説明

気密容器の製造方法

【課題】一対の基板間の位置ずれを抑え、気密容器の信頼性を向上する。
【解決手段】一対のフェースプレート3及びリアプレート4の間に配された四角形枠状の第2の接合材22を、複数の局所加熱光によって、リアプレート4を介して局所的に加熱しながら、複数の局所加熱光を第2の接合材22の周方向に沿って走査することで、フェースプレート3とリアプレート4とを第2の接合材22で接合し、フェースプレート3及びリアプレート4と第2の接合材22とで囲まれてなる気密容器の製造方法であって、第2の接合材22の対向する一対の辺のそれぞれにおける、辺の端部を除く位置から、第1及び第2の局所加熱光40、41によって加熱をそれぞれ開始すると共に、第1及び第2の局所加熱光40、41を、第2の接合材22の周方向に沿って同じ周回り方向に走査する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の基板を貼り合わせてなる気密容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機LEDディスプレイ(OLED)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)などの、フラットパネルタイプの画像表示装置が知られている。これらの画像表示装置は、対向する一対のガラス基材が接合されてなり、内部空間が外部空間に対して気密に封止された外囲器を備えている。これらの気密容器を製造するためには、対向するガラス基材の間に必要に応じて間隔規定部材や局所的な接着材を配置し、ガラス基材の周辺部に接合材を枠状に配置して、加熱接合を行う。接合材の加熱方法としては、ガラス基材全体を加熱炉でベークする方法や、局所加熱によって接合材周辺を選択的に加熱する方法が知られている。
【0003】
局所加熱は、加熱冷却時間、加熱に要するエネルギ、生産性、容器の熱変形防止、及び容器内部に配置された機能デバイスの熱劣化防止などの観点から、ガラス基材全体の加熱に比べて有利である。また、局所加熱手段としてはレーザ光が知られている。さらに、局所加熱手段による気密容器の製造方法は、内部に機能デバイスを特に備えない真空断熱ガラスの製造方法として適用可能であることも公知である。
【0004】
特許文献1には、二重ガラスの製造方法が開示されている。特許文献1には、僅かな隙間をあけて重ね合わされた2枚のガラス基板をワークとして準備し、レーザ加工装置として2本のレーザ光を照射する融着装置及びワーク搬送装置を使用することが開示されている。特許文献1に記載の製造方法では、2本のレーザ光の照射方向を互いに逆向きかつ平行とし、照射方向をワークの搬送方向に対して45度程度傾斜させてレーザ光を照射している。そして、この製造方法では、ワークの搬送に従って、まず一方のレーザ光をワークの隣接する2つの端面に照射しながら走査し、次に、他方のレーザ光をワークの残りの2つの端面に照射しながら走査することで2枚のガラス基板を気密に接合している。しかし、特許文献1には、上述した方法以外のレーザ光の走査履歴については開示されていない。
【0005】
特許文献2には、FED、PDPの外囲器の製造方法が開示されている。特許文献2に記載の製造方法では、第1のガラス基材に、コーナ部を有する枠状の封着材料を形成し、封着材料を挟んで第1のガラス基材と第2のガラス基材を対向させ、封着材料に対して4辺同時にレーザ光を照射し、封着材料を溶融させ気密封着している。しかし、特許文献2には、レーザ光の走査履歴に関しては何ら開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−288763号公報
【特許文献2】特開2008−059781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1のように、従来から、接合材と、被接合材であるガラス基材とに対して単にレーザ光を照射するだけではなく、レーザ光を照射しながら走査するときに、その走査履歴を様々に改善した接合方法が提案されている。
【0008】
しかしながら、従来のレーザ光を用いる気密容器の製造方法には、以下に述べる問題がある。
【0009】
図8に示すように、フェースプレート3またはリアプレート4を通して、集光させた加熱光である局所加熱光60としてレーザ光を枠状の接合材22に照射しながら走査する。これによって、局所加熱光60で接合材22を選択的に加熱し、フェースプレート3とリアプレート4とを気密に接合する。このとき、枠状の接合材22の周方向における局所加熱光60の走査軌跡に沿って、フェースプレート3、リアプレート4、及び接合材22には、熱膨張による伸びが生じる。
