説明

段差パイル布帛およびその製造方法

特定の低温領域で染色が可能となったアクリル系収縮性繊維を含むパイル生地に対し、乾熱処理を行なうことで従来よりも容易に段差パイル布帛におけるダウンヘアー部の色揃えを増やすことができる。 スルホン酸基含有モノマーを0.5〜10重量%含有するアクリル系共重合体からなり、55〜85℃で染色を行なったアクリル系収縮性繊維を含むパイル生地を110〜150℃にて20分以内で乾熱処理することにより得られる段差パイル布帛であって、下式(1)で算出される前記アクリル系収縮性繊維の収縮率が18%以上である段差パイル布帛およびその製造方法を提供する。 収縮率(%)=100×(1−Sa/Sb) (1)[式中、Sbは乾熱処理前のダウンヘアー成分のパイル長、Saは乾熱処理後のダウンヘアー部分(成分)のパイル長を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、スルホン酸基含有モノマーを0.5〜10重量%含有するアクリル系共重合体からなり、55〜85℃で染色を行なったアクリル系収縮性繊維を用いて作製される段差パイル布帛およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
アクリル系繊維は、獣毛調の風合い、高い柔軟性および鮮明な発色性などの理由により従来からニット分野をはじめボア、ハイパイルに広く使用されている。元来、天然毛皮は立毛部分がガードヘアーとダウンヘアーから構成される二層構造を有しており、合成繊維を用いこれらをそのまま真似たものがパイル商品である。パイル商品において、このような構造を実現させる手段としては、収縮率の異なる非収縮性繊維と収縮性繊維とをパイル部に存在させ、パイル予備仕上げの段階で該収縮性繊維に収縮を発現させ、この時の収縮率の差から段差を発現させる方法が一般的に用いられている。この時用いられる収縮性繊維は、通常、ピンテンターによる乾熱処理などにより20〜40%の収縮率を発現させることで段差を実現する。
特開昭61−12910号公報、特開平4−119114号公報、および特開2003−268623号公報には、上記のようなパイル商品に用いられる高収縮性のアクリル系繊維が開示されている。しかし、これらの文献に示されるような製法で得られた繊維に対して、80℃以下の低温で染色を行なった場合は染着が不十分で発色が悪く、一方、98〜100℃の沸水で染色を行ない、それをパイル生地に用いた場合は、その後のテンターによる乾熱処理によって有意な収縮率を発現させることが不可能であった。
また、特開平6−158422号公報には、アクリル系共重合ポリマーに他のアクリル系共重合ポリマーをブレンドした重合組成物を原料にしたアクリル系収縮性繊維の製法に関する技術が記載されている。しかし、これもアクリル系繊維の収縮率と難燃性を改良したものであって、低温領域で染色されたアクリル系収縮性繊維を用いて段差パイル布帛を得るという本願発明との直接の関係をみない。
このように、アクリル系繊維に通常の染着および発色を得ようとした場合は温度90℃以上での染色が必要であることが一般に知られている。低温領域でのアクリル系繊維を染色する方法としては、特公昭49−38945号公報にハロゲン化脂肪族炭化水素化合物を溶解したものにカチオン染料を溶解して80℃以下の温度で染色する方法が提案されている。しかし、カチオン染料の染色ムラおよびハロゲン化脂肪族炭化水素化合物の排水への悪影響、さらに、紡績工程での静電気発生など通常の加工性を得ることが困難であった。
また、特開2002−266230号公報には、95℃以下の温度でカチオン染料を用いて染色して得られたアクリル系短繊維からなる紡績糸を用いて得られた立毛製品は乾熱ポリッシング性に優れ、クリンプは良く伸び、商品風合いもソフトでしっとりとした嵩高で腰感にも優れた立毛布帛を提供することが記載されている。しかしながら、低温領域で染色されたアクリル系収縮性繊維を用いた段差パイル布帛に関する記載はない。
