説明

殺菌用フィルター

【課題】 一般の家屋やオフィスビル等の換気設備中に簡単に取り付けることが可能で、空気中に含まれる細菌やウイルスを不活性化させる。
【解決手段】 不織布をカルボン酸変性ポリビニルアルコールに浸した上で、イオン交換樹脂を塗布した後に加熱してカルボン酸変性ポリビニルアルコールを固化することによりこれをイオン交換樹脂と共に不織布に一体化させたもので、通気性を有すると共に空気中の細菌、ウイルスを不活性化するようにした。またイオン交換樹脂が不織布より脱落することがなく、長時間その効果を保持し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家屋あるいはオフィスビル等における室内の空気の浄化のための換気設備に使用するフィルターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の換気設備は、外部の空気と室内の空気を交換することによって室内の空気を浄化するものである。したがって、フィルターは、ほとんど用いられておらず、換気設備においては、外気中に含まれるほこり等を除去することを主目的とするものが用いられているのみである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特に近年、空気中等に存在するコロナウイルス、インフルエンザウイルスのような病原性ウイルス等により発病が多くなりその対策が必要となってきている。
【0004】
一方、本願の発明者は、水の浄化のための複合フィルタを開発し、PCT/JP02/13239として出願した。その明細書中に記載されているように、イオン交換樹脂がウイルス類や病原性細菌類の不活性化に有効である。
【0005】
また、不織布が、コレラ菌、赤痢菌、炭素菌等の細菌類を吸着除去し得る。
上記の内容のうち、イオン交換樹脂の細菌類の不活性化については、下記非特許文献1に、また不織布の細菌類の吸着性については、非特許文献2に記載されている。
【非特許文献1】日本医科器械学会誌,56:499,1986
【非特許文献2】日本人工臓器学会誌,18:1372,1989 したがって、イオン交換樹脂あるいは不織布を用いることにより、あるいはそれらの組み合わせにより空気中の細菌類の除去、不活性化を実現する可能性が考えられる。したがって、それらを建築物の換気設備中に配置することにより室内の空気を浄化し、とくに細菌類、ウイルス類による感染を予防することが可能になる。
【0006】
しかし、イオン交換樹脂は、一般に粒子状であって、これをフィルターとして使用する場合、容器内に入れる等、簡単化が困難であり、また取り扱いが不便である。特に紙や布のような平面状にすることによっていかなる場所でも簡単に取り付けられ、浄化作用が低下した際等に簡単に交換し得る構成にすることが困難である。
【0007】
また、不織布のみでは、ほこりの除去は可能であり、また細菌類の一部の吸着は可能であっても十分な浄化とそれによる感染の予防効果を十分得ることは困難である。
【0008】
本発明は、布状の簡単な形状であって、例えば換気設備中の配置や交換が容易であって、空気中の細菌類、ウイルス等を不活性化し得るフィルターを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のフィルターは、不織布を硫酸塩型あるいはスルホン酸塩型界面活性剤等の細菌やウイルス等に対しこれを不活性化する作用を有する物質を糊剤である1〜10%水溶液カルボン酸変性ポリビニルアルコール(以下CA−PVAと略記)水溶液に浸した後に、この不織布を加熱して糊剤を固定したものである。
この本発明のフィルターにおいて糊剤として用いているCA−PVAは、その水溶液に不織布を浸した後に加熱することにより、糊剤が不織布に付着した状態を保持する。また、この糊剤として用いたCA−PVAは、細菌類、ウイルス類を不活性化する作用を有する。このCA−PVAの性質を利用したのが本発明のフィルターである。つまり前記のようにCA−PVA水溶液に不織布を浸し、それを加熱することにより、通気性を有し、しかも長時間糊剤が付着して不織布に保持される状態を保つためにまたCA−PVAの細菌類、ウイルス類を不活性化の作用によって、フィルターとして長時間使用し得るようにしたものである。しかし、CA−PVAのウイルス等を不活性化する作用が弱いため、本発明では、細菌類、ウイルス類等を不活性化する物質例えば硫酸塩型またはスルホン酸塩型界面活性剤を混合することにより、前記糊剤の細菌類、ウイルス類を不活性化する作用を補い強化することにより、十分な空気の浄化が可能であるフィルターを構成し得た。
【0010】
