説明

歯科矯正器具のインダイレクトボンディング用の装置およびその作製方法

歯科矯正器具のインダイレクトボンディングに使用する装置は、チャンバを有する容器、および、チャンバに受容される配置デバイスを具備する。少なくとも1つの歯科矯正器具は、配置デバイスに取り外し可能に接合され、患者の歯構造の一部の複製である輪郭を有するベースを有する。臨床医が単に、チャンバから配置デバイスを取り出して器具を患者の歯に直ぐに移すことができるように、器具を患者の歯構造に結合させるボンディング組成物は、容器が閉じられる前に製造業者によってベースに塗布される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広くは、ブラケットなどの歯科矯正器具を患者の歯に結合させるための装置に関する。本発明は、また、歯科矯正器具のインダイレクトボンディング用の装置を作製する方法に関する。本発明は、器具を歯の所定の位置に、および歯に対して選択された向きに正確に配置することを容易にし、また、ボンディング処置に要する総時間を短縮する。
【背景技術】
【0002】
歯科矯正治療は、位置異常の歯が口腔内の所望の位置に移動することを必要とする。歯科矯正治療は、とりわけ、歯が著しく曲がっている場合、又は、顎が互いに整列していない場合、患者の顔の外観を改善することができる。歯科矯正治療は、食べる時の咬合を改善することにより、歯の機能を向上させることもできる。
【0003】
一般的な種類の歯科矯正治療の1つは、ブラケットとして知られるスロット付きの小さい器具の使用を必要とする。ブラケットは患者の歯に固定され、各ブラケットのスロットにアーチワイヤが入れられる。アーチワイヤは、歯が所望の位置に移動するように案内する軌道を形成する。
【0004】
歯科矯正用アーチワイヤの端部は、バッカルチューブとして知られる小さい器具に接合されることが多く、また、バッカルチューブは、患者の臼歯に固定される。多くの場合、患者の上顎および下顎歯列弓のそれぞれに、1組のブラケット、バッカルチューブ、およびアーチワイヤが提供される。ブラケット、バッカルチューブ、およびアーチワイヤは、通常、集合的に「ブレース」と称される。
【0005】
多くの種類の歯科矯正法において器具を歯に正確に位置決めすることは、歯が確実に意図される最終位置に移動するようにするのに役立つ重要な要因である。例えば、一般的な種類の歯科矯正治療法の1つは、「ストレートワイヤ」法として知られ、ストレートワイヤ法では、治療の終了時にアーチワイヤが水平面上にある。その結果、ブラケットが、歯の咬合側又は外側先端に近すぎる位置で歯に取り付けられると、ストレートワイヤ法を使用する歯科矯正医は、おそらく、最終位置にある歯が過度に押入れられているのに気付くことになる。他方、ブラケットが、適切な位置よりも歯肉により近い位置で歯に取り付けられると、歯の最終位置は、所望されるより位置よりも突出している可能性がある。
【0006】
一般に、患者の歯に接着されるように構成されている歯科矯正器具は、ダイレクトボンディング法又はインダイレクトボンディング法の2つの方法のうちどちらか一方で歯に配置および接合される。ダイレクトボンディング法では、器具と接着剤が1本のピンセット又は他の手道具で把持され、臨床医によって歯の表面の適切な所望の位置に配置される。次に、臨床医がその位置に満足するまで、必要に応じて、器具を歯の表面に沿って移動させる。器具が意図される正確な位置にくると、器具が接着剤の中に着座するように、器具を歯にしっかりと押付ける。器具のベースに隣接する領域の余分な接着剤を除去した後、接着剤を硬化させて器具を所定の位置にしっかりと固定する。
【0007】
前述のダイレクトボンディング法は広く使用されており、多くの人は満足なものであると考えているが、この技法には固有の欠点がある。例えば、位置異常の歯の表面にアクセスすることが困難な場合がある。場合によっては、特に後方歯に関して、臨床医が歯の表面に対するブラケットの正確な位置を見るのが困難なことがある。更に、器具のベースに隣接する余分な接着剤を除去する間、器具が意図される位置から無意図的に外れる場合がある。
【0008】
前述のダイレクトボンディング法に関連する別の問題は、各器具を各個々の歯に結合させる処置を実施するのに要する時間が著しく長いということに関する。典型的には、臨床医は、接着剤が硬化する前に、確実に各器具を意図される正確な位置に位置決めしようと試み、臨床医が各器具の位置に満足するまで幾らか時間が必要な場合がある。しかし、同時に、処置中、患者は不快感を感じたり、とりわけ患者が青年である場合には、比較的じっとしたままでいることが困難な場合がある。理解され得るように、ダイレクトボンディング法には、臨床医と患者の両方にとって煩わしいと考えられ得る面がある。
【0009】
インダイレクトボンディング法では、前述の問題の多くが回避される。一般に、これまでに知られているインダイレクトボンディング法は、患者の歯列弓の少なくとも一部の形態に一致する形状を有する配置デバイスの使用を必要とした。配置デバイスの1種は、「移動トレイ」と呼ばれることが多く、典型的には多数の歯を同時に受容するためのキャビティを有する。ブラケットなどの1組の器具は、トレイのある一定の所定の位置に取り外し可能に接合される。
【0010】
インダイレクトボンディングに使用される他の種類の配置デバイスは、「ジグ」と称されることが多く、ある一定の位置で1本以上の歯と接触するフレームワークに似ている。例えば、1つの器具を1本の歯に結合させるのに使用するように構成されているジグは、歯の切端部を覆うように延び、それと接触するアームを有する場合がある。ブラケットなどの器具は、歯に対してある一定の所定の位置でジグに取り外し可能に接合される。
【0011】
インダイレクトボンディング用の歯科矯正用配置デバイスを使用する時、接着剤は、典型的には、歯科矯正医又は職員によって各器具のベースに塗布される。次いで、デバイスを患者の歯に被せ、接着剤が硬化するまで所定の位置に置いておく。次に、デバイスを歯、並びに器具から取り外すと、その結果、以前デバイスに接合されていた器具は全て、それぞれの歯の意図される所定の位置に結合されている。
【0012】
更に詳細には、前述の移動トレイを使用する歯科矯正器具のインダイレクトボンディング法の1つは、患者の各歯列弓の印象を採得する工程、および、その後、各印象から複製焼石膏又は「石膏(stone)」模型を作製する工程を具備する。次に、器具を石膏模型の所望の位置に結合させる。任意選択的に、接着剤は、化学硬化接着剤(3M製のコンサイス(Concise)ブランドの接着剤など)又は光硬化性接着剤(3M製のトランスボンド(Transbond)XTブランドの接着剤、又はトランスボンド(Transbond)LRブランドの接着剤など)とすることができる。任意選択的に、ブラケットは、米国特許第5,015,180号明細書、同第5,172,809号明細書、同第5,354,199号明細書、および同第5,429,229号明細書に記載されるものなどの、接着剤が予めコーティングされているブラケットであってもよい。
【0013】
次いで、模型、並びに、模型に配置されている器具にマトリックス材料を被せることによって、移動トレイを作製する。例えば、プラスチックシートマトリックス材料を枠で保持し、放射熱に曝露させてもよい。プラスチックシート材料が軟化した後、それを模型と器具に被せる。次いで、シート材料と模型の間の隙間にある空気を排気すると、プラスチックシート材料は、石膏模型の複製の歯とそれに取り付けられている器具の形状に正確に一致する形態を呈する。
【0014】
次いで、プラスチックシートマトリックス材料を冷却および硬化させ、トレイを形成する。次いで、トレイと器具(トレイの内壁に埋設されている)を石膏模型から取り外す。石膏模型から取り外した後、器具を石膏模型に結合させるのに使用された硬化した接着剤が器具のベースに残っている場合、接着剤は、石膏模型の以前の取り付け位置の凸状の輪郭、並びに、器具を患者の歯に装着する意図される位置の凸状の形態を正確に複製する凹状の輪郭を有する「受注製作」ベースの役割をする。
【0015】
患者が医院に再診に来たとき、一定量の接着剤を各器具のベースに配置し、次いで、器具が埋設されているトレイを、患者の歯列弓の一致する部分に被せる。トレイの内部の形態は患者の歯列弓のそれぞれの部分にぴったり一致するため、各器具は、最終的に、同じ器具が以前あった石膏模型上の位置に対応する患者の歯の正確に同じ位置に位置決めされる。
【0016】
