説明

歯質接着用の光重合型接着剤

【課題】 前処理をなんら必要とせずとも高い接着強度が得られ、かつ1液の状態で保存が可能な歯質用の接着剤を得る。
【解決手段】 酸性モノマー、多官能モノマー、水、揮発性の水溶性有機溶媒、及び光重合開始剤を含んでなり、該光重合開始剤として、カンファーキノン等のα-ジケトン化合物、ジメチルアミノ安息香酸エステル等の芳香族第3級アミン化合物、ジメチルアミノメタクリレート等の脂肪族アミン化合物及び2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン等の1〜3個のトリハロメチル基により置換されたs-トリアジン化合物からなるものを用い、かつ該芳香族第3級アミン化合物の配合量をmモル、トリアジン化合物の配合量をnモル、該トリアジン化合物におけるトリハロメチル基の置換数をaとした時、(a×n)/m≧1となる関係で芳香族第3級アミン化合物及びs-トリアジン化合物を配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯科医療分野等における歯の修復に際し、修復材料と歯質との高い接着強度を実現する為の歯質接着用の光重合型接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
齲蝕等により損傷を受けた歯の修復には、主にコンポジットレジンと呼ばれる充填材料が用いられる。このコンポジットレジンは歯の空洞に充填後重合硬化して使用される事が一般的である。しかし、この材料自体歯質への接着性を持たない為、歯科用接着材が併用される。この接着材にはコンポジットレジンの硬化に際して発生する内部応力、即ちコンポジットレジンと歯質との界面に生じる引張り応力に打ち勝つだけの接着強度が要求される。さもないと過酷な口腔環境下での長期使用により脱落する可能性があるのみならず、コンポジットレジンと歯質の界面で間隙を生じ、そこから細菌が侵入して歯髄に悪影響を与える恐れがあるためである。
【0003】
歯の硬組織はエナメル質と象牙質から成り、臨床的には双方への接着が要求される。従来、接着性の向上を目的として、接着材塗布に先立ち歯の表面を前処理する方法が用いられてきた。このような前処理材としては、歯の表面を脱灰する酸水溶液が一般的であり、リン酸、クエン酸、マレイン酸等の酸水溶液が用いられてきた。エナメル質の場合、処理面との接着機構は、酸水溶液の脱灰による粗造な表面へ、接着材が浸透して硬化するというマクロな機械的嵌合であるのに対し、象牙質の場合には、脱灰後に歯質表面に露出するスポンジ状のコラーゲン繊維の微細な空隙に、接着材が浸透して硬化するミクロな機械的嵌合であると言われている。但し、コラーゲン繊維への浸透はエナメル質表面ほど容易ではなく、酸水溶液による処理後に更にプライマーと呼ばれる浸透促進材が一般的に用いられる。即ち、この方法ではエナメル質と象牙質の双方に対して良好な接着強度を得るためには、歯科用接着剤を塗布する前に2段階の前処理が必要な3ステップシステムであり、操作が煩雑であるという問題があった。
【0004】
この操作の煩雑さの軽減を目的として、酸水溶液の脱灰機能と象牙質プライマーの浸透促進機能を併せ持つセルフエッチングプライマーと歯接着剤で処理する2ステップシステム(特許文献1、2)が提案された。また、近年、酸水溶液の脱灰機能と象牙質プライマーの浸透促進機能及び歯質への接着剤としての機能すべてを併せ持つ接着剤で処理する1ステップシステム(特許文献3、4参照)が提案された。しかしながら、これらのワンステップシステムは、エナメル質及び象牙質双方に必要な接着強度を得るために光重合触媒として多成分混合型の触媒を用いる必要があり、保存安定性の面から2成分に分けて包装し、保存する必要があった。即ち、これらの接着剤は使用直前に2液を混合する操作が必要であり、操作が煩雑であるという欠点があった。
【0005】
また、近年、この2液を混合する操作を不要とした1液性1ステップシステム(特許文献5)が提案されている。しかしながら、該接着剤の歯質接着強度は水分を多く含む過酷な条件下で使用される事を考慮すると、必ずしも十分であると言えるものではなかった。こういった過酷な環境下において目的の歯質接着強度を得る為には、より活性の高い重合触媒の開発が望まれている。
【0006】
一方、光照射により、著しく短時間で重合が完結し、良好な硬化体物性が得られるコンポジットレジン用光重合開始剤として、α-ジケトン化合物及びトリハロメチル基により置換されたs-トリアジン化合物、及びアミン化合物からなる光重合開始剤が見出され、既に提案されている。該光重合開始剤は著しく高い重合活性を有しており、歯質接着強度を満足する1液性歯科用接着剤の光重合開始剤として期待される。しかしながら、酸存在下においてはその重合活性が低下することがわかっており、酸性基を含む重合性単量体を含む1液性歯科用接着剤としてはそのまま使用する事ができないことが問題であった。
【0007】
【特許文献1】特開平06−009327号公報
【特許文献2】特開平06−024928号公報
【特許文献3】特開平10−236912号公報
【特許文献4】特開平10−245525号公報
