説明

気圧式倍力装置

【課題】車両前方からの視認において、美観を損なうことがない気圧式倍力装置を提供する。
【解決手段】本気圧式倍力装置は、リヤシェル2の各かしめ部53よりもフロントシェル1側の外周端部に、リヤシェル2の径方向外方で後方に向って延びる環状拡折部55を設けたので、環状拡折部(遮蔽部)55により各かしめ部53の切断面51aが車両の前方から視認することができず、しかも、環状拡折部55の端部55aは後方を向いており、切断面51aや端部55aの角部55b、55bに錆が発生したとしてもボンネットを開けた際の車両前方から視認することができないため、車両前方からの視認において、美観を損なうことはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のブレーキに使用する気圧式倍力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ケーシングの外周端部をフロントシェルの外周端部よりも外方に配置して、ケーシングの外周端部の周方向に間隔をおいて複数配置したかしめ部を径方向内方に押し下げることで、ケーシング、リヤシェル及びフロントシェルを結合する気圧式倍力装置が開示されている。
【特許文献1】特開平8−34344号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1の気圧式倍力装置では、かしめ作業が各シェル等の塗装後に行われるために、かしめ部の切断面に錆が生じることがあり、この錆が生じた場合には車両のボンネットを開けたときに車両前方から視認できるので、その美観を損ねていた。
【0004】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、車両前方からの視認において、美観を損なうことのない気圧式倍力装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段として、本発明の請求項1に記載した発明は、フロントシェルおよびリヤシェルからなるハウジング内を、ダイアフラムを備えたパワーピストンによって定圧室と変圧室とに画成し、前記フロントシェルおよび前記リヤシェルの端部を近接させて、前記リヤシェルの外周端部側をかしめることで前記ハウジングを形成する気圧式倍力装置において、前記リヤシェルのかしめ部位よりもフロントシェル側の外周端部に、前記フロントシェルの前方から前記かしめ部位を遮蔽する遮蔽部を設けた。
【発明の効果】
【0006】
本発明の気圧式倍力装置によれば、車両前方からの視認において、美観を損なうことがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図1〜図4に基いて詳細に説明する。
本発明の実施の形態に係る気圧式倍力装置は、図1に示すように、2つのパワーピストン7、8を備えたタンデム型で構成されており、フロントシェル1とリヤシェル2とからなるハウジング3内を、センターシェル4によりフロント側及びリヤ側の2室に区画している。フロント側の室は、ダイアフラム5を備えたパワーピストン7により定圧室9と変圧室11とに区画され、また、リヤ側の室は、ダイアフラム6を備えたパワーピストン8により定圧室10と変圧室12とに区画されている。各パワーピストン7、8は、センターシェル4およびリヤシェル2を気密的にかつ摺動可能に挿通させてハウジング3の外まで後端部を延ばしたバルブボデー13に支持させた構造となっている。
なお、リヤシェル2は、バルブボデー13の挿通部分を小径筒部2aとして構成されており、この小径筒部2aにはバルブボデー13の、ハウジング3からの延出部分を覆うダストブーツ14が装着されている。
【0008】
バルブボデー13は、カップ状の本体部13aと中空軸部13bとが連設して構成されており、その本体部13aがセンターシェル4に対する摺動部として、その中空軸部13bがリヤシェル2に対する摺動部としてそれぞれ構成されている。
バルブボデー13の本体部13aには、2つの定圧室9と10とを相互に連通しかつ各定圧室9、10を中空軸部13b内に連通させる負圧通路15が設けられると共に、中空軸部13b内とリヤ側の変圧室12とを連通する第1大気通路16が設けられている。
【0009】
