説明

残留塩素濃度測定用組成物

【課題】冬季などの低温条件において、水溶液内でのベンジジン化合物の結晶化を防止することができる残留塩素濃度測定用組成物を実現する。
【解決手段】残留塩素濃度測定用組成物は、例えば、N,N’−ビス(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,3’−ジメチルベンジジン二ナトリウム塩である特定のベンジジン化合物と界面活性剤とを含む水溶液からなる、被測定水に含まれる残留塩素の濃度を測定するためのものであり、界面活性剤の含有割合が0.5重量%以上かつベンジジン化合物の0.5重量倍以上に設定されており、かつ、pHが酸性領域に調整されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定水の残留塩素濃度を測定するための組成物、特に、呈色反応を利用して被測定水の残留塩素濃度を測定するための一液型の組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水道水や井戸水などの生活用水あるいはプール水には、次亜塩素酸ナトリウムなどの塩素剤が添加されている。この塩素剤は、酸化作用による殺菌や消毒などの効果を有するが、水中に懸濁物、有機物あるいは金属イオンなどが存在すると、これらの物質との反応によってその効果が低減する場合がある。また、塩素剤は、貯水タンクやプールなどの開放系において、大気中への拡散によって、その効果が経時的に失われる場合もある。このため、塩素剤を添加した水は、残留塩素濃度を定期的に測定し、必要な濃度が維持されているか否かを確認する必要がある。
【0003】
一方、精密濾過膜、限外濾過膜、逆浸透膜あるいはナノ濾過膜などの各種濾過膜を使用する水処理システムにおいては、被処理水中に塩素剤が存在すると、濾過膜が酸化を受けて劣化しやすい。濾過膜が劣化すると、処理水の水質が悪化するため、このような水処理システムでは、通常、濾過膜の上流側に活性炭フィルタ装置や重亜硫酸ナトリウム(SBS)の添加装置を設置し、被処理水から塩素剤を除去している。この場合、活性炭フィルタ装置を通過した被処理水や重亜硫酸ナトリウムが添加された被処理水の残留塩素濃度を定期的に測定し、塩素剤が確実に除去されているか否かを確認する必要がある。
【0004】
水中の残留塩素濃度の測定には、o−トリジンやN,N−ジエチルフェニレンジアミン(DPD)などの呈色試薬を使用した測定法が広く利用されている。また、近年では、DPDよりも安全性に優れたベンジジン化合物を呈色試薬に用いる測定法も提案されており、たとえば、特許文献1および特許文献2には、ジアルキルベンジジン化合物あるいはテトラアルキルベンジジン化合物を呈色試薬として用いることが記載されている。
【0005】
ところで、残留塩素濃度の測定においては、一般に携帯型測定装置や簡易型測定キットが使用されることが多い。しかしながら、これらの携帯型測定装置や簡易型測定キットは、操作に習熟する必要があり、また測定頻度が高くなると操作そのものが煩わしくなるため、自動型測定装置の需要も増加している。この自動型測定装置は、被測定水の採取工程,呈色試薬の添加工程および残留塩素濃度の測定工程までの一連の操作を自動で処理するように構成されており、連続的な測定を可能にしている。
【0006】
【特許文献1】特開2002−350416号公報
【特許文献2】特開平9−133671号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような自動型測定装置は、通常、呈色試薬を水溶液のような薬液の状態で装置内に貯蔵しておき、呈色試薬の添加工程において、所定量の薬液を被測定水へ添加するように構成している。そして、薬液が消費されて不足すると、新たな薬液を補充する。また、自動型測定装置は、監視対象水系に応じて様々な場所に設置されるが、温度調節のなされた場所に設置されることは希であるため、たとえば5〜50℃の広範囲の温度条件で薬液が変質しないことが求められる。しかしながら、残留塩素濃度の測定に用いられる呈色試薬は、たとえば水溶液中において、温度の低下とともに溶解度が低下する特性を示す。このため、冬季など周囲の温度が5〜10℃付近まで下がると、薬液内で呈色試薬が結晶化す
ることによって、薬液の供給経路などに詰まりが生じ、呈色試薬の添加工程において、所定量の薬液を正常に被測定水へ添加できなくなると云う問題があった。また、所定量の薬液を被測定水へ添加できたとしても、薬液中の呈色試薬の濃度に変化が生じているため、測定の信頼性を欠くと云う問題があった。
【0008】
本発明の目的は、薬液内での呈色試薬の結晶化を防止することができる残留塩素濃度測定用組成物を実現すること、特に、たとえば5℃程度の低温下で長期間保存した場合でも薬液内での呈色試薬の結晶化を防止することができる残留塩素濃度測定用組成物を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の残留塩素濃度測定用組成物は、下記の一般式(I)で表わされるベンジジン化合物と界面活性剤とを含む水溶液からなる、被測定水に含まれる残留塩素の濃度を測定するためのものであり、界面活性剤の含有割合が0.5重量%以上かつベンジジン化合物の0.5重量倍以上に設定されており、かつ、pHが酸性領域に調整されている。
