説明

毛穴収縮剤

【課題】毛穴を目立たなくさせることができるケラチノサイト収縮剤及び毛穴収縮剤の提供。
【解決手段】次式(1):R−OPO32(1)〔式中、Rは炭素数12〜24のアルキル基又はアルコキシアルキル基を示す。〕で表される化合物又はその塩を有効成分とするケラチノサイト収縮剤、毛穴収縮剤。16-メチルオクタデシルリン酸又は11-(2-メチルブトキシ)ウンデシルリン酸が好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケラチノサイト収縮剤及び毛穴収縮剤に関する。
【背景技術】
【0002】
スキンケアは老若男女を問わず高い関心を持たれている。このスキンケアの際に改善したい肌のトラブルとして毛穴の目立ちが上位を占めている。
【0003】
この毛穴の目立ちの原因としては、毛穴に形成された角栓、色素沈着、毛穴開口部の広がり等が挙げられる。このうち角栓については、種々の角栓除去剤が開発され、広く用いられている。しかし、単に角栓を除去しただけでは毛穴が開いたままであり、毛穴が目立ったままの状態であるという欠点がある。
【0004】
従来、毛穴を目立たなくさせるために、ヒバマタ等天然由来の多糖(特許文献1参照)や炭素数8〜32のアルキル基を有するリン酸化グリセリルエーテル誘導体(特許文献2参照)等種々の毛穴収縮剤が提案されている。しかしながら、体調によって肌状態が変化したり、また個人差もあるため、さらなる様々な要望に応えるべく毛穴収縮剤の探索が望まれている。
【0005】
一方、分岐アルキルリン酸のアルカノールアミン塩又はアルカリ金属塩には皮膚洗浄効果があることが知られているが(特許文献3参照)、ケラチノサイト収縮作用や毛穴収縮作用があることは知られていない。
【特許文献1】特開2000−169322号公報
【特許文献2】特開2002−187817号公報
【特許文献3】特許第1330986号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、毛穴を目立たなくさせることができるケラチノサイト収縮剤及び毛穴収縮剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ケラチノサイトの収縮と毛穴の収縮関係について検討してきたところ、下記式(1)で表されるアルキル若しくはアルコキシアルキルリン酸又はそれらの塩がケラチノサイト収縮作用に優れ、ケラチノサイト収縮剤及び毛穴収縮剤として有用であることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、下記の1)〜3)に係るものである。
1)次式(1):
R−OPO32 (1)
〔式中、Rは炭素数12〜24のアルキル基又はアルコキシアルキル基を示す。〕
で表される化合物又はその塩を有効成分とするケラチノサイト収縮剤。
2) 次式(1):
R−OPO32 (1)
〔式中、Rは炭素数12〜24のアルキル基又はアルコキシアルキル基を示す。〕
で表される化合物又はその塩を有効成分とする毛穴収縮剤。
3)式(1)で表される化合物が、16-メチルオクタデシルリン酸又は11-(2-メチルブトキシ)ウンデシルリン酸である上記1)のケラチノサイト収縮剤又は2)の毛穴収縮剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明のケラチノサイト収縮剤及び毛穴収縮剤によれば、ケラチノサイトを収縮して毛穴を収縮し、毛穴を目立たなくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
式(1)中、Rで示される炭素数12〜24のアルキル基としては、炭素数14〜20のものが好ましく、炭素数16〜20のものがより好ましい。
また、炭素鎖は、直鎖又は分岐の何れでもよいが、好ましくは分岐鎖である。
【0011】
当該Rで示されるアルキル基の好適な具体例としては、例えば、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコシル、ヘンイコシル、ドコシル、トリコシル、テトラコシル、2−ヘキシルデシル、2−ヘプチルウンデシル、2−オクチルドデシル、3,7,11−トリメチルドデシル、3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル、イソステアリル、16-メチルステアリル、17-メチルステアリル等が挙げられる。
