説明

毒素変異体ライブラリーおよびその使用方法

この出願は、毒素変異体ライブラリーに関し、特定の細胞種を標的とした開発におけるその使用方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、毒素変異体ライブラリーに関し、特定の細胞種を標的とした治療法の開発におけるその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物および細菌の毒素は、AおよびBと呼ばれる別個の機能を司る2つ以上のポリペプチドドメインまたはサブユニットを伴う構造機構を有する。毒素は、AB毒素と呼ばれることがあり、この場合xは、毒素中の同一または相同のBサブユニットの数を表す。この骨格に関連する毒素ファミリーには、例えば志賀毒素(Shiga)および志賀毒素様毒素(Shiga−like toxin)、大腸菌易熱性エンテロトキシン(E.coli heat−laible enterotoxin)、コレラ毒素(cholera toxin)、ジフテリア毒素(diphtheria toxin)、百日咳毒素(pertussis toxin)、緑膿菌外毒素A(Pseudomonas aeruginosa exotoxin A)(Olsnes,S.およびSandvik,K.(1988)、Immunotoxins、39〜73頁、Kluwer Academic、ボストン;Saadvik,K.、Dubinina,E.、Garred,O.ら(1992)、Biochem.Soc.Trans.20、724頁)、ならびにリシンおよびアブリンなどの植物毒素が挙げられる。時として毒素は、B鎖が、非共有結合により毒性のA鎖に結合する事実上別の実体であるという点でヘテロメリックである。あるいは毒素が自然界で産生される場合、B鎖は同じタンパク質の一部であるため、毒素はモノメリックであることもある。
【0003】
タンパク質合成の阻害能に基づき、志賀毒素および志賀毒素様毒素、ならびにリシン(ricin)、アブリン(abrin)、ゲロニン(gelonin)、クロチン(crotin)、ヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質(pokeweed antiviral protein)、サポリン(saporin)、モモルジン(momordin)、モデシン(modeccin)、サルシン(sarcin)、ジフテリア毒素およびエキソトキシンAなどのタンパク質は、リボソーム不活性化タンパク質(RIP)と呼ばれている。RIPの効力はきわめて高く、真核生物細胞1個を死滅させるには、ジフテリア毒素A鎖(Yamaizumiら(1978)、Cell 15、245〜250頁)またはリシンA鎖(Eiklidら(1980)、Exp.Cell Res.126、321〜326頁)の1分子で十分であることが示されている。
【0004】
国際特許出願公開第WO99/40185号は、毒性種が送達される細胞のタイプを変えるために、結合ドメイン中に変異を導入された変異毒素のライブラリーを記載している。新たなタンパク質は、野生型のヘテロメリックタンパク質細胞毒性タンパク質の結合サブユニットを変異させて、変異タンパク質を産生する微生物クローンのライブラリーを作成することで得られる。ライブラリーは次に、標的細胞型に特異的に結合しそれを死滅させることができるかどうかについてスクリーニングされる。
【0005】
米国特許第5,552,144号は、変異がA鎖の167位に導入され、この位置のアミノ酸を異なる電荷を有するものに変化させる、赤痢菌様毒素II(Shigella−like toxin II)バリアントを開示している。この結果、毒性を伴う酵素活性の低い毒素が得られた。
【0006】
米国特許第6,593,132号は、異常細胞には特異的な毒性を示すが、その作用特異性が特定の細胞結合成分に依存しない組換え毒性タンパク質を記載している。’132号特許の組換えタンパク質は、合成リンカー配列によりB鎖に結合するリシン様毒素のA鎖を有する。このリンカー配列は、特定の疾患に罹患した細胞または組織に局在するプロテアーゼにより特異的に切断されて、毒性のA鎖を遊離させ、それにより病変細胞または組織が選択的に阻害または破壊される。
【0007】
米国特許第6,649,742号は、タイプIのリボソーム不活性化タンパク質(RIP)および標的分子とのジスルフィド結合に利用可能なシステインを有するRIPアナログを開示している。RIPおよびRIPアナログは、細胞傷害性療法薬の成分として使用されて、薬剤の第2成分の特異的結合能によりそのRIP成分が送り込まれるいずれの細胞型も選択的に除去する。
【非特許文献1】Olsnes,S.およびSandvik,K.(1988)、Immunotoxins、39〜73頁、Kluwer Academic、ボストン
【非特許文献2】Saadvik,K.、Dubinina,E.、Garred,O.ら(1992)、Biochem.Soc.Trans.20、724頁
【非特許文献3】Yamaizumiら(1978)、Cell 15、245〜250頁
【非特許文献4】Eiklidら(1980)、Exp.Cell Res.126、321〜326頁
【特許文献1】国際特許出願公開第WO99/40185号
【特許文献2】米国特許第5,552,144号
【特許文献3】米国特許第6,593,132号
【特許文献4】米国特許第6,649,742号
【非特許文献5】Meritt,E.A.、およびHol,W.G.J.(1995)、Curr.Opin.Struct.Biol.5、1651頁
【非特許文献6】O’Brien,A.D.、およびHolmes,R.K.(1987)、Shiga and Shiga−like toxins.、Microbiol Rev 51、206〜220頁
【非特許文献7】Lingwood,C.A.(1993)、Verotoxins and their glycolipid receptors、Adv Lipid Res 25、189〜211頁
【非特許文献8】Jacewiczら(1986)、Pathogensis of shigella diarrhea.XI.Isolation of a shigella toxin−binding glycolipid from rabbit jejunum and HeLa cells and its identification as globotriaosylceramide、J Exp Med 163、1391〜1404頁
【非特許文献9】Sandvigら(1989)、Endocytosis from coated pits of Shiga toxin:a glycolipid−binding protein from Shigella dysenteriae 1.J Cell Biol 108、1331〜1343頁