【0010】
局所加熱光60の照射前、接合材22とフェースプレート3とが固着されており、接合材22とリアプレート4とが接触している。このため、接合材22と、各フェースプレート3、リアプレート4との接触状態は、フェースプレート3とリアプレート4とで異なり、フェースプレート3とリアプレート4の各伸びの量に差が生じている。また、接合材22は、局所加熱光60の走査方向に沿って順次、溶融、接合されるので、フェースプレート3とリアプレート4との伸び量の差が累積されていく。したがって、局所加熱光60の走査に伴って、フェースプレート3とリアプレート4には、図8に示すような位置ずれが生じてしまう問題がある。
【0011】
気密容器を構成する一対の基板として真空断熱ガラスからなる基板を用いた場合、各基板の位置ずれに伴って、各基板の端部においてもずれが生じる。真空断熱ガラスからなる基板における端部に位置ずれが生じた場合、搬送、及び枠体への組み付け作業が困難になり、品質の低下を招くおそれがある。また、基板の端部の位置ずれを改修するためには、基板の端部を切断処理するなどの二次加工が必要となり、製造コストの観点からも望ましくない。
【0012】
また、気密容器を画像表示装置に適用した場合、フェースプレート、及びリアプレート上の枠状の接合材の内側には、画像形成デバイスが配置されるので、フェースプレートとリアプレートの位置ずれが画像表示装置としての機能低下につながり、望ましくない。
【0013】
そこで、本発明は、上述した課題を解決し、一対の基板間の位置ずれを抑え、十分な接合強度と気密性を実現した信頼性が高い気密容器の製造方法を提供することを目的とする。特に、画像表示装置の外囲器に適用可能な接合強度と気密性、及び基板の位置ずれの改善を実現した信頼性が高い気密容器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した目的を達成するため、本発明に係る気密容器の製造方法は、透光性を有する一対の第1及び第2の基板の間に配された四角形枠状の接合材を、複数の局所加熱手段によって、第1の基板と第2の基板のいずれか一方を介して局所的に加熱しながら、複数の局所加熱手段を接合材の周方向に沿って走査することで、第1及び第2の基板を接合材で接合し、第1及び第2の基板と接合材とで囲まれてなる気密容器の製造方法であって、接合材の対向する少なくとも一対の辺のそれぞれにおける、この辺の端部を除く位置から、複数の局所加熱手段によって加熱をそれぞれ開始すると共に、複数の局所加熱手段を、接合材の周方向に沿って同じ周回り方向に走査することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、接合材の局所加熱時に伴う、第1及び第2の基板、及び接合材の伸びによって第1及び第2の基板に生じる位置ずれを抑えることができる。その結果、第1及び第2の基板の端部への二次加工が不要になるので、製造コストを低減し、かつ、接合材の全周にわたる気密の信頼性が高い気密容器を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態の気密容器の製造方法が適用されるFEDの構成を示す部分断面斜視図である。
【図2】実施形態の気密容器の製造方法の一例を説明するための斜視図である。
【図3】実施形態の気密容器の製造方法の一例を説明するために示す、図2におけるA−A線に沿った断面図である。
【図4】実施形態の気密容器の製造方法において、気密容器内を排気する状態を説明するために示す、図2におけるA−A線に沿った断面図である。
【図5】実施形態における局所加熱光の走査手順と、フェースプレート及びリアプレートと、第2の接合材の状態を示す平面図である。
【図6】実施形態における局所加熱光の照射方向を示す、図3におけるA−A線に沿った断面図である。
【図7】他の実施形態を説明するために示す平面図である。
【図8】本発明が解決する課題を説明するために、フェースプレート及びリアプレートと、接合材の状態を示す平面図である。
【図9】本発明が解決する課題を説明するために、フェースプレート及びリアプレートと、接合材の状態を示す平面図である。
【図10】本発明が解決する課題を説明するために、フェースプレート及びリアプレートと、接合材の状態を示す平面図である。