また、細菌類、ウイルス類を不活性化する作用を有する物質として、硫酸塩型界面活性剤、スルホン酸塩型界面活性剤の代わりに、水溶液性のデキストラン硫酸を用いてもよい。
【0011】
つまり本発明のフィルターの他の例としては、CA−PVAにデキストラン硫酸を混合した水溶液に不織布を浸した後にこれを加熱乾燥したものである。
【0012】
本発明の他のフィルターは、不織布に糊を用いてイオン交換樹脂を添付して付着し、このイオン交換樹脂が容易に落ちることがないように加熱して形成したもので、通気性を保ったまま、イオン交換樹脂にウイルスや細菌類と付着させることによって空気中のウイルスや細菌類を除去し得るようにした。
【0013】
この本発明のフィルターにおいて、糊剤水溶液として、前述のCA−PVAの水溶液に浸漬した後にイオン交換樹脂を塗布して加熱したものである。
【0014】
このようにして作成した本発明のフィルターは、気体が容易に透過すると共に、不織布によりほこり等の除去作用を有し、更に、イオン交換樹脂のウイルス等の人体に有害な微生物を吸着して無害化することが可能である。
【0015】
したがって、この本発明のフィルターを例えば家庭用換気扇、ビル等における換気設備中に設けることにより、屋外の空気の汚れを除去し、微生物を不活性化して室内の環境を良好なものにすることが可能になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のフィルターは、一定の通気性が確保されそのため換気設備等での使用が可能であって、空気中に混入する細菌類やウイルス類を不活性化する効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に本発明のフィルターの実施の形態として、不織布に糊剤を用いてイオン交換樹脂を付着固定化したフィルターおよびその製造法について説明する。
【0018】
本発明のフィルターの一例は、不織布に糊剤としてCA−PVAを用いた点、そしてこれにイオン交換樹脂を塗布した上で加熱して固定化することにより布状であって空気の透過性が良く殺菌作用を有するフィルターを構成したものである。
【0019】
次に本発明のフィルターの製法を図にもとづいて説明する。
【0020】
図1は本発明の製法の工程の概要を示す図で(A)は全体を示し、(B)はホッパーを下より見た図である。この図1に示すように、原布ローラー1としてポリエステル繊維よりなる不織布を用い、この不織布2を糊剤水溶液槽3中を通した後に陽イオン交換樹脂を入れたホッパー4より陽イオン交換樹脂を塗布し、更にヒーター5により約105℃にて加熱して固定化し、巻き取りローラー6により巻き取る。
【0021】
このように巻き取りローラー6により巻かれた布状のフィルター2を必要とする寸法に切断した上で使用する。
【0022】
この本発明の方法において、不織布の原料としては、前述のポリエステル等の合成樹脂繊維が強度その他の点で好ましい。また、糊剤としては、CA−PVAが前述のように不織布に固定化した後は、長時間にわたってその状態を保つために、実用化等で有効であり、またそれ自身ウイルス等に対する不活性化作用を有するため好ましい。ここで、CA−PVAは、濃度が1%〜10%であることが好ましい。特にCA−PVAの水溶液の濃度が3〜7%であればより望ましい。また、カルボン酸の変性度は1〜4モル%であるが、高い変性度のポリビニルアルコールが望ましい。
【0023】
下記のカルボン酸変性ポリビニルアルコール(CA−PVA)は、熱処理によりCA−PVAのゲル化が進行する。したがって、CA−PVAを加熱することによりゲル化して不溶性にする。

【0024】
また、CA−PVAは、次の分子式にて表わされる。

【0025】
ここで、n=500以上であれば一般的に固体である。しかし、n=1000前後のものが取り扱いその他において好ましい。
【0026】
本発明では、糊剤としてのCA−PVAで、n=500以上の固体(フレーク状)のCA−PVAを水に溶解して水溶液として用いる。実際上、nの値が500〜2000の範囲内であればよい。
【0027】
また、CA−PVAは水に易溶であり、この不溶化は、次の手段によっても可能である。つまり30%ホルムアルデヒド(CH2O水溶液)に触媒として微量の硫酸を加えてPVA部分のOH基を脱水・環化反応によって下記のようにホルマール化させることにより不溶化し得る。

【0028】
これにより、加熱することなしにCA−PVAを不溶化させ、不織布に付着固化させることが可能である。
【0029】
この場合は、装置として図3に示すように、ヒータは必要なく、CA−PVAの水溶液槽3の次にCH2O水溶液槽20を配置した構成にすればよい。そして、二つの槽3と20を通った後にイオン交換樹脂を塗布して、糊剤と共に不織布に固定させてフィルターを構成し得る。
