説明

気圧式倍力装置

【課題】 気圧式倍力装置において、入力ロッドに対して出力ロッドのストロークを大きくして、ブレーキ装置の応答性を向上させる。
【解決手段】 定圧室7と変圧室8とを画成するパワーピストン5にバルブボディ9を連結する。入力ロッド22によってプランジャ16を移動させ、ポペットバルブ21を開いて変圧室8に大気を導入する。変圧室8と常時負圧に維持された定圧室7との差圧によって、パワーピストン5及びバルブボディ9を前進させ、リアクションディスク13を介して出力ロッド14にサーボ力を付与し、その反力の一部をリアクションディスク13を介して入力ロッド22にフィードバックする。制動時に、リアクションディスク13からの反力の一部によって、ロッド37を介して、ポペットバルブ21を開くことにより、入力ロッド22に対して出力ロッド14のストロークを大きくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両のブレーキ装置に利用することができる気圧式倍力装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、自動車のブレーキ装置には、制動力を高めるために気圧式倍力装置が装着されている。一般的な気圧式倍力装置は、例えば特許文献1に記載されているように、ハウジング内をパワーピストンによって定圧室(エンジン吸気負圧によって常時負圧に維持されている)と変圧室とに画成し、パワーピストンに連結されたバルブボディ内に設けられたプランジャを入力ロッドによって移動させることにより、変圧室に大気(正圧)を導入して、定圧室と変圧室との間に差圧を発生させ、この差圧によってパワーピストンに生じた推力をリアクション部材を介して出力ロッドに作用させるとともに、出力ロッドからリアクション部材に作用する反力の一部を入力ロッドにフィードバックするようになっている。
【特許文献1】特開2004−001632号公報
【0003】
そして、自動車のブレーキ装置は、上述の気圧式倍力装置の出力ロッドによって、マスタシリンダのピストンを作動させてブレーキ液圧を発生させ、この液圧をブレーキ配管を介して、ホイールシリンダに供給し、そのピストンを作動させて、ブレーキパッド等をディスクロータ等に押圧して制動力を発生させる。
【0004】
このとき、マスタシリンダで発生したブレーキ液圧がホイールシリンダに供給され、そのピストンが作動して、実際に制動力が立ち上るまでには、マスタシリンダからホイールシリンダへ一定量のブレーキ液が供給される必要があるため、これがロスストロークとなって、その分だけ気圧式倍力装置の入力ロッド(すなわち、ブレーキペダル)のストローク量が大きくなる。そこで、上述の気圧式倍力装置では、リアクション部材と、これを押圧するプランジャとの間に隙間(ジャンプインクリアランス)を設けて、制動初期において、出力ロッドからの反力が入力ロッドに作用しないようにして、ブレーキ操作力を軽減することにより、制動力が迅速に立ち上るようにしている(ジャンプイン特性)。
【0005】
しかしながら、従来の気圧式倍力装置では、図6中に破線で示すように、入力ロッドのストロークと出力ロッドのストロークとが直線的に比例するため、依然として、上述のブレーキ装置のロスストロークの分だけ入力ロッドのストロークを大きくする必要があり、ブレーキ装置の応答性の点で問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の点に鑑みて成されたものであり、入力ロッドのストロークに対して、出力ロッドのストロークを大きくすることができる気圧式倍力装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、ハウジング内をパワーピストンによって定圧室と変圧室とに画成し、前記パワーピストンに連結したバルブボディ内に配置したプランジャを入力ロッドによって移動させることにより、弁手段を開いて前記変圧室に作動気体を導入して、前記定圧室と変圧室との間に差圧を発生させ、この差圧によって前記パワーピストンに推力を発生させて前記バルブボディを前進させ、前記推力をリアクション部材を介して出力ロッドに作用させると共に、該出力ロッドから前記リアクション部材に作用する反力の一部を前記入力ロッドに伝達し、また、前記バルブボディの前進によって前記弁手段を閉弁させるようにした気圧式倍力装置において、
前記リアクション部材からの反力の一部によって、前記弁手段を開弁させる開弁手段を設けたことを特徴とする。
請求項2の発明に係る気圧式倍力装置は、上記請求項1の構成において、前記開弁手段は、前記リアクション部材と前記弁手段との間に介装された所定の移動範囲を有するロッドを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明に係る気圧式倍力装置によれば、制動時に、開弁手段により、リアクション部材からの反力の一部によって弁手段が開弁するので、弁手段が閉弁されるまでのバルブボディの移動距離が大きくなり、入力ロッドに対して出力ロッドのストロークを大きくすることができる。