さらに、特開平8−325833号公報には、p−スチレンスルホン酸および/またはその塩をアクリル重合体に共重合させることにより、得られる繊維の低温における染色性を向上させ、染色濃度を高めることが記載されている。しかし、低温での染色時に残存収縮率を持たせる収縮性繊維や、乾熱処理などによって一定の収縮を発現するアクリル系収縮繊維を用いたパイル布帛に関する記載はない。また、得られる繊維の繊度も0.01〜0.5デニールと極細であってセーターなどの衣料用途に利用されるものであり、本発明における繊維とは繊度範囲および利用分野が異なる。
したがって、これまで低温領域での染色が可能であって、さらに、ピンテンターによる乾熱処理などによって一定の収縮を発現することのできるアクリル系収縮性繊維を用いたパイル布帛に関する報告は行なわれておらず、その結果、これまでパイル布帛におけるダウンヘアー部の色揃えとしては原着収縮性繊維に頼らざるをえないのが現状であった。
【発明の開示】
本発明は、ある特定の低温領域で染色が可能となったアクリル系収縮性繊維を含んだパイル生地に対し、乾熱処理を行なうことで従来よりも容易に段差パイル布帛におけるダウンヘアー部の色揃えを増やすことを可能にするものである。
本発明は、スルホン酸基含有モノマーを0.5〜10重量%含有するアクリル系共重合体からなり、55〜85℃で染色を行なったアクリル系収縮性繊維を含むパイル生地を110〜150℃にて20分以内で乾熱処理することにより得られる段差パイル布帛であって、下記式(1)から算出される該アクリル系収縮性繊維の収縮率が18%以上である段差パイル布帛に関する。
収縮率(%)=100×(1−Sa/Sb) (1)
[式中、Sbは乾熱処理前のダウンヘアー成分のパイル長、Saは乾熱処理後のダウンヘアー部分(成分)のパイル長を示す。]
アクリル系収縮性繊維がアクリル系共重合体からなりカチオン性染料を用いて染色したものであることが好ましい。
アクリル系共重合体が、アクリロニトリル35〜98重量%、スルホン酸基含有モノマー0〜5.0重量%および他のビニルモノマー2〜65重量%からなる共重合体(I)60〜99重量部、ならびに、アクリロニトリル0〜90重量%、スルホン酸基含有モノマー2〜40重量%およびハロゲンを含有しない他のビニルモノマー0〜80重量%からなる共重合体(II)1〜40重量部からなり、該共重合体(I)と該共重合体(II)の合計量が100重量部であることが好ましい。
また、本発明は、スルホン酸基含有モノマーを0.5〜10重量%含有するアクリル系共重合体からなるアクリル系収縮性繊維を55〜85℃で染色する工程、該アクリル系収縮性繊維と非収縮性繊維を混綿してパイル生地を製造する工程、および得られたパイル生地に対して110〜150℃にて20分以内で乾熱処理を行ない、該アクリル系収縮性繊維の収縮率を18%以上とする工程からなる請求項1、2または3記載の段差パイル布帛の製造方法に関する。
本発明は、本発明は、スルホン酸基含有モノマーを0.5〜10重量%含有するアクリル系共重合体からなり、55〜85℃で染色を行なったアクリル系収縮性繊維を含むパイル生地を110〜150℃にて20分以内で乾熱処理することにより得られる段差パイル布帛であって、前記式(1)から算出される該アクリル系収縮性繊維の収縮率が18%以上である段差パイル布帛である。
本発明におけるアクリル系共重合体には、スルホン酸基含有モノマーが0.5〜10重量%、好ましくは1.0〜5.0重量%含まれる。スルホン酸基含有モノマーが0.5重量%未満であると、カチオン染料を用いた場合、中色から濃色にかけての染着が十分でないため満足な発色が得られず、10重量%を越えると、紡糸工程において繊維の膠着、さらには、凝固浴中での凝固性の低下などが発生する傾向にある。
本発明に使用するスルホン酸基含有モノマーとしては、アリルスルホン酸ソーダ、メタリルスルホン酸ソーダ、ビニルスルホン酸ソーダ、スチレンスルホン酸ソーダ、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ソーダなどがあげられる。