【非特許文献10】32.Garredら(1995)、Role of processing and intracellular transport for optimal toxicity of Shiga toxin and toxin mutants、Exp Cell Re.218、39〜49頁
【非特許文献11】O’Brienら(1992)、Shiga toxin:biochemistry,genetics,mode of action,and role in pathogenesis、 Curr Top Microbiol Immunol 180、65〜94頁
【非特許文献12】Brigottiら(1997)、The RNA−N−glycosidase activity of Shiga−like toxin I:Kinetic parameters of the native and activated toxin、Toxicon 35、1431〜1437頁
【非特許文献13】Deresiewiczら(1992)、Mutations affecting the activity of the Shiga−like toxin I A−chain、Biochemistry 31、3272〜3280頁
【非特許文献14】Readyら(1991)、Site−directed mutagenesis of ricin A−chain and implications for the Mmechanism of action、Proteins 10、270〜278頁
【非特許文献15】Hovdeら(1988)、Evidence that glutamic acid 167 is an active−site residue of Shiga−like toxin I、Proc Natl Acad Sci USA 85、2568〜2572頁
【非特許文献16】Yamasakiら(1991)、Importance of arginine at position 170 of the A subunit of Vero toxin 1 produced by enterohemorrhagic Escherichia coli for toxin activity、Microb Pathog 11,1〜9頁
【非特許文献17】Gendlerら(1988)、A highly immunogenic region of human polymorphic epithelial mucin expressed by carcinomas is made up of tandem repeats、J Biol Chem 263、12820〜12823頁
【非特許文献18】Girlingら(1989)、A core protein epitope of the polymorphic epithelial mucin detected by the monoclonal antibody SM−3 is selectively exposed in a range of primary carcinomas、Int J Cancer 43、1072〜1076頁
【非特許文献19】Linsleyら(1988)、Monoclonal antibodies reactive with mucin glycoproteins found in sera from breast cancer patients、Cancer Res 48、2138〜2148頁
【非特許文献20】Sarkar G,およびSommers S,(1990)、The ‘megaprimer’ method of site−directed mutagenesis、Biotechniques 8、404〜407頁
【非特許文献21】Noren,K.A.およびNoren,C.J.(2001)、Construction of high−complexity combinatorial phage display peptide libraries、Methods 23、169〜178頁
【非特許文献22】Reidhaar−Olsonら(1991)、Random mutagenesis of protein sequence using oligonucleotide cassettes、Methods Enzymo 208、564〜586頁
【非特許文献23】Brayら(2001)、Probing the surface of sukaryotic cells using combinatorial toxin libraries、Current Biology 11、697〜701頁
【非特許文献24】Skehanら(1990)、New colorimetric cytotoxicity assay for anticancer−drug screening、J Natl Cancer Inst 82、1107〜1112頁
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、複数のタンパク質種を含み、各タンパク質種は、インサートが導入されたヘテロメリックな毒性タンパク質のA鎖を含む、コンビナトリアル・タンパク質ライブラリーを提供する。本発明によれば、インサートは、2個以上のアミノ酸残基長、例えば3〜200アミノ酸残基を有するさまざまなアミノ酸配列のポリペプチドであり、かつインサートは、A鎖配列のプロテアーゼ感受性ループに導入される。インサート導入の結果、A鎖が、B鎖の結合領域に関連する正常な特異性とは無関係かつ異なる毒性特異性を発現するように、A鎖内に人工の結合ドメインが作り出される。ライブラリーをスクリーニングすることで、癌細胞型を含めたさまざまな細胞型に特異的な変異毒素の選択および同定が可能になる。本発明の一実施形態では、コンビナトリアル・ライブラリーは、志賀毒素様毒素IA鎖の、例えば配列番号1を参照して規定されたアミノ酸242位と261位の間の領域にインサートを導入して形成されるタンパク質種を含む。
【0009】
本発明はまた、発現系の複数の種を含むコンビナトリアル発現ライブラリーも提供する。それぞれの種は、上記に記載のインサートが導入されたヘテロメリックな毒性タンパク質のA鎖を含む1つのタンパク質種を発現する。コンビナトリアル発現ライブラリー由来のタンパク質を発現した結果、コンビナトリアル・タンパク質ライブラリーが形成される。
【0010】