【化2】


(一般式(I)中、RおよびRは、炭素数1〜6のアルキル基であり、RおよびRは、炭素数1〜6のアルキル基であるか、両者共に水素原子である。RおよびRは、炭素数1〜8の炭化水素基であるか、両者共に水素原子である。RおよびRは、水素原子、1個以上の水酸基を有することもありかつアルカリ金属塩を形成していてもよい炭素数1〜8のスルホ炭化水素基若しくは1個以上の水酸基を有することもありかつアルカリ金属塩を形成していてもよい炭素数1〜8のカルボキシ炭化水素基であるが、両者共に水素原子になることはない。)
【0010】
この残留塩素濃度測定用組成物は、通常、酸の添加によりpHが酸性領域に調整されている。この場合、この組成物は、酸アルカリ金属塩の添加によりpHが酸性領域で微調整されていてもよい。これらの場合に用いられる酸および酸アルカリ金属塩は、例えば、それぞれリン酸およびリン酸ナトリウムである。
【0011】
また、この残留塩素濃度測定用組成物は、ベンジジン化合物と残留塩素との反応による発色波長領域とは異なる発色波長領域に水溶液を呈色させるための色素をさらに含んでいてもよい。
【0012】
この残留塩素濃度測定用組成物において用いられるベンジジン化合物は、例えば、N,N’−ビス(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,3’−ジメチルベンジジン二ナトリウム塩である。また、界面活性剤は、通常、非イオン性界面活性剤および陰イオン性界面活性剤からなる群から選択された少なくとも一つである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の残留塩素濃度測定用組成物は、冬季などの低温条件において、水溶液内でのベンジジン化合物の結晶化を防止することができる。例えば、この組成物は、5℃の温度条件で長期間保存した場合でも界面活性剤の作用により、呈色試薬であるベンジジン化合物
の溶解度が高められ、水溶液内でのベンジジン化合物の結晶化が防止される。このため、本発明の残留塩素濃度測定用組成物は、たとえば自動型の残留塩素濃度測定装置に用いられた場合、所定量を安定して被測定水に添加でき、また、呈色試薬の濃度を一定に保つことができるため、残留塩素濃度の測定値の信頼性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の残留塩素濃度測定用組成物(以下、単に「組成物」と云う。)は、被測定水の残留塩素濃度を光学的に測定するために用いられる一液型の薬液であり、特定のベンジジン化合物と界面活性剤とを含む水溶液からなるものである。
【0015】
ここで用いられるベンジジン化合物は、水中において酸性領域で残留塩素と反応したときに、波長360〜380nm付近、450〜470nm付近および640〜660nm付近に吸収ピークを示して、黄〜青緑色に発色する酸化発色性の呈色試薬であり、下記の一般式(I)で示されるものである。
【0016】
【化3】


(一般式(I)中、RおよびRは、炭素数1〜6のアルキル基であり、RおよびRは、炭素数1〜6のアルキル基であるか、両者共に水素原子である。したがって、一般式(I)で表わされるベンジジン化合物は、ジアルキルベンジジン化合物(より具体的には、3,3’−ジアルキルベンジジン化合物)若しくはテトラアルキルジベンジジン化合物(より具体的には、3,3’,5,5’−テトラアルキルジベンジジン化合物)である。RおよびRは、炭素数1〜8の炭化水素基であるか、両者共に水素原子である。RおよびRは、水素原子、1個以上の水酸基を有することもありかつアルカリ金属塩を形成していてもよい炭素数1〜8のスルホ炭化水素基若しくは1個以上の水酸基を有することもありかつアルカリ金属塩を形成していてもよい炭素数1〜8のカルボキシ炭化水素基であるが、両者共に水素原子になることはない。)
【0017】
およびRで表わされる炭素数1〜6のアルキル基は、たとえばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、1−エチルプロピル基、tert−ペンチル基、1,2−ジエチルプロピル基およびヘキシル基などが挙げられる。ジアルキルベンジジン化合物の場合、RおよびRのいずれかがメチル基であることが好ましく、RおよびRがともにメチル基であることがより好ましい。また、テトラアルキルベンジジン化合物の場合、RおよびRがともにメチル基またはエチル基であることが好ましい。
【0018】
また、ベンジジン化合物がテトラアルキルベンジジン化合物の場合において、RおよびRで表わされる炭素数1〜6のアルキル基としては、RおよびRと同じものが挙げられる。但し、RおよびRがともにメチル基またはエチル基であることが好ましい。