【0030】
しかし、この方法では、製品化された後にも不織布にホルムアルデヒド(CH2O)が残留し、それが脱着して室内がホルムアルデヒド臭にさらされるおそれがある。
【0031】
また、イオン交換樹脂としては、前述の物質が用いられる。またこのイオン交換樹脂中にゼオライト、シリカ、アルミナ系の酸性白土類を混入することがより望ましい。
【0032】
このゼオライト、シリカ、アルミナ系の酸性白度類は、その表面がpH1〜5で酸性である。そのため、これらを陽イオン交換樹脂に混合することにより、イオン交換樹脂の活性低下を防止し得る。
【0033】
このように、イオン交換樹脂にゼオライト、シリカ、アルミナ系の酸性白度類を混入する場合、イオン交換樹脂5〜95に対し、95〜5の割合で混入すれば良い。
【0034】
また、糊剤固定化のための加熱度は、100℃〜120℃の範囲であればよいが、105℃〜110℃の範囲内の温度が望ましい。
【0035】
ここで、イオン交換樹脂の径は1mm前後である。したがってそのまま不織布に糊剤に付着させて加熱固定化すれば、これをフィルターとして使用した場合、必要とする通気性を保ったまま、ウイルス類等の不活性化が可能である。しかし、不活性化の効果を増大させるため、あるいはフィルターの使用目的、使用場所等により、イオン交換樹脂の粒子径をより小さくすることが好ましいことがある。例えばイオン交換樹脂粒子径を、0.1〜0.3mm程度にすることが好ましい場合もある。一般には、1mm〜0.3mmの範囲内にて適宜選択して使用することが望ましい。
【0036】
以上の理由から、ホッパーよりイオン交換樹脂が落下して不織布上に塗布されるまでの間に、簡単な粉砕機構を設置することが好ましい。
【0037】
図2は、この粉砕機構を備えた本発明のフィルターを製造する装置の他の例を示す。
【0038】
図2において、1は原布ローラー、2は不織布、3は糊剤水溶液、4はホッパー、5はヒーター、6は巻き取りローラーであって、図1に示す装置と実質上同じ構成である。
【0039】
この図2の装置は、ホッパー4を覆う容器10を設けたもので、ホッパー4よりのイオン交換樹脂の落下部分に、例えばステンレス製のローラー11、12を設けたものである。そして、イオン交換樹脂がこのローラー11、12の間を通って不織布上に落下するようにしている。ここで、イオン交換樹脂は、このローラー11、12の間を通る際に粉砕されて、径の小さいイオン交換樹脂となり、不織布上に塗布される。
【0040】
この図2の装置において、ローラー11、12の間隔の調整を可能にし、この間隔調整によりほぼ所望の径のイオン交換樹脂を塗布し得るようにしている。
この図2の装置によれば、原布ローラー1よりの不織布2を糊剤水溶液であるCA−PVAの水溶液3中を通して、不織布を糊剤に浸した後に、ホッパー4よりのイオン交換樹脂をローラー11、12により粉砕して適宜な粒子径の粉体として、不織布2の上に塗布する。その後、ヒーター5により加熱してCA−PVAをゲル化して不溶化し、本発明のフィルターを巻き取りローラー6にて巻き取る。
【0041】
このようにして作られた本発明のフィルターは、糊剤の不溶化により不織布に固定されたイオン交換樹脂の径が小であり、しかも使用目的等に応じた所望の径のイオン交換樹脂が固定化されたフィルターを得ることができる。
【0042】
以上述べた本発明のフィルターのうち、イオン交換樹脂を含むフィルターを作成する方法において、糊剤へのイオン交換樹脂の付着を確実なものとし、それによって糊剤を加熱固化した後にイオン交換樹脂が糊剤と共に不織布との一体化を確実なものとして、フィルターとして使用中にイオン交換樹脂の不織布からの剥離を防止して細菌やウイルスの不活性化の作用を長く保つようにすることが望ましい。そのために、イオン交換樹脂を塗布した直後に圧着ローラー等を用いて、イオン交換樹脂が糊剤に確実に付着するようにすることが好ましい。
【0043】
この場合、ローラーによる圧着する手段を用いれば、糊剤の不織布への付着が不均一である場合、これを均一化することも可能になる。更に、イオン交換樹脂の塗布が不均一であっても不織布上での分布が比較的均一にし得る。
【0044】
このように、イオン交換樹脂を糊剤中に確実に混入させるための手段として、ローラーにより圧着する方法を用いた場合、加熱固化後の不織布の通気性が多少悪くなることが考えられる。これを防止するためには、ヒーターによる加熱固化直後に不織布に適宜な引っ張る力を加えて全体を若干拡げることにより、十分な通気性を確保することが可能である。
【0045】
