説明

比較装置

【課題】センサからの出力の全般的な変化に応じて閾値を適応的に調整する。
【解決手段】比較装置100が、検知した磁気Bの強度に応じて信号Vinを出力する磁気センサ10と、磁気センサ10が出力する信号Vinの強度に応じて、信号Vinの強度が属する階級Cnを特定する離散値を出力する信号処理部21と、信号処理部21が出力した離散値を記憶する離散値記憶部22と、離散値記憶部22に記憶された複数の離散値が成す、信号Vinの強度の頻度分布の代表値Vmodeに応じて、第1判別用閾値Vref1と第1判別用閾値Vref1を下回る第2判別用閾値Vref2とを生成して出力する閾値出力部20と、信号Vinと、第1判別用閾値Vref1および第2判別用閾値Vref2のいずれか一方とを比較して、2値化された比較結果COMPを出力する比較部30と備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比較装置に関する。
【背景技術】
【0002】
センサからの入力信号と閾値とを比較し2値化された比較信号を出力する比較器を用いて、機器の状態(例えば携帯電話の開閉状態)を検出する比較装置が知られている。このような比較装置では、検出されるべき複数の状態を判別できるように閾値を適切に設定する必要がある。
特許文献1の磁気センサは、窓等がわずかに開いた状態(半締まり状態)である場合に、窓等が閉鎖していると判定してしまうことを防止する観点から、窓等が完全に閉鎖しているときの磁界の強さHmaxに応じて閾値(閉鎖強度TH1)を実験的に設定し、測定された磁界の強さH0が閾値(閉鎖強度TH1)を超えているときに窓等が閉鎖していると判定する。この磁界の強さH0に基づいて、窓等の開閉を判定するための閾値TH2および閾値TH3が設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4368313号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、センサの経時劣化や周辺温度等の変化によってセンサからの出力が全般的に変化すると、当初に設定された閾値が機器状態を判別するのに不適当となる場合がある。例えば、磁気センサからの出力の強弱によって携帯電話の開閉を判別する比較装置において、磁気センサの経時劣化により出力が全般的に低下した場合に、当初の閾値をそのまま用いて判別すると、閉鎖状態でも磁気センサからの出力が閾値を超えないために開閉状態を正しく検知できないという可能性がある。また、磁気センサは周辺温度の変化に伴って抵抗値が変化するために、周辺温度が変化した場合に当初の閾値をそのまま用いて判別すると、開閉動作を正しく検知できなくなる可能性がある。
特許文献1の磁気センサは、窓等の開閉を判定するための閾値TH2および閾値TH3については閉鎖時の磁界の強さH0に基づいて動的に設定されるものの、窓等の閉鎖を判定するための閾値TH1は予め実験的に設定されており、センサ出力の全般的な変化に応じて各閾値を適応的に調整するものではない。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、センサの経時劣化や周辺温度等の変化により生じるセンサからの出力の全般的な変化に応じて閾値を適応的に調整することが可能な比較装置を提供することを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明に係る比較装置は、検知した磁気の強度に応じて信号を出力する磁気センサと、前記磁気センサが出力する前記信号の強度に応じて、前記信号の強度が属する階級を特定する離散値を出力する信号処理部と、前記信号処理部が出力した前記離散値を記憶する離散値記憶部と、前記離散値記憶部に記憶された複数の前記離散値が成す、前記信号の強度の頻度分布の代表値に応じて、第1判別用閾値と前記第1判別用閾値を下回る第2判別用閾値とを生成して出力する閾値出力部と、前記信号と、前記第1判別用閾値および前記第2判別用閾値のいずれか一方とを比較して、2値化された比較結果を出力する比較部とを備える。
「階級」とは、統計学上の用語であり、複数の連続値を離散値化して頻度分布(ヒストグラム等)を作成する場合における、連続値の範囲を分割した複数の小範囲の各々のことを意味する。具体的に例示すると、複数の値Xnの各々が0から100までの範囲において連続値を取る場合、この範囲を10ごとの間隔で分割すると、0〜10、10〜20、…、90〜100という10個の階級ができ、複数の値Xnの各々はいずれかの階級に属することが理解される。また、各階級の中央の値を「階級値」という。例えば、階級0〜10の階級値は5であり、階級90〜100の階級値は95である。
「代表値」とは、統計学上の用語であり、複数の値の分布の特徴を代表的に表す値のことである。代表値には、例えば算術平均値、中央値(複数の値を大きさの順に並べた場合に中央に位置する値)、最頻値(最も頻度が高い階級の階級値)等が含まれる。
【0007】
以上の構成によれば、磁気センサから出力される信号の強度に応じた複数の離散値が成す頻度分布の代表値に応じて第1判別用閾値および第2判別用閾値が生成されるので、磁気センサの出力の全般的な変化に応じて第1判別用閾値と第2判別用閾値とを調整できる。したがって、磁気センサからの出力が全般的に変化しても閾値が一定に維持される構成と比較して、判別制度を向上させることが可能である。また、複数の離散値によって頻度分布が形成されるので、簡易に代表値を求めることが可能である。
【0008】
本発明の好適な態様においては、前記代表値は、前記頻度分布の最頻値である。
