説明

殺菌剤組成物

【課題】植物保護の分野で公知の活性物質、例えば農業用殺真菌剤、殺虫剤、抗ダニ剤、抗線虫剤、除草剤を基礎材料とする塗料、ラッカー等の缶詰保存及びフィルム保存に特に適する殺菌剤組成物を提供する。
【解決手段】2種類以上の異なる殺生物剤を含む殺菌剤組成物を産業材料及び/又は産業方法における菌類、酵母、藻類及びバクテリアを防除するために使用する方法であって、殺生物剤が農作物保護の分野で殺真菌剤、殺虫剤、抗線虫剤、抗ダニ剤、及び除草剤として公知の活性物質から選択され、それぞれ下式
【化1】


で表され、式中のR1がF、Cl又はC1−C4アルキルから選択される少なくとも1種類以上の構成要素を含み、かつ使用する殺生物剤の少なくとも1種類が疎水性であることを特徴とする殺菌剤組成物の使用法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農作物保護の分野における殺真菌剤、殺虫剤、殺ダニ剤、抗線虫剤又は除草剤から選択される2種類以上の異なる殺生物剤を含む、産業製品保護用の殺菌剤組成物、及びその産業・技術的システムにおける使用法に関する。更に、本発明は上記殺生物剤の混合物を含む産業材料に関する。
【背景技術】
【0002】
「殺生物剤」又は更に単純な「殺菌剤」という用語は、通常、微生物を防除するすべての薬剤を意味する。更に具体的には、上記用語は産業製品、及び産業・技術的システム(材料)、例えば塗料、被覆、プラスチック、水冷却システム、製紙、木材保護、化粧品、洗浄・清掃材料、封止化合物、窓用セメント、又は(液圧機械装置の)作動液において微生物の成長を防除するために使用する化合物又は組成物を意味する。産業製品における微生物を駆除するための殺菌剤組成物は従来技術により公知であり、詳細については、例えば「Microbicides」,Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 第6版、2000電子出版に記載されている。
【0003】
農作物保護のための活性物質として公知の農業用殺菌剤、殺虫剤、殺線虫剤又は除草剤、更に産業製品及び産業的方法において用いられる殺生物剤等が、具体的な化合物として言及されている。
【0004】
一例としては、殺真菌剤の1−ドデシルグアニジニウム塩酸塩又は−酢酸塩(ドジン(dodine)としても公知である)を挙げることができる。同物質はポリマーエマルジョンにおける使用(EP−A1188377号公報)、又は産業用流体における抑制剤(WO01/11954号公報)及び多くの用途において使用可能である旨が記載されている。
【0005】
同様に、除草剤の2,4−ジクロロフェノキシ酢酸は製紙用の殺生物剤(SU1542912)、瀝青(ビチューメン)用添加剤(DD98102)、又は汚れ止め塗布組成物(EP−A286243号公報)で使用される殺生物剤として使用可能な旨が示されている。
【0006】
殺真菌剤のcis−4−[3−[4−(1,1−ジメチルエチル)フェニル]−2−メチルプロピル]−2,6−ジメチルモルホリン(フェンプロピモルフ)についてはEP−A370371号公報に木材保護剤として記載されている。
【0007】
WO96/36739号公報には、殺真菌剤としての(1RS、5RS;1RS,5SR)−5−(4−クロロベンジル)−2,2−ジメチル−1−(1H−1,2,4−トリアゾール−1−イルメチル)シクロペンタノール(メトコナゾール)又はcis−3−(2−クロロフェニル)−2−(4−フルオロフェニル)−2−(4−フルオロフェニル)−2−(トリアゾール−1−イルメチル)オキシラン(エピコナゾール)と、皮革保護用の殺生物剤としての1種類以上のフェノール化合物との組み合わせ使用についての記載がある。
【0008】
しかしながら、技術的システムに用いられる殺生物剤は、殺菌剤の効果の他に、更に多くの他の要求を満たさなければならないが、これらの要求は植物保護の分野では全く重要なものではない。例えば、長期安定性、高温又は高圧下における安定性、非常に高い又は非常に低いpHでの安定性、産業製品・消費者製品基礎材料との相溶性の、例えば化粧品、金属加工流体、及び塗料組成物との相溶性を挙げることができる。更に、バクテリア、ウイルス、藻類、真菌類及び酵母に対して広く効果を示すことが望ましい。植物保護の分野で公知の活性物質は、産業上の材料又は産業上の方法における殺生物剤として十分な結果を示す物質ではない。
【0009】
殺生物剤の重要な使用分野は、いわゆる缶詰保存、例えば缶又は同様の容器に装填された塗料、ラッカー、ポリマーエマルジョン、接着剤、PUR組成物等である。このような組成物では、殺生物剤は2つの作用を有する。第一は、缶中に存在する期間にわたり(水性の)材料を保護する目的であり、第二は、ペイント又はラッカー等を用いて得られた乾燥したフィルムを保護する目的である。この第2の目的においては、殺生物剤が乾燥フィルム中で活性を維持すること、更にフィルム中で活性が長期間持続し、フィルムが水と接触しても直ちに滲み出ることはないことが重要である。
【0010】
上記のドジンは、多くの場合において十分な広い範囲の活性を示すが、長期安定性を得るためには水溶性が比較的高く、このためドジンを含有するフィルムは水と接触すると直ちに滲出する傾向を有する。
【0011】
【特許文献1】EP−A1188377号公報
【特許文献2】WO01/11954号公報
【特許文献3】EP−A286243号公報
【特許文献4】EP−A370371号公報
【非特許文献1】「Microbicides」、Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 第6版、2000電子出版
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、植物保護の分野で公知の活性物質、例えば農業用殺真菌剤、殺虫剤、抗ダニ剤、抗線虫剤、除草剤を基礎材料とする塗料、ラッカー等の缶詰保存及びフィルム保存に特に適する殺菌剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明者らは、2種類以上の異なる殺生物剤を含む殺菌剤組成物の使用法であって、殺菌剤組成物は少なくとも2種類の異なる殺生物剤を含み、これらの殺生物剤は農作物保護の分野で用いられる殺真菌剤、殺虫剤、殺ダニ剤、殺線虫剤又は除草剤から選択され、これらがそれぞれ以下のいずれかの構成要素
【0014】
【化1】