【図11】本発明が解決する課題を説明するために、フェースプレート及びリアプレートと、接合材の状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0018】
本発明の気密容器の製造方法は、内部空間が外部空間から気密に遮断されることが必要なデバイスを有するOLED、FED、PDPなどの製造方法に適用可能である。
【0019】
また、本発明の気密容器の製造方法は、上述のような気密容器の製造に限定されるものではなく、真空断熱ガラスなど、対向する一対の基板の外周部に、気密性が要求される接合部を有する気密容器の製造に広く適用可能である。
【0020】
図1に、本実施形態の気密容器の製造方法の、製造対象である気密容器としての画像表示装置の一例を示す部分断面斜視図である。
【0021】
図1に示すように、気密容器としての、画像表示装置1の外囲器2は、第1の基板としてのフェースプレート3と、第2の基板としてのリアプレート4と、四角形の枠部材5と、を有している。枠部材5は、フェースプレート3とリアプレート4との間に配されており、フェースプレート3、リアプレート4、及び枠部材5によって気密に封止された内部空間6を形成する。具体的には、フェースプレート3と枠部材5、及びリアプレート4と枠部材5とが互いに対向する面同士で接合されることによって、密閉された内部空間6を有する外囲器2が形成されている。内部空間6は、真空に維持され、フェースプレート3とリアプレート4との間隔を規定するスペーサ7が、所定のピッチで設けられている。ここで、フェースプレート3と枠部材5、またはリアプレート4と枠部材5は、予め接合されていても、または一体的に形成されていてもよい。
【0022】
リアプレート4には、画像信号に応じて電子を放出する多数の電子放出素子8が設けられ、電気信号に応じて各電子放出素子8を動作させるための駆動用マトリクス配線(X方向配線9、Y方向配線10)が形成されている。リアプレート4と対向するフェースプレート3には、表示源として、電子放出素子8から放出された電子の照射を受けて発光し、画像を表示する蛍光体からなる蛍光膜11が設けられている。フェースプレート3上には、ブラックストライプ12が設けられており、蛍光膜11、ブラックストライプ12が交互に配列して設けられている。また、蛍光膜11の上には、アルミニウム(Al)薄膜からなるメタルバック13が形成されている。メタルバック13は、電子を引き付ける電極としての機能を有し、外囲器2に設けられた高圧端子14から電位が規定される。さらに、メタルバック13の上には、チタン(Ti)薄膜からなる非蒸発型ゲッタ15が形成されている。局所加熱手段としては、集光させた加熱光を使用する。
【0023】
ここで、フェースプレート3、リアプレート4、及び枠部材5を形成する材料は、集光させた加熱光である局所加熱光が透過するように、透光性を有する必要があるので、透明なソーダライムガラス、高歪点ガラス、無アルカリガラスなどの材料が挙げられる。また、後述する局所加熱光の波長、及び接合材の吸収波長域において、フェースプレート3、リアプレート4、及び枠部材5が、良好な波長透過性を有していることが望ましい。
【0024】
また、局所加熱手段は局所加熱光に限定されず、ヒータからの輻射熱をアパーチャで部分的に遮る方法、ヒートツールを第2の接合材22に接触させる方法、電磁加熱、渦電流を利用して第2の接合材22にジュール熱を発生させる方法も採用可能である。
【0025】
次に、本実施形態の気密容器の製造方法における、フェースプレート3及びリアプレート4の接合方法について、図2〜6を参照して説明する。
【0026】
(第1工程)
第1工程は、四角形枠状の第1及び第2の接合材20、22と、フェースプレート3と、フェースプレート3と共に気密容器を形成するリアプレート4と、フェースプレート3とリアプレート4との間に配される四角形枠状の枠部材5と、を用意する工程を含む。また、第1工程は、フェースプレート3とリアプレート4との間に配置した枠部材5を、第1及び第2の接合材20、22によって接合して、内部空間を規定する組立工程と、を含む。
【0027】
第1工程について、図2を参照して説明する。
【0028】
まず、枠部材5と、図示しない蛍光膜、ブラックストライプ、メタルバックが配置されたフェースプレート3と、を用意する。続いて、図2(a)に示すように、フェースプレート3の蛍光膜が形成されている面に第1の接合材20を印刷、焼成する。
【0029】