以上の構成によれば、代表値として最頻値を用いるので、より適切に入力信号の頻度分布に応じた判別用閾値の調整を行うことが可能となる。
【0009】
本発明の好適な態様においては、前記閾値出力部に、前記第1判別用閾値と前記第2判別用閾値とを時分割で選択して出力させるシーケンサを備える。
以上の構成によれば、第1判別用閾値と第2判別用閾値とが時分割で選択されて比較部に供給されるので、単一の比較部による構成によって、複数の閾値と信号との比較動作を行うことが可能となる。
【0010】
本発明の好適な態様においては、前記比較部は、前記比較結果を判定部に出力し、前記判定部は、前記比較結果が、前記信号が前記第1判別用閾値以上であることを示す場合には、第1論理値を示す判定結果を出力し、前記比較結果が、前記信号が前記第2判別用閾値未満であることを示す場合には、第2論理値を示す判定結果を出力し、前記比較結果が、前記信号が前記第1判別用閾値未満であって前記第2判別用閾値以上であることを示す場合には、前回の判定結果と同じ判定結果を出力する。
以上の構成によれば、前回の判定結果と今回の比較結果とに基づいて、ヒシテリシス特性が付与された今回の判定結果を得ることが可能である。また、ヒシテリシス特性が単一のコンパレータを用いた構成によって実現されるので、ヒシテリシス特性を付与するための複数のコンパレータやシュミットトリガ回路を設ける場合と比較して、構成を簡易にすることが可能である。
【0011】
本発明の好適な態様においては、前記信号処理部は、前記センサが出力する前記信号をデジタル信号に変換するアナログ−デジタル変換器を備え、前記閾値出力部は、前記判別用閾値を前記比較部へ出力するデジタル−アナログ変換器を備える。
以上の構成によれば、信号の強度が属する階級を示す離散値に対応したデジタル信号が信号処理部から出力される。また、デジタルデータとして生成された閾値データを変換して判別用閾値である電位を出力するので、安定した判別用閾値を得ることが可能である。
【0012】
以上の本発明の比較装置は、携帯装置に備えられて好適である。この場合には、閾値を適応的に調整することが可能な比較装置を備えた携帯装置が提供される。
【0013】
また、本発明に係る比較方法は、検知された磁気の強度に応じて出力された信号の強度に応じて、前記信号の強度が属する階級を特定する離散値を出力するステップと、出力された前記離散値を記憶するステップと、記憶された複数の前記離散値が成す、前記信号の強度の頻度分布の代表値に応じて、第1判別用閾値と前記第1判別用閾値を下回る第2判別用閾値とを生成して出力するステップと、前記信号と、前記第1判別用閾値および前記第2判別用閾値のいずれか一方とを比較して、2値化された比較結果を出力するステップとを備える。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態の比較装置の構成を示すブロック図である。
【図2】入力信号の強度範囲と階級との関係を示す図である。
【図3】離散値記憶部の構成を示す図である。
【図4】比較装置を搭載した開閉式機器の構成例を示す図である。
【図5】磁気センサ−磁石間の距離と、磁気センサ表面における磁束密度との関係を示すグラフである。
【図6】磁気センサが検知する磁束密度の理論的な頻度を示すグラフである。
【図7】離散値化された入力信号の頻度分布を示すヒストグラムである。
【図8】比較装置の動作を示すフローチャートである。
【図9】磁気センサの出力が上昇した場合の閾値の調整の様子を示すグラフである。
【図10】磁気センサの出力が低下した場合の閾値の調整の様子を示すグラフである。
【図11】ヒシテリシス特性を示すグラフである。
【図12】判定部が判定信号を出力するための真理値表である。
【図13】開閉判定動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<A.実施形態>
図1は、本発明の実施形態に係る比較装置100のブロック図である。比較装置100は、入力信号Vinと判別用閾値Vrefとを比較した結果に基づいて判定信号DETを出力する比較装置である。比較装置100は、磁気センサ10、閾値出力部20、コンパレータ30、および制御部40を備える。
【0016】
磁気センサ10は、磁気の強度(磁束密度)を検知し、検知結果に応じて入力信号Vinを生成してコンパレータ30へ供給する磁気センサ(例えばGMR素子)である。磁気センサ10は、磁束密度を検知するが磁場の向きは検出しない磁気センサであってもよく、磁束密度と磁場の向きとを検出する磁気センサであってもよい。
コンパレータ30は入力信号Vinと判別用閾値Vrefとを比較し、2値化された比較信号COMPを制御部40に出力する。具体的には、コンパレータ30は、入力信号Vinが判別用閾値Vref以上であれば(Vin≧Vref)、ハイレベルの比較信号COMPを出力し、入力信号Vinが判別用閾値Vref未満であれば(Vin<Vref)、ローレベルの比較信号COMPを出力する。
【0017】
制御部40は、発振器41とシーケンサ42と判定部43とを備える。発振器41は、シーケンサ42にクロック信号を供給する。シーケンサ42は、判別用閾値Vrefを選択するための制御信号CTLを生成して閾値出力部20に供給する。さらに、シーケンサ42は、タイミング信号を判定部43に供給して、判定部43の判定動作がシーケンサ42の動作と同期して行われるように制御する。判定部43は、コンパレータ30から供給された比較信号COMPとシーケンサ42から供給されたタイミング信号とに基づいて判定信号DETを出力する。
【0018】