インダイレクトボンディング法には、ダイレクトボンディング法より優れている点が多くある。1つには、前述のように、複数の器具を患者の歯列弓に同時に結合させることが可能であり、それによって、各器具を個々に結合させる必要がない。更に、配置デバイスは、器具を意図される適切な位置に配置することに役立ち、そのため、結合前に歯の表面で各器具を調節することが回避される。インダイレクトボンディング法により器具の配置の正確さが増すことが多く、これは、治療の終了時に、確実に患者の歯が意図される適切な位置に移動しているようにすることに役立つ。
【0017】
近年、インダイレクトボンディングの分野で多くの改善がなされてきた。例えば、米国特許第5,971,754号明細書は、比較的硬化時間の速い二成分インダイレクトボンディング接着剤を記載しており、それによって、トレイを患者の歯にしっかりと押し当てておかなければならない時間が短縮される。米国特許第6,123,544号明細書は、トレイが口腔内に位置決めされた後、器具を患者の歯に配置するための可動アームを受容する移動トレイを記載している。「歯科矯正器具のインダイレクトボンディング法および装置(METHOD AND APPARATUS FOR INDIRECT BONDING OF ORTHODONTIC APPLIANCES)」と題された係属中の米国特許出願(米国特許出願第10/428,301号明細書、2003年5月2日提出)は、とりわけ、器具を所定の位置に取り外し可能に保持するための改善されたマトリックス材料を有する転移装置を記載している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
インダイレクトボンディングの分野における前述の利点は顕著であるが、臨床医がボンディング処置を完了する時間を短縮するように、引き続き現行技術を更に改善する必要がある。また、このような時間の短縮は、チェアタイム(chair time)が短くなるため、患者のためにもなり得る。
【0019】
しかし、インダイレクトボンディング法の結果としての器具と歯の結合強度が、十分に高くなるようにすることも重要である。結合強度が不十分な場合、治療中、器具が歯から偶発的に外れるリスクが大きい。器具が外れると、患者が臨床医のところに再診に来て、器具を再び取り付けてもらうか、又は、その器具を新しい器具と取り替えてもらうまで治療過程が中断されるため、器具が外れるのは大変煩わしいことだと考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、1つ以上の歯科矯正器具が配置デバイスに接合される、改善されたインダイレクトボンディング装置に関する。各器具は、患者の歯構造の輪郭の複製である輪郭を有するベースを有する。更に、医院でボンディング組成物を塗布する必要がないように、製造業者によってボンディング組成物がベースに提供されている。
【0021】
好ましくは、インダイレクトボンディング装置は、輸送および保管中、ボンディング組成物を保護する役割をするチャンバを有する容器に受容される。容器を開けると、即刻、配置デバイスを患者の歯列弓に直ぐに移すことができる。その結果、臨床医がボンディングのため各器具のベースの準備をする必要がない。
【0022】
更に、各器具の予め形成されているベースと、患者の歯に装着する意図される位置との正確な嵌合は、器具と歯の表面の結合強度を増大させるのに役立つ。このような嵌合によって、器具と歯の表面との間に小さい隙間又は空隙が存在し得る可能性が減少し、器具のベースの表面全体に均一な厚さの接着剤層が存在する可能性が増大する。その結果、治療中、器具が歯から無意図的に外れるリスクが減少する。また、器具と歯の表面の間の隙間又は空隙をなくすことは、食物粒子および他の破片が歯のエナメル質と接触したままになり、齲食の形成を引き起こす可能性が減少することにも役立つ。
【0023】
更に詳細には、本発明は、一態様では、歯科矯正器具のインダイレクトボンディングに使用する装置に関する。装置は、チャンバを有する容器、および、チャンバ内に受容される歯科矯正用配置デバイスを備える。配置デバイスは、患者の歯列弓の少なくとも一部と一致する構成を有する。少なくとも1つの歯科矯正器具は、配置デバイスに取り外し可能に接合され、患者の歯構造の一部の輪郭の複製である輪郭を有するベースを有する。更に、患者の歯構造に結合するため、ボンディング組成物がベースに提供されている。
【0024】
本発明の別の態様は、歯科矯正インダイレクトボンディング用の装置を作製する方法に関する。本方法は、
少なくとも1つの歯科矯正器具を提供する工程と、
患者の歯構造の少なくとも一部の輪郭を決定する工程と、
患者の歯構造の一部と一致するように、各器具にベースを形成する工程と、
各器具を配置デバイスに接合する工程と、
一定量のボンディング組成物を各ベースに塗布する工程と、
配置デバイスを容器内に入れる工程とを含む。
【0025】
本発明の更なる詳細は、特許請求の範囲の特徴に定義されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の一実施形態による歯科矯正器具のインダイレクトボンディングに使用する装置を、図1および図2において広く参照符号20で示す。装置20は、チャンバ24を有する容器22を具備する。容器22の蓋26は、図2に示されている閉鎖位置(蓋がチャンバ24全体に延びている)と、図1に示されている開放位置(蓋26がチャンバ24から離間している)との間で移動可能である。
【0027】
図面に示されている実施形態では、容器22は、略「U」字形の底部、および、底面図で略「U」字形の形態を画定する直立の側壁を有する。長方形の上部フランジは、チャンバ24への開口部を取り囲み、容器22の側壁に一体に接合されている。蓋26上の感圧接着剤は、蓋26を閉鎖位置に脱着可能に保持するように、上部フランジと係合する。他の構成も可能である。
【0028】
歯科矯正用配置デバイス28は、チャンバ24に受容される。好ましくは、蓋を閉じるとき配置デバイス28が過度に移動しないように、チャンバ24は配置デバイス28と接触する構造を有する。例えば、チャンバ24の側部は、配置デバイス28の形状に相補的な形状を有してもよい。或いは、配置デバイス28と接触して過度の移動を防止する棒、ポスト、又は他の構造をチャンバ24内に設けることができる。
【0029】
追加の選択肢として、必要に応じて配置デバイス28をチャンバ24から容易に取り出せるように、チャンバ24は、配置デバイス28の側部を把持し易くする構造を有してもよい。例えば、配置デバイス28の側部を容易に把持できるように、チャンバ24の側部は、臨床医の指が入る凹部を有してもよい。別の選択肢として、配置デバイス28の側部を把持し易くするため、前段落に記載したポスト又は棒を適切なサイズに作り、互いに離間させることができる。
【0030】
図3は、配置デバイス28を更に詳細に示す。図示するように、配置デバイス28は、外側シェル60、および、シェル60に受容されるマトリックス材料70を具備する。マトリックス材料70は、患者の歯列弓の一部と一致する構成を有するキャビティ34を具備する。
【0031】
少なくとも1つの歯科矯正器具が、配置デバイス28に取り外し可能に接合される。好ましくは、歯科矯正治療を施される歯列弓の各歯に器具が提供されるように、多数の歯科矯正器具が配置デバイス28に取り外し可能に接合される。図3に、例示的歯科矯正器具が数字36で示されており、それはブラケットであるが、バッカルチューブ、ボタン、および他のアタッチメントなどの他の器具も可能である。
【0032】
器具36は、ベースフランジ39に接合されているベース38を具備する。器具36は、また、フランジ39から外側に延びている本体40も有する。1対のタイウィング42が本体に接合されており、アーチワイヤスロット44がタイウィング42間のスペースを通って延びている。ベースフランジ39、本体40、およびタイウィング42は、口腔内で使用するのに好適であり、且つ、治療中に加えられる矯正力に耐えるのに十分な強度を有する多数の材料のいずれか1つで作製されてもよい。好適な材料には、例えば、金属材料(ステンレス鋼など)、セラミック材料(単結晶又は多結晶アルミナ)およびプラスチック材料(繊維強化ポリカーボネートなど)が挙げられる。任意選択的に、ベースフランジ39、本体40およびタイウィング42は、単一構成要素として一体に作製されている。
【0033】
器具36のベース38は、好ましくは、ベースフランジ39を構成する材料とは異なる材料で作製され、患者の歯構造の一部の形態と一致する形態を有する。更に詳細には、ベース38は、歯面上の器具36の最終的な所望の位置を表す、患者の歯の部分の凸状の輪郭の複製である凹状の輪郭を有する。ベース38の凹状の輪郭は、複雑な凹状の(即ち、2つの相互に垂直な基準軸に沿った方向で湾曲している)輪郭となり得る。
【0034】
