説明

歯科用ペースト系グラスアイオノマーセメント組成物

【課題】従来の歯科用グラスアイオノマーセメントと同様の操作性を持ちながら、機械的強度、特に圧縮強度が高く、しかも2ペースト系で操作性に優れている歯科用ペースト系グラスアイオノマーセメント組成物を提供する。
【解決手段】それぞれ所定量のα−β不飽和カルボン酸重合体とα−β不飽和カルボン酸重合体と反応せず且つ水中で単分散状態とならない充填材と水とから成り、平均粒子径が1〜100nmのコロイダルシリカがSiO2濃度1〜50重量%に水に対して単分散状態となっているシリカ水性ゾルをコロイダルシリカ量として所定量配合させた第1ペーストと、所定量のフルオロアルミノシリケートガラス粉末が配合された第2ペーストとで歯科用ペースト系グラスアイオノマーセメント組成物を構成する。第2ペーストは、水溶性高分子材料から成る増粘剤と水、又は酸基を持たない重合性モノマーを含有する場合がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化体の物理的強度のうち、特に圧縮強度を向上させた歯科用ペースト系グラスアイオノマーセメント組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯科用グラスアイオノマーセメントはフルオロアルミノシリケートガラス粉末とα−β不飽和カルボン酸重合体とを水の存在下で反応させ硬化させて使用される歯科用セメントであり、生体に対する親和性が極めて良好であることや、硬化体が半透明であり審美性に優れていることや、エナメル質や象牙質等の歯質に対して優れた接着力を有していることや、更にはグラスアイオノマーセメント用ガラス粉末であるフルオロアルミノシリケートガラス粉末中に含まれるフッ素による抗う蝕作用があることなどの種々の優れた特徴を有しているため広く用いられている。
【0003】
このような種々の優れた特徴を有している歯科用グラスアイオノマーセメントは、歯科分野で、う蝕窩洞の充填、クラウン,インレー,ブリッジや矯正用バンドの合着、窩洞の裏層、根管充填用のシーラー、支台築造や予防填塞などに広く使用されている。
歯科用グラスアイオノマーセメントの形態としては、フルオロアルミノシリケートガラス粉末とα−β不飽和カルボン酸重合体水溶液とを使用直前に混合練和して使用するものが一般的であるが、歯科用グラスアイオノマーセメントの硬化体への物理的強度、特に曲げ強度の改善を目的として重合性モノマーをα−β不飽和カルボン酸重合体水溶液中に添加したレジン強化型歯科用グラスアイオノマーセメントも開発されている。
【0004】
更に近年では、重合性モノマーとフルオロアルミノシリケートガラス粉末とを混練した第1ペーストと、α−β不飽和カルボン酸重合体水溶液を主成分とした第2ペーストとを使用直前に混合練和して使用するペーストタイプのものも提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
これら従来の歯科用グラスアイオノマーセメントは、硬化体に応力が加えられた場合、セメント硬化体内部の微小な空洞,欠陥や硬化体表面の傷などからの亀裂により破壊されてしまうことがあった。これは、Si−O又は,Al−Oという強固な共有結合によって構成され均質な三次元的網目構造を持つガラス部分と比較すると、α−β不飽和カルボン酸重合体と水とガラス表面部とが反応して構成されたマトリックス部分が脆いため、硬化体の一部分に発生した微小な亀裂に応力が集中すると亀裂が強度の高いガラス部分を回避して強度の低いマトリックス部分に急速に拡大して硬化体が破壊されると考えられている。従って、歯科用グラスアイオノマーセメントの硬化体において優れた機械的性質を得るためには、ガラス粉末の含有量を多くしてマトリックス部分を少なくすること、言い換えれば粉末成分の充填量を多くすることで破壊進展距離を増やし応力を分散させることが効果的であると考えられる。しかしながら粉末充填量を上げて粉液を混合練和することは非常に練和し難くなること、更には練和したペーストの流動性が歯科材料として扱い難いことなど歯科用セメントとしての操作性に関して問題がある。
【0006】
歯科材料としての操作性を損なわずに物理的強度を向上させる提案として、α型第3リン酸カルシウムと、第4リン酸カルシウムと、第2リン酸カルシウムとの配合量を最適化した粉と水を練和する形態の高強度リン酸カルシウムセメントがある(例えば、特許文献2参照。)。しかし、リン酸カルシウム系セメントはその物理的強度が元々全般的に低いため、歯科材料として十分な強度を有していない。
また、高強度の繊維状細片やCPSAガラス繊維微粉末を配合することで機械的強度を向上させた歯科用セメンも開示されている(例えば、特許文献3及び4参照。)。しかし、このような繊維状のフィラーを使用した場合は、強度の向上に方向性ができてしまうことがあり、曲げ強度の向上は認められても、圧縮強度にはほとんど効果が得られない問題があった。また繊維状のフィラーを配合するとセメントの混合を行い難くなり、また磨耗等により繊維端が硬化体表面から露出すると硬化体の表面滑光沢性が低下するという実用上の問題もあった。
【0007】
【特許文献1】特開平11−228327号公報
【特許文献2】特開平6−172007号公報
【特許文献3】特開昭59−161307号公報