閾値出力部20は、信号処理部21と、離散値記憶部22と、閾値生成回路23と、閾値記憶部24と、デジタル−アナログ変換器(Digital-Analog Converter、DAC)25とを備える。信号処理部21は、アナログ−デジタル変換器(Analog-Digital Converter、ADC)を備えており、磁気センサ10が生成する入力信号Vinをデジタル信号に変換して出力する。このデジタル信号は、入力信号Vinの強度が属する階級Cnを特定する離散値を示す。
図2に、信号処理部21への入力信号Vinの強度と階級Cnとの関係を例示する。この例においては、入力信号Vinが16段階(C0〜C15)に階級化される。具体的には、信号処理部21は、例えば量子化ビット数4ビット、階級幅0.2Vで入力信号Vinを量子化する。すなわち、入力信号Vinの強度が0V以上0.2V未満の場合には階級C0に属し、入力信号Vinの強度が0.2V以上0.4V未満の場合には階級C1に属する。信号処理部21は、入力信号Vinを16段階に階級化するADCのみを備えてもよいし、16段階より多い段階数に階級化するADCと、そのADCからの出力を16段階に階級化する信号処理回路とを備えてもよい。
【0019】
離散値記憶部22は、信号処理部21が出力した、階級Cnを特定する離散値を時系列で記憶する。図3に例示した離散値記憶部22の構成では、離散値記憶部22内に10000個の離散値が記憶される。信号処理部21が入力信号Vinの階級Cnを取得して離散値を出力すると、出力された離散値が最新の離散値として離散値記憶部22に記憶され、代わりに最古の離散値が破棄される(すなわち、先入先出方式(First-In/First-Out)にて離散値が離散値記憶部22に記憶される)。このようにして、図3に例示した離散値記憶部22には、信号処理部21が出力した直近10000回分の離散値が記憶されることとなる。
【0020】
なお、図2および図3の説明において示した「16段階に階級化」、「量子化ビット数4ビット」、「階級幅0.2V」、「離散値10000個」等の数値は、説明のための単なる例に過ぎず、本実施形態がこれらの数値を用いた構成に限定されるものではない。
【0021】
閾値生成回路23は、離散値記憶部22に記憶された複数の離散値が成す頻度分布に応じて、第1判別用閾値Vref1に対応する閾値データD1と第2判別用閾値Vref2に対応する閾値データD2とを生成して閾値記憶部24に記憶する。DAC25は、シーケンサ42からの制御信号CTLに従って、閾値記憶部24に記憶された閾値データD1および閾値データD2をアナログ信号に変換して、第1判別用閾値Vref1および第2判別用閾値Vref2を時分割で選択してコンパレータ30へ出力する。第1判別用閾値Vref1および第2判別用閾値Vref2は、開閉式機器200の開閉を判別するための閾値であり、ヒシテリシス特性をもって入力信号Vinを判別するのに用いられる。第1判別用閾値Vref1は、第2判別用閾値Vref2を上回る(Vref2<Vref1)。
なお、閾値出力部20が閾値記憶部24を備えずに、閾値生成回路23が、シーケンサ42からの制御信号CTLに従って都度に第1判別用閾値Vref1および第2判別用閾値Vref2を生成する構成も採用し得る。
【0022】
制御部40が備える判定部43は、入力信号Vinが第1判別用閾値Vref1以上である場合には、ハイレベルの判定信号DETを出力する。入力信号Vinが第2判別用閾値Vref2未満である場合には、ローレベルの判定信号DETを出力する。入力信号Vinが第1判別用閾値Vref1未満であって第2判別用閾値Vref2以上である場合には、前回の判定信号DETと同じ判定信号DETを出力する。すなわち、判定部43から出力される判定信号DETにはヒシテリシス特性が付与されている。
【0023】
図4に、比較装置100を搭載した開閉式機器200の構成例を示す。開閉式機器200は、ユーザーが開閉することが可能であるようにヒンジ203で接合された本体部201と蓋部202とを備える。本体部201の先端には比較装置100が備える磁気センサ10が配置され、蓋部202の先端には磁石12が配置される。開状態(図2の(A)の状態)のときに磁気センサ10と磁石12とが最も離間し、閉状態(図2の(B)の状態)のときに磁気センサ10と磁石12とが最も近接する。以下、磁気センサ10と磁石12の磁極面との距離を距離dと称し、特に、開状態における磁気センサ10と磁石12の磁極面との距離を距離dmaxと、閉状態における磁気センサ10と磁石12の磁極面との距離を距離dminと称する。
【0024】
図5は、磁気センサ10と磁石12の磁極面との距離dと、磁気センサ10の表面における磁石12の磁束密度Bとの関係を示すグラフである。距離dが小さいほど磁束密度Bが大きく、距離dが大きいほど磁束密度Bが小さい。また、距離dの増加に伴う磁束密度Bの減少の程度は、距離dが小さいほど大きい。すなわち、距離dが大きい場合(例えば距離dmaxの付近)よりも、距離dが小さい場合(例えば距離dminの付近)の方が、距離dの増加に伴う磁束密度Bの減少の程度が大きい。また、距離dx以降では、磁束密度Bが自然界に存在する背景磁場を下回り、磁石12の磁束密度Bと背景磁場との判別が困難になる。
以上の距離dと磁束密度Bとの関係に基づくと、開閉式機器200の開閉を判別するための第1判別用閾値Vref1および第2判別用閾値Vref2は、距離dminにおける磁束密度Bに対応する入力信号Vinの近くに設定されると好ましい。この場合には、背景磁場が磁束密度Bに与える影響が少なく、かつ、距離dのわずかな変動によって磁束密度Bが大きく変動し、入力信号Vinも第1判別用閾値Vref1付近および第2判別用閾値Vref2付近で大きく変動するから、誤判別の可能性が低減されて判別精度を高めることができる。