さらなる態様では、本発明は、メラノーマの治療用組成物、およびそのような組成物の使用方法を提供する。組成物は、2個以上のアミノ酸残基長、例えば3〜200アミノ酸残基長を有するポリペプチドが、A鎖配列のプロテアーゼ感受性ループに導入された、ヘテロメリックな毒性タンパク質のA鎖を含むタンパク質種を含む。インサートは、タンパク質種がメラノーマ細胞に対する毒性活性を有するように選択される。タンパク質種は、メラノーマと診断された患者に、メラノーマの生細胞数の減少をもたらすのに十分な量で投与することによりメラノーマ治療に使用される。
【0011】
さらなる態様では、本発明は、他のタイプの癌を治療するための組成物を提供する。組成物は、2個以上のアミノ酸残基長、例えば3〜200アミノ酸残基長を有するポリペプチドが、A鎖配列のプロテアーゼ感受性ループに導入された、ヘテロメリックな毒性タンパク質のA鎖を含むタンパク質種を含む。インサートは、タンパク質種が癌細胞に対する毒性活性を有するように選択される。具体的な実施形態では、インサートは、MUC−1レセプターに結合するために選択される。タンパク質種は、メラノーマと診断された患者に、メラノーマの生細胞数の減少をもたらすのに十分な量で投与することによりメラノーマ治療に使用される。
【0012】
さらなる態様では、本発明は、癌細胞に存在することが既知の腫瘍マーカーなど、特定の標的/レセプターに結合するリガンドの同定方法を提供する。この方法では、コンビナトリアル・ライブラリーの毒素は、レポーターとして働き、本発明によるコンビナトリアル・タンパク質ライブラリーは、標的/レセプターを保有することが既知の細胞と対照してスクリーニングされる。細胞に毒性を示すことが明らかにされたタンパク質は、挿入領域の配列を決定するために評価される。次に、この配列のペプチドを、毒素または他の分子との併用により、標的/レセプターの保有細胞へ化合物を導くために用いることができる。
【0013】
本発明のさらなる態様では、既知の細胞マーカーに特異的な毒性物質を同定する方法が提供される。本発明のこの実施形態では、毒素はレポーターとして働く必要がない。したがって、マーカー、または入手可能であれば単離した標的/レセプターを有する細胞は、コンビナトリアル・タンパク質ライブラリーに曝露される。好ましい実施形態では、細胞または単離した標的/レセプターは、プラスチックウェルなどの固体支持体上に固定化される。ライブラリーから得られたタンパク質は、次に、標的/レセプターの発現細胞に対するその毒性ならびに特異性、および治療薬として使用するための適性を確認するため、細胞と対照して再スクリーニングされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、複数のタンパク質種を含むコンビナトリアル・タンパク質ライブラリーに関し、各タンパク質種は、インサートが導入されたヘテロメリックな毒性タンパク質のA鎖を含む。インサートは、2個以上のアミノ酸残基長、例えば3〜200アミノ酸残基を有するさまざまなアミノ酸配列のポリペプチドであり、A鎖配列のプロテアーゼ感受性ループに導入される。本ライブラリーは、特定の癌細胞型といった特定の細胞型に対し毒性を示す個々のタンパク質についてスクリーニングすることができるタンパク質種のコレクションを提供する。したがって、選択された個々のタンパク質種は、癌治療に適切に使用される。
【0015】
この出願の明細書および請求項の範囲で用いられている「コンビナトリアル・ライブラリー」という用語は、それぞれが共通部分と可変部分を有する種の混合物のことである。「コンビナトリアル・タンパク質ライブラリー」という場合は、それぞれの種はタンパク質またはペプチドであり、共通部分と可変部分はそれぞれアミノ酸配列である。コンビナトリアル発現ライブラリーという場合、種は微生物、発現ベクターまたはポリヌクレオチドであり、これらは発現すると、共通部分および可変部分を有するタンパク質またはペプチドを産生する。この場合、共通部分および可変部分は、それぞれヌクレオチド配列である。コンビナトリアル・ライブラリーの目的は、スクリーニング用の複数のバリアントを提供することにあるため、コンビナトリアル・ライブラリーは、好ましくは少なくとも100種類、より好ましくは少なくとも1000種類の異なるタンパク質または発現ユニットを含有する。
【0016】
この出願の明細書および請求項の範囲で用いられている「ヘテロメリック毒性タンパク質」という用語は、別個の機能を司る2つ以上のポリペプチドドメインまたはサブユニットを有する、事実上ヘテロメリックであるという共通の機構テーマを伴うタンパク質毒素のクラスのことである(Meritt,E.A.、およびHol,W.G.J.(1995)、Curr.Opin.Struct.Biol.5、1651頁)。そのようなタンパク質では、2つ以上のサブユニットまたは領域をAおよびB、毒素をAB毒素と呼ぶことがあるが、xは、毒素中の同一または相同のBサブユニットの数を表す。この骨格に関連する毒素ファミリーには、例えば志賀毒素および志賀毒素様毒素、大腸菌易熱性エンテロトキシン、コレラ毒素、ジフテリア毒素、百日咳毒素、緑膿菌外毒素A、ならびにリシンおよびアブリンなど植物毒素が挙げられる。タンパク質合成の阻害能に基づき、志賀毒素および志賀毒素様毒素、ならびにリシン、アブリン、ゲロニン、クロチン、ヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質、サポリン、モモルジン、モデシン、サルシン、ジフテリア毒素およびエキソトキシンAなどのタンパク質は、リボソーム不活性化タンパク質(RIP)と呼ばれている。これらの自然発生のヘテロメリック毒性タンパク質では、A鎖は毒性タンパク質であるのに対し、B鎖は、毒素に対する感受性細胞のレセプターに結合する結合部分を形成することで、A鎖をその細胞に送達する。
【0017】
ヘテロメリック毒性タンパク質A鎖の一具体例が、配列番号1に配列が提供されているSLT−1A鎖である。SLT−1のA鎖は、酵素(毒性)ドメインが1〜239残基の293個のアミノ酸を含む。242〜261残基を包含するプロテアーゼ感受性ループは通常曝露され、ペプチド配列を挿入するのには適した部位である。
【0018】