【特許文献4】特開2000−119119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は従来の歯科用グラスアイオノマーセメントと同様の操作性を持ちながら、機械的強度、特に圧縮強度が高く、しかも2ペースト系で操作性に優れている歯科用ペースト系グラスアイオノマーセメント組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、歯科用グラスアイオノマーセメント組成物を構成する、それぞれ所定量のα−β不飽和カルボン酸重合体とこのα−β不飽和カルボン酸重合体と反応せず且つ水中で単分散状態とならない所定量の充填材と水とから成る第1ペースト中に、平均粒子径が1〜100nmのコロイダルシリカがSiO2濃度1〜50重量%に水に対して単分散状態となっているシリカ水性ゾルをコロイダルシリカ量として所定量配合させることによって、前記課題を解決することができることを究明して本発明を完成した。
【0010】
即ち本発明は、
20〜60重量%のα−β不飽和カルボン酸重合体と、
10〜60重量%の該α−β不飽和カルボン酸重合体と反応せず且つ水中で単分散状態とならない充填材と、
コロイダルシリカ量として0.1〜10重量%の、平均粒子径が1〜100nmのコロイダルシリカがSiO2濃度1〜50重量%に水に対して単分散状態となっているシリカ水性ゾルと、
残部である20〜60重量%の水とから成る第1ペーストと、
該第1ペーストと所定の混合割合で混合されて反応する第2ペーストとから成る歯科用ペースト系グラスアイオノマーセメント組成物であって、
該第2ペーストが、
50〜85重量%のフルオロアルミノシリケートガラス粉末と、
0.01〜10重量%の水溶性高分子材料から成る増粘剤と、
残部である20〜45重量%の水とから成ることを特徴とする歯科用ペースト系グラスアイオノマーセメント組成物である。
【0011】
そしてこのような歯科用ペースト系グラスアイオノマーセメント組成物において、第2ペーストが、
50〜85重量%のフルオロアルミノシリケートガラス粉末と、
0.01〜10重量%の水溶性高分子材料から成る増粘剤と、
コロイダルシリカ量として0.1〜10重量%の、平均粒子径が1〜100nmのコロイダルシリカがSiO2濃度1〜50重量%に水に対して単分散状態となっているシリカ水性ゾルと、
残部である20〜45重量%の水とから成っていると、歯科用ペースト系グラスアイオノマーセメント組成物全体における単分散状態のコロイダルシリカ量が多くなるので、機械的強度、特に圧縮強度を高めることができて好ましいのである。
【0012】
また、このような歯科用ペースト系グラスアイオノマーセメント組成物において、第2ペーストが、
50〜85重量%のフルオロアルミノシリケートガラス粉末と、
15〜50重量%の酸基を持たない重合性モノマーとから成り、
該第2ペーストと第1ペーストとの少なくとも一方に、合計量が該第1ペーストと該第2ペーストとを所定の混合割合で混合する合計量100重量部に対して0.05〜10重量部となる割合で重合触媒が配合されていると、歯科用グラスアイオノマーセメントの硬化体への物理的強度、特に曲げ強度の改善を目的として重合性モノマーを添加したレジン強化型歯科用グラスアイオノマーセメントの機械的強度、特に圧縮強度を高めることができて好ましいのである。
【0013】
そしてこのような歯科用ペースト系グラスアイオノマーセメント組成物において、α−β不飽和カルボン酸重合体としては、アクリル酸,メタアクリル酸,2−クロロアクリル酸,3−クロロアクリル酸,アコニット酸,メサコン酸,マレイン酸,イタコン酸,フマール酸,グルタコン酸,シトラコン酸の中から選ばれた1種以上を含む共重合体又は単独重合体であって、重合可能なエチレン性不飽和二重結合を含まない重量平均分子量5,000〜40,000の重合体であるものが好ましく、このα−β不飽和カルボン酸重合体と反応せず且つ水中で単分散状態とならない充填材としては、SiO2,Al23,TiO2の中から選ばれた1種以上であることが好ましく、フルオロアルミノシリケートガラス粉末としては、Al3+:10〜21重量%、Si4+:9〜24重量%、F:1〜20重量%、Sr2+及び/又はCa2+の合計:10〜34重量%の構成であることが好ましいのである。
【発明の効果】
【0014】
前述したような構成より成る本発明に係る歯科用ペースト系グラスアイオノマーセメント組成物は、生体に対する親和性が極めて良好であることや、硬化体が半透明であり審美性に優れていることや、エナメル質や象牙質等の歯質に対して優れた接着力を有していることや、更にはグラスアイオノマーセメント用ガラス粉末であるフルオロアルミノシリケートガラス粉末中に含まれるフッ素による抗齲蝕作用があることなどの種々の優れた特徴を有している歯科用グラスアイオノマーセメントの特性をそのまま有しておりながら、2ペーストタイプであるので、従来の粉液タイプのように使用直前に所定量づつ計量して練和紙上で混合・練和しなくても2つのペーストをミキサー機能付きの押出し器で押し出すことにより直ちに使用できるから操作性に優れており、更に少なくとも第1ペースト中に平均粒子径が1〜100nmのコロイダルシリカが水に対して単分散状態となっているシリカ水性ゾルがコロイダルシリカ量として所定量配合されているので、歯科用グラスアイオノマーセメントの硬化体内部の微小な空洞や欠陥や硬化体表面の傷などを単分散状態のコロイダルシリカが埋めて硬化体の圧縮強度などの物理的強度を向上させることができるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る歯科用ペースト系グラスアイオノマーセメント組成物は、