【0019】
およびRで表わされる炭素数1〜8の炭化水素基としては、RおよびRと同
じ炭素数1〜6のアルキル基、ベンジル基、フェニル基およびアルキルフェニル基などが挙げられる。一般式(I)において、RおよびRは、ともに水素原子であるか、あるいは、ともにメチル基若しくはエチル基(特に、エチル基)であることが好ましい。
【0020】
およびRで表わされる1個以上の水酸基を有することもありかつアルカリ金属塩を形成していてもよい炭素数1〜8のスルホ炭化水素基は、RおよびRと同じ炭化水素基がスルホン酸基で置換されたものを云う。スルホン酸基の置換位置は、とくに限定されないが、通常、アルキル基の末端、ベンジル基またはフェニル基に置換されていることが好ましい。また、このスルホ炭化水素基は、1個以上の水酸基を有している場合、水酸基の置換位置およびその個数は、とくに限定されない。好適なスルホ炭化水素基としては、たとえば2−スルホエチル基、3−スルホプロピル基、2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル基、2−ヒドロキシ−2−スルホエチル基、4−スルホブチル基および2,4−ジスルホベンジル基などが挙げられる。
【0021】
およびRで表わされる1個以上の水酸基を有することもありかつアルカリ金属塩を形成していてもよい炭素数1〜8のカルボキシ炭化水素基は、RおよびRと同じ炭化水素基がカルボキシル基で置換されたものを云う。カルボキシル基の置換位置は、とくに限定されないが、通常、アルキル基の末端、ベンジル基またはフェニル基に置換されていることが好ましい。また、このカルボキシ炭化水素基は、1個以上の水酸基を有していている場合、水酸基の置換位置およびその個数は、とくに限定されない。好適なカルボキシ炭化水素基としては、たとえば2−カルボキシエチル基、3−カルボキシプロピル基、2−ヒドロキシ−3−カルボキシプロピル基、2−ヒドロキシ−2−カルボキシエチル基、4−カルボキシブチル基および2,4−ジカルボキシベンジル基などが挙げられる。
【0022】
一般式(I)で表されるベンジジン化合物のうち、ジアルキルベンジジン化合物として好ましいものは、例えば、N,N’−ビス(2−スルホエチル)−3,3’−ジメチルベンジジン、N,N’−ビス(3−スルホプロピル)−3,3’−ジメチルベンジジン、N,N’−ビス(2−ヒドロキシ−2−スルホエチル)−3,3’−ジメチルベンジジン、N,N’−ビス(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,3’−ジメチルベンジジン、N,N’−ビス(4−スルホブチル)−3,3’−ジメチルベンジジン、N,N’−ビス(3−スルホプロピル)−N,N’−ジエチル−3,3’−ジメチルベンジジン、N,N’−ビス(2,4−ジスルホベンジル)−3,3’−ジメチルベンジジンおよびこれらのアルカリ金属塩などである。このうち、ナトリウム塩の形態のものは、水溶性が高く、常温で結晶化が起こりにくいため、とくに好ましい。
【0023】
また、一般式(I)で表されるベンジジン化合物のうち、テトラアルキルベンジジン化合物として好ましいものは、例えば、N−(2−スルホエチル)−3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン、N−(3−スルホプロピル)−3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン、N−(4−スルホブチル)−3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン、N−(2−ヒドロキシ−2−スルホエチル)−3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン、N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン、N−(2,4−ジスルホベンジル)−3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン、N,N’−ビス(2−スルホエチル)−3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン、N,N’−ビス(3−スルホプロピル)−3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン、N,N’−ビス(4−スルホブチル)−3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン、N,N’−ビス(2−ヒドロキシ−2−スルホエチル)−3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンおよびN,N’−ビス(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン、N,N’−ビス(2,4−ジスルホベンジル)−3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンおよびこれらのアルカリ金属塩などである。このうち、ナトリウム塩の形態のものは、水溶性が高く、常温