を含み、式中のR1がF、Cl又はC1−C4アルキルから選択され、産業材料及び又は産業方法における真菌、酵母、藻類及びバクテリアを防除するために使用され、上記式(I)及び/又は式(II)の構造要素を含む少なくとも1種類の殺生物剤が疎水性であることを特徴とする殺菌剤組成物の使用法を見出した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の好ましい実施の形態によると、組成物は被覆組成物の缶保存、及び同被覆組成物を用いて得られる被覆において特に好ましく使用される。
【0016】
上記の他、本発明によると2種類以上の殺生物剤を含む組成物を含む産業上の材料が提供される。
【0017】
本発明において特記すべきことを以下に記載する。
【0018】
本発明の活性物質について使用される省略による記載は、ISO 1750、「Pesticides and other agrochemicals - Common names」によるISOに認定された名称である。
【0019】
本発明は、技術的適用又は技術的製品における所定の殺生物活性の使用に関する。人体又は動物の体における治療又は医薬的適用、及び農作物保護における適用は本発明の範囲外である。
【0020】
「産業(上の)材料」とは非生物的材料であり、技術的・産業的方法における微生物による攻撃を受ける材料を意味する。本発明の実施の形態に係る組成物により微生物による被害又は破壊から保護可能な産業材料は、例えば仕上げ剤、ドリル用油、分散液、エマルジョン、染料、接着剤、石灰、ラッカー、顔料調整物、紙材、製紙材料、織物、織物製造材料、皮革、皮革処理機械、木材、被覆材料、汚れ止め被覆、顔料(着色料)、プラスチック製品、プラスチック基板、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリウレタン等、化粧品、洗浄及び清掃用材料、冷却潤滑剤、(液圧機械装置の)作動液、結合部封止化合物、窓用セメント、増粘剤溶液、フリース、及びカーペットの各層、及びこの他の材料であって、微生物により攻撃、破壊され得るものである。
【0021】
「産業(上の)方法(プロセス)」とは、装置/設備、特に化学装置、製造装置又は機器であって、産業材料を助剤又は反応媒体として使用するものである。具体例には、反応容器、貯蔵容器、加熱容器(ラジエータ)、熱交換回路又は空調機器を意味する。
「被覆組成物」とは当業者に公知であり、被覆技術にかかわらず、他の材料の被覆に用いられるすべての産業上の材料を意味する。典型的な塗料組成物は、一般に、バインダー組成物、溶媒、又は溶媒組成物、及び他の添加剤を含む。具体例には塗料(ペンキ)、分散液又は上塗り用ラッカーが含まれる。
【0022】
本発明において用いられる殺菌剤組成物は、農作物保護分野における殺真菌剤、殺虫剤、殺ダニ剤、殺線虫剤又は除草剤として公知の活性物質から選択された2種類以上の異なる殺生物剤を含む。
【0023】
本発明の好ましい実施の形態において用いる殺生物剤は、除草剤の群から1種類、及び殺真菌剤の群から1種類それぞれ選択した、異なる成分を用いるものである。更に好ましい実施の形態において、組成物は1種類以上の殺真菌剤と、殺虫剤、殺ダニ剤、殺線虫剤及び除草剤からなる群から選択された1種類以上の化合物とを含む。
【0024】
本発明で用いられる少なくとも1種類の殺生物剤は疎水性である必要がある。「疎水性」とは一般に、室温での水への溶解性(水溶性)が約500ppm(mg/kg)を超過せず、好ましくは200ppmを、更に好ましくは100ppmを、更に好ましくは50ppmを、最も好ましくは10ppmを超過しないものである。
【0025】
本発明で使用される他の殺生物剤も、室温での水に対する溶解性が制限されている必要がある。「溶解性が制限される」とは、一般に室温における水溶性が約1000ppmを超過せず、好ましくは750ppmを超過しないこと、最も好ましくは650ppmを超過しないことを意味する。
【0026】
使用するすべての殺生物剤が疎水性であると好ましい。
【0027】
本発明で用いられる2種類以上の殺生物剤は、それぞれ下式(I)又は(II)で示される少なくとも1種類の構造要素を含む。
【0028】
式(I)で示される構造要素は置換基を有する芳香環である。
【0029】
【化2】

