歯科用診断器及び、これを用いた歯内治療装置,歯科用診療台
【課題】本発明は、薬液等の影響を受けずに精度よく歯の内部、特に根管に関する情報を得ることができる歯科用診断器を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、測定電極3と、口腔電極5と、測定信号印加手段と、計測手段と、演算処理手段とを備える歯科用診断器であって、電気的特性値から歯の根管に関する情報を得る。測定電極3は測定対象である歯1の根管2に挿入し、口腔電極5は、口腔粘膜4に電気的に接触させる。また、測定信号印加手段は、測定電極3と口腔電極5との間に測定信号を印加し、計測手段は、周波数の異なる複数の測定信号に対して、測定電極3と口腔電極5との間の電気的応答を計測する。さらに、演算処理手段は、電気的応答に基づいて、測定電極3と口腔電極5との間の導電経路をモデル化した等価回路の所定部分の電気的特性値を演算する。
【解決手段】本発明は、測定電極3と、口腔電極5と、測定信号印加手段と、計測手段と、演算処理手段とを備える歯科用診断器であって、電気的特性値から歯の根管に関する情報を得る。測定電極3は測定対象である歯1の根管2に挿入し、口腔電極5は、口腔粘膜4に電気的に接触させる。また、測定信号印加手段は、測定電極3と口腔電極5との間に測定信号を印加し、計測手段は、周波数の異なる複数の測定信号に対して、測定電極3と口腔電極5との間の電気的応答を計測する。さらに、演算処理手段は、電気的応答に基づいて、測定電極3と口腔電極5との間の導電経路をモデル化した等価回路の所定部分の電気的特性値を演算する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用診断器及び、これを用いた歯内治療装置,歯科用診療台に係る発明であって、特に、歯の内部に関する情報を得る歯科用診断器及び、これを用いた歯内治療装置,歯科用診療台に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯の内部の構成要素、特に根管に関する情報の1つである根尖の位置を検出する(根管長を決定する)歯科用診断器として、電気的根尖検出器(電気的根管長測定器)がある(以下、「電気的」という語を省略して説明する)。従来の根尖検出器では、例えば、図9に示すような概略図によって根尖検出を行う。図9に示す構成により根尖検出を行う根尖検出器では、歯101の根管102内に測定電極103を挿入し、当該測定電極103の先端104と、口腔粘膜に電気的に接触する口腔電極105との間のインピーダンス値を測定して、測定電極103の先端104が根尖106に到達したことを検出する。本方式においては、測定電極103が根尖に達した時は、根管のインピーダンス(歯内のインピーダンス)を測定するのでなく、根尖106と口腔粘膜に電気的に接触する口腔電極105との間のインピーダンス値を測定していることになる。
【0003】
図9に示す構成により根尖検出を行う根尖検出器では、信号印加部107から供給された測定信号に基づき、検出抵抗108に流れる電流値を測定してインピーダンス値を求めている。なお、当該分野のインピーダンス値の測定は、上述の方法やインピーダンス値そのものを測る方法以外に、図9に示す検出抵抗108の両端電圧や、ある電流,電圧時に求められる抵抗値などを測定指標として被測定部のインピーダンス値を算出する方法であっても良い。以下、それらの方法を総合して「インピーダンス値を求める」と記載する。
【0004】
従来の根尖検出器は、「口腔粘膜と根管内に挿入した測定電極の先端のインピーダンス値は、測定電極の先端が根尖孔を経由して歯根膜に達したとき、年齢、歯種による差がなく、ほぼ一定の値(6.5kΩ)をとる」という測定原理に基づいている。なお、図10に示す歯の根尖部付近を拡大した歯の部分のように、歯根膜109は歯101の歯根全体を覆う膜であり、測定電極103の先端104が根尖孔110より歯根膜109に接触する位置を根尖とする。
【0005】
図9に示す構成により根尖検出を行う根尖検出器では、検出抵抗108においてインピーダンス値に対応する測定電流が、6.5kΩのインピーダンス値に対応する値に達したとき、測定電極103の先端104が根尖孔110を経由して歯根膜109に達していると判断する。また、従来の根尖検出器では、インピーダンス値の比や差を利用して根尖位置を測定するものもある。詳細については、特許文献1及び特許文献2に記載されている。さらに、インピーダンス値と、インピーダンス値の比や差とを併用し、それらを選択的にあるいは同時に表示することで根尖検出を示す根尖検出器が、特許文献3に記載されている。以上、根尖検出器に関する説明を記載したが、同じく電気的に歯内診断を行う診断器として、例えば、インピーダンス値15kΩを基準値として露髄を検出する診断器等も存在したが、これらの診断機器も本願発明の属する技術分野に含まれる。
【0006】
【特許文献1】特許2873722号公報
【特許文献2】特公昭62−2817号公報
【特許文献3】特許3113109号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の根尖検出器は、「口腔粘膜と根管内に挿入した測定電極の先端のインピーダンス値は、測定電極の先端が根尖孔を経由して歯根膜に達したとき、年齢、歯種による差がなく、ほぼ一定の値(6.5kΩ)をとる」という測定原理に基づいている。しかし、この測定原理が成立するのは根管内が乾燥している場合であって、根管内に導電性の薬液や血液などが存在すると、歯根膜と口腔粘膜との間のインピーダンス値は大幅に変動する。そのため、従来の根尖検出器では、根管内に導電性の薬液や血液などが存在する歯の根尖位置を検出することは困難であった。また、根管内は湿潤状態であることが通常であるため、従来の根尖検出器で根尖位置を検出するためには、強制的に根管内を乾燥させることが必要であった。
【0008】
歯内の各部位、特に根管内が湿潤状態の歯に対して、従来の根尖検出器を用いて根尖位置を測定する場合について詳しく説明する。まず、図11に、口腔粘膜111から歯根膜109を経由して根管102に至る部分の等価回路を示した従来の根尖検出器の根尖検出態様概略図を示す。図11では、根管102内に導電性の薬液112が存在しており、根尖孔110から導電性の薬液112が溢出して歯根膜109と口腔粘膜111との間のインピーダンス値が大幅に低下する。
【0009】
図11に示すように、歯根膜109と口腔粘膜111との間の等価回路を抵抗Rと容量Cとの並列回路とみなす場合、根管内が湿潤状態では、抵抗Rの値が乾燥時の1/k倍に低下し、容量Cの値が乾燥時のm倍に増加する傾向が認められる。但し、k,mはともに根管の湿潤状態により決定される1以上の係数である。また全ての歯において、必ずしも、抵抗Rと容量Cの値が変動するとは限らないが、概略、上記の傾向が見られると想定してよい。図11に示す構成により根尖検出を行う従来の根尖検出器では、導電性の薬液112の影響を受けて、測定電極103の先端104と口腔粘膜111との間のインピーダンス値が大幅に低下するため、検出誤差が生じる。特に測定電極103の先端104と根尖孔110間のインピーダンスが大幅に低下するので測定電極103の先端が根尖よりも手前にあるにも関わらず、根尖に到達したという誤った検出結果を得てしまう。なお、根管内の湿潤状態は、導電性の薬液112に限らず、血液あるいは唾液などでも歯根膜109と口腔粘膜111との間のインピーダンス値の低下が認められる。
【0010】
また、図11に示す等価回路では、測定電極103の先端と根尖孔110に存在する歯根膜109との間に、根管内インピーダンスZrが存在している。図11では、これを便宜的に直列抵抗Zrとして示している。この場合に、測定される測定電極103の先端と口腔粘膜111との間のインピーダンス値は、測定電極103の先端と根尖孔110の部位の歯根膜109との間のインピーダンス値と根尖孔110の部位の歯根膜109と口腔粘膜111との間のインピーダンス値との合成値となる。そのため、測定電極103の先端104と口腔粘膜111との間のインピーダンス値は、上述したように薬液112の影響で6.5kΩ以下となる場合、当該合成値が6.5kΩになった位置が根尖位置と誤表示されることになる。
【0011】
具体的に説明すれば、例えば、導電性の薬液112の影響を受けて、歯根膜109と口腔粘膜111との間のインピーダンス値が4kΩで、根尖から3mmの位置での測定電極103の先端と根尖孔110の部位に存在する歯根膜109との間のインピーダンス値が2.5kΩとする。この場合、両者のインピーダンス値の和(合成値)が6.5kΩとなるので、従来の根尖検出器では、測定電極103が根尖から3mm離れた位置を根尖位置と誤表示してしまう。
【0012】
そこで、特許文献1あるいは2に示すような、インピーダンス値の比や差を用いて根尖検出を行うことで、上記の導電性の薬液112等による測定誤差を解消する方式が開発されたのであるが、本発明は、これらとは全く異なる方法により、薬液等の影響を受けずに正確に歯の内部に関する情報を得ることができる歯科用診断器を提供することを目的とする。尚、上記は主として根尖検出器を基にした説明であるが、本件出願は根尖検出に限らず、例えば、露髄の有無や歯内の齲蝕等の検出などの、歯の内部に関する様々な情報を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の請求項1に係る解決手段は、測定電極と、口腔電極と、測定信号印加手段と、計測手段と、演算処理手段とを備える歯科用診断器を用いることであって、電気的特性値から歯の内部に関する情報を得る方式を採用することである。この歯科用診断器においては、測定電極を、測定対象である歯の内部の歯髄腔(髄室及び根管)に挿入し、口腔電極は、口腔粘膜に電気的に接触させる。また、測定信号印加手段は、測定電極と口腔電極との間に測定信号を印加し、計測手段は、周波数の異なる複数の測定信号に対して、測定電極と口腔電極との間の電気的応答を計測する。さらに、演算処理手段は、電気的応答に基づいて、測定電極と口腔電極との間の導電経路をモデル化した等価回路の所定部分の電気的特性値を演算する。例えば、本発明の請求項2のように、測定電極が根管に挿入された場合は、この歯科用診断器は根管に関する情報を得るための診断器となる。
【0014】
本発明の請求項3に係る解決手段は、測定信号印加手段が、等価回路の構成要素数と少なくとも同数の異なる周波数を持つ測定信号を印加することを特徴とする歯科用診断器を採用することである。
【0015】
本発明の請求項4に係る解決手段は、演算処理手段が、電気的応答に対応する等価回路の所定部分の電気的特性値を予め演算で求めたテーブルを有し、当該テーブルから計測手段で計測された電気的応答に対応する等価回路の所定部分の電気的特性値を得ることを特徴とする歯科用診断器を採用することである。
【0016】
本発明の請求項5に係る解決手段においては、等価回路が、歯の内部に対応する歯内回路部と、それ以外の歯外回路部とにより構成されている。ここで言う「歯の内部」とは、髄室や根管といった歯牙の内部を指し、「それ以外」とは、根尖孔の外側から歯槽骨・歯肉を経由し口腔粘膜に至る経路を指す。
【0017】
本発明の請求項6に係る解決手段においては、等価回路の、歯外回路部を抵抗要素と容量要素の並列回路とし、当該並列回路に歯内回路部の抵抗要素を直列接続した回路であることを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項7に係る解決手段においては、等価回路が、歯外回路部の容量要素と、歯内回路部の抵抗要素とを直列接続した回路であることを特徴とする。なお、請求項5ないし請求項7に係る解決手段として採用されている回路構成は、実際の歯内回路、歯外回路が上記記載の構成そのものであると主張しているのでなく、各解決案の例として採用可能な等価回路の構成を挙げたものである。
【0019】
本発明の請求項8に係る解決手段は、歯内回路部を構成する要素のうち、少なくとも1つの構成要素に基づく値を、歯科用診断のための電気的特性値として用いるものであることを特徴とする歯科用診断器を採用することである。
【0020】
本発明の請求項9に係る解決手段は、歯内回路部を構成する要素のうち少なくとも1つの構成要素に基づく値と、前記歯外回路部を構成する要素のうち少なくとも1つの構成要素に基づく値との演算値を、歯科用診断のための電気的特性値として用いるものであることを特徴とする歯科用診断器を採用することである。
【0021】
本発明の請求項10に係る解決手段は、演算処理手段が、第1の電気的特性値と第2の電気的特性値のどちらを実際に採用するかを、実験を基に予め設定された閾値を基準として切り替えて、歯の内部に関する情報を得ることを特徴とする。ここでいう第1の電気的特性値とは、等価回路中の歯内回路部を構成する要素のうち少なくとも1つの構成要素に基づく値である。また、第2の電気的特性値とは、歯内回路部の少なくとも1つの構成要素に基づく値と、歯外回路部の少なくとも1つの構成要素に基づく値との演算値である。この構成の具体的な説明については、実施の形態3<変形例>の項で詳述する。
【0022】
本発明の請求項11に係る解決手段は、歯の内部に関する情報が、測定電極の先端の位置情報、露髄の有無、歯の内部の齲蝕の有無の少なくともいずれかであることを特徴とする歯科用診断器を採用することである。
【0023】
本発明の請求項12に係る解決手段は、電気的応答に基づく値から得られた測定電極の先端の位置情報と、演算処理手段で演算した電気的特性値から得られた歯の内部に関する情報とを、測定電極の根管内位置に対応する所定の基準で切り替えて、根尖位置を検出することを特徴とする歯科用診断器を採用することである。ここで言う「電気的応答に基づく値」とは、電気的応答の値そのものであってもよいし、複数の電気的応答値同士を演算して得られた値(例えばインピーダンス値の差や比の値)であってもよい。この構成の具体的な説明については、実施の形態3<変形例>の項で詳述する。
【0024】
本発明の請求項13に係る解決手段においては、歯の内部に関する情報を表示する表示部をさらに備えることを特徴とする。この表示部において、前述の請求項10に係る解決手段を併用し、第1の電気的特性値による情報と、第2の電気的特性値による情報とを、切り替えて表示することもできる。
【0025】
本発明の請求項14に係る解決手段においては、表示部が、歯の内部に関する情報を可視表示することを特徴とする。
【0026】