請求項2の発明に係る気圧式倍力装置によれば、リアクション部材からの反力の一部によって、ロッドを介して弁手段を開弁させることができ、ロッドの移動範囲によって弁手段の開弁を制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る気圧式倍力装置1は、フロントシェル2とリアシェル3とが結合されてハウジング4が形成され、このハウジング4内がパワーピストン5及びダイアフラム6によって定圧室7と変圧室8との2室に画成されている。パワーピストン5には、略円筒状のバルブボディ9の前端部が気密的に挿入、連結され、バルブボディ4の後端側は、変圧室6を通り、リアシェル3の円筒部3Aに気密的かつ摺動可能に挿通されて外部へ延出されている。円筒部3Aとバルブボディ9との間には、シール部材10及びダストカバー11が設けられている。フロントシェル2には、接続パイプ12が取付けられており、接続パイプ12がエンジンの吸気管等の負圧源(図示せず)に接続されて、定圧室7が常時所定の負圧に維持される。
【0010】
定圧室7内のバルブボディ9の前端部には、リアクションディスク13(リアクション部材)を介して出力ロッド14の基端部が連結され、出力ロッド14の先端部は、フロントシェル2に気密的かつ摺動可能に挿通されて外部へ延出されている。出力ロッド14の先端部は、フロントシェル2側に取付けられるマスタシリンダ(図示せず)のピストンに連結される。
【0011】
バルブボディ9内の前部に形成された小径部には、リアクションディスク13に当接するリアクションロッド15及びこのリアクションロッド15に当接するプランジャ16が摺動可能に案内されている。バルブボディ9内の後部に形成された大径部には、円筒状の可動シート部材17がシール18によって気密的かつ摺動可能に案内されている。更に、バルブボディ9の大径部の内壁には、ポペットバルブ21が取付けられており、ポペットバルブ21がプランジャ16の後端部に形成されたシート部19及び可動シート部材17の後端部に形成されたシート部20に離着座するようになっている。プランジャ16には、入力ロッド22の先端部が連結され、入力ロッド22の基端部は、バルブボディ9の後端部に装着された通気性のダストシール23に挿通されて外部へ延出されている。入力ロッド22の基端部には、ブレーキペダル(図示せず)が連結される。
【0012】
バルブボディ9の側壁には、定圧室7に連通する定圧通路24及び変圧室8に連通する大気通路25、26が設けられており、プランジャ16及び可動シート部材17の移動によって、プランジャ16のシート部19とポペットバルブ21とが離着座することにより、大気通路25、26と大気とが連通、遮断され、また、可動シート部材17のシート部20とポペットバルブ21とが離着座することにより、定圧通路24と大気通路25、26との間が連通、遮断される。これにより、プランジャ16のシート部19、可動シート部材17のシート部20及びポペットバルブ21によって、変圧室8に作動気体として大気を導入する弁手段が構成されている。
【0013】
バルブボディ9の大気通路25には、ストップキー27が挿入されており、ストップキー27がリアシェル3の段部28に係合して、バルブボディ9の後退位置を制限し、また、ストップキー27がプランジャ16の外周溝29に係合して、バルブボディ9とプランジャ16との相対的な移動範囲を制限している。
【0014】
フロントシェル2とバルブボディ9との間には、バルブボディ9を後退位置へ付勢する戻しばね30が設けられている。バルブボディ9の内周面に取付けられてポペットバルブ21を固定するリテーナ31と入力ロッド22との間には、入力ロッド22を後退位置へ付勢する戻しばね32が設けられている。ポペットバルブ21の芯金21Aと入力ロッド22との間には、ポペットバルブ21をプランジャ16及び可動シート部材17側へ付勢するバルブスプリング33が設けられている。また、プランジャ16のシート部19と可動シート部材17との間には、可動シート部材17をバルブボディ9の大径部と小径部との間の肩部34へ押圧するばね35が設けられている。バルブボディ9及び入力ロッド22が後退位置にあるとき、リアクションディスク13とリアクションロッド15との間に所定の隙間C(ジャンプインクリアランス)が形成されている。
【0015】
バルブボディ9の大径部の側壁には、リアクションディスク13に当接する端部から可動シート部材17に当接する肩部34まで、軸方向に沿って延びる案内穴36が設けられており、案内穴36には、両端部がそれぞれリアクションディスク13及び可動シート部材17に当接するロッド37(開弁手段)が摺動可能に挿入されている。案内穴36及びロッド37のリアクションディスク13側の端部が拡径されて、段部36A、37Aが形成され、これらの段部36A、37A間に隙間Lが設けられており、ロッド37は、その移動範囲が制限されて、リアクションディスク13側の位置から隙間Lの分だけ可動シート部材17側へ移動できるようになっている。
【0016】
以上のように構成した本実施形態の作用について、次に説明する。
非制動状態においては、図2に示すように、可動シート部材17が肩部34に当接し、また、ポペットバルブ21がプランジャ16のシート部19及び可動シート部材17のシート部20に着座して、大気通路25、26が負圧通路24及び大気から遮断されるので、定圧室7と変圧室8との圧力は、バランスした状態で維持され、パワーピストン5には推力が生じない。
【0017】
ブレーキペダルによって入力ロッド22を前進させると、図3に示すように、プランジャ16が前進して、シート部19がポペットバルブ21から離間して、大気通路25、26が大気に連通して、変圧室8に大気が導入される。これにより、常時負圧に維持された定圧室7と変圧室8との間に差圧が生じ、この差圧によってパワーピストン5に推力が発生し、バルブボディ9が前進して、リアクションディスク13を介して、出力ロッド14を前進させてマスタシリンダのピストンを押圧して制動力を発生させる。バルブボディ9が前進すると、ポペットバルブ21がプランジャ16のシート部19に着座して、大気通路25、26を遮断し、定圧室7と変圧室8との差圧が維持される。