【0012】
炭素数12〜24のアルコキシアルキル基としては、炭素数14〜20のものが好ましく、炭素数14〜18のものがより好ましい。また、含有エーテル酸素原子を1つ含むものが好ましい。より好適なアルコキシアルキル基としては、R1−O−R2−(ここで、R1は炭素数2〜10のアルキル基を示し、R2は炭素数5〜16のアルキレン基を示す)で示されるものが挙げられる。ここで、R1の炭素数2〜10のアルキル基としては、分岐鎖のアルキル基が好ましく、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、sec−アミル基、tert−アミル基、イソアミル基、アンテイソアミル基、sec−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、イソヘキシル基、アンテイソヘキシル基、sec−ヘプチル基、tert−ヘプチル基、イソヘプチル基、アンテイソヘプチル基等が挙げられ、sec−アミル基、tert−アミル基、イソアミル基、アンテイソアミル基がより好ましい。
2の炭素数5〜16アルキレン基としては、直鎖のものが好ましく、例えば、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基、オクタデシレン基、ノナデシレン基、エイコシレン基、ヘンエイコシレン基等が挙げられる。
より好適なアルコキシアルキル基としては、11−(2−メチルブトキシ)ウンデシル基が挙げられる。
【0013】
また、式(1)で表わされる化合物の塩は、薬学上許容しうる塩であればよく、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、トリメチルアミン、トリエチルアミン等のアルキルアミン塩及び4級アンモニウム塩、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン等のアルカノールアミン塩又は、リジン、ヒスチジン、アルギニン等アミノ酸塩が挙げられる。
【0014】
本発明における式(1)で表わされる化合物は、公知のリン酸エステル化法に準じて製造することができ、例えば、目的化合物に対応するアルコール(R−OH)をリン酸エステル化し、必要に応じて適宜上記の塩を形成するようなアルカリで中和することにより得ることができる。リン酸エステル化試薬としては、例えばオキシ塩化リン、三塩化リン、五塩化リン、ポリリン酸、水と無水リン酸、リン酸と無水リン酸等を用いることができる(実験化学講座1,有機化合物の合成I,p206−210,化学同人社)。得られた化合物は、適宜公知の方法により分離精製を行ってもよい。
【0015】
後記実施例のように、本発明の式(1)で表される化合物又はその塩は、ヒト表皮ケラチノサイトを接着させたコラーゲンゲルに対して収縮作用を示すことから、ケラチノサイト収縮作用があるといえる(特許3887185号公報参照)。
【0016】
従って、式(1)で表わされる化合物又はその塩は、ケラチノサイト収縮剤、更にはケラチノサイトを収縮させて毛穴を収縮させる毛穴収縮剤として使用することができ、ケラチノサイト収縮剤又は毛穴収縮剤を製造するために使用できる。そして、ケラチノサイト収縮剤及び毛穴収縮剤は、毛穴を目立たなくさせる効果を発揮する医薬品、医薬部外品、化粧品として使用可能である。
【0017】
本発明のケラチノサイト収縮剤又は毛穴収縮剤を医薬品、医薬部外品や化粧料として用いる場合は、皮膚外用剤、洗浄剤、メイクアップ化粧料等とすることができ、使用方法に応じて、ローション、乳液、ゲル、クリーム、軟膏剤、粉末、顆粒等の種々の剤型で提供することができる。このような種々の剤型の医薬部外品や化粧料は、本発明の式(1)で表わされる化合物又はその塩を単独で、又は医薬部外品、皮膚化粧料及び洗浄料に配合される、油性成分、保湿剤、粉体、色素、乳化剤、可溶化剤、洗浄剤、紫外線吸収剤、増粘剤、薬剤(例えば、抗炎症剤、殺菌剤、酸化防止剤、ビタミン類等)、香料、樹脂、防腐剤、植物抽出物、アルコール類等を適宜組み合わせることにより調製することができる。