本発明の請求項15に係る解決手段においては、表示部が、歯の内部に関する情報を聴覚的に表示することを特徴とする。上記請求項13ないし15に記載の表示部は、特に歯の内部に関する情報を抽出して表示するものであって、従来の根管長測定器、例えば測定電極先端と口腔電極との間のインピーダンス値、すなわち歯内と歯外の双方の情報を包含する情報を得るような根管長測定器に採用されていた表示部とは、表示する情報が異なる。
【0027】
本発明の請求項16に係る解決手段は、測定電極と、口腔電極と、測定信号印加手段と、計測手段と、信号処理手段を歯科用診断器に採用することである。この歯科用診断器においては、測定電極は、測定対象である歯の内部(根管等)に挿入され、口腔電極は、口腔粘膜に電気的に接触させる。測定信号印加手段は、測定電極と口腔電極との間に測定信号を印加し、計測手段は、周波数の異なる複数の測定信号に対して、測定電極と口腔電極との間の電気的応答を計測する。さらに、信号処理手段は、測定電極と口腔電極との間の電気的特性を、測定電極から根尖までの歯内区間と、歯内区間以外の残区間とのそれぞれの電気的特性の合成特性とみなしたとき、電気的応答に基づいて、合成特性から残区間の電気的特性の少なくとも一部の影響を除去した測定結果を取得し、当該測定結果に応じた情報を出力する。この歯科用診断器においても、当該測定結果とともに、他の取得しうる入力値(請求項8の説明として上記したような、等価回路の少なくとも1つの構成要素に基づく値の電気的特性値や、請求項9の説明として上記したような、得られた値と演算値の電気的特性値といった値)を併用し、適宜測定電極の根管内位置に対応する所定の基準で切り替えて、歯の内部に関する情報を得ることもできる。この構成についても実施の形態3<変形例>の項で詳述する。
【0028】
本発明の請求項17に係る解決手段は、上記各解決手段において採用される歯科用診断器のうち、いずれか1つの歯科用診断器と同様の診断機能を、歯内治療装置に設けることである。
【0029】
本発明の請求項18に係る解決手段は、上記各解決手段において採用される歯科用診断器あるいは歯内治療装置のうち、少なくとも1つを歯科用診療台に設けることである。
【発明の効果】
【0030】
本発明の請求項1に記載の歯科用診断器は、電気的応答に基づいて、測定電極と口腔電極との間の導電経路をモデル化した等価回路の所定部分の電気的特性値を各々分離して演算し、歯の内部に関する情報を得るので、歯の内部に存在する、浸出液、血液、薬液等の影響を受けずに正確に歯の内部に関する情報を得ることができる。さらに請求項2に記載の歯科用診断器によれば、特に歯の根管に関する情報を得ることができる。例えば、測定電極の先端が根尖孔に存在する歯根膜に達したとき、測定電極の先端と根尖孔の歯根膜との間のインピーダンス値は、根管内の環境に関わらず、ほぼゼロになると想定できる。よって、本発明に記載の歯科用診断器を用いて根管長測定を行う場合、測定電極先端と歯根膜との間のインピーダンス値がゼロ付近の値になったときを根尖位置とすれば、薬液等の影響を受けず、正確に歯の内部の情報(根管長)を得ることができる。従来の電気的根管長測定においては、測定電極先端から口腔電極までのインピーダンス値を測定してきた。これに対し、本発明のような、測定電極の先端と根尖孔の歯根膜との間のインピーダンス値だけを分離して求めるという発想は、まったく新しいものである。
【0031】
本発明の請求項3に記載の歯科用診断器は、信号印加手段が、等価回路の構成要素数と少なくとも同数の異なる周波数を持つ測定信号を印加するので、演算により等価回路の構成要素の値を求めることができる。
【0032】
本発明の請求項4に記載の歯科用診断器は、予め設定されたテーブルから計測手段で計測された電気的応答に対応する等価回路の所定部分の電気的特性値を得るので、複雑な演算処理を行うことなく迅速に根管に関する情報を得ることができる。
【0033】
本発明の請求項5に記載の歯科用診断器は、等価回路が、歯の内部(根管内に挿入された測定電極の先端と歯根膜との間)に対応する歯内回路部と、それ以外(歯根膜と口腔粘膜との間)の歯外回路部とにより構成されるので、演算等の処理により歯の内部(例えば根管)に関する情報だけを分離して得ることができる。尚、ここで言う「歯の内部」とは、髄室や根管といった歯牙の内部を指し、「それ以外」とは、根尖孔の外側から歯槽骨・歯肉を経由し口腔粘膜に至る経路を指す。ここでも、電気的応答に基づいて、測定電極と口腔電極との間の導電経路をモデル化した等価回路の所定部分の電気的特性値を各々分離して演算し、歯の内部に関する情報を得るので、歯の内部に存在する、浸出液、血液、薬液等の影響を受けずに正確に歯の内部に関する情報を得ることができる。さらに請求項2に記載の歯科用診断器によれば、特に歯の根管に関する情報を得ることができる。例えば、測定電極の先端が根尖孔に存在する歯根膜に達したとき、測定電極の先端と根尖孔の歯根膜との間のインピーダンス値は、根管内の環境に関わらず、ほぼゼロになると想定できる。よって、本発明に記載の歯科用診断器を用いて根管長測定を行う場合、測定電極先端と歯根膜との間のインピーダンス値がゼロ付近の値になったときを根尖位置とすれば、薬液等の影響を受けず、正確に歯の内部の情報(根管長)を得ることができる。
【0034】
本発明の請求項6に記載の歯科用診断器は、等価回路が、歯外回路部を抵抗要素と容量要素の並列回路とし、当該並列回路に歯内回路部の抵抗要素を直列接続した回路であるので、各々の抵抗要素、及び、容量要素を個別に求めれば、正確に歯の内部(例えば根管)に関する情報を得ることができる。
【0035】
本発明の請求項7に記載の歯科用診断器は、等価回路を簡略化して歯外回路部の容量要素と、歯内回路部の抵抗要素とを直列接続した回路であるので、演算等の処理を簡略化することができる。
【0036】
本発明の請求項8に記載の歯科用診断器は、歯内回路部の少なくとも1つの構成要素に基づく値を、歯科用診断のための電気的特性値として用いる。また、請求項9に記載の歯科用診断器は、歯内回路部の少なくとも1つの構成要素に基づく値と、歯外回路部の少なくとも1つの構成要素に基づく値との演算値を、歯科用診断のための電気的特性値として用いるものである。この場合、電気的特性値を様々な態様で得られるため、得られる情報の幅が広がり、必要とする歯の内部(例えば根管)に関する情報をより精度よく得ることができる。
【0037】
本発明の請求項10ないし12に記載の歯科用診断器は、所定の基準で、例えば実験を基に予め設定された閾値を基にして、電気的特性値又は根管に関する情報を切り替えるので、測定電極の位置によって、精度の高い、あるいは使い勝手のよい情報を得ることができるため、より良い診断を行うことができる。具体的には、例えば根尖に近づくほど表示値が小さくなるような構成の機器において、2種類の電気的特性値を切り替える条件としてある測定電極の位置における2種類の電気的特性値のうち小さい方の値を選ぶ、といった態様が考えられる。
【0038】
本発明の請求項13に記載の歯科用診断器は、歯の内部に関する情報を表示する表示部を備える。請求項14あるいは15に記載の歯科用診断器のように、その表示部が歯の内部に関する情報を可視的又は聴覚的に表示するものであれば、歯の内部に関する情報を歯科医等が容易に確認できる。なお、この表示部は、特に歯の内部に関する情報を抽出して表示するものであって、従来の根管長測定器、例えば測定電極先端と口腔電極との間のインピーダンス値、すなわち歯内と歯外の双方の情報を包含する情報を得るような根管長測定器に採用されていた表示部とは、表示する情報が異なる。
【0039】
本発明の請求項16に記載の歯科用診断器は、電気的応答に基づいて、測定電極から根尖までの歯内区間と、前記歯内区間以外の残区間とのそれぞれの電気的特性が包含された値(以下「合成特性」と記載する)から、歯内以外の区間の電気的特性の少なくとも一部の影響を除去した測定結果を取得し、当該測定結果に応じた情報を出力するので、正確に歯の内部に関する情報を得ることができる。
【0040】
本発明の請求項17に記載の根管治療装置は、本発明に記載の歯科用診断器の診断機能を備えるので、根管の診断を行いながら治療を進めることができ、効率的に治療が行える。つまり、歯内各部、特に根管を治療する前段階、あるいは治療の最中に、上記の歯科用診断器を用いた診断と同様の診断を行うことができる。
【0041】
本発明の請求項18に記載の歯科用診療台(歯科診療用ユニット)では、患者を保持するための診療台、患者を診療するための種々の診療器具、診療器具の操作手段、うがい用のスピットン、表示装置といった通常の診療台(歯科診療用ユニット)に加え、さらに本発明に記載の歯科用診断器等を備えるので、歯内の、特に根管の診断のために、患者を移動させたり装置を持ち運んだりする手間が省け、さらに効率の良い診療を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
(実施の形態1)
<概要>
本実施の形態に係る歯科用診断器は、歯の内部、特に根管に関する情報を得るための機器であるが、以下では、特に根尖位置を検出する(根管長を測定する)根尖検出器について説明する。但し、本発明に係る歯科用診断器は、根尖位置を検出する根尖検出器に限定されるものではなく、例えば、露髄や歯内の齲蝕等も診断の対象とすることができる。また、本実施の形態に係る根尖検出器では、本発明の一例として、測定電極と口腔粘膜との間の導電経路をモデル化して図1に示す抵抗Rs、抵抗Rp及び容量Cpよりなる等価回路とし、当該等価回路の構成要素に基づく電気的特性値を演算で求め、根尖位置を検出している。
【0043】
<構成と具体例>
図2に、本実施の形態に係る根尖検出器を使用する際の概略図を示す。図2に示す態様で使用される根尖検出器では、歯1の根管2内に測定電極3を挿入し、当該測定電極3の先端と、口腔粘膜4に電気的に接触する口腔電極5との間のインピーダンス値(電気的応答)を測定して、測定電極3の先端が根尖6に到達したことを検出する。尚、図2は根管2を診断の対象とし、根尖位置を検出する態様を示した図であるが、後述するように、本願発明は、根管より上部の髄室(不図示)を前提に露髄なども診断対象とすることもできる。本明細書において、「歯内」あるいは「歯の内部」と記載する際は、これら根管及び髄室を含めた部分を示す。本実施の形態でのインピーダンス測定は、信号印加部7から測定信号を印加し、図1に示す検出抵抗8に流れる電流を測定することで行われる。なお、当該分野のインピーダンス測定は、上述の方法やインピーダンス値そのものを測る方法以外に、図1に示す検出抵抗8の両端電圧や、ある電流,電圧時に求められる抵抗値などを測定指標として被測定部のインピーダンス値を算出する方法であっても良いことは、背景技術の項で記載したとおりである。また、図2に示すように、歯1と歯肉9との間には歯根膜10が存在する。歯根膜は歯根部を広く覆う膜であるが、以下の記載において「歯根膜」と言う場合は、すべて「根尖孔6近傍に存在する歯根膜10」を意味する。
【0044】
次に、測定電極3と口腔電極5との間の等価回路について説明する。まず、図1に示す等価回路では、抵抗Rs,抵抗Rp,容量Cpの3つの要素で構成されている。そして、当該等価回路は、抵抗Rsが測定電極3と歯根膜10との間(歯内回路部)のインピーダンスに、抵抗Rpと容量Cpの並列回路が歯根膜10と口腔粘膜4との間(歯外回路部)のインピーダンスに、それぞれ対応している。つまり、図1に示す等価回路は、測定電極3から根尖6までの歯内区間(歯内回路部)が抵抗Rs、歯内区間以外の残区間(歯外回路部)が抵抗Rpと容量Cpの並列回路で構成される電気的特性を包含する特性、すなわち本明細書にいう合成特性とみなされる。なお、図1に示す等価回路は生体の等価回路であるため、厳密に等価でなく、図1に示す等価回路が歯の電気的等価回路であると主張するものでない。図1に示す等価回路は、本出願において採用される、等価回路であり、実用上問題のない程度まで、歯の電気的特性に近似できる、一つの例として挙げたものである。
【0045】
そして、測定電極3と歯根膜10との間のインピーダンスである抵抗Rsは、測定電極3と歯根膜10との距離に対応するので、測定電極3が根尖6に近づくにつれて抵抗Rsの値が小さくなる。なお、測定電極3が根尖6の位置に近づいたとき、歯1の構造から明らかなように測定電極3の先端と歯根膜10との間の距離はほぼゼロに近い値となる。そのため、本実施の形態に係る根尖検出器では、測定電極3と歯根膜10との間の距離がほぼゼロのときの抵抗Rsの値を利用することで、基本的に根管内の湿潤状態の影響を受けずに根尖位置の検出ができる。換言すれば、歯内区間と歯外区間とを包含する合成特性から、歯内区間に相当する等価回路Rsに対応する電気的特性のみを抽出することで、根尖位置の検出ができるということである。
【0046】
もちろん、段落0044に記載したように、図1に示す等価回路は生体の等価回路であるため、厳密に等価でなく、図1に示す等価回路が歯の電気的等価回路であると主張するものでない。図1に示す等価回路は、実用上問題のない程度まで、歯の電気的特性に近似できる、一つの例として挙げたものである。そのため、測定電極3と歯根膜10との間の距離がほぼゼロのときでも、抵抗Rsの値はゼロにならないこともある。また、抵抗Rsの値は、歯根膜10と口腔粘膜4との間のインピーダンスと無関係に独立しているので、歯根膜10と口腔粘膜4との間のインピーダンス変動の影響を受けない。本実施の形態に係る根尖検出器では、測定電極3と歯根膜10との間の距離がほぼゼロのときの当該部分の電気的特性値(抵抗Rsの値)を求めて根尖位置を検出することができる。
【0047】
次に、本実施の形態に係る根尖検出器で求めた抵抗Rsの値を具体的に示す。図3に、抜歯された5本の歯を使用して測定された抵抗Rsの値の変化を示す。図3に示すグラフは、横軸が測定電極3の先端から根尖6までの距離(単位はmm)を表し、縦軸が抵抗Rsの値(単位はkΩ又は無名数)を表している。図3に示すグラフでは、測定電極3が根尖6に近づくにつれて抵抗Rsの値が減少している。そのため、図3に示すグラフによれば、所定の閾値となる根尖検出値を1.0(単位は無名数)と設定すれば、本実施の形態に係る根尖検出器において正確に根尖位置を検出することが可能となる。
【0048】
なお、本実施の形態に係る根尖検出器では、抵抗Rsの抵抗値そのものを正確に求める必要はなく、根尖位置検出に必要な情報となる抵抗Rsの抵抗値に対応する値(抵抗Rsの値)を求め、当該値が根尖位置までどのように変化したのかを検出できれば良い。また、図3に示すグラフでは、抜歯された歯による測定データであるため、歯根膜10が存在しないので実際の根尖6までの距離を横軸としている。
【0049】
<詳細な動作例>