【0025】
図6は、磁気センサ10が検知する磁束密度Bの理論的な頻度を示すグラフである。開閉式機器200は、閉状態にある期間(閉期間)と開状態にある期間(開期間)とが動作期間全体における長い期間を占めるので、閉期間および開期間と比して開閉動作中の期間は短い。例えば、開閉式機器200が携帯電話である場合、通話等の機能を使用しない閉期間と、通話等を行っている開期間とが長い期間を占めるので、これらの期間と比して開閉動作中の期間は短い。したがって、長期間(例えば数日間)にわたって、磁気センサ10が検知する磁束密度Bを示す入力信号Vinの頻度分布を取得したと仮定すると、図6のように、開閉動作中における磁束密度Bの範囲W2においては入力信号Vinの分布が小となり、開状態における磁束密度Bの範囲W1と閉状態における磁束密度Bの範囲W3とにおいては入力信号Vinの分布が大となる。なお、開閉式機器200(携帯電話)を使用していない閉期間は開期間と比較しても顕著に長いため、閉状態における磁束密度Bの範囲W3において頻度分布の顕著なピークpが存在する。ピークpにおける入力信号Vinの電位をピーク電位Vpとする。
【0026】
以上の理論的な検知頻度分布に基づくと、第1判別用閾値Vref1および第2判別用閾値Vref2は、ピーク電位Vpと所定の間隔だけ離れた範囲W2内に設定されると好ましい。この場合には、検知頻度が低い磁束密度Bに対応する電位(範囲W2内の電位)に第1判別用閾値Vref1および第2判別用閾値Vref2が設定されるので、閉状態および開状態において第1判別用閾値Vref1および第2判別用閾値Vref2と入力信号Vinとの差異が大きくなるから、誤判別の可能性が低減されて判別精度を高めることができる。
【0027】
したがって、距離dと磁束密度Bとの関係(図5)および磁束密度Bの検知頻度(図6)を併せて考慮すると、第1判別用閾値Vref1および第2判別用閾値Vref2は、範囲W2内において、距離dmin(閉状態)における磁束密度Bに対応する入力信号Vinの近くに設定されると好ましいことが理解される。具体的には、ピーク電位Vpから所定の差Int1だけ離れた位置に第1判別用閾値Vref1を設け、この第1判別用閾値Vref1から所定の差Int2だけ離れた位置に第2判別用閾値Vref2を設定すると好ましい。
【0028】
一方で、磁気センサ10からの出力は、磁気センサ10の表面における磁束密度Bが一定であっても変化し得る。例えば、磁気センサ10が経時劣化したり、磁気センサ10の周辺温度が上昇したりすると、同じ磁束密度Bを検知した場合でも出力が全般的に低下する場合がある。また、磁気センサ10の周辺温度が低下すると、同じ磁束密度Bを検知した場合でも出力が全般的に上昇する場合がある。すなわち、入力信号Vinの出力範囲は、磁気センサ10の使用状況に応じて変化する。
そして、磁気センサ10からの出力(入力信号Vin)が全般的に変化すると、図6の検知頻度分布(入力信号Vinの頻度分布)が変化し、ピーク電位Vpの位置および範囲W1〜範囲W3の位置も変化する。したがって、判別用閾値Vref(Vref1、Vref2)を適切な値に維持するには、磁気センサ10からの出力の全般的な変化に応じて、判別用閾値Vrefを適応的に調整すると好ましいことが理解される。
【0029】
そこで、磁気センサ10が出力する入力信号Vinの強度の頻度分布に基づいて磁気センサ10の全般的な出力変動を検知し、頻度分布に基づいて第1判別用閾値Vref1および第2判別用閾値Vref2を調整することを考える。以下、入力信号Vin(階級Cn)の頻度分布を代表する値の一種である最頻値に基づいて判別用閾値Vrefを調整する場合を例として説明する。
【0030】
図7に、離散値記憶部22に記憶されている複数の離散値が成す入力信号Vinの頻度分布を示す。前述の通り、入力信号Vinは信号処理部21によって16階級(C0〜C15)に量子化されて離散値となり離散値記憶部22に記憶されるから、本実施形態における入力信号Vinの頻度分布は、図7に示すような階級ごとのヒストグラムにて表すことができる。(以下、このヒストグラムを「入力信号Vinのヒストグラム」と称する場合がある。)
図7中の点線BLは、図6で示された入力信号Vinの理論頻度分布である。前述の通り、開閉式機器200の動作期間全体においては、閉状態にある期間が長い期間を占めるため、入力信号Vinは理論頻度分布における閉状態の電位(ピーク電位Vp近傍の電位)を取る場合が多い。そして、図7に示すように、このピーク電位Vpは階級C11に属するから、入力信号Vinのヒストグラムにおいては、階級C11の頻度が最も高くなることが理解される。また、ピーク電位Vpは階級C11に属するから、最も頻度の高い階級C11の階級値(すなわち最頻値Vmode)をピーク電位Vpの近似値とできることが理解される。
【0031】
前述の通り、理論的には、第1判別用閾値Vref1はピーク電位Vpから所定の差Int1だけ離れた位置に設定され、第2判別用閾値Vref2はこの第1判別用閾値Vref1から所定の差Int2だけ離れた位置に設定されると好ましい。ここで、最頻値Vmodeはピーク電位Vpの近似値であるから、最頻値Vmodeから所定の差Int1だけ離れた位置に第1判別用閾値Vref1を設定し、この第1判別用閾値Vref1から所定の差Int2だけ離れた位置に第2判別用閾値Vref2を設定することにより、磁気センサ10が出力する入力信号Vinの出力の全般的な変動に応じた判別用閾値Vref(Vref1、Vref2)とすることが可能である。最頻値Vmodeと第1判別用閾値Vref1との差Int1、および第1判別用閾値Vref1と第2判別用閾値Vref2との差Int2は、予め、実験によりあるいは統計的に最適な値に定めておくことができる。
