説明

歯科用注射器

【課題】歯科医師等の注射を行う者が麻酔薬を注射する際の労力を低減しつつ、小型化、軽量化および低コスト化が可能になるとともに、容易に滅菌を行うことが可能な歯科用注射器を提供する。
【解決手段】歯科用注射器1は、麻酔薬が封入されたカートリッジ2を保持するカートリッジ保持部3と、カートリッジ2のゴム栓9を移動させてカートリッジ保持部3に装着される注射針4から麻酔薬を吐出させるピストン11と、ピストン11が内部を往復するシリンダ12とを備えている。シリンダ12の、ピストン11の突出側の反対側となる他端側には、圧縮空気の供給孔16cと抜け孔16cとが形成されている。この歯科用注射器1では、抜け孔16dが塞がれると、供給孔16cから供給される圧縮空気によって、ピストン11が移動して注射針4から麻酔薬が吐出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科治療において麻酔薬を注射する際に使用する歯科用注射器に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療において麻酔薬を注射する際には、一般に、手動式の注射器が使用されている。しかしながら、歯科治療で使用される注射器の注射針は細く、かつ、歯肉や顎骨等の患部へ麻酔薬を注入する必要があるため、注射器を動作させる際に大きな力が必要となり、注射を行う歯科医師等に大変な労力がかかる。そこで、従来、歯科治療において麻酔薬を注射する際の労力を低減するため、モータを用いて注射針から麻酔薬を吐出させる電動式の注射器が提案されている(たとえば、特許文献1および2参照)。
【0003】
特許文献1および2に記載の注射器では、ラックアンドピニオンおよび減速歯車列を介してモータの動力がプランジャに伝達され、プランジャは、モータから伝達された動力によって、麻酔薬が封入されるカートリッジのゴム栓を押して移動させる。プランジャに押されてゴム栓が移動すると、カートリッジ内の麻酔薬が注射針から吐出されて患部に麻酔薬が注入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−130005号公報
【特許文献2】特開2006−230701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1および2に記載の注射器には、モータおよびモータの駆動回路が内蔵されているため、この注射器は、大型であり、重量も重く、かつ、高価である。また、この注射器には、モータおよび駆動回路が内蔵されているため、蒸気滅菌等の注射器の滅菌が困難であり、院内感染を引き起こすおそれがある。
【0006】
そこで、本発明の課題は、歯科医師等の注射を行う者が麻酔薬を注射する際の労力を低減しつつ、小型化、軽量化および低コスト化が可能になるとともに、容易に滅菌を行うことが可能な歯科用注射器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の歯科用注射器は、麻酔薬が封入されたカートリッジを保持するカートリッジ保持部と、カートリッジのゴム栓を移動させてカートリッジ保持部に装着される注射針から麻酔薬を吐出させるピストンと、ピストンが内部を往復するシリンダとを備え、シリンダの、ピストンの突出側となる一端側または一端側の反対側となる他端側に、圧縮空気の供給孔と抜け孔とが形成され、抜け孔が塞がれると、供給孔から供給される圧縮空気によって、ピストンが移動して注射針から麻酔薬が吐出されることを特徴とする。
【0008】
