説明

気泡体積計測方法および気泡体積計測装置

【課題】液体収容室の内側壁面に接触している気泡の体積を、複雑な画像処理を必要とすることなくより正確に計測する。
【解決手段】液体収容室8の内側壁面6aを下方に向けかつ水平にして液体収容容器1を保持するステップと、気泡18を水平方向から撮影するステップと、撮影された画像における気泡18の輪郭上の、横軸方向に最も離れている第一および第二の点P1,P2の位置を取得し、最も下方に位置する第三の点P3の位置を取得し、壁面6aに接触している接触部分の位置を取得するステップと、気泡18の形状を、第一および第二の点P1,P2を結ぶ線分を長軸、長軸に対して第三の点P3とは対称の位置にある仮想点P4と第三の点とを結ぶ線分を短軸とする仮想の楕円形状を短軸のまわりに1回転させて形成される仮想の回転楕円体形状から接触部分より上側の部分が取り除かれた形状とみなして、気泡18の体積を算出するステップと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を収容している密閉容器中に存在する気泡の体積を計測する方法、および該気泡の体積を計測する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクといった液体を吐出して被記録媒体に画像を記録するインクジェット記録装置が知られている。インクジェット記録装置は、液体を吐出する吐出ヘッドと、当該液体を収容する液体収容容器を備えており、液体収容容器から吐出ヘッドへ液体が供給される。
【0003】
液体収容容器はインクジェット記録装置に着脱可能に設けられており、液体収容容器を取り替えることによってインクジェット記録装置に液体を補給することができるようになっている。
【0004】
インクジェット記録装置に搭載される液体収容容器について、図7,8を用いて説明する。図7(a)は、複数の液体収容容器1を有する吐出ヘッドカートリッジ2の斜視図である。吐出ヘッドカートリッジ2は、吐出ヘッド3と容器ホルダ4を備えている。図7(b)は、容器ホルダ4から液体収容容器1が取り外された状態を示す斜視図である。液体収容容器1を容器ホルダ4に装着することにより、液体収容容器1から吐出ヘッド3へ液体が供給される。
【0005】
図8は、図7に示す複数の液体収容容器1のうちの1つの液体収容容器1の断面図である。図8に示すように、液体収容容器1は、中空の略直方体のうちの一側面を除去して開放した形状を有する箱部材5と、箱部材5の開放されている側を閉塞する蓋部材6と、を備えている。箱部材5は、箱部材5内に設けられた隔壁7により液体収容室8および液体吸収体収容室9の2つの部屋に分けられている。
【0006】
隔壁7には液体収容室8と液体吸収体収容室9とを連通する連通口10が形成されており、液体収容室8内に収容されている液体が液体吸収体収容室9へ移動できるようになっている。
【0007】
液体吸収体収容室9には、液体を吸収して保持する液体吸収体11が収容されている。液体収容室8から液体吸収体収容室9に移動した液体は液体吸収体11に保持される。
【0008】
液体吸収体収容室9の底面には、液体吸収体収容室9の内外を連通して吐出ヘッド3(図7)に液体を供給する液体供給口12が形成されており、液体供給口12の周囲に供給筒13が形成されている。液体吸収体11に保持されたインクは、供給筒13の内側に挿入されているジョイント部材14を介して液体供給口12から吐出ヘッド3へ供給される。
【0009】
さらに、蓋部材6の、液体吸収体収容室9を構成する領域には、液体吸収体収容室9を大気と連通する大気連通口15が形成されている。液体吸収体収容室9内が大気圧に保たれることにより、液体吸収体11から吐出ヘッド3(図7)へ安定して液体が供給される。
【0010】
液体収容容器1は、製造工程で液体注入口16と液体供給口12を利用して液体収容室8及び液体吸収体収容室9に液体が注入される。液体を注入した後、液体注入口16は弾性シール部材17で封止され、液体供給口12や大気連通口15は、不図示のシール部材によって封止される。液体収容容器1は、インクジェット記録装置に装着されて使用される際には、液体供給口12や大気連通口15を封止していたシール部材が剥離される。
【0011】
