説明

歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着剤

【課題】印象材とトレーとの間の接着剤の接着力をさらに向上させ、金属製、レジン製およびモデリングコンパウンド製のいずれのトレーに対しても高い接着力を示し、特に、レジン製トレーにおいて、トレー表面の粗さが小さい場合においても高い接着力を示す接着剤を開発すること。
【解決手段】(A)分子中にアミノ基を有するカップリング剤により表面処理する等して製造した、表面にアミノ基を有する無機粒子、好適には表面に有するアミノ基数が0.5個以上/nmであるもの、および
(B)溶剤
を含んでなることを特徴とする、歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとを接着するための接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
歯牙等を修復するために、鋳造歯冠修復処理または欠損補綴処理等を必要とする際には、まず、支台歯等の型を取る。次に、その採得された型を用いて、石膏製等の模型を作製する。そして、その模型を元に補綴物を作製し、作製された補綴物を支台歯等に装着する。この支台歯等の型を印象と称し、印象を採得するための硬化体を印象材と称する。
【0003】
一般的に、印象材として、アルジネート印象材、寒天印象材、シリコーンゴム印象材、ポリサルファイドゴム印象材、あるいはポリエーテルゴム印象材等が用いられる。その中でも、アルジネート印象材は、安価かつ取扱いが容易であるため、最も広く用いられる。アルジネート印象材は、アルギン酸塩を主成分とする基材と、硫酸カルシウムを主成分とする硬化材とから成り、当該基材と当該硬化材とを水の存在下で練和すると、ゲル状硬化体が得られることを利用した印象材である。
【0004】
アルジネート印象材を用いて印象を採得する作業は、以下の手順で行う。まず、歯列を模した印象用トレーに、硬化前の基材と硬化材とを混練したものを盛り付ける。次に、口腔内の歯牙を包み込むように、印象材を盛り付けたトレーを歯牙に押し付ける。そして、印象材が硬化した後に、印象材とトレーとを一体として歯牙から外して、口腔外に撤去する。
【0005】
印象を採得する際に用いられるトレーは、既製トレーあるいは個人トレーの2種類に大別される。既製トレーは、既製の大きさおよび形状を有するトレーである。具体的な既製トレーとしては、ステンレス、真鍮、あるいは真鍮にクロムめっきを施した金属製トレー等が挙げられる。また、個人トレーは、各個人に合わせてその形状が個別に作製されるトレーである。具体的な個人トレーとしては、ポリメタクリル酸エステルからなるレジン製トレー、あるいは熱可塑性樹脂からなるモデリングコンパウンド製トレー等が挙げられる。
【0006】
アルジネート印象材は、前述の各トレーに対する密着性が低いので、印象材を歯牙から外す際に、印象材がトレーから剥離することがある。印象材がトレーから剥離すると、印象の形状が大きく変化しやすいため、精度の高い印象が採得できないという問題が生じる。
【0007】
上述の問題を解決するために、網状、アンダーカット状あるいはパンチ穴を有するトレーを用いる方法も考えられる。このような形状を有するトレーを用いることにより、トレーに接触する印象材の面積が増加するため、印象材とトレーとの保持力が向上する。したがって、印象材をトレーから剥離しにくくすることができる。
【0008】
一方、上述のような形状のトレーではなく、プレート状等の既製トレーあるいは個人トレーを用いる際には、別の方法にて印象材とトレーとの保持力を高める必要がある。その方法の一つに、トレーと印象材との間に、微粉体および溶剤を含有する接着剤を用いて接着する方法が提案されている。(特許文献1を参照。)
【特許文献1】特開2001−17449号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上述の従来技術には次のような問題がある。網状等の特定の形状を付与すると、トレーのコストが高くなる。また、特許文献1に示されている接着剤は、溶剤の浸透力によってトレーの表面を膨潤、溶解させ微粉体をトレー表面に付着させることにより、物理的勘合力によって印象材を保持しているにすぎず、ばらつきが大きいという問題があった。よって、この方法はレジン製トレーやモデリングコンパウンド製トレーには有効であるが、金属製トレーには効果がないといった問題点があった。このような状況に鑑み本発明者らは、高分子量のポリアミン化合物、溶剤、さらに有機過酸化物を含む接着剤が、金属製、レジン製およびモデリングコンパウンド製のいずれのトレーに対しても高い接着力を有することを見い出し先に出願した(特願2007−171692号)。しかしながら、トレーの表面性状、特にレジン製トレーにおいて、トレー表面の粗さが小さい場合に接着力が低下することがわかり解決が望まれていた。