本発明の歯科用注射器では、シリンダに、圧縮空気の供給孔と抜け孔とが形成され、抜け孔が塞がれると、供給孔から供給される圧縮空気によってピストンが移動して注射針から麻酔薬が吐出される。すなわち、本発明の歯科用注射器では、圧縮空気を用いて注射針から麻酔薬を吐出させている。そのため、注射を行う者が手動でピストンを押して注射針から麻酔薬を吐出させる必要がない。したがって、本発明では、注射を行う者が麻酔薬を注射する際の労力を低減することが可能になる。また、本発明では、供給孔から供給される圧縮空気を用いてピストンを移動させているため、歯科用注射器にモータ等の駆動源を内蔵する必要がない。したがって、本発明では、歯科用注射器の小型化、軽量化および低コスト化が可能になる。また、本発明では、歯科用注射器にモータ等の駆動源が内蔵されていないため、蒸気滅菌等によって歯科用注射器の全体の滅菌を容易に行うことが可能になる。
【0009】
本発明において、歯科用注射器は、抜け孔を開閉するためのレバー部材を備え、レバー部材は、シリンダに回動可能に取り付けられていることが好ましい。このように構成すると、比較的簡易な構成で抜け孔の開閉を行うことが可能になる。
【0010】
本発明において、シリンダの他端側の端面に供給孔と抜け孔とが形成され、シリンダの外周面は、歯科用注射器の握り部となっており、レバー部材は、抜け孔を開閉する開閉部と、シリンダの外周側に配置される操作部とを備え、ピストンの移動方向に直交する方向を軸方向としてシリンダの他端側の外周面に回動可能に取り付けられていることが好ましい。このように構成すると、歯科用注射器の握り部となるシリンダの外周面の近くにレバー部材の操作部が配置されるため、操作部を操作しやすくなる。したがって、レバー部材の操作が容易になる。また、このように構成すると、ピストンが突出するシリンダの一端側の端面に供給孔と抜け孔とが形成されている場合と比較して、ピストンがカートリッジのゴム栓を押す力を高めることが可能になる。
【0011】
本発明において、歯科用注射器は、抜け孔が開放される方向へレバー部材を付勢する付勢部材を備えることが好ましい。このように構成すると、歯科医師等の注射を行う者が付勢部材の付勢力に抗してレバー部材を操作しなければ、抜け孔は塞がれない。すなわち、このように構成すると、注射を行う者が付勢部材の付勢力に抗してレバー部材を操作しなければ、注射針から麻酔薬が吐出されない。したがって、麻酔薬を注射する際の操作ミスによって麻酔薬が患部に注入されるのを防止することが可能になる。
【0012】
本発明において、供給孔は、患者が座る治療用いすを含む歯科用ユニットに搭載される圧縮空気供給源に接続されていることが好ましい。歯科用ユニットには、通常、患者の歯を削るためのエアタービン等が接続される圧縮空気供給源が搭載されているため、このように構成すると、ピストンを移動させるための圧縮空気供給源を別途設ける必要がなくなる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明では、歯科医師等の注射を行う者が麻酔薬を注射する際の労力を低減しつつ、歯科用注射器の小型化、軽量化および低コスト化が可能になるとともに、歯科用注射器の滅菌を容易に行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態にかかる歯科用注射器の斜視図であり、(A)は麻酔薬が注射される前の状態を示す図、(B)は麻酔薬が注射された後の状態を示す図である。
【図2】図1に示す歯科用注射器の断面図であり、(A)は麻酔薬が注射される前の状態を示す図、(B)は麻酔薬が注射された後の状態を示す図である。
【図3】図1に示す歯科用注射器が接続される歯科用ユニットの概略構成を説明するためのブロック図である。
【図4】本発明の他の実施の形態にかかるシリンダ部の構成を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
(歯科用注射器の構成)
図1は、本発明の実施の形態にかかる歯科用注射器1の斜視図であり、(A)は麻酔薬が注射される前の状態を示す図、(B)は麻酔薬が注射された後の状態を示す図である。図2は、図1に示す歯科用注射器1の断面図であり、(A)は麻酔薬が注射される前の状態を示す図、(B)は麻酔薬が注射された後の状態を示す図である。図3は、図1に示す歯科用注射器1が接続される歯科用ユニット21の概略構成を説明するためのブロック図である。
【0017】