ところで、液体収容容器1の製造時、液体収容容器1に液体を注入する工程で、液体注入条件等によって、液体の注入時に気体を巻き込んでしまったり、液体収容室8内の空気を液体によって全量置換しきれずに空気が気泡として残存してしまう状態が発生し得る。当該気泡が所定の体積以上の大きさを有している場合、前述のシール部材をはがす際の周囲環境によって液体供給口12や大気連通口15から液体が漏出する懸念がある。例えば、密閉されている液体収容容器1内の圧力よりも低い圧力下でシール部材をはがす場合に液体の漏出が懸念される。液体収容室8内の気泡が膨張するからである。
【0012】
そこで、密閉された液体収容室8内の気泡の体積を目視により計測し、所定の体積を超えていないかどうかの検査が行われている。気泡の体積を計測する方法として、複数の方向から気泡を撮影された画像を画像処理手段で合成して気泡の形状を特定し、特定された形状から積分計算によって気泡の体積を計測する方法が提案されている。また、特許文献1には、気泡の形状を理想的な球とみなして気泡の体積を計測する方法および装置が開示されている。
【0013】
特許文献1で開示されている気泡体積計測装置は、撮影手段を用いて気泡を一方向から撮影し、画像処理手段を用いて2次元形状として撮影された気泡の直径を計測して気泡の体積を算出する。この方法におれば、複数の方向から撮影した気泡の画像を合成する複雑な画像処理を必要としないため、より短い時間で気泡の体積を計測することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平4−359106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献1で開示されている気泡体積計測方法では、気泡の形状を理想的な球形状とみなしている。そのため、気泡の実際の形状が楕円体といった形状を有している場合、当該方法では正確に気泡の体積を計測することができない。特に、インクといった粘性の低い液体中の気泡は、液体収容室8内の上方に移動して液体収容室8を構成する壁面に接触しているため、気泡は理想的な球形状に近い形状を有していない。したがって、気泡の形状を理想的な球形状とみなして計測した気泡の体積と、実際の気泡の体積とは大きく異なってしまう。
【0016】
そこで、本発明の目的は、液体収容室を構成する壁面に接触している気泡の体積を、複雑な画像処理を必要とすることなく、より正確に計測することができる方法および該気泡の体積を計測する装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明は、液体収容室を構成する壁面のうちの少なくとも一部が平面形状を有する液体収容容器中の気泡の体積を計測する方法に係る。この態様において、気泡体積計測方法は、平面形状を有する壁面を鉛直方向下方へ向けかつ水平にして液体収容容器を保持する保持ステップと、保持ステップにおいて保持されている液体収容容器の内部の、平面形状を有する壁面に接触している気泡を一つの水平方向から撮影する水平方向撮影ステップと、水平方向撮影ステップにおいて水平方向を横軸方向とし鉛直方向を縦軸方向として撮影された画像における気泡の輪郭上の、横軸方向に最も離れている第一および第二の点を見つけ、該輪郭上の、縦軸方向の最も下方に位置する第三の点を見つけ、並びに該輪郭上の、平面形状を有する壁面に対応する部分に接触している接触部分を見つける画像処理ステップと、画像処理ステップにおいて見つけられた第一、第二および第三の点並びに接触部分を用いて、気泡の形状を、第一および第二の点を結ぶ第一の線分を長軸、該第一の線分に対して第三の点とは線対称の位置にある仮想点と、該第三の点とを結ぶ第二の線分を短軸とする仮想の楕円形状を該第二の線分のまわりに1回転させて形成される仮想の回転楕円体形状から接触部分より鉛直方向上側の部分が取り除かれた形状とみなして、気泡の体積を算出する体積算出ステップと、を含む。
【0018】
また、本発明は、液体収容室を構成する壁面のうちの少なくとも一部が平面形状を有する液体収容容器の内部の気泡の体積を計測する気泡体積計測装置に係る。