説明

殺菌用水性組成物の判定用具

【課題】過酢酸等の有機カルボン酸過酸化物を有効成分として含む殺菌用水性組成物における該有機カルボン酸過酸化物の濃度が有効濃度であるか否かを、簡便にかつ正確に判定できる手段の提供。
【解決手段】ヨウ化カリウム、チオ硫酸イオン、及びデンプンを含み、有機カルボン酸過酸化物を有効成分として含む判定用具であって、該ヨウ化カリウムおよび該チオ硫酸イオンの質量比(ヨウ化カリウム/チオ硫酸イオン)が0.70〜0.3である判定用具、ならびに該質量比が相異なる2つ以上の前記判定用具を含むキット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は殺菌用水性組成物の判定用具に関する。より具体的には、本発明は有機カルボン酸過酸化物を有効成分として含む殺菌用水性組成物における該有機カルボン酸過酸化物の濃度が有効濃度であるか否かを判定するための判定用具および該判定用具を含むキットに関する。
【背景技術】
【0002】
医療用機器は、使い捨てにできず、患者に直接接触することから、より安全な殺菌を施して次の診療等に用いる必要がある。内視鏡等の医療用機器の洗浄及び殺菌用組成物としては、従来からグルタルアルデヒド等のアルデヒドを有効成分とする組成物が知られていたが、変異原性があり、芽胞に対する殺菌作用が不十分であるという問題があったことから、近年、これに代わり過酢酸を有効成分とする殺菌用組成物が広く用いられるようになってきた。
【0003】
過酢酸を有効成分とする殺菌用組成物としては、市販品として、アセサイド(登録商標)が知られている(非特許文献1)。アセサイドは、過酢酸、過酸化水素、酢酸を含む主剤と緩衝化剤からなり、殺菌用に用いられる際は、これらを精製水に加えて実用のための水溶液を調製する。このような水溶液は殺菌剤として7日程度繰り返し使用可能であるが、水溶液調製後は、温度、紫外線又は不純物混入などにより過酢酸濃度が低下するため、使用前に殺菌力が基準以上であるか否かを確認する必要がある。この確認はヨウ素−デンプン反応による呈色を利用した専用試験紙で前記水溶液が有効濃度の過酢酸を含むか否かを判定することにより行われてきた。すなわち、不十分な呈色を示すようになった場合に、上記水溶液における過酢酸が有効濃度未満であると判断される。
【0004】
しかしながら、この呈色の判定は、試験紙を前記水溶液に浸漬後10秒程度の時間において行わなければならず、時間が経過すると有効濃度未満の実用液であっても十分な呈色を示してしまうため、判定作業に制約があるとともに、誤判定をする可能性が高いという問題があった。
【非特許文献1】アセサイド6%消毒液カタログ、サラヤ株式会社(平成13年10月)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであって、過酢酸等の有機カルボン酸過酸化物を有効成分として含む殺菌用水性組成物における該有機カルボン酸過酸化物の濃度が有効濃度であるか否かを、簡便にかつ正確に判定できる手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行い、ヨウ化物イオンが過酸の酸化作用によりヨウ素となりデンプンと反応して、青紫色に呈色する反応を利用した試験紙における、ヨウ化カリウムと補助剤として添加されるチオ硫酸イオンとの質量比が、呈色の維持に影響を与えていることを見出した。本発明はこれらの知見を基に完成されたものである。
【0007】
すなわち本発明は、
ヨウ化カリウム、チオ硫酸イオン、及びデンプンを含み、有機カルボン酸過酸化物を有効成分として含む殺菌用水性組成物における該有機カルボン酸過酸化物の濃度が有効濃度であるか否かを判定するための判定用具であって、
該ヨウ化カリウムおよび該チオ硫酸イオンの質量比(ヨウ化カリウム/チオ硫酸イオン)が0.70〜0.3である判定用具を提供するものである。
【0008】
本発明の好ましい態様によれば、前記ヨウ化カリウムおよび前記デンプンの質量比(ヨウ化カリウム/デンプン)が0.3〜0.1である上記の判定用具が提供される。
【0009】
本発明のさらに好ましい態様によれば、前記有機カルボン酸過酸化物が過酢酸である上記いずれかの判定用具;前記有機カルボン酸過酸化物が一般式(I):
【化1】