【0030】
上記式中R1はF、Cl、及びC1−C4アルキル、特にメチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、及びt−ブチルから選択される。
【0031】
上記芳香環は1個以上の置換基R2により更に置換されていてもよい。R2はそれぞれF、Cl、及びC1−C4アルキル、−O−CH3、−COOH、又は−COOR3から選択され、R3はC1−C8を意味し、C1−C4アルキル基であると好ましい。COOH基は、殺生物剤の疎水性又は殺生物剤の水に対する制限された溶解性がCOOH基の存在により影響を受けない限り、これを置換基とすることができる。本発明の殺生物剤では、一般に、1個を上回る数の−COOH基が存在しないほうがよく、−COOHは存在しないことが好ましい。
【0032】
芳香族基(I)は活性物質分子の他の部分に結合する。結合基としては、エーテル基−O−、炭化水素基、例えば−CH2−、N−アシル基−N−CO−、又はカルボニル基−CO−が使用可能である。置換基(I)は複素環基又は他の基に対して直接結合していてもよい。
【0033】
活性物質の一般式は当業者に公知であり、インターネットにより入手可能な「Compendium of Pesticide Common Names」又は「The Pesticide Manual - A World Compendium」等のデータベースに集積されている(http:/www.hclrss.demon.co.uk/等)。
【0034】
芳香族基(I)を単位として含む、適する活性物質の例は以下の通りである。
【0035】
フェンプロピモルフ: 4−[2−メチル−3−(p−tert−ブチルフェニル)プロピル]−2,6−cis−ジメチルモルホリン(CAS:67306−03−0)
【0036】
【化3】

【0037】
クロロフェナピル: 4−ブロモ−2−(p−クロロフェニル)−1−(エトキシメチル)−5−(トリフルオロメチル)−ピロール−3−カルボニトリル(CAS:122453−73−0)
【0038】
【化4】