また、リヤ側の定圧室10内には、リヤ側の変圧室12とフロント側の変圧室11とを連通する第2大気通路17を内部に設けた複数(ここでは、2本)の連通管18が配設されている。各連通管18は、その一端部がセンターシェル4に圧入固定されると共に、その他端部がリヤ側のパワーピストン8に気密的にかつ摺動可能に挿通されてリヤシェル2に近接する部位まで延ばされている。
一方、フロント側の定圧室9には、フロントシェル1に設けた管継手19を通じて、例えばエンジン負圧が導入されるようになっており、この負圧は、負圧通路15を通じてリヤ側の定圧室10にも導入される。
【0010】
弁機構22は、図1及び図2に示すように、弁プランジャ25と、ポペット弁27と、負圧弁29と、大気弁31と、弁ばね32とから構成されている。
弁プランジャ25は、バルブボデー13の本体部13aに設けた軸孔内に摺動可能に嵌装され、かつブレーキペダル(図示略)と連動する入力ロッド24に連結されている。ポペット弁27は、そのリヤ側端部がバルブボデー13の中空軸部13bの内周面に押え部材26により固定されている。負圧弁29は、ポペット弁27のフロント側端部の外周縁部と、バルブボデー13の中空軸部13bの内周面に形成された負圧用弁座28とが当接・離間して構成されるものである。また、大気弁31は、ポペット弁27のフロント側端部の内周縁部と、弁プランジャ25のリヤ側端部に形成された環状の大気用弁座30とが当接・離間して構成されるものである。弁ばね32は、入力ロッド24に一端が係止され、常時は、ポペット弁27を閉弁方向へ付勢している。
また、押え部材26と入力ロッド24との間には戻しばね33が介装されており、弁プランジャ25は、ブレーキペダルからの入力がない非作動時には、この戻しばね33により、そのリヤ側端部の大気用弁座30をポペット弁27のフロント側端部の内周縁部に当接させる状態を維持するようになっている。
【0011】
また、バルブボデー13の軸孔内には、弁プランジャ25にリヤ側端部が連結され該弁プランジャ25と一体に移動する反力受け部材34が摺動可能に挿入されている。
バルブボデー13の本体部13aのカップ底には、ゴム等の弾性体からなるリアクションディスク35と、出力ロッド36の基端カップ部36aとが配置されており、反力受け部材34がリアクションディスク35の背面に当接可能となっている。出力ロッド36は、フロントシェル1の前面に設けられた凹部1aの底部を気密的にかつ摺動可能に挿通して前方へ延出されており、出力ロッド36の先端部が、該凹部1aに結合されたマスタシリンダ(図示略)に連結されるようになる。
【0012】
図1及び図2に示すように、フロント側の定圧室9内で、バルブボデー13のカップ状の本体部13a内には、バルブボデー13を原位置に戻すための戻しばね37が配設されている。該戻しばね37は、そのフロント側の一端をフロントシェル1の凹部1aの後背部に、そのリヤ側の他端をばね受け38を介してバルブボデー13の本体部13aのカップ底にそれぞれ当接させる状態で配置されている。そして、バルブボデー13は、戻しばね37により、常時は、リヤ側(戻り方向)へ付勢されている。
なお、バルブボデー13は、その本体部13aと中空軸部13bとの略境界部分に半径方向から挿入されたストップキー39がリヤシェル2の小径筒部2aに設けた段差部40に当接する位置が原位置となっている。一方、ストップキー39の先端部は弁プランジャ25に設けた溝内に係入されており、該ストップキー39によりバルブボデー13に対する弁プランジャ25の相対移動範囲が規制されるようになっている。また、ばね受け38は、リアクションディスク35および出力ロッド36の抜止めとしても機能している。
【0013】
また、図1に示すように、リヤ側の変圧室12と、フロント側の変圧室11とを連通する各連通管18内には、フロントシェル1とリヤシェル2とを気密的に貫通しかつフロント側のパワーピストン7を気密的に貫通して延ばした貫通ロッド41が挿入されている。この貫通ロッド41の両端部にはボルト部42、43が一体に設けられており、これらボルト部42、43は、リヤシェル2の後面およびフロントシェル1の前面に直立する状態で配置されている。なお、この貫通ロッド41すなわちボルト部42、43は、円周方向に180度間隔で2本設けられているが、リヤシェル2には、これらボルト部42と位相が異なった位置に、汎用のスタッドボルト44が2本植立されている。
【0014】