次に、図2(b)に示すように、枠部材5を第1の接合材20に接触させて加圧し、仮組みを行った後、雰囲気焼成炉にて、枠部材5とフェースプレート3とを気密接合して一体化する。続いて、図2(c)に示すように、フェースプレート3に一体化された枠部材5の上に、ガラスフリットからなる第2の接合材22を印刷、焼成して、第2の接合材22が形成された枠部材5が一体化されたフェースプレート3を得る。
【0030】
次に、図示しないマトリクス配線と、マトリクス配線の交差部に接続された電子放出素子とが配置されたリアプレート4を用意する。続いて、図2(d)、図3に示すように、リアプレート4を、第2の接合材22が設けられた枠部材5が一体化されたフェースプレート3と対向して配置し、リアプレート4とフェースプレート3との間に所定の内部空間6を構成する。
【0031】
また、この第1工程を行う前から、フェースプレート3、リアプレート4、及び枠部材5のいずれかに、内部空間6に連通する排気孔が予め設けられている。この排気孔を介して内部空間6内を負圧にすることで、後述する局所加熱光の照射時に、リアプレート4と第2の接合材22の周方向の全周にわたって密着性を向上することが可能となる。
【0032】
なお、フェースプレート3、第1の接合材20、枠部材5、及び第2の接合材22を形成する順序は、構成部材の一体化が可能な順番であれば、他の順番でも実施可能で、上述の順番に限定するものではない。例えば、枠部材5とフェースプレート3との接合は、リアプレート4と枠部材5との接合後に行ってもよく、リアプレート4と枠部材5との接合と同時に行ってもよい。また、第2の接合材22は、枠部材5を支持体として印刷、焼成されたが、ガラスフリットをシート状に形成したシートフリットを用意して、枠部材5とリアプレート4との間に配置する構成を採用することも可能である。
【0033】
第2の接合材22は、負の温度係数を有する粘度を持ち、高温度側で軟化し、かつフェースプレート3、リアプレート4、及び枠部材5のいずれよりも軟化点Tsが低いことが、熱による損傷を軽減する点で望ましい。また、第2の接合材22は、後述する局所加熱光の波長に対して高い吸収性を示すことが望ましい。第2の接合材22としては、例えばガラスフリット、無機接着剤、有機接着剤などが挙げられる。なお、内部空間6内の真空度の維持が要求されるFEDなどの装置に適用する場合は、第2の接合材22として、残留ハイドロカーボンの分解を抑制できるガラスフリットや無機接着剤が好適である。
【0034】
フェースプレート3、枠部材5、及びフェースプレート3と枠部材5とを接合するための第1の接合材20は、第2の接合材22に対する、後述する局所加熱光の照射を妨げないように、後述する局所加熱光に対して透明性を有する材料が望ましい。また、フェースプレート3、リアプレート4、及び枠部材5は、各々線膨張係数が等しい材料を選ぶことが、気密容器の残留応力を抑制する観点から望ましい。
【0035】
(第2工程)
第2工程において、フェースプレート3とリアプレート4との間には、内部空間6内の排気を行うための十分な間隔を確保するために、間隔を規定するスペーサ(不図示)を配置することが望ましい。
【0036】
また、図4に示すように、排気孔30に挿通された排気管31と、任意の排気装置(不図示)とを接続して、内部空間6内を排気し、第2の接合材22を加圧することで、リアプレート4と第2の接合材22の周方向の全周にわたって密着性を確保することができる。
【0037】
さらに、任意の局所的な加圧手段、例えば、加圧治具(不図示)を用いることで、リアプレート4と第2の接合材22との周方向の全周にわたって、密着性を更に向上させることが可能になるので望ましい。
【0038】
(第3工程)
第3工程は、複数の局所加熱手段としての2つの局所加熱光の照射開始点を、四角形枠状の第2の接合材22の対向する少なくとも一対の辺上で、かつ各辺の端部以外の位置に設定し、2つの局所加熱光を、同じ周回り方向に走査する接合工程を含む。
【0039】
第3工程における実施形態の一例について、図5及び図6を参照して説明する。
【0040】
まず、内部空間6の圧力を維持しながら、図6に示すように、第1及び第2の局所加熱光40、41を、リアプレート4側から、リアプレート4を通して第2の接合材22に照射した。このとき、図5(a)に示すように、第1及び第2の局所加熱光40、41の照射開始点を、第2の接合材22の対向する一対の辺QT、RS上における中央の点P、P’にそれぞれ設定する。そして、図5(b)、図5(c)に示すように、第1及び第2の局所加熱光40、41をそれぞれ第2の接合材22の周方向に沿って矢印D、F方向に向かって、P→P’、P’→Pの順に照射しながら走査した。これによって、リアプレート4と、第1の接合材20で枠部材5が接合されたフェースプレート3とを、第2の接合材22で気密接合した。
