説明

殺菌水霧化装置

【課題】貯液ピット内の弱酸性次亜塩素酸水が次第に失活し、生成される霧の有効塩素濃度が次第に低下する点である。
【解決手段】弱酸性次亜塩素酸水を貯える貯液ピットと、該貯液ピット内に設けられた超音波振動子と、弱酸性次亜塩素酸水を供給する液供給源と、該液供給源から該貯液ピットに弱酸性次亜塩素酸水を連続的に供給する連続給液装置と、該貯液ピットから溢れ出た弱酸性次亜塩素酸水を排水場所に導く排水路とを備えた。貯液ピット及び超音波振動子は単数でもよいし複数でもよい。連続給液装置としては貯液ピット側にスリット状の給液口を設けた給液ダクトを用いてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弱酸性次亜塩素酸水の霧を生成させるための殺菌水霧化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
養鶏に用いられているヒナは種卵を孵化させることにより得られている。種卵は孵化率を上げるために、孵化させる前に予め消毒されている。この消毒は一般にホルマリン薫蒸により行われていたが、最近は作業者の健康のため、地域によっては弱酸性次亜塩素酸水の霧によって行われている。この方法は、弱酸性次亜塩素酸水を超音波振動子によって霧化し、種卵をこの霧に晒して消毒するものである。
【0003】
この消毒において、弱酸性次亜塩素酸水は超音波によって次第に失活するので、噴霧される霧の有効塩素濃度が次第に低下し、殺菌能力が次第に低下する。そこで、殺菌の効果を確実なものとするために、種卵を霧に曝露させる時間を、弱酸性次亜塩素酸水の失活を見越して、余分に長く取っている。しかし、このため、種卵の殺菌に時間がかかっていた。
【0004】
また、種卵の消毒を確実なものとするためには消毒室の中を充分な量の弱酸性次亜塩素酸水の霧で満たさなければならない。消毒室の中を充分な量の弱酸性次亜塩素酸水の霧で満たすためには、大量の霧を生成させる必要が有るが、一つの超音波振動子で生成できる霧の量には限度がある。そこで、複数個の超音波振動子を使って弱酸性次亜塩素酸水の霧を生成させることが試みられた。
【0005】
しかし、複数個の超音波振動子を使って弱酸性次亜塩素酸水の霧を生成させた場合、隣り合う超音波振動子から発生した霧が相互に干渉し合うためか、生成された霧の一部が凝集して脱落し、図4に示すように、超音波振動子の個数を増やすと超音波振動子1個当たりの霧生成効率が落ち、超音波振動子の個数を増やしても霧の生成量をそれほど増やすことができないという問題があった。
【0006】
また、複数個の超音波振動子を使って弱酸性次亜塩素酸水の霧を生成させた場合、超音波振動子の個数を増やすほど、貯液ピット内の弱酸性次亜塩素酸水が早く失活し、図2に示すように、生成される霧の有効塩素濃度が急激に低下し、殺菌能力が急激に低下してしまうという問題があった。
【特許文献1】特開2002−272317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする問題点は、貯液ピット内の弱酸性次亜塩素酸水が次第に失活し、生成される霧の有効塩素濃度が次第に低下する点である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、生成させる霧の有効塩素濃度を所定の値に保持させるため、所定の有効塩素濃度の弱酸性次亜塩素酸水を貯液ピットに連続的に供給し、貯液ピット内の弱酸性次亜塩素酸水を溢れ出させるようにして、超音波振動子の周囲の弱酸性次亜塩素酸水の有効塩素濃度が、供給された弱酸性次亜塩素酸水の有効塩素濃度に近い濃度となるようにしたことを最も主要な特徴とする。
【0009】
すなわち、本発明に係る殺菌水霧化装置は、弱酸性次亜塩素酸水を貯える貯液ピットと、該貯液ピット内に設けられた超音波振動子と、弱酸性次亜塩素酸水を供給する液供給源と、該液供給源から該貯液ピットに弱酸性次亜塩素酸水を連続的に供給する連続給液装置と、該貯液ピットから溢れ出た弱酸性次亜塩素酸水を排水場所に導く排水路とを備えたことを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明に係る別の殺菌水霧化装置は、隔壁を介して隣り合って設けられ、弱酸性次亜塩素酸水を貯える複数個の貯液ピットと、該各貯液ピット内に各々設けられた複数個の超音波振動子と、弱酸性次亜塩素酸水を供給する液供給源と、該液供給源から該各貯液ピットに弱酸性次亜塩素酸水を各々連続的に供給する連続給液装置と、該各貯液ピットから溢れ出た弱酸性次亜塩素酸水を集めて排水場所に導く排水路とを備えたことを特徴とするものである。