図1及び図3に示すように、フロントシェル1は、リヤ側へ延びるフロントシェル筒部46を備えると共に、リヤシェル2は、フロント側へ延びるリヤシェル筒部47を備えている。また、センターシェル4は、リヤ側へ延びるセンターシェル筒部48を備えている。フロントシェル筒部46のリヤ側端部には、径方向外方に延びる環状フランジ部50が連設されている。一方、リヤシェル筒部47のフロント側端部には、該筒部47に比して大径の大径筒部51が段部52を介して連設されている。図3及び図4から解るように、リヤシェル筒部47の大径筒部51のフロント側外周に、複数のかしめ部53(本実施の形態では8箇所)が周方向に所定の間隔で形成されている。また、図1及び図3に示すように、リヤシェル筒部47の大径筒部51には、各かしめ部53よりもフロントシェル1側の外周端部に、リヤシェル47の径方向外方でやや後方側に向って延びるフランジ状の環状拡折部(遮蔽部)55が連設されている。
また、センターシェル筒部48のリヤ側端部には、径方向外方に延びる環状フランジ部56が形成されている。そして、フロントシェル筒部46の環状フランジ部50の外周端と、センターシェル筒部48の環状フランジ部56の外周端とは軸方向で一致し、それぞれの外周端がリヤシェル筒部47の大径筒部51の内周面に当接するように形成されている。
【0015】
そして、フロントシェル筒部46の環状フランジ部50と、センターシェル筒部48の環状フランジ部56とが当接された状態で、フロントシェル筒部46の環状フランジ部50の外周端およびセンターシェル筒部48の環状フランジ部56の外周端がリヤシェル筒部47の大径筒部51内に当接するように収納される。
その後、リヤシェル筒部47の大径筒部51に設けた各かしめ部53を、周方向に切断し径方向内方に押し下げることで、リヤシェル1、センターシェル4およびフロントシェル2が一体に結合され、ハウジング3が形成される。
【0016】
これにより、リヤシェル筒部47の大径筒部51に設けた各かしめ部53を、径方向内方に押し下げる際にできる切断面51aを、リヤシェル筒部47の大径筒部51の外周端部に設けた環状拡折部(遮蔽部)55によりフロントシェル1の前方から各かしめ部53を遮蔽して車両の前方から視認できなくなるため、上記切断面51aに錆が発生したとしても美観を損なうことはない。また、ケーシングの最外周端の角部は塗装の膜厚が薄いために、後々その角部に錆が発生すると、その錆が車両前方から視認でき美観を損ねることになる。これに対しては、リヤシェル筒部47の大径筒部51に設けた環状拡折部55の端部55aは後方を向いているので、端部55aの角部55b、55bに発生した錆を車両前方からの視認することができず、美観を損なうことはない。
【0017】
なお、図1及び図3に示すように、センターシェル筒部48の環状フランジ部56と、リヤシェル筒部47の大径筒部51と、リヤシェル筒部47の段部52とで囲まれた環状空間に、リヤ側のパワーピストン8を構成するダイアフラム6の外周ビード部6aが固定される。また、フロントシェル筒部46の中間部位に設けた段部60と、センターシェル4の肩部との間の環状空間に、フロント側のパワーピストン7を構成するダイアフラム5の外周ビート部5aが固定される。
【0018】
以下に、本発明の実施の形態に係る気圧式倍力装置の作用を説明する。
本気圧式倍力装置は、貫通ロッド41の両端側のボルト部42、43および汎用のスタッドボルト44を介して車体及びマスタシリンダに結合される。
そして、ブレーキペダルが踏込まれると、入力ロッド24が前進して、弁プランジャ25が前進し、弁プランジャ25のリヤ側端部の大気用弁座30がポペット弁27のフロント側端部の内周縁部から離間して大気弁31が開く。
これにより、大気が、サイレンサおよびフィルタを通してバルブボデー13の中空軸部13b内に流入し、この大気は、第1大気通路16を経てリヤ側の変圧室12に導入されると共に、連通管18内の第2大気通路17を通じてフロント側の変圧室11へも導入される。この結果、フロント側及びリヤ側の変圧室11、12と、負圧が導入されているフロント側及びリヤ側の定圧室9、10との間に速やかに圧力差が発生し、この圧力差によりフロント側及びリヤ側のパワーピストン7、8が推進し、その推力がバルブボデー13から出力ロッド36を経てマスタシリンダ側へ出力される。
【0019】
一方、ブレーキペダルへの踏力が解放されると、入力ロッド24が戻しばね33のばね力によって後退すると共に、弁プランジャ25も後退する。
