説明

毒素に対するLL−37由来のペプチド性阻害剤

本発明は、毒素、特にリポ多糖やリポタイコ酸などの細菌毒素への親和性を有するペプチド性化合物の群に関する。上記化合物はそのような毒素を阻害または中和することができる。さらに、本発明は、上記化合物を治療剤または診断剤として用いる方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毒素、特に、リポ多糖(LPS)やリポタイコ酸(LTA)などの真菌毒素と細菌毒素への親和性を有し、そのような毒素を阻害または中和可能な化合物に関する。さらに、本発明は、上記化合物を調製する方法、該化合物を用いた治療方法および診断方法、該化合物を含有する組成物、該化合物をコードする遺伝物質および該化合物の投与方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近代の薬物療法は、前世紀の中頃まで早逝の主要な原因の1つであった微生物感染、特に細菌感染との戦いにおいて大きな成功を収めてきた。しかし、最近では、細菌の耐性が絶ず増強していることから、効果の高い抗生物質が広く用いられていることに関する懸念が生じている。実際、過去25年に亘り、試験した細菌のほぼ全種において、抗生物質への耐性(特に、多様な抗生物質に対する多剤耐性)が強まってきている。現在では、通常の耐性機構に影響されない最新型の抗菌物質の使用により、多剤耐性型変異体が選択されたものと考えられている。
【0003】
このような展開に鑑みて、専門家らは、農業およびヒトの医学の両方において、抗生物質の使用を従来以上に一層制限することを勧めている。例えば、軽度の感染症(特に、感冒などの、典型的には細菌による感染症でさえないもの)は、抗生物質で治療すべきではなく、抗生物質は、むしろ、より重篤な病態のためにとっておくべきである。さらに、細菌感染症を治療するための、全く違うタイプの薬理活性、好ましくは、一般的な抗生物質に対する細菌の耐性から独立した活性、を有する新規化合物を開発する必要がある。
【0004】
抗生物質が広く用いられていることが議論を呼んでいる病態の1つが、急性または慢性の中耳炎である。初期の急性中耳炎(AOM)に抗生物質治療が導入された後、滲出性中耳炎(OME)(即ち、急性感染の症状がなく、中耳に液体が存在することを特徴とする耳炎の一種)の患者数が劇的に増加したことが指摘されており、これは抗生物質そのものがOMEに関与していることを示す(Lim et al., Laryngoscope 92, 278-286, 1982)。ペニシリンのような抗生物質は、局所免疫応答(例えば、中耳における局所IgMの産生)の発生に干渉すると考えられている(Howie et al., Ann. Otol. Rhinol. Laryngol. 85 Suppl. 25, 18-19, 1976)。抗生物質治療の他の不利益は、細菌を殺してもその毒素は活性なままであることである。
【0005】
細菌感染または真菌感染に起因する上記のような病態および他の病態を治療するために、微生物や病原菌(germs)自体を殺すのではなく、それらの毒素を中和し、宿主の自然な防御機構が感染の拡大を抑制できるようにする化合物を用いることが有用であると提案されている(Nell, The Role of Endotoxin in the Pathogenesis of Otitis Media With Effusion(滲出性中耳炎の病因におけるエンドトキシンの役割), 博士論文, ライデン, 1999)。同時に、この方法は、損なわれた粘膜機能の迅速な回復を支える。
【0006】
多くの感染性の病態(例えば、耳炎)に関与する微生物毒素(例えば、真菌毒素および、特に細菌毒素)の主要な役割の1つを担うのがエンドトキシンである。エンドトキシンは、毒性の強い脂質部分であるリピドAと結合した多糖からなる、グラム陰性菌の細胞壁に存在するリポ多糖(LPS)群である。OMEを処置するための近年の治療法の1つが、エンドトキシン(即ちLPS)を中和する化合物を投与することである(Nell, ibid.)。
【0007】
エンドトキシン(即ちLPS)を中和可能な種々の化合物が現在知られている。例えば、複数の抗エンドトキシン抗体、例えば、ヒト モノクローナルIgM抗体であるHA−1Aおよびマウス(mural)モノクローナルIgM抗体であるE5が開発されている。このような抗体は、敗血症性ショックなどの重症患者の生存率を向上することが示されている(Ziegler et al., New Engl. J. Med. 324, 429-436, 1991)。しかし、これら抗体の活性および特異性は不十分であると考えられている。
【0008】
エンドトキシンに対して活性を有する他の物質群は、好中球のアズール顆粒内に貯蔵され、細菌透過性増加タンパク質(bacterial permeability-increasing protein)(BPI)と呼ばれるヒト 内因性タンパク質に由来する(Gazzano-Santoro et al., Infection and Immunity 60:11, 4754-4761, 1992)。BPIは強カチオン性のタンパク質であり、遊離のエンドトキシンを中和するだけでなく、細菌外膜の透過性を増加させることによって、細菌細胞そのものを阻害するか殺す。確かに、BPIは、LPSおよび腫瘍壊死因子(TNF)などの他のいくつかの誘因の存在によって産生誘導される、強力な天然抗生物質である。しかし、その活性の大部分は、それを合成する免疫細胞、つまり多形核のマクロファージに関連する。
【0009】
BPIに由来するいくつかの組換えタンパク質も開発されている。例えば、BPIのN末端部の大部分に相当するrBPI23(Kohn et al., 1993)(分子量23kDa)およびrBPI21(Horwitz et al., 1996)(分子量21kDa)が挙げられる。BPIおよびBPI由来の化合物をOMEの治療に用いる方法は、例えば、WO−A−00/71149に記載されている。
【0010】
抗微生物活性を有する天然化合物の他のファミリーとしては、呼吸上皮細胞、肺胞マクロファージおよびその他の組織によって産生されるペプチドのクラスである、カテリシディン(cathelicidins)が挙げられる。この化合物は、天然の形態では、鎖状で、α−らせん状の、システインを含有しないペプチドまたはタンパク質である。カテリシディンはカチオン性であり、保存性の高いシグナル配列とプロ領域(pro-region)であるカテリン(cathelin)を包含する。しかし、成熟ペプチドをコードするカテリシディンのC末端ドメインは、かなりの不均一性を示す。このペプチドは12〜80個のアミノ酸を有する。
【0011】
最も重要なヒト カテリシディンは、18kDaカチオン性抗微生物タンパク質であるCAP18である。CAP18の37個のC末端アミノ酸、即ちペプチドLL−37は、LPSへの高親和性および中和能に関与するドメインに相当する(Sawa et al., Antimicr. Agents Chemother. 42:12, 3269-3275, 1998)。CAP18またはLL−37に由来するいくつかの短縮されたペプチド(truncated peptides)が開発、試験されている。これらの例としては、Sawa(Sawa et al., ibid.)、Gutsmann(Gutsmann et al., Biophys. J. 80, 2935-2945, 2001)、米国特許第6,040,291号およびそのヨーロッパの対応であるEP−A−0,955,312などの文献に開示されているものが挙げられる。
【0012】
さらに、Clinical and Diagnostic Laboratory Immunology 9 (5) (2002) 972-982 の、Nagaoka Isao et al. による論文およびInfection and Immunity 66 (5) (1998), 1861-1868 の Kirikae et al. による論文に参照する。
【0013】
Nagaoka et al. は、LL−37のアミノ酸配列およびそれに由来する18量体であるK15−V32について述べており、また、Kirikae et al. は、CAP18に由来する多数の特許に焦点を当てている。
【0014】
このように、LL−37に由来し、天然アミノ酸配列が保存されている短縮されたペプチド、そして、特にそのようなペプチドのうち、アミノ酸配列であるKEFKRIVQRIKDFLRNLVを含むものが、従来技術に開示されている。
【0015】
一般的に、治療用化合物の先導的な候補(lead candidates for therapeutical compounds)としては、いくつかの理由により、CAP18のようなタンパク質に比べ、比較的小さいペプチドが好まれる。まず、小さいペプチドは、その望ましい活性および特異性を保存または増強するための最適化、適合および修飾がより簡単にできる。次に、入手または合成がより簡単であり、よってより利用しやすい。そして、タンパク質が、腸管外投与以外の方法で投与した後しばしば不安定で生物学的利用能がなくなるのに対して、処方および送達がより簡単である。