ボンディング組成物46は、各器具36のベース38全体に延びている。ボンディング組成物46は、治療中、歯から意図されずに外れることに抵抗する十分な強度を有する結合によって、全部又は少なくとも一部、器具36を患者の歯にしっかりと固定する役割をする。好ましくは、配置デバイス28がチャンバ24に入れられる前に、製造業者によってボンディング組成物46が各器具36のベース38に塗布される。
【0035】
ボンディング組成物46は、液体、ペースト、又は、ボンディング処置中に液体若しくはペーストに変わる固体材料であってもよい。好適な組成物には、コンポジット、コンポマー、グラスアイオノマー、および樹脂強化グラスアイオノマーが挙げられる。光硬化性接着剤の例には、3Mユニテック(3M Unitek)製のトランスボンド(Transbond)XTブランドおよびトランスボンド(Transbond)LRブランドの接着剤が挙げられる。化学硬化接着剤の例には、3Mユニテック(3M Unitek)製の、サンディ(Sondhi)ブランドのラピッド・セット(Rapid−Set)インダイレクトボンディング接着剤、ユナイト(Unite)ブランドの接着剤、コンサイス(Concise)ブランドの接着剤、および、マルチキュア(Multi−Cure)ブランドのグラスアイオノマーセメントが挙げられる。ボンディング組成物46は、二成分接着剤の成分の1つ(前述の化学硬化接着剤の成分の1つなど)とすることができ、この場合、もう1つの成分は臨床医によって歯に塗布される。
【0036】
任意選択的に、ボンディング組成物46は、歯の処置に関する臨床医の選択による次の分類の1つに入る組成物である。
I類:歯のエナメル質のエッチング(例えば、リン酸又は二リン酸を使用する)と、歯のエナメル質にプライマーを別々に塗布することとの両方を必要とするボンディング組成物である。
II類:エッチング(例えば、リン酸、二リン酸又は自己エッチングプライマーを使用する)を必要とするが、プライマーを別々に塗布することを必要としないボンディング組成物である。
III類:清浄以外の歯の処置を必要としないボンディング組成物である。
【0037】
I類の接着剤と一緒に使用することができる歯用プライマーには、3Mユニテック(3M Unitek)製のトランスボンド(Transbond)MIPブランドの接着剤およびトランスボンド(Transbond)XTブランドの接着剤、並びに、オルムコ社(Ormco Corporation)製のオルソ・ソロ(Ortho Solo)ブランドの接着剤などの歯科矯正プライマーが挙げられる。任意選択的に、プライマーは、歯面上のプライマーの十分な被覆面積を確保するための光退色性色素、治療中にフッ素を放出するための少量のフルオロアルミノシリケートガラス(“FAS”ガラス)、レオロジー制御のための少量のヒュームドシリカ、および/又は、破壊靭性を向上させるための少量のシラン処理石英フィラーを含んでもよい。ボンディング組成物46に好適なI類の接着剤には、前述のプライマーの使用が挙げられる。
【0038】
好適なII類のボンディング組成物には、前述の接着剤が挙げられる。歯用プライマーは、使用しないか、又は、その代わりに3Mユニテック(3M Unitek)製のトランスボンド・プラス(Transbond Plus)SEPブランドのプライマーなどの自己エッチングプライマーを使用する。任意選択的に、自己エッチングプライマーは、I類の接着剤に関して前述された任意選択的特徴を組み込むことができる。
【0039】
好適なIII類のボンディング接着剤は、歯をエッチングおよびプライマー処理する必要がなく、「自己接着性」組成物と称される場合がある。これらの接着剤では、臨床医は、典型的なボンディング処置で配置デバイス28を付ける前に歯を清浄するだけでよい。好適なIII類の接着剤は、メタクリレートホスフェート(例えば、モノ−HEMAホスフェート、ジ−HEMAホスフェート、グリセロールジメタクリレート(GDMA)ホスフェート)、二リン酸を水又は他の溶媒に溶解させた溶液、粉末状の二リン酸(歯の予防(prophy)およびすすぎ後、歯に残っている水をイオン化に使用する)から選択される酸成分を含んでもよい。他のIII類の接着剤は、酸官能基を有するエチレン性不飽和成分、酸官能基のないエチレン性不飽和成分、開始剤系、およびフィラーを含んでもよい。任意選択的に、III類の接着剤は、本質的に水を含まなくてもよい。III類の接着剤の例は、例えば、2003年8月12日に提出された係属中の米国仮出願第60/494603号明細書に記載されている。
【0040】
前述のIII類の接着剤は、任意選択的に、通常のグラスアイオノマー硬化反応で水と結合するグラスアイオノマータイプのフィラーを組み込むことができる。更に、前述のIII類の接着剤はどれも、I類の接着剤に関連して記載された任意選択的特徴を組み込んでよい。
【0041】
蓋26を具備する容器22は、埃などの汚染物質や水分等からボンディング組成物46を保護するように構成される。更に、器具36と歯の最終的な結合強度が比較的高くなるように、蓋26を具備する容器22は、ボンディング組成物46の接着性が低下しないように構成されている。例えば、ボンディング組成物46が化学線に露光されて硬化し得る場合、容器22は化学線の透過に対する実質的なバリアを提供する材料で構成される。容器22に好適な材料には、黒色又は赤色のポリエチレンテレフタレートグリコール(PETG)などの可撓性プラスチック材料が挙げられる。好ましくは、容器22内に配置デバイス28が存在することを蓋26を開けることなく確認できるように、容器22は、化学線の通過を実質的に妨げるが、可視スペクトルの少なくとも一部の光の通過を可能にする材料で作製される。別の選択肢として、蓋26は、アルミニウム箔などのバリア層に結合している紙の層を具備してもよい。容器22に好適な材料、並びに、容器22を構成する方法の例は、本出願人の米国特許第5,538,129号明細書および同第5,354,199号明細書、並びに、「光硬化性材料用の容器(CONTAINERS FOR PHOTOCURABLE MATERIALS)」と題された本出願人の係属中の米国特許出願(米国特許出願第10/126804号、2002年4月18日提出、US−2003−0196914−A1として公開)に記載されている。
【0042】
或いは、容器22は、感圧接着剤の代わりに、容器22のフランジと蓋26の間の部位に気密シールを具備してもよい。気密シールの使用は、ボンディング組成物46の揮発性成分が、前述の蓋26上の感圧接着剤などの感圧接着剤と接触することを防止するのに役立つ。その結果、気密シールによって、チャンバ24内の揮発性成分の損失が減少する。
【0043】
追加の選択肢として、ボンディング組成物46の1種類以上の揮発性成分を追加で一定量、容器22に提供し、器具36のベース38に塗布されるボンディング組成物46中に存在する揮発性成分の損失の減少に役立ててもよい。例えば、ボンディング組成物46は、エチル4−ジメチルアミノベンゾエート(“EDMAB”)および/又はカンファーキノン(“CPQ”)を含有してもよく、これらは両方とも、容器22を閉じた後、時間の経過とともに揮発し得る。チャンバ24にこのような成分を追加で一定量加えることによって、平衡が移動し、器具36に塗布されている組成物46からこのような成分が過剰量損失する可能性が低くなる。その結果、ボンディング組成物46の特性が時間の経過とともに低下する可能性が低くなる。追加の揮発性成分は、チャンバ24に隣接するウェルに入れられる液体中に提供されてもよく、又は、任意選択的に配置デバイス28の包装材料の役割をする多孔質材料(スポンジ又は布帛など)に含ませてもよい。
【0044】
好ましくは、容器22を開けると蓋26が図1に示されている開放位置に自動的に保持されるように、容器22を構成する。この目的のため、蓋26に、図1に48で示されている軸に沿って延びる一連の穿孔などの弱め線を設けてもよい。蓋26を開放した向きに保持するのに役立つことの他にも、穿孔は、使用者が蓋26を引っ張り続けて、それを容器22のフランジから分離しないように、蓋26が開いているという触覚フィードバックを使用者に提供する。
【0045】
図4〜図9は、配置デバイス28の好ましい作製方法を示すが、他の方法も可能である。図示されている方法では、まず、歯科矯正患者の歯列弓の一部で複製50を作製する。例示的な目的のため、複製50は患者の下顎歯列弓を表す。しかし、図示されている下顎歯列弓複製の追加として又は代替として、患者の上顎歯列弓の複製が提供されてもよい。別の選択肢として、複製50は、歯列弓の四分円又は歯列弓の1本若しくは2本の歯だけなど、歯列弓の一部だけを表してもよい。図示されている例では、複製50は、患者の下顎歯列弓の各歯に対応する多数の複製の歯52を具備する。
【0046】