【0011】
ここで、前記連続給液装置を前記貯液ピットに沿って設けられた供液ダクトで形成し、該供液ダクトの貯液ピット側に各貯液ピット毎にスリット状の給液口を設けるようにしてもよいし、該供液ダクトの貯液ピット側に各貯液ピット毎にパイプ状の給液口を設けるようにしてもよい。また、前記超音波振動子によって生成された霧を吹き飛ばす扇風機を設けるようにしてもよい。
【0012】
また、弱酸性次亜塩素酸水とは、pHが5〜7の範囲で、有効塩素濃度に占める次亜塩素酸(HClO)の存在比率がおおむね90%以上含むものをいう。有効塩素濃度は80〜200ppmが好ましい。有効塩素濃度が80ppm未満では噴霧による殺菌効果が低く、有効塩素濃度が200ppmを超えると臭気が増すが、80〜200ppmの濃度範囲の噴霧では作業環境を悪化させることなく所望の殺菌能力が得られるからである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の殺菌水霧化装置は、弱酸性次亜塩素酸水を貯液ピットに連続的に供給し、貯液ピット内の弱酸性次亜塩素酸水を溢れ出させているので、貯液ピット内の弱酸性次亜塩素酸水の有効塩素濃度が、貯液ピットに供給されている弱酸性次亜塩素酸水の有効塩素濃度に近い値に保たれ、生成される霧の有効塩素濃度が、貯液ピットに供給されている弱酸性次亜塩素酸水の有効塩素濃度に近い値になるという利点がある。
【0014】
また、本発明の殺菌水霧化装置は、生成される霧の有効塩素濃度が、貯液ピットに供給されている弱酸性次亜塩素酸水の有効塩素濃度に近い値になり、生成される霧の有効塩素濃度が従来より高まるので、種卵の殺菌時間を短くすることができるという利点がある。
【0015】
また、本発明の殺菌水霧化装置は、超音波振動子毎に隔壁を設けたので、隣り合う超音波振動子から発生する霧の凝集を抑制することができ、従って、発生させる霧の量を超音波振動子の個数に応じて増やすことができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
発生させる霧の有効塩素濃度を一定に保つという目的を、有効塩素濃度が一定の弱酸性次亜塩素酸水を超音波振動子に掛け流すという簡単な構成で実現した。
【実施例1】
【0017】
図1は、本発明の一実施例に係る殺菌水霧化装置の説明図であり、同図において、10は給液タンクであり、給液タンク10には弱酸性次亜塩素酸水が貯えられ、弱酸性次亜塩素酸水を下流に供給する液供給源となっている。なお、液供給源としては、給液タンク10を使用せず、弱酸性次亜塩素酸水を連続的に生成する連続生成装置を使用してもよい。
【0018】
給液タンク10の下流には横長の給液ダクト12が設けられ、給液タンク10内の弱酸性次亜塩素酸水が給液ダクト12に供給されるようになっている。給液ダクト12の側部側には複数個の貯液ピット14が給液ダクト12に沿って設けられている。給液ダクト12の貯液ピット14側にはスリット状の給液口16が設けられ、給液ダクト12内の弱酸性次亜塩素酸水は給液口16から貯液ピット14内に連続的に少しずつ供給されるようになっている。
【0019】
貯液ピット14内には超音波振動子18が垂直に設けられ、超音波振動子18は電源装置(図示せず)に接続されている。貯液ピット14の下流には各貯液ピット14から溢れ出た弱酸性次亜塩素酸水を集める排水ダクト20が設けられ、排水ダクト20に集められた弱次亜塩素酸水は排水タンク22に貯えられるようになっている。
【0020】
次に、この殺菌水霧化装置の動作について説明する。
【0021】
まず、給液タンク10の排出口を開状態にし、給液タンク10内の弱酸性次亜塩素酸水を給液ダクト12に供する。給液ダクト12に供給された弱酸性次亜塩素酸水は給液口16から所定の流量で貯液ピット14内に少しずつ給液される。貯液ピット14内に給液された弱酸性次亜塩素酸水は貯液ピット14内を満たした後は、貯液ピット14内の弱酸性次亜塩素酸水を更新させながら溢れ出る。
【0022】
貯液ピット14内の弱酸性次亜塩素酸水は超音波振動子18によって霧化され、水平方向に少しずつ広がりながら上方に立ち上る。貯液ピット14内の弱酸性次亜塩素酸水は新鮮な弱酸性次亜塩素酸水によって絶えず更新され、供給された弱酸性次亜塩素酸水の有効塩素濃度に近い濃度となっているので、生成された霧の有効塩素濃度は供給された弱酸性次亜塩素酸水の有効塩素濃度に近い濃度となる。