【0041】
以上、第1工程〜第3工程を経て、画像表示装置1を製造する。
【0042】
次に、本発明が解決する課題について、図8〜図11を参照して説明する。図8(a)に示すように、局所加熱光60を第2の接合材22の周方向に沿って、矢印方向にP→Qの順に照射しながら走査する。これによって、第2の接合材22は加熱され、枠部材5が接合されたフェースプレート3、リアプレート4、及び第2の接合材22には、熱膨張によって伸びが生じる。局所加熱光60の照射前、第2の接合材22と、フェースプレート3に接合された枠部材5とは固着されており、第2の接合材22とリアプレート4とは接触されている。このため、第2の接合材22に対するフェースプレート3とリアプレート4の各接触状態が異なっており、枠部材5が接合されたフェースプレート3と、リアプレート4とでは伸びの量に差が生じている。また、第2の接合材22は、局所加熱光60の走査方向に沿って順次、溶融、接合されるので、枠部材5が接合されたフェースプレート3と、リアプレート4との伸び量の差は累積される。
【0043】
したがって、局所加熱光60をP→Qの順に照射しながら走査することで、枠部材5が接合されたフェースプレート3の、図8(a)における右上側(PQ)の領域が伸び、この伸びを残りの領域が抑制するように作用する。このため、枠部材5が接合されたフェースプレート3は、リアプレート4に対して、図中矢印D方向に移動し、かつ矢印C方向に回転し、枠部材5が接合されたフェースプレート3と、リアプレート4とに位置ずれが生じる。
【0044】
同様に、図8(b)に示すように、局所加熱光60を第2の接合材22上に沿って、矢印方向にQ→Rの順に照射しながら走査した。この場合、枠部材5が接合されたフェースプレート3は、リアプレート4に対して、図中矢印E方向に移動し、かつ矢印C方向に回転し、枠部材5が接合されたフェースプレート3と、リアプレート4とには、更に位置ずれが生じる。
【0045】
さらに、図9(a)、図9(b)に示すように、局所加熱光60を第2の接合材22上に沿って、矢印方向にR→S→Tの順に照射しながら走査する。この場合、枠部材5が接合されたフェースプレート3は、リアプレート4に対して移動、かつ矢印C方向に回転し、枠部材5が接合されたフェースプレート3と、リアプレート4とには、更に位置ずれが生じる。
【0046】
また、図10(a)、図10(b)に示すように、第1及び第2の局所加熱光40、41を、それぞれT→Q、R→Sの順に、第2の接合材22の各辺の端部から走査した。この場合、枠部材5が接合されたフェースプレート3の、図10(a)における上側(TQ)、下側(RS)の領域が伸びる。このため、図8(a)、図8(b)に示した例に比べて、枠部材5が接合されたフェースプレート3は、リアプレート4に対して、矢印D、F方向の移動量が大きくなるので、更に大きな位置ずれが生じる。
【0047】
また、図11(a)、図11(b)に示すように、第1及び第2の局所加熱光40、41を、それぞれP→Q、P’→Rの順に、第2の接合材22の周方向に対して逆向きの周回り方向に走査した。この場合には、枠部材5が接合されたフェースプレート3の、図11における右上側(PQ)、右下側(P’R)の領域が共に伸び、残りの領域は伸びを抑制することがない。したがって、枠部材5が接合されたフェースプレート3は、リアプレート4に対して、矢印D方向の移動量が大きくなるので、更に大きな位置ずれが生じる。これは、第1及び第2の局所加熱光40、41をそれぞれP→T、P’→Sの順に走査した場合における、リアプレート4に対する、枠部材5が接合されたフェースプレート3の矢印D方向の位置ずれについても同様である。
【0048】
ここで、枠部材5が接合されたフェースプレート3と、リアプレート4にはそれぞれ、表示画素に応じてパターニングされた蛍光体、電子放出素子が形成されているので、
各フェースプレート3、リアプレート4の位置ずれは、画像表示装置1としての機能の低下につながり、望ましくない。
【0049】
本実施形態によれば、上述の課題が改善される。詳細について、図5を参照して説明する。
【0050】