【0039】
ピコリナフェン: 6−(3−トリフルオロメチルフェノキシ)ピリジン−2−(N−4−フルオロフェニル)カルボン酸アミド(CAS:137641−05−5)
【0040】
【化5】

【0041】
ジクロロプロップ: 2,4−ジクロロフェノキシプロピオン酸(CAS:120−36−5)
【0042】
【化6】

【0043】
2,4−D: 2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(CAS:94−75−7)
【0044】
【化7】

【0045】
メトコナゾール:(1RS、5RS;1RS、5SR)−5−(4−クロロベンジル)−2,2−ジメチル−1−(1H−1,2,4−トリアゾール−1−イルメチル)シクロペンタノール(CAS:125116−23−6)
【0046】
【化8】

【0047】
エポキシコナゾール: cis−3−(2−クロロフェニル)−2−(4−フルオロフェニル)−2−(トリアゾール−1−イルメチル)オキシラン(CAS:135319−73−2)
【0048】
【化9】

【0049】
式(II)で表される構造単位(II)は1,2−位が分子の他の部分に結合する2価の芳香族基である。
【0050】
【化10】

【0051】
上記置換基は架橋基としての役割を有するが、一般的には(II)基は縮合環を含む分子の一部に当たる。すなわちR4及びR5が相互に結合して閉環した環状基を形成し、この環が他の環及び/又は置換基と結合してもよい。
【0052】
【化11】

【0053】
更に、置換基(II)の3〜6位は1個以上の上記定義による置換基R1及び/又はR2により置換されていてもよい。
【0054】
芳香族基(II)を単位として有する適当な活性物質の例は以下の通りである。
【0055】
ジチアノン: 2,3−ジシアノ−1,4−ジチアアントラキノン(CAS:3347−22−6)
【0056】
【化12】

