説明

歯科インプラント用シーリング剤

【課題】 歯科インプラント治療において、アバットメントの上に上部構造体を固定する際に、余剰セメントが、アバットメントと歯周縁部との間の微小溝(サルカス)に入り込むのを、簡便な手段で良好に防止すること。
【解決手段】
(A)水溶性高分子、(B)水、(C)無機微粒子、好適には平均粒子径0.001〜0.1μmのシリカを含んだペーストからなる、好適にはコーンプレート型粘度計を用いて測定した粘度η320.1(32℃、せん断速度0.1/sでの60秒後の測定値)が5〜200Pa・sである歯科インプラント用シーリング剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用インプラントの支台部と上部構造体(人工補綴物)の固定時に用いるシーリング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科インプラントとは、歯牙欠損部の再現のために、天然歯根の代用として顎骨に人工歯根を埋入し、上部に補綴物を装着する治療である。斯様な歯科インプラントは、フィクスチャーと呼ばれる歯根部と、アバットメントと呼ばれる歯肉縁部を貫通する支台部とから構成されている。上記フィクスチャーは一般的にチタン製であり、他方、支台部は、チタン、金合金などの金属製のものと、ジルコニアなどのセラミックス製のものとがある。アバットメントの上には、金、銀、パラジウム合金、セラミックスやレジンなどから作られる上部構造体(人工補綴物)が装着される。
【0003】
アバットメントと上部構造体との固定は、スクリューで固定する方式と、歯科用セメントを用いて固定する方式とがある。このうち、後者の歯科用セメントを用いて固定する方式(以下、「セメント固定方式」とも略する)は、審美性に優れると共に、アバットメントと上部構造体とを強固に固定することができることから、近時、その需要が増大しつつある。この方式には、接着性レジンセメント、グラスアイオノマー、カルボキシレート、リン酸亜鉛などの歯科用セメントが使用される。
【0004】
上部構造体とアバットメントとを、これらのセメントによって固定させる場合、両者の隙間に充分な量のセメントを行き渡らせるために、過剰量のセメントが使用されるのが一般的である。この場合、図2に示すような問題が生じる。すなわち、図2は、従来の歯科インプラント治療において、アバットメント2の上に上部構造体3をセメント固定方式により固定する状態を示す概略図である。図2のAに示すように、歯根部7にはフィクスチャー1が埋設され、その上には歯肉縁部5を貫通してアバットメント2が連結されている。このアバットメント2の上に上部構造体3が装着されるわけであるが、その固定を強固とするため、上部構造体3の下部装着面に予めセメント8を塗布させておく(セメントはアバットメント2の上面に塗布しても良い)。その上で、 上部構造体3をアバットメント2に、上方から圧着させるわけであるが、前記したようにアバットメント2の上面へのセメント8の塗布は通常、過剰量で行われているから、その余剰セメント9は図2のB図に示すように、押下する上部構造体に圧されて、両部材の界面から周囲にはみ出す。
【0005】
この余剰セメント9を、このまま上部構造体3の周壁面や歯肉縁部5の表面に付着したままで放置しておくと、セメント硬化後には固着して除去し難くなるため、できるだけ早くに未硬化の状態で除去する必要がある。そうして、この余剰セメント9の除去は、水銃11により圧水12をかけて、洗い流すことにより行われている。これにより図2のC図に示すように、上記上部構造体3の周壁面や歯肉縁部5の表面に付着した余剰セメント9のほとんどは簡単に除去できるのが普通であるが、上記余剰セメント9はこれら開放面に付着するものだけではなく、装着された上部構造体やその下のアバットメントと歯周縁部との間の微小溝(サルカス)4に入り込んでいる一部もある。しかして、このサルカス4は、隙間が狭く、且つ深い構造を有しているため、その深部に入り込んだ余剰セメントは、上記圧水による洗浄では十分に除去できないことが多く、このまま深部で硬化してしまい、歯周組織の炎症等の問題を引き起こす原因になっていた。
【0006】
この問題を解決するために、アバットメントと上部構造体の固定の際に、圧排コードによってサルカスを封鎖し、余剰セメントをサルカスに流入させない方法が提案されている(非特許文献1)。
【0007】
