説明

殺菌システム

【課題】化石燃料の使用量の削減を図ることができ、ランニングコストおよびCO2排出量を抑制することが可能な殺菌システムを提供する。
【解決手段】本発明にかかる殺菌システムの構成は、流体を加熱殺菌する殺菌システム100であって、電磁コイル106aを有し、電磁コイルの誘導加熱を利用して流体を加熱する高周波加熱器106と、冷却水を循環させて電磁コイルを冷却するコイル冷却手段108と、高周波加熱器より前段において、冷却水を熱源として流体を加熱するヒートポンプ加熱器110と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体を加熱殺菌する殺菌システムに関する。
【背景技術】
【0002】
飲料工場等の飲食物を生産する工場では、内容物である飲料(流体)は、缶やペットボトル等の容器に充填される前に加熱殺菌が行われる。飲料を加熱殺菌する装置としては、特許文献1に開示されている連続流量可変式殺菌装置を例示することができる。特許文献1では、飲料等の被処理液体を加熱プレートに導いて加熱媒体との熱交換によって殺菌温度に加熱している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−284951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1では、蒸気混合器において、加熱源であるスチームを混合することにより温度を上昇させた温水を加熱媒体として用いている。したがって、スチームを生成するボイラ等が必然的に必要となる。しかし、ボイラのように化石燃料を燃焼させる設備であると、蒸気生成時(燃焼時)にCOが発生するため環境負荷への観点において好ましくない。また、ボイラでは蒸気を生成するための化石燃料に莫大なランニングコストを要するため、コスト削減も要請されている。更に、流体(製品)の加熱に用いられた温水はドレンにて排出されるため、ドレンが持つ熱量分のエネルギーロスが生じている。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑み、化石燃料の使用量の削減を図ることができ、ランニングコストおよびCO2排出量を抑制することが可能な殺菌システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明にかかる殺菌システムの代表的な構成は、流体を加熱殺菌する殺菌システムであって、電磁コイルを有し、電磁コイルの誘導加熱を利用して流体を加熱する高周波加熱器と、冷却水を循環させて電磁コイルを冷却するコイル冷却手段と、高周波加熱器より前段において、冷却水を熱源として流体を加熱するヒートポンプ加熱器と、を備えることを特徴とする。
【0007】
上記構成によれば、従来のボイラに替えて、高周波加熱器によって流体の加熱を行うことができる。これにより、殺菌システムにおける化石燃料の使用量の削減を図ることができ、ランニングコストおよびCO2排出量を抑制することが可能となる。更に、上記構成ではヒートポンプ加熱器を設け、冷却水を熱源として、すなわちコイル冷却手段における電磁コイルの冷却により冷却水が得た熱によって流体の加熱を行う。これにより、コイルの冷却を行いつつ、冷却水が得た熱を廃熱とすることなく有効利用して流体の加熱効率を高めることができ、エネルギーロスの削減すなわち殺菌システム全体のエネルギー効率向上を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、化石燃料の使用量の削減を図ることができ、ランニングコストおよびCO2排出量を抑制することが可能な殺菌システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1実施形態にかかる殺菌システムの構成を示す図である。
【図2】第2実施形態にかかる殺菌システムの構成を示す図である。
【図3】殺菌システムのランニングコストについて説明する図である。
【図4】ボイラからの蒸気を用いた従来の殺菌システムの構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態にかかる殺菌システムの構成を示す図である。なお、図1に示す温度は、理解を容易にするための例示であり、これに限定するものではない。また、以下の説明では、流体として飲料、特に牛乳を例示するが、これにおいても限定されず、流体は、牛乳以外の飲料であってもよいし、飲料でなくてもよい。
【0012】