図4に、本実施の形態に係る根尖検出器の構成をより詳しく示したブロック図を示す。図4に示す根尖検出器には、周波数fの測定信号を出力する発振器20、周波数5f(fの5倍)の測定信号を出力する発振器21、周波数25f(fの25倍)の測定信号を出力する発振器22の3つの異なる周波数の測定信号を生成できる発振器を備えている。本実施の形態では、図1に示した等価回路の構成要素が3個であるので、後述する等価回路のインピーダンスを表す連立方程式を解くためには少なくとも3つの異なる周波数での測定結果が必要となる。なお、本実施の形態では、使用する複数の周波数として、基本周波数fの1倍,5倍,25倍(つまり基本周波数とその高調波)を用いているが、本発明はこれに限られず基本周波数fの1倍,10倍,100倍等であっても良い。
【0050】
また、図4に示す根尖検出器では、アナログ・マルチプレクサ23、バッファ24、タイミングコントローラ25を備えている。さらに、図4に示す根尖検出器では、波形整形回路26、A−D変換器27、演算回路28、表示部29及び検出抵抗8を備えている。なお、タイミングコントローラ25は、各回路の動作のタイミングを制御するもので、当該制御に基づきアナログ・マルチプレクサ23が各発振器20,21,22の出力を例えば10msecごとに切り替える。そして、アナログ・マルチプレクサ23からの出力が、バッファ24を介して測定電極3に印加される。
【0051】
本実施の形態に係る根尖検出器では、測定電流の変化を測定電極3と口腔粘膜4との間のインピーダンス値の変化として検出する。つまり、測定信号の各周波数における測定電極3と口腔粘膜4との間のインピーダンス値の変化を、検出抵抗8における測定電流として検出する。この測定電流を波形整形回路26で整流して波形を整えた後、A−D変換器27でデジタルデータに変換する。
【0052】
さらに、演算回路28では、A−D変換器27からのデジタルデータを逐次ラッチしながら、各周波数f、5f、25fで測定された測定電極3と口腔粘膜4との間のインピーダンス値より、抵抗Rsの抵抗値に対応する値、抵抗Rpの抵抗値に対応する値及び容量Cpの容量値に対応する値を演算で求める。なお、インピーダンス値の測定においては、測定電極3がほぼ同一の根管内位置で、各周波数f、5f、25fの測定を行う方が望ましいが、必ずしも測定電極5の位置が厳密に同一でなくとも、根尖位置の検出精度にはほとんど影響を与えない。
【0053】
本実施の形態では、抵抗Rsの抵抗値に対応する値(抵抗Rsの値)を等価回路の所定部分の電気的特性値としており、当該電気的特性値を用いて根尖位置の検出を行う。なお、等価回路の所定部分とは、等価回路全体ではなく一部分だけである。具体的には、演算回路28の内部に備えたコンパレータ(又はソフト的に比較機能を実現するプログラム)を用いて、予め記憶していた根尖検出値と当該電気的特性値を比較して根尖位置を検出し表示部29に表示する。また、表示部29は、根尖位置までの当該電気的特性値の変化も、一つの表示用LEDの点滅、表示用LEDの色の変化、アナログメータの指針の振れ、複数の表示用LEDよりなるバーグラフ、あるいは歯牙模式図とバーグラフとの組み合わせなどによって、連続的又は段階的に表示する。なお、表示部29の表示は、視覚に限られず、ブザーやスピーカーなどを使用する聴覚的な警告表示であっても良い。このような聴覚的な表示を行う場合、例えば、測定電極が根尖に近づくにつれて、断続音の間隔を狭めたり、音量を上げたりすることで、測定電極が根尖に近づいていることを術者に知らせる構成とすることができる。もちろん、根尖までの距離に対応するような位置情報を表示してもよい。
【0054】
次に、本実施の形態に係る演算回路28の動作について詳細に説明する。まず、演算回路28には、測定電極3と口腔粘膜4との間の導電経路をモデル化した等価回路が予め設定されている。本実施の形態では、この等価回路を図1に示す等価回路としているが、本発明はこの等価回路を採用することに限られるものではなく、後述のさらに簡素化した等価回路を用いることもできる。等価回路の選択は、実際に装置を設計するにあたり、費用、構成や演算の簡便さ、歯内(根管)診断精度等を考慮し、適宜行うべきものであって、本発明の主眼は、等価回路の構成要素となる部分の電気的特性値を求めることで歯の構造、特に根管に関する情報を得ることにある。なお、図1に示す等価回路では、インピーダンスをRs+Rp//Cpの数式で表すことができ、数式中の「//」の記号は、並列接続の合成抵抗を表している。
【0055】
そして、抵抗Rsの抵抗値をRsv、抵抗Rpの抵抗値をRpv、容量Cpの容量値をCpvとする。また、測定信号の周波数がf、5f、25fであるとき、容量Cpのそれぞれのインピーダンス値を、1/(2πfCpv),1/(10πfCpv),1/(50πfCpv)とする。なお、本実施の形態では、簡略化のためインピーダンス値を1/(jωCpv)=1/(ωCp)と近似している(角振動数ω=2π×周波数)。
【0056】
そして、これらの値を用いて、周波数fのときのインピーダンス値を数1と表記できる。
【0057】
【数1】
【0058】
同様に、周波数5fのときのインピーダンス値は、数2と表記できる。
【0059】
【数2】
【0060】
同様に、周波数25fのときのインピーダンス値は、数3と表記できる。
【0061】
【数3】
【0062】
演算回路28では、上記の式に対して、周波数f,5f,25fで測定された測定電極3と口腔粘膜4との間のインピーダンス値を逐次入力して、数1から数3の連立方程式を解けば、抵抗値Rsv,抵抗値Rpv,容量値Cpvを求めることができる。つまり、演算回路28では、測定電極3の先端が存在する位置における等価回路の構成要素(抵抗Rs,抵抗Rp,容量Cp)の値を求めることができる。
【0063】
より簡便な方法として、上記周波数f,周波数5f,周波数25fで測定された測定電極3と口腔粘膜4との間のインピーダンス値を組み合わせて得られる構成要素Rs,Rp,Cpの値を予め計算で求めて演算回路28内のテーブルに記憶しておき、測定対象の歯1から得られた各々のインピーダンス値より構成要素(例えば抵抗Rs)の値を当該テーブルから導き出す方法でも良い。
【0064】
なお、テーブルは、演算回路28内であっても、外部の記憶部に設けても良い。また、テーブルに記憶するデータ量を抑えるために、離散的にデータを記憶させておき補間処理を利用する形式でも良い。さらに、テーブルに格納するデータを構成要素Rs,Rp,Cpの値とするのでなく、根尖位置を表す表示値等を格納しても良い。
【0065】
以上のように、本実施の形態では、測定電極3の先端と口腔粘膜4(口腔電極5)との間の導電経路をモデル化した等価回路の所定部分の電気的特性値を演算等で求めるので、薬液等の影響を受けずに精度よく根尖位置を検出することができる。なお、本実施の形態では、根管に関する情報として根尖位置を検出しているが、本発明に係る歯科用診断器はこれに限られず、等価回路の所定部分の電気的特性値を求めることで、必要な根管に関する情報、及び露髄や齲蝕の存在などの根管以外の歯の構造に対する情報を得ることができる。例えば露髄や齲蝕を検出する場合は、等価回路の構成要素の一部である歯内抵抗値等に着目し、露髄や齲蝕に対応する閾値を設定することで、露髄や齲蝕を検出することができる。
【0066】
(実施の形態2)
<概要>
本実施の形態に係る歯科用診断器は、実施の形態1とほぼ同じ構成の根尖検出器であるが、測定電極3と口腔粘膜4(口腔電極5)との間の導電経路をモデル化した等価回路が異なる。本実施の形態に係る等価回路は、図5に示す等価回路とみなす。図5に示す等価回路は、図1の抵抗Rpと容量Cpとよりなる並列回路部分を容量Csに置き換えた構成である。
【0067】
本実施の形態においてもインピーダンス値の測定には、検出回路内に設けた検出抵抗8を用いて電流等を測定して行っている。なお、図5に示す等価回路は一例であり、本発明に係る歯科用診断器において用いられる等価回路は、図1や図5に示す等価回路に限定されるものでないことは、前述したとおりである。また、図5に示す等価回路は、抵抗Rsが測定電極3と歯根膜10との間のインピーダンスに、容量Csが歯根膜10と口腔粘膜4との間のインピーダンスに、それぞれ対応している。つまり、図5に示す等価回路は、根管2に対応する歯内回路部が抵抗Rs、歯外回路部が容量Csで構成されている。
【0068】
さらに、本実施の形態において等価回路の構成要素を求める演算は、図5の等価回路の構成要素が抵抗1個と容量1個の計2個であるため、少なくとも周波数f及び周波数5fの異なる2つの測定信号で十分である。つまり、実施の形態1で用いた周波数25fの測定信号は、本実施の形態では不要である。そのため、本実施の形態に係る根尖検出器は、測定回路の簡易化が図れる上、構成要素の計算も容易になる。なお、本実施の形態に係る歯科用診断器は、周波数25fの発振器22を設けない以外、図4に示すブロック図と同じ構成である。
【0069】
<詳細な動作例>
本実施の形態に係る演算回路28の動作についても、基本的には実施の形態1と同じであり、周波数f及び周波数5fの測定信号に対応する測定電極3と口腔粘膜4との間のインピーダンス値を測定する。そして、図5の等価回路を用いる場合と同様に、抵抗Rsの抵抗値Rsvと、容量Csの容量値Csvとを用いてインピーダンス値を表した数4及び数5よりなる連立方程式を立て、測定したインピーダンス値を用いて当該連立方程式を解き、各測定位置における等価回路の構成要素(抵抗Rs,容量Cs)の値を求める。
【0070】
【数4】
【0071】
【数5】
【0072】
本実施の形態でも、根尖位置の検出のために抵抗Rsの値を求め、所定の閾値である根尖検出値までの当該値の変化を表示部29に表示する。なお、本実施の形態においても、抵抗Rsの抵抗値そのものを必ずしも求める必要はなく、抵抗値に対応する値を求めれば良い。
【0073】
より簡便な方法として、上記周波数f,周波数5fで測定された測定電極3と口腔粘膜4との間のインピーダンス値を組み合わせて得られる構成要素Rs,Csを予め計算で求めて演算回路28内のテーブルに記憶しておき、測定対象の歯1から得られた各々のインピーダンス値より構成要素(例えば抵抗Rs)の値を当該テーブルから導き出しても良い。なお、テーブルは、演算回路28内であっても、外部の記憶部に設けても良い。また、テーブルに記憶するデータ量を抑えるために、離散的にデータを記憶させておき補間処理を利用する形式でも良い。さらに、テーブルに格納するデータを構成要素Rs,Csの値とするのでなく、根尖位置を表す値等を格納しても良い。
【0074】
次に、本実施の形態に係る根尖検出器で求められる抵抗Rsの値の具体例も、基本的には実施の形態1で示した図3のグラフと同じになる。そのため、本実施の形態では詳細な説明を省略する。
【0075】
(実施の形態3)
<概要>
実施の形態1,2では、等価回路の構成要素である抵抗Rsの値をそのまま用いて根尖位置の検出を行った。一方、本実施の形態に係る根尖検出器では、等価回路の構成要素を組み合わせた演算値を用いて根尖位置の検出を行う。
【0076】
<具体例>
例えば、実施の形態2で求めた抵抗Rs、容量Csの積値を用いて根尖位置の検出が可能である。このように、抵抗Rsと容量Csの演算値(積値)を利用する場合の根尖位置の検出原理は、抵抗Rsの値が測定電極3と根尖6との距離に比例するという原理に基づくのではなく、測定電極3が根尖6に近づけば近づくほど、測定電極3と口腔粘膜4との間のインピーダンス値が根管外に存在する容量成分の影響を強く受けるという原理に基づいている。なお、本実施の形態に係る根尖検出器においても、等価回路の構成要素数の違いによる発振器の数の違いがあるものの図4に示すブロック図の構成を有している。そのため、抵抗Rsと容量Csの演算は、演算回路28で処理される。
【0077】
次に、本実施の形態に係る根尖検出器で求めた抵抗Rsと容量Csの積値を具体的に示す。図6に、抜歯された5本の歯を使用して測定された抵抗Rsと容量Csの積値の変化を示す。図6に示すグラフは、横軸が測定電極3から根尖6までの距離(単位はmm)を表し、縦軸が抵抗Rsと容量Csの積値(単位はkΩ×nF、又は無名数)を表している。図6に示すグラフでは、根尖6の近傍で抵抗Rsと容量Csの積値が、根尖では、ほぼ0.0002から0.0003であり、積値を使用して根尖を検出できることは明らかである。また根尖から−0.5mmの位置ではほぼ一定値、0.0035を示しており、根尖近傍の位置も検出可能である事が認められる。そのため、本実施の形態に係る根尖検出器では、所定の閾値となる根尖検出値を設定して、当該根尖検出値と、抵抗Rsと容量Csの積値とを比較することで精度よく根尖位置を検出することが可能となる。もちろん、得られた抵抗Rsと容量Csの積値に対応して表示メータを駆動しても根尖位置を表示することは可能である。なお本図6においては、積値として非常に小さい値を選択しているが、実際の回路においてはより扱いやすい値に変換できることは言うまでもない。
【0078】
より簡便な方法として、インピーダンス値に対応する抵抗Rsと容量Csの積値を予め計算で求めて演算回路28内のテーブルに記憶しておき、測定対象の歯1から得られたインピーダンス値より抵抗Rsと容量Csの積値を当該テーブルから導き出しても良い。また、抵抗Rsと容量Csの積値を基に作成したテーブルに、根管長測定結果として表示される表示値をも記憶させておき、得られたインピーダンス値より当該テーブルから表示値を直接導き出しても良い。なお、テーブルは、演算回路28内であっても、外部の記憶部に設けても良い。また、テーブルに記憶するデータ量を抑えるために、離散的にデータを記憶させておき補間処理を利用する形式でも良い。
【0079】
<変形例>
本実施の形態に係る根尖検出器の変形例としては、根尖位置の検出に抵抗Rsの値と、抵抗Rsと容量Csの積値とを所定の条件で切り替えて用いる構成が考えられる。図3に示すように、測定電極3から根尖6までの距離に対する抵抗Rsの値の変化はほぼ一定であるが、抵抗Rsと容量Csの積値は根尖6近傍での変化が大きい。そのため、本変形例では、根尖6近傍では抵抗Rsと容量Csの積値を用い、根尖6の近傍に至る手前までは抵抗Rsの値を用いて、根尖検出器に検出結果の表示を行わせるような、表示の切り替えが考えられる。これにより、本変形例では、測定電極先端が根尖近傍にいたるまでも、測定電極の位置に対応した表示が実現でき、かつ、根尖6の位置をより精度よく検出することができるという両方式の特徴を備えた根管長測定器が実現可能である。
【0080】
つまり、根尖検出のために使用する値が根尖近傍で急変するような特性であれば、正確に根尖検出が出来るという特性を利用するものである。例えば、根尖検出特性が、根尖から−1mmの範囲で積値が90%も変化するというような特性であれば、検出誤差は原理的に−1mm以下である。ところが−1mmにいたるまでの表示は、変化し難いため、測定電極の先端位置を感覚的に掴むことが非常に困難である。そこで、−1mmまでは抵抗Rsの値によって、なだらかに変化する表示を行い、根尖から−1mmの位置から根尖位置までは、抵抗Rsと容量Csの積値を用いて正確に根尖位置を検出できる表示を行うのである。