【0016】
発明の目的
従来技術における努力にも関わらず、耳炎などの細菌によって誘発される疾病や病態を治療するための医薬物質(pharmaceutical agents)として役立つか、あるいは新規医薬物質の開発の手掛かりとなる、LPS中和活性およびLTA中和活性を有するさらなるペプチドおよびペプチド性化合物(peptidic compound)の必要性がある。
【0017】
さらに、上記のような化合物で、サイトカイン産生の刺激、T細胞増殖、細胞外シグナル調節キナーゼ(extracellular signal-related kinases)(ERK)の活性化、または好中球の走化性などの望ましくない炎症活性を有さない、またはほとんど有さない化合物の継続的な必要性がある。上記に挙げた炎症活性は全て、現在知られているCAP18に由来するペプチドの活性スペクトルの一部である。
【0018】
本発明の主要な目的の1つは、微生物毒素、特に、リポ多糖(LPS)やリポタイコ酸(LTA)などの真菌毒素および細菌毒素への親和性および中和能を有し、同時に炎症活性の減少した新規化合物を提供することである。
【0019】
本発明のさらなる目的は、LL−37(およびCAP18)に由来する既知の天然アミノ酸配列を、親和性および中和機能または阻害機能をほぼ同様のレベルで保持する、あるいはさらに高めるように調整し、同時にペプチドの安定性を最適化することである。
【0020】
本発明の他の目的は、上記化合物を調製する方法のみならず、治療方法および診断方法、ならびに治療用組成物および診断用組成物を提供することである。
【0021】
本発明のこれら及びその他の諸目的は、以下に述べる本発明の説明に基づいて明らかになる。
【0022】
発明の概要
1つの態様においては、本発明は、リポ多糖(LPS)またはリポタイコ酸(LTA)への親和性を有する化合物を提供する。この化合物は化学的性質においてはペプチド性であって、アミノ酸配列であるX1KEFX2RIVX3RIKX4FLRX5LVX6 (以下、「コア(アミノ酸)配列」と称することもある)(式中、X1は配列のN末端部を表し;X2はKまたはEであり;X3はQまたはEであり;X4はDまたはRであり;X5はNまたはEであり;そしてX6はC末端部を表し;コア配列中の少なくとも1個のアミノ酸が誘導体化されていてもよく、N末端部がアセチル化されている、および/または、C末端部がアミド化されている、および/または、該アミノ酸配列が、天然アミノ酸配列であるX1KEFKRIVQRIKDFLRNLVX6とは異なる)を含む。
【0023】
他の1つの態様においては、本発明は、上記化合物を調製する方法を提供する。この方法は、アミノ酸モノマーまたはオリゴマーの化学的連結や酵素的連結により化合物を構築することを含む。この方法はまた、宿主細胞を核酸配列でトランスフェクトするためのベクターを用いて、該化合物をコードする核酸配列を宿主細胞において発現させることを含む。本発明の化合物を調製する方法は、アミノ酸モノマー、アミノ酸オリゴマー、あるいはアミノ酸類似体または模倣体(mimetics)のモノマーまたはオリゴマーを、液相において、および/または機能化した固相との界面で、化学的または酵素的に連結させることにより構築する。
【0024】
さらなる態様においては、本発明は、細菌毒素、特にLPSおよびLTAの存在に関連または起因する疾病および病態の診断、予防および治療からなる群より選ばれる少なくとも1種に適する医薬組成物または診断用組成物の調製に本発明の化合物を用いる方法に関する。これらの毒素は、生体中に感染性の細菌自体が存在しなくなっても、その生体に影響を及ぼすことがある。本発明の化合物を包含する診断用組成物は、in vivo または in vitro で用いることができる。本発明の化合物を包含する医薬組成物は、典型的には、少なくとも1種の薬学的担体および/または賦形剤もさらに含有し、腸管外注射または点滴、局所領域投与(locoregional application)(例えば、滴下注入、灌注、注射または点滴)や、また、吸入、経口摂取、経鼻投与、または経粘膜投与、あるいは他の適切な投与方法などの特定の投与方法が使用可能となるように適合される。上記組成物は、ドラッグターゲティング剤(drug targeting agents)、生物学的利用能増強剤(bioavailability enhancement agents)、または本発明の化合物以外の有効成分をさらに含有してもよく、即放性のまたは放出調整された(immediate or modified release)組成物として提供してもよい。
【0025】
さらなる態様においては、本発明は、アミノ酸配列であるKEFX2RIVX3RIKX4FLRX5LVを含むペプチド性化合物をコードする核酸配列(式中、X2はKまたはEであり;X3はQまたはEであり;X4はDまたはRであり;そしてX5はNまたはEであるが、但しX2、X3、X4およびX5は、同時に、それぞれK、Q、DおよびNとはならない)に関する。
【0026】
本発明のさらなる態様を、次の詳細な説明および添付の請求の範囲に示す。
【0027】
発明の詳細な説明
本発明の化合物は、リポ多糖(LPS)やリポタイコ酸(LTA)への親和性を有するペプチド性化合物である。これらの化合物は、コアアミノ酸配列であるX1KEFX2RIVX3RIKX4FLRX5LVX6を含む(式中、X1は配列のN末端部を表し;X2はKまたはEであり;X3はQまたはEであり;X4はDまたはRであり;X5はNまたはEであり;X6はC末端部を表し;コア配列中の少なくとも1個のアミノ酸が誘導体化されていてもよく、N末端部がアセチル化されている、および/または、C末端部がアミド化されている、および/または、該アミノ酸配列が、天然アミノ酸配列であるX1KEFKRIVQRIKDFLRNLVX6とは異なる)。
【0028】
本願明細書および添付の請求の範囲において、「N末端部(N-terminal part)がアセチル化されている」という表現は、次の意味を有する。アミド結合した安定化基または保護基を得るために、N末端部がカルボン酸との反応によって保護されている。例えば、ペプチドをフミン酸(fumic acid)と反応させるとホルミル基で安定化されたペプチドを得ることができ、酢酸と反応させるとアセチル基で保護されたペプチドを得ることができる。さらに、ペプチドは、プロピオン酸、ならびに炭水化物部分 Rに6個までの炭素原子、さらには10個までの炭素原子を有する他の有機酸と反応させることもできる。このような有機酸において、炭水化物基であるRは、炭素数が10個以下であり、直鎖状、分岐鎖状または環状でもよく、および/または1つまたはそれ以上の不飽和結合を有してもよい。さらに、アルキル鎖を、例えばヒドロキシル基、ハロゲン基、アミノ基、メルカプト基および硫黄酸化物(sulphuroxide)基で置換することができる。したがって、N末端部には次の基が存在し得る:−C(O)−R’。あるいは、カルボン酸との反応の代わりに、スルホン酸と反応させて、対応するスルホンアミド結合を得ることもできる。したがって、N末端部には−SO2−Rが存在し得る。または、上記の表現はアルキル化およびジアルキル化をも含み、したがって、N末端部には第2アミン基または第3アミン基である−N−(R)1またはN−(R)2(式中、Rはそれぞれ上記で定義した通りである)が存在し得る。
【0029】
さらなる態様においては、「アセチル化」はペプチドとイソシアナートまたはイソチオシアン酸塩の反応を含み、この場合には尿素(R−N−C(O)−)またはチオ尿素(R−N−C(S)−)(式中、Rは上記で定義した通りである)がそれぞれ生成する。
【0030】
最後に、N末端(N-terminus)は、酸に対して安定な保護基(acid stable blocking group)で保護することができ、この保護基は従来のようにペプチド合成の際に導入されるが、本発明では除去されない。保護基としてはFmoc基およびZ基がよく知られている。
【0031】
「C末端部(C-terminal part)がアミド化されている」という表現の意味について以下に述べる。「アミド化」という用語は、C末端(C-terminus)として天然に存在する−OHを−X基で置換することを意味する(Xは(i)−NY2基(Yはそれぞれ独立にHまたはRであり、Rは上記で定義した通りであり、または2個のY基は、結合しているN基と共に環状部分を形成していてもよい)か、(ii)−OR基(Rは上記で定義した通りである)か、または(iii)R基である)。安定性が最も高いため、ペプチドアミドが好ましい。
【0032】
本発明のペプチド性化合物は請求項1から排除されている天然アミノ酸配列と比較し、最適な安定性を有することが分かっている。
【0033】