また、歯科治療の分野では、治療する部分の周囲に保護材を配置し、治療する部分と治療を要しない部分とに区画し、治療に使用する材料などが治療を要しない部分に影響を及ぼさないようにマスキングすることが行われている。しかして、これらのマスキングが行われる治療に使用する材料の中には、上記歯科用セメントのような重合性組成物も含まれており、これらの保護材として、ワセリン等の汎用ペーストの他、二酸化珪素粉末をエチレングリコール等の水溶性溶媒に分散させたペーストや、こうしたペーストに重合性組成物と重合開始剤を配合させた硬化性ペーストを用いることの記載や示唆がなされている(特許文献1)。これらの表面保護材を適用する歯科治療の対象として、上記歯科インプラントのアバットメントに上部構造体を装着する場合は具体的には掲げられてはいないが、同じ歯科治療同士であり、適用容易と言えなくもない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】中島康ら著、「別冊歯科衛生士 みるみる理解できる 図解 スタッフ向けインプラント入門」、クインテッセンス出版株式会社発行、2007年、第105ページ
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−370914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前記したアバットメントと上部構造体の固定に際し、サルカスの深部に余剰セメントが入り込み除去し難い問題を、良好に解決する手段は、現状見出せていない。例えば、上記圧排コードを用いる方法は、操作が煩雑になり、好ましくない。
【0011】
また、既存の表面保護材を、該余剰セメントのサルカスへの浸入防止に応用したとしても、例えばワセリンは付着性が強すぎる。
【0012】
他方、二酸化珪素粉末を水溶性溶媒に分散させたようなペーストはパサつきが生じ、その隙間から余剰セメントがサルカスに浸入する虞や、インプラント施術中にシーリング剤が乾燥し易くなり、それにより無機微粒子の周囲への固着が生じ、除去時にサルカスに残留する虞等があった。さらに、こうしたペーストに重合性組成物と重合開始剤を配合させた場合には、ペーストを配置後硬化させれば余剰セメントのサルカスへの浸入防止性の向上には効果的であるものの、その後の除去性を大きく損なっていた。特に、この表面保護材自身の硬化破片がサルカス内に入る虞も生じ、これが炎症の原因になることさえ懸念された。
【0013】
以上から、この課題の解決が強く望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行ったところ、水溶性高分子材料、水、無機微粒子からなるペーストをサルカス上部開口端に配置して、サルカス内へのセメントの流入を防止することにより、上記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
即ち、本発明は、(A)水溶性高分子、(B)水、(C)無機微粒子、を含んだペーストからなることを特徴とする歯科インプラント用シーリング剤である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の歯科インプラント用シーリング剤は、インプラント治療でアバットメントに上部構造体を固定するに際して、予め、サルカスの上部開口端を覆うようにその周辺に配置して使用される。こうすることで、上記サルカスの上部開口端を良好に封鎖し、上部構造体の押下により、周囲にはみ出す余剰セメントが該サルカス内へ浸入することを良好に防止できる。また、ペーストを配置する際の塗布性に優れ、上部構造体の装着後は、水洗、好適には水銃により圧水をかけることで容易に除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、歯科インプラント治療において、本発明のシーリング剤を用いて、アバットメントの上に上部構造体をセメント固定方式により固定する状態を示す概略図である。
【図2】図2は、従来の、歯科インプラント治療において、アバットメントの上に上部構造体をセメント固定方式により固定する状態を示す概略図である。
【符号の説明】
【0018】
1 フィクスチャー
2 アバットメント
3 上部構造体
4 サルカス部
5 歯肉縁部
6 歯槽骨
7 歯根部
8 セメント
9 余剰のセメント
10 シーリング剤
11 水銃
12 圧水