本形態の歯科用注射器1(以下、「注射器1」とする。)は、歯科治療において麻酔薬(具体的には、局所麻酔薬)を患者の患部に注射する際に使用される注射器である。注射器1は、麻酔薬が封入されたカートリッジ2を保持するカートリッジ保持部3と、注射針4から麻酔薬を吐出させるためのシリンダ部5およびレバー部材6とを備えている。なお、以下の説明では、図1等のX1方向側を「左」側とし、X2方向側を「右」側とする。
【0018】
カートリッジ2は、略円筒状に形成されるカートリッジ本体7と、カートリッジ本体7の左端に固定される固定側のゴム栓8と、カートリッジ本体7の中に配置され、カートリッジ本体7の中を移動可能な可動側のゴム栓9とを備えている。麻酔薬が注射される前のカートリッジ2では、図2(A)に示すように、ゴム栓9は、カートリッジ本体7の右端側の内部に配置されており、ゴム栓8とゴム栓9との間に麻酔薬が封入されている。
【0019】
カートリッジ保持部3は、略円筒状に形成されており、その内部にカートリッジ2を保持している。カートリッジ保持部3には、図1に示すように、カートリッジ2の中の麻酔薬を目視で確認するための開口部3aが形成されている。カートリッジ保持部3の左端側には、使い捨ての注射針4が、たとえば、ルアーロック方式で装着されている。カートリッジ保持部3の左端側に装着された注射針4の基端側(右端側)は、ゴム栓8を貫通しており、注射針4の基端(右端)は、カートリッジ本体7の内部に配置されている。
【0020】
カートリッジ保持部3の右端側は、カートリッジ保持部3をシリンダ部5に取り付けるための拡径部3bとなっている。拡径部3bの内周面には、メネジが形成されている。カートリッジ保持部3は、シリンダ部5の左端に取り付けられており、カートリッジ保持部3とシリンダ部5とは同軸上に配置されている。
【0021】
シリンダ部5は、ゴム栓9を移動させて注射針4の先端(左端)から麻酔薬を吐出させるピストン11と、ピストン11が内部を往復するシリンダ12とを備えている。ピストン11は、細長い円柱状に形成されるプランジャ13と、プランジャ13の右端に固定される略円板状のピストン本体14とを備えている。シリンダ12は、略有底円筒状に形成されるシリンダ本体15と、シリンダ本体15の開口を覆う蓋部材16とを備えている。本形態では、シリンダ12の外周面は、歯科医師等の注射を行う者が注射をする際に握る握り部となっており、注射を行う者は、たとえば、鉛筆を握るようにシリンダ12の外周面を握る。
【0022】
シリンダ本体15の底部15aは、シリンダ本体15の左端面を構成している。底部15aの中心には、プランジャ13が挿通される挿通孔が形成されている。また、底部15aの中心には、カートリッジ保持部3を取り付けるための略円筒状の突出部15bが形成されている。突出部15bは、底部15aから左側へ突出するように形成されている。突出部15bの外周面には、カートリッジ保持部3の拡径部3bの内周面に形成されるメネジに螺合するオネジが形成されている。また、底部15aには、複数の空気の抜け孔15cが形成されている。たとえば、底部15aには、4個の抜け孔15cが90°ピッチで底部15aを貫通するように形成されている。
【0023】
蓋部材16は、筒部16aと底部16bとを有する有底の筒状に形成されている。この蓋部材16は、シリンダ本体15の右端に形成される開口を覆うように、シリンダ本体15の右端側に固定されている。筒部16aは、シリンダ本体15の右端側の外周面を覆っている。シリンダ本体15の右端側の外周面と筒部16aの内周面との間には、シリンダ12からの空気の漏れを防止するためのOリング17が取り付けられている。
【0024】
底部16bは、シリンダ12の右端面を構成している。底部16bには、圧縮空気の供給孔16cと抜け孔16dとが底部16bを貫通するように形成されている。本形態では、1個の供給孔16cと1個の抜け孔16dとが形成されている。供給孔16cには、圧縮空気の供給管18(図3参照)の一端が取り付けられるコネクタ19が固定されている。