【0010】
そこで、本発明は、印象材とトレーとの間の接着剤の接着力をさらに向上させ、金属製、レジン製およびモデリングコンパウンド製のいずれのトレーに対しても高い接着力を示し、特に、レジン製トレーにおいて、トレー表面の粗さが小さい場合においても高い接着力 を示す接着剤を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するため、本発明者は鋭意研究した結果、表面にアミノ基を有する無機粒子を、溶剤中に含んでなる組成物をトレーとアルジネート印象材との間に存在せしめたところ、トレーとアルジネート印象材との間に安定した高い接着力が発現することを見い出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、表面にアミノ基を有する無機粒子、および溶剤を含んでなる歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着剤である。
【0013】
このような組成の接着剤を採用すると、アルジネート印象材と印象用トレーとの間の接着力をさらに強力にすることができる。したがって、アルジネート印象材が印象用トレーから剥がれてしまうことを効果的に防止できる。この優れた接着力は、印象用トレーが、金属製、レジン製およびモデリングコンパウンド製のいずれの材質であっても良好に発揮され、特に、レジン製トレーにおいて、トレー表面の粗さが小さい場合においても高い接着力である優れたものになる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、印象材とトレーとの間の接着剤の接着力をさらに向上させることができる。特に、本発明の構成の接着剤によれば、レジン製トレーにおいて、トレー表面の粗さが小さい場合、具体的にはトレー表面の、JIS B 0601に基づいて接触型表面粗さ計で測定した粗さRaが1μm以下、より好ましくは0.5μm以下であるトレーにおいても強固に接着することができ、極めて有意義である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着剤の好適な実施の形態を説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態に何ら限定されるものではない。
【0016】
接着剤として、表面にアミノ基(−NH)を有する無機粒子を含むものを用いることにより、粒子表面のアミノ基とアルジネート印象材中のカルボキシル基との間で架橋が形成されると考えられる。また、表面にアミノ基を付与することによってトレー材料に対しての親和性が高くなり、トレー材料と接した際に強固に密着すると考えられる。さらに、溶剤の浸透力により無機粒子がトレー表面に付着され、物理的勘合力もあわせて付与することができるため、トレーの表面性状によらず、トレーとアルジネート印象材とを安定的に強固に接着することができる。
【0017】
本実施の形態に係る接着剤に用いられる無機粒子は特に限定されず、具体的には、シリカガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、アルミノシリケートガラス、及びフルオロアルミノシリケートガラス、重金属(例えばバリウム、ストロンチウム、ジルコニウム)を含むガラス;それらのガラスに結晶を析出させた結晶化ガラス、ディオプサイド、リューサイト等の結晶を析出させた結晶化ガラス等のガラスセラミックス;シリカ−ジルコニア、シリカ−チタニア、シリカ−アルミナ等の複合無機酸化物;あるいはそれらの複合酸化物にI族金属酸化物を添加した酸化物;シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の金属無機酸化物;等が使用できる。なかでも、粒子表面にアミノ基を付与しやすい点から、シラノール基を有する無機粒子が好ましく、シリカガラス、フルオロアルミノシリケートガラスや、シリカ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニアなどの金属酸化物が好適である。これらは単独にまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0018】