ペプチド性化合物は、ペプチド(例えばオリゴペプチドまたはポリペプチド)、タンパク質またはペプチドに由来する物質である。ペプチドそれ自体の他に、ペプチド性化合物はペプチド類似体、ペプチド誘導体、修飾ペプチドおよびペプチド複合体も包含する。ペプチド性化合物は、アミノ酸配列を含むという共通点を有する。より正確には、ペプチドは、あるアミノ酸分子のアミノ基と他のアミノ酸分子のカルボキシル基の組み合わせによる、2個またはそれ以上のアミノ酸に由来するアミドであると定義される(Merriam Webster Medical Dictionary(メリアム ウェブスター医学辞典)2001)。これに対して、ペプチド性化合物は、さらに、分子中のペプチド構造も意味することができる。典型的には、ペプチドは天然に存在する(L−)α−アミノ酸、特にアラニン(AlaまたはA)、アルギニン(ArgまたはR)、アスパラギン(AsnまたはN)、アスパラギン酸(AspまたはD)、システイン(CysまたはC)、グルタミン(GlnまたはQ)、グルタミン酸(GluまたはE)、グリシン(GlyまたはG)、ヒスチジン(HisまたはH)、イソロイシン(IleまたはI)、ロイシン(LeuまたはL)、リシン(LysまたはK)、メチオニン(MetまたはM)、フェニルアラニン(PheまたはF)、プロリン(ProまたはP)、セリン(SerまたはS)、スレオニン(ThrまたはT)、トリプトファン(TrpまたはW)、チロシン(TyrまたはY)およびバリン(ValまたはV)から構成される。
【0034】
ペプチドの類似体または機能的同等物(functional equivalents)は、同様の活性、特に、微生物毒素、中でも細菌毒素への同様の親和性を有するペプチド性分子であり、但し、同様の親和性とは、同種の親和性を指し、親和性の強さは必ずしも同じでなくてもよい。該ペプチド性分子は、例えば、修飾ペプチド、ペプトイド、ペプチド類似体またはペプチド模倣体(peptidomimetics)であってもよい。
【0035】
修飾ペプチドは、天然のアミノ酸には通常存在しない置換基または官能基の導入によってペプチドから誘導される分子である。この用語は、他の化学的分類に属する分子とペプチドとの反応によって得られる化合物も含み、該分子は天然に存在してもしなくてもよい。例えば、リン酸化、スルホン酸化およびビオチン化されたペプチド、糖タンパク質およびリポタンパク質はしばしば天然に存在するが、ポリエチレングリコールで修飾されたペプチドは、ペプチドの性質の全てではないが、一部を変化させるように設計された、化学的修飾ペプチドの例として挙げられる。
【0036】
ペプトイドもペプチドと同様にペプチド性化合物であり、典型的には2個またはそれ以上のアミノ酸からなるアミドである。しかし、ペプトイドは、天然に存在するアミノ酸から直接誘導されるよりも、むしろ化学的に合成された種々のL−アミノ酸および/またはD−アミノ酸から誘導される場合が多い。
【0037】
ペプチド模倣体は、最も広い意味においては、その機能的構造が多少ペプチドに類似している化合物であるが、主鎖に非ペプチド結合を含有するか、あるいはD−アミノ酸を含有することもある。一般的に、ペプチド模倣体は受容体と酵素との相互作用において天然ペプチドの代替物としての役割を果たす(Pharmaceutical Biotechnology (医薬のバイオテクノロジー), D. J. A. Crommelin および R. D. Sindelar 編, Harwood Academic Publishers, 1997, p. 138)。ペプチド模倣体のクラスの1つである擬似ペプチド(Pseudopeptides)は、アミド結合の代わりにアミド結合等価構造(amide bond isosteres)を含有する(ibid., pp. 137-140)。
【0038】
本発明の化合物は、ペプチドまたはその機能的同等物の塩、例えば、薬学的に許容される酸または塩基の付加塩および付加生成物を含む。本発明の化合物はまた、ペプチドまたはその機能的同等物の多量体も含む。
【0039】
本発明の化合物は、少なくとも1種の毒素、特に細菌毒素への親和性を有する。特に、約1マイクロモルの濃度のペプチドが、in vitro でLPS/LTAの活性を有意に(50%を上回って)減少させることが示されている。実際、本明細書において「親和性」という用語は、行なったアッセイにおけるペプチドの活性を意味する。これらのアッセイにおいて、好ましいペプチドの活性は、低マイクロモルから高ナノモルまでの範囲にあるという測定結果が得られた。より一般的には、本発明の化合物は、ミリモルより少ない活性を有し、高い親和性、例えば低マイクロモルまたはナノモルの活性を示す化合物が好ましい。多くの感染性疾患において、細菌毒素(例えば、グラム陰性細菌の場合はリポ多糖(LPS)のクラス、そしてグラム陽性細菌の場合はリポタイコ酸)が疾病の発症に関与する。これらの毒素は、かなりの炎症反応を誘発し得る。例えば、上気道の感染においては、炎症は、中耳または副鼻洞の上皮の粘膜に損傷をもたらし、上気道の主要な防御系の1つである粘膜繊毛除去システム(mucociliary clearance system)(MCS)の障害を引き起こす場合がある。本発明の化合物はまた、腸内感染の治療に特に適している。真菌毒素または細菌毒素への親和性は、中和能の必須条件であり、好ましくは、本発明の化合物はLPSや他の毒素に結合するのみならず、これらの毒素を中和するか、阻害するか、もしくは該毒素の効果を減少させる能力を有する。
【0040】
細菌毒素に対する望ましい活性は、ペプチド性化合物が請求項1で定義される構造的要件を満たす場合、即ち、アミノ酸配列であるX1KEFX2RIVX3RIKX4FLRX5LVX6(式中、X1は配列のN末端部を表し;X2はKまたはEであり;X3はQまたはEであり;X4はDまたはRであり;X5はNまたはEであり;そしてX6はC末端部を表す)を含む場合に見られる。この基本モチーフは天然抗菌性タンパク質CAP18またはCAP18由来のLL−37に由来する。
【0041】
本願明細書においては、N末端部とは、化合物のN末端部分またはN末端ドメイン(N-terminal moiety or domain)に相当する基、原子または配列、即ち、コア配列の末端α−アミノ基に結合している構造であって、コア配列におけるアミド結合に関与しない構造を意味する。N末端部は、フリーのα−アミノ基の場合には単に水素原子でもよく、あるいは、末端α−アミノ 窒素原子に結合した化学基(例えばアシル基)でもよい。N末端部はまた、より大きい基、例えば2個またはそれ以上のアミノ酸からなる配列、あるいは、アミノ酸から構成されない化学構造、または、アミノ酸のみから構成されるのではない化学構造でもよい。C末端部も同様に定義される。
【0042】
本発明の化合物は、好ましくは、コアモチーフ(core motif)を規定する、合計で18個を超えるアミノ酸を含む。1つの態様においては、N末端部は2個またはそれ以上のアミノ酸からなる配列を含む。アミノ酸の中でこの配列の構成要素として適したものは、IおよびGであり、好ましいN末端部はIGである。
【0043】
他の態様においては、C末端部はアミノ酸配列を含む。この配列は1個、2個、3個、4個、または4個を超えるアミノ酸を含んでいてもよい。1つの態様においては、C末端部は4個のアミノ酸を含む。4個のアミノ酸からなる該C末端部のC末端(C-terminal end)は、ペプチドLL−37の対応する位置と同様にEであってもよい。しかし、このC末端はRであると定義することもできる。C末端アミノ酸に隣接するアミノ酸はLL−37と同様にTでもよく、またはLでもよい。PおよびRも、C末端部の4個のアミノ酸からなる配列の、残りの2つの位置のいずれにおいても好ましい構成要素である。最も好ましくは、C末端部は、配列PRTEおよび配列RPLRからなる群より選ばれる。
【0044】
さらなる態様においては、N末端部およびC末端部を上記で述べた好ましい選択肢から選択し、合計24個のアミノ酸からなるペプチド構造体を得る。本発明において最も好ましい化合物は、ペプチドであるIGKEFKRIVQRIKDFLRNLVPRTE および ペプチドであるIGKEFKRIVERIKRFLRELVRPLRであり、そのままのペプチドとして用いてもよいし、修飾ペプチドまたは誘導体化したペプチドとして用いてもよい。
【0045】
好ましい修飾体(modifications)としては、上記の定義に従ってアミド化および/またはアセチル化したペプチドが挙げられる。アミド化が特に有用であると考えられる部位の1つはペプチドのC末端である。一方、アセチル化はN末端アミノ酸の部分で行うのが好ましい。本発明において好ましい1つの態様においては、ペプチドである IGKEFKRIVQRIKDFLRNLVPRTE および IGKEFKRIVERIKRFLRELVRPLR は両方ともN末端がアセチル化され、C末端がアミド化されている。これらの修飾体がエキソペプチダーゼの存在下で、増加した安定性を有することが予備試験で示された。