(式中、R1は置換もしくは無置換のC1−C10のアルキル基、又は置換もしくは無置換のC6−C10のアリール基を示し、Lは置換もしくは無置換のC2−C12の2価の連結基を示し、R1とLは結合して環を形成してもよい)で表されるペルオキシカルボン酸である上記いずれかの判定用具;
前記有機カルボン酸過酸化物が、一般式(II)又は(III):
【0010】
【化2】

(式中、R2、R3、R4、及びR5は各々独立に水素、C1−C4アルキル基、C1−C4のアルコキシ基又はC1−C4アルコキシ置換C1−C4アルキル基を示し、L2は置換もしくは無置換のC1−C9アルキレン基、又は置換もしくは無置換のC6−C9アリーレン基を示し、L1は置換もしくは無置換のC1−C10の2価の連結基を示す)で表されるペルオキシカルボン酸である上記いずれかの判定用具;及び、
前記有機カルボン酸過酸化物が一般式(IV)又は(V):
【0011】
【化3】

(式中、R2、R3、R4、及びR5は各々独立に水素、C1−C4のアルキル基、C1−C4のアルコキシ基、又はC1−C4アルコキシ置換C1−C4アルキル基を示し、L2は置換もしくは無置換のC1−C9のアルキレン基、又は置換もしくは無置換のC6−C9のアリーレン基を示す)で表されるペルオキシカルボン酸である上記いずれかの判定用具が提供される。
【0012】
本発明のさらに好ましい態様によれば、基材として、紙、不織布、又は多孔性ポリマーシートを含む上記いずれかの記載の判定用具;前記有効濃度が27mM以上である上記いずれかの記載の判定用具が提供される。
【0013】
本発明の別の観点からは、前記ヨウ化カリウム及び前記チオ硫酸イオンの質量比が相異なる2つ以上の上記いずれかの判定用具を含む、有機カルボン酸過酸化物を有効成分として含む殺菌用水性組成物における該有機カルボン酸過酸化物の濃度が有効濃度であるか否かを判定するためのキット;及び、前記ヨウ化カリウム及び前記チオ硫酸イオンの質量比が相異なる3つの上記いずれかの判定用具からなる、有機カルボン酸過酸化物を有効成分として含む殺菌用水性組成物における該有機カルボン酸過酸化物の濃度が有効濃度であるか否かを判定するためのキットが提供される。
【0014】
本発明のさらに別の観点からは、有機カルボン酸過酸化物を有効成分として含む殺菌用水性組成物における該有機カルボン酸過酸化物の濃度が有効濃度であるか否かを、ヨウ化カリウム、チオ硫酸イオン、及びデンプンを含む判定用具の呈色反応により判定する方法であって、
該ヨウ化カリウムおよび該チオ硫酸イオンの質量比が異なる2以上の判定用具を併用する方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、有機カルボン酸過酸化物を有効成分として含む殺菌用水性組成物における該有機カルボン酸過酸化物の濃度が有効濃度であるか否かを簡便にかつ正確に判定できる判定用具が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
ヨウ素−デンプン反応は、デンプンおよびヨウ素が複合体を形成し青紫色を呈する反応をいうが、ヨウ化カリウムおよびデンプンの存在下では、過酸の酸化作用により、ヨウ化物イオンがヨウ素になり、この呈色を示すため、過酸の存否の判定などに用いることができる。すなわち、有機カルボン酸過酸化物を有効成分として含む殺菌用水性組成物における該過酸化物の有効濃度と無効濃度の臨界点において、呈色に差異があるようにヨウ化カリウムおよびデンプンの濃度を設定することによって、該有機カルボン酸過酸化物の濃度が有効濃度であるか否かの判定に用いることができる。
【0017】
本発明の判定用具は、このようにヨウ素−デンプン反応を利用した判定用具であって、ヨウ化カリウムと還元剤かつ呈色を保つための補助剤として添加されるチオ硫酸イオンとの質量比(ヨウ化カリウム/チオ硫酸イオン)が、0.70〜0.3である判定用具であることを特徴とする。該質量比は0.60〜0.3であることが好ましく、0.40〜0.3であることがより好ましい。なお、本明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本発明者らが分析を行ったところ、従来知られている試験紙におけるヨウ化カリウムとチオ硫酸イオンとの質量比は、0.75であったが、本発明において、0.70以下となるように調製することにより、呈色の保持時間等が大幅に改善した。また、有機カルボン酸過酸化物が有効濃度で存在する場合に十分な呈色を示すため、ヨウ化カリウムとチオ硫酸イオンとの質量比は、0.3以上であることが好ましい。