本発明におけるアクリル系共重合体は、アクリロニトリル35〜98重量%、スルホン酸基含有モノマー0〜5.0重量%および他のビニルモノマー2〜65重量%からなる共重合体(I)60〜99重量部、ならびに、アクリロニトリル0〜90重量%、スルホン酸基含有モノマー2〜40重量%および他のハロゲンを含有しないビニルモノマー0〜80重量%からなる共重合体(II)1〜40重量部からなり、該共重合体(I)と該共重合体(II)の合計量が100重量部であることが好ましく、共重合体(I)70〜97重量部および共重合体(II)3〜30重量部からなることがより好ましい。共重合体(II)が1重量部未満では、得られるアクリル系収縮性繊維の低温領域での染色性が不十分となり、40重量部をこえると繊維にボイドが形成されたり、また、膠着が生じるなどの問題が発生する傾向がある。
共重合体(I)におけるアクリロニトリルの含有量は35〜98重量%が好ましく、40〜90重量%がより好ましい。35重量%未満であると、風合いがベタつきボリューム感に欠けることとなり、98重量%をこえると、風合いにガサツキ感が発生し、さらに、染料の染着座席が少なくなるため染色性が悪くなる傾向がある。ここで、染着座席とは染料分子が吸着することのできる吸着サイトのことをいう。なお、アクリロニトリルの含有量が低減するにしたがい、形成されるアクリル系収縮性繊維の耐熱性が低下する傾向にある。したがって、パイル部を形成するアクリル系収縮性繊維への熱による影響を考慮すると乾熱処理温度を高温にしにくく、乾熱処理によっており大きな収縮率を発現させることが難しくなる。その結果、最終的に有意な段差を有する段差パイル布帛を得られにくくなる。
共重合体(I)におけるスルホン酸基含有モノマーの含有量は0〜5.0重量%が好ましく、0.5〜3重量%がより好ましい。5.0重量%をこえる場合は、紡糸工程において繊維の膠着が起こる傾向があり、好ましくない。
共重合体(I)における他のビニルモノマーとしては、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデンなどに代表されるハロゲン化ビニルおよびハロゲン化ビニリデン類やアクリル酸、メタクリル酸、あるいはこれらのアルキルエステル、酢酸ビニル、アクリルアミド、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレートなどがあげられる。共重合体(I)における他のビニルモノマーの含有量は2〜65重量%が好ましく、5〜55重量%がより好ましい。2重量%未満では、風合いがガサつき、さらに染色性が悪くなり、65重量%をこえると、風合いがベタつくことでボリューム感に欠ける傾向にあり、さらにポリッシャー工程などの仕上げ加工において特別な条件で行なう必要があるため好ましくない。
共重合体(II)におけるアクリロニトリルの含有量は0〜90重量%が好ましく、10〜70重量%がより好ましい。90重量%をこえると55〜85℃での中色から濃色の染色が困難となる傾向にある。
共重合体(II)におけるスルホン酸基含有モノマーの含有量は2〜40重量%が好ましく、5〜30重量%がより好ましい。が2重量%未満であれば55〜85℃での中色から濃色の染色が困難であり、40重量%をこえると紡糸工程において繊維の膠着や浴溶出が起こる傾向にあり好ましくない。
共重合体(II)におけるハロゲンを含有しない他のビニルモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、あるいはこれらのアルキルエステル、酢酸ビニル、アクリルアミド、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレートなどがあげられ、とくに酢酸ビニル、アクリル酸メチルが品質およびコストの面で好ましい。共重合体(II)におけるハロゲンを含有しない他のビニルモノマーの含有量は0〜80重量%が好ましく、10〜60重量%がより好ましい。80重量%をこえると、繊維の耐熱性の低下や紡糸工程における繊維の膠着が発生する傾向がある。
本発明では、このようなアクリル系共重合体を湿式紡糸して得られたアクリル系繊維に対して染色を行なう。染色温度は55〜85℃であり、63〜80℃であることがより好ましい。一般のアクリル系繊維の染着は、染色温度70〜80℃で急激に開始・増大する。85℃をこえる温度で染色するとアクリル系収縮性繊維に染浴中で熱水による収縮が発生してしまい、乾熱処理時の収縮が発現せず、有意な段差パイル布帛を得ることが困難となる。染色の時間はとくに制限されないが、2時間未満であることが好ましく、通常、30〜90分程度で行なうことがより好ましい。