【0046】
本発明の化合物は通常、ペプチドとその類似物質の調製に関して知られている方法で調製することができる。数個のアミノ酸または類似する構成単位のみ、好ましくは30〜50個を超えないアミノ酸または類似する構成単位、を含有する小さい化合物は、化学的または酵素的連結技術によって調製することができ、溶液または懸濁液中で反応を行う古典的な手法、または、ポリマービーズなどの固体表面に固定した状態でペプチドを構築する、より現代的な固相法のいずれの手法を用いてもよい。より大きな化合物は、典型的に、固相ペプチド自動合成機を用いて合成する。
【0047】
別の方法としては、本発明の化合物を公知の遺伝子工学技術で調製することができる。この手法は、該化合物が真正なペプチドである場合、またはわずかに修飾されたペプチドである場合に特に有効である。例えば、該化合物をコードするDNA配列を、細胞をトランスフェクト可能な発現ベクターに結合させることができる。この方法の他の工程では、宿主細胞またはターゲット細胞を、トランスフェクションが可能な条件下で、上記のベクター及びそこに結合しているDNAと接触させることによって、細胞を該DNAでトランスフェクトする。さらなる工程においては、宿主細胞またはターゲット細胞を、化合物が発現可能な条件下で培養する。次いで、化合物を単離する。もしも、化合物そのものをコードまたは発現することができなくても、コードまたは発現が可能なペプチドが、該化合物に非常に類似している場合には、上記の方法を用いて、該化合物に類似しているペプチドを調製し、その後の1つまたはそれ以上の工程で、該ペプチドを化学的または酵素的技術で修飾して該化合物を調製することができる。
【0048】
この目的には、多様な種類のベクター、例えばウイルスベクター、リポプレックス(lipoplexes)、ポリプレックス(polyplexes)、ミクロスフェア、ナノスフェア、デンドリマー、裸のDNA、ペプチド送達システム、脂質(特にカチオン性脂質またはそれから作製したリポソーム)、高分子ベクター(特にポリカチオン性ポリマーから作製されたもの)が用いられる。好ましいウイルスベクターとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、単純ヘルペスウイルスおよびビロソーム(virosomes)が挙げられる。好ましい非ウイルスベクターとしては、キトサン、SPLPが挙げられ、さらにはPLGA、ポリエチレンイミン、ポリリシン、ポリホスホアミド化物(polyphosphoamidates)、ポリメタクリレートおよびポリホスファゼンに基づくポリマーシステム、あるいはDOPE、DOTAPおよびDOTMAなどが挙げられる。
【0049】
本発明の化合物の調製に適用し得る方法の包括的な概要は次の文献に記載されている:W. F. Anderson, Nature 392 Supp., 30 April 1998, p. 25-30;Pharmaceutical Biotechnology(医薬のバイオテクノロジー), D. J. A. Crommelin および R. D. Sindelar 編, Harwood Academic Publishers, 1997, p. 53-70, 167-180, 123-152, 8-20;Protein Synthesis: Methods and Protocols(タンパク質の合成:方法とプロトコール), R. Martin 編, Humana Press, 1998, p. 1-442;Solid-Phase Peptide Synthesis(固相ペプチド合成), G. B. Fields 編, Academic Press, 1997, p. 1-780;および Amino Acid and Peptide Synthesis(アミノ酸およびペプチドの合成), Oxford University Press, 1997, p. 1-89。
【0050】
ペプチドまたはその機能的同等物の塩は公知の方法で調製され、該方法は、ペプチドまたはペプトイドを薬学的に許容される酸と混合して酸付加塩を形成するか、あるいは薬学的に許容される塩基と混合して塩基付加塩を形成する工程を典型的に包含する。酸または塩基が薬学的に許容されるかどうかは、化合物の具体的な用途を考慮すれば、当業者であれば簡単に定めることができる。例えば、in vitro で用いる診断用組成物に用いるために許容される酸および塩基の全てが治療用組成物に用いることができるわけではない。意図する用途により、薬学的に許容される酸は、ペプチドおよびその機能的同等物のフリーのアミノ基と共にアンモニウム塩を形成する有機酸および無機酸、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、グリコール酸、シュウ酸、ピルビン酸、コハク酸、マレイン酸、マロン酸、ケイ皮酸、硫酸、塩化水素酸、臭化水素酸、硝酸、過塩素酸、リン酸およびチオシアン酸が挙げられる。ペプチドおよびその機能的同等物のフリーのカルボキシル基と共にカルボン酸塩を形成する、薬学的に許容される塩基は、エチルアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミンおよび他のモノアルキルアミン、ジアルキルアミンおよびトリアルキルアミン、そしてアリールアミンが挙げられる。さらに、薬学的に許容される溶媒化合物、複合体または付加生成物、例えば水和物やエーテル化合物(ethurates)が含まれる。
【0051】
本発明によるペプチドの好ましい修飾のいくつかは、合成の間または最後に簡単に導入することができる。例えば、ペプチドを固相法を用いて合成する場合、まだ樹脂に結合しているアミノ酸配列を、他のアミノ酸の代わりに酢酸と反応させることによって、N末端のアセチル化を、合成の最後に行うことができる。
【0052】
一方、C末端のアミド化は、固相ペプチド合成において、市販のTentagel S AM(ドイツ国、テュービンゲン、ex Rapp製)などの特殊な樹脂を用いて行うことができる。このような樹脂は、化学的「ハンドル」(chemical "handle")を有し、アミド化したペプチドは開裂しながらそこから切り離される。ペプチドを修飾する上記の方法およびさらなる方法は当業者には公知である。
【0053】
本発明のさらなる態様は、ペプチド性化合物を用いる方法に関する。ペプチド性化合物は、微生物の毒素、特に、リポ多糖(LPS)やリポタイコ酸(LTA)などの細菌毒素への親和性を有する。したがって、これらの毒素の存在が関与する病態や疾病において、治療および診断を目的として本発明の化合物を好適に用いることができる。本発明の化合物の結合能は典型的に毒素の中和をもたらし、このため、該化合物は、拮抗物質または部分拮抗物質であると考えられる。さらに、上記化合物は、毒素を中和可能な他の化合物のターゲティング剤(targeting agents)またはリガンドとして用いることができ、共有結合または非共有結合で、該その他の化合物に連結することにより、あるいは、薬物担体(例えば、リポソーム、ナノ粒子、マイクロ粒子、ナノカプセル、マイクロカプセル、脂質複合体またはミセル)の表面に共有結合または非共有結合で結合することにより、これらの毒素に特異的にターゲティングすることができる。
【0054】
診断においては、本発明の化合物は、生理液(例えば、血液、血漿、血清、(気道などの)粘膜上皮を覆っている粘液)、または病的状態の結果生じる液体(例えば、滲出性中耳炎(OME)の際に中耳に見られる液体)に存在する細菌毒素の検出またはその定量に用いることができる。この方法では、上記化合物を、in vitro で用いる診断用キット、または患者に投与する診断用組成物に組み込むことができる。この方法では、本発明の化合物をキレート化剤に結合させ、次いで適切なモニターシステムで検出可能な同位体標識との複合体を形成してもよい。
【0055】
好ましい方法においては、上記化合物を、真菌感染および細菌感染ならびに真菌毒素および細菌毒素が体内に存在することに関連する疾病および病態を予防または治療するための有効薬物成分(active drug substances)として投与する。上述したように、急性または慢性の感染症における抗生物質治療には、一定の不利益と限界がある。例えば、耐性の誘発および耐性型細菌変異体の選択、患者の自然防御系の機能低下、粘膜に天然に存在する細菌叢の機能障害および病原菌が殺される際の細菌毒素の大量放出などである。さらに、微生物それ自体の存在ではなく、毒素、特に細菌毒素の存在が主な原因である病態や疾病(例えば、OME)があり、たとえ急性感染の症状がない場合でも、中耳における毒素の局所貯留が疾病の発症に大きく関与すると考えられる。
【0056】