【0018】
上記質量比は判定用具を調製するための溶液において調整することができる。
判定用具を調製するための溶液としては、例えば溶媒として水が用いられ、ヨウ化カリウム、デンプン、チオ硫酸イオン等が溶解される。
ヨウ化カリウムは、試薬又は製造用として市販されているものであればよく、例えば「よう化カリウム」(和光純薬工業164-03977)等を用いることができる。判定用具を調製するための溶液における濃度は0.1〜10質量%の範囲であればよい。
デンプンとしてはトウモロコシやバレイショ等の由来のものでよく、可溶化し易いものが好ましい。例えば「でんぷん溶性」(和光純薬工業197-03987)が用いられ、判定用具を調製するための溶液におけるデンプンの濃度は0.5〜10質量%の範囲であればよい。ヨウ化カリウムおよび前記デンプンの質量比(ヨウ化カリウム/デンプン)は0.3〜0.1であることが好ましい。
チオ硫酸イオンの供給源としては、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸カルシウム、又はチオ硫酸アンモニウムなどのチオ硫酸塩を用いることができるが、チオ硫酸アンモニウムを用いることが好ましい。判定用具を調製するための溶液におけるチオ硫酸イオン濃度は、ヨウ化カリウムとの濃度比が上述の範囲となるように調製される。
判定用具を調製するための溶液にはさらに、酸化分解防止の目的で亜硫酸ナトリウム、イオン濃度調節などのために塩化カリウム、環境中の微生物による変質を避けるための防菌剤などを添加してもよい。
【0019】
本発明の判定用具は、上述の判定用具を調製するための溶液に基材を浸し、乾燥させることにより製造すればよい。基材としては、紙、不織布、多孔性ポリマーシートなどを用いることができる。
紙は吸水性のよいものが好ましく、例えば定量分析用ろ紙No.5C(アドバンテック東洋)を挙げることができる。不織布としてはフィルター等に用いられている材料を使用することができ、例としてはポリプロピレン不織布のスプリトップSP(日本不織布)を挙げることができる。多孔性ポリマーシートの例としては、ろ過用に市販されているセルロース縮合エステルメンブレンフィルター(ミリポア)を挙げることができる。
【0020】
さらに、本発明の判定用具はさらに、使用時の利便性のための材料を有していてもよい。
このような材料としては、プラスチック板が挙げられる。例えば、厚さ0.1mm〜0,5mm、縦5cm〜10cm、横3mm〜2cm程度のプラスチック板に、ヨウ化カリウム等を含む基材を接着して判定用具として提供することができる。
【0021】
上述のように調製された判定用具を、有機カルボン酸過酸化物を有効成分として含む殺菌用水性組成物に浸漬し、呈色を観察することによって、該組成物が有効濃度の有機カルボン酸過酸化物を含むか否かを判定することが可能である。すなわち、判定用具が濃紫色への完全な呈色を示した場合に有効濃度であり、不完全な呈色(発色するがムラのある場合など)を示した場合に無効濃度であると判定することができる。判定は従来技術と同様に、上記浸漬10秒後において行うことも可能であるが、20秒後〜5分後、好ましくは、20秒後〜120秒後においても正確な判定が可能である。
【0022】
また、さらに正確な判定を行うために、ヨウ化カリウムとチオ硫酸イオンとの質量比の異なる複数の本発明の判定用具を併用することも好ましい。この複数の判定用具を用いることにより、呈色の度合と呈色状態の維持が異なる結果を同時に得ることができ、特に有効濃度近辺において、正確な判定が可能となる。ヨウ化カリウムとチオ硫酸イオンとの質量比(ヨウ化カリウム/チオ硫酸イオン)としては、0.70〜0.3の範囲の上限近辺および下限近辺で2つ、又は、上限近辺、下限近辺およびその中間値で3つ程度とることが好ましく、例えば、0.70〜0.6、0.55〜0.45、および0.4〜0.3のそれぞれの範囲の質量比を有する判定用具を併用することができる。チオ硫酸イオンとの質量比の異なる複数の本発明の判定用具はキットとして提供することができる。キットとしては、例えば、ヨウ化カリウム等を含む基材を接着させたプラスチック板を連結した短冊型のキットなどが挙げられるが、複数の質量比の判定用具の呈色反応を同時に開始させることができる形態であればよく、特に限定されない。
【0023】
本発明の判定用具により有効濃度の判定が可能である有機カルボン酸過酸化物は特に限定されないが、過酢酸、および下記一般式(I)〜(V)で表されるペルオキシカルボン酸が好ましい例として挙げられる。
【化4】