20〜60重量%のα−β不飽和カルボン酸重合体と、
10〜60重量%の該α−β不飽和カルボン酸重合体と反応せず且つ水中で単分散状態とならない充填材と、
コロイダルシリカ量として0.1〜10重量%の、平均粒子径が1〜100nmのコロイダルシリカがSiO2濃度1〜50重量%に水に対して単分散状態となっているシリカ水性ゾルと、
残部である20〜60重量%の水とから成る第1ペーストと、
50〜85重量%のフルオロアルミノシリケートガラス粉末を含み、該第1ペーストと所定の混合割合で混合されて反応する第2ペーストとから成ることを特徴とする。
【0016】
そして、第2ペーストは、
50〜85重量%のフルオロアルミノシリケートガラス粉末と、
0.01〜10重量%の水溶性高分子材料から成る増粘剤と、
残部である20〜45重量%の水とから成る場合(請求項1)と、
50〜85重量%のフルオロアルミノシリケートガラス粉末と、
0.01〜10重量%の水溶性高分子材料から成る増粘剤と、
コロイダルシリカ量として0.1〜10重量%の、平均粒子径が1〜100nmのコロイダルシリカがSiO2濃度1〜50重量%に水に対して単分散状態となっているシリカ水性ゾルと、
残部である20〜45重量%の水とから成っている場合(請求項2)と、
50〜85重量%のフルオロアルミノシリケートガラス粉末と、
15〜20重量%の酸基を持たない重合性モノマーとから成り、
第2ペーストと第1ペーストとの少なくとも一方に、合計量が第1ペーストと第2ペーストとを所定の混合割合で混合する合計量100重量部に対して0.05〜10重量部となる割合で重合触媒が配合されている場合(請求項3)とが存在する。
【0017】
第1ペースト中のα−β不飽和カルボン酸重合体は、α−β不飽和モノカルボン酸又はα−β不飽和ジカルボン酸の重合体であり、アクリル酸,メタアクリル酸,2−クロロアクリル酸,3−クロロアクリル酸,アコニット酸,メサコン酸,マレイン酸,イタコン酸,フマール酸,グルタコン酸,シトラコン酸の中から選ばれた1種以上を含む共重合体又は単独重合体であって重合可能なエチレン性不飽和二重結合を含まない重量平均分子量5,000〜40,000の重合体であることが好ましい。重量平均分子量が5,000未満の場合は硬化体の強度が低くなり易く、また歯質への接着力も低下する傾向があり、40,000を超える場合は練和時の粘度が高過ぎて練和が難しくなる傾向がある。
【0018】
このα−β不飽和カルボン酸重合体の第1ペースト中への配合量は、20〜60重量%である。これは、20重量%未満では歯科用グラスアイオノマーセメントとしての特徴である歯質接着性が低下し易く、60重量%を超えると硬化体の溶解度が増加し易く、耐久性が劣る傾向があるからである。
【0019】
第1ペースト中のα−β不飽和カルボン酸重合体と反応せず且つ水中で単分散状態とならない充填材は、具体的には、コロイダルシリカなどのSiO2粉末、鉱物である長石,硅砂,石英,カオリン,タルク、金属イオンを放出しない結晶性ガラスである例えばストロンチウムガラス,バリウムガラス,ホウケイ酸ガラス、その他にも炭酸カルシウム,リン酸カルシウム,Al23粉末,TiO2粉末,硫酸バリウムなどを挙げることができる。更に、このような充填材を含んだポリマーを粉砕した複合フィラーなども使用可能である。勿論、これらを2種以上混合して使用しても差し支えない。中でも、SiO2,Al23,TiO2の中から選ばれた1種以上であることが好ましく、その表面が粉末成分100重量部に対して0.01〜20重量部の重合可能なエチレン性不飽和二重結合を含む有機化合物によって処理されていることが好ましい。この処理が行われていると、硬化体の最終強度を向上させることができ、口腔内安定性に役立つ。この表面処理に使用される重合可能なエチレン性二重結合を含む不飽和有機化合物としては、例えばビニルトリメトキシシラン,ビニルトリエトキシシラン,γ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン,γ―メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン,ビニルトリクロロシラン,ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シランなどのビニル系シランカップリング剤、メタクリル酸,アクリル酸,マレイン酸などの不飽和カルボン酸などを用いることができる。
【0020】
このα−β不飽和カルボン酸重合体と反応せず且つ水中で単分散状態とならない充填材の平均粒径は0.02〜10μmであることが好ましく、平均粒径が10μmを超える場合は表面の平滑性が得られないので、口腔内での接触感が悪くなる傾向がある。一方、平均粒径が0.02μm未満の微粉を用いた場合は、絶対量として粉末を混合し難く、硬化体の物性が低下してしまう恐れがある。
【0021】