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のシーリング剤は、(A)水溶性高分子、(B)水、(C)無機微粒子を含んだペーストからなる。以下、上記ペーストを構成する各成分について説明する。
(A)水溶性高分子
本発明において水溶性高分子とは、20℃の常圧下にて水に対して1重量%以上、より好適には5重量%以上の濃度の溶解性を有する高分子を意味する。このような水溶性高分子は、組成物を所望の粘度に調整させる作用を発揮する。したがって、このような水溶性高分子に代えて、親水性の化合物でも低分子の有機化合物、例えば、エチレングリコールやグリセリンを用いたのでは低粘度であるために所望の粘度範囲に調整し難く、余剰セメントのサルカスへの侵入防止が非常に困難になる。
【0020】
このような水溶性高分子を具体的に例示すれば、グアーガム、ローカストビーンガム、クインスシード、カラギーナン、ガラクタン、アラビアゴム、トラガント、ペクチン、マンナン、デンプン、キサンタンガム、デキストリン、サクシノグルカン、カードラン等の多糖類;、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、コラーゲンなどのタンパク質類;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース等のセルロース類;、可溶性デンプン、カルボキシメチルデンプン、メチルデンプン等のデンプン類、アルギン酸塩、アルギン酸プロピレングリコール等のアルギン酸類;、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、カルボキシビニル高分子、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセリン、ポリエーテル変性シリコーン等の合成高分子が挙げられる。
【0021】
これら水溶性高分子の中でも、水への溶解性、水洗時の除去性、入手の容易さ、コスト等の理由から、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースが好適に使用される。
【0022】
これら水溶性高分子は、単独で、また必要に応じて2種以上混合して使用することも可能である、また、上記水溶性高分子の平均分子量は特に限定されないが、保護層の形成性及び水洗時の除去性の観点から重量平均分子量(Mw)で400〜1,000,000、より好適には1,000〜600,000の範囲である。
【0023】
一般に、重量平均分子量が上記範囲より小さいと、保護層の形成性が低下し、サルカス上での形状保持性が低下する傾向があり、また、上記範囲より大きすぎても粘度が上昇し、後述するシリンジ状容器に収納した際の吐出性や、塗布性、さらには水洗時の除去性が低下する傾向がある。
(B)水
本発明のシーリング剤において水は、上記(A)水溶性高分子を溶解させ、後述の(C)無機微粒子を分散させるための媒体になる。それによりシーリング剤の粘度が調整され、水洗での除去性が向上する。このような水としては、蒸留水、イオン交換水等が好適に使用できる。
(C)無機微粒子
本発明のシーリング剤において無機微粒子は、ペーストにチキソトロピー性を付与する効果を発揮する。それによりペーストは、塗布時には良好な流動性を有し、配置した後は優れた形状保持性で保護層を形成し、サルカスの上部開口端を高度に封鎖する。特に、シーリング剤は歯周の細かい部位に配置させ易いため、シリンジ状容器に収納するのが好ましいところ、この場合、容器の先端の注射針や充填用チップからの吐出時には粘度が低いことが要求されるため、高剪断力下では低粘度で、静置状態(シーリング剤配置後)には粘度上昇を示す、上記チキソトロピー性を有することが強く望まれる。
【0024】
斯様に優れたチキソトロピー性を発揮させるためには、該無機微粒子の平均粒子径は、一般には0.005〜0.1μmであり、より好適には0.008〜0.05μmである。平均粒子径がこの範囲にあると、ペーストは操作性に優れる粘度となり、さらにチキソトロピー性が発現しやすくなり、該性状の調整も容易で好ましい。なお、本発明において、無機微粒子の平均粒子径は、微粒子の測定に適しているレーザ回折・散乱法を用いた粒度分布測定装置により測定して算出した体積平均粒子径を言う。
【0025】
上記無機微粒子について具体的に例示すると、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、非晶質シリカ、シリカ−ジルコニア、シリカ−チタニア、シリカ−チタニア−酸化バリウム、石英、アルミナ等の無機酸化物が挙げられる。本発明において、特に好適な無機微粒子は、チキソトロピー性の発現の容易さやコストの面から、シリカ、アルミナが挙げられる。