このような疾病は全て、抗生物質ではなく、細菌毒素を中和することができる物質で治療することが望ましい。本発明の化合物は、最も重要な微生物毒素(例えば、グラム陰性細菌の場合はリポ多糖(LPS)、そしてグラム陽性細菌の場合はリポタイコ酸(LTA))に対して高い結合・中和活性を示すため、このような目的に特に有用である。上気道の感染においては、上記の細菌性の産物(bacterial products)は中耳または副鼻洞において炎症反応を引き起こしたり、気道上皮の粘膜に損傷を引き起こしたりすることがあり、その治療には本発明の化合物が特に好ましく用いられる。関与する毒素を中和することにより、粘膜繊毛除去システム(MCS)の障害などの粘膜損傷を予防、抑制または減少することが可能になり、したがって、自然防御系を強化することになる。細菌の生細胞数が大きくないのに細菌毒素が主な病因である場合(例えば、OMEの場合)、本発明の化合物の投与に依存した治療(例えば、中耳への直接投与)は主要な治療法となる。しかし、他の気道感染、例えば急性または慢性の副鼻腔炎、あるいは急性または慢性の耳炎においても、本発明の化合物は、粘膜の正常機能とその自然防御系の復元に非常に有用であると考えられる。
【0057】
より一般的には、本発明の化合物は、Streptococcus pneumoniaeHaemophilus influenzaeMoraxella catarrhalis、A群β型溶血性レンサ球菌、Staphylococcus aureus、グラム陰性腸内細菌(gram-negative enteric bacilli)、Streptocossus pyogenesEscherichia coli、グラム陰性細菌(gram-negative bacilli)、Pseudomonas sp. などの感染性細菌から生じる病態の予防および治療に有用な物質である。
【0058】
本発明の化合物が、CAP18やLL−37などの、該化合物が由来する天然のタンパク質とペプチドに比べて特に有益である点は、望ましくない炎症活性の程度が低いことである。この炎症活性は、サイトカインなどの炎症誘発性媒介因子(pro-inflammatory mediators)をコードする遺伝子の増幅、分化および発現を含む、種々の細胞過程に関与する。サイトカインは炎症の直接の媒介因子であり、多くの免疫学的反応の進行と調整(progress and direction)に影響する。サイトカイン産生におけるバランスの乱れ(Perturbation)は、いくつかの病状において重要な要因のひとつであると広く認識されている。滲出性中耳炎や副鼻腔炎などの病態の場合、このバランスはすでに乱されている。この場合には、T細胞増殖も、すでに制御不能となっている免疫応答をさらに刺激するため、好ましくない。
【0059】
このように、本発明の化合物は医薬組成物に用いるのが有利である。本発明によると、化合物そのものに加えて、このような医薬組成物も提供される。本明細書においては、「医薬組成物」とは治療用組成物および診断用組成物のみならず、上記組成物を含有する薬剤および診断薬(diagnostics)を意味する。医薬組成物および薬剤は、改善が望ましい哺乳類の疾病および他の病態の予防または治療に用られる。診断薬および診断用組成物は in vivo および in vitro でそのような疾病の診断に用いられる。
【0060】
典型的には、上記の組成物は、有効成分として、少なくとも1種の本発明の化合物、および少なくとも1種の薬学的に許容される担体または賦形剤を包含する。さらに、該組成物はヒトまたは動物に投与可能な形状に加工する。本発明においては、担体または賦形剤は、薬学的に許容される物質、または実質的に薬理活性を有さない物質の混合物であり、化合物を安定で、投与に適した投薬形態に処方するためのベヒクルまたは補助物質(auxiliary substance)として用いることができるものである。薬学的に許容される賦形剤の例は、当業者には公知であり、主要な薬局方の解説文に記載されている。
【0061】
1つの態様においては、上記の組成物は、腸管外注射、滴下注入または灌注、好ましくは血管内(静脈内または動脈内)、あるいは筋内、皮下、病巣内、腹腔内、局所(locoregional)投与用、またはその他の腸管外投与用に処方し、加工する。他の1つの好ましい態様においては、上記の組成物を上気道(例えば、中耳)の感染した粘膜に直接投与する。他の薬剤の上記投与方法のための処方法に適用される原則に基づけば、上記の組成物の調製方法が当業者には明らかであろう。例えば、腸管外の投与形態の要件の1つは無菌状態にあることである。他の要件は、全ての主要な薬局方(例えば、USP 24(米国薬局方第24版)中の解説項目“General Requirements for Tests and Assays. 1. Injections(試験とアッセイの一般要件、1. 注射)”, p. 1775-1777)に記載されている。腸管外投与用処方物(parenteral formulation)の安定性を高めるためには、投与前に水を加えて戻す必要のある乾燥形態で提供することが必要なことがある。そのような投与形態の例としては、凍結乾燥処方物が挙げられる。本発明の組成物が粘液溶解溶媒(mucolytic solvent)を含むことも適切である。
【0062】
頻繁な注射を避け、治療の効果と簡便性を高めるためには、本発明の化合物を、腸管外制御型放出投与形態(parenteral controlled release dosage form)で投与することが望ましい。そのようなデポー製剤(depot formulations)の種々の調製方法が知られている。長期に渡る放出は、固体の植込錠(solid implants)、ナノ粒子、ナノカプセル、マイクロ粒子、マイクロカプセル、エマルジョン、懸濁液、油性溶液、リポソームまたは類似の構造体により提供される。
【0063】
組成物を、感染した粘膜に局所的に投与する場合、投薬の効果を高めるために、投与部位において長期間、局所的に保持される特性を有する処方物を提供することが有用であると考えられる。この目的を果たすため、粘膜付着性の賦形剤を処方物に添加することができる。このような機能性賦形剤は、当業者には公知であり、例としては、ポリマー(ポリアクリル酸とその誘導体、ならびにポリメタクリル酸とその誘導体など)、セルロース エーテル(ヒドロキシプロピル メチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースなど)、澱粉、キトサンが挙げられる。適切な方法、または代替的な方法として、本発明の組成物は粘液溶解溶媒を含有してもよい。特に、粘液溶解溶媒は、本発明のペプチド性化合物の、気道などにおける粘液への透過性に作用するために用いられる。適切な溶媒は、公知の粘液調整(mucoregulatory)剤または粘液溶解剤を包含し、その例として、N−アセチルシステイン、S−カルボキシメチル システイン、ブロムヘキシン、アンブロキシル(ambroxyl)、DNAse、エルドステイン(erdosteine)、食塩水、ネソステイン(nesosteine)が挙げられる。ブロムヘキシンを用いるのが好ましい。
【0064】
腸管外投与用処方物の調製に特に有用なさらなる賦形剤は、その最も広い意味においては、溶媒、共溶媒(cosolvents)および液体または半固体の担体(例えば滅菌水、エタノール、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ブタンジオール、脂肪油、短鎖および中鎖のトリグリセリド、レシチン、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体)、オスモル濃度とpHを調整する物質(例えば、糖類(特にグルコース)、糖アルコール(特にマンニトール)、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸、酢酸塩、リン酸塩、リン酸、塩化水素酸、水酸化ナトリウム)、安定化剤、酸化防止剤および保存剤(例えば、アスコルビン酸、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、EDTA、およびベンジル アルコール)、他の賦形剤および凍結乾燥補助剤(lyophilization aids)(例えばアルブミンやデキストラン)である。
【0065】
同様に、本発明の化合物を経粘膜の投与形態で投与することも有用である。この投与方法は、非侵襲性で患者に害を与えない(patient-friendly)方法であり、それと同時に、特に化合物が消化器系における体液中で安定でない場合、または大きすぎて消化管から効果的に吸収できない場合、一般的に、経口投与に比べて本発明の化合物の生物学的利用能の向上をもたらす。経粘膜投与は、例えば、鼻、口腔、舌下、歯肉または膣を通じて投与する形態が可能である。このような投与形態は公知の技術で調製可能であり、例えば、点鼻薬または鼻腔用スプレー、挿入薬(inserts)、フィルム、パッチ、ゲル、軟膏、あるいは錠剤に処方することができる。経粘膜投与形態に用いられる好ましい賦形剤として、1種またはそれ以上の粘膜付着性の物質がさらに挙げられ、それによって吸収が行われる部位に薬剤が接触する時間を長くし、吸収量を増加させる。