【0057】
室温での水溶性を以下の表に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
芳香環(I)を単位として有する活性物質の好ましい例には、フェンプロピモルフ、クロロフェナピル、メトコナゾール、エポキシコナゾール、2−4−D、ジクロロプロップP、及びジチアノンである。
【0060】
上記定義による疎水性を有する好ましい殺生物剤の例には、フェンプロピモルフ、クロロフェナピル、ピコリナフェン、及びジチアノンである。
【0061】
最も好ましい例には、フェノプロピモルフとジクロロプロプとの組み合わせがある。他の好ましい組み合わせは、フェンプロピモルフとエポキシコナゾールとの組み合わせ、及びフェンプロピモルフとピコリナフェンとの組み合わせがある。
【0062】
組成物に含まれる殺真菌剤、殺虫剤、抗線虫剤、抗ダニ剤又は除草剤として公知の活性物質の数(種類)は、殺菌剤組成物の所望の使用法に応じて当業者に選択される。しかしながら、通常は活性物質の使用(種類)数は10種類を越えることはなく、5種類以下であると好ましく、2〜4種類であると更に好ましい。2種類の異なる殺生物剤の組み合わせを用いることが最も好ましい。
【0063】
使用する殺生物剤の質量割合は、殺菌剤組成物の所望の用途に応じて当業者により選択される。2種類の殺生物剤を使用する場合は、一般に、約1:10〜10:1、好ましくは1:5〜5:1、更に好ましくは1:2〜2:1、最も好ましくは1.5:1〜1:1.5である。2種類を超過する種類の殺生物剤を用いる場合には、使用する全殺生物剤の総量に対して各殺生物剤を10%以上の量で用いることが必要である。
【0064】
上記定義による2種類以上の殺生物剤を含む殺菌剤組成物は、産業材料及び/又は産業方法において菌類、酵母、藻類及びバクテリアを防除するために使用される。上述の生物の例には、真菌類、例えばアスペルギリス・ニガー(Aspergillus niger)及びカエトミウム・グロボスム(Chaetomium globosm)、酵母、例えばサッカロマイセス・セレビジエー(Saccharomyces cerevisiae)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)及びマラセジア・ファーファー(Malassezia furfur)、及び所定の生物、例えばシュードモナス・フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)、シュードモナス・アルギノサ(Pseudomonas aeruginosa)、アルカリガネス・ファシルス(Alcaligenes faecalis)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、スタフィロコッカス・エピディルミス(Staphylococcus epidermis)、コリネバクテリウム・キセロシス(Corynebacterium xerosis)、プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)、ピチロスポルム・オバレ(Pityrosporum ovale)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アルテリナリア・アルテルナータ(Alternaria alternate)、アスペルギルス・バージカラー(Aspergillus versicolor)、オーレオバシディウム・プルランス(Aureobasidium pullulans)、クラドスポリウム・クラドスポリオイデス(Cladosporium cladosporidoides)、ペニシリウム・パルロゼラム(Penicillum purpurogenum)、ペニシリウム・フニクロスム(Penicillum funiculosunm)、フォーマ・ビオラセ(Phoma violacea)、ロードトルラ・ルブラ(Rhodotorula rubra)、スポロボロマイセス・ロゼウス(Sporobolomyces roseus)、スタキボトリス・カルタラム(Stachybotrys chartarum)、ウルクラディウム・アトラム(Ulocladium atrum)、クロレラ属(Chlorella sp)、プレウロオコッカス属(Pleurococcus sp)、ノストック・マスコラム(Nostoc muscorum)、オシラトリア・テヌイス(Oscillatoria tenuis)、スチココッカス・バチラリス(Stichococcus bacillaris)、及びトレンテポーリア・アウレア(Trentepohlia aurea)がある。
【0065】
組成物はそのまま使用することができる。すなわち活性成分の混合物のみを市販製品と一緒に強力に混合するか、又は市販製品中に分配(分散)することができる。しかしながら、活性成分を例えばペースト、エマルジョン、溶液もしくは懸濁液状に調製することも、固体担体上に施すことも可能である。