【0032】
図8は、磁気センサ10の全般的な出力変化を最頻値Vmodeの変化により検知して判別用閾値Vref(Vref1、Vref2)を調整する動作のフローチャートである。
まず、制御部40は、N回の開閉判別動作を行う(S101〜S103)。具体的には、ステップS101で、シーケンサ42が、開閉判別動作の回数nに1を加える。ステップS102で、判定部43が、入力信号Vinが第1判別用閾値Vref1以上である場合には、ハイレベルの判定信号DETを出力する。入力信号Vinが第2判別用閾値Vref2未満である場合には、ローレベルの判定信号DETを出力する。入力信号Vinが第1判別用閾値Vref1未満であって第2判別用閾値Vref2以上である場合には、前回の判定信号DETと同じ判定信号DETを出力する。ステップS103で、開閉判別動作の回数を判定する。開閉判別動作の行われた回数がN回未満であれば、開閉判別動作を繰り返す(S103:NO)。
なお、シーケンサ42が各回の開閉判別動作を所定時間毎に行うように構成してもよい。例えば、開閉式機器200が携帯電話である場合、その開閉動作は速くても1Hz程度であるから、1秒間に100回程度の開閉判別動作を行えば開閉状態を判別し得る。したがって、シーケンサ42が開閉判別動作を0.01秒に1回行うように構成してもよい。
【0033】
N回の開閉判別動作が終了すると(S103:YES)、次のN回の開閉判別動作のために、シーケンサ42が開閉判別動作の回数nを0に初期化する(S104)。続いて、閾値出力部20が入力信号Vinの頻度分布を更新する(以下、頻度分布更新動作と称する)。具体的には、制御部40からの制御信号CTLに従って、信号処理部21が、入力信号Vinを量子化し、入力信号Vinが属する階級Cnを示す離散値を離散値記憶部22に出力する。離散値記憶部22には先入先出方式により離散値が記憶される(S105)。
【0034】
頻度分布更新動作が終了すると、閾値出力部20は、閾値調整動作を行う。具体的には、閾値生成回路23が、離散値記憶部22に記憶されている複数の離散値について最頻値Vmodeを求め、この最頻値Vmodeに基づいて、第1判別用閾値Vref1および第2判別用閾値Vref2を新たに設定する。最頻値Vmodeから所定の差Int1を減じた値(Vmode−Int1)が新たな第1判別用閾値Vref1となる。最頻値Vmodeから所定の差Int1及びInt2を減じた値(Vmode−(Int1+Int2))が新たな第2判別用閾値Vref2となる(S106)。
閾値調整動作(S106)が終了すると、ステップS101に戻って上述のフローチャートの動作が繰り返される。
【0035】
前述の通り、現在の磁気センサ10からの出力が以前より全般的に上昇している場合には最頻値Vmodeも上昇し、現在の磁気センサ10からの出力が以前より全般的に低下している場合には最頻値Vmodeも低下する。また、前述の通り、所定の差Int1および差Int2は予め定められた最適値であって変化しないので、最頻値Vmodeの上昇に伴い判別用閾値Vref(Vref1、Vref2)も上昇し、最頻値Vmodeの低下に伴い判別用閾値Vref(Vref1、Vref2)も低下する。したがって、以上のフローチャートの動作によれば、センサ出力の上昇に適応して判別用閾値Vref(Vref1、Vref2)が上昇し、センサ出力の低下に適応して判別用閾値Vref(Vref1、Vref2)が低下する。
【0036】
なお、上述のステップS106においては、説明の簡単のために判別用閾値Vref(Vref1、Vref2)自体を変化させるように記載したが、これらは、閾値生成回路23が、調整後の新たな判別用閾値Vref(Vref1、Vref2)に対応する閾値データD(D1、D2)を生成して閾値記憶部24に記憶することによって実現される。
【0037】
以上の構成によれば、磁気センサ10の出力の全般的な変化に適応した開閉式機器200の開閉判別が可能となる。すなわち、例えば、図9に示すように、周辺温度が低下して磁気センサ10からの出力が全般的に上昇した場合には、入力信号Vinの頻度分布を代表する値である最頻値Vmodeの上昇に応じて判別用閾値Vref(Vref1、Vref2)を増加させるので、磁気センサ10の出力の全般的な上昇に適応した開閉式機器200の開閉判別が可能となる。また、例えば、図10に示すように、磁気センサ10が経時劣化して磁気センサ10からの出力が全般的に低下した場合には、最頻値Vmodeの低下に応じて判別用閾値Vref(Vref1、Vref2)を減少させるので、磁気センサ10の出力の全般的な低下に適応した開閉式機器200の開閉判別が可能となる。したがって、磁気センサ10からの全般的な出力が変化しても各閾値が一定に維持される構成と比較して、精度よく開閉状態を判別することができる。
【0038】
<B.実施例>
上述した実施形態における開閉判別動作(図8のステップS102)の具体的な実施例を以下に説明する。以下に説明する構成により、単一のコンパレータ30によって判定信号DETにヒシテリシス特性を付与することが可能となる。
【0039】
図11に、入力信号Vinが変化した場合の判定信号DETの変化の様子を示す。なお、本実施例においては磁場の向き(極性)は考慮せず、磁気の絶対的な強度のみを考慮する。なお、磁気センサ10が磁場の向きをも検知する場合には、磁気センサ10とコンパレータ30との間に、磁気の絶対的な強度を示す信号を入力信号Vinとして出力する回路を設けることによりこの実施例の構成を適用できる。