(式中、R1は置換もしくは無置換のC1−C10のアルキル基、又は置換もしくは無置換のC6−C10のアリール基を示し、Lは置換もしくは無置換のC2−C12の2価の連結基を示し、R1とLは結合して環を形成してもよい);
【0024】
【化5】

(式中、R2、R3、R4、及びR5は各々独立に水素、C1−C4アルキル基、C1−C4のアルコキシ基又はC1−C4アルコキシ置換C1−C4アルキル基を示し、L2は置換もしくは無置換のC1−C9アルキレン基、又は置換もしくは無置換のC6−C9アリーレン基を示し、L1は置換もしくは無置換のC1−C10の2価の連結基を示す)
【0025】
【化6】

(式中、R2、R3、R4、及びR5は各々独立に水素、C1−C4のアルキル基、C1−C4のアルコキシ基、又はC1−C4アルコキシ置換C1−C4アルキル基を示し、L2は置換もしくは無置換のC1〜C9のアルキレン基、又は置換もしくは無置換のC6〜C9のアリーレン基を示す)。
【0026】
1で示される無置換のC1−C10のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、2−エチルヘキシル基などを挙げることができる。R1で示されるC1−C10のアルキル基は置換基を有していてもよいが、置換基としてOH基を有する置換基(水酸基、カルボキシ基、ヒドロペルオキシ基、及びヒドロペルオキシカルボニル基など)は除く。R1で示されるC1−C10のアルキル基の置換基としては、ハロゲン原子、アルコキシ基、又はアルキルスルホニル基などを挙げることができる。
【0027】
1で示されるC6−C10の無置換のアリール基としてはフェニル基を挙げることができる。R1で示されるC6−C10の無置換のアリール基は置換基を有していてもよく、置換基としてはアルキル基、アルコキシ基、スルホニル基、水酸基、カルボキシル基などを挙げることができる。
【0028】
1としては、C1〜C4の置換若しくは無置換のアルキル基が好ましく、C1〜C4の無置換のアルキル基がより好ましい。R1が示すC1−C4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、又はtert−ブチル基などを挙げることができる。R1として、最も好ましくはメチル基、エチル基であるが、これらに限定される事はない。
【0029】
一般式(I)において、Lは置換もしくは無置換の炭素数2−12の2価の連結基を表す。置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、アルコキシ置換アルキル基、カルボキシル基などを挙げる事ができる。また、連結基中に例えば酸素原子、窒素原子などの炭素以外の分子を含んでもよい。Lとしては、CHR11−L12(R11は水素原子又はC1〜C4の置換もしくは無置換のアルキル基を示し、L12は置換もしくは無置換のC1−C11の2価の連結基を示す)が好ましい例として挙げられる。このとき、L12としては置換又は無置換のC1−C4の2価の連結基が好ましく、置換又は無置換のメチレン基がより好ましく、メチレン基又はメチル基置換メチレン基(CH(CH3))がさらに好ましく、メチレン基が最も好ましい。
【0030】
一般式(II)、(III)、又は(V)において、L1は、置換もしくは無置換のC1−C10の2価の連結基を表す。置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、アルコキシ置換アルキル基、カルボキシル基などを挙げる事ができる。また、連結基中に例えば酸素原子、窒素原子などの炭素以外の分子を含んでもよい。L1としては、CHR12−L13(R12は水素原子又はC1〜C4の置換もしくは無置換のアルキル基を示し、L13は置換もしくは無置換のC1−C9の2価の連結基を示す)が好ましい例として挙げられる。このとき、L13としては置換又は無置換のC1−C4の2価の連結基が好ましく、置換又は無置換のメチレン基がより好ましく、メチレン基又はメチル基置換メチレン基(CH(CH3))がさらに好ましく、メチレン基が最も好ましい。
【0031】
2、R3、R4、又はR5が示すC1−C4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、又はtert−ブチル基などを挙げることができ、好ましくはメチル基を挙げることができるが、これらに限定されない。R2、R3、R4、又はR5が示すC1−C4アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、又はブトキシ基などを挙げることができ、好ましくはメトキシ基、エトキシ基を挙げることができるが、これらに限定されない。R2、R3、R4、又はR5が示すC1−C4アルコキシ置換C1−C4アルキル基としては、メトキシメチル基、エトキシメチル基、プロポキシメチル基、ブトキシメチル基、又はエトキシエチル基などを挙げることができ、好ましくはメトキシメチル基、エトキシメチル基を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0032】
一般式(III)又は(V)において、L2が表す2価の連結基としては、置換又は無置換のC1−C9のアルキレン基が好ましく、置換又は無置換のC1−C3のアルキレン基がより好ましく、C1−C3の無置換のアルキレン基がさらに好ましい。L2が示すC1−C3の無置換のアルキレン基として好ましくは、メチレン基、エチレン基を挙げることができ、より好ましくはメチレン基である。
【0033】
上記一般式(I)〜(V)で表されるペルオキシカルボン酸は、置換基の種類により、1個又は2個の不斉炭素を有する場合がある。この場合、該カルボン酸は、1個又は2個の不斉炭素に基づく光学的に純粋な任意の光学異性体、上記の光学異性体の任意の混合物、ラセミ体、2個の不斉炭素に基づくジアステレオ異性体、上記ジアステレオ異性体の任意の混合物などの、いずれであってもよい。
上記ペルオキシカルボン酸の具体例を以下に示すが、下記に限定されることはない。
【0034】
【化7】