任意選択的に、まず、過度に歪まないように注意して患者の下顎歯列弓の印象を採得することにより、複製50を作製する。任意選択的に、3Mユニテック(3M Unitek)製のユニジェル(Unijel)IIブランドのアルジネート印象材などのアルジネート印象材を使用する。或いは、3M ESPE製のポジション(Position)ブランドのペンタ(Penta)ブランドのビニルポリシロキサン印象材などの、ハイドロコロイド又はビニルポリシロキサン印象材を使用してもよい。
【0047】
次いで、印象から模型又は複製50を作製する。任意選択的に、複製50は、模型に気泡が入らないように注意して焼石膏から作製される「石膏(stone)」模型である。小さい空隙が存在する場合、空隙に追加の少量の焼石膏を充填することができる。一選択肢として、複製50は、複製の歯52と、複製の歯52を一緒に保持するのに十分な複製の歯肉組織54だけを具備する。
【0048】
代替として、患者の歯および隣接する歯肉組織を表すデジタルデータを使用して複製50を作製してもよい。手持ち式の口内スキャナ又は当該技術分野で既知の他のデバイスを使用して、デジタルデータを得てもよい。別の選択肢として、印象又は石膏模型を走査することによってデジタルデータを得てもよい。次いで、例えば、立体解析プリンタを使用して、デジタルデータから複製50を作製してもよい。
【0049】
また、デジタルデータを切削加工プロセスと共に使用して複製50を作製してもよい。例えば、スイス、ブエラッハ(Buelach,Switzerland)のセレック・ネットワーク(Cerec Network)により販売されているCAD/CIMミリングマシンに類似のCNCミリングマシンを使用して、セラミック、コンポジット、又は他の材料で作製されている複製を切削加工してもよい。セレック(Cerec)マシンに関連するカメラに類似の口内カメラを使用して、歯列弓の形状を表すデジタルデータを得てもよい。或いは、スキャナを使用して印象又は印象の模型を走査し、デジタルデータを得てもよい。
【0050】
歯科矯正臨床医が印象を採得する場合、臨床医は印象又は複製のどちらかをインダイレクトボンディングトレイの製造業者に送ることができる。或いは、臨床医は、走査された歯のデジタルデータファイルを送ることができる。どちらの場合も、臨床医は、好ましくは、歯に器具を配置することに関する自分の指示も送る。
【0051】
好ましくは、複製50は、患者の口腔構造を正確に表したものである。特に、複製の歯52は、対応する歯科矯正患者の歯の形態および向きと同一の形態および向きを有する。更に、複製の歯肉組織54は、患者の対応する歯肉組織部分の形状に一致する形状を有する。
【0052】
次に、図5および図6に示すように、スペーサー材料を複製50に付ける。この実施例では、スペーサー材料は、複製の歯52の適切な所定の位置に配置される、一連の材料の別個の塗着物(dabs)又は予備形成されたセグメントから成る第1のスペーサー材料56を具備する。スペーサー材料56の塗着物又はセグメントは、それぞれ、後の歯科矯正器具の位置に対応する位置に配置され、全体の寸法が、選択された器具と少なくとも同じ大きさである。例えば、スペーサー材料56のセグメントは、それぞれ、対応する歯の顔面軸点(又は、「FA」点)に対応する位置に配置されるが、他の位置も可能である。後述のように、スペーサー材料56のセグメントは、それぞれ、歯科矯正器具を受容する配置デバイスに後でクリアランスを提供する機能をする。
【0053】
スペーサー材料56のセグメントの代替として、スペーサー材料56は、代わりにストリップ状の細長い形態を有する。ストリップは、後のアーチワイヤの位置に対応する経路に従う、複製の歯52の少なくとも幾つか、好ましくは全部にわたって延びるのに十分な長さを有する。ストリップは、後でアーチワイヤに固定される器具のそれぞれにクリアランスを提供するのに十分な幅を有する。実際には、(図1の歯の外観のように)歯が、最初に互いに略整列している場合には、ストリップの形状のスペーサー材料が好ましいことがあり、一方、歯がかなり曲がっている、および/又は互いにあまり整列していない場合には、別個のセグメント又は塗着物の形状のスペーサー材料が好ましいことがある。
【0054】
この実施形態では、スペーサー材料は、また、好ましくは複製の歯52の表面のかなりの部分にわたって、且つ、好ましくは複製の歯肉組織54の表面の少なくとも一部にわたって延びているスペーサー材料のシート58を包含する。図6に示すように、シートスペーサー材料58は、また、スペーサー材料56のセグメントを覆うように延びている。図示されている例では、スペーサー材料のシート58は、複製の歯52の頬面唇面の表面領域全体を覆うように、複製の歯52の咬合側縁部に沿って、および、複製の歯52の舌側全体にわたって延びているが、他の構成も可能である。
【0055】
別の代替として、2つの材料を別々に操作することが回避されるように、スペーサー材料56、58を一体化した単一の材料セクションとして提供してもよい。更に、(単独、又はスペーサー材料56と一体の)材料のシート58を歯列弓の形状に近似した形態に予備形成してもよい。このような構成によって、後述のようにシート58を後で複製の歯52に適合させ易くなる。
【0056】
スペーサー材料56、58は、多数の材料のいずれか1つとすることができる。好適な材料は、ゼネラルエレクトリック(General Electric)製の「RTV615」などのシリコーン材料である。任意選択的に、感圧接着剤などの接着剤を使用して、スペーサー材料56を複製50上の所定の位置に一時的に保持してもよい。任意選択的に、スペーサー材料56のセグメント又はストリップを予備形成し、一方側に感圧接着剤層をコーティングし、使用するために必要とされる時まで、最初は離型材のシートに接合されていてもよい。或いは、シリンジから一定量の流動性硬化性材料を分配した後、必要に応じて手道具で各塗着物を成形することにより、スペーサー材料の塗着物を提供してもよい。
【0057】
次に、スペーサー材料のシート58を複製の歯52および歯肉組織54の形態に合うように形成するため、複製50およびスペーサー材料56、58に真空を作用させる。本明細書で使用する場合、「真空」の用語は、必ずしも絶対真空に限定されず、大気よりも低い任意の圧力を意味するものと理解されたい。実際には、複製50はスペーサー材料56と共に、真空ポンプと連通するチャネルを有する円盤形の支持体に載置される。次いで、スペーサー材料のシート58を複製に被せて真空ポンプを作動させ、複製の歯52と歯肉組織54の形状にぴったり一致し適合するようにスペーサー材料のシート58を引き下げる。
【0058】
その後、図7に示すように、スペーサー材料56、58を覆うように外側シェル60を形成する。好ましくは、シェル60は、スペーサー材料のシート58を覆うように材料のシートを真空形成することによって成形される。シェル60に好適な材料は、バイエル(Bayer)製のマクロロン(Makrolon)ブランドの材料、又は、GE製のレキサン(Lexan)ブランドのポリカーボネートなどの、厚さ0.06インチのポリカーボネートのシートである。ポリエチレンテレフタレートグリコール(「PETG」)など、他の材料を使用してもよい。シートがスペーサー材料のシート58の形態に適合し易くなるように、真空形成プロセス中に熱を加える。
【0059】
シェル60が硬化した後、シェル60をスペーサー材料56、58から取り外す。次いで、スペーサー材料56、58を複製50から取り外し、取っておく。シェル60の余分な部分を必要に応じてトリミングしてもよい。
【0060】
次いで、複製50に離型剤を薄層に塗布し、乾燥させる。好適な離型剤の一例には、カリフォルニア州サンタフェスプリングズ、PTM&W社(PTM & W Company of Santa Fe Springs, California)製の「PA0810」などの水溶性ポリビニルアルコールがある。
【0061】
次に、複製の歯52上での各器具の意図される適切な位置を決定するが、これは、対応する患者の歯面上での同器具の最終的な所望の位置に対応する。器具の適切な位置を決定するため、様々な方法を使用できる。例えば、臨床医、臨床医の助手、又は技工士が、各複製の歯52の唇側表面を横切る印を鉛筆で付けてもよい。好ましくは、MBT(登録商標)ブラケットポジショニングゲージ、又はブーン(Boone)ブラケットポジショニングゲージ(共に3Mユニテック(3M Unitek)社製)などのハイトゲージを補助として用いて、鉛筆で印を付ける。各歯科矯正器具(歯科矯正ブラケットなど)のアーチワイヤスロットを配置するための位置案内の役割をするように、各複製の歯52の唇側表面を横切る線を鉛筆で引く。
【0062】
