説明

歯質硬度維持剤

【課題】歯質硬度維持剤及び/又は歯質硬度維持用飲食品の提供。
【解決手段】ラクトフェリン及び鉄−ラクトフェリンにエナメル質の脱灰抑作用を見出し、これらを有効成分として含有させることによって、歯質硬度維持剤、及び歯質硬度維持用飲食品を提供する。これらを使用又は摂取することにより、エナメル質の脱灰が抑制されるのでう蝕の予防に有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳成分であるラクトフェリン及び/又は鉄−ラクトフェリンを有効成分とする歯質硬度維持剤、あるいは、ラクトフェリン及び/又は鉄−ラクトフェリンを配合した歯質硬度維持用飲食品に関する。本発明の歯質硬度維持剤や歯質硬度維持用飲食品は、エナメル質の脱灰を抑制する作用によって、歯質硬度の低下を防ぎ、高齢者を中心とする健康な歯の維持、およびそれに伴う健康的な食生活のための食餌咀嚼機能の維持効果を得ることができる。
【背景技術】
【0002】
う蝕とは、歯の硬組織(エナメル質、象牙質)が溶解(脱灰)する現象であり、微生物、歯牙、食物の3つの要因、すなわち、口腔細菌叢のう蝕誘発性が高い状態、歯質のう蝕感受性の高い状態、及び、食生活のパターンのう蝕誘発性の高い状態により引き起こされる。う蝕発生のメカニズムは、まず虫歯菌(Streptococcus mutans)が歯垢形成酵素であるグルコシルトランスフェラーゼ(GTase)を生産し、スクロースを基質として不溶性、粘着性の多糖類であるグルカンを合成する。合成されたグルカンが虫歯菌とともに歯の表面に付着してプラークを形成し、プラークの中で乳酸菌(Lactcoccus lactics subsp. lactis)が乳酸を産生することでエナメル質を脱灰するために起こる。つまり、う蝕の発症には歯垢形成、口腔内細菌、糖質、歯質などの多くの因子が関与しており、現在では、これらの因子を考慮した多方面からのう蝕予防方法が開発されている。
【0003】
ラクトフェリンは哺乳類の乳、涙、唾液、胆汁、精液などの分泌液中、または好中球の二次顆粒に含まれる、分子量約80kDaの鉄結合性糖タンパク質である。X線解析法で2個のローブからなる高次構造が明らかとなり、各々一個ずつ存在する鉄結合部位に炭酸水素イオンあるいは炭酸イオンの存在下で、3価の鉄イオンがキレート結合する立体構造も報告されている。さらに、鉄吸収調節作用、抗菌作用、抗炎症作用、抗酸化作用、免疫賦活作用などの多様な生体機能の維持調節を行っていることが報告されており、生体防御の重要な役割を果たす因子として注目されている。ラクトフェリンの生理活性物質としての認識が高まると共に、食品、飼料、医薬品等への応用も実現化されつつある。ラクトフェリンはその病原菌付着阻止作用によって、う蝕予防に対しても効果的であることが知られている(特許文献1)。しかし、これはあくまでも病原菌が歯に付着することを防ぐ作用であり、一旦病原菌が付着した後のう蝕に対する効果については、なんら明らかにされていない。
【特許文献1】特開平3−220130号公報
【0004】
一方、鉄−ラクトフェリンは、ラクトフェリンに特定の処理を行うことにより、ラクトフェリン1分子あたり少なくとも3原子の鉄を安定的に保持できるようにしたものである。例えば、ラクトフェリン溶液に鉄塩を添加し、アルカリを加えて溶液のpHを高めることによって得られる鉄を安定に保持したラクトフェリン粉末(特許文献2)、ラクトフェリンのアミノ基に重炭酸イオンを介して鉄が結合した耐熱性ラクトフェリン−鉄結合体(特許文献3)、あるいは、ラクトフェリンに一定の割合で、炭酸及び/又は重炭酸を含む溶液と、鉄を含む溶液とを添加して得られる鉄−ラクトフェリン複合体(特許文献4)などが知られている。これらの鉄−ラクトフェリンには抗炎症作用や、骨強化作用などの生理活性があることが明らかになっているが、う蝕に対する効果については、これまでに検証されていなかった。
【特許文献2】特開平7−17825号公報
【特許文献3】特開平6−239900号公報
【特許文献4】特開平7−304798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ラクトフェリン及び/又は鉄−ラクトフェリンを有効成分とする歯質硬度維持剤および、歯質硬度維持用飲食品を提供することを目的とする。これらは、口内で直接歯に触れることによって、エナメル質の硬度低下(脱灰)を抑制し、う蝕すなわち虫歯を効果的に防止することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、様々な生理活性、特に骨に対する生理活性が高いラクトフェリン及び鉄−ラクトフェリンに着目し、鋭意研究を行ったところ、ラクトフェリン及び鉄−ラクトフェリンに、病原菌による歯のエナメル質の硬度低下を抑制する作用を見出し、この発明を完成させるに至った。つまり、ラクトフェリン及び鉄−ラクトフェリンのエナメル質硬度低下抑制作用を利用し、う蝕に対する高い予防効果を有するラクトフェリン及び鉄−ラクトフェリンを有効成分とする歯質硬度維持剤を完成させるに至った。
【0007】
本発明で使用することのできるラクトフェリンは、牛乳、人乳、山羊乳、羊乳等の哺乳動物の乳を原料とするものである。ラクトフェリンは、リジン、アルギニン等の塩基性アミノ酸を多く含み、総称して塩基性タンパク質と呼ばれることもある。この塩基性タンパク質は脱脂乳や乳清等の乳原料を陽イオン交換樹脂を用いて精製することで得ることができる。本発明では、乳からラクトフェリンを分離・精製し、必要量を配合することもできるが、特に、牛乳の脱脂乳や乳清を原料として得られるラクトフェリンを含む塩基性タンパク質画分を利用することもできる。
【0008】
このラクトフェリンを含む塩基性タンパク質画分を得る方法としては、乳又は乳由来の原料を陽イオン交換体に接触させて塩基性タンパク質を吸着させた後、この陽イオン交換体に吸着した塩基性タンパク質をpH5を越え、イオン強度0.5を越える溶出液で溶出して得る方法(特許文献5)、アルギン酸ゲルを用いて得る方法(特許文献6)、無機の多孔質粒子を用いて乳清から得る方法(特許文献7)、硫酸化エステル化合物を用いて乳から得る方法(特許文献8)などが知られており、本発明ではこのような方法で得られたラクトフェリンを含む塩基性タンパク質画分を有効成分として用いることができる。