なお、アクリル系収縮性繊維の染色性および染色後の発色、ならびに堅牢性の点からカチオン染料を用いて染色を行なうことが好ましい。カチオン染料としては従来公知のものが使用でき、とくに限定されるものではない。たとえば、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製のMaxilonシリーズや保土ヶ谷(株)製のCathilonシリーズなどがあげられる。また、カチオン染料の使用量はとくに限定されるものではないが、前記染色温度範囲においては、アクリル系収縮性繊維100重量部に対して0.1〜3.0重量部が現実性も含め好ましい。染色促染剤はとくに必要ないが、従来公知の染色促染剤を公知技術例に沿って使用しても良い。染色機についても、従来のものを使用することができる。
染色により得られた前記アクリル系収縮性繊維と非収縮性繊維を混合し、カードを行なったのち、続いてスライバー編機にてパイル生地を作製する。非収縮性繊維として用いられる繊維の素材はとくに限定されないが、ハイパイル仕上げ加工工程におけるクリンプ除去性や最終パイル商品での風合いの点からアクリル繊維またはアクリル系繊維を用いることが好ましい。なお、これらは2種以上混合して用いることができる。アクリル系収縮性繊維は、パイル生地において20〜80重量%配合することが好ましく、30〜70重量%配合することがより好ましい。配合量が20重量%未満であると、段差パイル布帛においてダウンヘアー部の色が比較的薄い場合に視覚的に明瞭な段差が得られず、80重量%をこえると、ガードヘアー部が著しく少なくなるためガードヘアー部とダウンヘアー部とのバランスがくずれ、へたりなどの問題により商品価値が低下する傾向がある。
次いで120℃でプレポリッシング処理とプレシャーリング処理を行ないパイル長を揃えたのち、ピンテンター乾熱機を通過させ乾熱処理を行ない、アクリル系収縮性繊維の収縮を発現させ、本発明の段差パイル布帛を得る。乾熱処理は、110〜150℃で行なうことが好ましく、130〜145℃で行なうことがより好ましい。110℃未満で乾熱処理を行なった場合はアクリル系収縮性繊維の収縮が不十分であって有意な段差パイル布帛を得ることができず、150℃をこえる温度で乾熱処理を行なった場合はパイル生地のパイル部を構成する繊維に残っている捲縮が熱セットされてしまい、その後のポリッシャー工程において捲縮の除去が困難となり最終製品の品質が悪くなったり、生産性が低下するなどの問題が発生する傾向にある。また、処理時間は20分以内で行なうことが好ましく、温度にもよるが3〜10分間行なうことがより好ましい。処理時間が短い場合には、収縮性繊維の十分な収縮が発現せず明確な段差が観測されにくく、長い場合には、パイル部の繊維の黄変および硬化が起こり好ましくない。
乾熱処理による前記式(1)から算出されるアクリル系収縮性繊維の収縮率は18%以上であり、25〜35%であることが好ましい。収縮率が18%未満では段差パイル布帛として有意な段差が得られない。また、上限についてはとくに限定されないが、50%をこえると、収縮時、パイル部の繊維同士がお互いを巻き込む形で収縮するため最終製品において根元部ががさついた毛さばき性の悪い品質となる傾向がある。
また、パイル裏面にはアクリル酸エステル系接着剤でバックコーティングを行なうことが好ましい。その後、155℃のポリッシング、続いてブラッシングを行ない、さらに135℃、120℃、90℃でポリッシングとシャーリングを組み合わせ(各工程2回ずつ)、立毛表層部のクリンプを除去することで一定のパイル長を持つ段差立毛布帛を作製することができる。
本発明の段差パイル布帛は、容易にダウンヘアー部の色揃えを増やすことが可能であり、たとえば、フェイクファーなどの衣料用途、ぬいぐるみをはじめとする玩具用途、あるいはインテリア用途などに利用が可能である。
【実施例】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は何等これらに限定されるものではない。
(分析測定条件および評価法)
(A)染色によるアクリル系収縮性繊維の収縮率測定