【0025】
供給管18の他端は、図3に示すように、患者が座る治療用いすを含む歯科用ユニット21に搭載されるコンプレッサ等の圧縮空気供給源22に接続されている。供給管18は、たとえば、ホース等の柔軟性を有する管状部材である。歯科用ユニット21は、フットペダル23を備えており、歯科医師等の注射を行う者がフットペダル23を操作すると、圧縮空気供給源22から注射器1に圧縮空気が供給される。なお、歯科用ユニット21は、治療用いす、圧縮空気供給源22およびフットペダル23の他、患者の歯を削るためのエアタービン等を備えている。エアタービン等の圧縮空気を動力として動作する機器は、圧縮空気供給源22に接続されている。
【0026】
プランジャ13は、シリンダ本体15の突出部15bに固定される軸受25に保持されており、ピストン本体14と一緒に左右方向へ移動可能となっている。本形態では、プランジャ13は、図2(B)に示すように、シリンダ12の左側へ突出し、カートリッジ本体7に中へ入り込んでゴム栓9を左側へ押す。すなわち、本形態では、シリンダ12の左端側は、プランジャ13の突出側となる一端側であり、シリンダ12の右端側は、一端側の反対側となる他端側である。
【0027】
ピストン本体14は、上述のように略円板状に形成されている。ピストン本体14の外径は、シリンダ本体15の内径よりもわずかに小さく形成されている。ピストン本体14の外周面とシリンダ本体15の内周面との間には、空気の漏れを防止するためのOリング26が配置されている。このピストン本体14は、シリンダ12内を左右方向へ移動可能となっている。なお、プランジャ13がカートリッジ2のゴム栓9を押す力は、ピストン本体14の面積と、シリンダ12内の圧力(具体的には、蓋部材16の底部16bとピストン本体14との間の圧力)との積によって決まる。
【0028】
レバー部材6は、蓋部材16の右端側の外周面に回動可能に取り付けられている。具体的には、レバー部材6は、左右方向に直交する方向(図2の紙面垂直方向)を軸方向として蓋部材16の右端側の外周面に固定される2個の固定軸27に回動可能に支持されている。レバー部材6は、抜け孔16dを開閉する開閉部6aと、シリンダ12の外周側に配置される操作部6bと、固定軸27に支持される2個の支持部6cとを備えている。
【0029】
2個の支持部6cは、蓋部材16の右端側の外周面に沿って湾曲する曲板状に形成されている。2個の支持部6cの基端は繋がっている。また、支持部6cの先端側は、固定軸27に支持されている。操作部6bは、2個の支持部6cの基端が繋がる部分からカートリッジ保持部3側に向かって伸びる平板状に形成されている。本形態では、後述の閉位置にレバー部材6があるとき(図2(B)に示す位置にレバー部材6があるとき)に操作部6bの先端(左端)がシリンダ本体15の底部15aよりもわずかに右側に配置されるように、操作部6bが形成されている。開閉部6aは、平板状に形成されるとともに操作部6bの右端から90°に折れ曲がるように形成されており、シリンダ12の右側に配置されている。開閉部6aの左側の側面には、抜け孔16dを塞ぐためのゴム等からなる平板状の封止部材(パッキン)28が固定されている。
【0030】
レバー部材6は、図1(A)、図2(A)に示すように、抜け孔16dが開放される開位置と、図1(B)、図2(B)に示すように、抜け孔16dが開閉部6aによって塞がれる閉位置との間で回動可能となっており、抜け孔16dを開閉する機能を果たしている。また、レバー部材6は、図2(A)に示すように、付勢部材としての板バネ29によって、抜け孔16dが開放される方向へ付勢されている。
【0031】
(歯科用注射器の操作方法)
以上のように構成された注射器1で注射を行う際には、歯科医師等の注射を行う者は、まず、カートリッジ保持部3に注射針4を装着する。また、シリンダ部5から取り外されているカートリッジ保持部3の中にカートリッジ2を挿入してから、カートリッジ保持部3をシリンダ部5に取り付ける。このときには、ピストン本体14がシリンダ12内部の右端側に配置されるようにピストン11を移動させておく。また、圧縮空気供給源22に接続されている供給管18をコネクタ19に接続する。