【0066】
別の方法としては、本発明の医薬組成物を経口投与用に設計し、それに従って加工することもできる。適切な経口投与形態としては、錠剤、ハードカプセル、ソフトカプセル、粉末、粒状、経口で崩壊する投与形態(orally disintegrating dosage forms)、シロップ、ドロップ、懸濁液、発泡錠、チュアブル錠(chewable tablets)、経口フィルム、凍結乾燥投与形態、持続性放出投与形態(sustained release dosage forms)および制御型放出投与形態(controlled release dosage forms)が挙げられる。1つの好ましい態様においては、経口投与形態は、胃の酸性で且つタンパク質分解性の環境から化合物を保護するために、腸溶性に被覆された固体投与形態である(enterically coated solid dosage form)。
【0067】
本発明の組成物はまた、経腸投与用に処方することもできる。
【0068】
さらなる態様においては、本発明の化合物を、定量吸入器、噴霧器、エアロゾル噴霧器、またはドライパウダー吸入器を用いて経肺投与する。適切な処方物は、公知の方法と技術によって調製することができる。経皮投与、直腸投与または眼内投与も場合によっては可能である。
【0069】
本発明の化合物をより効果的に送達するために、最新のドラッグデリバリー法やターゲティング法を有用に用いることができる。例えば、非腸管外の投与方法を選択した場合、適切な投与形態は、生物学的利用能増強剤(bioavailability enhancing agent)を含有し、これは、化合物の生物学的利用能を増加するいかなる物質またはそのような物質の混合物であってもよい。この方法は、例えば、酵素阻害剤や酸化防止剤などによって化合物を分解から保護することにより達成できる。さらに好ましくは、上記の増強剤は、吸収障壁(典型的には粘膜)の透過性を高めることにより、化合物の生物学的利用能を増加する。透過促進物質(Permeation enhancers)は種々の機構を通じて作用する。粘膜(mucosal membranes)の流動性を高めるもの、粘膜細胞間のギャップ結合を開くまたは広げるもの、あるいは粘膜細胞層を覆う粘液の粘度を下げるものがある。好ましい生物学的利用能増強剤(bioavailability enhancers)としては、両親媒性物質(例えば、コール酸誘導体、リン脂質、エタノール、脂肪酸、オレイン酸、脂肪酸誘導体、EDTA、カルボマー、ポリカルボフィルおよびキトサンが挙げられる。
【0070】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらは本願明細書に記載されている態様に本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0071】
実施例1:化合物の調製
それぞれ24個のアミノ酸からなるペプチド性化合物を自動マルチペプチド合成機(SyroII;ドイツ国、ヴィッテン、MultiSyntech製)を用いて固相法で調製し、本願明細書においてはP60、P60.4、P60.AcおよびP60.4Acと称する。P60とP60.4を得るために、ポリエチレングリコールとポリスチレンのグラフトポリマーである Tentagel S AC(ドイツ国、テュービンゲン、Rapp製)を樹脂として用いた(装填:0.2ミリグラム当量、粒子サイズ:90μm)。P60.AcおよびP60.4Acを得るために、Tentagel S AMを用い、C末端がアミド化されたペプチドを得た。(樹脂装填量に基づく)6倍の過剰モル量の、適切なFmocアミノ酸の0.60M NMP溶液、6倍の過剰モル量のPyBOPの0.67M NMP溶液および12倍の過剰モル量のNMMのNMP溶液(2/1(v/v))を反応槽に加えることにより、カップリングを繰り返した。側鎖の保護基は次の通りである:D、E、SおよびTはtBu;KはBoc;NおよびQはTrt、そしてRはPmc。Fmocの脱保護は、ピペリジン/NMP(1/4(v/v))を各反応槽に3回加えることにより行った。カップリングは45分間、脱保護は3分間を3回行った。カップリングとFmocの脱保護の後、NMPによる洗浄を6回行った。P60.AcおよびP60.4Acについては、ペプチドが樹脂に結合している状態のまま、酢酸を用いてN末端のアセチル化を行った。合成終了後、ペプチド結合樹脂(peptidyl resins)をNMP、ジクロロメタン、ジクロロメタン/エーテル(1/1(v/v))およびエーテルでそれぞれ充分に洗浄し、風乾した。その後、ペプチド結合樹脂からペプチドを分離し、側鎖の脱保護をTFA/水(95/5(v/v))(1.5ml/ペプチド10μモル)中で2.5時間行い、樹脂をろ過により除去し、エーテル/ペンタン(1/1(v/v))(10ml/ペプチド10μモル)を用いてTFA溶液からペプチドを沈殿させた。溶液を−20℃で1時間冷却し、沈殿したペプチドを遠心分離(−20℃、2,500g、10分)で単離してペレットを得た。得られたペレットを粉砕し、10mlのエーテル/ペンタン(1/1(v/v))と共に撹拌(vortexing)し、上記と同様の方法で単離した後、ペプチドを室温で1時間風乾した。ペプチドを2mlの水または2mlの10容量%酢酸に溶解し、得られた溶液を液体窒素中で約5分間凍結し、次いで遠心分離(1,300rpm、8〜16時間)しながら凍結乾燥した。ペプチドの分析をRP−HPLCおよびMaldi−Tof質量分析法で行った。
上記で得た化合物のアミノ酸配列は次の通りである。
P60 IGKEFKRIVQRIKDFLRNLVPRTE
P60.Ac* IGKEFKRIVQRIKDFLRNLVPRTE
P60.4 IGKEFKRIVERIKRFLRELVRPLR
P60.4Ac* IGKEFKRIVERIKRFLRELVRPLR
*末尾のAcは、ペプチドのN末端がアセチル化されており、且つ、C末端がアミド化されていることを示す。
【0072】
実施例2:毒素の中和
実施例1に従って調製した化合物の細菌毒素LPSを中和する能力を、カブトガニ血球抽出物(limulus amoebocyte lysate)(LAL)アッセイおよび全血(WB)アッセイで試験した。LTAの中和も全血アッセイで測定した。ペプチドLL−37を正の対照として用いた。50%のLPSが中和されるペプチド濃度(50%阻害)をペプチドの活性の測定の目安(measure)として用いた。これらの濃度の値を表1に記載する。それぞれのアッセイにおける、化合物間の測定値の相違は統計的に有意ではなかった。つまり、試験した本発明の化合物は、天然抗菌性ペプチドLL−37とほぼ同程度の抗毒素活性を示した。
【0073】
【表1】

【0074】
実施例3:化合物による細胞の免疫学的な活性化
実施例1に従って調製した化合物を、治療上望ましくない抗原性活性について、Elispotアッセイ、T細胞増殖アッセイ、ERK活性化アッセイおよび好中球走化性アッセイで試験した。Elispotアッセイは、in vitro で、薬物、化学物質または他の化合物のサイトカイン分泌に対する効果を測定するのに適用でき、よってin vivo における免疫機能に対する推定調節作用に関するデータを提供する。このアッセイの結果はIFN−γに対する陽性反応を示す分数として得られる。ERK(細胞外シグナル調節キナーゼ(extracellular signal-related kinases))1と2は、サイトカインなどの炎症誘発性媒介因子をコードする遺伝子の増幅、分化および発現を含む種々の細胞過程に関与することが明らかになっているMAP−キナーゼシグナル伝達経路の一部である。サイトカインは炎症の直接の媒介因子であり、多くの免疫学的反応の進行と調整(progression and direction)に影響を与える。サイトカイン産生におけるバランスの乱れ(Perturbation)は、いくつかの病状において重要な要因のひとつであると広く認識されている。滲出性中耳炎や副鼻腔炎などの病態の場合、このバランスはすでに乱されている。T細胞増殖も、すでに制御不能となっている免疫応答を刺激するため、この場合は好ましくない。したがって、本発明の化合物がサイトカイン産生、T細胞増殖、ERK活性化または好中球の走化性を刺激しないことが望ましい。
【0075】