【0081】
なお、両者の値を切り替える条件としては、例えば、根尖に近づくほど、表示値が小さくなるような構成の機器であれば、ある測定電極3の位置における両者の値のうち小さい方の値を選ぶことが考えられる。つまり、当該条件を用いれば、根尖6近傍では、急激に減少する抵抗Rsと容量Csの積値が採用され、それ以外の位置では、なだらかに変化する抵抗Rsの値が採用されることになる。但し、両者の値を直接比較できるように、縦軸のスケールを調整しておく必要がある。また、切り替える、所定の基準として、抵抗Rsと容量Csの積値そのものを用いてもよいし、抵抗Rsの値そのものなど、測定電極3の位置を示す値であればどのような値でも使用可能である。なお、根尖位置の検出に用いる値は上記の値に限られず、従来の根尖検出器で用いていた測定電極3と口腔粘膜4との間のインピーダンス値の比等を使用しても良い。また切り替え時のメータ表示値の移行をスムーズに行うために、抵抗Rsと容量Csの積値と、抵抗Rsの値に各々重み付けを行った後の和値を使用することも可能である。各々の重み付け値を所定の基準に合わせて徐々に変化させ、最後は、抵抗Rsの値への重み付け値を0にすればスムーズな移行が可能となる。
【0082】
例えば、根尖位置の検出において、抵抗Rsと容量Csの積値と、測定電極3と口腔粘膜4との間のインピーダンス値の比とを、所定の条件で切り替えて用いる構成でも良い。なお、測定電極3と口腔粘膜4との間のインピーダンス値の比は、根尖検出器で用いられる測定電極3の先端の位置情報を示す指示値であり、測定電極3と口腔粘膜4との間の電気的応答であるインピーダンス値に基づく値である。
【0083】
抵抗Rsと容量Csの積値を用いた場合、測定電極3が根尖6から離れた位置でもその値は変化する。しかし、測定電極3と口腔粘膜4との間のインピーダンス値の比を用いた場合、根管2が乾燥していると測定電極3が根尖6から離れた位置ではその値はあまり変化せず、根尖近傍において急激に変化する。そのため、測定電極3が根尖6から離れた位置では抵抗Rsと容量Csの積値を利用し、根尖6近傍では測定電極3と口腔粘膜4との間のインピーダンス値の比を用いることで、見やすく尚且つ精度の高い実用的な根尖位置検出を行うことができる。本変形例においても、予め演算結果を得て記憶させたテーブルを用いることができるのは、いうまでもない。
【0084】
(実施の形態4)
従来使用されていた根尖検出器では、例えば、6.5kΩを根尖位置に対応するインピーダンス値とする一方で、15kΩを露髄に対応するインピーダンス値とする構成のものが存在した。これは、根管長測定において、根管インピーダンスが15kΩ以上であれば、露髄していないことを示す、という広く知られた原理に基づくものである。本願発明の実施の形態としても、上記と同様の方式によって、露髄の検出が可能で歯科用診断器とすることができる。本願発明を露髄の検出に用いる本実施形態においては、根管インピーダンスではなく、等価回路の容量成分の値により、露髄を検出する。この場合においても、採用する等価回路や、露髄検出に用いる値の演算の仕方は、適宜設計により決定することができるのは、前記実施の形態と同様である。
【0085】
(実施の形態5)
<根管治療装置>
実施の形態1乃至実施の形態4に示した歯科用診断器は、根管拡大用マイクロモータやスケーラなどの歯内治療装置に組み込むことができる。当該歯内治療装置の概略図を図7に示す。図7に示す歯内治療装置では、ハンドピースHと、据置型の制御器本体Cとを備えており、ハンドピースHは、切削工具40が取り付けられたヘッド41、ハンドピース本体42、シャンク43で構成され、チューブ44を介して制御器本体Cに接続されている。また、ハンドピース本体42には、切削工具40の駆動用のモータとしてマイクロモータが内蔵されている。
【0086】
制御器本体Cは、実施の形態1乃至実施の形態3に示した根尖検出器、あるいは実施の形態4に示した露髄検出器と、操作部45と、表示部46等を備えている。また、制御器本体Cには、測定電極3、口腔電極5を接続できるようになっている。図7に示す歯内治療装置では、当該測定電極3及び口腔電極5を用いて根尖位置や露髄を検出する。なお、図7に示す歯内治療装置では、測定電極3をハンドピースHとは独立して設けているが、本発明ではこれに限られず、ハンドピースH内に根尖検出のための測定信号を伝達する導電経路を設けることで、測定電極3と切削工具40とを同一に構成しても良い。また、根尖検出器あるいは露髄検出器のみを着脱できる構成としてもよく、逆に、制御器本体Cの構成をすべてハンドピースHに設けることあるいは着脱自在に装着することで、ハンドピースH単体を根尖検出機能付コードレス型歯内治療装置とすることもできる。このとき、根尖検出器あるいは露髄検出器が一つの装置として完成された上で、歯内治療装置に内蔵されてもよいし、根尖検出器あるいは露髄検出器の検出機能を発揮するために必要な各構成要素が歯内治療装置内に分割して搭載されていてもよい。
【0087】
さらに、上記歯内治療装置によれば、根尖や露髄の検出と歯内治療とを並行して行うことができるため、根尖検出結果や露髄検出結果を基に歯内治療装置の駆動を制御する、例えば、切削工具40の先端が根尖に近づくにつれて徐々に駆動力を低下させたり、根尖に到達したときに切削工具40の回転を反転あるいは停止させたりすることで、治療の安全性と装置の使い勝手とを高めることもできる。
【0088】
以上、歯内治療装置に歯科用診断器が組み込まれた例を説明したが、本実施の形態における歯内治療装置は、別体に構成された歯科用診断器と歯内治療装置とが、電気的あるいは機械的に接続されることで、一組の歯内治療装置として用いられるようなものも含む。この場合、歯科用診断器が出力する測定信号を歯内治療装置の切削工具に伝達するよう導線を接続し、歯内治療装置の切削工具を測定電極として使用したり、接続とともに歯内治療装置が予め備える表示装置を歯科用診断のための表示に切り替えたり、さらに上記同様、歯科用診断器の診断結果を基に歯内治療装置の駆動力を制御したりすることができる。
【0089】
<歯科診療台>
また、実施の形態1乃至実施の形態3に示した歯科用診断器(根尖検出器)や、実施の形態4に示した歯科用診断器(露髄検出器)、あるいは上記の歯内治療装置を、歯科診療台(歯科診療用ユニット)に組み込むことができる。図8に示す歯科診療台50は、患者を座位あるいは仰臥位に保持する診療台51と、診療に必要な表示を行うための表示部52と、診療のための操作入力を受けるための操作部53と、歯科用診断器又は歯内治療装置を組み込んだモジュール部54と、患者がうがいなどをするためのスピットン部55と、診療に必要な機器やモジュール部54を載置した移動テーブル56とを備えている。
【0090】
実施の形態1乃至実施の形態3に示した根尖検出器や、実施の形態4に示した露髄検出器、あるいは上記の歯内治療装置は、モジュール部54として歯科診療台(歯科診療用ユニット)50に組み込まれており、当該モジュール部54の情報は表示部52に表示される。なお、本発明は、図8に示す歯科診療台(歯科診療用ユニット)50に限られず、何らかの形で実施の形態1乃至実施の形態4に示した歯科用診断器や、上記の歯内治療装置が歯科診療台に組み込まれ、あるいは接続されることで、一組の歯科診療台(歯科診療用ユニット)として用いられていれば良い。また、上記歯科診療台(歯科診療用ユニット)においても、根尖検出結果や露髄検出結果を基に歯科診療台(歯科診療用ユニット)の駆動を制御するよう構成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の実施の形態1に係る根尖検出器の等価回路を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る根尖検出器の使用態様概略図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る根尖検出器の検出する抵抗Rsの値の変化を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係る根尖検出器の構成ブロック図である。
【図5】本発明の実施の形態2に係る根尖検出器の等価回路を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態3に係る根尖検出器の検出する抵抗Rsと容量Csの積値の変化を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態4に係る根管治療装置の概略図である。
【図8】本発明の実施の形態4に係る歯科診療台の概略図である。
【図9】本発明の前提となる根尖検出器の使用態様を説明するための図である。
【図10】本発明の前提となる歯の根尖部付近の構造を説明するための図である。
【図11】本発明の前提となる根尖検出器の使用態様概略図である。
【符号の説明】
【0092】
1 歯、2 根管、3 測定電極、4 口腔粘膜、5 口腔電極、6 根尖、7 信号印加部、8 検出抵抗、9 歯肉、10 歯根膜、20,21,22 発振器、23 アナログ・マルチプレクサ、24 バッファ、25 タイミングコントローラ、26 波形整形回路、27 A−D変換器、28 演算回路、29 表示部、101 歯、102 根管、103 測定電極、104 測定電極の先端、105 口腔電極、106 根尖、107 信号印加部、108 検出抵抗、109 歯根膜、110 根尖孔、111 口腔粘膜、112 薬液。
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用診断器及び、これを用いた歯内治療装置,歯科用診療台に係る発明であって、特に、歯の内部に関する情報を得る歯科用診断器及び、これを用いた歯内治療装置,歯科用診療台に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯の内部の構成要素、特に根管に関する情報の1つである根尖の位置を検出する(根管長を決定する)歯科用診断器として、電気的根尖検出器(電気的根管長測定器)がある(以下、「電気的」という語を省略して説明する)。従来の根尖検出器では、例えば、図9に示すような概略図によって根尖検出を行う。図9に示す構成により根尖検出を行う根尖検出器では、歯101の根管102内に測定電極103を挿入し、当該測定電極103の先端104と、口腔粘膜に電気的に接触する口腔電極105との間のインピーダンス値を測定して、測定電極103の先端104が根尖106に到達したことを検出する。本方式においては、測定電極103が根尖に達した時は、根管のインピーダンス(歯内のインピーダンス)を測定するのでなく、根尖106と口腔粘膜に電気的に接触する口腔電極105との間のインピーダンス値を測定していることになる。
【0003】
図9に示す構成により根尖検出を行う根尖検出器では、信号印加部107から供給された測定信号に基づき、検出抵抗108に流れる電流値を測定してインピーダンス値を求めている。なお、当該分野のインピーダンス値の測定は、上述の方法やインピーダンス値そのものを測る方法以外に、図9に示す検出抵抗108の両端電圧や、ある電流,電圧時に求められる抵抗値などを測定指標として被測定部のインピーダンス値を算出する方法であっても良い。以下、それらの方法を総合して「インピーダンス値を求める」と記載する。
【0004】
従来の根尖検出器は、「口腔粘膜と根管内に挿入した測定電極の先端のインピーダンス値は、測定電極の先端が根尖孔を経由して歯根膜に達したとき、年齢、歯種による差がなく、ほぼ一定の値(6.5kΩ)をとる」という測定原理に基づいている。なお、図10に示す歯の根尖部付近を拡大した歯の部分のように、歯根膜109は歯101の歯根全体を覆う膜であり、測定電極103の先端104が根尖孔110より歯根膜109に接触する位置を根尖とする。
【0005】
図9に示す構成により根尖検出を行う根尖検出器では、検出抵抗108においてインピーダンス値に対応する測定電流が、6.5kΩのインピーダンス値に対応する値に達したとき、測定電極103の先端104が根尖孔110を経由して歯根膜109に達していると判断する。また、従来の根尖検出器では、インピーダンス値の比や差を利用して根尖位置を測定するものもある。詳細については、特許文献1及び特許文献2に記載されている。さらに、インピーダンス値と、インピーダンス値の比や差とを併用し、それらを選択的にあるいは同時に表示することで根尖検出を示す根尖検出器が、特許文献3に記載されている。以上、根尖検出器に関する説明を記載したが、同じく電気的に歯内診断を行う診断器として、例えば、インピーダンス値15kΩを基準値として露髄を検出する診断器等も存在したが、これらの診断機器も本願発明の属する技術分野に含まれる。
【0006】
【特許文献1】特許2873722号公報
【特許文献2】特公昭62−2817号公報
【特許文献3】特許3113109号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の根尖検出器は、「口腔粘膜と根管内に挿入した測定電極の先端のインピーダンス値は、測定電極の先端が根尖孔を経由して歯根膜に達したとき、年齢、歯種による差がなく、ほぼ一定の値(6.5kΩ)をとる」という測定原理に基づいている。しかし、この測定原理が成立するのは根管内が乾燥している場合であって、根管内に導電性の薬液や血液などが存在すると、歯根膜と口腔粘膜との間のインピーダンス値は大幅に変動する。そのため、従来の根尖検出器では、根管内に導電性の薬液や血液などが存在する歯の根尖位置を検出することは困難であった。また、根管内は湿潤状態であることが通常であるため、従来の根尖検出器で根尖位置を検出するためには、強制的に根管内を乾燥させることが必要であった。
【0008】
歯内の各部位、特に根管内が湿潤状態の歯に対して、従来の根尖検出器を用いて根尖位置を測定する場合について詳しく説明する。まず、図11に、口腔粘膜111から歯根膜109を経由して根管102に至る部分の等価回路を示した従来の根尖検出器の根尖検出態様概略図を示す。図11では、根管102内に導電性の薬液112が存在しており、根尖孔110から導電性の薬液112が溢出して歯根膜109と口腔粘膜111との間のインピーダンス値が大幅に低下する。
【0009】