そしてこのα−β不飽和カルボン酸重合体と反応せず且つ水中で単分散状態とならない充填材の配合量は10〜60重量%である。これは、10重量%未満では物性上昇等の効果が得られ難い傾向があり、60重量%を超えると第1ペーストが固くなって第2ペーストとの練和が困難になるばかりか、物性も却って低下する傾向があるからである。
【0022】
第1ペースト中の平均粒子径が1〜100nmのコロイダルシリカがSiO2濃度1〜50重量%に水に対して単分散状態となっているシリカ水性ゾルとしては、例えば特開平4−97929号「セメント混和用微粒子シリカ水性分散体」に開示されており、この特許出願人である日産化学工業株式会社から「スノーテック」という名称で上市されているシリカ水性ゾルを使用することができる。このシリカ水性ゾルのコロイダルシリカの平均粒子径が1nm未満又は100nmを超えると、硬化体の圧縮強度を高める作用が減少するので好ましくなく、より最適なコロイダルシリカの平均粒子径の範囲は5〜25nmである。
【0023】
この平均粒子径が1〜100nmのコロイダルシリカがSiO2濃度1〜50重量%に水に対して単分散状態となっているシリカ水性ゾルの配合量は、コロイダルシリカ量として0.1〜10重量%である。
これは、0.1重量%未満又は10重量%を超えて配合すると、硬化体の圧縮強度を高める作用が減少するからである。
【0024】
第1ペースト中の水は、本発明において必要不可欠な成分である。その理由は、フルオロアルミノシリケートガラスとα−β不飽和カルボン酸の重合体との中和反応が水の存在下で反応が進行するからである。また、水の存在下で本発明に係る歯科用ペースト系グラスアイオノマーセメント組成物は歯の表面と接着する。このように、本発明に係る歯科用ペースト系グラスアイオノマーセメント組成物中に水が存在していることが必要であるが、この水は水単体として第1ペースト中に配合してもよいが、シリカ水性ゾル中の水を使用してもよい。この水の第1ペースト中への配合量は、20〜60重量%であることが必要である。
【0025】
第2ペースト中のフルオロアルミノシリケートガラス粉末は、水の存在下でα−β不飽和カルボン酸の重合体との中和反応が反応する物質であり、従来の歯科用グラスアイオノマーセメントで使用されていたガラス粉末が特に制限されることなく使用可能である。中でもその平均粒径が0.02〜10μm、比重が2.4〜4.0で、主成分としてAl3+,Si4+,F,O2−を含み、更にSr2+及び/又はCa2+を含むものであることが好ましい。平均粒径が10μmを超えると、歯科用グラスアイオノマーセメント硬化体の表面の平滑性が得られないため口腔内での接触感が良くない傾向があり、0.02μm未満の微粉であると絶対量として粉末が入り難く物性が低下してしまう恐れがある。なお、粒径は通常の手段を用いて測定することができ、長径と短径との平均値で表す。このようなフルオロアルミノシリケートガラス粉末としては、Al3+:10〜21重量%、Si4+:9〜24重量%、F:1〜20重量%、Sr2+及び/又はCa2+の合計:10〜34重量%の構成であることが好ましい。これら主成分の割合は、歯科用グラスアイオノマーセメントの硬化速度,最終強度,溶解度などの操作性や物性に多大な影響を及ぼす。Al3+の割合が10重量%未満であると歯科用グラスアイオノマーセメントの硬化が緩慢で強度も低くなる傾向にあり、21重量%を超えるとガラスの作製が困難であり、透明性が低下して審美性に劣る傾向がある。Si4+の割合が9重量%未満であるとガラスの作製が困難となり易く、24重量%を超えると歯科用グラスアイオノマーセメントの硬化速度が遅くなり易く、また強度も低くなり耐久性に問題がでる傾向がある。Fの割合が1重量%未満であると歯科用グラスアイオノマーセメント組成物を練和する際の操作余裕が少なく使用操作が困難となり易く、20重量%を超えると歯科用グラスアイオノマーセメントの最終硬化時間が長くなると共に水中での溶解度が高くなり耐久性が劣る傾向がある。Sr2+及び/又はCa2+の合計が10重量%未満であると、歯科用グラスアイオノマーセメントの硬化のシャープさが発揮できず、硬化時間が長くなり易く、更にこの場合はガラスの作製も困難となる傾向があり、34重量%を超えると、歯科用グラスアイオノマーセメントの操作余裕時間が少なくなり硬化が早過ぎて実際の使用が困難となる傾向があると共に水中での溶解度が高くなり耐久性が低下し易い。
【0026】
このようなフルオロアルミノシリケートガラス粉末は、公知のガラス作製法により作製したフルオロアルミノシリケートガラスをボールミル等を用いて粉砕した後にふるいを用いて平均粒径が所望の範囲にあるもの入手することによって得られる。
そして、このフルオロアルミノシリケートガラス粉末は第2ペースト中に50〜85重量%の割合で配合される。この配合量が50重量%未満であると歯科用グラスアイオノマーセメントの硬化体の物性が劣ることがあり、85重量%を超えると第2ペーストが固くなり第1ペーストとの混合時の操作性が悪化し易いので好ましくない。
【0027】
第2ペースト中には、本発明に係る歯科用ペースト系グラスアイオノマーセメント組成物が重合性モノマーを含まない通常のグラスアイオノマーセメント組成物である場合には、ペーストとして適当な粘性を付与するために水溶性高分子材料から成る増粘剤が配合される。
