30〜65質量%含有するが、さらに30〜60質量%、特に30〜55質量%含有するのが好ましい。
【0014】
本発明の歯磨組成物における水(C)の含有量は、歯のエナメル質へのフッ素イオン取り込み量向上効果の点から重要であり、10〜25質量%、さらに10〜20質量%が好ましい。水(C)を10〜25質量%含有することによって未溶解状態の糖アルコール(B)の存在により、組成物に構造粘性をもたせ、含有される水(C)に溶解したフッ素イオン供給化合物の流動性を確保することができると考えられる。また、糖アルコール(B)の水への溶解量が少ないため、水(C)中のフッ素イオン供給物の濃度を高くすることができ、高濃度のフッ素イオン供給物が流動して歯に接触すると考えられる。こうして本発明の歯磨組成物は、歯のエナメル質へのフッ素イオン取り込み量を高くすることができる。なお、水(C)には配合した精製水以外に、例えばソルビトール液等の成分に含まれる水分も含まれる。
【0015】
本発明の歯磨組成物は、糖アルコール(B)と水(C)との質量比(B/C)は1より大きく6以下であり、水(C)よりも糖アルコール(B)の量が多く、歯磨組成物中に飽和溶解状態を越えて含有され、未溶解状態の糖アルコール(B)が存在するものが好ましい。未溶解状態の糖アルコール(B)を存させることによって組成物に構造粘性をもたせつつ、水(C)に溶解されたフッ素イオン供給化合物(A)の流動性を確保する観点から、糖アルコール(B)と水(C)の質量比(B/C)は、さらに1.2〜3が好ましく、特に1.5〜3が好ましい。
【0016】
本発明の歯磨組成物は、前記一定の溶解度を有する糖アルコール(B)を含有するが、さらに20℃において水溶液100gに対し溶解度が30gを超える他の糖アルコール(E)を含有してもよい。他の糖アルコール(E)としては、20℃において水溶液100gに対する溶解度が、30gより高く50g以下の糖アルコール(E1)、50gより高く70g以下の糖アルコール(E2)、70gより高い糖アルコール(E3)を含有することができる。他の糖アルコール(E)は、歯のエナメル質へのフッ素取り込み量の点から糖アルコール(E1)が好ましい。
他の糖アルコール(E)を含有する場合には、歯磨組成物に含有される水(C)に対する質量比(E/C)が1未満であることが好ましく、0.75以下、さらに0.5以下であることが好ましい。
【0017】
他の糖アルコール(E1)を含有する場合には、糖アルコール(B)に対する質量比(E1/B)は1以下が好ましく、さらに0.8以下、さらに0.5以下が好ましい。糖アルコール(E2)を含有する場合には、糖アルコール(B)に対する質量比(E2/B)は0.2以下が好ましく、さらに0.18以下、さらに0.17以下が好ましい。糖アルコール(E3)を含有する場合には、糖アルコール(B)に対する質量比(E3/B)が0.1以下であることが好ましく、さらに0.05以下であることが好ましい。
【0018】
糖アルコール(E1)としては、20℃において水溶液100gに対する溶解度が36gのエリスリトール等が挙げられ、糖アルコール(E2)としては、20℃において水溶液100gに対する溶解度が66gのキリシトール、60gのマルチトール等が挙げられ、糖アルコール(E3)としては、20℃において水溶液100gに対する溶解度が72gのソルビトールが挙げられる。
【0019】
また、本発明の歯磨組成物は、粘結剤(D)を含有するのが好ましい。粘結剤(D)としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、キサンタンガム、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、グアガム、コンドロイチン硫酸ナトリウム等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。
通常、粘結剤(D)は、ゲル状歯磨剤のゲル化用又はペースト状歯磨剤、練り歯磨剤の粘結用として配合されるが、本発明においては、水(C)中のフッ素イオンの流動性を確保する観点から、本発明歯磨組成物中に、0.1質量%以上、1.2質量%以下が好ましく、さらに1.0質量%以下が好ましく、より好ましくは1.0質量%未満、さらに0.8質量%未満であることが好ましい。
【0020】
本発明の歯磨組成物には、前記成分の他、本発明の効果を阻害しない範囲で、発泡剤、発泡助剤、研磨剤、湿潤剤、粘稠剤、ゲル化剤、甘味剤、保存料、殺菌剤、薬効成分、顔料、色素、香料等を適宜含有させることができる。また、本発明の歯磨組成物は、例えば、ゲル状、ペースト状といった剤形に調製され、練り歯磨剤、ゲル状歯磨剤等にすることができる。
【0021】
本発明の歯磨組成物は、20℃における粘度が500〜10000dPa・sであるものが好ましく、さらに1000〜7000dP・sであるものが好ましい。粘度を10000dPa・s以下とすることによって、未溶解状態の糖アルコールにより組成物の構造粘性をもたせつつ、含有される水(C)中のフッ素イオン供給化合物(A)の流動性を確保することができる。歯磨組成物の粘度は、粘度測定用の容器に詰め、20℃の恒温器で24時間保存した後、ヘリパス型粘度計(B型粘度計)を用いて、ロータH7(回転数)2.5rpm、1分間の条件で測定することができる。