【0018】
当該医薬部外品、化粧料中の本発明の式(1)で表わされる化合物又はその塩の含有量は、一般的に0.001〜20質量%とするのが好ましく、0.01〜5質量%とするのがより好ましい
【実施例】
【0019】
製造例1:16-メチルオクタデシルリン酸二ナトリウム塩(化合物1)の製造
15-ペンタデカノリド14.3g(59.5mmol)、32%臭化水素/酢酸溶液24.8g(98.0mmol)を、テフロン(登録商標)で保護された100mlオートクレーブに入れ、窒素置換した後、密閉し、120℃のオイルバスにつけて、16時間、撹拌した。冷却後、イオン交換水14mlを加え、熱ヘキサン200mlを用い、分液ロートに移送した。イオン交換水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過、n-ヘキサンで晶析することで、15-ブロモペンタデカン酸17.1g(収率90%)を得た。
【0020】
次に、前述の合成した15-ブロモペンタデカン酸8.0g(24.90mmol)とトリフェニルホスフィン(関東化学)39.2mg(0.15mmol)を入れ、減圧乾燥した。アルゴン雰囲気下、臭化銅(I)(アルドリッチ社)107.2mg(0.75mmol)、無水テトラヒドロフラン10mlを加え、原料を溶解した。室温下、sec-ブチルマグネシウムブロミド54.9ml(74.70mmol、1.36Nテトラヒドロフラン溶液)を、1時間で滴下した。1時間撹拌した後、1N塩酸水溶液100mlを加え、ヘキサン200mlで2回抽出した。イオン交換水100mlで2回洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過、減圧濃縮して、16-メチルオクタデカン酸6.91g(収率93%)を得た。
【0021】
次に、無水ジエチルエーテル100mLに16-メチルオクタデカン酸3.21g(10.75mmol)を溶解し、窒素雰囲気下、10℃以下に冷却した後、LiAlH40.6650g(17.52mmol)を徐々に加えた。10℃以下にて1時間15分撹拌後、1N塩酸水溶液100ml及びヘキサン100mlを加えた。水層除去後、イオン交換水100mlで2回洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過、減圧濃縮してシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン-酢酸エチル)で精製し、16-メチルオクタデカノール2.18g(収率71%)を得た。
【0022】
次に、無水テトラヒドロフラン2mlにオキシ塩化リン1.90g(12.39mmol)を溶解し、窒素雰囲気下、10℃以下に冷却したのち、16-メチルオクタデカノール2.18g(8.77mmol)及び無水テトラヒドロフラン5mlの混合溶液を滴下し、更に、トルエチルアミン1.10g(10.53mmol)を滴下した。10℃以下にて2時間撹拌後、白色沈殿を濾別し、濾液に48%水酸化ナトリウム水溶液0.73g(8.77mmol)及びイオン交換水50gを徐々に投入し、50℃にて1時間撹拌した。ジエチルエーテル100ml投入後、飽和食塩水50ml、イオン交換水50mlで順次洗浄し、冷アセトン中150mlに投入し、析出した結晶をろ過・洗浄後、減圧乾燥して16-メチルオクタデシルリン酸ナトリウム塩2.63g(収率78%)を得た。そのうち、508.8mg(1.31mmol)をイオン交換水50gに溶解し、48%水酸化ナトリウム109.2mg(1.31mmol)を滴下し、50℃にて30分間撹拌した後、24時間凍結乾燥して、16-メチルオクタデシルリン酸二ナトリウム塩530.1mg(収率99%)を得た。
【0023】
IR(cm-1,ATR法): 2922,2853,1470, 1126,1105,996,
1H-NMR(D2O,ppm):0.87-0.90(m,6H),1.14-1.21(m,2H),1.33(m,26H),1.64(m,2H),3.80(m,2H)
【0024】
製造例2:11-(2−メチルブトキシ)ウンデシルリン酸ナトリウム塩(化合物2)の製造