【0035】
【化8】

【0036】
【化9】

【0037】
【化10】

【0038】
【化11】

【0039】
【化12】

【0040】
【化13】

【0041】
上記一般式(I)〜(V)で表されるペルオキシカルボン酸は、Organic peroxides, vol.I, pp 313-474(Daniel Swern, John Wiley & Sons, Inc., New York, 1970)などに記載されている公知のペルオキシカルボン酸の合成方法に準じて合成することができる。具体的には、例えばカルボン酸と過酸化水素との反応により合成することができる。また、カルボン酸と過酸化水素との反応においては、反応の触媒として強酸を用いることが効果的である。この強酸としては、硫酸、リン酸などを用いることができるが、スルホン酸基を有する強酸性イオン交換樹脂や、ナフィオンなどの固体酸触媒を用いることもできる。
【0042】
上記ペルオキシカルボン酸の合成で用いられるカルボン酸としては、市販のカルボン酸を用いることができるが、適宜公知の方法により合成したカルボン酸を用いることもできる。例えば3−アルコキシプロピオン酸は、J.Am.Chem.Soc., 70,1004(1948)に記載されている様にβ−プロピオラクトンとアルコールとの反応や、J.Am.Chem.Soc., 69,2967(1947),77,754(1955)に記載されている様に、アクリル酸エステルとアルコキサイドとの反応で得られる3−アルコキシプロピオン酸エステルの加水分解によって合成することが可能である。
また、3位よりカルボニル基から遠い位置がアルコキシ置換されたカルボン酸はJ.Org.Chem., 59,2253(1994)に記載されている様にβ〜δ−ラクトンとアルコールとの反応により合成することが可能である。
【0043】
本発明の判定用具により有効濃度の判定が可能である殺菌用水性組成物は、例えば、過酢酸および上記一般式(I)〜(V)で表されるペルオキシカルボン酸から選択される1種又は2種以上を含む。なお本明細書において、「水性組成物」とは水を含む溶液状態の組成物を意味する。
有機カルボン酸過酸化物の殺菌用水性組成物における有効濃度は過酸化物の種類により、若干異なるが、通常27mM以上である。有効濃度は、必要に応じて用いる有機カルボン酸過酸化物濃度ごとに殺菌活性を測定し決定することもできる。
【0044】
また、殺菌用水性組成物は、過酢酸又は上述のペルオキシカルボン酸のほかに、酢酸もしくは該ペルオキシカルボン酸に対応するカルボン酸及び/又は過酸化水素を含んでいてもよい。本明細書において、ペルオキシカルボン酸に対応するカルボン酸とは、該ペルオキシカルボン酸のペルオキシカルボキシル基がカルボキシル基である化合物を意味する。
さらに、殺菌用水性組成物は、上記の成分のほかに1又は2以上の添加剤を含んでいてもよい。添加剤の例としては、腐食防止剤、可溶化剤、pH調整剤、金属封鎖剤、安定化剤、界面活性剤、及び再付着防止剤等が挙げられる。
【0045】