図1に示す殺菌システム100では、流体である飲料の加熱殺菌を行う。かかる飲料として牛乳を例示すると、流体(牛乳)は、清浄化工程等の種々の処理を経た後に、上流側送液ライン102aを通じて殺菌システム100に送られる。なお、上流側送液ライン102aおよび後述する下流側送液ライン102bは、実際には、繋がった1つの送液ラインであるが、説明の便宜上、後述するホールディングチューブ(以下、HTU120と称する)よりも上流側を上流側送液ライン102aと称し、HTU120よりも下流側を下流側送液ライン102bと称する。
【0013】
殺菌システム100には、3つの熱交換器104a、熱交換器104bおよび熱交換器104cが並設されている(以下、これらを総称するときには熱交換器104と称する)。本実施形態のように流体を加熱する熱交換器104としては、プレート式熱交換器を好適に用いることができる。なお、熱交換器の数は例示であり、これに限定するものではない。
【0014】
殺菌システム100に送られた流体は、まず熱交換器104bにおいて加熱される。熱交換器104bには後述するHTU120を通過した130℃〜140℃(高温)の流体が下流側送液ライン102bを通じて供給されている。これにより、熱交換器104bにおいて、上流側送液ライン102aからの5℃(低温)の流体と、下流側送液ライン102bからの高温の流体との熱交換が行われ、上流側送液ライン102aからの流体は50℃まで加熱される。
【0015】
熱交換器104bを通過した流体は、次に熱交換器104cにおいて加熱される。熱交換器104cには、後述する加熱媒体循環経路110bによってヒートポンプ加熱器110からの加熱媒体が循環している。これにより、熱交換器104cにおいて、上流側送液ライン102aからの50℃の流体と、ヒートポンプ加熱器110からの加熱媒体との熱交換が行われ、上流側送液ライン102aからの流体は126℃まで加熱される。
【0016】
熱交換器104cを通過した流体は、更に高周波加熱器106において加熱される。高周波加熱器は、電磁コイル106aを有し、その誘導加熱(IH:Induction Heating)を利用して流体を加熱する。本実施形態では、高周波加熱器106内における上流側送液ライン102a近傍に発熱体106bを配置している。これにより、電源(不図示)から電磁コイル106aに高周波の交流電力が供給されるとその周囲に磁場が形成される。かかる磁場が発熱体106bに印加されると、電磁誘導により渦電流が流れて発熱体106bが発熱し、その熱によって発熱体106b近傍の上流側送液ライン102aを通過する流体が加熱される。このような構成により、高周波加熱器106によって流体の加熱を行うことができ、従来のようにボイラを用いた場合と比較し、化石燃料の使用量の大幅な削減、ひいてはランニングコストおよびCO2排出量を抑制することが可能となる。
【0017】
なお、本実施形態においては、高周波加熱器106内の上流側送液ライン102a近傍に発熱体106bを配置したが、これに限定するものではない。例えば、上流側送液ライン102a全体や、高周波加熱器106内における上流側送液ライン102aのみを、磁性材料を含む配管とすれば配管そのものが発熱することとなるため、発熱体106bを設ける必要がない。
【0018】
ところで高周波加熱器106では、発熱体106bばかりではなく、電磁コイル106aも発熱してしまう。そこで電磁コイル106aを冷却するために、電磁コイル106aの近傍にはコイル冷却手段108が配置されている。コイル冷却手段108は端的には循環配管であって、その中にはポンプ108aを動力として冷却水が循環している。これにより、冷却水が熱を奪って電磁コイル106aが冷却される。一方、熱を得た冷却水は、ヒートポンプ加熱器110における熱源となる。
【0019】
ヒートポンプ加熱器110は、高周波加熱器106より前段の熱交換器104cにおいて、冷却水を熱源として流体を加熱する。詳細には、ヒートポンプ加熱器110は、内部の一次冷媒循環経路110aに一次冷媒が循環していて、かかる一次冷媒循環経路110a上に、蒸発器112、圧縮手段114、凝縮器116および膨張手段118が設けられている。
【0020】
蒸発器112は、一次冷媒と、コイル冷却手段108を循環する冷却水との熱交換を行う。この熱交換により、一次冷媒は、電磁コイル106aの冷却により冷却水が得た熱を吸熱して蒸発し、冷却水は一次冷媒に放熱して冷却される。蒸発器112での熱交換後の一次冷媒は、圧縮手段114において電力を利用して圧縮されることにより高圧状態となって高熱を発する。一方、蒸発器112での熱交換後の冷却水は、コイル冷却手段108を循環して電磁コイル106aの冷却に再度用いられる。
【0021】
圧縮手段114で圧縮された一次冷媒は、凝縮器116において加熱媒体循環経路110bを循環する加熱媒体との熱交換を行う。これにより、一次冷媒は、加熱媒体に放熱して凝縮し、膨張手段118において減圧状態とされて膨張冷却された後、再度蒸発器112における冷却水との熱交換を行う。