判定信号DETがローレベルである状態において、入力信号Vinが次第に大きくなり、第1判別用閾値Vref1を上回ると判定信号DETがハイレベルに変化する。一方、判定信号DETがハイレベルである状態において、入力信号Vinが次第に小さくなり、第2判別用閾値Vref2を下回ると判定信号DETがローレベルに変化する。すなわち、入力信号Vinの変化に応じて、ヒシテリシス特性が付与された判定信号DETが判定部43から出力される。
【0040】
図12に、第1判別用閾値Vref1および第2判別用閾値Vref2と入力信号Vinとに基づく比較信号COMP、前回の判定信号DET’、ならびに今回の判定信号DETとの関係を示す。第1判別用閾値Vref1と入力信号Vinとに基づく比較信号COMPがローレベル(Vin<Vref1)であり、第2判別用閾値Vref2と入力信号Vinとに基づく比較信号COMPがハイレベル(Vref2≦Vin)である場合、入力信号Vinは第2領域A2にある。この場合には、過去の入力信号Vinの状態に応じて、今回の判定信号DETがローレベルとなることもあればハイレベルとなることもある。すなわち、前回の判定信号DET’がローレベルであれば今回の判定信号DETはローレベルであり、前回の判定信号DET’がハイレベルであれば今回の判定信号DETはハイレベルである。判定部43は、図12に示す真理値表に従った論理演算を実行して、今回の判定信号DETを生成する。
【0041】
図13に、ヒシテリシス特性を実現する開閉判別動作のフローを示す。
まず、判定部43は、入力信号Vinが第2判別用閾値Vref2以上であるか否かを判定する(S1)。具体的には、第2判別用閾値Vref2の出力を指示する制御信号CTLをシーケンサ42が閾値出力部20に供給する。この制御信号CTLに対応する閾値データD2が閾値記憶部24から読み出され、DAC25により第2判別用閾値Vref2に変換されてコンパレータ30に供給される。コンパレータ30が入力信号Vinと第2判別用閾値Vref2とを比較して比較信号COMPを出力する。
【0042】
ステップS1における比較信号COMPがローレベルであれば、判定部43は、入力信号Vinが第2判別用閾値Vref2未満であると判定し(S1:NO)、今回の判定信号DETをローレベルとする(S2)。この場合、入力信号Vinは図11に示す第1領域A1(第2判別用閾値Vref2未満の範囲)に属する。
他方、ステップS1における比較信号COMPがハイレベルであれば、判定部43は、入力信号Vinが第2判別用閾値Vref2以上であると判定し(S1:YES)、続いて入力信号Vinが第1判別用閾値Vref1以上であるか否かを判定する(S4)。具体的には、ステップS1と同様、第1判別用閾値Vref1の出力を指示する制御信号CTLがシーケンサ42により閾値出力部20に供給され、第1判別用閾値Vref1がコンパレータ30に供給される。コンパレータ30が入力信号Vinと第1判別用閾値Vref1とを比較して比較信号COMPを出力する。
【0043】
ステップS4における比較信号COMPがローレベルであれば、判定部43は、入力信号Vinが第1判別用閾値Vref1未満であると判定し(S4:NO)、処理をステップS5に進める。この場合、入力信号Vinは図11に示す第2領域A2(第2判別用閾値Vref2以上第1判別用閾値Vref1未満の範囲)に属する。ステップS5において、判定部43は、内部記憶領域に記憶されている前回の判定信号DET’を読み出してその論理値を今回の判定信号DETの論理値とする。すなわち、前回の判定信号DET’がハイレベルであれば今回の判定信号DETはハイレベルとなり、前回の判定信号DET’がローレベルであれば今回の判定信号DETはローレベルとなる。
他方、ステップS5における比較信号COMPがハイレベルであれば、判定部43は、入力信号Vinが第1判別用閾値Vref1以上であると判定し(S4:YES)、今回の判定信号DETをハイレベルとする(S6)。この場合、入力信号Vinは図11に示す第3領域A3(第1判別用閾値Vref1以上の範囲)に属する。
【0044】
ステップS2、ステップS5またはステップS6の処理が終了すると、判定部43は今回の判定信号DETを内部記憶領域に記憶し(S3)、処理を終了する。なお、ステップS5が終了した場合は、前回の判定信号DET’と今回の判定信号DETとが一致するので、ステップS3の内部記憶領域への書込みを省略してもよい。
【0045】
図13のフローチャートに基づいた開閉判別動作のシーケンスによれば、判定部43は、第1判別用閾値Vref1および第2判別用閾値Vref2に対応する比較信号COMPに基づいて、入力信号Vinが第1領域A1、第2領域A2、および第3領域A3のいずれに属するかを高々2回の判定動作のシーケンスで判定する(ステップS1、S4)。
入力信号Vinが第1領域A1に属する場合は、今回の判定信号DETをローレベルにする(S2)。入力信号Vinが第2領域A2に属する場合は、今回の判定信号DETを前回の判定信号DET’と一致させる(S5)。入力信号Vinが第3領域A3に属する場合は、今回の判定信号DETをハイレベルにする(S6)。以上の図13の動作シーケンスが時系列で繰り返されることにより、図11において説明したように、ヒシテリシス特性が付与された判定信号DETが生成される。
【0046】
例えば、入力信号Vinが第1領域A1にある場合には、ステップS1およびステップS2により、ローレベルの判定信号DETが出力され内部記憶領域に記憶される。入力信号Vinが次第に大きくなり第2領域A2に属すると、前回の判定信号DETはローレベルなので、ステップS4およびステップS5により、再度ローレベルの判定信号DETが出力され内部記憶領域に記憶される。さらに入力信号Vinが大きくなり第3領域A3に属すると、ステップS6によりハイレベルの判定信号DETが出力され内部記憶領域に記憶される。