染色前後のアクリル系収縮性繊維20本について繊維長を測定し、その平均値を求め、次式により算出した。
アクリル系収縮性繊維の染色による収縮率(%)=[(Db−Da)/Db]×100
[式中、Dbは染色前の収縮性繊維の長さ(mm)、Daは染色後の収縮性繊維の長さ(mm)を示す。]
なお、カット長の短いカット綿の測定では、複写機などによりアクリル系収縮性繊維を拡大し測定を行なった。
(B)染色達成度官能評価
それぞれの濃度における染着・発色性評価を視覚的および感覚的観点から行ない、以下の基準で評価した。
◎:染色濃度に相当する発色のものが得られている。
○:染色濃度に近い発色のものが得られている。
△:染色濃度に相当する発色のものが得られていない。
×:染色濃度と発色の間には大きな隔たりがある。
(C)ピンテンターによる乾熱処理前後のダウンヘアー部分(成分)の収縮率の測定
段差パイル布帛においてダウンヘアー部を構成するアクリル系収縮性繊維の収縮率は、ピンテンターによる乾熱処理前後のパイル布帛中のパイル部を構成している繊維を毛並みが揃うように垂直に立たせ、ノギスを用いることで測定した。つまり、パイル部のダウンヘアー部分(成分)を構成している繊維の根元からダウンヘアーの先端までの長さ(パイル布帛裏面からの長さではない)の測定を10ヶ所について行ない、その平均値を求め、次式より算出した。
収縮率(%)=100×(1−Sa/Sb)
[式中、Sbはピンテンターによる乾熱処理前のダウンヘアー部分のパイル長(mm)、Saはピンテンターによる乾熱処理後のダウンヘアー部分のパイル長(mm)]
なお、本発明でいうパイル部とは、パイル布帛(立毛布帛)の基布(地糸の部分)の部分を除く立毛部分を指す。
(D)色相達成度評価
前記のようにして作製されたパイル布帛におけるダウンヘアー部の色相を、視覚的および感覚的観点から官能評価を実施し、以下の基準で評価した。
○:収縮性繊維の染色による染着性が充分であり、目標のダウンヘアーとしての色相が表現できている。
△:収縮性繊維が染色により染着されているものの、目標のダウンヘアーとしての色相が充分には表現できていない。
×:収縮性繊維の染色による染着性が不充分であり、目標のダウンヘアーとしての色相が表現できていない。
(E)段差外観官能評価
前記のようにして作製されたパイル布帛に対し、段差パイル布帛としての段差の程度を視覚的および感覚的観点から官能評価を実施し、以下の基準で評価した。
○:段差パイルとして極めて明確な段差が確認できる。
△:段差パイルではあるものの二層の境界が確認しにくい。
×:明確な段差が確認できずミックス調の外観である。
製造例1〜5
アクリロニトリル(AN)、酢酸ビニル(VAc)およびスチレンスルホン酸ナトリウム(3S)をそれぞれ表1に記載の組成で配合してなるアクリル系共重合体をジメチルホルムアミド(DMF)に溶解した紡糸原液を、0.08mm、孔数15000の紡糸口金を通し、DMF/水=40/60(重量%)、30℃の凝固浴中に紡出し、溶剤濃度の順次低下する5つの洗浄延伸浴を通して2.1倍の紡糸延伸を行なった。その後、得られた繊維に油剤を付与した後120℃の雰囲気下で乾燥させ、熱ローラーを用いて120℃の乾熱雰囲気下で1.7倍の延伸処理を行なった。さらに、機械クリンプを付与することで最終繊度4.4Dtexの繊維を得た。
このようにして得られた繊維を32mmにカット処理し、繊維詰め密度0.30g/cmでオーバーマイヤー染色機に詰め、室温から3℃/分の速度で昇温した。50℃に到達した時点で、以下の染色処方にしたがって染料を加えた。
0.9%omf染色処方
Maxilon Golden Yellow 2RL 200%:0.60%omf
Maxilon Red GRL 200% :0.15%omf
Maxilon Blue GRL 300% :0.15%omf
1.8%omf染色処方
Maxilon Golden Yellow 2RL 200%:1.20%omf
Maxilon Red GRL 200% :0.30%omf
Maxilon Blue GRL 300% :0.30%omf
(いずれもチバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)