図11に示すように、歯根膜109と口腔粘膜111との間の等価回路を抵抗Rと容量Cとの並列回路とみなす場合、根管内が湿潤状態では、抵抗Rの値が乾燥時の1/k倍に低下し、容量Cの値が乾燥時のm倍に増加する傾向が認められる。但し、k,mはともに根管の湿潤状態により決定される1以上の係数である。また全ての歯において、必ずしも、抵抗Rと容量Cの値が変動するとは限らないが、概略、上記の傾向が見られると想定してよい。図11に示す構成により根尖検出を行う従来の根尖検出器では、導電性の薬液112の影響を受けて、測定電極103の先端104と口腔粘膜111との間のインピーダンス値が大幅に低下するため、検出誤差が生じる。特に測定電極103の先端104と根尖孔110間のインピーダンスが大幅に低下するので測定電極103の先端が根尖よりも手前にあるにも関わらず、根尖に到達したという誤った検出結果を得てしまう。なお、根管内の湿潤状態は、導電性の薬液112に限らず、血液あるいは唾液などでも歯根膜109と口腔粘膜111との間のインピーダンス値の低下が認められる。
【0010】
また、図11に示す等価回路では、測定電極103の先端と根尖孔110に存在する歯根膜109との間に、根管内インピーダンスZrが存在している。図11では、これを便宜的に直列抵抗Zrとして示している。この場合に、測定される測定電極103の先端と口腔粘膜111との間のインピーダンス値は、測定電極103の先端と根尖孔110の部位の歯根膜109との間のインピーダンス値と根尖孔110の部位の歯根膜109と口腔粘膜111との間のインピーダンス値との合成値となる。そのため、測定電極103の先端104と口腔粘膜111との間のインピーダンス値は、上述したように薬液112の影響で6.5kΩ以下となる場合、当該合成値が6.5kΩになった位置が根尖位置と誤表示されることになる。
【0011】
具体的に説明すれば、例えば、導電性の薬液112の影響を受けて、歯根膜109と口腔粘膜111との間のインピーダンス値が4kΩで、根尖から3mmの位置での測定電極103の先端と根尖孔110の部位に存在する歯根膜109との間のインピーダンス値が2.5kΩとする。この場合、両者のインピーダンス値の和(合成値)が6.5kΩとなるので、従来の根尖検出器では、測定電極103が根尖から3mm離れた位置を根尖位置と誤表示してしまう。
【0012】
そこで、特許文献1あるいは2に示すような、インピーダンス値の比や差を用いて根尖検出を行うことで、上記の導電性の薬液112等による測定誤差を解消する方式が開発されたのであるが、本発明は、これらとは全く異なる方法により、薬液等の影響を受けずに正確に歯の内部に関する情報を得ることができる歯科用診断器を提供することを目的とする。尚、上記は主として根尖検出器を基にした説明であるが、本件出願は根尖検出に限らず、例えば、露髄の有無や歯内の齲蝕等の検出などの、歯の内部に関する様々な情報を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の請求項1に係る解決手段は、測定電極と、口腔電極と、測定信号印加手段と、計測手段と、演算処理手段とを備える歯科用診断器を用いることであって、電気的特性値から歯の内部に関する情報を得る方式を採用することである。この歯科用診断器においては、測定電極を、測定対象である歯の内部の歯髄腔(髄室及び根管)に挿入し、口腔電極は、口腔粘膜に電気的に接触させる。また、測定信号印加手段は、測定電極と口腔電極との間に測定信号を印加し、計測手段は、周波数の異なる複数の測定信号に対して、測定電極と口腔電極との間の電気的応答を計測する。さらに、演算処理手段は、電気的応答に基づいて、測定電極と口腔電極との間の導電経路をモデル化した等価回路の所定部分の電気的特性値を演算する。例えば、本発明の請求項2のように、測定電極が根管に挿入された場合は、この歯科用診断器は根管に関する情報を得るための診断器となる。
【0014】
本発明の請求項3に係る解決手段は、測定信号印加手段が、等価回路の構成要素数と少なくとも同数の異なる周波数を持つ測定信号を印加することを特徴とする歯科用診断器を採用することである。
【0015】
本発明の請求項4に係る解決手段は、演算処理手段が、電気的応答に対応する等価回路の所定部分の電気的特性値を予め演算で求めたテーブルを有し、当該テーブルから計測手段で計測された電気的応答に対応する等価回路の所定部分の電気的特性値を得ることを特徴とする歯科用診断器を採用することである。
【0016】
本発明の請求項5に係る解決手段においては、等価回路が、歯の内部に対応する歯内回路部と、それ以外の歯外回路部とにより構成されている。ここで言う「歯の内部」とは、髄室や根管といった歯牙の内部を指し、「それ以外」とは、根尖孔の外側から歯槽骨・歯肉を経由し口腔粘膜に至る経路を指す。
【0017】
本発明の請求項6に係る解決手段においては、等価回路の、歯外回路部を抵抗要素と容量要素の並列回路とし、当該並列回路に歯内回路部の抵抗要素を直列接続した回路であることを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項7に係る解決手段においては、等価回路が、歯外回路部の容量要素と、歯内回路部の抵抗要素とを直列接続した回路であることを特徴とする。なお、請求項5ないし請求項7に係る解決手段として採用されている回路構成は、実際の歯内回路、歯外回路が上記記載の構成そのものであると主張しているのでなく、各解決案の例として採用可能な等価回路の構成を挙げたものである。
【0019】
本発明の請求項8に係る解決手段は、歯内回路部を構成する要素のうち、少なくとも1つの構成要素に基づく値を、歯科用診断のための電気的特性値として用いるものであることを特徴とする歯科用診断器を採用することである。
【0020】
本発明の請求項9に係る解決手段は、歯内回路部を構成する要素のうち少なくとも1つの構成要素に基づく値と、前記歯外回路部を構成する要素のうち少なくとも1つの構成要素に基づく値との演算値を、歯科用診断のための電気的特性値として用いるものであることを特徴とする歯科用診断器を採用することである。
【0021】
本発明の請求項10に係る解決手段は、演算処理手段が、第1の電気的特性値と第2の電気的特性値のどちらを実際に採用するかを、実験を基に予め設定された閾値を基準として切り替えて、歯の内部に関する情報を得ることを特徴とする。ここでいう第1の電気的特性値とは、等価回路中の歯内回路部を構成する要素のうち少なくとも1つの構成要素に基づく値である。また、第2の電気的特性値とは、歯内回路部の少なくとも1つの構成要素に基づく値と、歯外回路部の少なくとも1つの構成要素に基づく値との演算値である。この構成の具体的な説明については、実施の形態3<変形例>の項で詳述する。
【0022】
本発明の請求項11に係る解決手段は、歯の内部に関する情報が、測定電極の先端の位置情報、露髄の有無、歯の内部の齲蝕の有無の少なくともいずれかであることを特徴とする歯科用診断器を採用することである。
【0023】
本発明の請求項12に係る解決手段は、電気的応答に基づく値から得られた測定電極の先端の位置情報と、演算処理手段で演算した電気的特性値から得られた歯の内部に関する情報とを、測定電極の根管内位置に対応する所定の基準で切り替えて、根尖位置を検出することを特徴とする歯科用診断器を採用することである。ここで言う「電気的応答に基づく値」とは、電気的応答の値そのものであってもよいし、複数の電気的応答値同士を演算して得られた値(例えばインピーダンス値の差や比の値)であってもよい。この構成の具体的な説明については、実施の形態3<変形例>の項で詳述する。
【0024】
本発明の請求項13に係る解決手段においては、歯の内部に関する情報を表示する表示部をさらに備えることを特徴とする。この表示部において、前述の請求項10に係る解決手段を併用し、第1の電気的特性値による情報と、第2の電気的特性値による情報とを、切り替えて表示することもできる。
【0025】
本発明の請求項14に係る解決手段においては、表示部が、歯の内部に関する情報を可視表示することを特徴とする。
【0026】
本発明の請求項15に係る解決手段においては、表示部が、歯の内部に関する情報を聴覚的に表示することを特徴とする。上記請求項13ないし15に記載の表示部は、特に歯の内部に関する情報を抽出して表示するものであって、従来の根管長測定器、例えば測定電極先端と口腔電極との間のインピーダンス値、すなわち歯内と歯外の双方の情報を包含する情報を得るような根管長測定器に採用されていた表示部とは、表示する情報が異なる。
【0027】
本発明の請求項16に係る解決手段は、測定電極と、口腔電極と、測定信号印加手段と、計測手段と、信号処理手段を歯科用診断器に採用することである。この歯科用診断器においては、測定電極は、測定対象である歯の内部(根管等)に挿入され、口腔電極は、口腔粘膜に電気的に接触させる。測定信号印加手段は、測定電極と口腔電極との間に測定信号を印加し、計測手段は、周波数の異なる複数の測定信号に対して、測定電極と口腔電極との間の電気的応答を計測する。さらに、信号処理手段は、測定電極と口腔電極との間の電気的特性を、測定電極から根尖までの歯内区間と、歯内区間以外の残区間とのそれぞれの電気的特性の合成特性とみなしたとき、電気的応答に基づいて、合成特性から残区間の電気的特性の少なくとも一部の影響を除去した測定結果を取得し、当該測定結果に応じた情報を出力する。この歯科用診断器においても、当該測定結果とともに、他の取得しうる入力値(請求項8の説明として上記したような、等価回路の少なくとも1つの構成要素に基づく値の電気的特性値や、請求項9の説明として上記したような、得られた値と演算値の電気的特性値といった値)を併用し、適宜測定電極の根管内位置に対応する所定の基準で切り替えて、歯の内部に関する情報を得ることもできる。この構成についても実施の形態3<変形例>の項で詳述する。
【0028】
本発明の請求項17に係る解決手段は、上記各解決手段において採用される歯科用診断器のうち、いずれか1つの歯科用診断器と同様の診断機能を、歯内治療装置に設けることである。
【0029】
本発明の請求項18に係る解決手段は、上記各解決手段において採用される歯科用診断器あるいは歯内治療装置のうち、少なくとも1つを歯科用診療台に設けることである。
【発明の効果】
【0030】
本発明の請求項1に記載の歯科用診断器は、電気的応答に基づいて、測定電極と口腔電極との間の導電経路をモデル化した等価回路の所定部分の電気的特性値を各々分離して演算し、歯の内部に関する情報を得るので、歯の内部に存在する、浸出液、血液、薬液等の影響を受けずに正確に歯の内部に関する情報を得ることができる。さらに請求項2に記載の歯科用診断器によれば、特に歯の根管に関する情報を得ることができる。例えば、測定電極の先端が根尖孔に存在する歯根膜に達したとき、測定電極の先端と根尖孔の歯根膜との間のインピーダンス値は、根管内の環境に関わらず、ほぼゼロになると想定できる。よって、本発明に記載の歯科用診断器を用いて根管長測定を行う場合、測定電極先端と歯根膜との間のインピーダンス値がゼロ付近の値になったときを根尖位置とすれば、薬液等の影響を受けず、正確に歯の内部の情報(根管長)を得ることができる。従来の電気的根管長測定においては、測定電極先端から口腔電極までのインピーダンス値を測定してきた。これに対し、本発明のような、測定電極の先端と根尖孔の歯根膜との間のインピーダンス値だけを分離して求めるという発想は、まったく新しいものである。
【0031】
本発明の請求項3に記載の歯科用診断器は、信号印加手段が、等価回路の構成要素数と少なくとも同数の異なる周波数を持つ測定信号を印加するので、演算により等価回路の構成要素の値を求めることができる。
【0032】
本発明の請求項4に記載の歯科用診断器は、予め設定されたテーブルから計測手段で計測された電気的応答に対応する等価回路の所定部分の電気的特性値を得るので、複雑な演算処理を行うことなく迅速に根管に関する情報を得ることができる。
【0033】
本発明の請求項5に記載の歯科用診断器は、等価回路が、歯の内部(根管内に挿入された測定電極の先端と歯根膜との間)に対応する歯内回路部と、それ以外(歯根膜と口腔粘膜との間)の歯外回路部とにより構成されるので、演算等の処理により歯の内部(例えば根管)に関する情報だけを分離して得ることができる。尚、ここで言う「歯の内部」とは、髄室や根管といった歯牙の内部を指し、「それ以外」とは、根尖孔の外側から歯槽骨・歯肉を経由し口腔粘膜に至る経路を指す。ここでも、電気的応答に基づいて、測定電極と口腔電極との間の導電経路をモデル化した等価回路の所定部分の電気的特性値を各々分離して演算し、歯の内部に関する情報を得るので、歯の内部に存在する、浸出液、血液、薬液等の影響を受けずに正確に歯の内部に関する情報を得ることができる。さらに請求項2に記載の歯科用診断器によれば、特に歯の根管に関する情報を得ることができる。例えば、測定電極の先端が根尖孔に存在する歯根膜に達したとき、測定電極の先端と根尖孔の歯根膜との間のインピーダンス値は、根管内の環境に関わらず、ほぼゼロになると想定できる。よって、本発明に記載の歯科用診断器を用いて根管長測定を行う場合、測定電極先端と歯根膜との間のインピーダンス値がゼロ付近の値になったときを根尖位置とすれば、薬液等の影響を受けず、正確に歯の内部の情報(根管長)を得ることができる。
【0034】
本発明の請求項6に記載の歯科用診断器は、等価回路が、歯外回路部を抵抗要素と容量要素の並列回路とし、当該並列回路に歯内回路部の抵抗要素を直列接続した回路であるので、各々の抵抗要素、及び、容量要素を個別に求めれば、正確に歯の内部(例えば根管)に関する情報を得ることができる。
【0035】
本発明の請求項7に記載の歯科用診断器は、等価回路を簡略化して歯外回路部の容量要素と、歯内回路部の抵抗要素とを直列接続した回路であるので、演算等の処理を簡略化することができる。
【0036】
本発明の請求項8に記載の歯科用診断器は、歯内回路部の少なくとも1つの構成要素に基づく値を、歯科用診断のための電気的特性値として用いる。また、請求項9に記載の歯科用診断器は、歯内回路部の少なくとも1つの構成要素に基づく値と、歯外回路部の少なくとも1つの構成要素に基づく値との演算値を、歯科用診断のための電気的特性値として用いるものである。この場合、電気的特性値を様々な態様で得られるため、得られる情報の幅が広がり、必要とする歯の内部(例えば根管)に関する情報をより精度よく得ることができる。
【0037】
本発明の請求項10ないし12に記載の歯科用診断器は、所定の基準で、例えば実験を基に予め設定された閾値を基にして、電気的特性値又は根管に関する情報を切り替えるので、測定電極の位置によって、精度の高い、あるいは使い勝手のよい情報を得ることができるため、より良い診断を行うことができる。具体的には、例えば根尖に近づくほど表示値が小さくなるような構成の機器において、2種類の電気的特性値を切り替える条件としてある測定電極の位置における2種類の電気的特性値のうち小さい方の値を選ぶ、といった態様が考えられる。