【0047】
以上の実施例に係る構成によれば、第1判別用閾値Vref1および第2判別用閾値Vref2が切り替えられるごとに、判定部43がコンパレータ30からの比較信号COMPを取得し、取得した比較信号COMPと前回の判定信号DET’とに基づいて今回の判定信号DETを生成することにより、判定信号DETにヒシテリシス特性が付与される。したがって、磁気センサ10からの出力が短時間で変動することによるチャタリングを防止することが可能である。また、ヒシテリシス特性が単一のコンパレータを用いた構成によって実現されるので、ヒシテリシス特性を付与するための複数のコンパレータやシュミットトリガ回路を設ける場合と比較して、構成を簡易にすることが可能である。
また、以上の実施例に係る構成の比較装置100(すなわち、磁気スイッチシステム)を搭載した、ユーザーにより開閉可能な開閉式装置200(すなわち、携帯装置)は、所定期間の開閉動作に伴う判定動作によって、調整用閾値Vrefr、第1判別用閾値Vref1、及び第2判別用閾値Vref2を変化させることができる。したがって、磁気スイッチを構成する磁気センサ又はその他の構成が搭載された後であっても、使用状況に応じて適応的に閾値を変更することができる。
【0048】
<C.変形例>
以上の実施形態は多様に変形される。具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は相互に矛盾しない限り適宜に併合され得る。
【0049】
以上の実施形態においては、信号処理部21が入力信号Vinをデジタル信号に変換して出力し、離散値として離散値記憶部22に記憶し、これに基づいて形成される入力信号Vinの頻度分布に応じて判別用閾値Vrefが生成された。しかし、入力信号Vinの頻度分布に基づく判別用閾値Vrefの生成方法は任意である。例えば、信号処理部21および離散値記憶部22の代わりに、時定数の大きなローパスフィルタを設けてこのローパスフィルタに入力信号Vinを供給してもよい。図6の説明において記載した通り、入力信号Vinの頻度分布においては閉状態の電位(ピーク電位Vp近傍の電位)の頻度が高く、それ以外の状態(開状態または開閉中の状態)の電位の頻度は低い。時定数の大きなローパスフィルタで信号を平均化する場合、頻度の高い信号が出力に大きく影響する一方、頻度の少ない信号は出力にほとんど影響しない。したがって、このローパスフィルタで入力信号Vinを平均化すると、入力信号Vinの頻度分布を反映した電位、すなわち、ピーク電位Vpに近似した電位が出力される。閾値生成回路23は、このローパスフィルタが出力するピーク電位Vpに近似した電位に基づいて判別用閾値Vrefを生成し得る。
なお、この場合、閾値生成回路23は、抵抗分割によって判別用閾値Vrefを生成してもよいし、レベルシフタで判別用閾値Vrefを生成してもよい。
【0050】
図6に示すような頻度分布に対応する検知結果が蓄積されるには長期間を要する。例えば、開閉式機器200が携帯電話である場合、その開閉動作は1日に数回〜数十回程度しか行われないことが多い(全く行われない可能性もある)し、磁気センサ10からの出力には統計的な誤差が含まれるから、秒単位や分単位の検知結果の蓄積では図6のような頻度分布は形成されない場合が多い。
したがって、開閉式機器200が工場出荷直後またはリセット直後等であることにより、離散値記憶部22に頻度分布を生成するのに十分な数(例えば、実験によりまたは統計的に予め定められた数)の離散値が記憶されていないと判定される場合に、閾値調整動作を実行せず、開閉式機器200に予め記憶された判別用閾値Vref(Vref1、Vref2)を使用する構成も採用しうる。この場合には、頻度分布が生成されていなくても開閉判別動作を実行することができ、さらに頻度分布が生成された後には、実際の頻度分布を反映した精度の高い開閉判別動作を実行することが可能である。
【0051】
上述の実施形態のフローチャート(図8)による構成では、N回の開閉判別動作(S101〜S103)後に頻度分布更新動作(S105)を1回実行し、1回の頻度分布更新動作が終了すると閾値調整動作(S106)を実行して判別用閾値Vrefを変化させたが、所定の期間において頻度分布更新動作を繰り返し行い、所定期間の経過後に閾値調整動作を実行してもよい。すなわち、N回の開閉判別動作および1回の頻度分布更新動作(S101〜S105)をM回繰り返して行い、M回の頻度分布更新動作により離散値記憶部22に離散値がM回記憶された後に閾値調整動作を実行してもよい。この場合には、閾値調整動作の回数が抑えられ、消費電力の削減を図ることが可能である。
【0052】
3つ以上の判別用閾値が設けられてもよい。すなわち、第1判別用閾値Vref1および第2判別用閾値Vref2の他に、第3判別用閾値Vref3、第4判別用閾値Vref4等が設けられてもよい。この場合には、2つより多い状態を取り得る装置(例えば、閉状態、回転して開いた状態、スライドして開いた状態の3つの状態を取り得る携帯電話)の状態を判別することが可能になる。この場合にも、3つ以上の判別用閾値が調整用閾値と連動して変化する。
【0053】
他方、判別用閾値は1つであってもよい。すなわち、第1判別用閾値Vref1のみを設けてもよい。この場合には、より簡易な構成で開閉式機器200の開閉状態を判別できる。また、この場合、比較信号COMPをそのまま判定信号DETとして出力する構成も採用可能である。判定動作が不要なので判定部43の構成を簡易にでき、消費電力も削減される。
【0054】