この態様において、気泡体積計測装置は、平面形状を有する壁面を鉛直方向下方に向けかつ水平にして液体収容容器を保持する保持手段と、保持手段により保持された液体収容容器の位置から一つの水平方向の位置に設けられ、平面形状を有する壁面に接触している気泡を撮影する水平方向撮影手段と、水平方向撮影手段により水平方向を横軸方向とし鉛直方向を縦軸方向として撮影された画像を処理する画像処理手段であって、該画像における気泡の輪郭上の、横軸方向に最も離れている第一および第二の点、該輪郭上の、縦軸方向の最も下方に位置する第三の点、並びに輪郭上の、平面形状を有する壁面に対応する部分に接触している接触部分を見つける画像処理手段と、画像処理手段により見つけられた第一、第二および第三の点並びに接触部分から、気泡の形状を、第一および第二の点を結ぶ第一の線分を長軸、該第一の線分に対して第三の点とは線対称の位置にある仮想点と、該第三の点とを結ぶ第二の線分を短軸とする仮想の楕円形状を該第二の線分のまわりに1回転させて形成される仮想の回転楕円体形状から接触部分より鉛直方向上側の部分が取り除かれた形状とみなして、気泡の体積を算出する算出手段と、を備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明の気泡体積計測方法および気泡体積計測装置によれば、液体収容室を構成する壁面に接触している気泡の体積を、複雑な画像処理を必要とすることなく、より正確に計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る方法の対象となる液体収容容器の概略断面図。
【図2】液体収容室に存在する気泡を鉛直方向上方および水平方向から観察したときの概略図。
【図3】第一の実施例に係る方法により求めた気泡の体積と、従来の方法により求めた気泡の体積と、を比較したグラフ。
【図4】第二の実施例に係る気泡体積計測装置を示す模式図。
【図5】第二の実施例に係る気泡体積計測方法のフローを示すフローチャート図。
【図6】第三の実施例に用いられる、気泡平坦部面積と気泡の体積との関係を示すグラフ。
【図7】複数の液体収容容器を有する吐出ヘッドカートリッジの斜視図。
【図8】図7に示す液体収容容器の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0022】
本発明に係る気泡の体積の計測の原理について、図1,2を用いて説明する。図1は、本実施例の計測対象となる液体収容容器の概略断面図である。
【0023】
図1に示すように、液体収容容器1は、中空の箱部材5と、蓋部材6と、箱部材5内に設けられ、箱部材5内の空間を液体吸収体収容室9および液体収容室8の2つの部屋に分ける隔壁7と、を備えている。蓋部材6の、液体収容室8を構成する面(以下、蓋部材内側面6aという)は、平面形状を有している。
【0024】
なお、収容される液体がインクである場合には、液体収容容器1、液体吸収体収容室9、液体収容室8は、それぞれインクタンク、インク吸収体収容室、インク収容室とも呼ばれる。
【0025】
隔壁7には連通口10が形成されており、液体収容室8内に収容されている液体が液体吸収体収容室9へ移動できるようになっている。液体吸収体収容室9には、液体吸収体11が収容されており、液体収容室8から液体吸収体収容室9に移動した液体は液体吸収体11に保持される。
【0026】
液体吸収体収容室9の底面には液体供給口12が形成されている。液体供給口12は、吐出ヘッド(不図示)といった部品に液体を供給することが出来るようになっている。
【0027】
蓋部材6の、液体吸収体収容室9を構成する領域には、大気連通口15が形成されている。液体の液体収容室8への注入が完了したところで液体供給口12や大気連通口15はシール部材(不図示)により封止される。すなわち、液体収容容器1が密閉され、液体収容容器1からの液体の漏出を防止することができる。
【0028】
液体収容室8に液体を注入する際に、液体とともに気体が液体収容室8に流入することがある。図1は、液体収容室8に液体とともに気体が流入して、液体収容容器1の内部に気泡18が形成されている状態を示している。
【0029】
図2(a)および(b)は、液体収容室8に存在する気泡18を鉛直方向上方および水平方向から観察したときの概略図である。図1および図2は、蓋部材6を上側に位置するように液体収容容器1を配置し、蓋部材内側面6aが、鉛直方向下方を向きかつ水平になるように液体収容容器1を保持した状態の図である。
【0030】
気泡18は液体収容室8の鉛直方向上方に移動して蓋部材内側面6aと接触している。図2(a)に示すように、鉛直方向上方から観察された2次元形状は、気泡18はほぼ真円形状を有している。
【0031】
また、図2(b)に示すように、水平方向から観察された気泡18の2次元形状は、水平方向に長軸を有する仮想の楕円形状から、当該長軸よりも鉛直方向上側を通る水平面より上側の部分が取り除かれた形状を有している。当該水平面は、蓋部材内側面6aと一致している。
【0032】