【特許文献5】特開2003−73218号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は歯科用修復物の歯質との接着に関してエッチング処理やプライマー処理などの前処理や使用直前に2液を混合する操作を必要とせず、且つ歯質との高い接着強度を有する1液型の歯質接着用の光重合型接着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく、鋭意検討を行った。その結果、酸性基含有ラジカル重合性単量体、多官能性ラジカル重合性単量体、水、揮発性の水溶性有機溶媒、光重合開始剤からなる硬化性組成物において、光重合開始剤としてα-ジケトン化合物、芳香族第3級アミン化合物、脂肪族アミン化合物及び、トリハロメチル基により置換されたs-トリアジン化合物を用いると、プライマー処理を行わなくても高い接着強度が得られる場合があることを見出した。そしてさらに検討を行った結果、得られる接着強度の値にはトリアジン化合物の有するトリハロメチル基の数と芳香族アミン化合物の配合量の関係が大きく影響していることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は(A)酸性基含有ラジカル重合性単量体、(B)多官能性ラジカル重合性単量体、(C)水、(D)揮発性の水溶性有機溶媒、及び(E)光重合開始剤を含んでなる1液型の歯質接着用の光重合型接着剤において、前記(E)光重合開始剤が、(E1)α-ジケトン化合物、(E2)芳香族第3級アミン化合物、(E3)脂肪族アミン化合物及び(E4)a個のトリハロメチル基により置換されたs-トリアジン化合物(但し、aは1〜3の整数)からなり、かつ該(E2)芳香族第3級アミン化合物の配合量をmモル、(E4)a個のトリハロメチル基により置換されたs-トリアジン化合物の配合量をnモルとした時、(a×n)/m≧1となる関係で(E2)成分及び(E4)成分が配合されていることを特徴とする1液型の歯質接着用の光重合型接着剤である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の歯質接着用の光重合型接着剤は、特定の化合物が特定の組成比で配合された光重合開始剤を用いる事により、従来の1液型の歯質接着用光硬化型接着剤と比較してより高い接着強度を得る事ができる。また重合開始剤として配合される成分同士、あるいは他の配合成分と同一包装で保存しても分解することが少なく、1液型の接着剤とすることができ、従って、2液を混合する事無く、操作が非常に簡便で且つ、高い歯質接着性能を有する歯質接着用光重合型接着剤を供給できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の歯質接着用の光硬化型接着剤(以下、単に本発明の接着剤)は、(A)酸性基含有ラジカル重合性単量体、(B)多官能性ラジカル重合性単量体、(C)水、(D)揮発性の水溶性有機溶媒、及び(E)光重合開始剤を含んでなる歯質接着用の光重合型接着剤において、前記(E)光重合開始剤が、(E1)α-ジケトン化合物、(E2)芳香族第3級アミン化合物、(E3)脂肪族アミン及び(E4)a個のトリハロメチル基により置換されたs-トリアジン化合物からなる。以下、これら各成分について説明する。
【0013】
(A)酸性基含有ラジカル重合性単量体
本発明の接着剤に使用する(A)酸性基含有ラジカル重合性単量体としては、1分子中に少なくとも1つの酸性基と少なくとも1つのラジカル重合性不飽和基を持つラジカル重合性単量体であれば特に限定されず、公知の化合物を用いることができる。ここで酸性基とは、ホスフィニコ基{=P(=O)OH}、ホスホノ基{−P(=O)(OH)}、カルボキシル基{−C(=O)OH}、スルホ基(−SOH)等の遊離の酸基のみならず、当該酸性基の2つが脱水縮合した酸無水物構造(例えば、−C(=O)−O−C(=O)−)、あるいは酸性基のOHがハロゲンに置換された酸ハロゲン化物基(例えば、−C(=O)Cl)等など、該基を有するラジカル重合性単量体の水溶液又は水懸濁液が酸性を示す基を示す。
【0014】
また、ラジカル重合性不飽和基としては、(メタ)アクリロイル基及び(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、(メタ)アクリロイルチオ基等の(メタ)アクリロイル基の誘導体基;ビニル基:アリル基;スチリル基等が例示される。
【0015】
酸性基含有ラジカル重合性単量体を具体的に例示すると、(メタ)アクリル酸、N−(メタ)アクリロイルグリシン、N−(メタ)アクリロイルアスパラギン酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル ハイドロジェンサクシネート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル ハイドロジェンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル ハイドロジェンマレート、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸、O−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルフェニルアラニン、N−(メタ)アクリロイル−p−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−o−アミノ安息香酸、p−ビニル安息香酸、2−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、3−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、N−(メタ)アクリロイル−4−アミノサリチル酸等の分子内に1つのカルボキシル基を有すラジカル重合性単量体、およびこれらの酸無水物、酸ハロゲン化物;11−(メタ)アクリロイルオキシウンデカン−1,1−ジカルボン酸、10−(メタ)アクリロイルオキシデカン−1,1−ジカルボン酸、12−(メタ)アクリロイルオキシドデカン−1,1−ジカルボン酸、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキサン−1,1−ジカルボン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−3’−メタクリロイルオキシ−2’−(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピル サクシネート、1,4−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)ピロメリテート、N,O−ジ(メタ)アクリロイルチロシン、4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)トリメリテート アンハイドライド、4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)トリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリテート、4−アクリロイルオキシブチルトリメリテート、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸無水物、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−2,3,6−トリカルボン酸無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルカルボニルプロピオノイル−1,8−ナフタル酸無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,8−トリカルボン酸無水物等の分子内に複数のカルボキシル基あるいはその酸無水物基を有すラジカル重合性単量体、およびこれらの酸無水物、酸ハロゲン化物(ただしこれらはカルボキシル基を有す化合物である場合);2−(メタ)アクリロイルオキシエチル ジハイドロジェンフォスフェート、ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル) ハイドロジェンフォスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル フェニル ハイドロジェンフォスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシル ジハイドロジェンフォスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル ジハイドロジェンフォスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル 2−ブロモエチル ハイドロジェンフォスフェート等の分子内にホスフィニコオキシ基又はホスホノオキシ基を有すラジカル重合性単量体(ラジカル重合性酸性リン酸エステルとも称す)、およびこれらの酸無水物、酸ハロゲン化物;ビニルホスホン酸、p−ビニルベンゼンホスホン酸等の分子内にホスホノ基を有すラジカル重合性単量体;2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、p−ビニルベンゼンスルホン酸、ビニルスルホン酸等の分子内にスルホ基を有すラジカル重合性単量体が例示される。またこれら以外にも、特開昭54−11149号公報、特開昭58−140046号公報、特開昭59−15468号公報、特開昭58−173175号公報、特開昭61−293951号公報、特開平7−179401号公報、特開平8−208760号公報、特開平8−319209号公報、特開平10−236912号公報、特開平10−245525号公報等に開示されている歯科用接着性組成物の成分として記載されている酸性モノマーも好適に使用できる。
【0016】
これら酸性基含有ラジカル重合性単量体は単独で用いても、複数の種類のものを併用しても良い。
【0017】
上記酸性基含有ラジカル重合性単量体のなかでも、歯質に対する接着性が優れている点で、分子内に複数のカルボキシル基あるいはその酸無水物基を有すラジカル重合性単量体、又はラジカル重合性酸性リン酸エステルを使用することが好ましく、ラジカル重合性酸性リン酸エステルが特に好ましい。また光照射時の重合性が良好な点で、重合性不飽和基としては、(メタ)アクリロイル基の誘導体基であることが好ましい。
【0018】