図4は、前述の手段を実現するための装置の概要を示すものであり、(A)は側面より見た図、(B)は後に述べる移送部材の部分を下方より見た図である。図4(A)は、図1又は図2のように、イオン交換樹脂を塗布する工程を有する装置のうちのホッパー4までの工程は省略してある。つまり図1又は図2の装置により、不織布をCV−PVA等の糊剤に付けた後に、矢印Hの位置にてイオン交換樹脂が塗布される。その後不織布2は、図4に示すようにローラー21、22にて上下より圧力を加えられ、これにより、前述のように糊剤へのイオン交換樹脂の付着混入が確実になる。その後不織布2は、ヒーター5を通って、加熱されて糊剤は固化され、不織布2と糊剤とは一体化される。同時にイオン交換樹脂も糊剤と共に不織布に一体化される。同時にイオン交換樹脂も糊剤と共に不織布に一体化される。その後、例えば針を有する移送部材25、26、27を、図4(B)のように配置することにより、矢印Y1、Y2の方向に力を加えながら送ることにより、十分な通気性を確保した後に巻き取るようにしている。尚図4に示すものは一例であって、ローラー21、22はイオン交換樹脂を塗布した後にこれが不織布の糊剤により完全に付着させるための手段であればよい。同様に移送部材25、26、27は、フィルターの通気性をよくするための手段であれば、どのような構成のものであってもよい。
【0046】
以上述べた工程は、イオン交換樹脂を塗布して加熱して本発明のフィルターを製造する場合を例として述べた。
【0047】
前述の硫酸型界面活性剤等を付着させたフィルターも、同様の工程にて製造し得る。その場合、上記界面活性剤は、粉末であるため、糊剤であるCA−PVAの水溶液を入れた槽3に混入して分散させることにより、槽3を通った不織布2を槽内の糊剤を通すことにより、糊剤と界面活性剤とを、不織布に同時に付着させることができる。そして、この不織布をヒータ5を通すことにより加熱して糊剤であるCA−PVAをゲル化して不溶化すればよい。
【0048】
したがって、図1に示すイオン交換樹脂を塗布するためのホッパーは不要である。
【0049】
ここで用いる界面活性剤としては、硫酸塩型、スルホン酸塩型が好ましい。そして硫酸塩型としては硫酸ナトリウム一般式[CH3(CH2n−SO4Na]が望ましく、一般的に芳香族スルホン酸塩、硫酸塩よりも脂肪族スルホン酸塩あるいは硫酸塩の方が水に易溶であり、特に脂肪族硫酸ナトリウムが最も望ましい。またスルホン酸塩型としてはスルホン酸ナトリウム一般式[CH3(CH2n−SO3Na]が望ましく、特にアリファティック(脂肪族)スルホン酸ナトリウムが最も望ましい。
【0050】
同様に、細菌類、ウイルス類を不活性化する物質として水溶性のデキストラン硫酸を使用する場合も、これを糊剤水溶液槽中の糊剤に混合すればよい。したがってホッパーは用いる必要はない。
【0051】
このように、本発明のフィルターは、糊剤としてCA−PVAを用いることにより、細菌類やウイルス類を不活性化し得る界面活性剤やイオン交換樹脂を不織布に加熱固定化して安定した付着性を得られるようにして、布状であって、滅菌や菌を不活性化し得るフィルターを構成したものである。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明のフィルターを製造する際に用いられる装置の概要を示す図
【図2】本発明のフィルターを製造するための装置の他の例の概要を示す図
【図3】本発明のフィルターを製造するための装置の他の例の概要を示す図
【図4】本発明のフィルターを製造するための装置の他の例の概要を示す図
【符号の説明】
【0053】
1 原布ローラー
2 不織布
3 糊剤水溶液槽
4 ホッパー
5 ヒーター
6 巻き取りローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布を水溶性のデキストラン硫酸を添加したカルボン酸変性ポリビニルアルコール水溶液に浸した後に加熱乾燥したフィルター。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−39718(P2009−39718A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−284937(P2008−284937)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【分割の表示】特願2003−195591(P2003−195591)の分割
【原出願日】平成15年7月11日(2003.7.11)
【出願人】(503100728)有限会社T・I研究所 (3)
【Fターム(参考)】