引続き昇温したのち、それぞれ表1に記載の染色温度に達したところで60分間保温を行なった。染色完了後、染色液を冷却して染色綿を取出し遠心脱水を行なった後乾燥機中60℃の温度で乾燥させた。各繊維について、染色による収縮率の測定および染色達成度の評価を行なった。結果を表1に示す。
製造例6〜7
アクリロニトリル(AN)/塩化ビニル(VCL)/スチレンスルホン酸ナトリウム(3S)=49.5/50/0.5(重量%)からなる共重合体(I)とアクリロニトリル(AN)/アクリル酸メチル(MA)/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウム(SAM)=30/55/15(重量%)からなる共重合体(II)を製造した。共重合体(I)92重量部に対し共重合体(II)8重量部の割合で混合しアセトン(Ac)に溶解した紡糸原液を、製造例1〜5と同様の紡糸口金を用い、Ac/水=30/70(重量%)、30℃の凝固浴中に紡出し、溶剤濃度の順次低下する5つの洗浄延伸浴を通して2.1倍の紡糸延伸を行なった。得られた繊維に油剤を付与したのち115℃の雰囲気下で乾燥させ、熱ローラーを用いて115℃の乾熱雰囲気下で1.8倍の延伸処理を行なった。さらに、機械クリンプを付与することで最終繊度4.4Dtexの繊維を得た。
このようにして得られた繊維に対して、表1に記載の染色温度とした以外は製造例1〜5と同様の方法により染色を行ない、得られた各繊維について、染色による収縮率の測定および染色達成度の評価を行なった。結果を表1に示す。
製造例8
アクリロニトリル(AN)/酢酸ビニル(VAc)/メタリルスルホン酸ナトリウム(MS)=85/14.7/0.3(重量%)からなる共重合体(I)とアクリロニトリル(AN)/アクリル酸メチル(MA)/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウム(SAM)=40/45/15(重量%)からなる共重合体(II)を製造した。共重合体(I)92重量部に対し共重合体(II)を8重量部の割合で混合し、ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解した紡糸原液に対し、製造例1〜5と同様の紡糸口金を用い、同様の紡糸条件にて最終繊度4.4Dtexの繊維を得た。
このようにして得られた繊維を32mmにカット処理し、繊維詰め密度0.30g/cmでオーバーマイヤー染色機に詰め、室温から3℃/分で昇温し、50℃に到達した時点で製造例1〜5と同じ染色処方にしたがって染料を加えた。引続き昇温した後70℃に達したところで60分間保温を行なった。さらに、染色完了後、染色液を冷却して染色綿を取出し遠心脱水を行なった後乾燥機中60℃の温度で乾燥させた。得られた繊維について、染色による収縮率の測定および染色達成度の評価を行なった。結果を表1に示す。
製造例9〜10
アクリロニトリル(AN)/酢酸ビニル(VAc)/メタリルスルホン酸ナトリウム(MS)=85/14.7/0.3(重量%)からなるアクリル系共重合体をジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解した紡糸原液を、0.08mm,孔数15000の紡糸口金を通し、DMAc/水=40/60(重量%)、30℃の凝固浴中に紡出し、溶剤濃度の順次低下する5つの洗浄延伸浴を通して3.0倍の紡糸延伸を行なった。その後、得られた繊維に油剤を付与した後125℃の雰囲気下で乾燥させた。その後、135℃の加圧熱水蒸気中での緩和処理を行ない、続いて熱ローラーを用いて120℃の乾熱雰囲気下で1.8倍の延伸処理を行なった。さらに、機械クリンプを付与することで最終繊度4.4Dtexの繊維を得た。
このようにして得られた繊維に対して、表1に記載の染色温度とした以外は製造例1〜5と同様の方法により染色を行ない、得られた各繊維について、染色による収縮率の測定および染色達成度の評価を行なった。結果を表1に示す。
【表1】


AN:アクリルニトリル DMF:ジメチルホルムアミド
VAc:酢酸ビニル Ac:アセトン
VCL:塩化ビニル DMAc:ジメチルアセトアミド
MA:アクリル酸メチル
3S:スチレンスルホン酸ナトリウム