この増粘剤としては、人体に対する毒性が無ければ自由に使用可能であり、例えば、カルボキシメチルセルロースカルシウム,カルボキシメチルセルロースナトリウム,デンプン,デンプングリコール酸ナトリウム,デンプンリン酸エステルナトリウム,メチルセルロース,ポリアクリル酸ナトリウム,アルギン酸,アルギン酸ナトリウム,アルギン酸プロピレングリコールエステル,カゼイン,カゼインナトリウム,ポリエチレングリコール,エチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロース,グルテン,ローカストビーンガム,ゼラチン等が挙げることができ、中でもカルボキシメチルセルロースカルシウム,カルボキシメチルセルロースナトリウムが僅かな量でも増粘効果が高く安価であるので好ましい。これらの水溶性高分子材料から成る増粘剤は2種以上を混合して用いてもよいのは勿論である。
【0028】
この水溶性高分子材料から成る増粘剤は、第2ペースト中に0.01〜10重量%配合される。配合量が0.01重量%未満では増粘剤による増粘効果が得られず、10重量%を超えると硬化体の物性が低下する傾向がある。この水溶性高分子材料から成る増粘剤の配合量はできる限り少ないことが硬化体の物性を低下させないので、0.02〜4重量%の範囲にあることがより好ましい。
【0029】
そしてこの水溶性高分子材料から成る増粘剤が配合される場合には、この水溶性高分子材料から成る増粘剤を溶融させて所望の粘度を発現させるために、残部として20〜45重量%の水が第2ペースト中に配合されていることが必要である。
【0030】
更に、このように第2ペーストがフルオロアルミノシリケートガラス粉末と水溶性高分子材料から成る増粘剤と水とから成っている場合には、更に前記第1ペーストと同様にコロイダルシリカ量として0.1〜10重量%の、平均粒子径が1〜100nmのコロイダルシリカがSiO2濃度1〜50重量%に水に対して単分散状態となっているシリカ水性ゾルが配合されていると、硬化体の圧縮強度を高める作用が更に高まるので好ましく、その配合量がコロイダルシリカ量として0.1〜10重量%でなければならないのは、前記第1ペーストに配合されるシリカ水性ゾルについて説明した理由と同様である。
【0031】
また、第2ペースト中には、本発明に係る歯科用ペースト系グラスアイオノマーセメント組成物が重合性モノマーを含むレジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物である場合には、硬化体の物理的強度、特に曲げ強度の改善を目的として酸基を持たない重合性モノマーが配合される。この酸基を持たない重合性モノマーは、CH2=CR−COO−基(R:H又はCH3)を少なくとも1個含有する重合可能な不飽和有機化合物であり、アクリル酸又はメタアクリル酸のエステルのようなアクリロイド基又はメタクリロイド基を有する重合可能な不飽和有機化合物を指し、第2ペースト中に配合されるフルオロアルミノシリケートガラス粉末と反応しないことが必要である。即ち、フルオロアルミノシリケートガラス粉末と反応するような酸基、例えばカルボン酸、リン酸、硫黄、ホウ酸などを含む酸基を含まない。また、これらに限定されず、フルオロアルミノシリケートガラス粉末と酸−塩基反応をする酸基を含まないことが好ましい。
【0032】
この酸基を持たない重合性モノマーとしては、例えばヒドロキシメタクリレート、グリシジルメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,6ヘキサジオールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、2−ヒドロキシ,1−アクリロキシ,3−メタクリロキシプロパン、ヘキサメチレンジカルバメート、ジ−2−メタクリロキシエチル−2,2,4−トリエチルヘキサメチレンジカルバメートなどが好ましく用いられ、これらは2種以上を一緒に用いてもよい。
【0033】
この酸基を持たない重合性モノマーの配合量は、15〜50重量%である。これは15重量%未満であると歯科用グラスアイオノマーセメントの初期硬化性及び物理的性質が劣ることがあり、50重量%を超えると歯科用グラスアイオノマーセメントの特徴である歯質接着性が劣る傾向がある。
【0034】
そして、第2ペーストがフルオロアルミノシリケートガラス粉末とこの酸基を持たない重合性モノマーとから成る場合には、第2ペーストと第1ペーストとの少なくとも一方に、合計量が第1ペーストと第2ペーストとを所定の混合割合で混合する合計量100重量部に対して0.05〜10重量部となる割合で重合触媒が配合される。
【0035】
この重合触媒としては、化学重合触媒が使用される場合と、光重合触媒が使用される場合とがある。
【0036】