図5(a)に示すように、第1の局所加熱光40をP→Qの順に照射しながら走査したことによって、枠部材5が接合されたフェースプレート3が、リアプレート4に対して、図8中の矢印C方向に回転する。この回転は、第2の局所加熱光41の照射によって、点P’においてリアプレート4と、枠部材5が接合されたフェースプレート3とが接合されて回転止めとなることで抑制される。同様に、第2の局所加熱光41をP’→Sの順に照射しながら走査したことによって、枠部材5が接合されたフェースプレート3が、リアプレート4に対して、矢印C方向に回転する。この回転は、第1の局所加熱光40の照射によって、点Pでリアプレート4と、枠部材5が接合されたフェースプレート3とが接合されて回転止めとなることで抑制される。このように、フェースプレート3とリアプレート4との位置ずれを抑制することが可能となる。また、一方の照射開始点から離れた位置に、他方の照射開始点が配置されるので、上述した枠部材5が接合されたフェースプレート3の回転止めを行うときに、テコの原理を有効に利用することが可能となる。
【0051】
また、第1及び第2の局所加熱光40、41の照射開始点を、対向する辺QT、RS上のそれぞれ点P、P’、すなわち、各辺の端部以外の位置に設定した。これによって、図10(a)、図11(b)に示したように、端部から照射を開始した比較例と比べて、枠部材5が接合されたフェースプレート3は、リアプレート4に対して、矢印D、F方向の移動量が小さくなる。このため、各フェースプレート3、リアプレート4の位置ずれを抑制することが可能となる。
【0052】
また、第1及び第2の局所加熱光40、41を、それぞれP→Q、P’→Sの順に、同じ周回り方向に走査する。これによって、枠部材5が接合されたフェースプレート3は、図5における右上側(PQ)、左下側(P’S)の領域で伸び、残りの領域は伸びを抑制しようとする。このため、枠部材5が接合されたフェースプレート3は、リアプレート4に対して、矢印D、F方向の移動量が小さくなるので、フェースプレート3、リアプレート4の位置ずれを抑制することが可能となる。
【0053】
上述したように、本実施形態によれば、第2の接合材22の局所加熱時に伴う、フェースプレート3、リアプレート4、及び第2の接合材22の伸びによって、フェースプレート3、リアプレート4に生じする位置ずれを抑えることができる。その結果、フェースプレート3、リアプレート4の端部への二次加工が不要になるので、製造コストを低減し、かつ、第2の接合材22の全周にわたる気密の信頼性が高い気密容器を製造することができる。
【0054】
また、本実施形態で製造される気密容器を画像表示装置に適用した場合、色ずれなどの画像表示装置としての機能低下を抑制し、高品質の画像表示装置を提供することが可能になる。
【実施例】
【0055】
以下、具体的な実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明する。
【0056】
(第1の実施例)
上述の実施形態を適用して、枠部材が設けられたフェースプレートと、リアプレートとの気密接合を行い、排気孔から内部空間の排気を行い、蓋部材で排気孔を封止することによって、FEDに適用可能な真空気密容器を製造した。
【0057】
(第1工程)
まず、フェースプレート3を用意した。以下、具体的な手順を示す。板厚1.8mmの高歪点ガラス基材(PD200、旭硝子株式会社製)を切断し、外形980mm×570mm×1.8mmの板ガラスを用意した。次に、板ガラスに有機溶媒洗浄、純水リンス、及びUV−オゾン洗浄を実施し、板ガラスの表面を脱脂した。次に、板ガラスの片面に、蛍光膜、ブラックマトリクス、及びアノード(いずれも不図示)を形成することで画像表示領域を形成した。次に、画像表示領域の外側に、ガラスフリットからなる第1の接合材20を、スクリーン印刷と雰囲気加熱によって形成した。以上のようにして、第1の接合材20が形成されたフェースプレート3を用意した。(図2(a)参照)
次に、枠部材5を用意した。以下、具体的な手順を示す。板厚1.5mmの高歪点ガラス基材(PD200)を切断し、外形960mm×550mm×1.5mmの板ガラスを用意した。続いて、板ガラスの中央部の、950mm×540mm×1.5mmの領域を切り取り、幅5mm、高さ1.5mm、断面は四角形の枠部材5を成形した。次に、フェースプレート3と同様に、有機溶媒洗浄、純水リンス、及びUV−オゾン洗浄によって、枠部材5の表面を脱脂した。
【0058】