本実施の形態に係る接着剤に用いられる無機粒子の表面にアミノ基を付与する方法は特に制限がなく、公知の技術によって行なうことができる。例えば、無機粒子表面を、分子中にアミノ基を有するカップリング剤で表面処理する方法や、無機粒子の表面を700℃〜1000℃の温度範囲でアンモニアと反応させことにより、表面のシラノール基をアミノ基へ置換する方法などが挙げられる。
【0019】
無機粒子表面をカップリング剤で処理する方法に用いられる、分子中にアミノ基を有するシランカップリング剤としては、アミノメチルトリメチルシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−アミノエチルアミノメチルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、3−アミノプロピルジエトキシメチルシラン、3−(2−アミノエチルアミノプロピル)ジメトキシメチルシラン、3−(2−アミノエチルアミノプロピル)トリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−(2−アミノエチルチオエチル)トリエトキシシラン、3−(2−(2−アミノエチルアミノエチルアミノ)プロピル)トリメトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノプロピル)トリエトキシシランなどが挙げられる。
【0020】
また、分子中にアミノ基を有するチタネート系カップリング剤としては、イソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネートなどが挙げられる。これらは単独にまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0021】
該カップリング剤を用いて前記の無機粒子を表面処理する方法は特に制限なく公知の方法が使用可能である。具体的に例示すれば、無機粒子及びカップリング剤を、適当な溶媒中でボールミル等を用いて分散混合させ、エバポレーターや噴霧乾燥機で乾燥した後、50〜150℃に加熱する方法や、無機粒子及びカップリング剤をアルコール等の溶剤中で攪拌下に加熱する方法等が挙げられる。
【0022】
本実施の形態に係る接着剤に用いられる、表面にアミノ基を有する無機粒子において、接着性の観点、つまりアルジネート印象材との反応性の観点から、粒子表面のアミノ基の数は、0.5個以上/nmが好ましく、1個以上/nmが特に好ましい。粒子表面のアミノ基の数の上限は、特に制限されるものではないが、通常は2個以下/nmである。粒子表面のアミノ基の測定方法としては、JIS K7237、ASTM D 2074の方法により測定したアミン価より、粒子1gあたりのアミノ基の個数を測定し、その値を粒子の比表面積で割ることにより求められる。該粒子の比表面積は、BET法によって測定した値を適用する。
【0023】
本実施の形態に係る接着剤に用いられる、表面にアミノ基を有する無機粒子において、その粒子径は特に限定されないが、物理的勘合力を高め、レジン製トレーにおいて、トレー表面の粗さが小さい場合において高い接着力を発揮させる観点からは、平均粒子径が10μm以下の粒子が好ましく、溶剤中での沈降性を考慮すると、3μm以下の粒子が特に好適である。また、平均粒子径はあまり小さくても接着剤の粘度が高くなりすぎるため、0.01μm以上であるのが好適である。本発明において、上記表面にアミノ基を有する無機粒子の平均粒子径は、光回折法を用いた粒度分布計により測定した値をいう。
【0024】
また、該粒子の形状についても特に限定されず、ゾルーゲル法によって合成された球状や略球状粒子、粉砕によって得られた不定形状粒子など任意の形状の粒子が使用可能である。
【0025】
本実施の形態に係る接着剤に用いられる、表面にアミノ基を有する無機粒子の濃度は接着性の観点から、接着剤全体に対して、0.1〜20質量%が好ましく、1〜15質量%が特に好ましい。
【0026】