T細胞増殖については、150,000個の末梢血単核細胞(PBMC)を、96ウェル丸底プレート(マサチューセッツ州、ケンブリッジ、Costar Inc. 製)を用いて、最終体積150μlのIMDM完全培地で、10μg/mlの化合物の存在下または非存在下で、5日間培養した。正の対照として、PBMCを、25U/mlの組換えIL−2の存在下で培養した。培養の最後の20時間、PBMCに[3H]チミジン(0.5マイクロCi/ウェル)を添加し、その後3Hの組み込みを液体シンチレーションカウンティングで測定した。Elispot分析によって、T細胞のサイトカインであるIFNおよびIL−10を検出するために、1.5×106個のPBMCを0.5mlのIMDM完全培地中で、種々の濃度の合成ペプチドの存在下または非存在下で培養した。正の対照として、PBMCを10μg/mlのアメリカヤマゴボウミトゲン(poke weed mitogen)(PWM)で刺激した。48時間の培養後、ウェルを暖かいIMDMで穏やかにリンスすることによりPBMCを採取し、非付着性細胞を収集し、大量のIMDM中で洗浄した。次いで、抗体でプレコートしたELISAプレート上にPBMCを置き、2%のヒトAB型プール血清を添加したIMDM中で、37℃、5%CO2で5時間培養した。その後、製造者のプロトコール(オランダ国、ユトレヒト、U-CyTech製)に従ってプレートを視覚化した。オリンパス顕微鏡上でスポット(Spots)を数え、オリンパス Micro Image 4.0 というソフトウェア(オランダ国、ズーテルワウデ、Paes Nederland製)を用いて分析した。最終的な結果は正の刺激指数の分数で示される(正:>2)。
【0076】
ERK1と2の活性化(ERK-1/2 activation)は、24ウェルまたは6ウェル組織培養プレートを用いて、2mMのL−グルタミン(メリーランド州、ウォーカーズヴィル、Bio Wittaker製)、200U/mlのペニシリン(Bio Wittaker製)、200μg/mlのストレプトマイシン(Bio Wittaker製)および10%(v/v)の加熱不活性化ウシ胎児血清(Gibco製)を添加したPRMI1640培地(ニューヨーク州、グランドアイランド、Gibco製)中で培養した粘液性類表皮肺腫瘍(muco-epidermoid lung tumor)細胞系NCI−H292(メリーランド州、ロックビル、ATCCより入手)を用いて試験した。コンフルエントに近くなった後、細胞を無血清培地で一晩培養した。次いで、細胞を所定の刺激物質で15分間刺激する。細胞溶解物を溶解緩衝液(0.5%(v/v)Triton X−100、0.1M Tris−HCl(pH7.4)、100mM NaCl、1mM MgCl2、1mM Na3VO4、プロテアーゼインヒビターカクテル錠 コンプリート ミニ(mini complete protease inhibitor cocktail)(スイス国、バーゼル、Roche/Boeringer Mannheim製)を用いて調製した。サンプルを10%グリシンベースゲルを用いたSDS−PAGEに付し、溶解したタンパク質をポリビニリデンジフルオリド(PVDF)製の膜に転写した。非特異的結合部位をPBS/0.05%Tween−20/1%カゼインでブロッキングした。ブロットを、リン酸化ERK1と2(phosphorylated ERK-1/2)に対するウサギ ポリクローナル抗体(マサチューセッツ州、べバリー、New England Biolabs製)および西洋わさびペルオキシダーゼ結合抗ウサギIgG二次抗体と共にインキュベートした。増強化学発光(enhanced chemoluminescent)(ECL)ウェスタンブロット検出システム(スウェーデン国、ウプサラ、Amersham Pharmacia Biotech製)を用いて免疫活性を明らかにした。
【0077】
抹消血から単離した好中球について、パーコール密度勾配遠心分離法(Percoll density centrifugation)(密度:1.082g/ml)により好中球走化性を測定した。細胞を走化性培地(chemotaxis medium)(20mM N−2−ヒドロキシルエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES緩衝液)HEPES、132mM NaCl、6mM KCl、1.2mM KH2PO4、1mM MgSO4、5.5mM グルコース、0.1mM CaCl2、および無血清RPMIで1:1に希釈した0.5%(w/v)ヒト血清アルブミン(オランダ国、アムステルダム、オランダ赤十字中央研究所 輸血センター(Central Laboratory of the Netherlands Red Cross Blood Transfusion Service)(CLB)より入手))に2.5×106細胞/mlの濃度で再懸濁した。化合物の走化性活性は修飾ボイデンチェンバー法(modified Boyden Camber technique)を用いて評価した。簡単にいうと、HEPES緩衝液で希釈した26μlの刺激物質を下室のウェルに添加し、50μlの好中球懸濁液(2.5×106細胞/ml)を上室に添加する。上室と下室は2つのフィルターで仕切られており、下のフィルター(マサチューセッツ州、ベッドフォード、Millipore Products製)は孔の大きさが0.45μm、上のフィルター(カリフォルニア州、サンフランシスコ、Sartorius Filter製)は孔の大きさが8μmであった。37℃で90分間インキュベートした後、上のフィルターを取り除き、エタノール−ブタノール(80:20、v/v)中で固定し、ヴァイゲルト溶液で染色した。好中球の走化性活性を測定するために、好中球を任意の6つの高倍率視野(400倍)において数え、正の対照(10〜8M N−ホルミルメチオニル−ロイシル−フェニルアラニン(FMLP、Sigma製))に対する、膜上の好中球のパーセンテージを計算した。
【0078】
結果を表2に示す。要約すると、試験した本発明の化合物、特にP60.4は、天然ペプチドのLL−37よりも低い、非常に低い免疫応答しか誘発しなかった。化合物は、低いERK活性化を示し、実質的な走化性は示さなかった。
【0079】
【表2】

【0080】
実施例4:In vivo での許容性
化合物P60.4Acを実施例1に従って調製し、in vivo におけるその許容性を試験した。具体的には、ウサギを用いて、化合物が皮膚および目に炎症(irritation)を起こす可能性を評価し、モルモットモデルを用いてその内耳神経毒性(ototoxicity)を研究した。さらに、静脈内投与後の全身毒性を評価した。
【0081】
皮膚および目の炎症試験を行うため、半密封包帯(semi-occlusive dressing)を用いて、3匹のウサギの毛を刈り込んだ皮膚を0.5mlのリン酸緩衝ペプチド溶液(2mg/ml)に4時間にわたり曝露した。曝露終了から1時間後、24時間後、48時間後および72時間後に観察を行った。0.1mlのリン酸緩衝(pH7.5)ペプチド溶液(2mg/ml)を3匹のウサギのそれぞれの片目に注入し、急性の目の炎症/侵食を調べた。観察は、注入の1時間後、24時間後、48時間後および72時間後に行った。
【0082】
その結果、皮膚の炎症は検出されなかった。ペプチド溶液の点眼は結膜の発赤を引き起こしたが、点眼の24時間後には完全に解消された。
【0083】
P60.4Acの全身毒性はラットを用いた単回投与および反復投与毒性試験で評価した。段階的に増加する投与量(escalating dose)のペプチドを毎日静脈内に投与した。このフェーズにおいて、最大耐量(MTD)を定めた。反復投与毒性はMTDフェーズにおいても試験した。投与量を段階的に増加するフェーズ(dose escalation phase)において、9匹のラットを3つの群に分け、おのおの0.4、2または8mg/kg/日の投与量を2日間投与した。投与日および投与後1日目に各2回、臨床的徴候を記録し、体重を最初の投与の前および投与後1日目に記録した。MTDフェーズにおいては、5匹のメスと5匹のオスのラットに8mg/kg/日の投与量を連続して5日間投与した。投与日に2回、臨床的徴候を記録し、体重を試験日1日目および6日目に記録した。検死の前に臨床検査を行った。MTDフェーズの最後に肉眼検査を行った。
【0084】
その結果、全身投与量段階的増加試験(systemic dose escalation study)において斃死は見られなかった。さらに、臨床的徴候および体重に明確な偏りは見られなかった。MTDフェーズの間も、斃死は見られず、臨床的徴候、体重、血液学的および臨床生化学的パラメータおよび肉眼検査において、明確にペプチドに関連する所見はなかった。
【0085】
内耳神経毒性を評価するために、外耳に病変を持たない9匹の健康なアルビノモルモットのオス(500〜1,200g)を用いた。動物を、40mg/kgのケタミンおよび10mg/kgのロンプン(rompun)を腹腔内に注射して麻酔した。対照聴覚試験(control auditory testing)を行った後、耳嚢を外科的に開き、小さいスポンゴスタン(spongostan)片を正円窓膜(RWM)にあてがい、種々の溶液(約10μl)をスポンゴスタンに添加する。皮膚を縫合し、再度聴覚試験を行った。
【0086】