例えば、患者の下顎歯列弓を表す複製50では、複製の前歯52の咬合側縁部から3.5mmの距離に、一治療法による咬合面に平行な線を鉛筆で引いてもよい。複製の下犬歯52および複製の下双頭歯52の咬合側縁部から4.0mmの距離に類似の線を引く。また、(対応する患者の歯が、バンド上に装着される器具を受ける場合を除いて)各複製の臼歯52の咬合側縁部から3.5mmの距離に咬合面に平行な線を引く。図8に、前述の鉛筆の線の幾つかを数字62で示す。
【0063】
次に、臨床医によって選択された歯科矯正器具36(歯科矯正ブラケットおよびバッカルチューブなど)を対応する複製の歯52に、好ましくは、各器具36のアーチワイヤスロットがそれぞれの鉛筆の線62とほぼ整列するような位置に配置する。各器具36をそれぞれの複製の歯52に配置する前に、ベース38を作製する一定量の組成物を各器具とそれに対応する歯52との間に配置する。好ましくは、組成物は、光硬化性接着剤などの光硬化性組成物であり、接着剤は各器具36のベース全体にコーティングされる。
【0064】
好ましくは、器具36は、接着剤が予めコーティングされている器具であり、予め、各器具36のベースフランジ39に光硬化性接着剤層が塗布されている。接着剤がコーティングされているこのような器具は、米国特許第5,015,180号明細書、同第5,172,809号明細書、同第5,354,199号明細書、および同第5,429,229号明細書に記載されており、これらは全て本発明の譲受人に譲渡されている。器具36は、金属(例えば、ステンレス鋼)、セラミック(例えば、半透明多結晶アルミナなど)又はプラスチック(例えば、半透明ポリカーボネート)などの任意の好適な材料で作製されてもよい。
【0065】
器具36に接着剤が予めコーティングされていない場合、器具36を複製の歯52に配置する直前に、各器具36のベースフランジ39に接着剤のコーティングを塗布してもよい。好適な接着剤には、コンポジット、コンポマー、グラスアイオノマー、および樹脂強化グラスアイオノマーが挙げられる。光硬化性接着剤の例には、3Mユニテック(3M Unitek)製のトランスボンド(Transbond)XTブランド又はトランスボンド(Transbond)LRブランドの接着剤が挙げられる。化学硬化接着剤の例には、3Mユニテック(3M Unitek)製のコンサイス(Concise)ブランドの接着剤、およびマルチキュア(Multi−Cure)ブランドのグラスアイオノマーセメントが挙げられる。
【0066】
任意選択的に、各器具36のベースフランジ39上の接着剤は、器具36が所定の位置に配置された後、ベースフランジ39の周囲に沿ったバリ(即ち、過剰な接着剤)の清浄を容易にする変色性を具備してもよい。好適な変色性接着剤の例は、「歯科矯正用接着剤および器具のベースに接着剤を具備する器具(Orthodontic Adhesive and Appliances Including an Adhesive on the Base of the Appliances)」と題された係属中の米国特許出願(米国特許出願第10/126505号明細書、2002年4月18日提出、US−2003−0198914−A1として公開)に記載されている。
【0067】
別の選択肢として、ベース38の作製に使用される接着剤は、歯科矯正治療中、放出されるフッ素イオンを含んでもよい。フッ化物は、コンポマー接着剤又はグラスアイオノマー接着剤中に含まれてもよい。患者の口腔内におけるフッ化物の放出は、齲食の形成を低減することに役立ち、器具の近傍の口腔衛生を良好な状態に維持することを徹底しない青年患者では、とりわけ重要である。
【0068】
器具36を複製の歯52に配置した後、必要に応じて器具36を近心−遠心方向に移動させて、器具36の咬合−歯肉中心軸を各複製の歯52の長軸と整列させる。また、下にある鉛筆の線62の真上に各ブラケットのアーチワイヤスロットを配置するため、必要に応じて、器具36を咬合側又は歯肉側方向に移動させる。任意選択的に、再度、前述のMBT(登録商標)ゲージ又はブーン(Boone)ブラケットポジショニングゲージなどのゲージを使用して、各器具36のアーチワイヤスロットを対応する複製の歯52の咬合側縁部から前述の距離に正確に位置決めする。
【0069】
次に、各器具36がそれぞれの複製の歯52に着座し、ベースフランジ39が接着剤に埋設されるように、各器具36にしっかりと圧力を加える。例えば、スケーラー又は他の手道具を使用して、各器具36のアーチワイヤスロットに力を加えてもよい。次いで、歯科用探針などの道具を使用し、器具36の着座中にベースフランジ39の周縁部付近に押出された可能性がある接着剤のバリを除去する。
【0070】
技工士又は助手が直前に記載した工程を実施した後、複製50を技巧室の管理者に渡すことができるため、光硬化性接着剤を使用してベース38を作製することは好都合である。次いで、接着剤が硬化する前に、各器具36がそれに対応する複製の歯52に正確に配置されているかを、管理者が最終点検してもよい。一例として、技工士が複製50を多数準備し、管理者が検査するまで、それらを黒いプラスチックの箱などの不透明容器に保管してもよい。このようにして、接着剤を過度に又は尚早に硬化させることなく、管理者は、都合のよい時に多数の異なる複製50上の器具36の配置を検査することができる。
【0071】
器具の位置が正確であることを確認した後、接着剤を硬化させ、それによってベース38を形成する。光硬化性接着剤を使用する場合、複製50をデンツプライ(Dentsply)製のトリアド(Triad)5000ブランドの可視光線硬化システムなどの硬化チャンバに入れてもよい。好ましくは、硬化チャンバは、多数の複製50を収容するのに十分な大きさがあり、多数の複製50上の接着剤を同時に硬化させることができる。このようなチャンバでは、接着剤の各部分が硬化し易くなるように、光源と複製50は、好ましくは、光源の通電中、互いに対して移動する。
【0072】
器具36が金属又は他の不透明な材料で作製されている場合、および、光硬化性接着剤が使用される場合、接着剤が十分に硬化するように、複製50を3分〜5分などの比較的長時間、キュアリングライトに露光させることが好ましい。前述の光硬化チャンバの代替として、3Mユニテック(3M Unitek)製のオーソラックス(Ortholux)XTブランドの硬化装置などの手持ち式の硬化装置を使用してもよい。
【0073】
追加の選択肢として、複製の歯52を具備する複製50は、化学線を透過させる材料から作製されてもよい。好適な材料には、硬化時に透明又は不透明であるエポキシ樹脂が挙げられる。好ましくは、材料は光学的に透明である。好適なエポキシの一例には、ユナイテッド・レジン社(United Resin Corporation)製のE−キャスト(E−CAST) F−82透明エポキシ樹脂、および302番(又はUCE−302)硬化剤がある。他の好適な材料には、ポリエステルおよびウレタンが挙げられる。器具36が不透明な材料で作製されている場合、透明又は半透明な材料の使用が好都合であるが、それは、化学線が複製50を透過し、器具のベースの中央に隣接した位置にある接着剤の部分を硬化させることができるからである。接着剤に含有される光開始剤の種類に応じて、化学線には、可視領域の波長、紫外領域の波長、赤外領域の波長、又はこれらの任意の組み合わせを挙げることができる。
【0074】
或いは、ロボット装置で器具36を複製の歯52に配置してもよい。例えば、ロボット装置は、1組の器具から適切な器具36を選び取って、選択した器具を適切な複製の歯52に配置するようにプログラムされている把持アームを具備してもよい。次いで、ロボットアームは、別の器具36を把持して別の複製の歯52に配置することを続ける。
【0075】
任意選択的に、ロボットアームの移動経路および配置された器具36の最終的な位置は、複製50の仮想模型を表すデジタルデータにアクセスできるコンピュータソフトウェアで決定される。ソフトウェアは、好ましくは、患者の現状の不正咬合を分析し、特定の不正咬合を治療するため使用可能な適切な器具を選択するのに好適なサブプログラムを具備する。任意選択的に、ソフトウェアにより、管理者、臨床医、患者、又は他の観察者は、歯のある一定の位置に配置される、選択された器具を使用する治療の終了時に患者の歯が見せるべき、患者の歯の仮想画像をモニター又は他のビデオ出力で見ることができる。
【0076】
好ましくは、ソフトウェアは、器具を選択するため、不正咬合を分析するため、および/又は、歯の移動および歯の最終位置を予測するためのサブプログラムを具備する。器具を選択するためのソフトウェアの一例は、「歯科矯正用ブラケットの選択(Selection of Orthodontic Brackets)」と題された、係属中の米国特許出願第10/081220号(米国出願公開第2003−0163291−A1)に記載されている。任意選択的に、ソフトウェアは、前述のように現存の1組の器具から器具を選択するのではなく、例えば、コンピュータ数値制御ミリングマシンを使用して、受注製作の歯科矯正器具を作製するためのサブプログラムを具備する。