SLT−1は、大腸菌(O157:H7)(24)の病原株により産生されるタイプIIのリボソーム不活性化タンパク質である。SLT−1は、約70kDのAB5複合体である(O’Brien,A.D.、およびHolmes,R.K.(1987)、Shiga and Shiga−like toxins、Microbiol Rev 51、206〜220頁)。1つの32kD触媒Aサブユニットが、5つの同一の7.7kDBサブユニットであるペンタマーと非共有結合的に会合している。Bサブユニットペンタマーは、標的細胞表面の糖脂質グロボトリアオシルセラミド(CD77またはGb3としても知られる)を認識する(Lingwood,C.A.(1993)、Verotoxins and their glycolipid receptors、Adv Lipid Res 25、189〜211頁;Jacewiczら(1986)、Pathogensis of shigella diarrhea.XI.Isolation of a shigella toxin−binding glycolipid from rabbit jejunum and HeLa cells and its identification as globotriaosylceramide、J Exp Med 163、1391〜1404頁)。A鎖C末端のCys242と261の間に位置するプロテアーゼ感受性ループは、細胞経路の間にフリンにより切断される(図1)。A鎖は、ERルーメンへ移動する際、Cys242と261間の鎖内ジスルフィド結合により、そのBサブユニットペンタマーと結合し続ける(Sandvigら(1989)、Endocytosis from coated pits of Shiga toxin:a glycolipid−binding protein from Shigella dysenteriae 1.J Cell Biol 108、1331〜1343頁;32.Garredら(1995)、Role of processing and intracellular transport for optimal toxicity of Shiga toxin and toxin mutants、Exp Cell Re.218、39〜9頁)。ジスルフィド結合は、最終的にERルーメンで還元され、A1鎖(最初の251aa)が遊離された後、A1鎖はサイトゾルにレトロ転位され、そこでリボソームを不活化する(O’Brienら(1992)、Shiga toxin:biochemistry,genetics,mode of action,and role in pathogenesis、 Curr Top Microbiol Immunol 180、65〜94頁)。より具体的には、SLT−1のA鎖は、28StRNAから特定のアデニンヌクレオチド(4324)を触媒的に切断するN−グリコシダーゼである(Brigottiら(1997)、The RNA−N−glycosidase activity of Shiga−like toxin I:Kinetic parameters of the native and activated toxin、Toxicon 35、1431〜1437頁)。この事象は、アミノアシルtRNAのリボソームへの結合を阻害し、タンパク質の伸張を阻止することでタンパク質合成を結果的に阻害する。STのA鎖およびリシンに関して行われる突然変異誘発試験ならびに構造解析は、触媒活性に関与する主な保護残基を明らかにした(Deresiewiczら(1992)、Mutations affecting the activity of the Shiga−like toxin I A−chain、Biochemistry 31、3272〜3280頁;Readyら(1991)、Site−directed mutagenesis of ricin A−chain and implications for the mechanism of action、Proteins 10、270〜278頁)。SLT−1の触媒活性に不可欠な残基は、チロシン77、グルタミン酸167、アルギニン170およびトリプトファン203である(Hovdeら(1988)、Evidence that glutamic acid 167 is an active−site residue of Shiga−like toxin I、Proc Natl Acad Sci USA 85、2568〜2572頁;Yamasakiら(1991)、Importance of arginine at position 170 of the A subunit of Vero toxin 1 produced by enterohemorrhagic Escherichia coli for toxin activity、Microb Pathog 11,1〜9頁)。さらに、毒素の細胞表面への結合は、細胞内への導入、ひいては毒性活性に不可欠である。なぜなら、このA鎖だけでは有意な毒性を示さないのである。
【0019】
SLT−1A鎖に加えて、他の毒性を用いて本発明によるライブラリーおよび組成物を形成することも、他の毒性を本発明の方法に用いることもできる。具体的には、志賀毒素および他の志賀毒素様毒素、ならびにリシン、アブリン、ゲロニン、クロチン、ヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質、サポリン、モモルジン、モデシン、サルシン、ジフテリア毒素およびエキソトキシンA、および他の機能的に関連のあるリボソーム不活性化タンパク質(RIP)を使用することができる。
【0020】
本発明のコンビナトリアル・ライブラリーを作成する目的で、少なくとも2個のアミノ酸、例えば3〜200アミノ酸残基長の短いアミノ酸配列が、このプロテアーゼ感受性ループに導入される。インサート中のアミノ酸の数は、ライブラリーに存在しうるランダムバリアント候補の数を規定する。例えば、インサート中のアミノ酸数が3である場合、最大バリアント数は、20または8000バリアントである。インサートが大きくなるほど、相応するバリアント候補数も大きくなる。
【0021】
純粋なランダム配列を伴うインサートを用いる代わりに、インサートは既知のテンプレートをもとに設計することができる。例えば、Muc−1との関連で以下に記載する通り、特定の細胞型に対する結合特性をレセプターにもたらすことが既知の配列の変化を、タンパク質構築物の毒性活性を最適化するインサートを同定するために用いることができる。この同じ最適化は、大きなコンビナトリアル・ライブラリーのスクリーニングにより単離された個々の配列で行ってもよい。しかし、実施例1の原則的試験の証明に用いたインサートが標的/レセプターであるのに対し、実際には、最大効果および特異性を得るために、インサートは既知のリガンドの配列に基づき最適化されることを理解されたい。
【0022】
特定の、既知のレセプター型を標的にするこのアプローチは、本発明のさらなる態様、すなわち、癌細胞に存在することが既知の腫瘍マーカーなど、特定の標的/レセプターに結合するペプチドリガンドを同定する方法を示すものである。この方法では、本発明によるコンビナトリアル・タンパク質ライブラリーは、その標的/レセプターを保有することが既知の細胞と対照してスクリーニングされる。細胞に毒性を示すことが明らかにされたタンパク質を評価して挿入領域の配列を決定するため、毒素はレポーターとして働く。次にこの配列のペプチドは、毒素または他の分子との併用により、標的/レセプターの保有細胞へ化合物を導くために用いることができる。さらに、挿入領域配列の休んでいるペプチドは、その細胞型の他のレセプターとは対照的に、それらが特定の標的/レセプターのリガンドであることを確認することが適切であると考えられる。これは、単離したレセプターが入手可能ならば、それを用いた結合アッセイにより行うことができる。