【特許文献5】特開平5−202098号公報
【特許文献6】特開昭61−246198号公報
【特許文献7】特開平1−86839号公報
【特許文献8】特開昭63−255300号公報
【0009】
また、本発明で使用することができる鉄−ラクトフェリンは、鉄とラクトフェリンとが結合した状態のものであって、鉄とラクトフェリンが結合しているか、あるいは他の物質を介して鉄とラクトフェリンとが結合しているものであって、いわゆる鉄がイオン状態で存在していないものであれば良い。例えば、ラクトフェリン類に炭酸及び/又は重炭酸を含む溶液と鉄を含む溶液とを添加して得られる前記の「鉄−ラクトフェリン結合体」や「鉄−ラクトフェリン複合体」等を挙げることができ、これらの鉄−ラクトフェリンを本発明の有効成分として使用することができる。これらの鉄−ラクトフェリンは、耐熱性を有していることから、製剤や飲食品に添加・加工する際に加熱処理を行っても問題ない。また、これらの鉄−ラクトフェリンは、鉄の収斂味や金属味などが全くないという特徴を有していることから、風味上の問題も全くない。
【発明の効果】
【0010】
本発明の歯質硬度維持剤や歯質硬度維持用飲食品は、これらを使用あるいは摂取することにより、細菌の付着後に生じる歯のエナメル質の脱灰を抑制することができるので、歯質の硬度を維持し、う蝕予防に効果的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の歯質硬度維持剤は、ラクトフェリン及び/又は鉄−ラクトフェリンを有効成分とするものであり、例えば、歯磨き剤、うがい薬、口臭防止剤、洗口剤、飴、ガム、トローチ等の形態で医薬及び飲食品に配合して用いることができる。投与の形態及び投与量としては、成人一人1日あたり1〜50mg程度を数回に分けて歯の表面に接触させることが望ましい。なお、本発明のラクトフェリン及び鉄−ラクトフェリンは、その優れた生理活性により様々な剤や飲食品に応用されており、その安全性については全く問題ないと言えるものである。
【0012】
以下に、実施例及び試験例を示し、本発明についてより詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0013】
(ラクトフェリン及び鉄−ラクトフェリンの調製)
陽イオン交換樹脂のスルホン化キトパール(富士紡績社製)400gを充填したカラム(直径5cm×高さ30cm)を脱イオン水で十分洗浄した後、このカラムに未殺菌脱脂乳40L(pH6.7)を流速25ml/minで通液した。通液後、このカラムを脱イオン水で十分洗浄し、続いて0.7M塩化ナトリウムを含む0.02M炭酸緩衝液(pH7.0)で洗浄した後、0.98M塩化ナトリウムを含む0.02M炭酸緩衝液(pH7.0)で樹脂に吸着した画分を溶出した。そして、この溶出液を逆浸透(RO)膜により脱塩して、濃縮した後、凍結乾燥してラクトフェリン粉末11gを得た。なお、このラクトフェリン粉末には、ラクトフェリンが93重量%含まれていた。
このようにして得られたラクトフェリン10μmolと重炭酸ナトリウム1.2molとを含む溶液1LをA液として作製した。硫酸第二鉄を鉄イオンとして1.5mmol含む溶液1LをB液として作製した。A液にB液を加えた後、分子量5000カットの限外濾過膜にて脱塩、濃縮し、模擬緩衝液(pH8.9)にて鉄濃度が94mg/100mlになるように希釈して、鉄−ラクトフェリンを得た。このようにして得られた鉄−ラクトフェリンは、溶液100mlあたりラクトフェリンを0.9g及び鉄を94mg含有していた。
【0014】
[試験例1]
(歯質硬度維持作用の確認)
実施例1で製造したラクトフェリン、鉄−ラクトフェリンを用いて、歯質硬度維持作用について、人工口腔装置を用いて検証を行った。本装置は、3台の人工口腔部分、送液用ポンプ2台、恒温槽、冷却撹拌器3台、pHレコーダーから構成されている。上部からは5本のステンレスチューブを固定したシリコン栓を、下部からはドレイン用チューブと平面pH電極を逆さに固定したシリコン栓を装着して密閉した。人工口腔部分のウォータージャケットに温水を循環して装置内部を37℃に維持した。平面pH電極周囲にはテフロン製ホルダーにユーティリティワックスを用いて4個のウシエナメル歯片(3.5mm×3.5mm×1.5mm)を固定した。その上部から2.5% スクロース(電極上で1.0%)含有HI培地、細菌懸濁液を連続的に滴下した。対照としてPBSを、実験群として各種乳成分を滴下した。pHを連続的に記録しながら15〜18時間滴下を続け、人工プラーク形成に伴って対照のpHが4付近まで低下した時点で滴下を終了した。エナメル質歯片上およびpH電極上に形成された人工バイオフィルムを0.5N 水酸化ナトリウム溶液で処理して遠心分離し、沈殿物の濁度を500nmで測定して菌体量とした。その上清をフェノール硫酸法によって定量し非水溶性グルカン(WIG)量とした。エナメル質の脱灰度を実験前後のVicker’s硬度変化(ΔH)から評価した。なお、実験はS. sobrinus ATCC33478 (OD500=0.1)のバイオフィルム形成、pH低下、ウシエナメル歯片の脱灰に及ぼす乳成分の影響を調べた。
【0015】
結果を図1に示す。これによるとエナメル質脱灰度は、ラクトフェリンおよび鉄−ラクトフェリンともに対照と比べ有位差(p<0.01)が観察された。その他、pH低下、歯片への菌体量およびWIG付着量の平均値については、対照との差が観察されなかった。つまり、ラクトフェリン、鉄−ラクトフェリンには、S. sobrinusや S. mutansの保存株、臨床分離株いずれにおいてもスクロース存在下でのpH低下抑制作用、バイオフィルム形成抑制作用は認められなかったが、エナメル質の硬度を維持する効果があることが明らかになった。
【実施例2】
【0016】
(歯質硬度維持用歯磨き剤の製造)
表1に示す配合で各成分を混合し、クリームを製造して容器に充填し、歯周病予防及び改善用歯磨き剤を製造した。
【0017】
【表1】