で結晶化が起こりにくいため、とくに好ましい。
【0024】
上述のベンジジン化合物は、通常、単独で用いられるが、二種以上を併用することもできる。二種以上のベンジジン化合物を併用する場合、ジアルキルベンジジン化合物のうちから二種類を選択してもよいし、テトラアルキルベンジジン化合物のうちから二種類を選択してもよい。また、ジアルキルベンジジン化合物とテトラアルキルベンジジン化合物とを併用することもできる。
【0025】
本発明の組成物におけるベンジジン化合物の含有量は、とくに限定されるものではないが、通常、被測定水の採水量と、測定可能とする残留塩素濃度の上限値と、被測定水への組成物の添加量とに基づいて設定される。すなわち、被測定水の採水量および測定可能とする残留塩素濃度の上限値の積から求められる残留塩素量を含む被測定水に対し、所定量の組成物を添加した場合に、ベンジジン化合物と残留塩素とが当量反応できる量が配合される。ベンジジン化合物としてN,N’−ビス(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,3’−ジメチルベンジジン二ナトリウム塩を用いた配合の一例を挙げると、被測定水の採水量4ミリリットル、測定可能とする残留塩素濃度の上限値2.5mg/リットル(Cl換算)および被測定水への組成物の添加量60マイクロリットルに設定した場合、ベンジジン化合物の含有量を0.5重量%に設定する。
【0026】
本発明の組成物において用いられる界面活性剤は、低温時におけるベンジジン化合物の溶解度を高め、組成物中での結晶化を防止するためのものである。界面活性剤としては、臨界ミセル濃度(CMC)が相対的に低く、また被測定水中の有機物と結合して不溶性の懸濁物を生じさせない観点から、非イオン性界面活性剤または陰イオン性界面活性剤が好ましく用いられる。利用可能な非イオン性界面活性剤としては、たとえばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルおよびポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルなどのほか、高級アルコール系非イオン性界面活性剤が挙げられる。また、利用可能な陰イオン性界面活性剤としては、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩などが挙げられる。
【0027】
本発明の組成物において、界面活性剤の含有割合は、0.5重量%以上、好ましくは0.5〜5.0重量%であり、かつ、ベンジジン化合物の0.5重量倍以上である。界面活性剤の含有割合が0.5重量%未満である場合は、結晶化物の生成防止に寄与しなくなる可能性が高く、また界面活性剤の含有割合がベンジジン化合物の0.5重量倍未満の場合は、組成物の温度が低下した際、特に、5℃程度まで低下した際に短期間で結晶化物が生成しやすくなるため、残留塩素の自動型測定装置において薬液の供給経路などに詰まりが生じたり、被測定水へ添加する組成物中のベンジジン化合物の濃度が不安定になったりする可能性がある。
【0028】
本発明の組成物は、pHが酸性領域、好ましくは3.5以下、より好ましくは3.0以下、特に好ましくは1.9以下に調整されている。このため、本発明の組成物は、5〜50℃の温度条件で長期間保存した場合でも、ベンジジン化合物と残留塩素との反応により発色したときの極大吸収波長付近における吸光度の経時的な上昇を抑制し、安定した残留塩素濃度の測定を行うことができる。
【0029】
本発明の組成物は、被測定水へ正常に添加されたか否かを光学的に判定するために、必要に応じて、所定の色相の色素を含有させることができる。ベンジジン化合物は、残留塩素濃度がゼロの場合に吸収を示さない(発色しない)化合物であるため、色素を組成物に含有させることにより、残留塩素濃度がゼロであっても、被測定水の着色度合に基づいて、被測定水への組成物の添加状態を確認できる。ここで用いられる色素は、ベンジジン化合物と残留塩素との反応による発色波長領域とは異なる発色波長領域に組成物、すなわち
水溶液を呈色させるものであればとくに限定されず、たとえばベンジジン化合物と残留塩素との反応による発色波長領域が640〜660nm付近の場合、ニューコクシン(CI
Acid Red 18)およびアシッドレッド(CI Acid Red 52)などの合成色素を用いることができる。
【0030】
組成物における色素の含有量は、とくに限定されないが、通常、着色性、溶解性および経済性の観点から、0.01〜0.50重量%の範囲で適宜設定することができる。
【0031】