【0066】
活性化合物、適する溶媒もしくは溶媒組成物、及び任意に他の成分を含む殺菌剤組成物が好ましく用いられる。特に好ましくは、有機脂肪族溶媒、例えばアルコール、例えばエタノール、n−プロパノール又はi−プロパノール、又はプラスチックや被覆等の製造に使用される芳香族溶媒、例えばフェノキシアルコール、又は溶媒及び/又は乳化剤、及び農業用組成物に用いられる公知の他の成分(製剤化剤)が使用される。しかしながら、これらを水又は水性溶媒混合物、更に適当な乳化剤又は他の成分、例えば農業用組成物において公知の成分を用いて懸濁液又は分散液としての製剤を得ることも可能である。
【0067】
使用可能な組成物における他の成分としては、pH調整剤、界面活性剤、乳化剤、キレート剤、塩類、腐食防止剤、染料、香料、消泡剤、又は分散剤があり、これらはそれぞれ単独で、又は組み合わせて使用することができる。
【0068】
本発明の組成物は、更に付加的に、殺生物剤としての作用を有する成分を含んでいてもよい。
【0069】
一例としては、上記活性成分は液体媒体(処理対照のすべての液体材料を含む)の最終濃度が0.001質量%〜10質量%、更に好ましくは0.01質量%〜5質量%、特に好ましくは0.02質量%〜0.5質量%となるように使用されることが好ましい。組成物に対して活性成分の使用量が1%を超過し、かつ15%未満とすることが最も好ましい。
【0070】
濃縮物は、濃縮物総質量に対して、5質量%〜60質量%、好ましくは10質量%〜45質量%、更に好ましくは20質量%〜40質量%、特に好ましくは20質量%〜30質量%の活性成分を含むことが好ましい。
【0071】
特に、殺菌剤組成物のpHは、処理対象の媒体と同様に、2〜12の範囲で変更可能である。濃縮物、及び特に処理物品のpHは4以上、好ましくは7以上、更に好ましくは8以上、特に8〜12の範囲とされる。
【0072】
本発明における使用法において、産業材料を殺菌剤組成物と接触させるか、又は殺菌剤組成物を産業上の方法において用いる。本発明の組成物は産業製品と混合するか、又は産業製品に対して分配される。経験則によると、一般に、産業製品中での組成物の分散が均一であればあるほど、防除率が向上すると言われる。
【0073】
本発明の好ましい実施の形態において、殺菌剤組成物は、塗料、ラッカー、被覆組成物、技術的流体等の種々の組成物を缶詰保存の形態とするために用いられる。更に好ましい実施の形態では、本発明の組成物は、例えば炭酸カルシム及び/又は二酸化チタン、バインダー、融合助剤(coalescent)、溶媒及び水を含む被覆組成物とされる。
【0074】
本発明の更に好ましい実施の形態では、殺菌剤組成物を被覆保護用に使用する。適する基体、例えば木材又は石・レンガ造り建築部分を、所望の殺菌剤組成物を含む被服組成物で被覆することにより上述の被覆、好ましく薄層フィルムが得られる。本発明で用いる被覆技術に制限はないが、塗布技術の好ましい例としては、噴霧、塗装、液浸(dipping)又は印刷を挙げることができる。
【0075】
本発明の第二の実施形態における産業材料は、殺生物剤として、上記2種類以上の異なる殺生物剤を含み、活性成分の濃度は一般に0.05%〜2.5%、好ましくは0.1%〜1.0%、最も好ましくは0.2%〜0.5%とされる。
【0076】
産業材料の乾燥フィルムは、殺生物剤の滲出に対する高い耐性を有し、従って長期に亘る保護が得られる。また、殺生物剤の組み合わせ使用により、一種類の殺生物剤では防除されない微生物の成長を阻害する広範囲の活性が得られる。組み合わせ使用により、乾燥の際に1種類の成分が他の成分よりも被覆表面に対して早く移行することによる保護がなされるため、環境下で最も多く存在する微生物を防除し、更に上述の他の成分が表面に移行することにより包括的な保護を行うことが可能となる。
【0077】
以下の実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【実施例】
【0078】
[表面被覆]
菌類及び藻類について、BS3900 G6及びBBA MOAT 33に準じた評価方法を用いて試験を行った。これらの方法では、基体パネルを被覆剤で塗布し、流水を72時間通過させた。菌類又は藻類を植えつけた後、基体を56日間保温・培養した。殺生物剤を施与していない対照サンプル、正の制御によるサンプル、及び基体パネルに菌類を付し流水による上記処理を行わないサンプルの比較により、性能を評価した。
【0079】
塗料を施された試験用の基体に関する性能評価(0、1、2の評価は合格基準を満たすと考えられる)
0 = 成長なし
1 = わずかな成長
2 = 被検表面1〜10%での成長
3 = 被検表面10〜30%での成長
4 = 被検表面30〜70%での成長
5 = 被検表面70〜100%での成長
【0080】
表1:塗料を施した漆喰表面での藻類の生長に対する効果
【0081】
【表2】