なお、本明細書において用いられる「殺菌」という用語には、「洗浄」、「消毒」、「抗菌」、及び「滅菌」などの意味が含まれる。殺菌用水性組成物の用途は特に限定されず、液体又は固体の殺菌のほか、汚染された気相の殺菌に用いることができる。内視鏡等の医療機器の場合、通常機器を浸漬させることによって両者を接触させて殺菌が行われる。殺菌用水性組成物は繰り返し使用が可能であるが、複数回の使用や時間の経過によって、有機カルボン酸過酸化物濃度は低下していく。使用前に本発明の判定用具を用いて殺菌に有効な濃度であるか否かを確認することにより、殺菌用水性組成物を効率よく使用することが可能となる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
例1.有機カルボン酸過酸化物濃度の判定用具の調製
(デンプン溶液の調製)
純水 800ml
溶性デンプン 30g(和光純薬工業製)
KCl 0.88g(和光純薬工業製)
亜硫酸ナトリウム 1.18g(和光純薬工業製)
チオ硫酸アンモニウム 14.85g(和光純薬工業製)
デンプンを2リットルのビーカーに入れ、純水を徐々に加え約30分膨潤後、約50℃の温水にビーカーを浸し攪拌溶解した。溶解したデンプン液に、KCl以下の薬品を添加して溶解、その後30℃以下に冷まし、純水を加えて1リットルにした。
【0047】
(ヨウ化カリウムデンプン液の調製)
上記で調製したこのデンプン溶液を300mlずつ採取し、分画A、 B、Cとした。以下の量のKIを各分画に添加し溶解した。
A: 2.22g B: 1.79g C: 1.31g
【0048】
(判定用具の調製)
皿状容器に上記で調製したヨウ化カリウムデンプン液を入れ、約12cm2のろ紙(アドバンテック東洋製 No.5C)を浸した。冷暗所下で乾燥後、6mm角に裁断し、幅6mm、長さ7cmの白色プラスチック板(クリスタルペーパー用台紙:富士写真フイルム製)の端に両面テープで接着し判定用具とした。
ここで調製した判定用具をそれぞれ判定用具A、判定用具B、判定用具Cとした。判定用具A〜Cのヨウ化カリウムとチオ硫酸イオンの質量比(KI/S23)を計算したところ、下記のようであった。
A:0.66 B:0.53 C:0.39
【0049】
(比較試料用判定用具の調製)
KI/S23=0.75となるように、上記と同様の工程で比較用判定用具Dを調製した。
【0050】
例2.有機カルボン酸過酸化物濃度の確認
過酢酸及び例示化合物2の40mM溶液(有効濃度)と、25mM溶液(無効濃度)を調製した。調製方法はJP2005/024160に準じた。この4液を10mlずつシャーレに注ぎ入れた。例1で調製した判定用具A〜Dをこれらの液に2秒ほど浸漬し、取り出した後、市販のペーパータオルに判定用具の端を接触させ、余分な液を除去した。浸漬開始時からの経時に応じて判定用具の発色状況を観察した。結果を表1〜4に示す。表中記号は以下の状態を意味する。

◎:完全に濃紫色 ○:紫色 △:紫色発色するがムラあり ×:茶褐色でムラあり
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
【表4】