本発明の接着剤における酸性基含有ラジカル重合性単量体の配合量は特に限定されないが、(E)光重合触媒以外の成分、即ち(A)酸性基含有ラジカル重合性単量体+(B)多官能性ラジカル重合性単量体+(C)水+(D)揮発性の水溶性有機溶媒の合計(以下、単に(A)〜(D)成分の合計と称す)を100質量部として7〜40質量部であることが好ましい。より好ましくは10〜30質量部である。この範囲とすることにより、適度な歯質脱灰性が発現し、歯質に対する接着性がより良好な歯質用の接着剤とすることができる。
【0019】
(B)多官能性ラジカル重合性単量体
本発明に係る歯質接着用光硬化型接着剤に使用する(B)多官能性ラジカル重合性単量体は、硬化体強度及び耐久性の観点から、歯質との高い接着強度を発現する為に必要であり、歯科分野で従来の光重合開始剤と組み合わせて使用可能な公知の多官能性ラジカル重合性単量体が制限なく使用できるが、硬化速度の点から(メタ)アクリレート系単量体を用いるのが好適である。好適に使用される(メタ)アクリレート系多官能性ラジカル重合性単量体を具体的に例示すると、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル]プロパン、2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、2,2’−ビス{4−[3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ]フェニル}プロパン、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート系単量体等が挙げられる。これらの(メタ)アクリレート系単量体は単独でまたは二種以上を混合して用いることができる。
【0020】
本発明の接着剤における(B)多官能性ラジカル重合性単量体の配合量は特に限定されないが、(A)〜(D)成分の合計を100質量部として5〜30質量部配合すれば良い。より好ましくは10〜20質量部である。この範囲とすることにより、良好な硬化体強度が得られ、歯質に対する接着性がより良好な歯質用の接着剤とすることができる。
【0021】
(C)水
本発明の接着剤に使用する(C)水は、(A)酸性基含有ラジカル重合性単量体と共に歯質脱灰作用を持たせる為には必須である。該(C)水は、保存安定性、生体適合性および接着性に有害な不純物を実質的に含まないことが好ましく、例としては脱イオン水、蒸留水等が挙げられる。本発明の接着剤における(C)水の配合量は、特に限定されるものではなく適宜設定すれば良いが、少なすぎると歯質の脱灰性が小さくなり、他方、あまりに多いと接着剤の硬化体の機械的強度が低くなる傾向が強いため、(A)〜(D)成分の合計を100質量部として15〜50質量部配合することが好ましい。より好ましくは20〜40質量部である。
【0022】
(D)揮発性の水溶性有機溶媒
本発明の接着剤に使用する(D)揮発性の水溶性有機溶媒は、上記(A)酸性基含有ラジカル重合性単量体、(B)多官能性ラジカル重合性単量体、及び必要に応じて配合される他のラジカル重合性単量体や重合開始剤などと(C)水との混和性を向上させ、均一な組成の接着剤を得るために必要である。
【0023】
該揮発性の水溶性有機溶媒としては、室温で揮発性を有し、水溶性を示すものであれば公知の有機溶媒が何等制限なく使用できる。ここで言う揮発性とは、760mmHgでの沸点が100℃以下であり、且つ20℃における蒸気圧が1.0KPa以上であることを言う。また、水溶性とは、20℃での水への溶解度が20g/100ml以上であることを言う。このような揮発性の水溶性有機溶媒として具体的に例示すると、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。これら有機溶媒は必要に応じ複数を混合して用いることも可能である。生体に対する為害性を考慮すると、エタノール、プロパノール又はアセトンが好ましい。
【0024】
本発明の接着剤における(D)揮発性の水溶性有機溶媒の配合量は、上記のように配合される各成分が均一となる程度であれば良いが、一般的には(A)〜(D)成分の合計を100質量部として15〜60質量部配合すれば良い。より好ましくは20〜50質量部である。
【0025】
(E)光重合開始剤
本発明の接着剤は、(E)光重合開始剤として(E1)α-ジケトン化合物、(E2)芳香族第3級アミン化合物、(E3)脂肪族アミン化合物及び(E4)a個のトリハロメチル基により置換されたs-トリアジン化合物(但し、aは1〜3の整数)を用いるものである。これらのうちのいずれかの成分が欠けても歯質に対する充分な接着強度を得ることができない。さらに、この(E4)トリアジン化合物の配合量をnモル、(E2)芳香族第3級アミン化合物の配合量をmモルとした時、(a×n)/m≧1となる関係で(E2)及び(E4)が配合されている必要もあり、この条件を満足しない場合にも、歯質、特に象牙質に対する接着強度が充分なものとはできない。以下、これら各成分について説明する。
【0026】
(E1)α−ジケトン化合物
本発明の接着剤において光重合開始剤成分として使用する(E1)α−ジケトン化合物としては、公知の化合物が何ら制限なく使用できる。その具体例としては、カンファーキノン、カンファーキノンカルボン酸、カンファーキノンスルホン酸等のカンファーキノン類;ジアセチル、アセチルベンゾイル、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、9,10−フェナンスレンキノン、アセナフテンキノン等を挙げることができる。