次に、用意した第1の接合材20が形成されたフェースプレート3と、枠部材5とを、フェースプレート3の蛍光膜が形成されている面側で接触させ、加圧治具(不図示)を使用して仮組みを行った。仮組みを行った後、雰囲気焼成炉を用いてフェースプレート3と枠部材5とを気密接合して一体化し、図2(b)に示すように、第1の接合材20によって枠部材5が接合されたフェースプレート3を作製した。
【0059】
続いて、フェースプレート3に接合された枠部材5上に第2の接合材22を形成した。本実施例では、第2の接合材22としてガラスフリットを使用した。ガラスフリットとしては、線膨張係数α=79×10-7(1/℃)、転移点Tg=357℃、軟化点Ts=420℃のビスマス(Bi)系鉛(Pb)レスのガラスフリット(BAS115、旭硝子株式会社製)を用いた。第2の接合材22は、このガラスフリットを母材として、バインダとして有機物を分散混合したペーストである。
【0060】
以下、具体的な形成の手順を示す。まず、枠部材5の上に、幅1mm、厚さ7μmの四角形枠状の第2の接合材22を、枠部材5の周方向に沿ってスクリーン印刷にて形成した。次に、第2の接合材22を、枠部材5が接合されたフェースプレート3と共に120℃で乾燥した。そして、有機物をバーンアウトさせるために、460℃で加熱、焼成し、枠部材5に第2の接合材22を形成した。このようにして、図2(c)に示すように、第1の接合材20に接合された枠部材5に、第2の接合材22が形成されたフェースプレート3を用意した。
【0061】
次に、リアプレート4を用意した。以下、具体的な手順を示す。板厚1.8mmの高歪点ガラス基材(PD200)を切断し、外形が990mm×580mm×1.8mmの板ガラスを用意した。続いて、リアプレート4の画像表示領域外に、直径2mmの排気孔30を切削加工によって設けた。次に、フェースプレート3、枠部材5と同様の洗浄を実施した後、駆動用マトリクス配線、電子放出素子(いずれも不図示)を形成した。また、駆動用マトリクス配線上には、チタン(Ti)からなる非蒸発型ゲッタ(不図示)をスパッタ法によって形成した。
【0062】
次に、すでに用意した、第2の接合材22が形成された枠部材5と一体化されたフェースプレート3と、リアプレート4とを、それぞれ蛍光膜、電子放出素子が形成されている面を対向させて、位置決めした。位置決めした後、フェースプレート3と、リアプレート4とを互いに接触させて、内部空間6が規定された組立構造体を構成した。(図2(d)、図3参照)
(第2工程)
次に、図4に示すように、排気孔30に挿入された排気管31を介して、スクロールポンプとターボ分子ポンプからなる排気装置(不図示)に接続し、内部空間6の圧力が「1×10-4」Paとなるまで排気し、第2の接合材22を加圧した。
【0063】
(第3工程)
次に、内部空間6内を所定の圧力に維持しながら、図6に示すように、第1及び第2の局所加熱光40、41を、リアプレート4の外側から、リアプレート4を通して第2の接合材22に照射した。本実施例では、第1及び第2の局所加熱光40、41としてレーザ光を使用した。
【0064】
このとき、図5に示すように、第1及び第2の局所加熱光40、41の照射開始点を、第2の接合材22の対向する辺QT、RS上のそれぞれ点P、P’に設定する。そして、第1及び第2の局所加熱光40、41のそれぞれを、第2の接合材22の周方向に沿って矢印方向にP→P’、P’→Pの順に照射しながら走査した。これによって、第1の接合材20、枠部材5、及び第2の接合材22が一体化されたフェースプレート3と、リアプレート4とを気密接合した。
【0065】
なお、第1及び第2の局所加熱光40、41をそれぞれ照射するために、加工用のレーザ装置(不図示)を2台用意した。第1及び第2のレーザ装置は、波長980nm、レーザ出力212W、スポット径が2mmのレーザ光を用いて、速度1000mm/secで走査した。
【0066】
次に、排気装置、及び排気管31を、排気孔30から取り外して、内部空間6の圧力を大気圧に戻し、第2の接合材22の加圧を終了した。
【0067】
そして、加熱炉内部に、排気孔30に蓋部材を取り付けるための排気孔封止機構を備えたカート式加熱炉を使用して、排気孔30から内部空間6内を排気しながら気密容器全体を加熱して、内部空間6の非蒸発型ゲッタ(不図示)を排気した。排気を行った後、蓋部材で排気孔30を封止して、真空気密容器を製造した。
【0068】
さらに、以上の手順で製造された真空気密容器に、周知の方法に従って駆動回路などを実装し、FEDを完成させた。
【0069】
完成したFEDを動作させたところ、色ずれなどの画像品位の低下が認められなかった。また、完成したFEDは、長時間にわたって安定した電子放出と画像表示が可能であり、FEDに適用可能な程度の機械的強度と、安定した気密性とが確保されていることも確認された。