【0038】
本発明の請求項13に記載の歯科用診断器は、歯の内部に関する情報を表示する表示部を備える。請求項14あるいは15に記載の歯科用診断器のように、その表示部が歯の内部に関する情報を可視的又は聴覚的に表示するものであれば、歯の内部に関する情報を歯科医等が容易に確認できる。なお、この表示部は、特に歯の内部に関する情報を抽出して表示するものであって、従来の根管長測定器、例えば測定電極先端と口腔電極との間のインピーダンス値、すなわち歯内と歯外の双方の情報を包含する情報を得るような根管長測定器に採用されていた表示部とは、表示する情報が異なる。
【0039】
本発明の請求項16に記載の歯科用診断器は、電気的応答に基づいて、測定電極から根尖までの歯内区間と、前記歯内区間以外の残区間とのそれぞれの電気的特性が包含された値(以下「合成特性」と記載する)から、歯内以外の区間の電気的特性の少なくとも一部の影響を除去した測定結果を取得し、当該測定結果に応じた情報を出力するので、正確に歯の内部に関する情報を得ることができる。
【0040】
本発明の請求項17に記載の根管治療装置は、本発明に記載の歯科用診断器の診断機能を備えるので、根管の診断を行いながら治療を進めることができ、効率的に治療が行える。つまり、歯内各部、特に根管を治療する前段階、あるいは治療の最中に、上記の歯科用診断器を用いた診断と同様の診断を行うことができる。
【0041】
本発明の請求項18に記載の歯科用診療台(歯科診療用ユニット)では、患者を保持するための診療台、患者を診療するための種々の診療器具、診療器具の操作手段、うがい用のスピットン、表示装置といった通常の診療台(歯科診療用ユニット)に加え、さらに本発明に記載の歯科用診断器等を備えるので、歯内の、特に根管の診断のために、患者を移動させたり装置を持ち運んだりする手間が省け、さらに効率の良い診療を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
(実施の形態1)
<概要>
本実施の形態に係る歯科用診断器は、歯の内部、特に根管に関する情報を得るための機器であるが、以下では、特に根尖位置を検出する(根管長を測定する)根尖検出器について説明する。但し、本発明に係る歯科用診断器は、根尖位置を検出する根尖検出器に限定されるものではなく、例えば、露髄や歯内の齲蝕等も診断の対象とすることができる。また、本実施の形態に係る根尖検出器では、本発明の一例として、測定電極と口腔粘膜との間の導電経路をモデル化して図1に示す抵抗Rs、抵抗Rp及び容量Cpよりなる等価回路とし、当該等価回路の構成要素に基づく電気的特性値を演算で求め、根尖位置を検出している。
【0043】
<構成と具体例>
図2に、本実施の形態に係る根尖検出器を使用する際の概略図を示す。図2に示す態様で使用される根尖検出器では、歯1の根管2内に測定電極3を挿入し、当該測定電極3の先端と、口腔粘膜4に電気的に接触する口腔電極5との間のインピーダンス値(電気的応答)を測定して、測定電極3の先端が根尖6に到達したことを検出する。尚、図2は根管2を診断の対象とし、根尖位置を検出する態様を示した図であるが、後述するように、本願発明は、根管より上部の髄室(不図示)を前提に露髄なども診断対象とすることもできる。本明細書において、「歯内」あるいは「歯の内部」と記載する際は、これら根管及び髄室を含めた部分を示す。本実施の形態でのインピーダンス測定は、信号印加部7から測定信号を印加し、図1に示す検出抵抗8に流れる電流を測定することで行われる。なお、当該分野のインピーダンス測定は、上述の方法やインピーダンス値そのものを測る方法以外に、図1に示す検出抵抗8の両端電圧や、ある電流,電圧時に求められる抵抗値などを測定指標として被測定部のインピーダンス値を算出する方法であっても良いことは、背景技術の項で記載したとおりである。また、図2に示すように、歯1と歯肉9との間には歯根膜10が存在する。歯根膜は歯根部を広く覆う膜であるが、以下の記載において「歯根膜」と言う場合は、すべて「根尖孔6近傍に存在する歯根膜10」を意味する。
【0044】
次に、測定電極3と口腔電極5との間の等価回路について説明する。まず、図1に示す等価回路では、抵抗Rs,抵抗Rp,容量Cpの3つの要素で構成されている。そして、当該等価回路は、抵抗Rsが測定電極3と歯根膜10との間(歯内回路部)のインピーダンスに、抵抗Rpと容量Cpの並列回路が歯根膜10と口腔粘膜4との間(歯外回路部)のインピーダンスに、それぞれ対応している。つまり、図1に示す等価回路は、測定電極3から根尖6までの歯内区間(歯内回路部)が抵抗Rs、歯内区間以外の残区間(歯外回路部)が抵抗Rpと容量Cpの並列回路で構成される電気的特性を包含する特性、すなわち本明細書にいう合成特性とみなされる。なお、図1に示す等価回路は生体の等価回路であるため、厳密に等価でなく、図1に示す等価回路が歯の電気的等価回路であると主張するものでない。図1に示す等価回路は、本出願において採用される、等価回路であり、実用上問題のない程度まで、歯の電気的特性に近似できる、一つの例として挙げたものである。
【0045】
そして、測定電極3と歯根膜10との間のインピーダンスである抵抗Rsは、測定電極3と歯根膜10との距離に対応するので、測定電極3が根尖6に近づくにつれて抵抗Rsの値が小さくなる。なお、測定電極3が根尖6の位置に近づいたとき、歯1の構造から明らかなように測定電極3の先端と歯根膜10との間の距離はほぼゼロに近い値となる。そのため、本実施の形態に係る根尖検出器では、測定電極3と歯根膜10との間の距離がほぼゼロのときの抵抗Rsの値を利用することで、基本的に根管内の湿潤状態の影響を受けずに根尖位置の検出ができる。換言すれば、歯内区間と歯外区間とを包含する合成特性から、歯内区間に相当する等価回路Rsに対応する電気的特性のみを抽出することで、根尖位置の検出ができるということである。
【0046】
もちろん、段落0044に記載したように、図1に示す等価回路は生体の等価回路であるため、厳密に等価でなく、図1に示す等価回路が歯の電気的等価回路であると主張するものでない。図1に示す等価回路は、実用上問題のない程度まで、歯の電気的特性に近似できる、一つの例として挙げたものである。そのため、測定電極3と歯根膜10との間の距離がほぼゼロのときでも、抵抗Rsの値はゼロにならないこともある。また、抵抗Rsの値は、歯根膜10と口腔粘膜4との間のインピーダンスと無関係に独立しているので、歯根膜10と口腔粘膜4との間のインピーダンス変動の影響を受けない。本実施の形態に係る根尖検出器では、測定電極3と歯根膜10との間の距離がほぼゼロのときの当該部分の電気的特性値(抵抗Rsの値)を求めて根尖位置を検出することができる。
【0047】
次に、本実施の形態に係る根尖検出器で求めた抵抗Rsの値を具体的に示す。図3に、抜歯された5本の歯を使用して測定された抵抗Rsの値の変化を示す。図3に示すグラフは、横軸が測定電極3の先端から根尖6までの距離(単位はmm)を表し、縦軸が抵抗Rsの値(単位はkΩ又は無名数)を表している。図3に示すグラフでは、測定電極3が根尖6に近づくにつれて抵抗Rsの値が減少している。そのため、図3に示すグラフによれば、所定の閾値となる根尖検出値を1.0(単位は無名数)と設定すれば、本実施の形態に係る根尖検出器において正確に根尖位置を検出することが可能となる。
【0048】
なお、本実施の形態に係る根尖検出器では、抵抗Rsの抵抗値そのものを正確に求める必要はなく、根尖位置検出に必要な情報となる抵抗Rsの抵抗値に対応する値(抵抗Rsの値)を求め、当該値が根尖位置までどのように変化したのかを検出できれば良い。また、図3に示すグラフでは、抜歯された歯による測定データであるため、歯根膜10が存在しないので実際の根尖6までの距離を横軸としている。
【0049】
<詳細な動作例>
図4に、本実施の形態に係る根尖検出器の構成をより詳しく示したブロック図を示す。図4に示す根尖検出器には、周波数fの測定信号を出力する発振器20、周波数5f(fの5倍)の測定信号を出力する発振器21、周波数25f(fの25倍)の測定信号を出力する発振器22の3つの異なる周波数の測定信号を生成できる発振器を備えている。本実施の形態では、図1に示した等価回路の構成要素が3個であるので、後述する等価回路のインピーダンスを表す連立方程式を解くためには少なくとも3つの異なる周波数での測定結果が必要となる。なお、本実施の形態では、使用する複数の周波数として、基本周波数fの1倍,5倍,25倍(つまり基本周波数とその高調波)を用いているが、本発明はこれに限られず基本周波数fの1倍,10倍,100倍等であっても良い。
【0050】
また、図4に示す根尖検出器では、アナログ・マルチプレクサ23、バッファ24、タイミングコントローラ25を備えている。さらに、図4に示す根尖検出器では、波形整形回路26、A−D変換器27、演算回路28、表示部29及び検出抵抗8を備えている。なお、タイミングコントローラ25は、各回路の動作のタイミングを制御するもので、当該制御に基づきアナログ・マルチプレクサ23が各発振器20,21,22の出力を例えば10msecごとに切り替える。そして、アナログ・マルチプレクサ23からの出力が、バッファ24を介して測定電極3に印加される。
【0051】
本実施の形態に係る根尖検出器では、測定電流の変化を測定電極3と口腔粘膜4との間のインピーダンス値の変化として検出する。つまり、測定信号の各周波数における測定電極3と口腔粘膜4との間のインピーダンス値の変化を、検出抵抗8における測定電流として検出する。この測定電流を波形整形回路26で整流して波形を整えた後、A−D変換器27でデジタルデータに変換する。
【0052】
さらに、演算回路28では、A−D変換器27からのデジタルデータを逐次ラッチしながら、各周波数f、5f、25fで測定された測定電極3と口腔粘膜4との間のインピーダンス値より、抵抗Rsの抵抗値に対応する値、抵抗Rpの抵抗値に対応する値及び容量Cpの容量値に対応する値を演算で求める。なお、インピーダンス値の測定においては、測定電極3がほぼ同一の根管内位置で、各周波数f、5f、25fの測定を行う方が望ましいが、必ずしも測定電極5の位置が厳密に同一でなくとも、根尖位置の検出精度にはほとんど影響を与えない。
【0053】
本実施の形態では、抵抗Rsの抵抗値に対応する値(抵抗Rsの値)を等価回路の所定部分の電気的特性値としており、当該電気的特性値を用いて根尖位置の検出を行う。なお、等価回路の所定部分とは、等価回路全体ではなく一部分だけである。具体的には、演算回路28の内部に備えたコンパレータ(又はソフト的に比較機能を実現するプログラム)を用いて、予め記憶していた根尖検出値と当該電気的特性値を比較して根尖位置を検出し表示部29に表示する。また、表示部29は、根尖位置までの当該電気的特性値の変化も、一つの表示用LEDの点滅、表示用LEDの色の変化、アナログメータの指針の振れ、複数の表示用LEDよりなるバーグラフ、あるいは歯牙模式図とバーグラフとの組み合わせなどによって、連続的又は段階的に表示する。なお、表示部29の表示は、視覚に限られず、ブザーやスピーカーなどを使用する聴覚的な警告表示であっても良い。このような聴覚的な表示を行う場合、例えば、測定電極が根尖に近づくにつれて、断続音の間隔を狭めたり、音量を上げたりすることで、測定電極が根尖に近づいていることを術者に知らせる構成とすることができる。もちろん、根尖までの距離に対応するような位置情報を表示してもよい。
【0054】
次に、本実施の形態に係る演算回路28の動作について詳細に説明する。まず、演算回路28には、測定電極3と口腔粘膜4との間の導電経路をモデル化した等価回路が予め設定されている。本実施の形態では、この等価回路を図1に示す等価回路としているが、本発明はこの等価回路を採用することに限られるものではなく、後述のさらに簡素化した等価回路を用いることもできる。等価回路の選択は、実際に装置を設計するにあたり、費用、構成や演算の簡便さ、歯内(根管)診断精度等を考慮し、適宜行うべきものであって、本発明の主眼は、等価回路の構成要素となる部分の電気的特性値を求めることで歯の構造、特に根管に関する情報を得ることにある。なお、図1に示す等価回路では、インピーダンスをRs+Rp//Cpの数式で表すことができ、数式中の「//」の記号は、並列接続の合成抵抗を表している。
【0055】
そして、抵抗Rsの抵抗値をRsv、抵抗Rpの抵抗値をRpv、容量Cpの容量値をCpvとする。また、測定信号の周波数がf、5f、25fであるとき、容量Cpのそれぞれのインピーダンス値を、1/(2πfCpv),1/(10πfCpv),1/(50πfCpv)とする。なお、本実施の形態では、簡略化のためインピーダンス値を1/(jωCpv)=1/(ωCp)と近似している(角振動数ω=2π×周波数)。
【0056】
そして、これらの値を用いて、周波数fのときのインピーダンス値を数1と表記できる。
【0057】
【数1】
【0058】
同様に、周波数5fのときのインピーダンス値は、数2と表記できる。
【0059】
【数2】
【0060】
同様に、周波数25fのときのインピーダンス値は、数3と表記できる。
【0061】
【数3】
【0062】
演算回路28では、上記の式に対して、周波数f,5f,25fで測定された測定電極3と口腔粘膜4との間のインピーダンス値を逐次入力して、数1から数3の連立方程式を解けば、抵抗値Rsv,抵抗値Rpv,容量値Cpvを求めることができる。つまり、演算回路28では、測定電極3の先端が存在する位置における等価回路の構成要素(抵抗Rs,抵抗Rp,容量Cp)の値を求めることができる。
【0063】
より簡便な方法として、上記周波数f,周波数5f,周波数25fで測定された測定電極3と口腔粘膜4との間のインピーダンス値を組み合わせて得られる構成要素Rs,Rp,Cpの値を予め計算で求めて演算回路28内のテーブルに記憶しておき、測定対象の歯1から得られた各々のインピーダンス値より構成要素(例えば抵抗Rs)の値を当該テーブルから導き出す方法でも良い。
【0064】
なお、テーブルは、演算回路28内であっても、外部の記憶部に設けても良い。また、テーブルに記憶するデータ量を抑えるために、離散的にデータを記憶させておき補間処理を利用する形式でも良い。さらに、テーブルに格納するデータを構成要素Rs,Rp,Cpの値とするのでなく、根尖位置を表す表示値等を格納しても良い。
【0065】