【0027】
使用するα−ジケトン化合物は、重合に用いる光の波長や強度、光照射の時間、あるいは組み合わせる他の成分の種類や量によって適宜選択して使用すればよく、単独または2種以上を混合して使用することもできる。これらのなかでも、歯科用に用いることを考慮すると、可視光域に極大吸収波長を有していることが好ましく、一般的にはカンファーキノン類が好適に使用され、特にカンファーキノンが好ましい。
【0028】
(E2)芳香族第3級アミン化合物
本発明の接着剤において光重合開始剤成分として使用する芳香族第3級アミン化合物とは、窒素原子に結合する3つの有機基のうち、少なくとも1つが芳香族基である第3級アミン化合物である。
【0029】
本発明の接着剤に使用する(E2)芳香族3級アミンを具体的に例示すると、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジ(β−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N,2,4,6−ペンタメチルアニリン、N,N,2,4−テトラメチルアニリン、N,N−ジエチル−2,4,6−トリメチルアニリン、p−ジメチルアミノ安息香酸メチル、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジメチルアミノ安息香酸プロピル、p−ジメチルアミノ安息香酸アミル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、p−ジエチルアミノ安息香酸エチル、p−ジエチルアミノ安息香酸プロピル等が挙げられる。これら芳香族アミン化合物は1種又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0030】
(E3)脂肪族アミン化合物
本発明の接着剤において光重合開始剤成分として使用する脂肪族アミンとは、窒素原子に少なくとも1つ以上の有機基が結合しており、且つこの窒素原子に結合している有機基がいずれも脂肪族基であるアミン化合物である(但し、該脂肪族基は置換基を有していてもよい)。
【0031】
該(E3)脂肪族アミンを具体的に例示すると、n−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−オクチルアミン、等の脂肪族第1級アミン化合物;ジブチルアミン等の脂肪族第2級アミン;トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート等の脂肪族第3級アミン化合物などを挙げることができるが、好ましくは脂肪族第3級アミン化合物であり、さらに好ましくはN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート等のラジカル重合性官能基を有する第3級脂肪族アミン化合物である。これら脂肪族アミン化合物は1種又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0032】
(E4)a個のトリハロメチル基により置換されたs-トリアジン
本発明においては、上述した光重合開始剤成分(E1)α-ジケトン化合物、(E2)芳香族第3級アミン及び(E3)脂肪族アミンと共に、(E4)a個のトリハロメチル基を置換基として有するs−トリアジン化合物(以下、単にトリアジン化合物とも称す)が使用される。
【0033】
本発明の上記トリアジン化合物としては、トリアジン骨格を構成する炭素原子に結合したトリクロロメチル基、トリブロモメチル基等のトリハロメチル基を少なくとも一つ有するs−トリアジン化合物であれば公知の化合物が何ら制限なく使用できる。なおトリアジン骨格は置換可能な炭素原子を3つしか有していないため、トリハロメチル基の最大置換数は3である。(即ち、aは1〜3の範囲しか取らない)。特に好ましいトリアジン化合物を一般式で示すと下記一般式(1)で表される。
【0034】
【化1】

【0035】
(式中、R及びRは、それぞれ独立にアルキル基、アルコキシ基またはトリアジン環と共役する不飽和結合を有する有機基であり、Xはハロゲン原子である。)
上記一般式(1)中、Xで表されるハロゲン原子は、塩素、臭素及びヨウ素の何れでもよいが、塩素が一般的であり、従って、トリアジン環に結合した置換基(CX)としては、トリクロロメチル基が一般的である。
【0036】
及びRは、トリアジン環と共役可能な不飽和結合を有する有機基、アルキル基及びアルコキシ基の何れでもよい。R及びRの少なくとも一方が、トリアジン環と共役可能な不飽和結合を有する有機基である場合、本発明の歯科用複合修復材料の保存安定性をさらに優れたものとできる。他方、R及びRの少なくとも一方が、ハロゲン置換アルキル基である方がより良好な重合活性を得られやすく、共にハロゲン置換アルキル基であると特に重合活性が良好である。
【0037】