【0018】
このとき、バルブボディ9からリアクションディスク13を介して出力ロッド14に作用する力の反力の一部がリアクションロッド15、プランジャ16及び入力ロッド22を介してブレーキペダルにフィードバックされる。これにより、ブレーキペダルの操作力に応じて制動力を発生させることができる。
【0019】
なお、制動初期においては、リアクションデスク13とリアクションロッド15との間の隙間Cによって、リアクションロッド15、プランジャ16及び入力ロッド22は、リアクションディスク13からの反力を受けることなく前進することができるので、制動力を迅速に立ち上げることができる(ジャンプイン作用)。
【0020】
マスタシリンダからの反力によって、リアクションディスク13が圧縮されると、図4に示すように、リアクションディスク13が案内穴36内のロッド37を押圧して後退させる。これにより、ロッド37が肩部34から突出して、可動シート部材17を後退させ、ポペットバルブ21がプランジャ16のシート部19から離間される。これにより、大気通路25、26が大気に連通して、変圧室8に大気が導入され、パワーピストン5に推力が発生し、バルブボディ9は、図5に示すように、ポペットバルブ21がプランジャ16のシート部19に着座するまで前進することになる。その結果、図6中に実線で示すように、入力ロッド22のストロークに対して出力ロッド14のストロークが大きくなるので、ブレーキ装置のロスストロークを解消して、ブレーキ装置の応答性を向上させることができる。図5に示すように、ロッド37が隙間Lの分だけ後退して段部37Aが案内穴36の段部36Aに当接した後は、ロッド37の後退が停止するので、入力ロッド22に対する出力ロッド14のストロークの増大は解除される(図6中の点P参照)。
【0021】
入力ロッド22への入力を解除すると、戻しばね32及びばね35によって、入力ロッド22及びプランジャ16が後退し、プランジャ16のシート部19がポペットバルブ21を押圧して可動シート部材17のシート部20から離間させる。これにより、定圧通路24と大気通路25、26とが連通されて、定圧室7と変圧室8との差圧が解消され、パワーピストン5の推力が消失し、戻しばねに30によってバルブボディ9が後退して制動が解除される。ロッド37は、制動解除によって、リアクションディスク13の変形が解消されることにより、ばね35によって原位置に復帰する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る気圧式倍力装置の縦断面図である。
【図2】図1の装置において、非制動状態を示す要部の拡大縦断面図である。
【図3】図1の装置において、制動初期状態を示す要部の拡大縦断面図である。
【図4】図1の装置において、可動シート部材が後退してポペットバルブがプランジャのシート部から離間した状態を示す要部の拡大縦断面図である。
【図5】図1の装置において、可動シート部材の後退が停止してポペットバルブがプランジャのシート部に着座した状態を示す要部の拡大縦断面図である。
【図6】図1の装置の入力ロッドのストロークと出力ロッドのストロークとの関係を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0023】
1 気圧式倍力装置、4 ハウジング、5 パワーピストン、7 定圧室、8 変圧室、9 バルブボディ、13 リアクションディスク(リアクション部材)、14 出力ロッド、16 プランジャ、19 シート部(弁手段)、20 シート部(弁手段)、21 ポペットバルブ(弁手段)、22 入力ロッド、37 ロッド(開弁手段)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング内をパワーピストンによって定圧室と変圧室とに画成し、前記パワーピストンに連結したバルブボディ内に配置したプランジャを入力ロッドによって移動させることにより、弁手段を開いて前記変圧室に作動気体を導入して、前記定圧室と変圧室との間に差圧を発生させ、この差圧によって前記パワーピストンに推力を発生させて前記バルブボディを前進させ、前記推力をリアクション部材を介して出力ロッドに作用させると共に、該出力ロッドから前記リアクション部材に作用する反力の一部を前記入力ロッドに伝達し、また、前記バルブボディの前進によって前記弁手段を閉弁させるようにした気圧式倍力装置において、
前記リアクション部材からの反力の一部によって、前記弁手段を開弁させる開弁手段を設けたことを特徴とする気圧式倍力装置。
【請求項2】
前記開弁手段は、前記リアクション部材と前記弁手段との間に介装された所定の移動範囲を有するロッドを含むことを特徴とする請求項1に記載の気圧式倍力装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−273214(P2006−273214A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−97991(P2005−97991)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】