【0077】
追加の選択肢として、歯科矯正用アーチワイヤを器具36のスロットに入れ、所定の位置に結紮してもよい。医院で結紮する工程が回避されるため、この工程は、後でイスに座って過ごす患者の時間を更に短縮するのに役立つ。
【0078】
複製50は、器具36(および、あればアーチワイヤ)と一緒に、図8に一部示されているような歯科矯正患者のセットアップ治療模型68を表す。次いで、模型68、又はシェル60のチャネルのどちらかにマトリックス材料を塗布する。例えば、マトリックス材料が比較的高粘度であり、半液体又はゲルに類似している場合、シリンジ、ブラシ、又は他の技法を使用し、図8に見られるように、模型68にマトリックス材料を塗布してもよい。或いは、マトリックス材料が比較的低粘度であり、液体に類似している場合、シェル60のチャネルの開放側が図9に示すように上向きになるように、シェル60を倒置させるのが好ましいことがある。シェル60を倒置させる場合、液体マトリクス材料がシェルチャネル内に収容されるように、最初はシェル60を最外部の遠位側(歯列弓の端部に対応する)に沿ってトリミングしない。
【0079】
その後、マトリックス材料がシェル60のチャネル内、および、シェル60と模型68の間に受容されるように、模型68をシェル60内に位置決めする。図9では、マトリックス材料は数字70で示されており、器具36並びに複製の歯52の唇側および舌側表面を取り囲む。次いで、マトリックス材料70を硬化させる。
【0080】
好ましくは、マトリックス材料70と器具36が確実に密接するように、マトリックス材料は、硬化前、比較的低粘度である。このようにして、マトリックス材料70は、器具36の様々な凹部、空洞、および他の構造的特徴に十分に貫入することができるため、器具36とマトリックス材料70の間にしっかりとした接合が形成される。比較的低粘度の好適なマトリックス材料の一例には、前述のゼネラルエレクトリック(General Electric)製の「RTV615」シリコーン材料などのシリコーン材料がある。また、このシリコーンマトリックス材料は比較的低粘度であるため、マトリックス材料は、確実に、隣接する複製の歯52の表面形状にぴったり一致する形態を呈する。
【0081】
或いは、マトリックス材料70は、歯科印象材又は咬合間記録材料を含んでもよい。好適な材料には、ヘレウス・クルツァー社(Heraeus−Kulzer Inc.)製のメモシル(Memosil)2ブランドのビニルポリシロキサン材料、又はディスカス・デンタル(Discus Dental)製のペパーミント・スナップ(Peppermint Snap)ブランドの透明な咬合間記録材料などのポリビニルシロキサン印象材が挙げられる。器具36を患者の歯に結合させるため、光硬化性接着剤を使用する場合、マトリックス材料70は、好ましくは光学的に透明であり、化学線を透過させ、実質的に吸収しない。
【0082】
マトリックス材料70が硬化した後、シェル60をマトリックス材料70および器具36と一緒に複製50から取り外す。前述の離型剤を使用すると、器具36を対応する複製の歯52から取り外し易くなる。次いで、必要に応じて、シェル60の余分な材料および余分なマトリックス材料70をトリミングし、廃棄する。図10に、トリミングされて得られた配置デバイス28(シェル60、マトリックス材料70、および器具36を含む)の断面図を示す。
【0083】
次に、器具36にボンディング組成物46をコーティングする。次いで、配置デバイス28は、製造業者によって容器22のチャンバ24に入れられる。その後、配置デバイス28をチャンバ24に密閉するため、容器22の上部フランジに蓋26を付ける。次いで、配置デバイス28を有する容器22を備える装置20が医院に送られる。
【0084】
患者が医院に再診に来たとき、ボンディング処置が行われる。ボンディング処置の工程は、一部、臨床医が選択した特定のボンディング組成物によって決まる。例えば、II類の接着剤を選択する場合、必要に応じて、チークリトラクタ、タングガード、コットンロール、ドライアングルおよび/又は他の物品を使用して、器具36を受ける患者の歯を隔離する。次いで、空気シリンジからの加圧空気を使用して歯を完全に乾燥させる。次いで、エッチング液が流れて隣接面と接触したり、又は、皮膚若しくは歯肉に付着しないように注意して、歯の器具36で被覆される領域全体にエッチング液(3Mユニテック・トランスボンド(3M Unitek Transbond)XTブランドのエッチングジェルなど)を軽く塗り付ける。
【0085】
エッチング液を選択された歯の表面に約30秒間、つけたままにした後、エッチング液を流水で15秒間、歯からすすぎ落とす。次いで、空気シリンジからの加圧空気を(例えば、30秒間)当てて患者の歯を乾燥させ、余分な水を吸引して除去する。また、唾液が、エッチングされたエナメル質表面と接触しないように注意しなければならない。必要に応じてコットンロールおよび他の吸収デバイスを交換し、再度、唾液がエッチングされたエナメル質と接触しないようにする。次いで、空気シリンジからの空気を歯に当てて、再度、歯が完全に乾燥するようにする。
【0086】
好ましくは、前述のような歯の準備工程は、容器22を開ける前に実施される。このようにすると、ボンディング組成物46が周囲の光又は空気に過度に暴露されない。歯の準備工程が完了した後、図1に示すように容器22の蓋26を開け、チャンバ24から配置デバイス28を持ち上げる。
【0087】
次いで、任意選択的に、蝶番式に揺動させて、対応する歯を覆うようにシェル60を位置決めし、着座させる。図10では、患者の歯は数字72で示されている。マトリックス材料70のキャビティの形状は、下にある歯の形状と一致するため、器具36は、器具36が以前あった複製50上の位置に対応する正確に同じ位置で、下にある歯72に同時に当接着座される。好ましくは、その後、ボンディング組成物46が十分硬化するまで、シェル60の咬合面、唇側面、および頬側面に圧力を加える。任意選択的に、指圧を使用して、器具36を患者の歯72のエナメル質表面にしっかりと押し当ててもよい。
【0088】
ボンディング組成物46が硬化した後、シェル60を患者の歯列弓から注意深く取り外す。好ましくは、まず、マトリックス材料70からシェル60を分離し、マトリックス材料70は所定の位置で歯列弓と器具36を覆ったままにしておく。次に、マトリックス材料70を器具36から取り外す。マトリックス材料70を器具36から剥離する時、任意選択的に、各器具36を患者のそれぞれの歯72の表面に当接保持することに役立つスケーラーなどの手道具を使用してもよい。しかし、比較的柔軟なマトリックス材料が使用される場合、又は、さもなければ器具36から容易に外れる場合、新しい接着が破壊しないようにすることに役立つスケーラーの使用は、任意選択的である。
【0089】
別の選択肢として、ボンディング組成物46が硬化する前に、マトリックス材料70からシェル60を分離してもよい。この選択肢は、ボンディング組成物46が光硬化性接着剤であるとき、特に有用である。
【0090】
マトリックス材料70を器具36から取り外した後、アーチワイヤを器具36のスロットに入れ、所定の位置に結紮する。好適な結紮デバイスには、小さい弾性Oリング、並びに、器具36の周囲にループ状に結び付けられるワイヤのセクションが挙げられる。別の選択肢として、器具36は、米国特許第6,302,688号明細書、およびPCT国際公開第02/089693号パンフレットに記載されているものなどの、アーチワイヤに取り外し可能に係合するラッチを具備する自己結紮器具であってよい。
【0091】
前述の方法におけるスペーサー材料56、58の使用は、シェル60にマトリックス材料70を受容する適切な部位が提供されるという点で非常に有利である。その部位の容積および形態を所望されるように正確に提供するため、必要に応じてスペーサー材料56、58を成形することができる。例えば、器具36に隣接する領域を例外として、スペーサー材料のシート58によって、確実に、マトリックス材料が後で歯72のかなりの範囲で均一な厚さに形成される。
【0092】
更に、スペーサー材料56、58を使用すると、液体の稠度を有するマトリックス材料などの、比較的低粘度のマトリックス材料が使用し易くなる。シェル60は比較的剛性があり、その結果、マトリックス材料70の形成中、形状を維持する。その結果、配置デバイス28は、シェル60が患者の歯又は歯肉組織と直接接触しないように構成される。代わりに、マトリックス材料70だけが患者の歯と接触するため、このような口腔構造とぴったり合う。