すなわち、気泡18の3次元形状は、仮想の楕円形状を短軸のまわりに1回転させたときに形成される仮想の回転楕円体形状から、前述の水平面より鉛直方向上側の部分が取り除かれた形状とみなす(一部欠けた楕円と近似するともいう)ことができる。このような形状を有する気泡18の体積の算出方法について説明する。
【0033】
前述の仮想の楕円形状の長軸と短軸との交点を原点O、長軸方向をx軸、短軸方向をy軸とした2次元直交座標系における楕円の方程式は、長軸の長さを2a、短軸の長さを2bとすると、次のように表される。
【0034】
【数1】

【0035】
次に、2次元直交座標系における楕円上のある点(t1,t2)を通る面であって、y軸と垂直に交わる面で切断された回転楕円体の断面の面積Sを求める。当該断面の形状は真円形状を有しているため、当該断面の半径を求めることで面積Sを算出することができる。当該断面の半径は|t1|であり、また|t1|は数1から次のように表される。
【0036】
【数2】

【0037】
面積Sは、数2から次のように表される。
【0038】
【数3】

【0039】
最後に、2次元直交座標系の原点Oから蓋部材内側面6aまでの距離をhとすると、気泡18の体積(以下、気泡体積Vという)は、数3を−bからhまでの範囲で積分することによって得られる。すなわち、気泡体積Vは次のように表される。
【0040】
【数4】

【0041】
このように、気泡18の形状を水平方向から観察し、気泡18におけるa,b,hの値、すなわち仮想の楕円形状の長軸、短軸の長さおよび当該長軸から蓋部材内側面6aまでの距離を計測することによって気泡体積Vを算出することができる。
【0042】
以下、本発明に係る気泡体積計測方法および気泡体積計測装置について詳述する。
【0043】
(実施例1)
本発明の第一の実施例に係る気泡体積計測方法および気泡体積計測装置について、図1,2を用いて説明する。
【0044】
まず、インクといった液体が注入され、密閉された液体収容容器1を用意する。次に、気泡体積計測装置に設けられた、液体収容容器1を保持する保持手段を用いて、蓋部材6を上側に位置するように液体収容容器1を配置し、蓋部材内側面6aを鉛直方向下方に向けかつ水平にして液体収容容器1を保持する。
【0045】
続いて、気泡体積計測装置に設けられた水平方向撮影手段を用いて、気泡18を一つの水平方向から撮影する。一つの方向から撮像された画像は、2次元画像である。
【0046】
水平方向撮影手段として、X線を利用したコンピュータ断層撮影機器(以下、X線CT機器という)を用いることができる。X線CT機器を用いた場合には、箱部材5が不透明な素材からなっていても気泡18を撮影することが可能になる。
【0047】
箱部材5が透明な素材からなり、可視光線が箱部材5を透過可能な場合には光学式カメラを使用することができる。光学式カメラを使用することにより、X線CT機器を使用する上で必要な安全対策やX線CT機器のためのスペースが不要になる。また、光学カメラは一般的にX線CT機器に比べて安価であり、気泡体積計測装置の低廉化を実現することができる。
【0048】
気泡18を撮影したところで、気泡体積計測装置に設けられた画像処理手段を用いて撮影された画像の画像処理を行う。
【0049】
具体的には、水平方向撮影手段を用いて水平方向を横軸方向とし鉛直方向を縦軸方向として撮影された画像における気泡18の輪郭上の、横軸方向に互いに最も離れている第一および第二の点P1,P2を見つける。第一および第二の点P1,P2を結ぶ第一の線分が仮想楕円形状の長軸に相当し、第一の線分の長さを半分にすることで数4中のaの値を得ることができる。
【0050】
また、水平方向撮影手段を用いて撮影された画像における気泡18の輪郭上の、縦軸方向の最も下方に位置する第三の点P3を見つける。第一の線分に対して第三の点P3とは線対称の位置にある仮想点P4と、第三の点P3とを結ぶ第二の線分が仮想楕円形状の短軸に相当し、第二の線分の長さを半分にすることで数4中のbの値を得ることができる。
【0051】
さらに、水平方向撮影手段を用いて撮影された画像における気泡18の輪郭上の、蓋部材内側面6aに対応する部分に接触している接触部分の位置を取得する。第一の線分と当該接触部分との距離が仮想楕円形状の、長軸から蓋部材内側面6aまでの距離に相当し、数4中のhの値を得ることができる。
【0052】
最後に、画像処理を行うことで得られたa,b,hの値を数4に代入し、体積算出手段を用いて気泡体積Vを算出する。
【0053】