【0022】
本発明の歯磨組成物は、25質量%の水を添加したときの粘度(20℃)の低下率が、水を加える前の原液の粘度(20℃)に対して10%以下になるものが好ましく、さらに1〜10%になるものが好ましく、さらに3〜8%、特に3〜7%になるものが好ましい。本発明の歯磨組成物は、未溶解状態の糖アルコールによって組成物に構造粘性を持たせているため、水を添加することによる粘度の低下率は大きい。好適な態様においては、質量比で25%の水で希釈する、歯磨き操作時の唾液による希釈モデルによれば、組成物の粘度が10%以下に低下するため、水(C)中のフッ素イオンが高濃度で流動性をもって歯に適用可能となる。この点から、25質量%の水を添加したときの粘度(20℃)は、水を添加してから1時間以内に測定した粘度としている。
【実施例】
【0023】
以下の実施例において、%は質量%を意味する。
【0024】
試験例1
表1に示すフッ素イオン供給化合物を含有する試料の各成分及びその含有量を混合して実施例1〜4、比較例1〜5の歯磨組成物を調製した。比較例6はフッ素供給物を水に溶解したフッ素溶液である。なお、pHは中性(6〜8)であった。
【0025】
実施例1〜6、比較例1〜6の歯磨組成物、比較例7のフッ素溶液の各試料100mgをHAPペレット(APP−100 HOYA)10mm×10mm×2mmに3分間塗布し、イオン交換水で歯磨組成物を除去してペレットを乾燥させた。乾燥後のペレットから1Nの塩酸によって30秒間フッ素イオンの抽出を行い、フッ素イオン電極(ionplus-Fluoride(ORION社製))を用い、イオンアナライザー(Expandable ionAnalyzer EA 940(ORION社製))を使用してHAPペレットに吸着したフッ素量を定量した。
粘度は、試料及び試料を25%の精製水で希釈した試料について粘度を測定した。測定条件は、20℃の恒温器で1時間保存した後、B型粘度計でロータH7を用い、(回転数)2.5rpm、1分間の条件で測定した。但し、希釈後、粘度が500dPa・s以下の試料はロータH2により同じ条件で測定した。
【0026】
【表1】

【0027】
表1に示すように、20℃において水溶液100gに対して5〜30g溶解する糖アルコール(B)を水(C)より多く含有する実施例1〜6の歯磨組成物のフッ素取り込み量は、フッ素溶液の比較例6よりも高い結果であった。また、本発明の歯磨組成物のフッ素取り込み量は、キシリトール(溶解度は20℃において水溶液100gに対して66g)を40g含有する比較例1、水(C)よりも糖アルコール(B)の含有量が少ない比較例2、4、5、糖アルコール(B)を全く含まない比較例3、及び糖アルコール(B)の含有量が水(C)に対して6倍を超える比較例6のいずれの歯磨組成物よりも高い結果を得た。
また、実施例1〜6の歯磨組成物は、20℃において水溶液100gに対して5〜30g溶解する糖アルコール(B)が水(C)よりも多く(糖アルコール(B)/水(C)の質量比が1より大きく)、粘結剤の含有量が1%以下である。そのため実施例1〜6の歯磨組成物を水25%によって希釈した20℃の粘度(P2)は、希釈前の20℃の粘度(P1)に対して10%以下に低下しており、未溶解状態の糖アルコールによる組成物の構造粘性が希釈によって低下していると判断できる。これに対して比較例1〜4の歯磨組成物は、粘結剤によって粘性を持たせているため、希釈後の粘度低下は10%以上であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)、(B)及び(C):
(A)フッ素イオン供給化合物をフッ素換算で0.002〜5質量%、
(B)20℃において水溶液100gに対し5〜30g溶解する糖アルコール 30〜65質量%、
(C)水 10〜25質量%
を含有し、成分(B)と成分(C)の質量比(B/C)が1より大きく6以下である歯磨組成物。
【請求項2】
(B)糖アルコールが、マンニトール、α−D−グルコピラノシル−1,6−ソルビトール及びα−D−グルコピラノシル−1,6−マンニトールから選ばれる1以上である請求項1記載の歯磨組成物。
【請求項3】
さらに、(D)粘結剤を0.1〜1.2質量%含有する請求項1又は2に記載の歯磨組成物。
【請求項4】
粘度(20℃)が、500〜10000dPa・sである請求項1〜3のいずれか1項に記載の歯磨組成物。
【請求項5】
質量比で25質量%の水を加えて希釈したときの粘度の低下率が、希釈前の粘度の10%以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の歯磨組成物。

【公開番号】特開2011−74066(P2011−74066A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187963(P2010−187963)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】