化学重合触媒としては、芳香族スルフィン酸,そのアルカリ塩,芳香族スルホニル化合物のような−SO2−基を少なくとも1個含有する有機芳香族化合物などが使用できる。具体的には、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム,p−トルエンスルフィン酸リチウム,ベンゼンスルフィン酸,ベンゼンスルフィン酸ナトリウム,p−トルエンスルホニルクロライド,p−トルエンスルホニルフルオライド,0−トルエンスルホニルイソシアネート,p−アセトアミドベンゼンスルフィン酸ナトリウムなどが挙げられ、中でもp−トルエンスルフィン酸ナトリウム,ベンゼンスルフィン酸ナトリウムが好ましい。なお、これらの−SO2−基を少なくとも1個含有する有機芳香族化合物は、含水塩であっても差し支えない。但し、これらの化学重合触媒は、酸基を持たない重合性モノマーと同時に配合すると、酸基を持たない重合性モノマーを硬化させる作用があるので第1ペースト中に配合される。また、これらの化学重合触媒をセルロースなどの高分子化合物でマイクロカプセル化し、長期的に安定な保存性を保つことも可能である。化学重合触媒のマイクロカプセル化は、高分子化合物の適切な選択を通じて化学重合触媒を第1ペースト中のみではなく第2ペースト中にも配合することを可能にする。本発明においては、化学重合触媒のマイクロカプセル化には水不溶性の高分子化合物を使用して第2ペースト中に配合するのが好ましい。これは、一般に水不溶性の高分子化合物は水溶性の高分子化合物と比較して、より安定した保存性を有するからである。
【0037】
化学重合触媒のマイクロカプセル化に使用される高分子化合物としては、水不溶性の高分子化合物としてエチルセルロース,酢酸セルロース,ポリビニルホルマール,セルロースアセテートフタレート,セルロースアセテートブタレート,ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート,オイドラキッドなどが例示され、水溶性の高分子化合物としてポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどを例示することができる。マイクロカプセル化した化学重合触媒の平均粒径は、ペースト中で分散させたりできる限りの崩壊性を持たせるために、0.1〜30μmの範囲であることが望ましい。0.1μm未満であるとマイクロカプセル化が難しく、30μmを超えるとペースト中での分散性が悪くなる傾向がある。
【0038】
また、う蝕窩洞の充填に使用する場合など、歯科用ペースト系グラスアイオノマーセメント組成物に充分な光照射を行える用途においては化学重合触媒に代えて光重合触媒を使用し、可視光線により酸基を持たない重合性モノマーを重合させることによりフルオロアルミノシリケートガラス粉末とα−β不飽和カルボン酸重合体との中和反応が終了する間の術者が望むタイミングでペースト系歯科用セメント組成物の硬化を開始させることが可能になる。この場合、一般的に光重合触媒としては増感剤と還元剤との組み合わせが用いられる。
【0039】
増感剤としては、波長390〜830nmの可視光線の作用により重合性モノマーを重合させることのできるものが用いられる。例えば、カンファーキノン、ベンジル、ジアセチル、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジルジ(2−メトキシエチル)ケタール、4,4’−ジメチルベンジル−ジメチルケタール、アントラキノン、1−クロロアントラキノン、2−クロロアントラキノン、1,2−ベンズアントラキノン、1−ヒドロキシアントラキノン、1−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、1−ブロモアントラキノン、チオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−ニトロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、2−クロロ−7−トリフルオロメチルチオキサントン、チオキサントン−10,10−ジオキシド、チオキサントン−10−オキサイド、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、イソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾフェノン、ビス(4−ジメチルアミノフェニル)ケトン、4,4’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ジフェニルフォスフィンオキサイドなどのアシルフォスフィンオキサイド、アジド基を含む化合物などがあり、単独もしくは混合しても使用できる。
【0040】
還元剤としては、3級アミン等が一般に使用される。3級アミンとしては、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、トリエタノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルが好ましい。また他の還元剤として、スルフィン酸ソーダ誘導体、有機金属化合物等が挙げられ、単独若しくは混合しても使用できる。
【0041】
これらの増感剤と還元剤は、一般的に光照射を行うまで酸基を持たない重合性モノマーを硬化させる作用がなく、増感剤又は還元剤同士の反応もないため、第1,第2のどちらのペーストにも配合でき、増感剤と還元剤とを個別に若しくは同時に配合することもできる。但し、光重合触媒の中でも、前述の化学重合触媒と同様、酸基を持たない重合性モノマーを直接重合させる作用のある触媒は第1ペースト中に配合され、適切な高分子化合物の選択を通じてマイクロカプセル化すると第1ペースト中のみではなく第2ペースト中にも配合可能となる。
【実施例】