【0023】
本発明はまた、既知の細胞マーカー、および特に単離形で利用可能なマーカーに特異的な毒性物質を同定する方法も提供する。本発明のこの実施形態では、毒素はレポーターとして働く必要がない。したがって、マーカー、または利用可能であれば単離した標的/レセプターを有する細胞は、コンビナトリアル・タンパク質ライブラリーに曝露される。好ましい実施形態では、細胞または単離した標的/レセプターは、プラスチックウェルなどの固体支持体上に固定化される。ライブラリーから捕らえられたタンパク質は、次に、標的/レセプター発現細胞に対するその毒性ならびに特異性、および治療薬として使用するための適性を確認するため、細胞と対照して再スクリーニングされる。この方法は、MUC−1およびその糖型などのムチン、Her−2、Her2−Neu、チロシンキナーゼマーカー、EGFR、GD2、およびGD3など限定されない腫瘍マーカーを含む、いずれかの腫瘍マーカーまたは細胞レセプターに特異的な結合インサートを伴う毒素を同定するために用いることができる。
【0024】
したがって、本発明のこの特定の態様により、
(a)標的/レセプターを、複数のタンパク質種を含むコンビナトリアル・タンパク質ライブラリーであって、各タンパク質種が、インサートが導入された毒性タンパク質のA鎖を含み、
インサートが、少なくとも2個のアミノ酸残基長を有するさまざまなアミノ酸配列のポリペプチドであり、
インサートが、A鎖配列のプロテアーゼ感受性ループに導入された
コンビナトリアル・タンパク質ライブラリーに曝露する工程と、
(b)標的/レセプターへの結合により得られたコンビナトリアル・タンパク質ライブラリーから、少なくとも1つのタンパク質種を分離する工程とを含む、既知の標的/レセプターに特異的な毒素の分離方法が提供される。この明細書および請求項の範囲で用いられている「分離する」という用語は、さらなる分析に適した形態で発現する環境から切り離されたタンパク質を含有する組成物を得るための、なんらかの機構のことである。これには、捕捉後(例えば競合的結合剤への曝露による)の標的/レセプターからの遊離、または捕捉されたことが明らかなタンパク質を発現するクローンの培養物からの分離が挙げられよう。この方法は、さらに分離したタンパク質を、標的/レセプターを発現する細胞と対照してスクリーニングし、標的/レセプターの発現細胞に対するその毒性を確認する工程を含むことができる。このスクリーニングに適した手順は、実施例3に記載されている。上述の通り、この方法では、標的/レセプターは精製された標的/レセプターであってよく、固体支持体上に固定化することができる。標的/レセプターは、固定化することができる細胞表面にあってもよい。標的/レセプターが細胞表面にある場合、毒素はレポーターとして働くことができ、細胞の死はレポーターの結合を示す。
【0025】
SLT−1ライブラリー構築での我々の経験から、コンビナトリアル・ライブラリー構築用のタンパク質のテンプレートを選択するうえで考慮することがふさわしい、いくつかの実用的な問題が指摘された。1つの重要な要素は、単鎖タンパク質、好ましくは300未満のアミノ酸である細菌タンパク質(ライブラリーが原核生物で発現するとする場合)の選択である。より小さな毒素の使用は、固形腫瘍へのその浸潤能を増加させ、かつその免疫原性を低下させる。第2に、タンパク質のテンプレートは、宿主のシャペロンの必要が最小限で済むよう、溶液中で自然発生的に活性形態へフォールディングすべきである。例えば、通常はジスルフィド架橋に関与する複数のシステイン残基を含有するスカフォールドは避けるべきである。さらに、マルチサブユニット複合体とは対照的な単鎖タンパク質は、細菌からより容易にエクスポートすることができる。第3に、タンパク質のテンプレートは、単独および複数の部位特異的突然変異を含有するペプチドバリアントにおける適正なフォールディングを確認するための迅速測定が可能な酵素活性を保有すべきである。第4に、単純なスクリーニング法を、コンビナトリアル・ライブラリーの設計に取り入れるべきである。そのような検索は、高速スループットスクリーニング法に適したものにすべきである。SLT−1の触媒性A鎖(1〜293残基)は、既知のレセプター結合機能をいずれも欠損し、明確な構造と触媒部位を有する単鎖であるため、これらの基準を満たしている。
【0026】
本発明のさらなる態様は、発現系の複数の種を含むコンビナトリアル発現ライブラリーである。発現ライブラリー内の種はそれぞれ、インサートが導入されたヘテロメリックな毒性タンパク質のA鎖を含むタンパク質種を発現する。インサートは、2個以上のアミノ酸残基長、例えば3〜200アミノ酸残基長を有するさまざまなアミノ酸配列のポリペプチドであり、かつインサートは、A鎖配列のプロテアーゼ感受性ループに導入される。好適な発現系には、プラスミドおよびウイルスベクターがある。
ここで本発明を、以下の実施例を参照してさらに説明するが、本発明はこれに限定されない。
【実施例1】
【0027】
コンセプトの実証:典型的なA鎖トリペプチド・ライブラリーの設計およびデータマイニング
我々は当初、SLT−1A鎖のC末端プロテアーゼ感受性ループに挿入する簡単なトリペプチド・ライブラリーを作成した(図2AおよびB)。このA鎖のループ領域は、Cys242〜Cys261を架橋するジスルフィド結合が1つあるために、必然的に制約を受ける。このライブラリーの最大多様性は、トリペプチド配列の20または8000通りの順列になると計算することができる。新たなレセプター結合活性について、A鎖ライブラリーを容易にスクリーニングできるというコンセプトの実証として、我々は、このA鎖トリペプチド・ライブラリーから3000コロニー以上を取り出し、各クローンが産生した変異毒素を精製した。我々は、A鎖変異体が野生型SLT−1Bサブユニットの存在下で発現する場合、その発現程度は劇的に上昇することに、本試験のきわめて初期に気づいた。そこで、A鎖の変異体型を発現し、最初はAB5毒素バリアントとして精製した。すべてのAサブユニットはpolyHis精製タグを保有しているため、A鎖を金属親和性カラムまたはビーズで回収する一方、Bサブユニットを変性剤(例えば尿素)により除去することは比較的容易である。ランダムに選択した細菌のクローンで行ったウェスタンブロット法は、これらのコロニーの>70%が、大量のこれらのA鎖変異体を生成することを示した。
【0028】