以上のように、本実施の形態では、測定電極3の先端と口腔粘膜4(口腔電極5)との間の導電経路をモデル化した等価回路の所定部分の電気的特性値を演算等で求めるので、薬液等の影響を受けずに精度よく根尖位置を検出することができる。なお、本実施の形態では、根管に関する情報として根尖位置を検出しているが、本発明に係る歯科用診断器はこれに限られず、等価回路の所定部分の電気的特性値を求めることで、必要な根管に関する情報、及び露髄や齲蝕の存在などの根管以外の歯の構造に対する情報を得ることができる。例えば露髄や齲蝕を検出する場合は、等価回路の構成要素の一部である歯内抵抗値等に着目し、露髄や齲蝕に対応する閾値を設定することで、露髄や齲蝕を検出することができる。
【0066】
(実施の形態2)
<概要>
本実施の形態に係る歯科用診断器は、実施の形態1とほぼ同じ構成の根尖検出器であるが、測定電極3と口腔粘膜4(口腔電極5)との間の導電経路をモデル化した等価回路が異なる。本実施の形態に係る等価回路は、図5に示す等価回路とみなす。図5に示す等価回路は、図1の抵抗Rpと容量Cpとよりなる並列回路部分を容量Csに置き換えた構成である。
【0067】
本実施の形態においてもインピーダンス値の測定には、検出回路内に設けた検出抵抗8を用いて電流等を測定して行っている。なお、図5に示す等価回路は一例であり、本発明に係る歯科用診断器において用いられる等価回路は、図1や図5に示す等価回路に限定されるものでないことは、前述したとおりである。また、図5に示す等価回路は、抵抗Rsが測定電極3と歯根膜10との間のインピーダンスに、容量Csが歯根膜10と口腔粘膜4との間のインピーダンスに、それぞれ対応している。つまり、図5に示す等価回路は、根管2に対応する歯内回路部が抵抗Rs、歯外回路部が容量Csで構成されている。
【0068】
さらに、本実施の形態において等価回路の構成要素を求める演算は、図5の等価回路の構成要素が抵抗1個と容量1個の計2個であるため、少なくとも周波数f及び周波数5fの異なる2つの測定信号で十分である。つまり、実施の形態1で用いた周波数25fの測定信号は、本実施の形態では不要である。そのため、本実施の形態に係る根尖検出器は、測定回路の簡易化が図れる上、構成要素の計算も容易になる。なお、本実施の形態に係る歯科用診断器は、周波数25fの発振器22を設けない以外、図4に示すブロック図と同じ構成である。
【0069】
<詳細な動作例>
本実施の形態に係る演算回路28の動作についても、基本的には実施の形態1と同じであり、周波数f及び周波数5fの測定信号に対応する測定電極3と口腔粘膜4との間のインピーダンス値を測定する。そして、図5の等価回路を用いる場合と同様に、抵抗Rsの抵抗値Rsvと、容量Csの容量値Csvとを用いてインピーダンス値を表した数4及び数5よりなる連立方程式を立て、測定したインピーダンス値を用いて当該連立方程式を解き、各測定位置における等価回路の構成要素(抵抗Rs,容量Cs)の値を求める。
【0070】
【数4】
【0071】
【数5】
【0072】
本実施の形態でも、根尖位置の検出のために抵抗Rsの値を求め、所定の閾値である根尖検出値までの当該値の変化を表示部29に表示する。なお、本実施の形態においても、抵抗Rsの抵抗値そのものを必ずしも求める必要はなく、抵抗値に対応する値を求めれば良い。
【0073】
より簡便な方法として、上記周波数f,周波数5fで測定された測定電極3と口腔粘膜4との間のインピーダンス値を組み合わせて得られる構成要素Rs,Csを予め計算で求めて演算回路28内のテーブルに記憶しておき、測定対象の歯1から得られた各々のインピーダンス値より構成要素(例えば抵抗Rs)の値を当該テーブルから導き出しても良い。なお、テーブルは、演算回路28内であっても、外部の記憶部に設けても良い。また、テーブルに記憶するデータ量を抑えるために、離散的にデータを記憶させておき補間処理を利用する形式でも良い。さらに、テーブルに格納するデータを構成要素Rs,Csの値とするのでなく、根尖位置を表す値等を格納しても良い。
【0074】
次に、本実施の形態に係る根尖検出器で求められる抵抗Rsの値の具体例も、基本的には実施の形態1で示した図3のグラフと同じになる。そのため、本実施の形態では詳細な説明を省略する。
【0075】
(実施の形態3)
<概要>
実施の形態1,2では、等価回路の構成要素である抵抗Rsの値をそのまま用いて根尖位置の検出を行った。一方、本実施の形態に係る根尖検出器では、等価回路の構成要素を組み合わせた演算値を用いて根尖位置の検出を行う。
【0076】
<具体例>
例えば、実施の形態2で求めた抵抗Rs、容量Csの積値を用いて根尖位置の検出が可能である。このように、抵抗Rsと容量Csの演算値(積値)を利用する場合の根尖位置の検出原理は、抵抗Rsの値が測定電極3と根尖6との距離に比例するという原理に基づくのではなく、測定電極3が根尖6に近づけば近づくほど、測定電極3と口腔粘膜4との間のインピーダンス値が根管外に存在する容量成分の影響を強く受けるという原理に基づいている。なお、本実施の形態に係る根尖検出器においても、等価回路の構成要素数の違いによる発振器の数の違いがあるものの図4に示すブロック図の構成を有している。そのため、抵抗Rsと容量Csの演算は、演算回路28で処理される。
【0077】
次に、本実施の形態に係る根尖検出器で求めた抵抗Rsと容量Csの積値を具体的に示す。図6に、抜歯された5本の歯を使用して測定された抵抗Rsと容量Csの積値の変化を示す。図6に示すグラフは、横軸が測定電極3から根尖6までの距離(単位はmm)を表し、縦軸が抵抗Rsと容量Csの積値(単位はkΩ×nF、又は無名数)を表している。図6に示すグラフでは、根尖6の近傍で抵抗Rsと容量Csの積値が、根尖では、ほぼ0.0002から0.0003であり、積値を使用して根尖を検出できることは明らかである。また根尖から−0.5mmの位置ではほぼ一定値、0.0035を示しており、根尖近傍の位置も検出可能である事が認められる。そのため、本実施の形態に係る根尖検出器では、所定の閾値となる根尖検出値を設定して、当該根尖検出値と、抵抗Rsと容量Csの積値とを比較することで精度よく根尖位置を検出することが可能となる。もちろん、得られた抵抗Rsと容量Csの積値に対応して表示メータを駆動しても根尖位置を表示することは可能である。なお本図6においては、積値として非常に小さい値を選択しているが、実際の回路においてはより扱いやすい値に変換できることは言うまでもない。
【0078】
より簡便な方法として、インピーダンス値に対応する抵抗Rsと容量Csの積値を予め計算で求めて演算回路28内のテーブルに記憶しておき、測定対象の歯1から得られたインピーダンス値より抵抗Rsと容量Csの積値を当該テーブルから導き出しても良い。また、抵抗Rsと容量Csの積値を基に作成したテーブルに、根管長測定結果として表示される表示値をも記憶させておき、得られたインピーダンス値より当該テーブルから表示値を直接導き出しても良い。なお、テーブルは、演算回路28内であっても、外部の記憶部に設けても良い。また、テーブルに記憶するデータ量を抑えるために、離散的にデータを記憶させておき補間処理を利用する形式でも良い。
【0079】
<変形例>
本実施の形態に係る根尖検出器の変形例としては、根尖位置の検出に抵抗Rsの値と、抵抗Rsと容量Csの積値とを所定の条件で切り替えて用いる構成が考えられる。図3に示すように、測定電極3から根尖6までの距離に対する抵抗Rsの値の変化はほぼ一定であるが、抵抗Rsと容量Csの積値は根尖6近傍での変化が大きい。そのため、本変形例では、根尖6近傍では抵抗Rsと容量Csの積値を用い、根尖6の近傍に至る手前までは抵抗Rsの値を用いて、根尖検出器に検出結果の表示を行わせるような、表示の切り替えが考えられる。これにより、本変形例では、測定電極先端が根尖近傍にいたるまでも、測定電極の位置に対応した表示が実現でき、かつ、根尖6の位置をより精度よく検出することができるという両方式の特徴を備えた根管長測定器が実現可能である。
【0080】
つまり、根尖検出のために使用する値が根尖近傍で急変するような特性であれば、正確に根尖検出が出来るという特性を利用するものである。例えば、根尖検出特性が、根尖から−1mmの範囲で積値が90%も変化するというような特性であれば、検出誤差は原理的に−1mm以下である。ところが−1mmにいたるまでの表示は、変化し難いため、測定電極の先端位置を感覚的に掴むことが非常に困難である。そこで、−1mmまでは抵抗Rsの値によって、なだらかに変化する表示を行い、根尖から−1mmの位置から根尖位置までは、抵抗Rsと容量Csの積値を用いて正確に根尖位置を検出できる表示を行うのである。
【0081】
なお、両者の値を切り替える条件としては、例えば、根尖に近づくほど、表示値が小さくなるような構成の機器であれば、ある測定電極3の位置における両者の値のうち小さい方の値を選ぶことが考えられる。つまり、当該条件を用いれば、根尖6近傍では、急激に減少する抵抗Rsと容量Csの積値が採用され、それ以外の位置では、なだらかに変化する抵抗Rsの値が採用されることになる。但し、両者の値を直接比較できるように、縦軸のスケールを調整しておく必要がある。また、切り替える、所定の基準として、抵抗Rsと容量Csの積値そのものを用いてもよいし、抵抗Rsの値そのものなど、測定電極3の位置を示す値であればどのような値でも使用可能である。なお、根尖位置の検出に用いる値は上記の値に限られず、従来の根尖検出器で用いていた測定電極3と口腔粘膜4との間のインピーダンス値の比等を使用しても良い。また切り替え時のメータ表示値の移行をスムーズに行うために、抵抗Rsと容量Csの積値と、抵抗Rsの値に各々重み付けを行った後の和値を使用することも可能である。各々の重み付け値を所定の基準に合わせて徐々に変化させ、最後は、抵抗Rsの値への重み付け値を0にすればスムーズな移行が可能となる。
【0082】
例えば、根尖位置の検出において、抵抗Rsと容量Csの積値と、測定電極3と口腔粘膜4との間のインピーダンス値の比とを、所定の条件で切り替えて用いる構成でも良い。なお、測定電極3と口腔粘膜4との間のインピーダンス値の比は、根尖検出器で用いられる測定電極3の先端の位置情報を示す指示値であり、測定電極3と口腔粘膜4との間の電気的応答であるインピーダンス値に基づく値である。
【0083】
抵抗Rsと容量Csの積値を用いた場合、測定電極3が根尖6から離れた位置でもその値は変化する。しかし、測定電極3と口腔粘膜4との間のインピーダンス値の比を用いた場合、根管2が乾燥していると測定電極3が根尖6から離れた位置ではその値はあまり変化せず、根尖近傍において急激に変化する。そのため、測定電極3が根尖6から離れた位置では抵抗Rsと容量Csの積値を利用し、根尖6近傍では測定電極3と口腔粘膜4との間のインピーダンス値の比を用いることで、見やすく尚且つ精度の高い実用的な根尖位置検出を行うことができる。本変形例においても、予め演算結果を得て記憶させたテーブルを用いることができるのは、いうまでもない。
【0084】
(実施の形態4)
従来使用されていた根尖検出器では、例えば、6.5kΩを根尖位置に対応するインピーダンス値とする一方で、15kΩを露髄に対応するインピーダンス値とする構成のものが存在した。これは、根管長測定において、根管インピーダンスが15kΩ以上であれば、露髄していないことを示す、という広く知られた原理に基づくものである。本願発明の実施の形態としても、上記と同様の方式によって、露髄の検出が可能で歯科用診断器とすることができる。本願発明を露髄の検出に用いる本実施形態においては、根管インピーダンスではなく、等価回路の容量成分の値により、露髄を検出する。この場合においても、採用する等価回路や、露髄検出に用いる値の演算の仕方は、適宜設計により決定することができるのは、前記実施の形態と同様である。
【0085】
(実施の形態5)
<根管治療装置>
実施の形態1乃至実施の形態4に示した歯科用診断器は、根管拡大用マイクロモータやスケーラなどの歯内治療装置に組み込むことができる。当該歯内治療装置の概略図を図7に示す。図7に示す歯内治療装置では、ハンドピースHと、据置型の制御器本体Cとを備えており、ハンドピースHは、切削工具40が取り付けられたヘッド41、ハンドピース本体42、シャンク43で構成され、チューブ44を介して制御器本体Cに接続されている。また、ハンドピース本体42には、切削工具40の駆動用のモータとしてマイクロモータが内蔵されている。
【0086】
制御器本体Cは、実施の形態1乃至実施の形態3に示した根尖検出器、あるいは実施の形態4に示した露髄検出器と、操作部45と、表示部46等を備えている。また、制御器本体Cには、測定電極3、口腔電極5を接続できるようになっている。図7に示す歯内治療装置では、当該測定電極3及び口腔電極5を用いて根尖位置や露髄を検出する。なお、図7に示す歯内治療装置では、測定電極3をハンドピースHとは独立して設けているが、本発明ではこれに限られず、ハンドピースH内に根尖検出のための測定信号を伝達する導電経路を設けることで、測定電極3と切削工具40とを同一に構成しても良い。また、根尖検出器あるいは露髄検出器のみを着脱できる構成としてもよく、逆に、制御器本体Cの構成をすべてハンドピースHに設けることあるいは着脱自在に装着することで、ハンドピースH単体を根尖検出機能付コードレス型歯内治療装置とすることもできる。このとき、根尖検出器あるいは露髄検出器が一つの装置として完成された上で、歯内治療装置に内蔵されてもよいし、根尖検出器あるいは露髄検出器の検出機能を発揮するために必要な各構成要素が歯内治療装置内に分割して搭載されていてもよい。
【0087】
さらに、上記歯内治療装置によれば、根尖や露髄の検出と歯内治療とを並行して行うことができるため、根尖検出結果や露髄検出結果を基に歯内治療装置の駆動を制御する、例えば、切削工具40の先端が根尖に近づくにつれて徐々に駆動力を低下させたり、根尖に到達したときに切削工具40の回転を反転あるいは停止させたりすることで、治療の安全性と装置の使い勝手とを高めることもできる。
【0088】
以上、歯内治療装置に歯科用診断器が組み込まれた例を説明したが、本実施の形態における歯内治療装置は、別体に構成された歯科用診断器と歯内治療装置とが、電気的あるいは機械的に接続されることで、一組の歯内治療装置として用いられるようなものも含む。この場合、歯科用診断器が出力する測定信号を歯内治療装置の切削工具に伝達するよう導線を接続し、歯内治療装置の切削工具を測定電極として使用したり、接続とともに歯内治療装置が予め備える表示装置を歯科用診断のための表示に切り替えたり、さらに上記同様、歯科用診断器の診断結果を基に歯内治療装置の駆動力を制御したりすることができる。
【0089】
<歯科診療台>