トリアジン環と共役する不飽和結合を有する有機基は特に限定されるものではないが、好ましくは炭素数2〜30、特に炭素数2〜14の有機基である。このような有機基を具体的に例示すると、フェニル基、メトキシフェニル基、p−メチルチオフェニル基、p−クロロフェニル基、4−ビフェニリル基、ナフチル基、4−メトキシ−1−ナフチル基等の炭素数6〜14のアリール基;ビニル基、2−フェニルエテニル基、2−(置換フェニル)エテニル基等の炭素数2〜14のアルケニル基等が例示される。なお、上記置換フェニル基の有する置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜6のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基等の炭素数1〜6のアルキルチオ基;フェニル基;ハロゲン原子等が例示される。
【0038】
また、R及びRにおけるアルキル基及びアルコキシ基は、置換基を有するものであってもよく、このようなアルキル基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基等の非置換のアルキル基;トリクロロメチル基、トリブロモメチル基、α,α,β−トリクロロエチル基等のハロゲン置換アルキル基等が挙げられる。さらに、アルコキシ基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、例えばメトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等の非置換のアルコキシ基;2−{N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ}エトキシ基、2−{N−ヒドロキシエチル−N−エチルアミノ}エトキシ基、2−{N−ヒドロキシエチル−N−メチルアミノ}エトキシ基、2−{N,N−ジアリルアミノ}エトキシ基等のアミノ基により置換されたアルコキシ基等が例示される。
【0039】
上記のような一般式(1)で表されるトリハロメチル基置換s−トリアジン化合物を具体的に例示すると、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2,4,6−トリス(トリブロモメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリブロモメチル)−s−トリアジン、2−フェニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メチルチオフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−クロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(2,4−ジクロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−ブロモフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−トリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−n−プロピル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(α,α,β−トリクロロエチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−スチリル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(p−メトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(o−メトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、
2−[2−(p−ブトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(3,4−ジメトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(3,4,5−トリメトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(1−ナフチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−ビフェニリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−{N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ}エトキシ]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−{N−ヒドロキシエチル−N−エチルアミノ}エトキシ]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−{N−ヒドロキシエチル−N−メチルアミノ}エトキシ]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−{N,N−ジアリルアミノ}エトキシ]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン等が例示される。
【0040】