次に、これらの毒素バリアントを、96ウェルプレートの個々のウェル中で被覆し、ヒトMUC1反復配列(Gendlerら(1988)、A highly immunogenic region of human polymorphic epithelial mucin expressed by carcinomas is made up of tandem repeats、J Biol Chem 263、12820〜12823頁;Girlingら(1989)、A core protein epitope of the polymorphic epithelial mucin detected by the monoclonal antibody SM−3 is selectively exposed in a range of primary carcinomas、Int J Cancer 43、1072〜1076頁)の特徴が明らかな乳癌トリペプチドエピトープThr−Arg−Proに対し、モノクローナル抗体Onc M27(Linsleyら(1988)、Monoclonal antibodies reactive with mucin glycoproteins found in sera from breast cancer patients、Cancer Res 48、2138〜2148頁)を結合するその能力をELISA法でスクリーニングした。表1および2に示されている通り、A鎖変異体のほとんどは、Onc M27の標的エピトープに適合するトリペプチドインサートをコードすることも、抗体により認識されることもなかった。しかし、2例においては、毒素バリアントは正確なエピトープを保有しており(表1、図3)、MUC1トリペプチドエピトープを保有する我々の対照A鎖で観察されたものに匹敵する、強いELISA信号を発したが、これらはその無作為に選んだトリペプチド領域に予測したエピトープ配列を有していた。96A鎖変異体の典型的なELISAデータセットを図3に示す。1例のA鎖変異体(表1および2の変異体#41)を除くA鎖変異体の大部分が、mAb Onc M27を認識しなかったことが明らかにわかる。これらの結果は、A鎖ライブラリーは容易に構築およびスクリーニングされ、特定のレセプター、この場合では抗原結合部位を特異的に標的にすることが可能な毒素変異体を見つけることができることを、明らかに立証した。
【実施例2】
【0029】
コンビナトリアルSLT−1Aヘプタペプチド・ライブラリーの作成
ライブラリーの多様性は、特定の標的に特異的に結合することが可能で高い親和性を有するリガンドについて、コンビナトリアル・ライブラリーをスクリーニングするうえで不可欠なパラメータを示す。実施例Iに記載したSLT−1A鎖トリペプチド・ライブラリーは、20または8000通りの変異した可能性があるA鎖最大多様性を有する。このサンプリング範囲は小さいが、我々のコンセプトを実証するためにトリペプチドエピトープをマッピングするうえでは有用であった。7残基ライブラリー(20または1.3×10通りの変異体)は、合成ペプチド・ライブラリーと並んでファージディスプレイの設計に一般に用いられる、より典型的な最小多様性レベルを示している。そこで、手始めに我々は、そのC末端に7アミノ酸長のランダム配列を挿入したSLT−1A鎖ライブラリーを構築した。このライブライーは、ジスルフィド結合により必然的に制約される感受性領域である、A鎖のプロテアーゼ感受性ループに組み込まれた。このライブラリーは、A鎖毒素変異体が、新たなまたは既知の、癌細胞に取り込まれたレセプターを標的にすることを確実に確認できるだけの十分な多様性を提供する。このライブラリーの要素はすべて(提案された他のライブラリーと同様)、迅速にA鎖変異体を精製するためのN末端Hisタグを含有している。ライブラリー(図4)は、メガプライマーPCR法(Sarkar G,およびSommers S,(1990)、The‘megaprimer’method of site−directed mutagenesis、Biotechniques 8、404〜407頁)により生成された。メガプライマー法は、2個のフランキングプライマーおよび内部変異プライマーを用いる2回のPCRにより、標的DNA配列に変異を導入するために広く用いられている。SLT−1A鎖ヘプタペプチド・ライブラリーのライブラリー設計に関する説明は、今後他の単一A鎖ライブラリーに対する例として役立つであろう。SLT−1A鎖ヘプタペプチド・ライブラリー(図5)は、我々のSLT−1A鎖トリペプチド・ライブラリーを構築するため用いたのと同じ部位である、A鎖のアミノ酸245位と246位の間に7つのアミノ酸がランダム挿入されている(表1、2、図3)。簡単には、それぞれにHindl11およびpst1の制限酵素認識部位を保有する2つのフランキングプライマー、A(GTT ACT GTG ACA GCT GAA GCT TTA CGT TTT CG(配列番号2)およびB(GAG AAG AAG AGA CTG CAG ATT CCA TCT GTT G(配列番号3))を、SLT−1オペロンの5’および3’末端内でアニールした。7つのランダムアミノ酸(NNS)すべてのほか、テンプレートにアニールするための長いマッチした配列を含有するライブラリ・オリゴヌクレオチドFを合成した。ランダム・オリゴヌクレオチドの合成では、各コドンの3番目の位置をGまたはTに制限することで、各アミノ酸の相対的発現量を改善した(Noren,K.A.およびNoren,C.J.(2001)、Construction of high−complexity combinatorial phage display peptide libraries、Methods 23、169〜178頁)。このタイプの制限は、残基間のコーディングの不一致だけでなく全般的なDNA配列複雑性も減少させる(Reidhaar−Olsonら(1991)、Random mutagenesis of protein sequence using oligonucleotide cassettes、Methods Enzymo 208、564〜586頁)。この方法はまた、TAGコドンが翻訳される際のGln残基の挿入を規定するsupE細菌株を用いて、終止コドン(TAG)を抑制する一方、終止コドン(TAAおよびTGA)の発生を最少化する。最初のPCR反応は、プライマーAおよびFおよび変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動により精製した結果産物を用いて行った。この産物を次に、ランダムDNAを増幅する2回目のPCR反応用のプライマーBを伴うメガプライマーとして用いた。最終のライブラリーDNA(PCR産物)を次に、Hindl11およびPst1で分解し、pECHE9a発現ベクター(MTI、トロント)の骨格にクローニングする。続いて、以上の結果得られたpECHEベクターで大腸菌株JM101を形質転換し、単一の細菌コロニーを取り出し、溶解して単一A鎖毒素の発現についてその上清を分析するか、または癌細胞上に層状化し、細胞の細胞傷害活性分析のためSRBを用いてスクリーニングした。