【0070】
(他の実施例)
他の実施例として、図7(a)に示すように、第1の実施例の局所加熱光40、41の照射開始点を、第2の接合材22の対向する一対の辺にそれぞれ2箇所に設けてもよい。
【0071】
本実施例では、4つの局所加熱光40a、40b、41a、41bをそれぞれ照射するために、レーザ装置を各辺に対して2台ずつ、合計4台用意した。そして、各レーザ装置からそれぞれ照射される2つの照射スポットが一直線上に整列するように、各レーザ装置を配置した。
【0072】
各レーザ装置は、波長980nm、レーザ出力212W、スポット径が2mmのレーザ光を用いて、速度1000mm/secで走査した。また、第2の接合材22の対向する一対の各辺において、2つの照射スポットを0.05secだけ遅らせて走査させた。すなわち、第2の接合材22の対向する一対の各辺において、先行する一方の照射スポットに対して、他方の照射スポットを50mmだけ走査方向の後方に配置して走査し、2つの照射スポットを走査する間、この間隔を維持させた。
【0073】
また、他の実施例として、図7(b)に示すように、局所加熱光40、41の照射開始点を、第2の接合材22の二対の対向する辺における一方の対の各辺にそれぞれ3箇所に設け、他方の対の各辺にそれぞれ1箇所に設けてもよい。本実施例では、8つの局所加熱光40a〜40d、41a〜41dをそれぞれ照射するために、レーザ装置を合計8台用意し、第2の接合材22の対向する一対の各辺において、3つの照射スポットが一直線上に整列するように、各レーザ装置を配置した。
【0074】
これらの他の実施例では、第1の実施例と照射開始点の位置が異なる点を除いて、第1の実施例と同様の工程を経て、気密容器を製作し、FEDを完成させた。
【0075】
完成したFEDを動作させたところ、色ずれなどの画像品位の低下が認められなかった。また、完成したFEDは、長時間にわたって安定した電子放出と画像表示が可能であり、FEDに適用可能な程度の機械的強度と、安定した気密性とが確保されていることも確認された。
【符号の説明】
【0076】
1 画像表示装置
2 外囲器
3 フェースプレート
4 リアプレート
5 枠部材
20 第1の接合材
22 第2の接合材
40 第1の局所加熱光
41 第2の局所加熱光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の第1及び第2の基板の間に配された四角形枠状の接合材を、複数の局所加熱手段によって、前記第1の基板と前記第2の基板のいずれか一方を介して局所的に加熱しながら、前記複数の局所加熱手段を前記接合材の周方向に沿って走査することで、前記第1及び第2の基板を前記接合材で接合し、前記第1及び第2の基板と前記接合材とで囲まれてなる気密容器の製造方法であって、
前記接合材の対向する少なくとも一対の辺のそれぞれにおける、前記辺の端部を除く位置から、複数の前記局所加熱手段によって加熱をそれぞれ開始すると共に、前記複数の局所加熱手段を、前記接合材の周方向に沿って同じ周回り方向に走査することを特徴とする気密容器の製造方法。
【請求項2】
前記第1の基板と第2の基板のいずれか一方の基板に設けられた四角形枠状の枠部材と、前記第1の基板と前記第2の基板のうちの他方の基板とを、前記接合材によって接合する、請求項1に記載の気密容器の製造方法。
【請求項3】
前記第1及び第2の基板は、透光性を有し、
前記局所加熱手段として、集光させた加熱光を用いる、請求項1または2に記載の気密容器の製造方法。
【請求項4】
前記接合材は、負の温度係数を有する粘度を持つ、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の気密容器の製造方法。
【請求項5】
前記気密容器は、内部に表示源が設けられた画像表示装置である、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の気密容器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−4193(P2013−4193A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131095(P2011−131095)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】