本実施の形態に係る接着剤において使用される溶剤は、接着剤の操作性を向上させるために用いられる。したがって、流動性およびトレーとの親和性に優れる溶剤であれば、公知のものが何ら制限なく使用できる。具体的には、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、若しくはブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル等のエステル類;トルエン、キシレン、若しくはベンゼン等の芳香族炭化水素類;へキサン、ペンタン、ブタン等の脂肪族炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルム等の塩素系溶剤が挙げられる。その中でも、揮発性が高く、後述する乾燥が容易なものが好ましい。さらには、レジン製トレーやモデリングコンパウンド製トレーに対して浸透力が高いことから、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;アセトン;酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類が特に好適に用いられる。
【0027】
本実施の形態に係る接着剤は、表面にアミノ基を有する無機粒子を溶剤中に分散させておくのが好ましく、その製造方法は特に限定されないが、マグネチックスターラーや羽根撹拌等による通常の混合のほかに、超音波分散、ディスパーザー分散、湿式ボールミル分散等の方法を用いることができる。
【0028】
本実施の形態に係る接着剤の使用方法は、特に制限されない。一般には、ハケ、ヘラ、筆、あるいはローラー等でトレーに塗布、またはトレーに噴霧する方法を採用することができる。
【0029】
接着剤をトレーに塗布または噴霧した後には、好ましくは、余剰な溶剤を揮発させるために乾燥させる。乾燥の方法としては、例えば、自然乾燥、加熱乾燥、送風乾燥、減圧乾燥、あるいは、加熱乾燥と送風乾燥を組み合わせる熱風乾燥等を採用するのが好ましい。
本実施の形態に係る接着剤が適用されるアルジネート印象材としては、公知のものが何ら制限されることなく用いられる。アルジネート印象材の具体的な種類として、アルギン酸塩を主成分とする基材ペーストと、硫酸カルシウムを主成分とする硬化材ペーストとを混合して用いるタイプ、あるいはアルギン酸塩および硫酸カルシウムを主成分とする粉体に水を混合して用いるタイプが挙げられる。
【0030】
さらに詳しく述べると、ペーストを混合して用いるタイプのアルジネート印象材に用いられる基材ペーストは、アルギン酸カリウム、シリカ粉末、水酸化カリウム、ポリアクリル酸および水等から構成される。同様に、硬化材ペーストは、粒状シリカ、流動パラフィン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、リン酸三ナトリウム、フッ化チタン酸カリウム、超微粒子シリカおよび硫酸カルシウム等から構成される。粉体に水を混合して用いるタイプのアルジネート印象材において、その粉体は、アルギン酸カリウム、シリカ粉末、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、リン酸三ナトリウム、フッ化チタン酸カリウム、または硫酸カルシウム等から成る。
【実施例】
【0031】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、接着試験方法を(1)に、使用したトレーの種類を(2)に、評価方法を(3)に、実施例および比較例で用いた無機粒子を(4)に示す。
(1)接着試験方法
予め調製した接着剤を、(2)に記す各トレーに筆で塗布し、エアーブローにて余剰の溶剤を揮発させた。そして、該トレーに練和したアルジネート印象材を盛り付けた後、300gの加重をかけて、37℃下で3分間放置した。その後、硬化した印象材をトレーから引き剥がした。
【0032】
次に、(3)に記す評価基準に従い、印象材とトレーとの界面にて凝集破壊を引き起こしている面積の割合に基づいて、接着性能を評価した。全ての接着試験において、APミキサーII(株式会社トクヤマデンタル製)にて練和した、ペーストタイプのアルジネート印象材「AP−1ペースト」(株式会社トクヤマデンタル製)を用いた。
(2)トレーの種類
X:金属製トレーとして、ニッケルめっきを施した真鍮製トレー「COE104」(株式会社ジーシー製)を用いた。
Y1:レジン製トレーとして、「オストロンII」(株式会社ジーシー製)を板状に硬化させたものを用いた。オストロンIIの粉、液を混和したものをPPフィルム上に載せ、その上からさらに別のPPフィルムを乗せ圧接したもの(接触型表面粗さ計(サーフコム、東京精密社製)で測定した表面粗さRa0.1μm)を用いた。
Y2:Y1の表面を注水下、P600の耐水研磨紙にて研磨し表面を荒らしたもの(接触型表面粗さ計(サーフコム、東京精密社製)で測定した表面粗さRa1.9μm)を用いた。
Z:モデリングコンパウンド製トレーとして、「モデリングコンパウンド中性」(株式会社ジーシー製)を用いた。
(3)評価基準
◎:印象材とトレーを手で引き剥がすと、全面的に印象材の凝集破壊を引き起こす。