本発明の組成物は、ベンジジン化合物、界面活性剤および必要に応じて色素を水に添加して均一に溶解し、pHを調整することで製造することができる。たとえば、本発明の組成物は、予め酸を加えてpHを調整した水にベンジジン化合物および界面活性剤を添加して溶解し、必要に応じて色素をさらに添加して溶解することで製造することができる。
【0032】
ここで用いられる水は、通常、蒸留水である。また、pH調整用に用いることができる酸は、無機酸または有機酸である。これらの酸は、単独で、あるいは適宜組み合わせて用いることができる。利用可能な無機酸としては、たとえば硫酸、塩酸およびリン酸などの酸化性や還元性を示さない酸が挙げられる。また、利用可能な有機酸としては、たとえばクエン酸、酢酸、コハク酸およびシュウ酸などが挙げられる。
【0033】
組成物のpHは、必要に応じ、酸のアルカリ金属塩を添加して微調整することができる。ここで利用可能な酸のアルカリ金属塩としては、リン酸三ナトリウムやリン酸ナトリウムなどのリン酸アルカリ金属塩およびクエン酸ナトリウムなどのクエン酸アルカリ金属塩が挙げられる。例えば、組成物のpHを1.0以下、たとえば0.6に設定する場合、まず硫酸とリン酸とを用いてpH0.6未満の組成物を調製し、ついでこの組成物へリン酸三ナトリウムを加えると、簡単に所望のpHの組成物を調製することができる。
【0034】
組成物のpHを酸性領域に調整するためにリン酸やリン酸アルカリ金属塩を用いた場合、被測定水に含まれるFe2+等の還元性金属イオンまたはCr6+,Fe3+等の酸化性金属イオンなどの、残留塩素の測定において妨害となる金属イオンと錯体を形成させ、これらの金属イオンをマスキングすることができる。
【0035】
本発明の組成物は、一液型の薬液として、水中の残留塩素濃度の測定に用いることができる。残留塩素濃度の測定対象となる水の種類は、とくに限定されず、たとえば生活用水、プール水、工業用水あるいは産業用プロセス水などに広く適用することができる。
【0036】
また、残留塩素濃度の測定にあたっては、通常、事前に組成物に含まれるベンジジン化合物の濃度、被測定水の採水量、測定可能とする残留塩素濃度の上限値および被測定水への組成物の添加量などの測定条件をあらかじめ設定した上で測定する。まず、測定プロセスでは、監視対象水系から採取した被測定水に対して、ベンジジン化合物が被測定水の採水量および残留塩素濃度の上限値の積から求められる残留塩素量の当量以上含まれるように組成物を添加する。すなわち、被測定水へ組成物を添加する際には、あらかじめ設定した測定可能範囲を充分カバーするに足りる量のベンジジン化合物が被測定水に含まれるように操作する。つぎに、組成物が添加された被測定水に対して、ベンジジン化合物と残留塩素との反応により発色したときの極大吸収波長付近(たとえば、市販の赤色LEDが利用可能な655nmや市販の青色LEDが利用可能な470nm)の透過率(または吸光度)を検出する。そして、あらかじめ求めておいた残留塩素濃度と透過率(または吸光度)との関係を示す検量線に基づいて、被測定水の残留塩素濃度を求める。
【0037】
以上説明したように、本発明によれば、低温下、特に、5〜10℃の温度条件で、ベンジジン化合物の結晶化を防止することができる残留塩素濃度測定用組成物を実現すること
ができる。すなわち、本発明の組成物は、冬季などの低温条件においても、界面活性剤の作用により、呈色試薬であるベンジジン化合物の溶解度が高められ、結晶化が防止される。この結果、たとえば自動型の残留塩素濃度測定装置において、薬液の所定量を安定して被測定水に添加でき、また薬液中の呈色試薬の濃度を一定に保つことができ、測定値の信頼性が確保される。
【実施例】
【0038】
比較例1〜7
呈色試薬であるベンジジン化合物としてN,N’−ビス(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,3’−ジメチルベンジジン二ナトリウム塩(株式会社同仁化学研究所製:商品名「SAT−3」)を用い、表1に示す配合割合で各種の成分を混合して一液型の水溶液を調製した。表1において、非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(和光純薬工業株式会社製:商品名「ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル」)(以下、「POE」と云う)および高級アルコール系非イオン性界面活性剤(三洋化成工業株式会社製:商品名「ナロアクティーHN−100」)を使用し、また陰イオン性界面活性剤としては、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム(三洋化成工業株式会社製:商品名「サンデッドALH」)を使用した。また、表1において、「ニューコクシン」は、食品用色素(CI Acid Red 18)である。
【0039】
【表1】

【0040】
つぎに、各比較例の水溶液100ミリリットルを温度5℃に設定した冷蔵庫内で保存し、2日、7日、14日、30日、60日および120日経過後における結晶化物の有無を調べた。結果を表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