SAM:2−アクリルアミド−2−メチルプロパンス
ルホン酸ナトリウム
MS:メタリルスルホン酸ナトリウム
[実施例1〜8および比較例1〜5]
次に、製造例1〜10で得られた繊維を用いて段差パイル布帛の作製を行なった。なお、いずれも0.9%omfの染色処方で染色処理したものを用いた。
製造例1〜10で得られたアクリル系収縮性繊維70重量部と市販のアクリル系繊維「カネカロン(登録商標)」RLM(BR807)12Dtex、44mm(鐘淵化学工業(株)製)30重量部を混綿し、パイル生地を作製した。ピンテンター乾燥機を用いて、それぞれ表2に記載の温度により5分間予備仕上げを行なった。得られた段差パイル布帛に対して、ダウンヘアー部の収縮率の測定、ダウンヘアー部の色相達成度評価および段差外観評価を行なった。結果を表2に示す。また、このようにして作製された段差パイル布帛の最終目付けはすべて680g/mであり、平均パイル長もすべて18mmとした。
【表2】


実施例1〜8で得られた段差パイル布帛は、表2に示したように明確な段差を有する段差パイル布帛であった。一方、比較例1〜3で得られた段差パイル布帛は、段差パイル布帛としての段差を確認することはできなかった。比較例4および5で得られた段差パイル布帛は、段差パイル布帛としての段差を有していたが、収縮性繊維の染色による染着性が十分ではなく目標のダウンヘアーとしての色相を表現することはできなかった。
【産業上の利用可能性】
従来よりも低温領域での染色が可能となったアクリル系収縮性繊維を含んだパイル生地に対し乾熱処理を行なうことで、容易に段差パイル布帛のダウンヘアー部の色揃えを増やすことが可能になる。同様に、段差パイル布帛におけるダウンヘアー部に用いるアクリル系収縮性繊維の染色が可能となることで、客先での原着収縮性繊維の在庫量を減らすことができ、在庫管理が経済的になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン酸基含有モノマーを0.5〜10重量%含有するアクリル系共重合体からなり、55〜85℃で染色を行なったアクリル系収縮性繊維を含むパイル生地を110〜150℃にて20分以内で乾熱処理することにより得られる段差パイル布帛であって、下記式(1)から算出される該アクリル系収縮性繊維の収縮率が18%以上である段差パイル布帛。
収縮率(%)=100×(1−Sa/Sb) (1)
[式中、Sbは乾熱処理前のダウンヘアー成分のパイル長、Saは乾熱処理後のダウンヘアー部分(成分)のパイル長を示す。]
【請求項2】
アクリル系収縮性繊維がアクリル系共重合体からなりカチオン性染料により染色したものである請求項1記載の段差パイル布帛。
【請求項3】
アクリル系共重合体が、アクリロニトリル35〜98重量%、スルホン酸基含有モノマー0〜5.0重量%および他のビニルモノマー2〜65重量%からなる共重合体(I)60〜99重量部、ならびに、アクリロニトリル0〜90重量%、スルホン酸基含有モノマー2〜40重量%およびハロゲンを含有しない他のビニルモノマー0〜80重量%からなる共重合体(II)1〜40重量部からなり、該共重合体(I)と該共重合体(II)の合計量が100重量部である請求項1または2記載の段差パイル布帛。
【請求項4】
スルホン酸基含有モノマーを0.5〜10重量%含有するアクリル系共重合体からなるアクリル系収縮性繊維を55〜85℃で染色する工程、該アクリル系収縮性繊維と非収縮性繊維を混綿してパイル生地を製造する工程、および得られたパイル生地に対して110〜150℃にて20分以内で乾熱処理を行ない、該アクリル系収縮性繊維の収縮率を18%以上とする工程からなる請求項1、2または3記載の段差パイル布帛の製造方法。

【国際公開番号】WO2005/064057
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【発行日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516718(P2005−516718)
【国際出願番号】PCT/JP2004/019726
【国際出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】