○:印象材とトレーを手で引き剥がすと、印象材の大部分が凝集破壊を引き起こすが、一部はトレーとの界面から剥がれる。
△:印象材とトレーを手で引き剥がすと、印象材の一部が凝集破壊を引き起こすが、大部分はトレーとの界面から剥がれる。
×:印象材とトレーを手で引き剥がすと、全面的に印象材がトレーの界面で容易に剥がれる。
(4)実施例および比較例で用いた無機粒子
F1:製造例1で製造した無機粒子、平均粒子径1μm、表面アミノ基数3個/nm
F2:製造例2で製造した無機粒子、平均粒子径1μm、表面アミノ基数0.6個/nm
F3:製造例3で製造した無機粒子、平均粒子径0.15μm、表面アミノ基数4.8個/nm
F4:製造例4で製造した無機粒子、平均粒子径0.08μm、表面アミノ基数2.3個/nm
F5:製造例5で製造した無機粒子、平均粒子径0.5μm、表面アミノ基数1.7個/nm
F6:製造例6で製造した無機粒子、平均粒子径1μm、表面アミノ基数 なし
F7:エクセリカ(非晶質球状シリカ、株式会社トクヤマ製)平均粒子径1μm、表面アミノ基数 なし
なお、上記無機粒子の平均粒子径の測定は、光回折法による粒度分布測定(コールター、ベックマンコールター社製)により実施した。また、表面アミノ基数は、ASTM D 2074の方法により測定したアミン価とBET法(マイクロメリティクス、島津社製によって測定した比表面積値から求めた。
【0033】
製造例1
200mlのナスフラスコに、非晶質の球状シリカであるエクセリカSE−1(株式会社トクヤマ社製)36g、0.5gの3−アミノプロピルトリメトキシシラン、0.1gのn−プロピルアミンおよび120gの塩化メチレンを加え、室温にて1時間撹拌した後、エバポレーターにて溶媒を除去した。さらに80℃で15時間真空乾燥を行い、粒子表面にアミノ基を有する無機粒子を得た。得られた粒子の、光回折法により測定した平均粒子径は1μmであった。また、ASTM D 2074の方法に準拠し、クリスタルバイオレットを指示薬とし塩酸による中和滴定によって求めたアミノ基数を、BET法によって測定した比表面積で割って求めた、粒子表面のアミノ基は3個/nmであった。
【0034】
製造例2
3−アミノプロピルトリメトキシシラン量を0.1gとした以外は製造例1と同様に行い粒子表面にアミノ基を有する無機粒子を得た。得られた粒子の平均粒子径は1μm、粒子表面のアミノ基は0.6個/nmであった。
【0035】
製造例3
200mlのナスフラスコに非晶質の無定形シリカであるQS102(株式会社トクヤマ社製)10g、4gの3−アミノプロピルジエトキシメチルシラン、0.05gのn−プロピルアミンおよび130gの塩化メチレンを加え、室温にて1時間撹拌した後、エバポレーターにて溶媒を除去した。さらに80℃で15時間真空乾燥を行い、粒子表面にアミノ基を有する無機粒子を得た。得られた粒子の平均粒子径は0.15μm、粒子表面のアミノ基は4.8個/nmであった。
【0036】
製造例4
200mlのナスフラスコに、ゾル−ゲル法で合成した球状のシリカ−チタニア粒子を30g、1.1gのイソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート、0.1gのn−プロピルアミンおよび80gの塩化メチレンを加え、室温にて1時間撹拌した後、エバポレーターにて溶媒を除去した。さらに80℃で15時間真空乾燥を行い、粒子表面にアミノ基を有する無機粒子を得た。得られた粒子の平均粒子径は0.08μmで、粒子表面のアミノ基は2.3個/nmであった。
【0037】
製造例5
200mlナスフラスコに不定形のフルオロアルミノシリケートガラス30g、0.5gの3−アミノプロピルトリエトキシシラン、0.1gのn−プロピルアミンおよび80gの塩化メチレンを加え、室温にて1時間撹拌した後、エバポレーターにて溶媒を除去した。さらに80℃で15時間真空乾燥を行い、粒子表面にアミノ基を有する無機粒子を得た。得られた粒子の平均粒子径は0.5μmで、粒子表面のアミノ基は1.7個/nmであった。
【0038】
製造例6
200mlのナスフラスコに、非晶質の球状シリカであるエクセリカSE−1(株式会社トクヤマ社製)36g、0.5gの3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、0.1gのn−プロピルアミンおよび120gの塩化メチレンを加え、室温にて1時間撹拌した後、エバポレーターにて溶媒を除去した。さらに80℃で15時間真空乾燥を行い、無機粒子を得た。得られた粒子の平均粒子径は1μmで、粒子表面のアミノ基は0個/nmであった。