【実施例3】
【0018】
(歯質硬度維持用うがい剤の製造)
表2に示す配合で各成分を混合し、歯質硬度維持用うがい剤を製造した。
【0019】
【表2】

【実施例4】
【0020】
(歯質硬度維持用ガムの製造)
表3に示す配合に従い、ガムベースを溶解し、各成分を撹拌後、成形して歯質硬度改善用ガムを製造した。
【0021】
【表3】

【実施例5】
【0022】
(歯質硬度維持用飴の製造)
砂糖と水飴を表4に示す配合で混合撹拌し、150℃まで煮詰め、115℃まで冷却した後、鉄−ラクトフェリンを0.1%重量となるように添加して撹拌し、冷却盤上で冷却し、成形して歯質硬度維持用飴を製造した。
【0023】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】試験例1におけるラクトフェリン及び鉄−ラクトフェリンの歯質硬度の変化に及ぼす影響を表したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトフェリン及び/又は鉄−ラクトフェリンを有効成分とする歯質硬度維持剤。
【請求項2】
ラクトフェリン及び/又は鉄−ラクトフェリンを配合した歯質硬度維持用飲食品。




【図1】
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【公開番号】特開2007−332072(P2007−332072A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−165591(P2006−165591)
【出願日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000006699)雪印乳業株式会社 (155)
【Fターム(参考)】