【0055】
表1〜4からわかるように、比較例の判定用具においては20秒後に有効濃度であるか否かの判別ができなくなったが、本発明の判定用具では判別可能であった。すなわち、判定用具A、判定用具B、判定用具Cでは、より確実に無効濃度であることの判別ができた。さらに、ヨウ化カリウムとチオ硫酸イオンとの質量比が0.53および0.39である本発明の判定用具では120秒後の判定も可能であった。また、表4に示す段階的な呈色状況から、ヨウ化カリウムとチオ硫酸イオンとの質量比が異なる判定用具を2つ以上用いることにより、精度の高い判定が可能であるとともに判定可能な時間が長くなることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ化カリウム、チオ硫酸イオン、及びデンプンを含み、有機カルボン酸過酸化物を有効成分として含む殺菌用水性組成物における該有機カルボン酸過酸化物の濃度が有効濃度であるか否かを判定するための判定用具であって、
該ヨウ化カリウムおよび該チオ硫酸イオンの質量比(ヨウ化カリウム/チオ硫酸イオン)が0.70〜0.3である判定用具。
【請求項2】
前記ヨウ化カリウムおよび前記デンプンの質量比(ヨウ化カリウム/デンプン)が0.3〜0.1である請求項1に記載の判定用具。
【請求項3】
前記有機カルボン酸過酸化物が過酢酸である請求項1又は2に記載の判定用具。
【請求項4】
前記有機カルボン酸過酸化物が一般式(I):
【化1】

(式中、R1は置換もしくは無置換のC1−C10のアルキル基、又は置換もしくは無置換のC6−C10のアリール基を示し、Lは置換もしくは無置換のC2−C12の2価の連結基を示し、R1とLは結合して環を形成してもよい)で表されるペルオキシカルボン酸である請求項1又は2に記載の判定用具。
【請求項5】
前記有機カルボン酸過酸化物が、一般式(II)又は(III):
【化2】

(式中、R2、R3、R4、及びR5は各々独立に水素、C1−C4アルキル基、C1−C4のアルコキシ基又はC1−C4アルコキシ置換C1−C4アルキル基を示し、L2は置換もしくは無置換のC1−C9アルキレン基、又は置換もしくは無置換のC6−C9アリーレン基を示し、L1は置換もしくは無置換のC1−C10の2価の連結基を示す)で表されるペルオキシカルボン酸である請求項1又は2に記載の判定用具。
【請求項6】
前記有機カルボン酸過酸化物が一般式(IV)又は(V):
【化3】

(式中、R2、R3、R4、及びR5は各々独立に水素、C1−C4のアルキル基、C1−C4のアルコキシ基、又はC1−C4アルコキシ置換C1−C4アルキル基を示し、L2は置換もしくは無置換のC1−C9のアルキレン基、又は置換もしくは無置換のC6−C9のアリーレン基を示す)で表されるペルオキシカルボン酸である請求項1又は2に記載の判定用具。
【請求項7】
基材として、紙、不織布、又は多孔性ポリマーシートを含む請求項1〜6のいずれか一項に記載の判定用具。
【請求項8】
前記有効濃度が27mM以上である請求項1〜7のいずれか一項に記載の判定用具。
【請求項9】
前記ヨウ化カリウム及び前記チオ硫酸イオンの質量比が相異なる2つ以上の請求項1〜8のいずれか一項に記載の判定用具を含む、有機カルボン酸過酸化物を有効成分として含む殺菌用水性組成物における該有機カルボン酸過酸化物の濃度が有効濃度であるか否かを判定するためのキット。
【請求項10】
前記ヨウ化カリウム及び前記チオ硫酸イオンの質量比が相異なる3つの請求項1〜8のいずれか一項に記載の判定用具からなる、有機カルボン酸過酸化物を有効成分として含む殺菌用水性組成物における該有機カルボン酸過酸化物の濃度が有効濃度であるか否かを判定するためのキット。
【請求項11】
有機カルボン酸過酸化物を有効成分として含む殺菌用水性組成物における該有機カルボン酸過酸化物の濃度が有効濃度であるか否かを、ヨウ化カリウム、チオ硫酸イオン、及びデンプンを含む判定用具の呈色反応により判定する方法であって、
該ヨウ化カリウムおよび該チオ硫酸イオンの質量比が異なる2以上の判定用具を併用する方法。

【公開番号】特開2008−14685(P2008−14685A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−184006(P2006−184006)
【出願日】平成18年7月4日(2006.7.4)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】