【0093】
有利には、比較的柔軟なマトリックス材料70は可撓性があり、限られた歯の移動量に適応できる。例えば、患者の歯は、印象を採得してから、器具36を結合させるため患者の口腔内に配置デバイス28を嵌めるまでの間に、僅かに移動している場合がある。器具36が患者の歯の意図される所定の位置に適切に結合されるように、マトリックス材料70は、患者の歯の位置の少しの移動又は調節に適応するほど十分な可撓性を有する。
【0094】
マトリックス材料70は、好ましくは、硬化前に、約60,000cp未満の粘度を有する。更に好ましくは、マトリックス材料70は、硬化前に、約25,000cp未満の粘度を有する。最も好ましくは、マトリックス材料70は、硬化前に、約8000cp未満の粘度を有する。硬化した後、マトリックス材料70は約10〜約80の範囲、更に好ましくは約30〜約60の範囲、最も好ましくは約40〜約50の範囲のショアA硬度を有する。好ましくは、マトリックス材料70は、シェル60のショアA硬度より低いショアA硬度を有する。
【0095】
更に、スペーサー材料56、58を使用すると、結果として得られるシェル60およびそれに収容されるマトリックス材料70の形状を含む配置デバイスの構成を制御し易くなる。例えば、スペーサー材料のシート58によって、結果として得られるマトリックス材料70の厚さを比較的均一に、好ましくは比較的薄くすることができる。このように厚さが均一で寸法が比較的小さいと、光硬化性接着剤がボンディング組成物46として使用されるとき、硬化が容易になる。特に、器具36を患者の歯に結合させるのに光硬化性組成物を使用するとき、マトリックス材料70の均一な厚さは、各器具36の下にある組成物46がどの器具36でも同程度に十分硬化されるようにするのに役立つ。このようにして、使用者は、マトリックス材料の厚さのばらつきを補償する必要がなく、それぞれの量の接着剤と関連する硬化時間を器具36ごとに変える必要がない。
【0096】
前述のように物理的複製を使用することの代替として、本発明の装置20を作製する別の方法は、患者の歯構造のデジタル模型を使用してベース38の輪郭を形成するため、ミリングマシン又は他のデバイスの使用を必要とする。手持ち式の口内スキャナ又は当該技術分野で既知の他のデバイスを使用して、患者の歯構造のデジタル模型を得てもよい。或いは、患者の歯構造の印象、又は患者の歯構造の印象から作製された物理的模型(石膏模型など)を走査することによってデジタルデータを得てもよい。
【0097】
次いで、切削加工プロセスなどの製造プロセスと共にデジタルデータを使用して、ベース38を作製してもよい。例えば、CNCミリングマシンをデジタルデータと一緒に使用して、目的とする歯構造の輪郭を正確に複製する輪郭をベース38に提供してもよい。
【0098】
ベース38に好適な材料の例には、前述のコンポマー、コンポジット、およびグラスアイオノマー材料が挙げられる。特に、器具本体40も半透明な材料又は歯の色の材料で作製されている場合、好ましくは、ベース38は、半透明な材料又は歯の色の材料で作製される。
【0099】
また、様々な他の代替が可能であり、当業者に明らかである。例えば、前述の係属中の米国特許出願第10/428,301号明細書(2003年5月2日提出)に記載されている転移装置の様々な態様を本発明の配置デバイス28に使用してもよい。
【0100】
更に、患者の1本の歯に器具を1つだけ結合させるのに、配置デバイス28を使用してもよい。例えば、最初、1本の歯へのアクセスが他の歯によって妨げられている場合など、前述の配置デバイス28の一部を使用して、1本の歯に1つの器具を結合させてもよい。また、歯から無意図的に剥離した器具を再び結合させるため、又は元の器具の代わりに新しい器具を歯に結合させるため、前述の配置デバイス28の一部を使用してもよい。また、配置デバイス28は、図面に示されるように歯列弓全体ではなく、歯列弓の四分円に沿って延びるように構成されてもよい。
【0101】
本発明の別の実施形態による歯科矯正器具のインダイレクトボンディング用の装置を図11および図12に示し、数字20aで示す。装置20aは、チャンバ24aを有する容器22aを具備する。容器22aの蓋26aは、機能が前述の蓋26に類似している。
【0102】
ジグを備える歯科矯正用配置デバイス28aは、チャンバ24aに取り出し可能に受容される。配置デバイス28a単独の側面断面図が図12に示されており、患者の歯列弓の一部と一致する形態を有するキャビティ34aを有する本体29aを具備する。図示されている実施形態では、キャビティ34aは、患者の歯列弓の1つの各歯の咬合部の形態と一致する。
【0103】
好ましくは、本体29aは、硬化したシリコーン印象材などの柔軟な材料で作製される。好適な印象材の例には、3M ESPE製の「エクスプレスSTD(Express STD)」ブランドの印象材、および市販の他のポリビニルシロキサン印象材が挙げられる。また、ゼネラルエレクトリック(General Electric)製の「RTV615」を使用してもよい。
【0104】
配置デバイス28aは、また、略「L」形の形態を有するアーム31aを具備する。アーム31aの一方側は、本体29aに埋設されており、アーム31aのもう一方側は、歯科矯正器具36aに取り外し可能に接合されている。任意選択的に、アーム31aは、ポリカーボネートなどの安価なプラスチック材料で作製される。
【0105】
アーム31aと器具36aの取り外し可能な接合は、器具の形態又は種類により、任意の好適な連結手段を備えてもよい。図示されている実施形態では、アーム31aは、器具36aの離間したタイウィング間の垂直チャネルに沿って延びている。また、アーム31aは、器具36aのアーチワイヤスロットに取り外し可能に受容されるクロスピース33aも具備する。アーム31aは、ボンディング処置が完了するまで、器具36aが摩擦によってアーム31aに連結された状態を維持するように構成される。
【0106】
他の種類の取り外し可能な連結も可能である。例えば、アーム31aは、器具36aのタイウィングの周囲にぴったりと延び、ボンディング処置が完了するまで器具36aと係合した状態を維持するエラストマー部材を具備してもよい。別の選択肢として、アーム31aを器具36aに取り外し可能に連結させる接着剤が提供される。
【0107】
器具36aは、器具36に類似している。更に、ボンディング組成物46aは、ボンディング組成物46に類似し、器具36aのベースフランジ全体に延びている。
【0108】
配置デバイス28aを使用する際、選択された歯列弓の歯の咬合部に本体29aを被せる。アーム31aは、本体29aが所定の位置に着座すると直ぐ、予め選択された適切な結合位置で歯に係合するように構成される。しかし、器具36aのベースが確実に患者の歯のエナメル質表面と密接するように、必要に応じて、アーム31aに指圧を加えてもよい。
【0109】
ボンディング組成物46aが硬化した後、配置デバイス28aは、歯の咬合部から本体29aを係脱させることによって患者の口腔から除去される。その時、器具36aが所定の位置で歯にしっかりと結合された状態を維持するように、アーム31aがそれぞれの器具36aから外れる。
【0110】
別の代替として、1本の歯だけ、歯列弓の四分円、又は選択された歯列弓の他の任意の本数の歯のための、配置デバイス28aに幾分類似している配置デバイスが提供されてもよい。例えば、配置デバイスは、1本の歯に使用するように構成され、別々の容器に入れられてもよい。その場合、配置デバイスの本体(本体29aに対応する)は、1本の歯だけの咬合部と一致する形状を有する。
【0111】
別の選択肢として、配置デバイス28および28aは、ブラケット、バッカルチューブ、咬合床又はバイトオープナー(bite opener)、ボタン、およびリンガルシースなどの器具を患者の歯の舌側表面に結合させるのに使用されてもよい。その場合、前述の方法および材料は、必要に応じて、適応され、変更される。
【0112】
本発明の装置20、20aは特定の患者に使用するように構成される。その結果、装置20、20aは製造されると直ぐ、医院に送られ、患者が医院に再診に来ると直ぐ、ボンディング処置に使用され得る。装置20、20aが製造されてから、配置デバイス28、28aを使用して患者の歯列弓に器具を結合させるまでの間にあまり待ち時間を必要としないことが多い。
【0113】