【0032】
この状態で、注射を行う者が注射器1を握って(具体的には、シリンダ12の外周面を握って)、患部に注射針4を刺した後、フットペダル23を操作する。フットペダル23を操作すると、シリンダ12の内部(具体的には、蓋部材16の底部16bとピストン本体14との間)に圧縮空気が供給される。レバー部材6は、板バネ29によって抜け孔16dが開放される方向へ付勢されているため、図2(A)に示すように、レバー部材6が操作されなければ、抜け孔16dは開放されており、シリンダ12の内部に圧縮空気が供給されても、シリンダ12の内部の空気は抜け孔16dから注射器1の外部へ抜けていき、ピストン11は移動しない。
【0033】
一方、注射を行う者がレバー部材6の操作部6bを指で操作して、図2(B)に示すように、開閉部6aに固定された封止部材28によって抜け孔16dを塞ぐと、供給孔16cから供給される圧縮空気がシリンダ12の内部に充填されて、ピストン11が左側へ移動する。ピストン11が左側へ移動すると、プランジャ13がシリンダ12の左側へ突出し、カートリッジ本体7の中へ入り込んでゴム栓9を左側へ押す。ゴム栓9が押されて左側へ移動すると、カートリッジ2内の麻酔薬が注射針4の先端から吐出して、患部に麻酔薬が注入される。なお、シリンダ本体15の底部15aには、抜け孔15cが形成されているため、ピストン11の左側への移動が阻害されることはない。
【0034】
患部に麻酔薬を注射する際には、レバー部材6の操作量を調整することで、シリンダ12の内部の空気圧を調整して、ピストン11の移動速度を調整することができる。すなわち、患部に麻酔薬を注射する際には、レバー部材6の操作量を調整することで、注射針4からの麻酔薬の吐出速度を調整することができる。具体的には、レバー部材6の操作部6bの先端(左端)がシリンダ12に近づく方向へのレバー部材6の操作量を大きくして、開閉部6aで抜け孔16dを完全に塞ぐと、シリンダ12の内部の空気圧が高くなり、ピストン11の移動速度が上がるため、注射針4からの麻酔薬の吐出速度が上がる。一方、操作部6bの先端がシリンダ12に近づく方向へのレバー部材6の操作量を小さくして、抜け孔16dから若干、空気が抜けるように、開閉部6aで抜け孔16dを塞ぐと、ピストン11の移動速度が下がるため、注射針4からの麻酔薬の吐出速度が下がる。また、患部に麻酔薬を注射する際には、レバー部材6の操作時間を調整することで、注射針4からの麻酔薬の吐出量を調整することもできる。
【0035】
患部への麻酔薬の注入が終わると、注射を行う者は、患部から針を抜きながら、フットペダル23を操作して、シリンダ12の内部への圧縮空気の供給を停止させる。また、注射を行う者は、レバー部材6から指を離して、抜け孔16dを開放し、シリンダ12の内部の圧力を下げて、ピストン11を停止させる。すなわち、注射針4からの麻酔薬の吐出を停止させる。
【0036】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態では、シリンダ12の供給孔16cから供給される圧縮空気を用いて、ピストン11を移動させて、注射針4から麻酔薬を吐出させている。そのため、注射を行う者が手動でピストン11を押して注射針4から麻酔薬を吐出させる必要がない。したがって、本形態では、注射を行う者が麻酔薬を注射する際の労力を低減することができる。また、本形態では、供給孔16cから供給される圧縮空気を用いてピストン11を移動させているため、注射器1にモータ等の駆動源を内蔵する必要がない。したがって、本形態では、注射器1の小型化、軽量化および低コスト化が可能になる。また、本形態では、注射器1にモータ等の駆動源が内蔵されていないため、蒸気滅菌等によって注射器1の全体の滅菌を容易に行うことが可能になる。
【0037】