図3は、本実施形態に係る気泡体積計測方法により求めた気泡体積Vと、引用文献1に開示されている気泡体積計測方法により求めた気泡体積Vと、を比較したグラフである。
【0054】
図3において、横軸は、気泡18を水平方向に平行な面で切断した際に最も大きい面積を有する断面、すなわち気泡18を仮想楕円形状の長軸を通る水平面で切断したときの断面積(以下、気泡最大断面積S1という)を示している。また、縦軸は、それぞれの方法によって計測した気泡体積Vを示している。ひし形で示されているプロットが本実施例により求められた気泡体積V1を示している。正方形、三角形で示されているプロットが、引用文献1で開示されている、気泡18の形状を理想的な球または半球とみなして求められた気泡体積V2,V3を示している。
【0055】
図3に示すように、気泡最大断面積S1が133mm2の場合、本実施例に係る方法により求められた気泡体積V1は370mm3であり、引用文献1に開示されている方法により求められた気泡体積V2,V3はそれぞれ1150mm3,575mm3である。このように、気泡最大断面積S1が大きくなるにつれて、それぞれの方法により求めた気泡体積V1,V2,V3の値に差があることが確認された。
【0056】
図3に示すグラフを得るために用いた液体収容容器1や液体では、気泡体積Vが370mm3以下であれば、液体収容容器1のシール部材がはがされても液体収容容器1から液体が漏出しないことが確認されている。すなわち、気泡体積Vの370mm3を閾値として、液体収容容器1の良否判断をすることができる。
【0057】
本実施形態に係る方法により求められた気泡体積V1が370mm3になるのは、気泡最大断面積S1が約133mm2であるのに対し、気泡体積V2,V3が370mm3になるのは気泡最大断面積S1が約60mm2,約90mm2である。すなわち、従来の方法で求めた気泡18の体積で液体収容容器1の良否判断が行われていた場合には、実際には問題のない範囲の気泡体積Vであっても不良と判断されていた。本実施形態に係る方法で気泡18の体積を計測することにより、より正確に気泡体積Vを測ることができ、液体収容容器1の良否をより適切に判断することができる。
【0058】
なお、本実施形態では、蓋部材6を上側にしたが、液体収容室8を構成する他の壁面の一部が平面形状を有している場合には、平面形状を有する壁面が、鉛直方向下方を向きかつかつ水平になるように液体収容容器1を保持してもよい。
【0059】
(実施例2)
次に、本発明の第二の実施例について、図3ないし図5を用いて説明する。図4は本実施例に係る気泡体積計測装置を示す模式図である。図5は、本実施例に係る気泡体積計測方法のフローを示すフローチャート図である。
【0060】
図3に示すように、実施例1に係る方法により求められた気泡体積V1と、気泡最大断面積S1との間には相関関係がある。液体収容容器1の形状や液体の粘度などが同じ場合には、当該相関関係が維持される。
【0061】
本実施例は、この相関関係を利用して気泡体積Vを算出するものである。実施例1に係る方法で大きさの異なる気泡体積Vを複数計測し、気泡体積Vと気泡最大断面積S1との間の相関関係を導出する。当該相関関係を用いることによってより簡易な処理で気泡体積Vを得ることができる。
【0062】
すなわち、実施例1では気泡のa,b,hを画像処理により計測して気泡体積Vを算出しなければならない。本実施例では、気泡のaを計測して気泡最大断面積S1を算出し、算出された気泡最大断面積S1をもとに気泡の体積Vを算出する。画像処理により測定する値が1つしかないため、より短い時間で気泡体積Vを計測することができる。
【0063】
図4に示すように、気泡体積計測装置は、気泡18を撮影する鉛直方向撮影手段19と、鉛直方向撮影手段19により撮影された画像の面積(2次元画像上の気泡面積ともいう)を計測する面積計測手段20と、を備えている。鉛直方向撮影手段19は、液体収容室8の鉛直方向上方に位置しており、鉛直方向下方に向かって気泡18を撮影することができる。
【0064】
面積計測手段20は、鉛直方向撮影手段19により撮影された2次元形状の気泡18の面積を計測することができるようになっている。また、面積計測手段20は、図3に示す、気泡最大断面積S1と気泡体積V1との間の相関関係を記憶しており、気泡最大断面積S1の値に基づいて気泡体積Vを算出する。
【0065】