【0039】
実施例1
表面にアミノ基を3個/nm有する無機粒子F1を0.05g、溶剤として酢酸エチル9.95gをスクリュー管中に量りとり、超音波分散によって粒子を分散させて接着剤を作製した。得られた接着剤を用いて、各種トレーに対する接着試験を行った。結果を表1に示す。金属製トレーに対しては比較的高い接着力を示し、表面粗さの異なるレジン製トレーおよびモデリングコンパウンド製トレーに対しては強固に接着した。
実施例2〜6
実施例1で用いた無機粒子F1を用いて、表1に示す各組成で実施例1と同様に接着剤を調製し接着試験を行った。結果を表1に示すが、いずれのトレーに対しても強固に接着した。
実施例7
表面にアミノ基を0.6個/nm有する無機粒子F2を用いて、表1に示す組成で実施例1と同様に接着剤を調製し接着試験を行った。その結果、金属製トレーおよび表面の粗さの小さいレジン製トレーに対しては比較的高い接着力を有し、表面粗さの大きいレジン製トレーおよびモデリングコンパウンド製トレーに対しては強固に接着した。
実施例8〜17
表面にアミノ基を有する無機粒子F2〜F5を用いて、表1に示す各組成で実施例1と同様に接着剤を調製し接着試験を行った。結果を表1に示すが、いずれのトレーに対しても強固に接着した。
比較例1〜3
表面にアミノ基を有する無機粒子を含まない系として、アミノ基を有さないシランカップリング剤で処理した無機粒子を用いた試料(比較例1)、表面処理をしていない無機粒子を用いた試料(比較例2)および溶剤のみの試料(比較例3)を調製した。これらの接着剤を用いて接着試験を行った。結果を表1に示すが、比較例1、2では表面粗さの大きいレジン性トレーおよびモデリングコンパウンド製トレーには接着性を示したが、金属製トレーおよび表面粗さの小さいレジン性トレーには接着しなかった。また、比較例3はいずれトレーに対しても接着しておらず、トレーから印象材を引き剥がすと、印象材がトレーから簡単に剥離した。
参考例1
特願2007−171692号に記載されている接着剤を以下のように調製し接着試験を行った。
【0040】
1gのポリアリルアミン(PAA、分子量3000)と0.5gの過酸化ベンゾイル(BPO)を8.5gのエタノールに均一に溶解し接着剤を調製した。接着試験の結果を表1に示すが、金属製トレー、表面粗さの大きいレジン製トレーおよびモデリングコンパウンド製のトレーには強固に接着したが、表面粗さの小さなレジントレーに対する接着力は今一歩十分には満足できるものではなかった。
【0041】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、アルジネート印象材を使用して歯牙の型取りを行う歯科治療の分野に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)表面にアミノ基を有する無機粒子、および(B)溶剤を含んでなることを特徴とする、歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着剤。
【請求項2】
(A)表面にアミノ基を有する無機粒子が、その表面に有するアミノ基数が0.5個以上/nmである請求項1記載の、歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着剤。
【請求項3】
(A)表面にアミノ基を有する無機粒子が、平均粒子径0.01〜3μmのものである請求項1または請求項2記載の、歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着剤。
【請求項4】
(A)表面にアミノ基を有する無機粒子が、分子中にアミノ基を有するカップリング剤により表面処理されたものである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着剤。
【請求項5】
(B)溶剤が、アルコール類、アセトン、および酢酸エステル類から選ばれた少なくとも1種である請求項1〜4のいずれか一項に記載の歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着剤。

【公開番号】特開2009−23958(P2009−23958A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−189363(P2007−189363)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(391003576)株式会社トクヤマデンタル (222)
【Fターム(参考)】