【0082】
漆喰表面における藻類の生長に対して、エポキシコナゾール、ピコリナフェン、フェンプロピモルフ、クロロフェナピル及びジチアノンを使用した場合には、生長抑制に改善が見られた。
【0083】
表2: 塗料を施した漆喰表面での菌類の生長に対する効果
【0084】
【表3】

【0085】
施与のみ−流水処理なし
流水処理−一定速による流水を72時間施与
エポキシコナゾールとフェンプロピモルフを用いた場合には、「施与のみ」又は流水処理を施した場合のいずれにおいても菌類の生長について改善が見られた。
【0086】
一方、クロロフェナピル、ジチアノン及びピコリナフェンを用いた場合には保護処理を行わない被覆(塗料)と同様の結果が得られた。
【0087】
表3: 塗料を施した木材表面での菌類の生長に対する効果
【0088】
【表4】

【0089】
施与のみ−流水処理なし
流水処理−一定速による流水を72時間施与
【0090】
木材表面における菌類の生長に対して、クロロフェナピル及びジチアノンを用いた場合には使用した場合には、生長抑制に改善が見られた。一方、エポキシコナゾール、ピコリナフェン及びフェンプロピモルフを用いた場合には、境界値程度の改善が得られたのみであった。
【0091】
藻類についてのデータ以外では、すべての活性が有効に得られたものではない。各薬剤の効果を組み合わせることにより、更に有効な広範囲に亘る保護が得られる。
【0092】
[活性の組み合わせ]
微量滴定法(microtitre plate method)により所定範囲の生物に対する薬剤の活性を実験した。被検生物は以下の通りである。
【0093】
ML−ミクロッカス・ルテウス
SA−スタフィロコッカス・アウレウス
EC−エスケリキア・コリ
PA−シュウドモナス・アエルギノサ
CF−シトロバクター・フレウンデー
PM−プロテウス・ミラビリス
CA−カンジダ・アルビカンス
SC−サッカロマイセス・セレビジエー
AN−アスペルギルス・ニガー
PF−ペニシリウム・フニクロスム
AA−アルテリナリア・アルテルナータ
以下の評価基準を用いた。
【0094】
0 = 活性なし
1 = 最低限の阻害
2 = 阻害
3 = 明らかな阻害
4 = 明らかな生物静力学的阻害又は殺菌活性
5 = 生物静力学的阻害又は殺菌活性
上記評価4、場合により3が、殺生物剤用の用途において有効であると考えられる。
【0095】
表4に、組み合わせ使用によりバクテリア及び真菌類に対して広範囲な活性を示す分子を挙げる。
【0096】
表4:バクテリア及び真菌に対する本来の活性
【0097】
【表5】

【0098】
平均値 = 生物に対する性能/生物不存在の場合
評価基準
0〜<3 − 低性能
>3 − 生物の阻害
>4 − 生物静力学的阻害又は殺菌活性
【0099】
ジクロロプロップ及びドジンは被検バクテリア及び真菌に対して良好な活性を示した。高濃度の2,4−Dもこれに類する活性を示した。
【0100】
エポキシコナゾール、フェンプロピモルフ、ジチアノン及びメトコナゾールは高低双方の濃度において抗真菌活性のみを示した。
【0101】
このため、一例として500ppmのジクロロプロップと、500ppmのフェンプロピモルフとを組み合わせて用いると、広範な殺菌活性が得られた。これと同様に、上記薬剤の他の組み合わせ、例えばフェンプロピモルフとドジンとの組み合わせ等も微生物に対して広範囲に亘る特性を示した。2種類の薬剤における疎水性、及び制限された溶解性の特性が有効に作用する。
【0102】
以下の実施例により、広範囲な保護を可能とする活性物質の有効な組み合わせを示す。各一段目の数値は下表の第一列(縦行)における活性物質の必要量を、二段目の数値は下表の第一行(横行)における活性物質の必要量を示す(ppm)。
【0103】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類以上の異なる殺生物剤を含む殺菌剤組成物を産業材料及び/又は産業方法における菌類、酵母、藻類及びバクテリアを防除するために使用する方法であって、殺生物剤が農作物保護の分野で殺真菌剤、殺虫剤、抗線虫剤、抗ダニ剤、及び除草剤として公知の活性物質から選択され、それぞれ下式
【化1】

で表され、式中のR1がF、Cl又はC1−C4アルキルから選択される少なくとも1種類以上の構成要素を含み、かつ使用する殺生物剤の少なくとも1種類が疎水性であることを特徴とする殺菌剤組成物の使用法。
【請求項2】
芳香環(I)が、1個以上の更なる置換基R2を有し、R2が相互に独立にF、Cl、C1−C4アルキル、−O−CH3及び−COOHからなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の使用法。
【請求項3】
活性物質が、4−[2−メチル−3−(p−tert−ブチルフェニル)プロピル]−2,6−cis−ジメチルモルホリン(フェンプロピモルフ)、4−ブロモ−2−(p−クロロフェニル)−1−(エトキシメチル)−5−(トリフルオロメチル)−ピロール−3−カルボニトリル(クロロフェナピル)、6−(3−トリフルオロメチルフェノキシ)ピリジン−2−(N−4−フルオロフェニル)カルボン酸アミド(ピコリナフェン)、2,4−ジクロロフェノキシプロピオン酸(ジクロロプロップ)、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸、2,3−ジシアノ−1,4−ジチアアントラキノン(ジチアノン)、(1RS、5RS;1RS、5SR)−5−(4−クロロベンジル)−2,2−ジメチル−1−(1H−1,2,4−トリアゾール−1−イルメチル)シクロペンタノール(メトコナゾール)、及びcis−3−(2−クロロフェニル)−2−(4−フルオロフェニル)−2−(トリアゾール−1−イルメチル)オキシラン(エポキシコナゾール)からなる群から選択されることを特徴とする請求項1又は2に記載の使用法。
【請求項4】
殺菌剤組成物が1種類以上の殺真菌剤と、殺虫剤、殺ダニ剤、殺線虫剤及び除草剤から選択される1種類以上の化合物と、を組み合わせて含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の使用法。
【請求項5】
殺菌剤組成物が、少なくとも、4−[2−メチル−3−(p-tert−ブチルフェニル)プロピル]−2,6−cis−ジメチルモルホリン(フェンプロピモルフ)と、cis−3−(2−クロロフェニル)−2−(4−フルオロフェニル)−2−(トリアゾール−1−イルメチル)オキシラン(エポキシコナゾール)との混合物を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の使用法。
【請求項6】
混合物を組成物の缶詰保存のために用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用法。
【請求項7】
組成物が被覆用組成物であることを特徴とする請求項6に記載の使用法。
【請求項8】
混合物を被覆の保護に用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用法。
【請求項9】
保護用の2種類以上の異なる殺生物剤を含む産業材料であって、殺生物剤が農作物保護の分野で殺真菌剤、殺虫剤、抗ダニ剤、抗線虫剤、及び除草剤として公知の活性物質から選択され、それぞれ下式
【化2】