【0026】
本発明のシーリング剤において、上記各成分の配合量は、特に制限されるものではないが、(A)水溶性高分子は、余剰セメントのサルカス内への浸入することを防止する優れた保護層の形成性、及び塗布性や水洗による除去性の良好さを考慮すると、(B)水100質量部に対して0.01〜50質量部が好ましく、0.1〜30質量部がより好ましい。また、(C)無機微粒子は、チキソトロピー性を十分に発揮し、上記諸性状をより優れたものに高める観点から、
0.1〜30質量部が好ましく、1〜20質量部がより好ましい。
【0027】
この他、本発明のシーリング剤には、着色剤、防腐剤、ビタミン剤などの添加剤が含まれていてもよい。また、エチレングリコールやグリセリンの親水性溶媒は、本発明の効果を大きく損なわない範囲であれば、上記(B)水の一部に代えて配合しても良い。その配合量は、水100質量部に対して20質量部以下が好ましい。なお、重合性組成物や重合開始剤は、使用時にペーストが硬化して、その除去性が低下するため、通常は配合を避けるべきである。
【0028】
本発明のシーリング剤は、上記の如くに(A)水溶性高分子と(C)無機微粒子の両方を用いて、ペーストの粘度を調整していることが重要である。いずれかを用いずにシーリング剤を適度な粘度に調整しても、十分な効果は発揮されない。例えば、水溶性高分子の添加量の増加のみによって粘度を向上させても、シーリング剤を操作する際に糸引きが発生し易くなり、操作性に劣るものになる。他方、無機微粒子の増加のみにより粘度を向上させると、ペーストがそぼろ状になり、その隙間から余剰セメントがサルカスに浸入するようになる。また、インプラント施術中にシーリング剤が乾燥し易くなり、それにより無機微粒子の周囲への固着が生じるようになり、除去時にサルカスに残留する虞が生じる。
【0029】
本発明のシーリング剤は、前記各成分の好適な配合量の範囲内においても、コーンプレート法を用いて測定した粘度η320.1(32℃,せん断速度0.1/sでの60秒後の測定値)が5〜200Pa・s、特に、10〜100Pa・sの範囲にするのがより好ましい。シーリング剤の粘度がこの範囲にあることで、サルカス内へのセメントの浸入が一層高度に防げるものになる。また、本発明のシーリング剤は、前記したようにシリンジ状の容器に収納するのが好ましいところ、この粘度の範囲であれば、注射針や充填用チップからの吐出性に優れたものになる。
【0030】
ここで、上記η320.1が5Pa・s未満だと保護層の形状保持性が低いため、サルカス上部にシーリング剤を配置しても、余剰セメントがシーリング剤を押しのけてサルカス内へ流入してしまい、その浸入防止効果が高度に満足できなくなる。また、このη320.1が、200Pa・s以上の場合、シーリング剤が硬すぎて、シリンジ状容器からの吐出性が低下し、塗布性が十分でないものになる。
【0031】
このような粘度が5〜200Pa・sの範囲のペーストは、水溶性高分子の分子量や添加量、無機微粒子の添加量などにより変化するため、その組成は一概には決められないが、例えば、(A)水溶性高分子として、平均分子量2万〜5万のポリエチレングリコールを用い、(C)無機微粒子として平均粒子径0.005〜0.02μmのシリカを用いるのであれば、(B)水100質量部に対して上記(A)成分を1〜20質量部、より好ましくは5〜15質量部配合し、(C)成分を3〜10質量部、より好ましくは5〜8質量部配合するのが良好である。
【0032】
本発明のシーリング剤は、前述したようにチキソトロピー性を有しており、これにより優れた効果が発揮されるものであり、次に示すチキソトロピー指数(TI)により、その程度を表すことができる。すなわち、チキソトロピー指数(TI)は、前記コーンプレート型粘度計を用いて測定した、粘度 η250.1 (25℃、せん断速度0.1/sでの60秒後の測定値) とη251.0 (25℃、せん断速度1.0/sでの60秒後の測定値)とを用いて、下記式:
TI=η250.1/η251.0
の式で表すことができる。本発明のシーリング剤は、該チキソトロピー指数(TI)が2.0〜10.0、より好ましくは2.5〜9.5の範囲にあるのが一般的である。
【0033】
次に、本発明のシーリング剤の使用方法について、図1の概略図により説明する。
【0034】