【実施例3】
【0030】
細胞傷害活性分析による、癌細胞系と対照したコンビナトリアルSLT−1Aヘプタペプチド・ライブラリーの検索
我々は、A鎖の細胞傷害機能をレポーターシグナルとして用い、我々のSLT−1Aヘプタペプチド・ライブラリーをスクリーニングした。細胞傷害活性は、毒素が内在化され、処理され、リボソーム近傍に送達される、明らかに多段階の事象であることを示唆するため、レセプターへの結合の測定よりも豊富な情報を所有する。細胞傷害活性分析は基本的に前述の通りに行った(Brayら(2001)、Probing the surface of sukaryotic cells using combinatorial toxin libraries、Current Biology 11、697〜701頁)。簡単には、我々のA鎖ライブラリーすべてをスクリーニングする方法は、以下の原則を基に行われた。SK−BR−3(ヒト乳癌)、CAMA−1(ヒト乳癌)、518A2(ヒトメラノーマ)、PC3(ヒト前立腺癌)およびB16(マウスメラノーマ)などの確立された癌細胞系を96ウェルプレートで増殖させ、1次スクリーニング段階で標的として用いた。これらの細胞系は当初、その接着力(樹脂)、高速スループットスクリーニング設定におけるその細胞生存染色特性(SRB)のほか、野生型SLT−1に対するレセプターおよび感受性の欠損を基に(擬陽性度を確実に減らすため)、我々のホロトキシンライブラリー検索(Bray、上記)のために選択された。各ライブラリーから単一細菌コロニーを取り出し、深い96ウェルプレートで増殖した。細胞を採取し、溶解してその溶解物を精製した。すべての発現したSLT−1A鎖バリアントは、N−末端に6−ヒスチジン標識を有するため、ニッケル親和性ビーズ(96ウェルフォーマット)によりその溶解物から各バリアントを精製し、標的細胞上に層状化した。A鎖バリアントで処置した標的細胞を含有するプレートを、次に37℃で48時間培養した後、固定し、スルホローダミンB(SRB)で染色した。SRBアッセイは、その細胞のタンパク質量を染色して生存細胞を定量化する比色エンドポイントアッセイである(Skehanら(1990)、New colorimetric cytotoxicity assay for anticancer−drug screening、J Natl Cancer Inst 82、1107〜1112頁)。SRBアッセイは、癌細胞系で薬剤候補の高速スループットスクリーニングを行うためにNCI/NIHにより採用されている。生存率分析を、細胞死をもたらすいずれの細菌抽出物についても繰り返し行った。1回目のスクリーニングをは、5000個を超える細菌クローンに対して行い(5000の異なるA鎖の毒素に相当)、ヒトメラノーマ細胞系518A2の再現可能なキラーとして7つの毒素バリアントを同定した(図5)。横座標は細胞の治療に用いられた毒素の対数濃度を表し、縦座標は48時間後の生存細胞の実測率を表す。塗りつぶされた三角は、518A2細胞に対する野生型毒素の効果を示し、2つの最も効果的なA鎖バリアントを、SAM#3(塗りつぶしなしの四角)およびSAM#5(X記号)と名づけた。
【0031】
次に、7つの有望なA鎖バリアントを、細胞系パネル(ベロ[サル、正常な腎臓];PC−3[ヒト、前立腺癌];HepG2[ヒト、肝癌];SiHa[ヒト、子宮頸癌];PanC[ヒト、膵臓癌];SKBR−3[ヒト、乳癌];518−A2[ヒト、メラノーマ];U87[ヒト、神経膠腫];B16−F10[マウス、メラノーマ];HS−216[ヒト、正常な線維芽細胞];CAMA−1[ヒト、乳癌];OVCar−3[ヒト、卵巣癌])と対照して再スクリーニングした。これら7つのうち、4つは1つの癌細胞系に対し活性があり、そのうち2つは518−A2ヒトメラノーマに対し、その他はSiHa(ヒト子宮頸癌細胞)およびU87−A(ヒト脳癌細胞;神経膠腫)に対してそれぞれ活性を有することが観察された。
【0032】
ヒトメラノーマ細胞系に毒性をもたらす2つのA鎖毒素(SAM3およびSAM5)をコードする遺伝子の配列を決定し、野生型A鎖の残基245位と246位の間に挿入されたアミノ酸配列を決定した。Hisタグを含むこの配列は、配列番号4および5にそれぞれリストされている。
表1:SLT−1A鎖トリペプチド・ライブラリーからランダムに取り出したクローンのDNA配列。太字は変異塩基。変異体#41は、我々のELISAスクリーニングでmAb Onc M27の強力なバインダーとして同定された(図3)。
【表1】

表2:SLT−1A鎖トリペプチド・ライブラリーからランダムに選択したクローンのアミノ酸配列アライメント、およびMUC1エピトープThr−Arg−Proに対するmAb(Onc M27)を用いて検出した精製SLT−1A鎖バリアントのELISA信号。太字は変異トリペプチド領域。変異体#41は、我々のELISAスクリーニングでmAb Onc M27の強力なバインダーとして同定された。
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】SLT−1のA1およびA2ドメインを示す概略図である。A鎖は293個のアミノ酸からなる。この鎖は、A1触媒フラグメントおよびBペンタマーと非共有結合的に関連するA2C末端尾部を生成するため、フリンにより切断される。プロテアーゼ感受性ループ(斜線部分)は、A鎖(Cys242および261)のわずか2個のシステイン残基により規定される。Tyr77、Glu167、Arg170およびTrp203は、A1ドメインの触媒活性に不可欠な残基を示している(矢印)。
【図2A】残基245位と246位の間に挿入された乳癌関連MUC1エピトープPDTRPAP(mAb Onc M27により認識される対照配列)およびN−末端に6−ヒスチジン標識を有する、SLT−1A鎖(1〜293)の概略図である。
【図2B】mAb Onc M27により認識されるMUC1エピトープの3つの主要な位置がランダム化された(XXX領域)、我々のSLT−1A鎖−トリペプチド・ライブラリー構築の図である。トリペプチド・ライブラリーは、Cys242とCys261の間にジスルフィド架橋が存在することで生成されるA鎖の自然発生のループ領域に挿入された。
【図3】我々のSLT−1A鎖−トリペプチド・ライブラリーから、96個の異なる単独A鎖バリアントを、mAb Onc M27を用いてスクリーニングして得られた、代表的なELISAデータセットを示した図である。毒素バリアント#41(表1および2)は、強いELISA信号を発し、予測されたエピトープを有していた。