液体収容容器1の蓋部材6が透明な材料からなり、鉛直方向撮影手段19が光学式カメラからなる場合には、気泡体積計測装置に照明装置21を設けてもよい。照明装置21により気泡18へ光を照射することにより、鉛直方向撮影手段19が気泡18の輪郭をより鮮明に撮影できるようになる。
【0066】
照明装置21の照射方向は、明度不足かつハレーションを起こさずに気泡18の輪郭を検出できるように設定されていることが望ましい。本実施例では、照明装置21は、上部斜め方向から光を照射できるように配置されている。また、液体収容室8の表面の乱反射対策として、鉛直方向撮影手段19の撮影側面および照明装置21の照射側面に偏向板を使用することが好ましい。
【0067】
本実施例に係る気泡体積計測方法のフローについて説明する。
【0068】
あらかじめ、実施例1に係る方法により導出した、気泡最大断面積S1と気泡体積V1との関係を面積計測手段20に含まれる記憶手段に記憶させておく。図5に示すように、液体収容室8を形成する壁面のうちの、平面形状を有する壁面が水平になるように液体収容容器1を保持する(S501)。次に、鉛直方向撮影手段19を用いて気泡18を撮影する(S502)。鉛直方向撮影手段19により撮影される気泡18の輪郭は、長軸を通る水平面で気泡18を切断した断面の輪郭と同じになる。
【0069】
次に、面積計測手段20を用いて気泡18の輪郭の検出を行い、気泡最大断面積S1の計測を行う(S503)。気泡18の輪郭は、液体と気泡との間の明度、彩度、色相等の違いから検出することができる。
【0070】
気泡最大断面積S1を計測したところで、予め記憶手段に記憶された気泡最大断面積S1と気泡体積V1との関係を用いて、計測した気泡最大断面積S1に対応する気泡18の体積Vの値を選択する(S504)。以上により、気泡体積Vが得られる。
【0071】
S504によって得られた気泡体積Vと所定の閾値と比較するステップ(S505)を設けることによって、液体収容容器1が良品であるか否かを判断することができる。得られた気泡体積Vが所定の閾値以下であれば液体収容容器1を良品と判断し(S506)、所定の閾値よりも大きければ液体収容容器1を不良品と判断する(S507)。図3に示すグラフを得る際に用いた液体収容容器1や液体では、気泡体積Vが370mm3以下であれば良品であることが予め把握されているため、所定の閾値を370mm3とすればよい。
【0072】
以上述べてきたように、撮影される画像が気泡最大断面の形状と同じになるように気泡18を撮影し、気泡最大断面積S1から気泡体積Vが得られる。気泡最大断面積S1を計測する際には、一方向から撮影した画像の画像処理をすればよい。そのため、複雑な画像処理を必要とすることがなく、より短い時間で気泡体積Vを計測することができる。また、気泡最大断面積S1と気泡体積Vとの関係は、実施例1に係る方法により高い精度で導出されているため、より正確に気泡体積Vを得ることができる。
【0073】
(実施例3)
次に、第3の実施例について説明する。本実施例では、気泡18の、蓋部材内側面6aに接触して平坦化されている面の面積(以下、気泡平坦部面積S2という)と、実施例1に係る方法により導出された気泡体積Vとの相関関係を利用して気泡体積Vを計測する例である。
【0074】
本実施例は、液体収容室8内の液体の光の透過率の影響により、気泡最大断面積S1を計測することが困難な場合に有利である。
【0075】
予め、実施例1に係る方法により、大きさの異なる気泡体積Vを複数計測し、気泡体積Vと気泡平坦部面積S2との間の相関関係を導出する。気泡平坦部面積S2を求めるには、実施例1において水平方向から撮影した気泡18(図2(b))の、蓋部材内側面6bと接触している部分の長さを測定する。気泡平坦部面積S2は、当該長さを直径とする円の面積として計測することができる。
【0076】
図6は、このようにして導出された、気泡平坦部面積S2と気泡体積Vとの間の関係を示すグラフである。図6に示すグラフから、気泡平坦部面積S2と気泡体積Vとの間に相関関係があることが確認される。
【0077】
なお、本実施例は、面積計測手段20に予め記憶させる相関関係や、気泡平坦部面積S2を計測するステップが実施例2と異なっており、その他の構成はほぼ同じであるため、その違いだけを説明する。
【0078】
図6に示す気泡平坦部面積S2と気泡体積Vとの間の相関関係を面積計測手段20に記憶させておく。液体収容室8を形成する壁面のうちの、平面形状を有する壁面が水平になるように液体収容容器1を保持し、鉛直方向撮影手段19を用いて気泡18を撮影する。