図1のA図に示すように、インプラント治療の施術箇所において、そのサルカス4の上端開口付近に本発明のシーリング剤を塗布する(A図のアバットメントの左側に位置するサルカス)。このとき、サルカス4の上端開口部を封鎖する状態にあることが重要である。なお、サルカス4の上端開口部が封鎖されていれば、サルカス内部が空洞でもよいし、サルカス内部にシーリング剤を注入して充填していてもよい(A図のアバットメントの右側に位置するサルカス)。サルカス4の上端開口部が塞がれたのを確認した後、上部構造体3の下部装着面に、常法に従って歯科用セメントを塗布する。その上で、上部構造体3をアバットメント2に圧着させる。その際に、図1のB図に示したように、余剰セメント9が両部材の界面から周囲にはみ出すが、サルカス4の上端開口部を塞いでいる本発明のシーリング剤10により、サルカス4に余剰セメント9が浸入することなく、上部構造体3を装着できる。このようにして上部構造体3を装着した後、該余剰セメントが硬化する前に、水銃11により圧水12をかけて、治療箇所周囲を水洗する。これにより、図1のC図に示したように、上記余剰セメント9は除去されるが、それに伴って、上記サルカス4の上部開口端を封鎖して配置されていた本発明のシーリング剤10の保護層も簡単に除去することができる。なお、シーリング剤10を、サルカス4内部に注入していた場合も、このシーリング剤は水との親和性が良く硬化性でもないため、上記圧水12をかけることにより、良好に除去できる。この水洗は、上記水銃による圧水の放射が最も好ましいが、うがいを行って実施しても良い。
【0035】
既に説明したとおり、本発明のシーリング剤は、ペースト排出口が注射針や充填用チップである細官であるシリンジ状容器に収納するのが好ましいが、その他、軟膏容器や壷状容器等に収納しても何ら構わない。
【実施例】
【0036】
以下に本発明に関する実施例と比較例を示すが、本発明は該実施例に限定されるものではない。本発明中並びに実施例に示した略称・略号については次の通りである。
〔名称または構造〕
PEG 1,540:ポリエチレングリコール 平均分子量1,540 和光純薬製
PEG 35,000:ポリエチレングリコール 平均分子量25,000〜35,000 メルク製
PEG 500,000:ポリエチレングリコール 平均分子量300,000〜500,000 和光純薬製
EG:エチレングリコール 和光純薬製
QS: シリカ 平均粒子径0.01μm トクヤマ製
*:平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(ベックマンコールター社製 LS230)により、エタノールを分散媒として測定し、偏光散乱強度差測定(PIDS)系を用いて体積平均粒子径を算出した値である。
AE: シリカ 平均粒子径0.08μm トクヤマ製
*:平均粒子径はQEと同じ方法により測定した値である。
【0037】
なお、物性の評価は以下の方法で行った。
(1)粘度測定
コーンプレート型粘度計(BOHLIN社製CSレオメーター CVO120HR)にシーリング剤を適量載せ、32℃で保持しながら粘度の測定を開始し、せん断速度0.1/sでの測定開始から60秒後の粘度をη320.1とした。なお、粘度の測定条件は、コーン直径が2cm、コーンの傾斜角度は1°とした。
(2)チキソトロピー指数
前述のコーンプレート型粘度計にシーリング剤を適量載せ、25℃で保持しながら粘度の測定を開始し、せん断速度0.1/sでの測定開始から60秒後の粘度をη250.1、せん断速度1.0/sでの測定開始から60秒後の粘度をη251.0とした。なお、粘度の測定条件は、コーン直径が2cm、コーンの傾斜角度は1°とした。
【0038】
粘度を下式に代入し、チキソトロピー指数TIを算出した。
【0039】
TI=η250.1/η251.0
(3)吐出性評価
シーリング剤を1mlテルモシリンジ(テルモ社)に充填し、トクヤマエッチングゲル(トクヤマデンタル社)のチップを用いて該シーリング剤を吐出した際に、簡単に吐出できるものを吐出性が良好であるとし、その評価を○とした。また、吐出に力が必要であり、臨床上使用に堪えないものの評価を×とした。
(4)サルカス封鎖性評価
保存修復用顎模型[D18FE−500E](ニッシンデンタル社)に、支台・窩洞形成模型A55A−111(右側前歯1番のジャケットクラウン用支台歯)を用いた。これらを擬似インプラントと見なし、歯科用ハイブリッド型硬質レジンパールエステ(トクヤマデンタル社)を用いて通法に従い上部構造体を作製した。なお、この擬似インプラントには、擬似サルカスが、5mmの深さで、且つ開口端部0.1mmの幅で形成されていた。