従って、様々な組成物が前述のボンディング組成物46として使用可能である。装置は、ほんの数日で製造され医院に到着し得るため、通常、接着剤の貯蔵寿命に関連する問題が、かなり少ない。このような構成は、前述の参考文献に記載されている「標準的な」ベースを有し、予めコーティングされ、包装されている歯科矯正器具よりも有利であるが、それは、このような器具は特定の患者のために構成されていないことが多く、代わりに、使用するのに必要とされる時まで、製造業者の設備内又は医院内の在庫品として存在する場合があるからである。例えば、比較的揮発性があり、何ヶ月間も「新しい」状態を維持し得ないボンディング組成物が、本発明では成功裏に使用され得る。
【0114】
本発明の別の利点は、インダイレクトボンディング装置が、ダイレクトボンディング技術と比較して比較的短い作業時間しか必要としないことである。その結果、ボンディング組成物46の硬化剤の量は、ダイレクトボンディング用途に使用する接着剤に通常見られる量より多い場合がある。また、このようなより多くの硬化剤量は、前述のシェル60およびマトリックス材料70を通過する間に起こる化学線の損失を補償するのに役立つ。
【0115】
本発明の趣旨を逸脱することなく、他の多くの変形、変更、および追加も可能である。従って、本発明は、前述の特定の実施形態に限定されるものと見なすべきではなく、前述の特許請求の範囲の公正な範囲およびその同等物によってのみ限定されるものと見なすべきである。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本発明の一実施形態による歯科矯正器具のインダイレクトボンディングに使用する装置を示す斜視図であり、装置は、容器、および、容器のチャンバに受容される配置デバイスを具備する。
【図2】図1に示されている装置の側面断面図であるが、容器の蓋は閉じている。
【図3】配置デバイスに接合されている歯科矯正器具を更に示す、図1および図2に示されている配置デバイス単独の拡大側面断面図である。
【図4】治療開示時に見え得る、患者の歯構造および隣接する歯肉組織の複製の一例を示す、歯科矯正患者の1つの歯列弓の物理的複製を示す上面正面図である。
【図5】図4に示されている歯列弓複製、並びに、複製に付けられたスペーサー材料の図である。
【図6】図5に示されている複製の歯の1つ、並びに、スペーサー材料の拡大側面断面図である。
【図7】スペーサー材料を覆うように形成されたトレイを更に示す、図6に幾分類似の図である。
【図8】複製上の所定の位置に配置されている多数の歯科矯正器具を更に示す、スペーサー材料とトレイを除去した後の図4に示されている歯構造の複製の図である。
【図9】配置デバイスを作製するために複製とトレイを倒置した後、図7に示されている複製とトレイの間に配置された一定量のマトリックス材料を更に示す、図8に示されている複製の歯および器具の1つの拡大側面断面図である。
【図10】患者の歯の1本に配置デバイスを付ける工程を示す拡大側面断面図である。
【図11】本発明の別の実施形態による歯科矯正器具のインダイレクトボンディングに使用する装置を示す斜視図である。
【図12】図11の装置の配置デバイス単独の側面断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバを有する容器と、
前記チャンバに受容され、患者の歯列弓の少なくとも一部と一致する構成を有する歯科矯正用の配置デバイスと、
前記配置デバイスに取り外し可能に接合され、患者の歯構造の一部の輪郭の複製である輪郭を備えたベースを有する、少なくとも1つの歯科矯正器具と、
患者の歯構造に結合するための前記ベース上のボンディング組成物と、
を備える、歯科矯正器具のインダイレクトボンディングに使用する装置。
【請求項2】
前記配置デバイスがトレイを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記トレイが、シェル、および、前記シェルに受容されるマトリックス材料を備え、前記マトリックス材料が、前記シェルのショアA硬度より低いショアA硬度を有する、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記配置デバイスがジグである、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記配置デバイスが、歯列弓の複数の歯にわたって延びている、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記配置デバイスが、歯列弓の歯全部にわたって延びている、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記配置デバイスが、歯列弓の四分円の歯にわたって延びている、請求項5に記載の装置。
【請求項8】
前記ベースが硬化性組成物で作製されている、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記硬化性組成物が、光硬化性組成物である、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記容器が、化学線の通過を実質的に遮断する材料で作製されている、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記容器が、前記チャンバ内での前記配置デバイスの移動を実質的に妨げる構造を具備する、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記チャンバが、前記配置デバイスの形態と実質的に一致する形態を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項13】
前記ボンディング組成物が、光硬化性組成物を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項14】
前記ボンディング組成物が、化学硬化組成物を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項15】
前記ボンディング組成物が、二成分接着剤の成分の1つを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項16】
前記配置デバイスが、本質的に歯列弓の1本の歯だけにわたって延びている、請求項1に記載の装置。
【請求項17】
少なくとも1つの歯科矯正器具を提供する工程と、
患者の歯構造の少なくとも一部の輪郭を決定する工程と、
患者の歯構造の一部を複製するために、各器具にベースを形成する工程と、
各器具を配置デバイスに接合する工程と、
ある量のボンディング組成物を各ベースに塗布する工程と、
前記配置デバイスを容器内に配置する工程と、
を含む、歯科矯正インダイレクトボンディング用の装置を作製する方法。
【請求項18】
前記患者の歯構造の少なくとも一部の輪郭を決定する工程が、デジタルデータを使用して実施される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記患者の歯構造の少なくとも一部の輪郭を決定する工程が、前記患者の歯構造の印象を採得することによって実施される、請求項17に記載の歯科矯正インダイレクトボンディング用の装置を作製する方法。
【請求項20】
前記印象を使用して物理的複製を作製する工程を含む、請求項19に記載の歯科矯正インダイレクトボンディング用の装置を作製する方法。
【請求項21】
前記配置デバイスがトレイを含む、請求項17に記載の歯科矯正インダイレクトボンディング用の装置を作製する方法。
【請求項22】
前記配置デバイスがジグである、請求項17に記載の歯科矯正インダイレクトボンディング用の装置を作製する方法。
【請求項23】
前記ベースが硬化性組成物で作製される、請求項17に記載の歯科矯正インダイレクトボンディング用の装置を作製する方法。
【請求項24】
前記配置デバイスを容器内に配置する工程が、前記配置デバイスを化学線から保護されている容器のチャンバに入れる工程を含む、請求項17に記載の歯科矯正インダイレクトボンディング用の装置を作製する方法。
【請求項25】
前記配置デバイスを前記容器内に配置した後に前記容器を歯科矯正臨床医に送る工程を含む、請求項17に記載の歯科矯正インダイレクトボンディング用の装置を作製する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2007−507287(P2007−507287A)
【公表日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−533837(P2006−533837)
【出願日】平成16年8月2日(2004.8.2)
【国際出願番号】PCT/US2004/024885
【国際公開番号】WO2005/039433
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】