【0079】
次に、面積計測手段20を用いて気泡18の輪郭の検出を行い、気泡平坦部面積S2の計測を行う。気泡18の、蓋部材内側面6と接触手いる部分の輪郭は、液体と気泡との間の明度、彩度、色相等の閾値を実施例2とは異なる値に設定することにより検出することができる。
【0080】
気泡平坦部面積S2を計測したところで、予め面積計測手段20に記憶された気泡平坦部面積S2と気泡体積Vとの関係を用いて、計測した気泡平坦部面積S2に対応する気泡体積Vを算出する。
【0081】
以上述べてきたように、気泡最大断面積S1を計測するのが難しい場合においても、本実施例の方法を用いることにより、より短い時間で気泡体積Vを計測することができる。また、気泡最大断面積S1と気泡体積Vとの関係は、実施例1に係る方法により高い精度で導出されているため、より正確に気泡体積Vを計測することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 液体収容容器
6 蓋部材
6a 蓋部材内側面
8 液体収容室
18 気泡
19 鉛直方向撮影手段
20 面積計測手段
P1 第一の点
P2 第二の点
P3 第三の点
P4 仮想点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体収容室を構成する壁面のうちの少なくとも一部が平面形状を有する液体収容容器の内部の気泡の体積を計測する方法であって、
前記平面形状を有する壁面を鉛直方向下方へ向けかつ水平にして前記液体収容容器を保持する保持ステップと、
前記保持ステップにおいて保持されている前記液体収容容器の内部の、前記平面形状を有する壁面に接触している前記気泡を一つの水平方向から撮影する水平方向撮影ステップと、
前記水平方向撮影ステップにおいて水平方向を横軸方向とし鉛直方向を縦軸方向として撮影された画像における前記気泡の輪郭上の、前記横軸方向に最も離れている第一および第二の点を見つけ、該輪郭上の、前記縦軸方向の最も下方に位置する第三の点を見つけ、並びに該輪郭上の、前記平面形状を有する壁面に対応する部分に接触している接触部分を見つける画像処理ステップと、
前記画像処理ステップにおいて見つけられた前記第一、第二および第三の点並びに前記接触部分を用いて、前記気泡の形状を、前記第一および第二の点を結ぶ第一の線分を長軸、該第一の線分に対して前記第三の点とは線対称の位置にある仮想点と、該第三の点とを結ぶ第二の線分を短軸とする仮想の楕円形状を該第二の線分のまわりに1回転させて形成される仮想の回転楕円体形状から前記接触部分より鉛直方向上側の部分が取り除かれた形状とみなして、前記気泡の体積を算出する体積算出ステップと、を含む、気泡体積計測方法。
【請求項2】
前記体積算出ステップにおいて、前記第一の線分の半分の長さをa、前記第二の線分の半分の長さをb、前記第一の線分と前記接触部分との距離をhとしたときに、前記気泡の体積Vを、
(数1)

と表された式から算出する、請求項1に記載の気泡体積計測方法。
【請求項3】
前記水平方向撮影ステップにおいて、X線CT機器を用いて前記気泡を撮影する、請求項1または2に記載の気泡体積計測方法。
【請求項4】
前記保持ステップにより保持された状態の前記液体収容容器の、前記気泡の位置から水平方向の位置にある少なくとも一部の壁が透明な部材で形成されている前記液体収容容器の内部の気泡の体積を計測する請求項1または2に記載の気泡体積計測方法であって、
前記水平方向撮影ステップにおいて、光学式カメラを用いて前記透明な部材の位置から前記気泡へ向かって前記気泡を撮影する、気泡体積計測方法。
【請求項5】
液体収容室を構成する壁面のうちの少なくとも一部が平面形状を有する液体収容容器の内部の気泡の体積を計測する方法であって、
予め、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の気泡体積計測方法により大きさの異なる複数の気泡の体積および該気泡の水平方向に平行な所定の断面における面積を計測して該気泡の体積と該面積との関係を導出し、該関係を記憶手段に記憶するステップと、
前記平面形状を有する壁面を鉛直方向下方へ向けかつ水平にして前記液体収容容器を保持するステップと、
前記平面形状を有する壁面に接触している前記気泡を鉛直方向上方から撮影する鉛直方向撮影ステップと、
前記鉛直方向撮影ステップにおいて撮影された前記気泡の画像から前記所定の断面における面積を計測する面積計測ステップと、