【0023】
貯液ピット14から溢れ出た弱酸性次亜塩素酸水は排水ダクト20を通って集められ、排水タンク22に貯えられる。排水タンク22に貯えられた弱酸性次亜塩素酸水は排水処理を施した後、廃棄される。
【0024】
なお、この殺菌水霧化装置は、各貯液ピット14毎に適当な風道を設けて噴霧粒子を強制的に飛ばすようにしても良い。このようにすれば、浮遊している噴霧粒子の密度を低下させることができるので、隣り合う噴霧粒子が相互に結合して大きな水滴となって噴霧粒子中から脱落するのを抑制することができる。
【0025】
また、この殺菌水霧化装置は、所定時間噴霧させた後、貯液ピット14に水道水を一定時間流し、超音波振動子18を水道水で洗浄するようにしても良い。このようにすれば、超音波振動子18の腐食を抑制し、この殺菌水霧化装置の耐用期間又は超音波振動子18の交換周期を長くすることができる。
【0026】
また、この殺菌水霧化装置は、噴霧開始の前に貯液ピット14を弱酸性次亜塩素酸水で洗い、貯液ピット14内のほこりを除去するようにしても良い。
【0027】
また、上記の殺菌水霧化装置を用いて噴霧粒子の有効塩素濃度を経時的に調べたところ、噴霧粒子の有効塩素濃度は130ppmと一定であり、時間の変化によっては変動しなかった。
【0028】
また、上記の殺菌水霧化装置を用いて超音波振動子の個数と噴霧粒子の有効塩素濃度の関係を調べたところ、図2に示す通り、噴霧粒子の有効塩素濃度は超音波振動子の個数に関係なく130ppmと一定であった。
【0029】
また、有効塩素濃度が130ppmの弱酸性次亜塩素酸水を貯液ピット14に供給して、貯液ピット14から溢れる弱酸性次亜塩素酸水の流量と噴霧粒子の有効塩素濃度との関係を調べたところ、図3に示す通り、溢れる弱酸性次亜塩素酸水の流量が増える程、噴霧粒子の有効塩素濃度の低下が押さえられた。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施例に係る殺菌水霧化装置の説明図である。
【図2】振動子の個数と噴霧粒子の有効塩素濃度との関係を示すグラフである。
【図3】貯液ピットから溢れる弱酸性次亜塩素酸水の流量と噴霧粒子の有効塩素濃度との関係を示すグラフである。
【図4】従来の殺菌水霧化装置における振動子の個数と噴霧量との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0031】
10 タンク
12 給液ダクト
14 貯液ピット
16 給液口
18 超音波振動子
20 排水ダクト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弱酸性次亜塩素酸水を貯える貯液ピットと、該貯液ピット内に設けられた超音波振動子と、弱酸性次亜塩素酸水を供給する液供給源と、該液供給源から該貯液ピットに弱酸性次亜塩素酸水を連続的に供給する連続給液装置と、該貯液ピットから溢れ出た弱酸性次亜塩素酸水を排水場所に導く排水路とを備えたことを特徴とする殺菌水霧化装置。
【請求項2】
隔壁を介して隣り合って設けられ、弱酸性次亜塩素酸水を貯える複数個の貯液ピットと、該各貯液ピット内に各々設けられた複数個の超音波振動子と、弱酸性次亜塩素酸水を供給する液供給源と、該液供給源から該各貯液ピットに弱酸性次亜塩素酸水を各々連続的に供給する連続給液装置と、該各貯液ピットから溢れ出た弱酸性次亜塩素酸水を集めて排水場所に導く排水路とを備えたことを特徴とする殺菌水霧化装置。
【請求項3】
前記連続給液装置が前記貯液ピットに沿って設けられた供液ダクトからなり、該供液ダクトの貯液ピット側には各貯液ピット毎にスリット状の給液口が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の殺菌水霧化装置。
【請求項4】
前記超音波振動子によって生成された霧を吹き飛ばす扇風機を備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の殺菌水霧化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−296466(P2006−296466A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−118387(P2005−118387)
【出願日】平成17年4月15日(2005.4.15)
【出願人】(599154191)株式会社エイチ・エス・ピー (4)
【Fターム(参考)】