【0042】
歯科用ペースト系グラスアイオノーセメント組成物の第1ペーストに使用するα−β不飽和カルボン酸重合体として、以下のカルボン酸重合体を準備した。
【0043】
<カルボン酸重合体1>
重量平均分子量が18,000のアクリル酸マレイン酸共重合体。
【0044】
<カルボン酸重合体2>
重量平均分子量が16,000のポリマレイン酸と重量平均分子量が30,000のポリアクリル酸とを重量比で5:1の割合で混合したカルボン酸重合体。
【0045】
<カルボン酸重合体3>
重量平均分子量が16,000のポリマレイン酸と重量平均分子量が24,000のポリアクリル酸とを重量比で5:1の割合で混合したカルボン酸重合体。
【0046】
歯科用ペースト系グラスアイオノーセメント組成物の第1ペーストに使用するα−β不飽和カルボン酸重合体と反応せず且つ水中で単分散状態とならない充填材して、以下の充填材を準備した。
【0047】
<微粉石英>
平均粒径が4μmの微粉石英粉末(商品名:クリスタライトVX−S,龍森社製)。
【0048】
<微粉酸化アルミ>
平均粒径が5μmの微粉酸化アルミ粉末(商品名:アドマファイン アルミナA−500,アドマテックス社製)。
【0049】
<微粉酸化チタン>
平均粒径が0.4μmの微粉酸化チタン粉末(商品名:KRONOS KA−50,チタン工業社製)。
【0050】
<微粉処理石英1>
100gの前記微粉石英に対してγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン濃度10%のエチルアルコール溶液20gを加え、乳鉢中で充分撹拌した後、乾燥機を用いて110℃で2時間乾燥したシラン処理微粉石英粉末。
【0051】
<微粉処理石英2>
100gの前記微粉石英に対してビニルエトキシシラン濃度10%のエチルアルコール溶液20gを加え、乳鉢中で充分撹拌した後、乾燥機を用いて110℃で2時間乾燥したシラン処理微粉石英粉末。
【0052】
歯科用ペースト系グラスアイオノーセメント組成物の第1ペースト、又は第1ペーストと第2ペーストとに使用するシリカ水性ゾルして、以下のゾルを準備した。
【0053】
<ゾル1>
平均粒子径が8〜11nmのコロイダルシリカがSiO2濃度20重量%に水に対して単分散状態となっているゾル(商品名:スノーテックOS、日産化学社製)、
【0054】
<ゾル2>
平均粒子径が10〜20nmのコロイダルシリカがSiO2濃度20重量%に水に対して単分散状態となっているゾル(商品名:スノーテックO、日産化学社製)、
【0055】
歯科用ペースト系グラスアイオノーセメント組成物の第2ペーストに使用するフルオロアルミノシリケートガラス粉末として、以下のガラス粉末を準備した。
【0056】
<ガラス粉末A>
酸化アルミニウム:22g,無水硅酸:43g,フッ化カルシウム:12g,リン酸カルシウム:15g及び炭酸ストロンチウム:8gを充分混合し、1,200℃の高温電気炉中で5時間保持し含量を熔融させた。熔融後、冷却し、ボールミルを用い10時間粉砕し、200メッシュ(ASTM)ふるいを通過させたガラス粉末。
【0057】
<ガラス粉末B>
酸化アルミニウム:23g,無水硅酸:41g,フッ化カルシウム:10g,リン酸カルシウム:13g及びリン酸アルミニウム13gを充分混合し、1,100℃の高温電気炉中で5時間保持し原料を熔融させた。熔融後、冷却し、ボールミルを用い10時間粉砕し、200メッシュ(ASTM)ふるいを通過させた粉をガラス粉末とした。このガラス粉末100gに対してビニルトリエトキシシラン10%濃度のエチルアルコール溶液20gを加え乳鉢中で 充分混合した後、蒸気乾燥器を用い110℃で2時間乾燥燥したシラン処理フルオロアルミノシリケートガラス粉末。
【0058】
歯科用ペースト系グラスアイオノーセメント組成物の第2ペーストに使用する水溶性高分子材料から成る増粘剤として、以下の増粘剤を準備した。
【0059】
<増粘剤1>
カルボキシメチルセルロースナトリウム(商品名:セロゲンHF−600F,第一工業製薬社製)。
【0060】
<増粘剤2>
ヒドロキシエチルセルロース(商品名:セロゲンF−3H,第一工業製薬社製)。
【0061】
歯科用ペースト系グラスアイオノーセメント組成物の第2ペーストに使用する酸基を持たない重合製モノマーとして、以下のモノマー液を準備した。
【0062】
<モノマー液1>
ヒドロキシエチルメタクリレートと、2−ヒドロキシ,1−アクリロキシ,3−メタクリロキシプロパンと、ジ−2−メタクリロキシエチル−2,2,4−トリエチルヘキサメチレンジカルバメートと、グリシジルメタクリレートとを重量比で15:4:4:4の割合で混合したモノマー液。
【0063】
<モノマー液2>
ヒドロキシエチルメタクリレートと、2−ヒドロキシ,1−アクリロキシ,3−メタクリロキシプロパンと、ジ−2−メタクリロキシエチル−2,2,4−トリエチルヘキサメチレンジカルバメートと、1,6ヘキサンジオールメタクリレートとを重量比で10:3:4の割合で混合したモノマー液。
【0064】
歯科用ペースト系グラスアイオノーセメント組成物の第1ペースト及び/又は第2ペーストに使用する重合触媒として、以下の重合触媒を準備した。
【0065】
<重合触媒1>
ベンゼンスルフィン酸ナトリウム。
【0066】
<重合触媒2>