本形態では、レバー部材6を操作することで抜け孔16dが開閉される。そのため、比較的簡易な構成で抜け孔16dの開閉を行うことが可能になる。また、本形態では、シリンダ12の外周面は注射を行う者が注射をする際に握る握り部となっており、かつ、レバー部材6の操作部6bがシリンダ12の外周側に配置されている。すなわち、本形態では、注射器1の握り部となるシリンダ12の外周面の近くに操作部6bが配置されている。そのため、注射を行う者は、操作部6bを指で容易に操作することができる。したがって、本形態では、レバー部材6の操作が容易になる。
【0038】
本形態では、レバー部材6は、板バネ29によって抜け孔16dが開放される方向へ付勢されている。そのため、注射を行う者が板バネ29の付勢力に抗してレバー部材6を操作しなければ、注射針4から麻酔薬が吐出されることがない。すなわち、本形態では、フットペダル23を操作するだけでは、注射針4から麻酔薬が吐出されず、レバー部材6は、安全装置としての機能を果たしている。したがって、本形態では、麻酔薬を注射する際の操作ミスによって麻酔薬が患部に誤って注入されるのを防止することが可能になる。
【0039】
本形態では、歯科用ユニット21に搭載される圧縮空気供給源22にシリンダ12が接続されており、圧縮空気供給源22から供給される圧縮空気によってピストン11が移動する。すなわち、本形態では、エアタービン等を駆動するために一般に歯科用ユニット21に搭載されている圧縮空気供給源22を利用してピストン11を移動させている。そのため、本形態では、ピストン11を移動させるための圧縮空気供給源を別途設ける必要がなくなる。
【0040】
本形態では、患部に麻酔薬を注射する際に、レバー部材6の操作量を調整することで、注射針4からの麻酔薬の吐出速度を調整することができる。そのため、注射の初期時に、患部への麻酔薬の注入速度を下げるとともに、麻酔の効き始めた後に、患部への麻酔薬の注入速度を上げることが可能になる。したがって、本形態では、注射時の患者の痛みを低減しつつ、短時間で麻酔薬を注射することが可能になる。
【0041】
(他の実施の形態)
上述した形態では、カートリッジ保持部3は、シリンダ部5の左端に取り付けられており、カートリッジ保持部3とシリンダ部5とは同軸上に配置されているが、カートリッジ保持部3は、図4に示すように、カートリッジ保持部3の軸とシリンダ部5の軸とがずれた状態で、かつ、シリンダ部5と平行に配置されても良い。この場合には、プランジャ13は、図4(A)に示すように、シリンダ12から左側へ突出した後に右側へ折り返され、さらに左側へ折り返されるように形成されても良い。また、この場合には、プランジャ13は、図4(B)に示すように、シリンダ12から右側へ突出した後に左側へ折り返されるように形成されても良い。図4(B)に示す例では、シリンダ12の右端側がプランジャ13の突出側となり、プランジャ13の突出側の端面であるシリンダ12の右端面に供給孔16cと抜け孔16dが形成されている。カートリッジ保持部3の軸とシリンダ部5の軸とがずれた状態で、かつ、シリンダ部5と平行にカートリッジ保持部3が配置される場合には、注射器1の全長(左右方向の長さ)を短くすることが可能になる。
【0042】
なお、図4(B)に示すように、プランジャ13がシリンダ12から右側へ突出する場合には、供給口16cから供給される圧縮空気によって押されるピストン本体14の面積がプランジャ13の外径分だけ減るため、ピストン11がカートリッジ2のゴム栓9を押す力が低下する。これに対して、上述の形態や図4(A)に示すように、プランジャ13がシリンダ12から左側へ突出する場合には、プランジャ13がシリンダ12から右側へ突出する場合と比較して、ピストン11がゴム栓9を押す力を高めることができる。
【0043】
上述した形態では、レバー部材6を用いて抜け孔16dの開閉操作が行われているが、レバー部材6に代えて、たとえば、注射を行う者が指で操作ボタンを押したり、操作ボタンから指を離すことで、抜け孔16dを開閉させるエアバルブを用いて抜け孔16dの開閉操作が行われても良い。また、注射を行う者が指で抜け孔16dを塞いだり、抜け孔16dから指を離すことで、抜け孔16dの開閉操作が行われても良い。