【0022】
一方、凝縮器116における一次冷媒との熱交換により、加熱媒体は一次冷媒の熱を吸熱して加熱される。加熱された加熱媒体は、加熱媒体循環経路110bを循環して、高周波加熱器106より前段の熱交換器104cに送られ、上流側送液ライン102aの流体と熱交換を行い、これを加熱する。その後、加熱媒体は、加熱媒体循環経路110bを循環し、再度凝縮器116において一次冷媒との熱交換を行う。
【0023】
したがって、本実施形態のようにヒートポンプ加熱器110を設ければ、一次冷媒および加熱媒体を介した冷却水との間接的な熱交換により、冷却水を熱源として流体の加熱を行うことができる。これにより、電磁コイル106aの冷却を行いつつ、それの冷却により冷却水が得た熱を廃熱とすることなく有効利用して流体の加熱効率を高めることができる。故に、エネルギーロスを削減し、殺菌システム100全体のエネルギー効率向上を図ることが可能となる。
【0024】
上述したように、上流側送液ライン102aを通過する流体は、熱交換器104bおよび104cにより徐々に加熱(予熱)され、高周波加熱器106において加熱されることにより温度が130℃〜140℃、すなわち殺菌温度に到達する。高周波加熱器106において殺菌温度に達した流体は、HTU120において所定時間(例えば2秒)保持されることにより、殺菌温度が維持されて殺菌が促進される。
【0025】
HTU120を通過した流体は、下流側送液ライン102bを通過して、上述したように熱交換器104bにおいて上流側送液ライン102aからの流体と熱交換を行い、60℃まで冷却される。熱交換器104bにおいて熱交換を行った流体は、熱交換器104aにおいて、チラー水循環経路130aを通じてチラー130からの供給されるチラー水と熱交換を行う。これにより、下流側送液ライン102bの流体は所定温度(例えば10℃)まで冷却され、充填工程等の次工程に送られる。
【0026】
上記説明したように、第1実施形態にかかる殺菌システム100によれば、従来のボイラに替えて高周波加熱器106を用いて流体の加熱を行うことにより、殺菌システム100における化石燃料の使用量の削減を図り、ランニングコストおよびCO2排出量を抑制することが可能となる。またヒートポンプ加熱器110を設けることにより、電磁コイル106aの冷却により冷却水が得た熱を流体の加熱に用いることができ、電磁コイル106aの冷却を行いつつ、廃熱の有効利用による流体の加熱効率向上ひいては殺菌システム100全体のエネルギー効率向上を図ることが可能となる。
【0027】
図2は、第2実施形態にかかる殺菌システムの構成を示す図である。図2に示す第2実施形態の殺菌システム200は、加熱媒体循環経路110bを循環する加熱媒体が熱交換器104bにおいて上流側送液ライン102aを通過する流体と熱交換を行い、HTU120を通過した流体は熱交換器104cにおいて上流側送液ライン102aを通過する流体と熱交換を行う点で第1実施形態の殺菌システム100と異なる。このような構成であっても、上述した殺菌システム100と同様の利点を得ることができる。また、コイル冷却手段108の冷却水から得られる熱量が少ない場合に有益である。
【0028】
次に、図3および図4を用いて、本実施形態にかかる殺菌システムの効果について説明する。図3は、殺菌システムのランニングコストについて説明する図であり、図3(a)は高周波加熱器106を単体で備える殺菌システムのランニングコストを説明する図であり、図3(b)は高周波加熱器106およびヒートポンプ加熱器110を備える本実施形態の殺菌システム100のランニングコストを説明する図である。図4は、ボイラからの蒸気を用いた従来の殺菌システムの構成を説明する図である。なお、上述した殺菌システム100と同一の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。また図4に示す温度等の数値はいずれも理解を容易にするための例示である。
【0029】
図4に示すように、従来の殺菌システム10では、流体は、上流側送液ライン12aを通じて殺菌システム10に送られ、熱交換器14bおよび14cにおいて、下流側送液ライン12bを通過する高温の流体と熱交換を行うことにより加熱(予熱)される。熱交換器14cより後段の熱交換器14dには、熱水製造装置16においてボイラ(不図示)からの蒸気を用いて生成された熱水が熱水供給経路16aを通じて供給されていて、熱交換器14bおよび14cにおいて加熱された流体は、かかる熱水と熱交換を行うことにより殺菌温度まで加熱される。殺菌温度まで加熱された流体は、熱交換器14cおよび14bの順に、上流側送液ライン12aを通過する流体との熱交換を行うことにより冷却される。その後、流体は、熱交換器14aにおいてチラー水循環経路130aから供給されるチラー130のチラー水と熱交換を行うことにより、所定温度まで冷却されて次工程に送られる。