で表され、式中のR1がF、Cl又はC1−C4アルキルから選択される少なくとも1種類以上の構成要素を含み、かつ使用する殺生物剤の少なくとも1種類が疎水性であることを
【請求項10】
芳香環(I)が、1個以上の更なる置換基R2を有し、R2が相互に独立にF、Cl、C1−C4アルキル、−O−CH3及び−COOHからなる群から選択されることを特徴とする請求項9に記載の産業材料。
【請求項11】
活性物質が、4−[2−メチル−3−(p−tert−ブチルフェニル)プロピル]−2,6−cis−ジメチルモルホリン(フェンプロピモルフ)、4−ブロモ−2−(p−クロロフェニル)−1−(エトキシメチル)−5−(トリフルオロメチル)−ピロール−3−カルボニトリル(クロロフェナピル)、6−(3−トリフルオロメチルフェノキシ)ピリジン−2−(N−4−フルオロフェニル)カルボン酸アミド(ピコリナフェン)、2,4−ジクロロフェノキシプロピオン酸(ジクロロプロップ)、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D)、2,3−ジシアノ−1,4−ジチアアントラキノン(ジチアノン)、(1RS、5RS;1RS、5SR)−5−(4−クロロベンジル)−2,2−ジメチル−1−(1H−1,2,4−トリアゾール−1−イルメチル)シクロペンタノール(メトコナゾール)、及びcis−3−(2−クロロフェニル)−2−(4−フルオロフェニル)−2−(トリアゾール−1−イルメチル)オキシラン(エポキシコナゾール)からなる群から選択されることを特徴とする請求項9又は10に記載の産業材料。
【請求項12】
殺菌剤組成物が1種類以上の殺真菌剤と、殺虫剤、殺ダニ剤及び除草剤から選択される1種類以上の化合物と、を組み合わせて含むことを特徴とする請求項9又は10に記載の産業材料。
【請求項13】
殺菌剤組成物が、少なくとも、4−[2−メチル−3−(p−tert−ブチルフェニル)プロピル]−2,6−cis−ジメチルモルホリン(フェンプロピモルフ)と、cis−3−(2−クロロフェニル)−2−(4−フルオロフェニル)−2−(トリアゾール−1−イルメチル)オキシラン(エポキシコナゾール)との混合物を含むことを特徴とする請求項9又は10に記載の産業材料。
【請求項14】
産業材料が被覆用組成物であることを特徴とする請求項9〜13のいずれか1項に記載の産業材料。
【請求項15】
産業材料が被覆用組成物を用いることにより得られた乾燥フィルムであることを特徴とする請求項9〜13のいずれか1項に記載の産業材料。

【公表番号】特表2007−516993(P2007−516993A)
【公表日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−546048(P2006−546048)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【国際出願番号】PCT/EP2004/014586
【国際公開番号】WO2005/063014
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(595123069)ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト (847)
【氏名又は名称原語表記】BASF Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】