モルモットを、各群が処置用2匹と対照用1匹からなる3群に分けた。試験用および対照用処方物(formulations)を右耳のRWMに投与し、左耳は処置をしなかった。第1群では、2匹のモルモットにはシスプラチン(PBSに0.66mg/ml含有)を、そして1匹には対照としてPBSを投与した。シスプラチンはその内耳神経毒性が知られており、本試験では正の対照の役割を果たす。第2群にはペプチド(2mg/ml)のリン酸緩衝液溶液(pH7.5)を投与し、第3群にはペプチド(2mg/ml)の調合液溶液(formulation solution)(0.02% 塩化ベンザルコニウムと0.1% Na2EDTAで保存し、リン酸でpH5.5に調整した7% マクロゴール10,000含有の等張食塩液からなる)を投与した。
【0087】
聴性脳幹反応(ABR)を、コンピュータに基づく信号加算平均システム(米国、フロリダ州、アラチュア、Tucker-Davis Technology製)を用いて薬物投与前および処置直後ならびに3、7、14および22日後に行われた。モルモットに麻酔をかけ、差込型のイヤホンを外耳道に設置した。頭頂(活性)および同側の耳嚢(参照)の随所に皮下電極を設置した。接地電極を首の筋肉の随所に設置した。1kHzのトーンバースト 10msに対するABRを、電気的に遮蔽された、二重壁の無線周波数遮蔽サウンドチャンバー(electrically shielded, double-walled, radio-frequency-shielded sound chambre)に記録した。刺激の強さを測定し、デシベル(dB)で示した。ABR最低基準(treshold)を、再現可能で、視覚的に検出可能な反応を誘発し得る最低強度として定義した。処置後のABR最低基準を処置前のABR最低基準と比較した。
【0088】
その結果、第1群のPBSの正円窓への塗布は、処置後22日目で、最低基準を−9dB変化させ、一方、シスプラチンはそれぞれ最低基準を−49dBおよび−64dB変化させた(表3参照)。第2群では、リン酸緩衝液の塗布は最低基準を変化させなかった(表4参照)。2mg/mlのペプチド含有リン酸緩衝液は、処置後22日目で最低基準を−7dB変化させた。1匹の動物は、耳嚢を開くことができなかったので試験から外した。第3群では、調合液溶液に処方したペプチドの投与は、それぞれ1dBおよび2dBという非常に小さい変化しかもたらさなかった(表5参照)。
【0089】
【表3】

【0090】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌毒素および真菌毒素、特にリポ多糖(LPS)またはリポタイコ酸(LTA)、への親和性を有するペプチド性化合物であって、アミノ酸配列であるX1KEFX2RIVX3RIKX4FLRX5LVX6を含み、
式中、
X1はN末端部を表し;
X2はKまたはEであり;
X3はQまたはEであり;
X4はDまたはRであり;
X5はNまたはEであり;
X6はC末端部を表し;
コア配列中の少なくとも1個のアミノ酸が所望により誘導体化されており、以下の条件からなる群より選ばれる少なくとも1つを満足することを特徴とするペプチド性化合物。
N末端部がアセチル化されている;
C末端部がアミド化されている;そして
該アミノ酸配列が、天然アミノ酸配列であるX1KEFKRIVQRIKDFLRNLVX6とは異なる。
【請求項2】
N末端部であるX1が、アミノ酸であるIおよびGからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
C末端部であるX6が、少なくとも4個のアミノ酸またはアミノ酸誘導体からなる配列を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
C末端部であるX6が、PRTEおよびRPLRからなる群より選ばれる1種のアミノ酸配列を含み、該配列の少なくとも1個のアミノ酸が、所望により誘導体化されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の化合物。
【請求項5】
24個のアミノ酸またはその誘導体からなる配列からなる化合物であって、該配列がIGKEFKRIVQRIKDFLRNLVPRTEおよびIGKEFKRIVERIKRFLRELVRPLRからなる群より選ばれる1種であり、少なくとも1個のアミノ酸が、所望により誘導体化されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の化合物。
【請求項6】
N末端がアセチル化されており、C末端がアミド化されていることを特徴とする、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
以下の工程を包含する、請求項1〜6のいずれかの化合物を調製する方法。
(a)該化合物または該化合物に類似するペプチドをコードする核酸配列と、細胞をトランスフェクト可能なベクター、例えばウイルスベクター、脂質ベクターまたは高分子ベクターとを結合し;
(b)宿主細胞を該ベクターおよびそれに結合している該核酸配列でトランスフェクトし;
(c)該宿主細胞を、該化合物または該化合物に類似するペプチドが発現可能な条件下で培養し;
(d)該化合物または該化合物に類似するペプチドを単離し;そして所望により、
(e)該化合物に類似するペプチドを修飾して該化合物を得る。
【請求項8】
以下の工程を包含する、請求項1〜6のいずれかの化合物を調製する方法。
(a)該化合物をコードする核酸配列と、細胞をトランスフェクト可能なベクター、例えばウイルスベクター、脂質ベクターまたは高分子ベクターとを結合し;
(b)ヒト生体内の細胞を該ベクターおよびそれに結合している該核酸配列でトランスフェクトする。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかの化合物を治療剤または診断剤として用いる方法。
【請求項10】
真菌感染または細菌感染、あるいは、リポ多糖(LPS)やリポタイコ酸(LTA)などの真菌毒素または細菌毒素への曝露に関連あるいは起因する疾病または病態の診断、予防または治療に用いることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
上気道または呼吸器系における真菌感染または細菌感染、あるいはそれに起因する病態、例えば、急性または慢性の副鼻腔炎、あるいは急性または慢性の耳炎および滲出性中耳炎の治療に用いることを特徴とする、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれかの化合物、および少なくとも1種の薬学的に許容される担体または賦形剤を包含する医薬組成物。
【請求項13】
腸管外投与用、好ましくは、血管内、筋内、皮下または病巣内注射用に処方、加工、および適合された請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
感染部位または感染組織の粘膜への局所投与用、例えば、灌注液、点耳薬、点鼻薬、エアロゾル、粉状エアロゾル、噴霧用液、ゲル、懸濁液の形態または粘膜付着性投与用の形態に、処方、加工および適合された請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項15】
ドラッグターゲティング剤、生物学的利用能増強剤、および制御型送達剤からなる群より選ばれる少なくとも1種をさらに包含することを特徴とする、請求項12〜14のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項16】
アミノ酸配列であるKEFX2RIVX3RIKX4FLRX5LVを含むペプチド性化合物をコードする核酸配列。
(式中、
X2はKまたはEであり;
X3はQまたはEであり;
X4はDまたはRであり;そして
X5はNまたはEであるが、但し上記配列はKEFKRIVQRIKDFLRNLVとはならない。)
【請求項17】
コードされる化合物が、IGKEFKRIVQRIKDFLRNLVPRTE および IGKEFKRIVERIKRFLRELVRPLRからなる群より選ばれる1種の配列を有する24個のアミノ酸からなるペプチドであることを特徴とする、請求項16に記載の核酸配列。
【請求項18】
請求項16または17の核酸配列、および所望により、ウイルス性遺伝子送達ベヒクルまたは合成された遺伝子送達ベヒクルを包含する遺伝子送達組成物。

【公表番号】特表2007−528696(P2007−528696A)
【公表日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−502728(P2006−502728)
【出願日】平成16年1月27日(2004.1.27)
【国際出願番号】PCT/NL2004/000060
【国際公開番号】WO2004/067563
【国際公開日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(503107439)
【Fターム(参考)】