【0044】
上述した形態では、シリンダ12の右端面を構成する底部16bに供給孔16cと抜け孔16dとが形成されているが、底部16bとピストン本体14との間に圧縮空気が供給され、かつ、底部16bとピストン本体14との間から空気が抜けるように、シリンダ12の右端側の外周面に供給孔と抜け孔とが形成されても良い。
【0045】
上述した形態では、レバー部材6は、板バネ29によって、抜け孔16dが開放される方向へ付勢されているが、レバー部材6は、板バネ29以外のバネ部材やゴム等の弾性部材によって抜け孔16dが開放される方向へ付勢されても良い。また、レバー部材6は、板バネ29等によって付勢されていなくても良い。
【0046】
なお、上述した形態では、ピストン11を右側へ移動させるときには、シリンダ部5からカートリッジ保持部3を取り外して、シリンダ12から突出したプランジャ13を手で右側へ押してピストン11を移動させるが、シリンダ本体15の底部15aとピストン本体14の左側面との間に圧縮コイルバネ等の付勢部材を入れ、この付勢部材の付勢力を利用して、ピストン11を右側へ移動させても良い。
【符号の説明】
【0047】
1 注射器(歯科用注射器)
2 カートリッジ
3 カートリッジ保持部
4 注射針
6 レバー部材
6a 開閉部
6b 操作部
9 ゴム栓
11 ピストン
12 シリンダ
16c 供給孔
16d 抜け孔
21 歯科用ユニット
22 圧縮空気供給源
29 板バネ(付勢部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
麻酔薬が封入されたカートリッジを保持するカートリッジ保持部と、前記カートリッジのゴム栓を移動させて前記カートリッジ保持部に装着される注射針から前記麻酔薬を吐出させるピストンと、前記ピストンが内部を往復するシリンダとを備え、
前記シリンダの、前記ピストンの突出側となる一端側または前記一端側の反対側となる他端側に、圧縮空気の供給孔と抜け孔とが形成され、
前記抜け孔が塞がれると、前記供給孔から供給される前記圧縮空気によって、前記ピストンが移動して前記注射針から前記麻酔薬が吐出されることを特徴とする歯科用注射器。
【請求項2】
前記抜け孔を開閉するためのレバー部材を備え、
前記レバー部材は、前記シリンダに回動可能に取り付けられていることを特徴とする請求項1記載の歯科用注射器。
【請求項3】
前記シリンダの前記他端側の端面に前記供給孔と前記抜け孔とが形成され、
前記シリンダの外周面は、前記歯科用注射器の握り部となっており、
前記レバー部材は、前記抜け孔を開閉する開閉部と、前記シリンダの外周側に配置される操作部とを備え、前記ピストンの移動方向に直交する方向を軸方向として前記シリンダの前記他端側の外周面に回動可能に取り付けられていることを特徴とする請求項2記載の歯科用注射器。
【請求項4】
前記抜け孔が開放される方向へ前記レバー部材を付勢する付勢部材を備えることを特徴とする請求項3記載の歯科用注射器。
【請求項5】
前記供給孔は、患者が座る治療用いすを含む歯科用ユニットに搭載される圧縮空気供給源に接続されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の歯科用注射器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−81581(P2013−81581A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222661(P2011−222661)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(593174870)高島産業株式会社 (24)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】