上記で例示したトリアジン化合物の中で特に好ましいものは、重合活性の点で2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジンであり、また保存安定性の点で、2−フェニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−クロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、及び2−(4−ビフェニリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジンである。
【0041】
上記トリアジン化合物は1種または2種以上を混合して用いても構わない。
【0042】
本発明の接着剤において、上記光重合開始剤の配合量は、重合開始剤として作用し、かつ(E2)芳香族第3級アミン化合物の配合量をmモル、(E4)a個のトリハロメチル基により置換されたトリアジン化合物(但し、aは1〜3の整数)の配合量をnモルとした時、(a×n/m)≧1となる関係でこれら(E2)成分及び(E4)成分が配合されていれば特に限定されるものではないが、一般的には、(A)〜(D)成分の合計量を100質量部として、(E1)α−ジケトン化合物を0.01〜5.0質量部(より好ましくは0.1〜1.0質量部)、(E2)芳香族アミン化合物を0.02〜5.0質量部(より好ましくは0.2〜2.0質量部)、(E3)脂肪族アミン化合物を0.5〜10質量部(より好ましくは1.0〜8.0質量部)とし、(E4)成分であるトリアジン化合物を、上記条件を満足するように配合すればよい。また、(a×n)/mの上限は特に限定されるものではないが、より良好な接着強度を得るためには、(a×n)/mが1〜5であることが好ましく、1.3〜3であることがより好ましい。
【0043】
なお上記計算の際には、分子量や置換しているトリハロメチル基の異なるトリアジン化合物を2種以上併用する場合には、各々の化合物について計算されたa×nの合計を用いる。芳香族アミン化合物についても同様である。
【0044】
該トリアジン化合物の具体的配合量は、トリアジン化合物の有するトリハロメチル基の数や分子量、及び芳香族アミン化合物の分子量にも依存するが、一般的には、(E2)芳香族アミン化合物1質量部に対して、1〜3質量部である。
【0045】
本発明の接着剤には、上記(A)〜(E)成分が配合されていればその効果を発現するが、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて歯科用接着剤の配合成分として公知の他の成分、例えば、酸性基含有ラジカル重合性単量体や多官能性ラジカル重合性単量体以外のラジカル重合性単量体、紫外線吸収剤、重合禁止剤、重合抑制剤、染料、顔料などが配合されていてもよい。
【0046】
本発明の接着剤の製造方法は特に限定されるものではなく、公知の歯質用接着剤の製造方法に従えばよく、一般的には、赤色光などの不活性光下に、配合される全成分を秤取り、均一溶液になるまでよく混合すればよい。
【0047】
本発明の接着剤の使用方法もまた、公知の歯質用接着剤の使用方法に従えばよく、一般的には、齲蝕部を取り除くなどした被着体となる歯質に本発明の接着剤を塗布、5〜60秒程度放置後に圧縮空気などを軽く吹きつけて揮発性成分を揮発させ、ついで歯科用照射器を用いて可視光を照射し重合、硬化させればよい。
【実施例】
【0048】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、実施例および比較例で使用した化合物とその略称を(1)に、本発明の歯質接着用光硬化型接着剤のエナメル質、象牙質接着強度測定方法を(2)に示す。なお、光重合開始剤の項におけるかっこ内の数値は各化合物の分子量である。
略称及び構造
(A)酸性基含有ラジカル重合性単量体
PM;2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェートとビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェートの混合物
MAC−10;11−メタクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカンボン酸
(B)多官能性ラジカル重合性単量体
UDMA;1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルオキサン
3G;トリエチレングリコールジメタクリレート
TMPT;トリメチロールプロパントリメタクリレート
(D)揮発性の水溶性有機溶媒
Et-OH;エチルアルコール
(E)光重合開始剤
(E1)α-ジケトン化合物
CQ;カンファーキノン(166)
(E2)芳香族第3級アミン化合物
DMBE;N,N−ジメチルp−安息香酸エチル(193)
DMPT;N,N−ジメチルp−トルイジン(135)
(E3)脂肪族アミン化合物
DMEM;N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(157)
MDEOA;N−メチルジエタノールアミン(119)
(E4)トリハロメチル基により置換されたs-トリアジン化合物
TCT;2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン(434)
MBCT;2−メチル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン(330)