【図4】A鎖の245残基と246残基の間に挿入された7アミノ酸ランダムセグメントの概略図である。
【図5】ヒトメラノーマ細胞系518A2の再現可能なキラーとして同定された7つの毒素バリアントの試験結果を示した図である。横座標は細胞の治療に用いられた毒素の対数濃度を表し、縦座標は48時間後の生存細胞の実測率を表す。塗りつぶされた三角は、518A2細胞に対する野生型毒素の効果を示し、2つの最も効果的なA鎖バリアントを、SAM#3(塗りつぶしなしの四角)およびSAM#5(X記号)と名づけた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のタンパク質種を含むコンビナトリアル・タンパク質ライブラリーであって、各タンパク質種が、インサートが導入された毒性タンパク質のA鎖を含み、
(a)インサートが、少なくとも2個のアミノ酸残基長を有するさまざまなアミノ酸配列のポリペプチドであり、
(b)インサートが、A鎖配列のプロテアーゼ感受性ループに導入された
コンビナトリアル・タンパク質ライブラリー。
【請求項2】
ライブラリーが、少なくとも100のタンパク質種を含む、請求項1に記載のコンビナトリアル・タンパク質ライブラリー。
【請求項3】
タンパク質種が、インサートを志賀毒素様毒素IA鎖に導入することで形成される、請求項1または2に記載のコンビナトリアル・タンパク質ライブラリー。
【請求項4】
タンパク質種が、配列番号1を参照して規定されたアミノ酸242位と261位の間にインサートを導入することで形成される、請求項3に記載のコンビナトリアル・タンパク質ライブラリー。
【請求項5】
タンパク質種が、配列番号1を参照して規定されたアミノ酸245位と246位の間にインサートを導入することで形成される、請求項4に記載のコンビナトリアル・タンパク質ライブラリー。
【請求項6】
タンパク質種が、配列番号1を参照して規定された志賀毒素様毒素IA鎖のアミノ酸1から239位の前または後にインサートを導入することで形成される、請求項3に記載のコンビナトリアル・タンパク質ライブラリー。
【請求項7】
インサートが7アミノ酸長を有する、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のコンビナトリアル・タンパク質ライブラリー。
【請求項8】
発現系の複数の種を含み、それぞれの種が、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の1つのタンパク質種を発現するコンビナトリアル発現ライブラリー。
【請求項9】
インサートが導入された毒性タンパク質のA鎖を含む変異タンパク質であって、
(a)インサートが、少なくとも2個のアミノ酸残基長を有するさまざまなアミノ酸配列のポリペプチドであり、
(b)インサートが、A鎖配列のプロテアーゼ感受性ループに導入された
変異タンパク質。
【請求項10】
毒性タンパク質のA鎖が志賀毒素様毒素IA鎖である、請求項9に記載の変異タンパク質。
【請求項11】
インサートが、配列番号1を参照して規定されるアミノ酸242位と261位の間に導入された、請求項10に記載の変異タンパク質。
【請求項12】
インサートが、配列番号1を参照して規定されるアミノ酸245位と246位の間に導入された、請求項11に記載の変異タンパク質。
【請求項13】
インサートが配列IYSNKLM(配列番号6)を含む、請求項12に記載の変異タンパク質。
【請求項14】
インサートが配列AAFADLI(配列番号7)を含む、請求項12に記載の変異タンパク質。
【請求項15】
インサートが、配列番号1を参照して規定された志賀毒素様毒素IA鎖のアミノ酸1から239位の前または後に導入された、請求項10に記載の変異タンパク質。
【請求項16】
インサートが7アミノ酸長を有する、請求項9乃至15のいずれか1項に記載の変異タンパク質。
【請求項17】
特定の標的/レセプターに結合するリガンドの同定方法であって、
(a)標的/レセプターを保有することが既知の細胞を、請求項1乃至7のいずれか1項に記載のコンビナトリアル・タンパク質ライブラリーのメンバーに曝露する工程と、
(b)細胞に対する毒性が観察されるタンパク質ライブラリーのメンバーを選択する工程と、
(c)選択したタンパク質ライブラリーのメンバーを評価して挿入領域の配列を決定し、それにより細胞の標的/レセプターのリガンド候補として挿入領域の配列ペプチドを同定する工程と、
(d)挿入領域の配列ペプチドをさらに試験して、それらが特定の標的/レセプターのリガンドであることを確認する工程と
を含む方法。
【請求項18】
既知の標的/レセプターに特異的な毒素を分離する方法であって、
(a)標的/レセプターを、請求項1乃至7のいずれか1項に記載のコンビナトリアル・タンパク質ライブラリーに曝露する工程と、
(b)標的/レセプターへの結合により得られたコンビナトリアル・タンパク質ライブラリーから、少なくとも1つのタンパク質種を分離する工程と
を含む方法。
【請求項19】
標的/レセプターの発現細胞と対照して、分離したタンパク質をスクリーニングして、標的/レセプターの発現細胞に対するその毒性を確認する工程をさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
標的/レセプターが、精製された標的/レセプターであり、固体支持体上に固定化されている、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
標的/レセプターが細胞表面にある、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記細胞が固体支持体上に固定化されている、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
毒素がレポーターとして働き、前期細胞の死がレポーターの結合を示す、請求項21または22に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−531716(P2007−531716A)
【公表日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−504218(P2007−504218)
【出願日】平成16年3月26日(2004.3.26)
【国際出願番号】PCT/CA2004/000443
【国際公開番号】WO2005/092917
【国際公開日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(506324459)
【出願人】(506324460)
【Fターム(参考)】