また、実施の形態1乃至実施の形態3に示した歯科用診断器(根尖検出器)や、実施の形態4に示した歯科用診断器(露髄検出器)、あるいは上記の歯内治療装置を、歯科診療台(歯科診療用ユニット)に組み込むことができる。図8に示す歯科診療台50は、患者を座位あるいは仰臥位に保持する診療台51と、診療に必要な表示を行うための表示部52と、診療のための操作入力を受けるための操作部53と、歯科用診断器又は歯内治療装置を組み込んだモジュール部54と、患者がうがいなどをするためのスピットン部55と、診療に必要な機器やモジュール部54を載置した移動テーブル56とを備えている。
【0090】
実施の形態1乃至実施の形態3に示した根尖検出器や、実施の形態4に示した露髄検出器、あるいは上記の歯内治療装置は、モジュール部54として歯科診療台(歯科診療用ユニット)50に組み込まれており、当該モジュール部54の情報は表示部52に表示される。なお、本発明は、図8に示す歯科診療台(歯科診療用ユニット)50に限られず、何らかの形で実施の形態1乃至実施の形態4に示した歯科用診断器や、上記の歯内治療装置が歯科診療台に組み込まれ、あるいは接続されることで、一組の歯科診療台(歯科診療用ユニット)として用いられていれば良い。また、上記歯科診療台(歯科診療用ユニット)においても、根尖検出結果や露髄検出結果を基に歯科診療台(歯科診療用ユニット)の駆動を制御するよう構成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の実施の形態1に係る根尖検出器の等価回路を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る根尖検出器の使用態様概略図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る根尖検出器の検出する抵抗Rsの値の変化を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係る根尖検出器の構成ブロック図である。
【図5】本発明の実施の形態2に係る根尖検出器の等価回路を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態3に係る根尖検出器の検出する抵抗Rsと容量Csの積値の変化を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態4に係る根管治療装置の概略図である。
【図8】本発明の実施の形態4に係る歯科診療台の概略図である。
【図9】本発明の前提となる根尖検出器の使用態様を説明するための図である。
【図10】本発明の前提となる歯の根尖部付近の構造を説明するための図である。
【図11】本発明の前提となる根尖検出器の使用態様概略図である。
【符号の説明】
【0092】
1 歯、2 根管、3 測定電極、4 口腔粘膜、5 口腔電極、6 根尖、7 信号印加部、8 検出抵抗、9 歯肉、10 歯根膜、20,21,22 発振器、23 アナログ・マルチプレクサ、24 バッファ、25 タイミングコントローラ、26 波形整形回路、27 A−D変換器、28 演算回路、29 表示部、101 歯、102 根管、103 測定電極、104 測定電極の先端、105 口腔電極、106 根尖、107 信号印加部、108 検出抵抗、109 歯根膜、110 根尖孔、111 口腔粘膜、112 薬液。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象である歯の内部に挿入する測定電極と、
口腔粘膜に電気的に接触させる口腔電極と、
前記測定電極と前記口腔電極との間に測定信号を印加する測定信号印加手段と、
周波数の異なる複数の前記測定信号に対して、前記測定電極と前記口腔電極との間の電気的応答を計測する計測手段と、
前記電気的応答に基づいて、前記測定電極と前記口腔電極との間の導電経路をモデル化した等価回路の所定部分の電気的特性値を演算する演算処理手段とを備え、
前記電気的特性値から前記歯の内部に関する情報を得ることを特徴とする、歯科用診断器。
【請求項2】
請求項1に記載の歯科用診断器であって、
前記測定電極が挿入される前記測定対象である歯の内部が、歯の根管であることを特徴とする、歯科用診断器。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の歯科用診断器であって、
前記測定信号印加手段は、前記等価回路の構成要素数と少なくとも同数の異なる周波数を持つ前記測定信号を印加することを特徴とする、歯科用診断器。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の歯科用診断器であって、
前記演算処理手段は、前記電気的応答に対応する前記等価回路の所定部分の前記電気的特性値を予め演算で求めたテーブルを有し、
当該前記テーブルから前記計測手段で計測された前記電気的応答に対応する前記等価回路の所定部分の電気的特性値を得ることを特徴とする、歯科用診断器。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の歯科用診断器であって、
前記等価回路は、前記歯の内部に対応する歯内回路部と、それ以外の歯外回路部とにより構成されていることを特徴とする、歯科用診断器。
【請求項6】
請求項5に記載の歯科用診断器であって、
前記等価回路は、前記歯外回路部を抵抗要素と容量要素の並列回路とし、
当該並列回路に前記歯内回路部の抵抗要素を直列接続した回路であることを特徴とする、歯科用診断器。
【請求項7】
請求項5に記載の歯科用診断器であって、
前記等価回路は、前記歯外回路部の容量要素と、前記歯内回路部の抵抗要素とを直列接続した回路であることを特徴とする、歯科用診断器。
【請求項8】
請求項5乃至請求項7のいずれか1つに記載の歯科用診断器であって、
前記電気的特性値は、前記歯内回路部の少なくとも1つの構成要素に基づく値であることを特徴とする、歯科用診断器。
【請求項9】
請求項5乃至請求項7のいずれか1つに記載の歯科用診断器であって、
前記電気的特性値は、前記歯内回路部の少なくとも1つの構成要素に基づく値と、前歯外回路部の少なくとも1つの構成要素に基づく値との演算値であることを特徴とする、歯科用診断器。
【請求項10】
請求項5乃至請求項7のいずれか1つに記載の歯科用診断器であって、
前記演算処理手段は、請求項8に記載の前記電気的特性値と、請求項9に記載の前記電気的特性値とを、所定の基準で切り替えて、前記歯の内部に関する情報を得ることを特徴とする、歯科用診断器。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれか1つに記載の歯科用診断器であって、
前記歯の内部に関する情報は、前記測定電極の先端の位置情報、露髄の有無、歯の内部の齲蝕の有無の少なくともいずれかであることを特徴とする、歯科用診断器。
【請求項12】
請求項11に記載の歯科用診断器であって、
前記電気的応答に基づく値から得られた前記測定電極の先端の位置情報と、前記演算処理手段で演算した前記電気的特性値から得られた前記歯の内部に関する情報とを、所定の基準で切り替えて根尖位置を検出することを特徴とする、歯科用診断器。
【請求項13】
請求項1乃至請求項12のいずれか1つに記載の歯科用診断器であって、
前記歯の内部に関する情報を表示する表示部をさらに備えることを特徴とする、歯科用診断器。
【請求項14】
請求項13に記載の歯科用診断器であって、
前記表示部は、前記歯の内部に関する情報を可視表示することを特徴とする、歯科用診断器。
【請求項15】
請求項13又は請求項14に記載の歯科用診断器であって、
前記表示部は、前記歯の内部に関する情報を聴覚的に表示することを特徴とする、歯科用診断器。
【請求項16】
測定対象である歯の根管に挿入する測定電極と、
口腔粘膜に電気的に接触させる口腔電極と、
前記測定電極と前記口腔電極との間に測定信号を印加する測定信号印加手段と、
周波数の異なる複数の前記測定信号に対して、前記測定電極と前記口腔電極との間の電気的応答を計測する計測手段と、
前記測定電極と前記口腔電極との間の電気的特性を、前記測定電極から根尖までの歯内区間と、前記歯内区間以外の残区間とのそれぞれの電気的特性の合成特性とみなしたとき、前記電気的応答に基づいて、前記合成特性から前記残区間の電気的特性の少なくとも一部の影響を除去した測定結果を取得し、当該測定結果に応じた情報を出力する信号処理手段とを備えることを特徴とする、歯科用診断器。
【請求項17】
請求項1乃至請求項16のいずれか1つに記載の歯科用診断器を備えたことを特徴とする、歯内治療装置。
【請求項18】
請求項1乃至請求項16のいずれか1つに記載の歯科用診断器、請求項17に記載の歯内治療装置のうち、少なくとも1つを備えたことを特徴とする、歯科用診療台。
【請求項1】
測定対象である歯の内部に挿入する測定電極と、
口腔粘膜に電気的に接触させる口腔電極と、
前記測定電極と前記口腔電極との間に測定信号を印加する測定信号印加手段と、
周波数の異なる複数の前記測定信号に対して、前記測定電極と前記口腔電極との間の電気的応答を計測する計測手段と、
前記電気的応答に基づいて、前記測定電極と前記口腔電極との間の導電経路をモデル化した等価回路の所定部分の電気的特性値を演算する演算処理手段とを備え、
前記電気的特性値から前記歯の内部に関する情報を得ることを特徴とする、歯科用診断器。
【請求項2】
請求項1に記載の歯科用診断器であって、
前記測定電極が挿入される前記測定対象である歯の内部が、歯の根管であることを特徴とする、歯科用診断器。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の歯科用診断器であって、
前記測定信号印加手段は、前記等価回路の構成要素数と少なくとも同数の異なる周波数を持つ前記測定信号を印加することを特徴とする、歯科用診断器。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の歯科用診断器であって、
前記演算処理手段は、前記電気的応答に対応する前記等価回路の所定部分の前記電気的特性値を予め演算で求めたテーブルを有し、
当該前記テーブルから前記計測手段で計測された前記電気的応答に対応する前記等価回路の所定部分の電気的特性値を得ることを特徴とする、歯科用診断器。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の歯科用診断器であって、
前記等価回路は、前記歯の内部に対応する歯内回路部と、それ以外の歯外回路部とにより構成されていることを特徴とする、歯科用診断器。
【請求項6】
請求項5に記載の歯科用診断器であって、
前記等価回路は、前記歯外回路部を抵抗要素と容量要素の並列回路とし、
当該並列回路に前記歯内回路部の抵抗要素を直列接続した回路であることを特徴とする、歯科用診断器。
【請求項7】
請求項5に記載の歯科用診断器であって、
前記等価回路は、前記歯外回路部の容量要素と、前記歯内回路部の抵抗要素とを直列接続した回路であることを特徴とする、歯科用診断器。
【請求項8】
請求項5乃至請求項7のいずれか1つに記載の歯科用診断器であって、
前記電気的特性値は、前記歯内回路部の少なくとも1つの構成要素に基づく値であることを特徴とする、歯科用診断器。
【請求項9】
請求項5乃至請求項7のいずれか1つに記載の歯科用診断器であって、
前記電気的特性値は、前記歯内回路部の少なくとも1つの構成要素に基づく値と、前歯外回路部の少なくとも1つの構成要素に基づく値との演算値であることを特徴とする、歯科用診断器。
【請求項10】
請求項5乃至請求項7のいずれか1つに記載の歯科用診断器であって、
前記演算処理手段は、請求項8に記載の前記電気的特性値と、請求項9に記載の前記電気的特性値とを、所定の基準で切り替えて、前記歯の内部に関する情報を得ることを特徴とする、歯科用診断器。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれか1つに記載の歯科用診断器であって、
前記歯の内部に関する情報は、前記測定電極の先端の位置情報、露髄の有無、歯の内部の齲蝕の有無の少なくともいずれかであることを特徴とする、歯科用診断器。
【請求項12】
請求項11に記載の歯科用診断器であって、
前記電気的応答に基づく値から得られた前記測定電極の先端の位置情報と、前記演算処理手段で演算した前記電気的特性値から得られた前記歯の内部に関する情報とを、所定の基準で切り替えて根尖位置を検出することを特徴とする、歯科用診断器。
【請求項13】
請求項1乃至請求項12のいずれか1つに記載の歯科用診断器であって、
前記歯の内部に関する情報を表示する表示部をさらに備えることを特徴とする、歯科用診断器。
【請求項14】
請求項13に記載の歯科用診断器であって、
前記表示部は、前記歯の内部に関する情報を可視表示することを特徴とする、歯科用診断器。
【請求項15】
請求項13又は請求項14に記載の歯科用診断器であって、
前記表示部は、前記歯の内部に関する情報を聴覚的に表示することを特徴とする、歯科用診断器。
【請求項16】
測定対象である歯の根管に挿入する測定電極と、
口腔粘膜に電気的に接触させる口腔電極と、
前記測定電極と前記口腔電極との間に測定信号を印加する測定信号印加手段と、
周波数の異なる複数の前記測定信号に対して、前記測定電極と前記口腔電極との間の電気的応答を計測する計測手段と、
前記測定電極と前記口腔電極との間の電気的特性を、前記測定電極から根尖までの歯内区間と、前記歯内区間以外の残区間とのそれぞれの電気的特性の合成特性とみなしたとき、前記電気的応答に基づいて、前記合成特性から前記残区間の電気的特性の少なくとも一部の影響を除去した測定結果を取得し、当該測定結果に応じた情報を出力する信号処理手段とを備えることを特徴とする、歯科用診断器。
【請求項17】
請求項1乃至請求項16のいずれか1つに記載の歯科用診断器を備えたことを特徴とする、歯内治療装置。
【請求項18】
請求項1乃至請求項16のいずれか1つに記載の歯科用診断器、請求項17に記載の歯内治療装置のうち、少なくとも1つを備えたことを特徴とする、歯科用診療台。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−11470(P2009−11470A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−174804(P2007−174804)
【出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【出願人】(000138185)株式会社モリタ製作所 (173)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【出願人】(000138185)株式会社モリタ製作所 (173)
【Fターム(参考)】
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