前記予め記憶手段に記憶された前記関係を用いて、前記面積計測ステップにおいて計測された前記所定の断面における面積の値に応じた前記気泡の体積の値を選択するステップと、を含む、気泡体積計測方法。
【請求項6】
前記所定の断面が、前記気泡を水平面で切断した際に最も大きい面積を有する断面である、請求項5に記載の気泡体積計測方法。
【請求項7】
前記所定の断面が、前記気泡の、前記平面形状を有する壁面に接触している部分の面である、請求項5に記載の気泡体積計測方法。
【請求項8】
液体収容室を構成する壁面のうちの少なくとも一部が平面形状を有する液体収容容器の内部の気泡の体積を計測する気泡体積計測装置であって、
前記平面形状を有する壁面を鉛直方向下方に向けかつ水平にして前記液体収容容器を保持する保持手段と、
前記保持手段により保持された前記液体収容容器の位置から一つの水平方向の位置に設けられ、前記平面形状を有する壁面に接触している前記気泡を撮影する水平方向撮影手段と、
前記水平方向撮影手段により水平方向を横軸方向とし鉛直方向を縦軸方向として撮影された画像を処理する画像処理手段であって、該画像における前記気泡の輪郭上の、前記横軸方向に最も離れている第一および第二の点、該輪郭上の、前記縦軸方向の最も下方に位置する第三の点、並びに前記輪郭上の、前記平面形状を有する壁面に対応する部分に接触している接触部分を見つける画像処理手段と、
前記画像処理手段により見つけられた前記第一、第二および第三の点並びに前記接触部分から、前記気泡の形状を、前記第一および第二の点を結ぶ第一の線分を長軸、該第一の線分に対して前記第三の点とは線対称の位置にある仮想点と、該第三の点とを結ぶ第二の線分を短軸とする仮想の楕円形状を該第二の線分のまわりに1回転させて形成される仮想の回転楕円体形状から前記接触部分より鉛直方向上側の部分が取り除かれた形状とみなして、前記気泡の体積を算出する算出手段と、を備えた、気泡体積計測装置。
【請求項9】
前記撮影手段がX線CT機器である、請求項8に記載の気泡体積計測装置。
【請求項10】
前記保持手段により保持された状態の前記液体収容容器の、前記気泡の位置から水平方向の位置にある少なくとも一部の壁が透明な部材で形成されている前記液体収容容器の内部の気泡の体積を計測する請求項8に記載の気泡体積計測装置であって、
前記撮影手段が光学式カメラである、気泡体積計測装置。
【請求項11】
液体収容室を構成する壁面のうちの少なくとも一部が平面形状を有する液体収容容器の内部の気泡の体積を計測する装置であって、
請求項8ないし10のいずれか1項に記載の気泡体積計測装置により計測された前記気泡の体積と、該気泡の水平方向に平行な所定の断面の面積との関係を記憶する記憶手段と、
前記平面形状を有する壁面を鉛直方向下方に向けかつ水平にして前記液体収容容器を保持する保持手段と、
前記保持手段により保持された前記液体収容容器の位置から鉛直方向上方に設けられ、前記平面形状を有する壁面に接触している前記気泡を撮影する鉛直方向撮影手段と、
前記鉛直方向撮影手段により撮影された前記気泡の画像を処理して前記気泡の所定の断面における面積を計測する面積計測手段と、
前記予め記憶手段に記憶された前記関係を用いて、前記面積計測手段により計測された前記所定の断面における面積の値に応じた前記気泡の体積の値を選択する選択手段と、を含む、気泡体積計測装置。
【請求項12】
前記所定の断面が、前記気泡を水平面で切断した際に最も大きい面積を有する断面である、請求項11に記載の気泡体積計測装置。
【請求項13】
前記所定の断面が、前記気泡の、前記平面形状を有する壁面に接触している部分の面である、請求項11に記載の気泡体積計測装置。
【請求項14】
吐出ヘッドに液体を供給するための液体供給口と、大気と連通する大気連通口と、インク収容室とを備えたインクタンクの前記インク収容室の内部に存在する気泡の体積を計測する方法であって、
前記インク収容室の内部に存在し、壁面に接触した気泡を、該気泡が該壁面に接触している方向から撮像し、撮像された2次元画像上の気泡面積を測定する方法と、予め壁面に接触している状態の気泡の形状を一部欠けた楕円と近似して積分することにより気泡体積を計測する方法とを用いて、前記気泡面積から前記気泡体積を導き出すことを特徴としたインクタンクの気泡体積計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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