DMCT;2,4−ジメチル−6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン(227)
(2)エナメル質、象牙質接着強度測定方法
屠殺後24時間以内に牛前歯を抜去し、往水下、#800のエメリーペーパーで唇面に平行になるようにエナメル質および象牙質平面を削り出した。次にこれらの面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した後、この平面に直径4mmの孔の開いた両面テープを固定し、ついで厚さ1.5mm直径6mmの孔の開いたパラフィンワックスを上記円孔上に同一中心となるように固定して模擬窩洞を形成した。この模擬窩洞内に本発明の歯質接着用光硬化型接着剤を10秒間擦り塗布し、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した。次に、可視光線照射器(ホワイトライト、タカラベルモンド社製)にて10秒間光照射し接着剤を硬化させた。更にその上に歯科用コンポジットレジン(パルフィークエステライト(株)トクヤマデンタル社製)を充填し、可視光線照射器により30秒間光照射しえ、接着試験片を作製した。
【0049】
上記接着試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、引張り試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード10mm/minにて引張り、歯牙とコンポジットレジンの引張り接着強度を測定した。1試験当り、4本の引張り接着強さを上記方法で測定し、その平均値を接着強度とした。
【0050】
実施例1
(A)成分として15gのPM、(B)成分として20gのUDMA、(C)成分として30gの水、(D)成分として35gのアセトンを量り取り、混合した。この溶液に(E1)成分として0.2gのCQ、(E2)成分として0.4gのDMBE、(E3)成分として4gのDMEM、(E4)成分として0.4gのTCTからなる重合開始剤を加え1液性の歯質接着用光硬化型接着剤を調整した。該接着剤を用いて、エナメル質、象牙質接着強度を測定した。接着剤の組成を表1に、配合された光重合開始剤の各成分の比率を表2に、接着強度の測定結果を表3に示す。
【0051】
実施例2〜12、比較例1〜10
実施例1の方法に準じ組成の異なる接着剤を調整した。接着剤の組成を表1に、配合された光重合開始剤の各成分の比率を表2に、接着強度の測定結果を表3に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
各実施例と、比較例1、2との対比から、光重合開始剤の成分として、トリハロメチル基により置換されたs-トリアジン化合物が配合されていない場合には、充分な象牙質接着強度が得られないことがわかる。また比較例3、4の結果から芳香族アミン化合物及び脂肪族アミン化合物も高い象牙質接着強度を得るためには必須である。一方、比較例5〜10の結果から単に該s-トリアジン化合物を含む各構成成分が配合されていればよいのではなく、光重合開始剤を構成する各成分の量比が適切な範囲であることが必要なことが理解される。
【0056】
そして表2に示したように、象牙質に対して高い接着強度が得られている組成の接着剤では、s-トリアジン化合物の有するトリハロメチル基の数(a)と該s-トリアジン化合物の配合量(n)の積(a×n)が、芳香族アミン化合物の配合量(m)以上の場合に象牙質に対して高い接着強度が得られている。
【0057】
それに対し、実施例3と比較例6との対比に最も明確に表れているように、s-トリアジン化合物の配合量の絶対量や、a×nとα−ジケトン化合物の配合量(p)あるいは脂肪族アミン化合物の配合量(q)との比は、高い象牙質接着強度を得るために特に重要な要件ではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)酸性基含有ラジカル重合性単量体、(B)多官能性ラジカル重合性単量体、(C)水、(D)揮発性の水溶性有機溶媒、及び(E)光重合開始剤を含んでなる1液型の歯質接着用の光重合型接着剤において、前記(E)光重合開始剤が、(E1)α-ジケトン化合物、(E2)芳香族第3級アミン化合物、(E3)脂肪族アミン化合物及び(E4)a個のトリハロメチル基により置換されたs-トリアジン化合物(但し、aは1〜3の整数)からなり、かつ該(E2)芳香族第3級アミン化合物の配合量をmモル、(E4)a個のトリハロメチル基により置換されたs-トリアジン化合物の配合量をnモルとした時、(a×n)/m≧1となる関係で(E2)成分及び(E4)成分が配合されていることを特徴とする1液型の歯質接着用の光重合型接着剤。

【公開番号】特開2006−76973(P2006−76973A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−265425(P2004−265425)
【出願日】平成16年9月13日(2004.9.13)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【出願人】(391003576)株式会社トクヤマデンタル (222)
【Fターム(参考)】