2-メチル-1-ブタノール16.70g(189.45mmol)、水酸化カリウム8.50g(151.49mmol)を80℃で1時間撹拌し、溶解した。さらに、溶解させた11-ブロモウンデカン酸10.05g(37.90mmol)を徐々に滴下した。100℃で6時撹拌後、室温で冷却した。水層除去後、イオン交換水100mlで2回洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過、減圧濃縮してシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン-酢酸エチル)で精製し、11-(2−メチルブトキシ)ウンデカン酸7.61g(収率74%)を得た。
【0025】
次に、16-メチルオクタデカン酸に代えて11-(2−メチルブトキシ)ウンデカン酸2.46g(9.03mmol)を用いて製造例1と同様に製造を行い、11-(2−メチルブトキシ)ウンデカノール2.16g(収率93%)を得た。次に、16-メチルオクタデカノールに代えて11-(2−メチルブトキシ)ウンデカノール1.0g(3.87mmol)を用いて製造例1と同様に製造を行い、11-(2−メチルブトキシ)ウンデシルリン酸ナトリウム塩1.0g(収率71%)を得た。
【0026】
IR(cm-1,ATR法): 2920,2850,1462,1112,1051,948
1H-NMR(D2O,ppm):0.72-0.75(m,6H),0.98(m,1H),1.11-1.28(m,16H),1.28(m,1H),1.41-1.49(m,4H),3.08(t,J=8Hz,2H),3.15(dd,J=8Hz,2Hz,1H),3.24(dd,J=8Hz,2Hz,1H),3.28(t,J=8Hz,2H),3.68-3.70 (m,2H)
【0027】
実施例1:ケラチノサイト収縮能
I型コラーゲン(セルマトリックスType-IA:新田ゼラチン)、MCDB153培地(SIGM
A:5倍濃度)、20mM HEPES(DOJINDO)及び精製水を氷冷しながら5:2:1:2の割合でよく混合した後、24穴プレート(ファルコン)に各ウェル500μLずつ注入し、インキュベーターで37℃に加温しゲル化させた。得られたコラーゲンゲルにケラチノサイト用培地(Epi Life:クラボウ)を用いてケラチノサイト(HEKn:Cascade Biologics)を2×104 cells/cm2で1mLずつ播種し、24時間培養した後、マイクロスパーテルを用いてコラーゲンゲルを培養皿から剥離した。
その直後、10mM水溶液に調製した各被験物質(化合物1〜2)を1μLずつ添加した。添加1時間後、ミノルタα707-siカメラ、50mm Macroレンズを用い、収縮の様子を撮影した。写真現像後、収縮環をOHP用紙に写し取り、画像解析ソフトImage-Pro PLUS(Media Cybanetics社)により収縮環内の面積を求め、コントロール(ゲル剥離のみ)を100として収縮率(%)を求めた。
【0028】
【表1】

【0029】
表1から明らかなように化合物1〜2は優れたケラチノサイト収縮作用を有し、優れた毛穴収縮作用を有していると考えられる。
【0030】
処方例1
化合物1を用いて常法により調製した液剤の処方例を下記に示す。
【0031】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式(1):
R−OPO32 (1)
〔式中、Rは炭素数12〜24のアルキル基又はアルコキシアルキル基を示す。〕
で表される化合物又はその塩を有効成分とするケラチノサイト収縮剤。
【請求項2】
次式(1):
R−OPO32 (1)
〔式中、Rは炭素数12〜24のアルキル基又はアルコキシアルキル基を示す。〕
で表される化合物又はその塩を有効成分とする毛穴収縮剤。
【請求項3】
式(1)で表される化合物が、16-メチルオクタデシルリン酸又は11-(2-メチルブトキシ)ウンデシルリン酸である請求項1記載のケラチノサイト収縮剤又は請求項2記載の毛穴収縮剤。

【公開番号】特開2010−111622(P2010−111622A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−285730(P2008−285730)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】