これにより、弁プランジャ25の大気用弁座30が、ポペット弁27のフロント側端部の内周縁部に当接して大気弁31が閉じられる一方で、ポペット弁27が弁プランジャ25により持上げられて、バルブボデー13の負圧用弁座28から離間して負圧弁29が開き、負圧が負圧通路15および第1、第2大気通路16、17を通じてフロント側及びリヤ側の変圧室11、12に導入されて、前記圧力差が解消される。
その後は、フロント側の定圧室9内の戻しばね37によりバルブボデー13が後退して、ストップキー39がリヤシェル2内の段差部40に当接する原位置に復帰し、これと同時に弁プランジャ25も原位置に復帰して負圧弁29が閉じる。
【0020】
そして、本発明の実施の形態に係る気圧式倍力装置は、リヤシェル筒部47の大径筒部51で、各かしめ部53よりもフロントシェル1側の外周端部に、リヤシェル2の径方向外方でやや後方側に向って延びるフランジ状の環状拡折部55が連設されているので、該環状拡折部(遮蔽部)55によりフロントシェル1の前方から各かしめ部53を遮蔽して、各かしめ部53の切断面51aが車両の前方から視認できず、しかも、リヤシェル筒部47の大径筒部51に設けた環状拡折部55の端部55aは後方を向いており、切断面51a及び端部55aの角部55b、55bに発生した錆をボンネットを開けた際の車両の前方からは視認することができないため、車両前方からの視認において、美観を損なうことはない。
【0021】
本発明の実施の形態は、2つのパワーピストン7、8を備えたタンデム型の気圧式倍力装置に適用されたが、当然ながら、1つのパワーピストンを備えたシングル型の気圧式倍力装置にも適用することができる。
また、上記実施の形態においては、遮蔽部を環状拡折部55として、リヤシェル2の大径筒部51の端部55a全周に亘って設けたが、これに限ることなく、遮蔽部を各かしめ部53に対応する部分にだけ設けても良い。
さらに、環状拡折部55は、リヤシェル2の径方向外方でやや後方側に向って延びるように形成しているが、これに限ることなく、端部55aの内径寸法がフロントシェル1やセンターシェル4の外径寸法より大きければ、リヤシェル2の径方向内方に向って延びるように形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る気圧式倍力装置の断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態に係る気圧式倍力装置の、主に弁機構を拡大した断面図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態に係る気圧式倍力装置の要部を拡大した断面図である。
【図4】図4は、図3のA−A線に沿う断面図である。
【符号の説明】
【0023】
1 フロントシェル,2 リヤシェル,3 ハウジング,4 センターシェル,5 フロント側のダイアフラム,6 リヤ側のダイアフラム,7 フロント側のパワーピストン,8 リヤ側のパワーピストン,9 フロント側の定圧室,10 リヤ側の定圧室,11 フロント側の変圧室,12 リヤ側の変圧室,46 フロントシェル筒部,47 リヤシェル筒部,48 センターシェル筒部,51 大径筒部,53 かしめ部,55 環状拡折部(遮蔽部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントシェルおよびリヤシェルからなるハウジング内を、ダイアフラムを備えたパワーピストンによって定圧室と変圧室とに画成し、前記フロントシェルおよび前記リヤシェルの端部を近接させて、前記リヤシェルの外周端部側をかしめることで前記ハウジングを形成する気圧式倍力装置において、
前記リヤシェルのかしめ部位よりもフロントシェル側の外周端部に、前記フロントシェルの前方から前記かしめ部位を遮蔽する遮蔽部を設けたことを特徴とする気圧式倍力装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−280127(P2009−280127A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−135400(P2008−135400)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】