p−トルエンスルホニルクロライド。
【0067】
<重合触媒3>
塩化メチレン500mlにヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート5gを溶解し、そこに平均粒径10μmに調整したベンゼンスルフィン酸ナトリウム10gを分散させ、撹拌下冷却乾燥を行い作製された平均粒径13μmのマイクロカプセル化した重合触媒を芯物質とし、これをポリビニルアルコール10gを溶解した蒸留水500mlに10g加え、撹拌下冷却乾燥を行い作製した平均粒径17μmのマイクロカプセル化した重合触媒。
【0068】
上記各成分を表1に示す割合で配合して第1ペースト及び第2ペースを作製し、この第1ペーストと第2ペースとを表1に示す重量混合比で混合してその歯科用ペースト系グラスアイオノーセメント組成物の圧縮強度比を以下の方法により測定して表1に示した。
【0069】
第1ペーストと第2ペースとを表1に示す重量混合比で混合練和後の試料を内径4mm,長さ6mmの空洞の作られた金属型内に填入し、セロファンを介してガラス板にて圧接し円柱型の硬化体を得た。得られた硬化体を37℃の蒸留水に24時間浸漬し、万能試験機(商品名:オートグラフ,島津製作所社製)を使用してクロスヘッドスピード1mm/min.にて圧縮強度試験を行い、第1ペーストと第2ペースとの重量混合比が1:1である場合にはシリカ水性ゾルを含まない比較例1の圧縮強度97MPaを100として、第1ペーストと第2ペースとの重量混合比が1:3である場合にはシリカ水性ゾルを含まない比較例2の圧縮強度131MPaを100として、第1ペーストと第2ペースとの重量混合比が1:5である場合にはシリカ水性ゾルを含まない比較例3の圧縮強度157MPaを100として、各歯科用ペースト系グラスアイオノーセメント組成物の圧縮強度比とした。
【0070】
その結果、本発明に係る歯科用ペースト系グラスアイオノマーセメント組成物の圧縮強度は、第1ペーストと第2ペースとの重量混合比が1:1である各場合,1:3である各場合及び1:5である各場合において、シリカ水性ゾルを含まない各比較例の歯科用ペースト系グラスアイオノーセメント組成物の圧縮強度より1割〜2割も向上していることが確認できた。
【0071】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
20〜60重量%のα−β不飽和カルボン酸重合体と、
10〜60重量%の該α−β不飽和カルボン酸重合体と反応せず且つ水中で単分散状態とならない充填材と、
コロイダルシリカ量として0.1〜10重量%の、平均粒子径が1〜100nmのコロイダルシリカがSiO2濃度1〜50重量%に水に対して単分散状態となっているシリカ水性ゾルと、
残部である20〜60重量%の水とから成る第1ペーストと、
該第1ペーストと所定の混合割合で混合されて反応する第2ペーストとから成る歯科用ペースト系グラスアイオノマーセメント組成物であって、
該第2ペーストが、
50〜85重量%のフルオロアルミノシリケートガラス粉末と、
0.01〜10重量%の水溶性高分子材料から成る増粘剤と、
残部である20〜45重量%の水とから成ることを特徴とする歯科用ペースト系グラスアイオノマーセメント組成物。
【請求項2】
第2ペーストが、
50〜85重量%のフルオロアルミノシリケートガラス粉末と、
0.01〜10重量%の水溶性高分子材料から成る増粘剤と、
コロイダルシリカ量として0.1〜10重量%の、平均粒子径が1〜100nmのコロイダルシリカがSiO2濃度1〜50重量%に水に対して単分散状態となっているシリカ水性ゾルと、
残部である20〜45重量%の水とから成る請求項1に記載の歯科用ペースト系グラスアイオノマーセメント組成物。
【請求項3】
第2ペーストが、
50〜85重量%のフルオロアルミノシリケートガラス粉末と、
15〜50重量%の酸基を持たない重合性モノマーとから成り、
該第2ペーストと第1ペーストとの少なくとも一方に、合計量が該第1ペーストと該第2ペーストとを所定の混合割合で混合する合計量100重量部に対して0.05〜10重量部となる割合で重合触媒が配合されている請求項1に記載の歯科用ペースト系グラスアイオノマーセメント組成物。
【請求項4】
α−β不飽和カルボン酸重合体が、アクリル酸,メタアクリル酸,2−クロロアクリル酸,3−クロロアクリル酸,アコニット酸,メサコン酸,マレイン酸,イタコン酸,フマール酸,グルタコン酸,シトラコン酸の中から選ばれた1種以上を含む共重合体又は単独重合体であって、重合可能なエチレン性不飽和二重結合を含まない重量平均分子量5,000〜40,000の重合体である請求項1から3までのいずれか1項に記載の歯科用ペースト系グラスアイオノマーセメント組成物。
【請求項5】
α−β不飽和カルボン酸重合体と反応せず且つ水中で単分散状態とならない充填材が、SiO2,Al23,TiO2の中から選ばれた1種以上である請求項1から4までのいずれか1項に記載の歯科用ペースト系グラスアイオノマーセメント組成物。
【請求項6】
フルオロアルミノシリケートガラス粉末が、Al3+:10〜21重量%、Si4+:9〜24重量%、F:1〜20重量%、Sr2+及び/又はCa2+の合計:10〜34重量%の構成である請求項1から5までのいずれか1項に記載の歯科用ペースト系グラスアイオノマーセメント組成物。