以上の実施形態では、最頻値Vmodeから差Int1を減じて新たな判別用閾値Vref1を算出し、最頻値Vmodeから差Int1および差Int2を減じて新たな判別用閾値Vref2を算出したが、例えば、最頻値Vmodeに比R1および比R2を乗じて新たな判別用閾値Vref(Vref1、Vref2)を算出してもよく、また、最頻値Vmodeを変数とする他の関数により判別用閾値Vref(Vref1、Vref2)を算出してもよい。つまり、判別用閾値Vref(Vref1、Vref2)が最頻値Vmodeに応じて算出されればよく、その手法は限定されない。
また、最頻値Vmodeの代わりに、代表値として離散値記憶部22に記憶されている複数の離散値の算術平均値Vmean、離散値記憶部22に記憶されている複数の離散値の中央値Vmed等その他の統計学的代表値を用いて判別用閾値Vrefを算出してもよい。
【0055】
以上の実施形態では、代表値(最頻値Vmode)よりも低位側に判別用閾値Vref(Vref1、Vref2)を設定したが、代表値よりも高位側に判別用閾値Vref(Vref1、Vref2)を設定してもよい。この場合には、入力信号Vinが低位側に存在する頻度が高い装置(例えば、図6の頻度分布が左右反転した頻度分布を取るような装置)において、適切にセンサの出力変化を検知して各閾値を調整することが可能である。
【0056】
<D.応用例>
以上の比較装置100が採用される開閉式機器200としては、上述した携帯電話の他に、携帯電話以外の携帯装置(携帯用PC等)、冷蔵庫、サッシ窓、ドア等が例示される。もっとも、本発明の比較装置の用途は機器の開閉判別に限定されない。例えば、回転検出センサを搭載した機器の回転判別に本比較装置が採用され得る。すなわち、本発明の比較装置は、経時劣化や周辺環境の変化等により出力が変化するセンサを備えた任意の機器に採用され得る。
【符号の説明】
【0057】
100…比較装置、200…開閉式機器、10…磁気センサ、12…磁石、20…閾値出力部、21…信号処理部、22…離散値記憶部、23…閾値生成回路、24…閾値記憶部、25…DAC、30…コンパレータ、40…制御部、41…発振器、42…シーケンサ、43…判定部、B…磁束密度、COMP…比較信号、CTL…制御信号、D(D1、D2)…閾値データ、DET…判定信号、Vin…入力信号、Vmode…最頻値、Vp…ピーク電位、Vref(Vref1、Vref2)…判別用閾値。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知した磁気の強度に応じて信号を出力する磁気センサと、
前記磁気センサが出力する前記信号の強度に応じて、前記信号の強度が属する階級を特定する離散値を出力する信号処理部と、
前記信号処理部が出力した前記離散値を記憶する離散値記憶部と、
前記離散値記憶部に記憶された複数の前記離散値が成す、前記信号の強度の頻度分布の代表値に応じて、第1判別用閾値と前記第1判別用閾値を下回る第2判別用閾値とを生成して出力する閾値出力部と、
前記信号と、前記第1判別用閾値および前記第2判別用閾値のいずれか一方とを比較して、2値化された比較結果を出力する比較部と
を備えることを特徴とする比較装置。
【請求項2】
前記代表値は、前記頻度分布の最頻値である
ことを特徴とする請求項1に記載の比較装置。
【請求項3】
前記閾値出力部に、前記第1判別用閾値と前記第2判別用閾値とを時分割で選択して出力させるシーケンサを更に備える
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の比較装置。
【請求項4】
前記比較部は、前記比較結果を判定部に出力し、
前記判定部は、
前記比較結果が、前記信号が前記第1判別用閾値以上であることを示す場合には、第1論理値を示す判定結果を出力し、
前記比較結果が、前記信号が前記第2判別用閾値未満であることを示す場合には、第2論理値を示す判定結果を出力し、
前記比較結果が、前記信号が前記第1判別用閾値未満であって前記第2判別用閾値以上であることを示す場合には、前回の判定結果と同じ判定結果を出力する
ことを特徴とする請求項3に記載の比較装置。
【請求項5】
前記信号処理部は、前記センサが出力する前記信号をデジタル信号に変換するアナログ−デジタル変換器を備え、
前記閾値出力部は、前記判別用閾値を前記比較部へ出力するデジタル−アナログ変換器を備える
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の比較装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の比較装置を備える携帯装置。
【請求項7】
検知された磁気の強度に応じて出力された信号の強度に応じて、前記信号の強度が属する階級を特定する離散値を出力するステップと、
出力された前記離散値を記憶するステップと、
記憶された複数の前記離散値が成す、前記信号の強度の頻度分布の代表値に応じて、第1判別用閾値と前記第1判別用閾値を下回る第2判別用閾値とを生成して出力するステップと、
前記信号と、前記第1判別用閾値および前記第2判別用閾値のいずれか一方とを比較して、2値化された比較結果を出力するステップと
を備えることを特徴とする比較方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−141183(P2012−141183A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292902(P2010−292902)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】