【0040】
吐出性評価において1mlテルモシリンジに充填したシーリング剤を、トクヤマデンタルエッチングゲルのチップを用いて歯肉部にサルカス上部開口端上に位置するように吐出した。その後、トクソーアイオノマー(トクヤマデンタル社製の歯科用グラスアイオノマーセメント)を指定の粉液比で練和してペースト状にしたものを0.1g量り取り、上部構造体の下部装着面に塗布して該上部構造体の合着を行った。上記上部構造体の合着に伴い、圧されて上部構造体の周壁面や歯肉縁部上にはみ出した余剰セメントを、これが半硬化状態の時、前記サルカス上部開口端上に位置させていたシーリング剤と共に探針により除去した。その後、10分間放置後し擬似サルカス内を、探針により探り、この中に余剰セメントが浸入していた場合はこれを掻き出し、その上部構造体のマージン部からの長さを測ることにより、余剰セメントの擬似サルカス部に侵入した侵入深さを求め、サルカス封鎖性を評価した。
【0041】
余剰セメントが侵入した深さが1mm以下であれば、セメントは深く侵入しておらずサルカス封鎖性が良好だと判断し、○の評価とした。また、余剰セメントが侵入した部位が1mm以上であれば、サルカス封鎖性が不良であるとし、×の評価とした。
(5)除去性
サルカス封鎖性評価と同様の模型、上部構造体を用いた。シーリング剤を擬似サルカス部内全体に詰まるように侵入させた。その後、水銃〔ツインパワータービンPスタンダードタイプ PAR−E(モリタ社製)〕で5秒間注水し、シーリング剤の除去性を評価した。
【0042】
擬似サルカス部にシーリング剤の残留がなければ○、擬似サルカス部にシーリング剤が残留していた場合、×の評価とした。
実施例1
水100質量部に対しPEG35,000を12質量部溶解させ、その後QSを6質量部添加して均一に分散させ、シーリング剤を調整した。このシーリング剤の粘度を測定したところ、η320.1は26Pa・sであった。また、η250.1は34Pa・sであり、η251.0は7Pa・sであり、TIは4.9であった。このシーリング剤の吐出性は良好であった。また、このシーリング剤のサルカス封鎖性は0mmであり、サルカス封鎖性は良好だった(○)。また、除去性も良好であった(○)。
実施例2〜5
実施例1と同様に、表1に示す組成のシーリング剤を調製した。これらのシーリング剤の吐出性、サルカス封鎖性、除去性について、いずれも良好であった。
比較例1
実施例1と同様に、表1に示す組成のシーリング剤を調製した。テルモシリンジに充填したが、ペーストが硬く吐出が困難であり、サルカス封鎖性、除去性の評価はできなかった。
比較例2〜4
実施例1と同様に、表1に示す組成のシーリング剤を調製した。これらのシーリング剤については、吐出性、サルカス封鎖性、除去性のいずれかが不良であり、シーリング剤として充分な物性が得られなかった。
【0043】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)水溶性高分子、(B)水、(C)無機微粒子を含んだペーストからなることを特徴とする、歯科インプラント用シーリング剤。
【請求項2】
(C)無機微粒子の平均粒子径が0.001〜0.1μmである、請求項1に記載の歯科インプラント用シーリング剤。
【請求項3】
コーンプレート型粘度計を用いて測定した粘度η320.1(32℃、せん断速度 0.1/sでの60秒後の測定値)が5〜200Pa・sであることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の歯科インプラント用シーリング剤。
【請求項4】
コーンプレート型粘度計を用いて測定した、粘度 η250.1 (25℃、せん断速度0.1/sでの60秒後の測定値) とη251.0 (25℃、せん断速度1.0/sでの60秒後の測定値)とを用いて、下記式:
TI=η250.1/η251.0
で求めたチキソトロピー指数(TI)が、2.0〜10.0であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の歯科インプラント用シーリング剤。

【図1】
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【図2】
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