実施例1〜7
呈色試薬であるベンジジン化合物としてN,N’−ビス(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,3’−ジメチルベンジジン二ナトリウム塩(株式会社同仁化学研究所製:商品名「SAT−3」)を用い、表3に示す配合割合で各種の成分を混合して一液型の水溶液を調製した。表3において、非イオン界面活性剤として、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(和光純薬工業株式会社製:商品名「ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル」)および高級アルコール系非イオン性界面活性剤(三洋化成工業株式会社製:商品名「ナロアクティーHN−100」)を使用し、また陰イオン性界面活性剤として、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム(三洋化成工業株式会社製:商品名「サンデッドALH」)を使用した。また、表3において、「ニューコクシン」は、食品用色素(CI Acid Red 18)である。
【0043】
【表3】

【0044】
つぎに、各実施例の水溶液100ミリリットルを温度5℃に設定した冷蔵庫内で保存し、2日、7日、14日、30日、60日および120日経過後における結晶化物の有無を
調べた。結果を表4に示す。
【0045】
【表4】

【0046】
評価
表2によれば、界面活性剤の含有割合が0.5重量%未満、または界面活性剤がベンジジン化合物の0.5重量倍未満であるように調製された各水溶液は、5℃の温度条件において、7〜14日の短期間でベンジジン化合物の結晶化物が生成した。一方、表4によれば、界面活性剤の含有割合が0.5重量%以上、かつ界面活性剤がベンジジン化合物の0.5重量倍以上含むように調製された各水溶液は、5℃の温度条件において、120日経過時点でいずれも結晶化物の生成が見られなかった。したがって、水溶液における界面活性剤の含有割合が0.5重量%以上でありかつベンジジン化合物の0.5重量倍以上の場合、低温下でもベンジジン化合物の結晶化を長期的に亘って防止できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I)で表わされるベンジジン化合物と界面活性剤とを含む水溶液からなる、被測定水に含まれる残留塩素の濃度を測定するための組成物において、
前記界面活性剤の含有割合が0.5重量%以上かつ前記ベンジジン化合物の0.5重量倍以上に設定されており、かつ、pHが酸性領域に調整されていることを特徴とする、
残留塩素濃度測定用組成物。
【化1】


(一般式(I)中、RおよびRは、炭素数1〜6のアルキル基であり、RおよびRは、炭素数1〜6のアルキル基であるか、両者共に水素原子である。RおよびRは、炭素数1〜8の炭化水素基であるか、両者共に水素原子である。RおよびRは、水素原子、1個以上の水酸基を有することもありかつアルカリ金属塩を形成していてもよい炭素数1〜8のスルホ炭化水素基若しくは1個以上の水酸基を有することもありかつアルカリ金属塩を形成していてもよい炭素数1〜8のカルボキシ炭化水素基であるが、両者共に水素原子になることはない。)
【請求項2】
酸の添加によりpHが酸性領域に調整されている、請求項1に記載の残留塩素濃度測定用組成物。
【請求項3】
酸アルカリ金属塩の添加によりpHが酸性領域で微調整されている、請求項2に記載の残留塩素濃度測定用組成物。
【請求項4】
前記酸がリン酸であり、前記酸アルカリ金属塩がリン酸ナトリウムである、請求項3に記載の残留塩素濃度測定用組成物。
【請求項5】
前記ベンジジン化合物と前記残留塩素との反応による発色波長領域とは異なる発色波長領域に前記水溶液を呈色させるための色素をさらに含む、請求項1から4のいずれかに記載の残留塩素濃度測定用組成物。
【請求項6】
前記ベンジジン化合物がN,N’−ビス(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,3’−ジメチルベンジジン二ナトリウム塩である、請求項1から5のいずれかに記載の残留塩素濃度測定用組成物。
【請求項7】
前記界面活性剤が非イオン性界面活性剤および陰イオン性界面活性剤からなる群から選択された少なくとも一つである、請求項1から6のいずれかに記載の残留塩素濃度測定用組成物。

【公開番号】特開2007−286044(P2007−286044A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58152(P2007−58152)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【出願人】(504143522)株式会社三浦プロテック (488)
【Fターム(参考)】