【0030】
上述した図4に示す殺菌システム10において、流体の処理量を10t/hr、熱交換器14dにおいて126℃の流体を130℃まで加熱すると仮定した場合、熱交換器14dにおいて流体の加熱に必要な仕事量(加熱必要仕事量)は、46.5kWと算出される(図4の式1)。更に、ボイラにおける効率を0.5、重油1Lを燃焼させて得られるエネルギー量を8779kcal、重油の1Lの値段を60円と仮定すると、上記条件下における殺菌システム10のランニングコストは、547円/hrとなる(図4の式2)。
【0031】
一方、図3(a)に示す高周波加熱器106のみを備える殺菌システムにおいて上記と同様の加熱必要仕事量46.5kWを処理する場合(流体の処理量10t/hr、126℃の流体を130℃まで加熱)、高周波加熱器106の全体効率を0.7と仮定すると、必要仕事量46.5kWの処理に要する電力量は66.4kwとなる。この電力量におけるランニングコストを上述した重油の条件を用いて算出すると、558円/hrとなる(図3(a)の式3)。したがって、殺菌システムの最後段における加熱源を単にボイラから高周波加熱器106に置き換えるだけでは、殺菌システムのボイラレス化は達成できるものの、ランニングコストの削減には至らない。
【0032】
上記2つの殺菌システムに対し、図3(b)は、高周波加熱器106およびヒートポンプ加熱器110を備える第1実施形態の殺菌システム100である。高周波加熱器106で必要とする電力量をA、高周波加熱器106の全体効率を0.7、殺菌システム100のCOPを3、冷却水を用いた106aの水冷による熱量の回収量(熱源としての熱量)を高周波加熱器106の仕事量×0.2と仮定すると、殺菌システム100では、高周波加熱器106の仕事量0.7A(電力量A×効率0.7)と、冷却水による回収分0.14A(106の仕事量0.7A×0.2)と、ヒートポンプ加熱器110における電力量0.07A(冷却水110の回収量0.14A×1/2)とによって、加熱必要仕事量46.5kWを賄うこととなる(図3(b)の式4)。かかる式4から、高周波加熱器106への電力量Aは51.1kw、ヒートポンプ加熱器110への電力量0.07Aは3.58kwと算出され、殺菌システム100における電力量は54.68kwとなる。したがって、殺菌システム100における電力量は図3(a)のように高周波加熱器106単体の場合と比較して82.3%程度まで削減されていることがわかる。
【0033】
そして、上記計算した電力量における殺菌システム100のランニングコストを既出の条件を用いて算出すると、459円/hrとなる。したがって、殺菌システム100によれば、図4に示す殺菌システム10のようにボイラを用いた従来の殺菌システムや、高周波加熱器106のみを備える図3(a)の殺菌システムと比較し、ランニングコストの削減を図れることが理解できる。
【0034】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、流体を加熱殺菌する殺菌システムとして利用することができる。
【符号の説明】
【0036】
10…殺菌システム、12a…上流側送液ライン、14a…熱交換器、14b…熱交換器、14c…熱交換器、14d…熱交換器、16a…熱水供給経路、100…殺菌システム、102a…上流側送液ライン、102b…下流側送液ライン、104…熱交換器、104a…熱交換器、104b…熱交換器、104c…熱交換器、106…高周波加熱器、106a…電磁コイル、106b…発熱体、108…コイル冷却手段、108a…ポンプ、110…ヒートポンプ加熱器、110a…一次冷媒循環経路、110b…加熱媒体循環経路、112…蒸発器、114…圧縮手段、116…凝縮器、118…膨張手段、120…HTU、130…チラー、130a…チラー水循環経路、200…殺菌システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を加熱殺菌する殺菌システムであって、
電磁コイルを有し、該電磁コイルの誘導加熱を利用して前記流体を加熱する高周波加熱器と、
冷却水を循環させて前記電磁コイルを冷却するコイル冷却手段と、
前記高周波加熱器より前段において、前記冷却水を熱源として前記流体を加熱するヒートポンプ加熱器と、
を備えることを特徴とする殺菌システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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